「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で-   作:カービィ改二

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第22話です。
愛のトルナードと噂のライターとの戦い。
そして久遠のポラリスにも僅かながら動きが…


act.22「Danger Sign(ウィンカーは危険の合図)」

―――スティールハートとその弟子たちに続き、新世代の走り屋の1人、ライジングシーマンを倒した最上。

彼が紹介したドライバー、「愛のトルナード」と「噂のライター」もやはり最上の実力に興味があり…最上への取材と同時に、勝負を仕掛けてきた。

最上としてはそれを受け入れ、バトルをすることになる…。

 

 

 

―――大黒PA。

大黒PAで愛のトルナードが休憩中と言う話を聞き、最上はシビックを大黒PAへ走らせてきた。

そこにはやはり…先のドライバー、愛のトルナードがいた。

車から降りた最上が向かい、そのまま話しかける。

 

「よお、待ってたぜ。早速始めるが準備はいいか?」

「うん、いいよ。コースは…」

「このまま大黒線を上っていこう。コースインしたら適当なタイミングでパッシングしてくれ」

「わかった…始めよう」

既に「バトルをしたい」と言う話は聞いていた以上、最上としてはバトルを拒む理由はなかった。

愛のトルナードとの一戦が始まる。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

推奨BGM:24h Endurance Race(from beatmaniaⅡDX INFINITAS/beatmaniaⅡDX30 RESIDENT)

大黒PAからコースインし、大黒線へと入っていく2台。

大黒線は横羽線同様2車線のスピードが乗りやすい区間である。

ところどころ存在する高速コーナーにどれだけ突っ込めるかが勝負どころと言うべきだろう。

 

「(ここでWRXかぁ…まあ、何でもいいけどね)」

最上は不思議と相手の車の事が気になりつつも、シビックのライトをパッシングさせた。

ここに来てスバルWRX…そのS4 STIスポーツR EXという珍しいマシンだ。

現実の別レースゲームでもほとんど出たことのないマシン…そんなマシンが相手だ。

大黒PAを出た2台は、右車線をテールトゥノーズの状態で走りながらバトルの開始を待つ。

互いのマシンのカーナビにカウントダウンが表示される。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

GOサインと同時にアクセルを全開に踏み込み、レッドゾーンに入ったのと同時にクラッチを切ってシフトアップ。

スタート直後の直線においては、前方のWRXと後方のシビックの車間距離は開かなかった。

2速から3速、3速から4速…200キロオーバー、220キロオーバーに到達する中でも2台は接戦を繰り広げる。

 

「(加速はほぼ互角、食らいつけてはいるけど…)」

最上自身、後方からWRXを追いかける中で現状を分析していた。

加速自体はほぼほぼ互角であるので、追い抜けないという事はないだろう。

だが、一押しが今は存在しない。

前方のWRXが左車線に移ったら自分のシビックも左車線へと移り、前方のWRXが右車線に移ったら自分のシビックも右車線へと移す。

テールトゥノーズのスリップストリームの状態を維持して、先行のWRXをじっくりと追いかける。

相手はおそらく本気だろうが、自分もアクセル全開だ。

最初の左高速コーナー、2つ目の右高速コーナーにおいても全くもってアクセルを引くことはなく、前方のWRXを追いかけ続けていた。

街灯がどんどんと後ろに消えていく中で、最上はWRXを追いかけることだけに意識を集中させていた。

 

「(少しでもカーブがあれば、僕の方が有利なんだ…)」

最上はこれまでのバトルから既に、「自分はコーナー区間で相手よりも攻め込むことが出来ること」という特性を知っている。

大黒線にも少なからず高速コーナーはあるので、勝負どころとしてはそこだろう。

あるいは大黒線終端部にある右直角コーナーまで堪えるか。

だが、前方のWRXに追従する中で最上はあることに気が付いていた。

追従する中で何個か高速コーナーを走り抜けているのだ。

それでいて、最上はWRXを追い抜けていない。

相手が直線区間で油断したりするならばともかく、おそらくこのコースの高速コーナーで追い抜くことは難しいだろう。

 

「(やっぱりこのコースの速度が出るカーブではダメだ…ならば)」

最上は大黒線のコーナーでは相手が隙を見せることがないと判断した。

そうなればある程度堪える必要があるだろう。

仕掛けるポイントとしては大黒線から横羽線へ合流する直前にある右直角コーナー。

そこまではピッタリと後ろにつけて相手のプレッシャーを誘うまで。

1つ2つのコーナーで追い抜けなくても、首都環状は1から10まで高速コーナーだらけという訳ではない。

複合コーナー、直角コーナー、ヘアピン、更にはジャンプポイント直後のコーナー。

本当に様々なコーナーが首都環状には存在する以上、1つや2つで決着がつくことは滅多にないのだ。

 

「(くそ…後ろにピッタリとくっついてきやがる)」

「(いいぞ…この調子だ)」

WRXとシビックはテールトゥノーズの状態をし続けている。

追い抜かれることはないが、振り切ることも出来ない。

一進一退の攻防は未だに続いていた。

後方のシビックの存在に多少惑わされながらも逃げ続けるWRX。

一方でそんなWRXを追いかけ続けるシビック。

余裕がないWRXに対し、シビックはどこか心理的に余裕があった。

2台は大黒線を250キロオーバーで走り抜けていくが、そんな中で遂に大黒線も終端部が近づこうとしてる。

 

「(仕掛けるなら…次のカーブだ!)」

WRXの後方にピッタリと付けて追跡し続けるシビック。

そのドライバーである最上自身、次のコーナー…右直角コーナーで攻め込もうと思っていた。

2台が互いに270キロオーバーの中で、2台はコーナーへと飛び込む。

テールトゥノーズの状態のまま左車線を走る2台だが、コーナー突入寸前でシビックは右側…ゼブラゾーンへと移った。

 

「―――!」

「(離れた?)」

横羽線合流直前の右直角コーナーは、ゼブラゾーン込みの1車線区間。

とはいえゼブラゾーンがあるので実際は2車線+αの区間である。

そのコーナーに飛び込む直前、最上はアクセルオフから早めのブレーキングを仕掛ける。

シビックは270キロオーバーから一気に190キロまで減速していくが、同時に前方のWRXはシビックよりも素早くコーナーに飛び込む。

だが次の瞬間だった。

 

「(オーバースピード!?)」

「(見切った、ここだ!)」

後方からのプレッシャーに押し負けたのか、オーバースピードで直角コーナーに突っ込んだWRX。

だが速度が乗りすぎていることを認知したのか、一気にブレーキを掛けて減速させる。

それでもスピードが乗りすぎていたのか、サイドブレーキを引いて強引にドリフトしたかと思いきやアンダーステアを出して外のゼブラゾーンへと膨れていく。

一気に右を向いたWRXは結果として大幅に失速。

強引にドリフトしたことで250キロから140キロまで減速するも、なんとか左端の壁との接触は免れた。

スピン寸前…とまではいかないが、明らかにドリフトアングルを付けすぎてスピードを一気にロスする。

結果的に左車線を防ぐような形となってしまう。

 

「―――!」

アンダーステアによって外へと膨れたWRXだが、その右サイド…ゼブラゾーンをシビックは、まるで予見していたかのように悠々と走行。

前もって丁寧にブレーキングし、ハンドルを適度に曲げてインベタのラインで走り抜ける。

そしてそのままゼブラゾーンから走行車線へと合流したシビックは、そのまま下り坂を加速していく。

直角コーナーを抜けて下り坂、そして横羽線合流。

ここからはそのままパワー勝負だ。

 

「(追い抜いたからには…食らいつかせるものか!)」

横羽線へ合流する直前の下り坂でニトロスイッチオン。

失速したWRXに対し、スムーズに通過したシビックはそのままスピードに乗ったまま横羽線を走り抜けていく。

前方の一般車両を右に左にとスパンスパンと避けつつ加速する。

シビックの速度は再び250キロオーバーまで疾駆していく。

 

「(離される…しくじったか!)」

アンダーステアを出して大幅なタイムロスとなったWRX。

こちらもニトロを使って追い抜こうとするが…既に横羽線へと合流していたシビックとの車間距離はあっという間に開いていく。

WRXも慌ててニトロを吹かすも、この時点で車間距離は数十メートルは開いている。

スピードに明らかに乗っていたシビックに対し、コーナー脱出時に大幅なロスをしてしまったWRXでは明らかに勝負がついたも同然だった。

たった1つのコーナーでのミスが、あっさりと勝負の分かれ目となった。

そしてそのまま十秒もしないうちに…WRXのカーナビには「LOSE」の文字が表示されるのだった。

 

「(やられた…だが、横羽線に入ったってことは…)」

バトルに敗北したことを認識した愛のトルナードは、マシンをゆっくりと減速させ…しばらく走ったところにある左側の非常停車帯へ。

非常停車帯に停車したところで、愛のトルナードは誰かに電話を掛ける。

 

「(あ、もしもし?ああ、例のドライバーが北上している…俺は負けたよ。相手してやってくれ)」

 

 

 


 

 

―――数分後。

最上のシビックは大師付近を走っていた。

先程愛のトルナードを破って巡行していたが、この先にライバルがいることを知っていたからだ。

蒼い矢印のドライバー…間違えなく昨日会ったドライバーの残りの1人だろう。

すると、目の前に大師入口の合流が見えようとしてたところだった。

 

推奨BGM:WHITEOUT(from SOUND VOLTEXⅣ HEAVENLY HAVEN)

「(あの車は…やっぱり来たか)」

大師入口からコースインしてきた、薄いピンクのS2000。

昨日会ったドライバーの1人…「噂のライター」本人のマシンだ。

おそらく愛のトルナードが連絡したのだろう。

コースインしてきて左車線を走るS2000の後ろにシビックは付けた。

勿論、勝負を挑むためだ。

 

「(ここで出会ったが10年目…っていうことかな)」

どんな相手であろうとも決して最上は油断するつもりはなかった。

それは、相手が女であってもだ。

一応相手は前にもバトルしたS2000なので全然勝機はある。

勿論油断するつもりはないし、振り切るまで何が起こるかはわからない。

それでも勝ちに行く姿勢だけは必要だ…と思いながらも、大師橋が見える場所でカーナビのカウントダウンが始まる。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

スタートシグナルと同時にアクセルを全開に踏み込み、加速させていく最上。

2速から3速へとシフトアップして、シビックは前方のS2000へと食らいついていく。

だがスタート直後、最上の目の前をあるものが襲う。

S2000の後方に付けたところでいきなり現れたもの…それは、最上の想像を超えていた。

突然目の前が見えなくなったのだ。

 

「(これは…っ、煙幕!?)」

S2000から噴き出るピンク色の煙幕。

これまで300人以上は相手をしてきているが、まさかの物理的な妨害をするのは初めてだ。

こんな妨害をしてくる相手だとは思いもよらなかった。

おまけに最上のシビックが右車線に移動すればS2000も右に移動し、シビックが左車線に移動すればそれに追従するかのようにS2000も左へ移動する。

2車線である横羽線では、この煙幕が命取りになりかねない。

煙幕から何とか脱出しなくては…そう最上が思う中で2台はテールトゥノーズの状態で羽田出口まで接近していく。

だが追いかけ続ける中で、同時に最上はあることを考えていた。

 

「(落ち着け…惑わされるな。煙幕の先に敵はいる…ならば自分の走りで煙幕を躱し続けて、ぶち抜けばいい…!)」

羽田出口手前。

向こうは煙幕を使っているためか、ニトロ加速は見受けられない。

先の愛のトルナードとのバトルでニトロを使ったとはいえ、まだまだニトロはある。

とはいえ煙幕で前が見えにくい中で追い抜くというのは…文字通りの度胸が求められる状態である。

それでも煙幕を躱しながら突破口を見抜こうとする。

するとあることが脳裏に浮かぶ。

 

「(この先のカーブであのS2000はどっちに来るか…逆のやり方をすればいい!)」

羽田出口の直後には右直角コーナーがある。

最上はS2000が左車線であれば右車線から攻め込み、逆であれば最上も逆から攻めようと考え付いた。

相手の同じラインを走っていたら絶対に追い抜けない。

だが逆の走り方が必ず追い抜けるという保証もない。

それでもギャンブルの価値は十分にあった。

左右へとシビックが移動する中で、S2000もブロックするべく移動する。

そんな最中…ピンク色の煙幕が巻かれる中で、2台が左車線に移動したところでS2000のブレーキランプが点灯する。

煙幕の中でもテールランプの閃光はほんのわずかながら見えたが…それを最上が見逃がすはずもなく、ハンドルを右へと切った。

 

「(見切った…!)」

「―――!!」

アウトインアウトのラインを描くべく左車線へ移動したS2000。

だが最上はその隙を見逃さなかった。

S2000がアウトインアウトのラインで突破しようとしていたコーナーを、最上のシビックは強引にインベタのラインで走り抜けようとしたのだ。

多少突っ込んだS2000。

だがそれ以上にインから捻じ込んだシビック。

そうなるとどうなるか?

 

「(ラインが…潰れる!?)」

「―――っ!」

内側から捻じ込んだシビックはS2000が走ろうとしていた走行ラインを結果的に潰す形となった。

S2000よりも先にノーズを突き出したかと思いきやそのままブレーキング。

速度は230キロから190キロまで落ちる。

内側の車線を維持しながらタイヤをほんの僅かだけ滑らせて車線を維持する。

接触上等な捻じ込みだったが、それでも全くもって最上自身に躊躇はない。

ノーズを突き出してしまえばこっちのものだと思っていたからだ。

 

「(っ…抜かれた!)」

「(…これでケリをつける!)」

コーナーを内側に攻め、インベタのラインで走り抜けるシビック。

そしてそれを追いかけるS2000。

コース中央を走るS2000に対し、コース内側まで攻め込むシビック。

結果として車間距離は徐々に開いていく。

コーナー脱出と同時に最上はニトロスイッチを押す。

180キロまで落ちていたシビックの速度は再び一気に200キロオーバーまで加速する。

一方のS2000もそれに追いつかんとニトロを噴射させるが…それでも元の馬力の影響からか、シビックとの車間距離はじりじりと開いていく。

 

「(まさかあの煙幕に動揺していなかった…?だとしたら、何という判断力!)」

「(ご自慢の煙幕も前に出ればもう相手にならないね…あとは速度が乗るカーブで振り切る!)」

最上自身、自分がコーナーで速いという事はもうすでに分かっている。

だからこそコーナーで差を付けて、その差を維持し続けて相手の心を折りに行く。

直角コーナーを抜けた後、空港西方面に走れば下り坂の左直角コーナー。

そこで攻め込めばもう勝負は付けられるだろう…そう最上は認識する。

メーターが260キロまで加速する中で、右車線を走っているシビックは左直角コーナーへと接近する。

一方で後方のS2000も何とか食らいつかんと走っていく。

 

「(後方との車間を広げるぞ…いっけえ!)」

コーナー直前でニトロを切った上でアクセルリリース、からのフルブレーキング。

260キロから200キロ台まで減速し、そのままコーナーへ。

前へと一気に動いた重心をそのままにハンドルを左に切り、左車線…コーナーの内側へ。

だが、オーバースピード気味のために左車線から真ん中へ多少膨れるが…そこでアクセルを一瞬だけリリース。

こうすると左に曲げ突付けていたことでシビックは更にコーナーの内側へ再び進路を変える。

アクセルオンからワンテンポ置いたところでハンドルを僅かにニュートラルに戻し、コーナー出口を剥くようにする。

FF車が得意とするタックインで思いっきりコーナーを駆け抜けるシビックは、そのスピードから加速しつつコーナーを走り抜けていく。

スピーディに抜けたシビックはそのまま羽田トンネルへと突っ走るが、同時に後方のS2000はみるみるうちに引き離されていく。

最上お得意のタックインが炸裂し、おまけにコーナーリングスピードもかなりのものだったこともあり…結果として後方のS2000を置き去り同然にまで引き離していく。

 

「(っ…コーナーじゃ、向こうが人一倍速い…!)」

噂のライターとしてはもはや手の施しようがなかった。

いくら後方でブロックしていても、追い抜かれてしまってはニトロを使っても追いつけない。

コーナーでも早いのだが、それ以上に最上のコーナーリングが異様なレベルで速すぎるのだ。

なんとかコーナーを抜けて羽田トンネルに入るも…その時点でシビックは羽田トンネルの出口付近。

羽田出口付近の直角コーナーから車間距離を広がされ続けていたが、ここに来て勝負は決定的なものとなろうとしていた。

 

「(これが早さの秘訣なのね…無骨と言うか、鈍感と言うか…)」

噂のライターは最上の速さを、あまりにもスピードに対して純粋であること…と結論付けた。

そしてそう結論付けたところで、カーナビには「LOSE」の文字が表示された。

羽田トンネル出口寸前でS2000は降参するように失速していく。

 

 

 


 

 

 

―――平和島PA。

推奨BGM

 

平和島PAに入ってくる2台…シビックとS2000。

シビックが最初に駐車する。

 

「(何とか勝てたけど、あれは一体何だったんだろう?)」

駐車場にシビックを止めた最上にふと、疑問が浮かぶ。

バトル中に突然出てきた、怪しい煙幕は一体なんだったのか?

あれは、噂のライターが使った罠なのだろうか?

そう思っていると、すぐそばにS2000が駐車する。

 

「(ちょっと、気になるな…)」

興味が湧き、もっとよく見ようとしてマシン…S2000に近づく。

その瞬間…車から降りてきた例のドライバーに声をかけられた。

 

「私のマシンは、誰にも触らせないことにしてるの…ごめんなさいね」

車から降りてきた彼女は真剣な口調でそう口にしたが、最上は不思議とそのオーラに逆らうことが出来なかった。

すると噂のライターが言葉を続ける。

 

「さっきのバトル、楽しかったわ。思わず秘蔵の“七つ道具”を使ってしまったけれど…私の存在が当局にバレると、色々とマズイのよ」

「は、はあ…七つ道具?」

ますます意味が分からない。

あれはやはり道具を使っていたのだろうか。

すると噂のライターが交換条件と言わんばかりにこう言う。

 

「見逃してくれたら、貴方に関する噂は私がうまく処理してあげる」

「噂?」

「ほとんどは無害な内容だけど、中には悪質なデマを流布している者もいるらしいの。有名になりすぎたわね」

「はあ…まあ、さっきのバトルも面白かったし、いいけど。それに僕の変な噂を処理してくれるって?」

最上としてはとりあえず黙っておくことにしたが、同時に「噂の処理」についても気になった。

すると噂のライターはこう口を動かす。

 

「私に任せてくれれば…しばらくは変な目で見られるかもしれないけど、そのうち皆、つまらない噂話には飽きて忘れてしまうでしょう」

「そ、そうかい?じゃあ…よろしく」

彼女はいったい何者なのか…色々と尋ねてみたい気持ちはあったが、ここは条件を飲むことにした。

どちらかと言えばまずは変な噂を消すことが重要なのかもしれない…そう最上自身気が付いていたからだった。

だがとはいえ、変な噂が独り歩きすることも決して悪い事ではないとも思っていたのだが。

すると、最後に彼女はこう口にする。

 

「だけど、気を付けて。貴方の名前を騙って悪事を働く者がいるかもしれない…」

噂のライターの意味深な言葉に対し、最上は静かに頷くことしかできなかった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

―――噂のライターと最上が戦っている頃。

ひと気のない大井南PAで、少女が自分のマシンに寄り添うように、ぽつんと独り、うつむきながら立っている。

このPAは基本的にバトルのためにライバルが待機することは少ない。

それでもここにくれば、とそのドライバーは思っていた。

時おり顔を上げては周囲を見回し、夜の音にじっと耳を澄ませる。

 

「……」

最上と同じく噂になっているドライバー…久遠のポラリス本人である。

すると、静かな夜を引き裂くようなけたたましいエキゾースト音がPAに鳴り響く。

突如として現れた闖入者が、少女のマシンに対して乱暴に横付けした。

 

「よぉ、待ち合わせかい。悪いが、音速の闘将なら来ないぜ」

不気味な姿をした男…ガラの悪いドライバー、バッドボンバーが久遠のポラリスに近づく。

どうやら久遠のポラリスを呼び寄せたのは彼なのかもしれない。

 

「え……」

「そして、テメェは今夜限りで首都環状を降りることになる。悪く思うなよ、テメェは派手に暴れ過ぎたんだ。俺たち<CLUB GARUDA>が覇権を握るため…ここで消えてもらう」

バッドボンバーの言葉、それこそ文字通りの宣戦布告。

久遠のポラリスという「邪魔者」を潰すために彼は現れたのだ。

だが…ここに来て久遠のポラリスにも少なからず変化があった。

 

「……受けて立つ」

そう久遠のポラリスは口にした。

首都環状を走り続ける中で、彼女もまたコミュニケーションが取れるようになったのかもしれない。

それはやはり、最上と出会ったことが大きなきっかけになっているからなのだろうか。

 

最上が知らないところで、また再びバトルが勃発しようとしていた。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

―――噂のライターたちを破った翌日。

最上はまたチューナーの元を訪れてシビックを受け取ろうとしていた。

ここ数日は目立ったチューンはしていない。

エアロを変えたのが最後で、そこからはずっと同じ性能…強いて言えばタイヤを定期的に交換しているくらいだ。

 

「ライジングシーマンに次いで愛のトルナードと噂のライター…新世代の走り屋の奴らを倒したようだな」

「うん。速かったけど、決して強すぎる相手ではなかったね」

ライジングシーマン、愛のトルナード、噂のライターの3人を破った最上。

彼ら彼女は速かったが、決して速すぎる程ではなかった。

だがそれでも自分のレベルに食いついてきた以上…最上はどこかもどかしさを感じていた。

そしてチューナー自身、最上のどこか不満そうな感情を感じ取っていた。

 

「だがそのわりには何か不満そうだが…どうした?」

「おやっさん、僕としてはもうそろそろこの車を限界までチューンしてもいいと思うんだ」

「ほう?そりゃなんかあったのか?」

「何と言うか、ギリギリなんだよね。今のままじゃ勝ち続けることは出来ないと思ったんだ。コーナー勝負だけじゃ、ちょっとね」

「そうか…確かに今のお前さんのマシンはおおよそ460馬力。ここまでくれば、『もっと速いヤツらを倒しに行く』というならもうそろそろチューンしてもいい頃合いだな」

「そうだよね?僕もまた車に手を入れたいんだ」

最上自身、やはりそろそろまたチューニングがしたいと考えていた。

そしてその意見に関してはチューナー自身同じことを考えている。

だが一方で彼はこう伝えた。

 

「…だが確かにお前さんを突け狙っている連中も増えてきてるが、同時にお前さんにはまだ倒すべき相手がいる」

「それって?」

「Phantom9の奴らがまた、お前さんを狙っているみたいだぜ」

チューナーの言葉に最上は目の色を変えた。

どうやらまた自分に挑戦者が迫っているようだ。

だがその対戦相手には心当たりがあった。

 

「Phantom9って…この前クレイジーモンキーとか倒したよね?」

「その話が伝わったのか、黒崎三兄弟が元のマシンに乗り換えたそうだ」

「確か…あのワゴンの3人だよね?元のマシンって?」

「アイツらは元々Z33やZ32、R34に乗っていたんだ。聞いた話じゃ、あいつらのレヴォーグは身内がプレゼントしたものらしい」

「Z33やR34って…フェアレディZとかだよね?そうだったんだ」

黒崎三兄弟が最上に対してリベンジをしたがっている…そんな話だった。

どうやら彼らは彼らなりにパワーアップをしたという。

それも、フェアレディZやスカイラインGT-Rといったマシンに乗り換える形で。

するとチューナーはこう提案してきた。

 

「お前さんにお題を出す…黒崎三兄弟を倒してこい。倒して来たら、報酬代わりにチューンをしよう」

チューナー曰く、黒崎三兄弟を倒して来たら最上のシビックをまたチューニングするという。

そう言われたら、最上としては受けて立つまで。

最上にとっても、速くなるためには壁を乗り越える必要があることを理解していたからだろう。

 

「本当かい?挑んでくるから…約束だよ」

「ああ、わかった」

チューナーと最上の間で約束が交わされた。

ここまで順調に快進撃を続けている最上は、黒崎三兄弟のリベンジに勝つことが出来るのか。

 

 

 


 

 

 

無垢なる魂たちは空に自由な軌跡を描く。

時に惹かれ合い、時にぶつかり合いながら、一つ得るたびに、一つを失う果てしない繰り返しの中で…新たな物語が紡がれていく。

 

この先に、何があるのか。

しかし…答えを探し求める純粋な魂に、謀略が測り寄る―――。

(第22話End)

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