「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で- 作:カービィ改二
多くのプレイヤーを苦しめたアイツとの対決。
久遠のポラリスと闇天狗を立て続けに倒した最上。
12時過ぎのシンデレラとのバトルも少しずつ迫る中で、彼女はまた速くなる。
そんな中で、彼女の実力を確かめるべく天使が首都高に現れようとしていた…
―――闇天狗を倒した翌日、最上は横羽線上りを走行していた。
横羽線に残っていた残党と呼ぶべきライバルたちを倒すためだ。
とはいえ、実際のところはこれから実力者と戦う前にウォーミングアップも兼ねていたのだが。
実際のところかなりの部分をチューニングしたRX-8は、現状残っているライバルたちであるならば余裕で倒すことが出来る速さになっていた。
そして今、平和島入口からコースインした最上のRX-8はまたバトルに勝利していたのだった。
「(これで横羽線に残っていた残党も倒した、か…)」
バトルが終わり、速度を60キロまで落としてクーリング走行に入ったRX-8。
平和島からコースインし、残っていたライバルたちも蹴散らしていた。
現在地としては3戦して、芝浦出口付近だった。
このまま走っていけば環状線へと合流する。
だが、丁度芝浦から浜崎橋へと向かう最中だった。
RX-8のバックミラーが白く光る。
推奨BGM:錬成人間トリコロイダー(from beatmaniaⅡDX27 HEROIC VERSE)
「(チームリーダーか…いいよ)」
おそらく先程倒したライバルのチームリーダーだろう。
カーナビにはライバル名として「MACHINE RANGERS」の「アニメ・レッド」と書かれている。
何度か平和島PAでライバルとバトルをしたことがあるが、皆外国人だった。
おそらくこの国の文化が好きな人たちの集まりなのだろう。
そして今勝負を仕掛けてきているこのドライバーもまた、そうに違いない。
後方に見えるマシンは赤色のZ32である。
外観自体はかなりカスタムされている派手なマシンだ。
「(実力者とまたバトルすることになるだろうし、まずはここで腕をならしておかないと)」
最上にとって、チームリーダーとのバトルはあくまで通過点でしかならなかった。
闇天狗や久遠のポラリスと言った実力者たちに比べると、チームリーダーのドライバーたちは多少なりとも見劣りする。
それは風格という意味でも、実力という意味でも、だ。
「(ここでスタートならスピードになるはず。このまま内回りへ行こう)」
今の目標は、走り始めたあの日に出会ったドライバー…「12時過ぎのシンデレラ」に出会い、バトルをすること。
首都環状歴も長いあのドライバーに勝つためには、ここで躓くわけにもいかない。
前方の台場線高架が迫る中で、後方からのパッシングを受ける。
そして程なくしてカーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――」
GOサインと共にアクセルを踏み込む。
同時に後方のZ32が食いついてくる。
だが幸いにも加速勝負ではほぼ互角、というべきか…Z32は追い抜きに来ない。
正確には追い抜けない、というべきか。
「(速いけど、追い抜かれないのなら…余裕だ)」
最上にとってはどこか心の余裕があった。
何せこの先はコーナーが多くなる都心環状線区間。
多少なりともパワーに劣っても、コーナー勝負で向こうが食らいついてくるかどうかはわからない。
浜崎橋JCTを右方向に進み、2台はテールトゥノーズの状態で都心環状線へと突入する。
互いに速度は200キロは出ている。
「(まずはカーブ1つでどう出るか)」
浜崎橋JCTの分岐後にある左高速コーナー。
最初の勝負どころである。
いくらパワーで劣るRX-8とはいえ、コーナー1つで勝負がつくという訳ではなさそうだが…相手がどう出てくるかは最上としても気になっていた。
最上のRX-8はコーナーにノーブレーキで突っ込む。
「―――」
ハンドルをくい、と左に曲げて滑らかにコーナーリング。
一旦ハンドルを曲げたらある程度の舵角を曲げ続ける。
後輪がわずかに滑るも、お構いなしにアクセルを踏み続ける。
コーナーの右車線から左車線へと…RX-8は滑らかに突入し、そのまま突破していく。
だが、後方のZ32はというと…
「(離れた?)」
バックミラーから徐々に小さくなっていくZ32。
テールトゥノーズの状態で食らいついていたのはいいのだが、どうやらこちらのコーナーリングスピードに追い付けなかったのか、それとも度胸が足りずブレーキを踏み込んでしまったのか…そのどちらかのようだ。
都心環状線に合流したRX-8は、後方のZ32を引き離すべくそのまま210キロのスピードを出しながら汐留方面へと走っていく。
「(離れたからには、もう食らいつかせるものか)」
1つのコーナーへの突っ込み勝負で差が付いた以上、コーナーでは明らかにこちらの方に分がある。
それが分かった以上、あとは弱点を突いていくだけ。
ならば…と目の前の汐留S字コーナーでケリをつける。
そう最上は認識する。
RX-8は一番右車線を走りながらコーナーに接近する。
「―――」
前方にS字コーナーの最初のコーナー…左コーナーが迫る中で、アクセルオフ…ハンドルを僅かに左に曲げてそこからブレーキング。
ハンドルを左にわずかに曲げた上でフルブレーキングに近いブレーキングにより、タイヤがわずかに滑り出す。
200キロ以上のスピードであればタイヤが滑り出すことも容易だ。
そこからアクセルオン…後輪がわずかに滑る中で、最上はハンドルをさっ、と右に僅かに切り返す。
ドリフトからのカウンターでハンドルを切り返し続け、RX-8は一番右の車線から一番左の車線へと突っ込んだ。
コーナー内側へ、アングル一杯というわけではない抑えめのスピーディなドリフト…アングルとしては30度もないそれで、RX-8はコーナーを駆け抜ける。
速度が170キロまで落ちたところでクリッピングポイントを抜けたRX-8は、そのまま左車線から真ん中車線へと膨れていく。
「……」
1つ目のコーナーを抜けてドリフトし続けるRX-8。
だが次のコーナーは右直角コーナーである。
先程よりもきついコーナーにRX-8は200キロ以上のスピードで突っ込んでいく。
だがそんな中でオーバースピードだと認識した最上は、ハンドルを右へ更に切り込んでアクセルオフからブレーキを軽く踏み込む。
多少減速したRX-8は、左向きから一気に右を向いて一番右の車線…右コーナーの壁ギリギリまで接近する。
左から右に向く中で今度はハンドルを右から左に切り返し、再度カウンターを当てる。
カウンターを当てられたRX-8は多少なりともタイヤを滑らせつつも、カウンターを当てられていたこともあってドリフトアングルを抑えてコーナーを立ち上がる。
2つ目のコーナーをアウトインアウトのラインで駆け抜けたRX-8は真ん中の車線に収まりつつも、グリップを回復したRX-8は、そのまま汐留JCTを右方向へ。
180キロオーバーのスピードでS字コーナーを抜けたRX-8は、そのまま汐留トンネルへと疾駆する。
「(少しずつ、僕も速くなっているのかな)」
汐留トンネルに向けて走る中で、最上はバックミラーをちらりと見た。
どうやら自分の走りに相手のマシンはついて来れていないようだ。
バックミラーの相手のマシンのライトは殆ど点も同然であり、既に50mは差がついているといってもよかった。
そんな結果になった以上、最上としては「少しは自分も速くなったのではないか」と実感することが出来た。
そして実感する中でRX-8は汐留トンネルに飛び込み、最初の右高速コーナーを抜けたところで…カーナビには「WIN」の文字が表示されるのだった。
「(これでウォーミングアップも完了だね。ここから先でたしか1人…)」
カーナビの文字を見てRX-8を減速させる中で、最上はふとそう思った。
都心環状線に、まだ倒していないドライバーがいる。
そのドライバーを倒しに行くのが今夜の目標。
マシンをクーリング走行で走らせる中、最上のRX-8は環状線を走り抜けていく。
―――十分後、都心環状線旧呉服橋出口付近。
あの後RX-8を環状線内回りを走らせていた最上は、遂にカーナビ上に映っていたドライバーを探し当てようとしていた。
最上のRX-8は一般車両の間を走り抜けて探していく。
「(もうじきのはずだ…近い)」
都心環状線、神田橋エリア。
跳ねやすい路面と高速コーナー、狭い車線というテクニックを要求される区間。
そんな区間まで来たところで、最上の目の前にあるマシンが接近しようとしていた。
速度としては100キロくらいは出ている。
ビル街の中を縫うように繋いでいる首都環状の中で、そのマシンの存在はぐんぐんと近づいていく。
そして神田橋出口方面まで走ってきたときの事だった。
「(いた…!)」
神田橋出口寸前、最上の目の前に接近する、探していたライバル。
その存在が近づくにあたって、最上はRX-8を100キロから50キロまで落とす。
比較的高い巡航速度であったために追いつくのは容易だった。
だが…そのマシンは最上が求めていたそれとは多少異なる、異様な雰囲気を醸し出していた。
推奨BGM:DOMINION(from beatmaniaⅡDX17 SIRIUS)
「(白い…RX-8?)」
最上と同じRX-8。
ここに来て同じマシンの対決だ。だが…この車は違う。
「12時過ぎのシンデレラ」ではない。カーナビには「ユウウツな天使」と書かれている。
あの人物が通り名を変えて走っているのか?いや、そんなことがありえるのか?
何にせよそのワイドボディと大きなウィングが象徴的で、同時に威圧的な外観をしている。
これまで倒してきた闇天狗やミッドナイトローズなどと同等…いや、下手をしたらそれ以上の相手かもしれない。
もっとも幸いなのは何かしらの「纏っているもの」が見えないという事だろうか。
探している例のドライバーに比べると、実力はあるのだろうが風格はそこまで、といったところだった。
「(違う…この人は、僕が探している人じゃない。でも、速そうだ。この車には悪いけど、これは前哨戦のつもりでいく…!)」
最上にとっては探しているドライバーではないことは多少落胆させても仕方なかった。
だが何にせよこのドライバーも実力派であるのは間違えないだろう。
もし勝負をすれば、何かが分かるかもしれない…そう思ったところで、最上は前方のRX-8の後方に付けたところでパッシングする。
「……」
勝負を仕掛けられたユウウツな天使。
後方から迫るRX-8は自分と同じだが、自分のマシン程の派手さはない。
だがそういうマシンに限って速かったりするのだ。
どんな相手でも手を抜くつもりはない…そう彼女も認識した。
2台が神田橋出口を通過した後の右高速コーナーを通過する中で、カーナビにカウントダウンが表示された。
3
2
1
GO!
GOサインと共に加速していく2台。
だが、前方のRX-8はその加速が異様に速い。
高速コーナーを抜け、跳ねやすい区間に突入してもその加速は留まることを知らずに加速していく。
「(…逃がさない!)」
一方の最上は、GOサインと共に前方のマシンのマフラーから噴き出る赤い炎を視認していた。
おそらく加速装置…ニトロを使っているのだろう。
それを認識した最上は、咄嗟にハンドル上のニトロスイッチを右手親指で押した。
前方のRX-8に追従するかのように、最上のRX-8も加速していく。
ニトロ込みの加速勝負とはなるが、その勝負自体はほぼほぼ互角だった。
ニトロで加速する2台はそのまま、竹橋JCTへと走り抜けていく。
一直線に走り抜けるラインを走り抜けていたこともあり、2台の速度はどちらも200キロ以上まで駆け上がっていた。
「(追いつけるニトロのありがたみ…かな)」
竹橋JCTから高速コーナー区間でわずかに、かつ的確にハンドルを曲げてコーナーに対処する最上。
今回ほどニトロを装着していたことをありがたく思うことはない。
仮にニトロを搭載していなければ、スタート直後の大逃げで逃げられていたに違いないだろう。
そう考えると、このRX-8も十分に速くなっているのではないか。
前方のRX-8とはテールトゥノーズの状態を維持していた。
竹橋JCTを通過した2台はそのまま左高速コーナーへ。
左車線へと逸れたユウウツな天使、右車線を走り抜ける最上。
左高速コーナーを抜け、2台は北の丸方面へと走り抜けていく。
「(スピード自体はほぼ互角、あとはどこでニトロを使って勝負を仕掛けるか…)」
ニトロをオフにして走り抜ける2台。
サイドバイサイドの状態を維持しており、ストレート区間において2台の速度はほぼほぼ互角だった。
そうである以上、勝負所はコーナーリングとその立ち上がりになる…というのは最上の経験上考えるのは容易だった。
実力自体も拮抗しているに違いない。
2台はサイドバイサイドの状態を維持しながら北の丸トンネルへと飛び込んでいく。
「(内側だと、死角が怖いな…)」
北の丸トンネルには出口寸前に右高速コーナーがある。
一見すると何の変哲もない高速コーナーなのだが、それはあくまで1台の状態である時。
現在最上とユウウツな天使は並走状態で走行しており、右車線を走る最上のマシンにとってはブラインドになっているのだ。
だから、トンネル出口でいきなり一般車両と鉢合わせしても全くおかしくはない。
一方で外側のユウウツな天使にとってはその死角が比較的少なくなり、余裕でコーナーに飛び込める。
高速度域の首都高という環境上、壁というものは障害にもなりえる。
普通のドライバーなら、多少はビビッてアクセルを抜くというのがよくあることだ。
サイドバイサイドなら猶更アクセルを引かないと、2車線という環境上逃げ場が無くなってしまう。
200キロオーバーの中でサイドバイサイドとなる2台のRX-8。
内側の最上、外側のユウウツな天使。
果たして前方に何が待つか…一種のギャンブルというべき状態である。
「(ええい…いっちゃえ!)」
最上としては勝負に乗ることにした。
ここで出し抜かなくては、きっと更に差を付けられかねない。
踏み続けているアクセルをキープするという選択肢を取る。
いわば、内側コースにマシンがいないと見たのだ。
果たしてこの選択が吉と出るか凶と出るか。
「……」
一方のユウウツな天使。
こちらもアクセルを全開で踏み続ける。
右サイドにいるRX-8とは互角の勝負を披露し、サイドバイサイドという状態にもつれ込んでいた。
200キロオーバーの中で彼女もまたアクセルを踏み続けている。
北の丸トンネルから皇居のお堀へ向かうことになるのだが、彼女もまた引く気は全くもってなかった。
サイドバイサイドの状態でもつれ合う2台のRX-8。
だが、トンネル出口に差し掛かろうとしたその時だった。
「―――!?」
まさかの事態。
なんと北の丸トンネル出口の高速コーナーに一般車はいた。
だが、それがよりにもよって…ユウウツな天使が走行している、左車線に。
大型のタウンエースが左車線を陣取っている。
だが、避けるスペースはほとんどない。
何せ左サイドは壁、右サイドには最上のRX-8。
左サイドを強引に抜けるという方法もあったが、ユウウツな天使のRX-8はワイドボディ化されているため、接触のリスクもあった。
そうなるとこの状況を対処するには?
目の前のマシンが迫る中で、ユウウツな天使はある選択を取る。
「―――っ!!」
「(しめた、今だ!)」
アクセルを抜き、ブレーキをフラッシュさせるユウウツな天使。
一方、アクセルを全開で踏み続ける最上。
インコースはクリア、だがアウトコースは一般車両あり。
そんな状態でインコースの最上がアクセルを踏み込んだらどうなるか?
結果は火を見るよりも明らかだろう。
「(っ…!でも、コーナー勝負なら…)」
ブレーキを踏み込んで減速させ、最上のRX-8を先行させてしまったユウウツな天使。
速度は170キロまで失速し、アクセル全開のままトンネルを抜け出した最上のRX-8とぐんぐんと差が開いていく。
一般車両の処理に手間取った結果、彼女は先手を許してしまう事態に陥ったのだ。
皇居のお堀のそばを走り抜ける青色のRX-8を追いかけるが、加速勝負ではほぼほぼ互角であったためにその差は縮まらない。
それでもまだ希望は残っていた。
この先の霞ヶ関トンネル入り口のヘアピンコーナー。
もし向こうよりもこちらの速度が早ければ追い抜けるチャンスはあるのだ。
車間距離が広がり続ける中でユウウツな天使はアクセルを踏み続けて何とか追いすがる。
「(前を取ることが出来た以上、もう追いつかせるものか)」
一方の最上。
後方のRX-8との車間距離が開く中で、最上はもう二度と食らいつかせまいと思っていた。
先程は先手を取られた以上、今度はここで倍返し。
ならばどうするかとなると、やはりこの先のヘアピンとストレートでぶっちぎるまで。
そう勝負を決めようと決心したところで、前方に千代田トンネル前の下り坂左ヘアピンコーナーが迫る。
「―――」
220キロは出ているRX-8。
前方のコーナーが迫る中で最上は早めにアクセルをリリースしてブレーキを踏み込む。
とはいえスピードが乗る中で多少は丁寧に踏み込み、速度をきっちりと制御できる範囲まで減速させる。
速度が160キロまで落ちたところで、アクセルを踏み直した上でハンドルをきっちりと左に曲げ、右車線から左車線へ。
そのまま左側の壁を目掛けるかのようにインコースで走り抜けていくRX-8。
ある程度は攻め込みつつも多少の余裕をもったまま、マシンのタイヤをグリップさせたまま下り坂を駆け下りつつ加速していく。
そして下っていく中でRX-8は左車線から右車線へと膨らむ。
アウトインアウトのラインを描き、そのままトンネルに飛び込んだ。
前方に一般車が少ないなことを確認した上で、最上は遂にマシンの真価を発揮する。
「(ようし、いっけえ!)」
霞ヶ関トンネルに飛び込んだ先はロングストレート。
ここで最上は残っていたニトロを全て噴射させるべく、ハンドルのスイッチを押した。
コーナーで減速していたRX-8はそのまま地面を蹴り上げるかのように加速していく。
目の前のストレートに向かって全力疾走…そんな状態でRX-8は加速し続ける。
速度は150キロから230キロオーバーまで加速する。
目の前の景色がぐんぐんと迫る中でも、最上はハンドルを握り続け、同時にアクセルを踏み続けることを止めなかった。
「(くっ、追いつけない…)」
一方こちらは置いてけぼりを食らったユウウツな天使。
こちらも千代田トンネル前のヘアピンを攻め込むが、この時点で最上のRX-8は遥か彼方のトンネル内分岐近くまで引き離されていた。
車間距離としては100m近くは引き離されているだろう。
おまけにコーナーでもどうやら向こうのRX-8の方が速いのだろう…本気を出して攻め込んでも食らいつけない。
一瞬の迷いや判断ミスが勝負を分けるとは言ったものだが、まさかここまで露骨に結果に出るとは思ってもいなかった。
コーナーを脱出して千代田トンネルに飛び込み、ニトロを噴射するも…その差は縮まらない。
みるみるうちにカーナビ上の体力を削られたユウウツな天使。
結果として十秒もしないうちにカーナビに「LOSE」の文字が表示されるのであった。
「(はあー、何とか勝てた)」
一方の最上。
こちらのカーナビには案の定「WIN」の文字が表示されている。
何とか勝てた…と安堵したところでアクセルを抜き、クーリング走行に入る。
それにしてもこれまでの敵の中でもかなりの速さだったことは違いない。
久遠のポラリスや闇天狗以上と言ってもいい実力だった。
少しドライビングミスをすれば自分が負けていたに違いあるまい。
今回のバトルは実力もあったが、多少なりとも運が絡んでいたという事は間違えないだろう…
そう最上は認識するのであった。
だがそんな中で、自分の手間を掛けさせる程の実力者であったと認めた最上は…マシンをゆっくりと走らせて後方からユウウツな天使が追ってくるのを待つのであった。
最上自身も気が付いてはいないが、ユウウツな天使に興味がある…と言えばそういうことなのだが。
―――霞ヶ関出口付近。
バトルを終え、霞ヶ関出口で停車した2台のRX-8。
首都環状の夜風に乗って、 どこからともなく花の香りが漂う。
縦列駐車したRX-8、その2台のうちの後方のマシンから先ほどのバトル相手…ユウウツな天使が姿を現した。
わかっていたとはいえ…バトルに打ち込み始めたあの日に出会った人とは、明らかな別人だった。
独特の蠱惑的な雰囲気のためか、 PAで相対しているだけでプレッシャーを感じる。
「あなたがさっきのRX-8のドライバー?若いのね…」
「ど、どうも」
「あなたの走り…悪くなかったわ。ねえ…今度は私の助手席に乗ってみない?」
「え?」
「…もちろん、今すぐって話じゃないわ。考えておいてね」
ユウウツな天使は女性の最上をどこか誘惑するようにそう言った。
やはり彼女もまた最上に興味があるようだ。
そして同時に、最上を男であると思っているらしい。こればかりは最上の外観上仕方ないのだが。
するとそこに現れたのは…最上が一度バトルした、顔見知りの男だった。
どうやら先ほどからここにいたらしい。
「あ、あなたはたしか」
「おい、お前。悪いことは言わねえ…その女はやめとけ。これまで、何人の若い男が打ちのめされてきたことか」
「はあ…」
ブラッドハウンド…紫のBRZ乗り。
最上とは一度バトルをしたきりではあるが、こうやってPAでまれに顔を合わせることもある。
だが両者とも、最上の事を「男」と見てやまないようだ。
するとユウウツな天使がどこか気に食わないかのようにこう言った。
「あら、聞き捨てならないわね…私はただ、見せてあげようとしているだけ。魂を削りながら、命をのせて走る…最高速の世界をね。それで打ちのめされるようなら…もともと、その程度の男ってこと」
ユウウツな天使としてはやはり「本物の世界」へと誘いたいとしている。
それこそやはり彼女が蠱惑的ということの照明だろう。
だが、ブラッドハウンドはため息をついた上で口を開く。
「…まあ、こういう女だ。俺と同じ、元・“十三鬼将” の1人さ」
「"十三鬼将"?最近色々と聞くけど…そうだったんだ」
十三鬼将…やはりここまでに何度か聞いた言葉。
何でも嘗て首都環状を席巻した13人のドライバーの事らしいが、やはりまだその全容というのは謎に包まれたまま。
するとユウウツな天使は、どこか懐かしむかのようにこう口にする。
「“十三鬼将”…懐かしい呼び名ね。それは…かつて走り屋たちが見た泡沫の夢、行き過ぎた走りへの熱情が生み出す、儚い幻影」
十三鬼将の思い出。
それはどこか懐かしいものであり、そして泡沫の夢だった。
そういうかのようにユウウツな天使は語る。
すると彼女は最上の方を見てこう言った。
「あなた……迅帝に会ってみたいと思う?この首都環状に渦巻く熱狂が作り出した、“伝説” に」
「伝説、かあ…まあ、気になるね」
ユウウツな天使の言葉に対し、最上は「気になる」と答えた。
するとどこかニヤリとしたユウウツな天使は、忠告するようにこう口に開く。
「だとしたら…飲まれぬように、気をつけなさい」
「飲まれる?何に?」
「首都環状の…深淵にね」
「……」
首都環状の深淵、とは何なのか。
それは言葉の通り、とても深い闇なのか。
その真相とは一体何なのか。
それでも最上にとってはあるドライバーの名前も気になっていた。
迅帝―――-首都環状の最先端を走り続けてきた、「伝説」の男。
最上にとって彼の存在は気になるのと同時に、その資格があるのかどうか疑問に思うのであった。
(第14話End)
BGMリクエストはまだ募集中です。
興味のある方は是非。