「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で- 作:カービィ改二
ここから2話はステージ4チームリーダーバトルラッシュ。
そして最上は遂にあの通り名を身につけることに。
遂に最上はフルチューンまでFL5シビックを仕上げた。
ここから先は自分自身の腕とマシンをどれだけ煮詰めるかにかかってくる。
首都環状を走る走り屋チームのメンバーたちを討伐するという最上の戦いが、再び始まる。
―――シビックがフルチューンになった2日後。
マシンセッティングの成果を確認するべく、首都環状へと再び最上はシビックに乗ってコースインしていた。
「(今日はここから、っと)」
この日最上がコースインしたのは大井南の料金所からだった。
湾岸線東行き…辰巳方面へと北上するコースである。
料金所からコースインし、目の前の大井JCTを右方向へ。
湾岸線東行き方向へと進路を委ね、移動していく。
すると、分岐を右方向に進んだところで後方から1台のマシンが迫ってくる。
推奨BGM:VOX UP(from beatmaniaⅡDX15 DJ TROOPERS(CS))
「(早速1台…か)」
後方から迫ってくるマシン…銀色のNA1、ことNSX。
どうやら最上のシビックを狙っていたようだ。
おそらく自分を狙って湾岸線を北上してきたに違いない。
「(車種は…NSX?たしか、UNLIMITEDってチームの?)」
カーナビに書かれていた車種はNSX。
そして「UNLIMITED」の…「キリングマシーン」と書かれていた。
首都環状各地のライバルを倒しては来ているので、もうそろそろリーダークラスのドライバーが出てきても何ら不思議ではないが…遂に来たというべきだろうか。
だがどちらにせよ戦うべき相手であることは間違えないだろう。
「(まあ、誰でもいいか。今の僕なら負ける気はないね!)」
最上にとってはフルチューン状態のシビックに乗っていることが自信になっていた。
この車ですでに数百キロは走り込んでいるだけでなく、ウォーミングアップがてら既に勝利した相手にも積極的に勝負を仕掛けていたこともあってか、勝ち星も既に400近くはある。
その2つが最上にとっては静かな自信となっていた。
そしてそんな自信にあふれた最上にとって、チームリーダーとのバトルも容易いものと言えば容易いものだ。
勝てる、という強気な姿勢が最上の速さを確かなものにしようとしていた。
一番左の車線を走りつつも後方にNSXがピッタリと付けたところで、カーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――!」
GOサインと共にアクセル全開、1速から100キロ台に到達して2速にシフトアップ。
後方のNSXを早々に突き放すような大逃げのドライブを披露する。
「(ニトロなしでもぐんぐんと加速していくこの爽快感…やっぱりすごいよ、この車)」
セッティングを整えたこともあるのか、普段以上に加速が鋭く感じられる。
150キロ台から一気に200キロ、シフトアップして210キロ、230キロ…加速はどこまでも止まらない。
260キロで4速にシフトアップ。
東京港トンネルに向けてのストレート区間において、シビックは加速を止めない。
「(この先の右高速コーナーも全開で行けちゃうかな!)」
東京港トンネル手前には右高速コーナーがある。
この高速コーナーはアクセル全開で余裕のコーナーだが、スピードを最大限に生かすためには走行ラインに注意することが必要不可欠。
とはいえ高速コーナーと言う比較的視界がクリアな条件であれば、ある程度どこに車がいるかは見分けられる。
「(一番左の車線に一般車両が走っている以外は問題ない、いくぞ…)」
250キロオーバーと言うスピードの中で、最上は前方のコーナーのどこに一般車両がいるかを推測していた。
今見た限りでは一番左の車線を走っているだけのように見える。
だが…一番右の車線に車がいないとも限らない。
「(少しだけ、余裕を持たせて…)」
コーナーが迫る中でアクセル全開のままハンドルをくい、と右に曲げる最上。
一番左の車線を走っていた一般車の存在は認知していたとはいえ、インコースギリギリに車がいるかもしれない。
多少なりともマージンを取ったライン…一番左の車線から一番右の車線まで突っ込むのではなく、真ん中の車線と一番右の車線の間まで攻め込ませる。
速度は280キロ以上まで加速しているが、それでも怖いものなしと言わんばかりに最上はアクセルを踏み続けていた。
コーナー区間の真上にある新幹線高架の下を潜り抜け、シビックは滑らかに旋回しつつも加速しながら東京港トンネルへと突っ走っていく。
「(くっ…やはりターボには…)」
一方こちらはキリングマシーン。
加速勝負で差を付けられ、手も足も出ない状況だった。
こちらのNSXはNAマシンなので加速や最高速勝負で分が悪いのは無理もない話なのだが。
既に100m近くは引き離される状況の中、手も足も出ない状況だった。
ニトロを使えばいいのだが、コーナー区間でニトロを使うと車が暴れかねないので使う訳にもいかない。
「(ここ数日間でマシンの細かい部分を調整したことで、また速くなった気がする)」
高架下を抜け、東京港トンネルに飛び込んだシビック。
4速から5速へとシフトアップし、あっという間に300キロ以上のスピードへ…5速320キロになっても加速は止まらない。
周りの景色はあっという間に後方に消えていく中でも、最上はただアクセルを踏み続けていく。
この日、最上のシビックは最高速が伸びる仕様にしていた。
湾岸線や横羽線と言った最高速ステージにおいて戦える仕様。
それでも加速を重視することで、出だし勝負でも負けることのない仕様でもある。
6速で最高380キロ出すことのできるモンスターシビックを、最上は全くもって動揺することなく制御することが出来ていた。
普通のGT-RやNSXくらいならいくらでも相手できる程には…マシンの性能が上がっているといっても過言ではないだろう。
「(単純な直線区間ではもう敵なし、って感じかな)」
トンネルの中を閃光の如くかっとばし続けるシビック。
ちらりと最上が確認したバックミラーのNSXの存在は既にはるか彼方、100mは引き離されていた。
300キロオーバーのスピードの中でも最上は全くもって怖いとは思わなくなっていたし、スピードに乗って走り抜けることが同時に快感であるようにも感じていた。
東京港トンネルを抜け、目の前にテレビ局が見えたところで…カーナビには「WIN」の文字が表示されていた。
「(車って、奥が深いんだなあ。少しいじるだけでこうも味付けが変わるなんてね)」
アクセルを抜いてマシンを自然に減速させる中で、最上はふとそう思った。
これまでは何の不満もなかったマシンだったが、マシンを煮詰めることでまた新たな特性が見え隠れしている。
ストレートでも十分速かったのだが、ここから先更なるドライバーが現れることを考えると現状のスピードに満足してはならない…そう思ってセッティングを変えたのだが、これがなかなかに効果覿面。
湾岸線などのストレート区間ではもう怖いものが無くなったようにも思えるし、全然戦えるとも思えた。
それでもやはり…パワーだけでは乗りこなせないとも彼女は思うのだが。
そう思いつつも目の前には有明JCTの分岐が迫る。
「(このまま辰巳に行って、一旦マシンチェックかな)」
80キロまで減速しつつも有明JCTを直進したシビックは、そのまま新環状左回りルートへと走行していく。
―――十分後。
辰巳PA出口。
先程入ってきていたシビックが再びコースイン。
深川線方面へと80キロまで加速していく。
「(新環状ルートに入るからちょっとだけ加速寄りにっと)」
ファイナルギアをほんのわずかに加速寄りにした上で、再び出走する最上のシビック。
最高速度は375キロまで下がっているが、それでも全体的な加速は良くなっている。
湾岸線や横羽線と同様パワーは求められるが、同時にテクニックもある程度要求されるからにはこれくらいがよいのかもしれない。
そう思いつつも辰巳PA出口直後の左ヘアピンを抜け、湾岸線からの合流を通り抜けた直後だった。
推奨BGM:Binary Black Hole(from beatmaniaⅡDX29 CastHour)
「(また来たか…って、あれ?)」
後方に現れた1台のマシンからパッシングを受けた。
赤色のランエボ10である。
どうやら自分の事を待ち構えていたのか、あるいは探していたのか。
カーナビの情報を確認する。
「(TOP LEVEL?たしかランエボ…だったかな)」
チーム「TOP LEVEL」の「ターマック鈴木」。
おそらくチームリーダーであることは間違えないだろう。
そうであるのならば勝負は受けて立つし、容赦はしない。
ここを走り続けている最上自身、売られた喧嘩自体は買うようになっているのだった。
「(まあ、このストレート区間で僕について来れるか…勝負だ)」
前方に見えるのは深川線のストレート区間。
福住方面までの長い長いロングストレートであり、とにかくパワーが求められるのは言うまでもないだろう。
一方で自分の車はかなりのモンスターマシン。
一介の走り屋クラスであれば圧倒できてしまうほどの実力になっていることも…最上自身気が付いてはいた。
そしてチームリーダーが勝負を挑んできたというのであるならば…最上はその力を全開で発揮するまでだという事もわかってはいるのだった。
シビックとランエボ10が右車線でテールトゥノーズの状態、下り坂を下っている中で…カーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「(あえて手を抜いてみるか…)」
GOサインと共にアクセルを踏む最上。
だが最上としてはここで、あえて手を抜くことを決めた。
アクセルを全開…ではなく、ゆっくりと踏み込んでシビックを加速させる。
速度は60キロから一気に120キロまでスピードアップ、そこからも加速が止まらないが…アクセル全開の時に比べると明らかに抑えめ。
後方のランエボは左車線へと移動して追い抜かそうとするが、それを見越して最上もシビックを左車線に映してブロックする。
「(さあ、どう出てくるか…)」
だが後方から迫ってくるランエボをピッタリとブロックし、先行させない。
全開でブロックし続ければ抜かれることはない…そう最上は考えていた。
200キロオーバー、220キロに到達しても一般車を避けつつ後方のランエボをずっとブロックし続けていた。
辰巳のヘアピンを抜け、そのまま塩浜方面へと2台は260キロオーバーと言うスピードで走り抜けていく。
「(後ろにピッタリとくっついてくるね…)」
後方のランエボはプレッシャーを確かに与えてきてはいる…だがそれでも最上の敵ではない。
深川線の直線区間において、2台はずっとテールトゥノーズの状態で走り抜けていく。
一般車を避けつつも加速し続ける2台。
それでも最上のシビックは先行し続ける。
枝川出口手前の左高速コーナーを右車線から走り抜けた2台は、枝川出口通過直後に300キロ台にまで到達しようとしていた。
「このスピードでもピッタリ食いついてくるか)」
流石にこの領域になればもう首都環状でもかなり上振れのドライバーと言っても過言ではないだろう。
そんなマシンに、最上のシビックは先行できている。
最初の手加減で多少は追い詰められているものの、それでも心が折れる気配は全くもって存在しなかった。
2台のメーターは互いに320キロオーバー。
次々現れる一般車両を右へ左へとスキーのスラロームの如く避けていく2台。
そんな状況で大型スーパー横、並びにスカイツリーが見えるストレートを2台は右車線を通過していく。
「(勝負ポイントは…この先の連続カーブかな!)」
比較的長期戦になっているバトルだが、最上としてはそろそろ勝負を付けようとしていた。
先程のストレートを抜けると、最初に左高速コーナー、2つ目に右直角コーナー、3つ目に左直角低速コーナーという複合コーナー地帯が存在する。
何度も何度も首都環状…その新環状左回りを走り込んでいる最上にとっては、スピードで優位に立っていたとしてもそこが勝負どころであるという事を自覚していた。
「(パワーでゴリ押すことは誰でもできる。でも、カーブでゴリ押しは出来ない!僕について来れるかな…?)」
最上にとってそれは、一種の挑戦状を叩きつけるも同然だった。
ストレートでの実力は分かったが、じゃあコーナーではどうか?
それこそが最上が知りたいことだった。
2台は最初の左高速コーナーに入り、テールトゥノーズの状態でアクセル全開のままコーナーを走り抜ける。
だが、そのまま2つ目のコーナーに入ろうとした瞬間だった。
後方のランエボがブレーキを掛けたのか減速してシビックから離れていく。
「(離れた…!)」
バックミラーに映るランエボが離れていく瞬間を最上は見逃すはずもなかった。
2つ目のコーナーはアクセル全開でも問題ないくらいのコーナーではあるが、3つ目はきついコーナー。
流石の最上でもブレーキを踏むのが定石となっていた…のだが。
そのブレーキングポイントと言うのは、常識的に考えても遅いタイミングなのであり…そこが他のドライバーを突き放す大きな要因となっていることを、最上自身も何度も何度もバトルを繰り返してきたことでコツを把握していた。
2つ目のコーナーを通過する中で最上はアクセルをリリースする。
「―――!」
3つ目のコーナーの手前でブレーキを踏み込み、右車線を走らせつつシビックを減速させる。
速度は320キロだったが、そこから一気に240キロまでスピードダウン。
そこから左車線、コーナー内側のゼブラゾーンに突っ込むような形でハンドルを左に曲げる。
レーシング使用のブレーキパッドとサスペンションの効果はあまりにも絶大だった。
コーナー内側の壁目掛けて左旋回し続ける最上のシビック。
だがそんな中でもオーバースピード気味なのか、タイヤがアンダーステアを出して僅かに膨らみ始める。
「(おっ、とっ、と)」
多少なりともマシンが膨らんだことを察知した最上は、僅かながらアクセルを調整してエンジンパワーを調整する。
それでも220キロオーバーと言う猛烈な速度で走行するシビックは、コーナー内側スレスレのゼブラゾーンまで攻め込んで旋回する。
アクセルワークによる微調整の効果はそれなりにあり、ゼブラゾーンから左車線、右車線へと膨らむように…アウトインアウトのラインを描いてそのままコーナーを立ち上がっていく。
アウトインアウトのラインを描いたシビックは、右車線から加速していく。
前方の福住出口方面へのロングストレートにおいても、最上は全くもってアクセルを抜く筈もなかった。
ここまで差を付けたらもう余裕で勝負を付けに行くつもりだったのである。
「(何というか、パワーのゴリ押しなだけだったなあ)」
複合コーナーから福住出口までのロングストレートにおいて、220キロから280キロオーバーまで加速していくシビックの中で、ここに来て最上は勝負が「ゴリ押し」になっていることに気が付いていた。
だがどちらにせよこれまで多少なりともパワー不足に苦しんでいたことを考えると、その分今のパワーがある方がいいのかもしれない…最上はそうも思った。
勝つためには美学なんてものはいらない…どこかの人が言っていたような気がする。
勝つためのルールしか守らないというのも一理あるのかもしれない…そう最上は思うようになっていた。
そしてそのまま福住出口の案内板の下を潜り抜け、前方の右直角コーナーが接近しようとしていたところで…シビックのカーナビには「WIN」の文字が表示されるのだった。
「(よし、これでまた1人…1チームっと)」
カーナビの文字を確認した最上は、そのままアクセルオフのままシビックを自然に減速させていく。
その様子はさながら風に乗って滑空していくグライダーのように滑らかだった。
ブレーキも軽くしか踏まない中で、シビックはアクセルオフのままゆっくりと減速する。
一方チームリーダーを倒したことで、最上はまたチームを殲滅出来た。
これでもう何チーム潰したのか、最上でも把握できない数ではある。
だがそれでも…まだまだチームのドライバーたちはいる。
「(まだまだいるはずだから、また頑張るかな)」
まだまだチームの数が残っていると判断した最上は、そう思いつつも一旦箱崎PAへとシビックを走らせるのだった。
―――さらに数十分後。
箱崎PAを出た最上のシビックは、江戸橋JCTから都心環状線内回りへと向かっていた。
皇居のお堀横を通過し…千代田トンネルに入ったところで、また1台後方にやってきていた。
どうやらまた自分は複数のチームから狙われるようなドライバーになっているようだ。
推奨BGM:FLOWER(from jubeat knit APPEND&REFLEC BEAT(APPEND FESTIVAL))
「(GR86…だったかな。同じステッカーを張ってるけど、この車だけのチームだったんだね)」
千代田トンネルの左車線を走行するシビックの後方に迫ってきた1台のマシン…GR86。
ドライバーは「GNK Racing」の「リターン・オブ・ゾロ」と書かれている。
このチームは首都環状を買収した運営のお抱えであるチーム。
そして何を隠そう、リーダーはその会社の社長でもあった。
「(都心環状線を走るこの車たちのチームはそれなりに速かった。油断はできないね…)」
「GNK Racing」のドライバーたちは皆ライセンスを持ち、中にはプロのレーサーもいる。
一応パワーでのゴリ押しも通用するといえば通用するのだが…テクニックが要求される都心環状線では油断が命取り。
いくらチームメンバーたちに皆勝利しているとはいえそんな実力者集団である以上、相手がどんなマシンであっても見くびることは出来ないとも考えていた。
GR86が左車線を走るシビックの後方に付け、テールトゥノーズの状態となったところで…カーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――」
GOサインと共にアクセルを軽く踏み込む最上。
相手の実力を見くびらないとしたうえでも、どこか相手の速さを確かめたいという気持ちもあった。
この首都環状のサーキットを運営する集団であるという話はPAである程度聞いてはいたからこそ…それを知りたかったのだ。
トンネル内の三宅坂JCTを左方向に進み、霞ヶ関方面へ。
2速から3速、3速から4速へシフトアップし、200キロ台まで加速シビックの後ろに、GR86はしっかりと追いすがっていた。
「(ピッタリと後ろに付いてきている。走りもどこか洗練されているような…)」
ある程度余裕を持ったうえで走る最上のシビックの後方に、GR86はしっかりとくっついてきていた。
アウトインアウトのラインを描くシビックに対し、GR86のコーナーリングにはある程度のマージンがある。
それはやはり、首都環状が一般車両も走る特殊な環境であるという事をしっかりと自覚していたから…つまりどこに一般車両がいても問題ないようにしているのかもしれない。
「(でも、僕とは違う。僕の走りは…泥臭いのさ!)」
突然首都環状に現れ、そこから実力で勝ち上がってきた最上。
その走りはサーキットなどで磨いたものではなく、文字通りの超天然素材と言っても過言ではないだろう。
そしてそんな最上の走りは、サーキットで培ったものとは違い…文字通りの「公道育ち」といっても過言ではなかった。
どこに一般車両がいるかはわからない中で、天性の勘に頼りっきりの弾丸走法。
勿論それはあくまで多少なりとも余裕はあるのだが…1車線丸ごと避けるという形ではなく、時にコース中央、時にコースの端っこを走るような文字通りの臨機応変というべきか、一定の走りがない走りと言うべきか…そんな走りだった。
プロレーサーやライセンス保有者は自分の走りに制限をしてしまうこともある…それは他人に迷惑をかけないために。
だが最上はその制限の上限がプロよりも上…つまり、更に際どい走りをすることに躊躇がなかった。
勿論クラッシュしたりするようなことはないのだが…それでも最上にとって、その「足枷」はないも同然。
それが彼女の強みでもあったりする。
2台は絡みつつも霞ヶ関出口手前の左直角コーナーに迫る。
「(コーナーで食らいつかれるか、それとも…)」
コーナーに飛び込む直前、アクセルをリリースして一瞬だけブレーキをフラッシュさせる最上。
一方で相手のGR86は完全にマージンを持った走りなのか…ブレーキングで減速していく。
コーナーに突っ込むスピードでは明らかに最上の方が上であるという事を最上自身も見抜いていた。
GR86は2車線のうちの右車線に留まる程度のアウトインアウト。
しかしシビックは遠慮なく霞ヶ関出口の車線までしっかりと突っ込んで…そこから左車線まで膨らむような、スピーディながらもかなり切り詰めたラインを描く。
「(離れたか…それじゃここからが僕の真骨頂。ついて来れるかな?)」
GR86よりも素早く直角コーナーを突破し、さらに加速が伸びていくシビック。
その加速に後方のGR86は徐々に差が開いていく。
だが一方で最上はあることにも気が付いていた。
「(引き離したところでニトロを使っているようだけど…そんなんじゃ甘いよ)」
どうやら相手はニトロを使っているようだ。
後方のGR86は…一定の距離を保っている。シビックの後方20m程度と言ったところだろうか。
だがいくらストレートで食らいつこうにもコーナーで引き離されたら何も意味はない。
そう思う中で今度は霞ヶ関入口手前の右直角コーナーが迫る。
そんな中で最上はあることにも気が付く。
「(そういえばこの先に短い直線区間があったな。あそこで300キロ出せるか…やってみようかな?)」
霞ヶ関出口を抜け、トンネル出口直後から谷町JCTまでは数百メートルのストレート区間。
ここを300キロで走り抜けることが出来れば…かなりの実力者だと評されるらしい。
最上自身その噂を聞いていた以上、やってみたいと思っていた。
今まではあまりニトロを使っていないので300キロには到達していなかったが…勝負を付けるためにニトロを使えば到達できるかもしれない。そう考えた以上、挑戦することにした。
前方に右直角コーナーが迫る。
「(ようし…やってみようか!)」
この先のストレートで300キロを出すためには、その手前のコーナーをなるべくスピードに乗らせて突破する必要があるというのは最上もわかっていた。
コーナー手前で左車線に移ったところでアクセルを抜き、ブレーキを一瞬だけ踏み込んだかと思いきやハンドルを一気に右へ。
アクセルオフのままハンドルを右旋回させたことで、前輪に伝わるエンジンパワーが失われたシビックは左車線から右車線へと一気に旋回して攻め込んでいく。
一方のGR86はシビックよりも強めにブレーキを踏み込んだことで、2台の車間距離が離れた。
その事に最上は気が付いていなかったが、それも無理はない話…意識を完全に前方とスピードに集中させていたのだ。
アクセルをリリースして旋回したところで軽くアクセルを踏み込み、グリップを回復させながらスピードを維持させる。
右コーナーを抜け、左車線から右車線へと踏み込むアウトインアウトのラインを描いた最上のシビックはそのままトンネル出口の左コーナーに飛び込むことになるのだが…ここで最上は一瞬だけスピードメーターを確認した。
「(230キロ…?)」
ストレート区間で300キロを出すためには、その直前の2つのコーナーでなるべくスピードを落とさないことが重要であった。
霞ヶ関入口直後の右コーナーを230キロで突破し、その速度を維持したままトンネル出口の左コーナーへと走り抜けていく。
トンネル出口にいる一般車両は1台…右車線を走っているので、右車線から左車線へと突っ込むラインの上にはいない。追い抜くくらいなら問題ないだろう。
すると左コーナーに飛び込む直前に最上はふとあることにも気が付く。
「(ニトロを使えば、300キロ…いける?)」
最上自身、普通の加速ではまず300キロ到達は難しいと考えていた。
もしニトロなしで到達できているのならばこれまでにもすでに何十回…下手したら百回以上都心環状線内回りを走り抜けている以上いくらでも到達している可能性がある。
だが今のところ到達した覚えはない。
やはり正攻法ではうまくいくとは思えない…そう考えた最上は、ここでありったけのニトロを噴射させることを決めた。
トンネル出口へ向けて走るシビックのハンドルを左に曲げ、右車線から左車線へと走り抜けていく。
アクセル全開を維持していたこともあり多少なりともオーバースピード、少しずつ左車線から右車線へと膨らんでいくがハンドルはそのまま。
下手に舵角を付けると失速しかねないと思った以上、多少膨らんでもアクセルを踏み込んでいくようにしていた。
そしてそのまま左車線から右車線へと膨らませていく中で…最上はハンドルに取り付けられているニトロスイッチを押した。
「(…どうなる!?)」
ニトロスイッチを押したことでぐん、と加速が一気に伸びたシビック。
まるで宇宙船がワープするかのような錯覚に陥る中で、最上はハンドルをしっかりと握り、同時にアクセルをずっとべた踏みし続けていた。
250、260、270、280…加速は嫌でも伸びていくが、同時にストレートエンドも迫る。
ストレートで300キロを記録したところで、ストレートエンドの左高速コーナーでクラッシュしては意味がない。
このストレートでのスピード勝負はいわばどこで減速するかの度胸試しでもあるのだ。
それでも最上はずっと踏み続けている。
だが目の前に谷町JCTの分岐が数十メートルにまで迫ったところで…最上は息が詰まるような気持だった。
「(ダメだ…もう、引かないと!)」
そう認識して谷町JCTの分岐を左方向に進もうとしていたところで、最上はアクセルを僅かに抜いてハンドルを左に曲げていた。
どこまでスピードが伸びているかはわからない…だがそれでもあまりにも息苦しい数秒間だった。
ものの数秒間だけなのは事実だが、それでも限界まで踏み続けることは息苦しさを感じていた。
2車線の狭い高速道路で300キロを出す、それもほんの数百メートルと言う区間で…をやろうとしたことがやはり心労として表れたのかもしれない。
パーシャルスロットルで速さを維持させていたシビックは、そのままストレートエンドの左高速コーナーを走り抜けていく。
スピードに乗ったことで恐怖も増していたが、それでも最上は左コーナーを抜けたところでアクセルを一旦抜いた。
「(ふう、危ない危ない…ってあれ?)」
赤坂ストレートを駆け抜けたシビックだったが…谷町JCTへ走り抜けていく中で最上はやっとカーナビに「WIN」の文字があったことに気が付いた。
それを認識した最上はアクセルをリリースして僅かながらブレーキを踏み込み、自然な減速に身を任せてシビックを減速させていく。
「リターンオブゾロ」とのバトルを終えたシビックは滑走状態のまま減速していき…その後しばらくの間は首都環状各コースでバトルを繰り広げるのだった。
―――2時間後。
都内某所、最上自宅。
シビックに乗った最上は、フルチューンとなった愛車に乗って自宅に戻ってきていた。
23時にコースインして深夜2時まで休憩挟みつつもほぼぶっ通し。
自宅には一応3台程車が置けるスペースがあり…その一番端っこには仕事用のクラウンタクシーが止まっている。
元々はスイフトスポーツとRX-8も止まっていたのだが…シビックのチューニング代捻出のために既に売却済であった。
それはやはり、最上自身が「シビックと言う一番の愛車を見つけた」という事の表れだったのかもしれないが。
「(やっと帰ってこれた)」
ガレージに愛車であるシビックを入れ、サイドブレーキを引く最上。
完全に止まったところで最上は一息つく。
そしてそのままカーナビに左手人差し指を伸ばし、今日の戦績を確認する。
「(よし…今日だけで15勝だ)」
この日だけでも15勝…「GNK Racing」のリーダー戦の後も最上は首都環状を走り続けていた。
どの結果も皆シビックの実力を示しての圧勝。
もはやかなりの領域まで来ているといっても過言ではないだろう。
すると最上はあることも思い出す。
「(そうだ、さっきのスピードアタックってどうしたんだっけ?)」
先程の赤坂での300キロトライ。
走り続けている間は忘れていたが、ここに来てやっと思い出した。
メニューを操作し、先のスピード記録を確認する。
「(どうだろう…?)」
先ほどのトライ結果、谷町JCT分岐直前の記録は305キロ。カーナビに搭載されているスピードトラップ記録にはそう記載されていた。
結果としてはあまりにもあっけなく達成していた。
「(意外と余裕だったんだ!)」
最上は記録を確認してそう思った。
記録を確認した最上は、そのままエンジンを切ろうとした。
すると、カーナビにあるものが表示される。
「新たなる通り名を獲得しました」というお知らせである。
「ん?新たな通り名…?これは一体?」
最上は自分の通り名自体を殆ど気にしていなかったが、一応首都環状を降りた後には通り名取得情報が表示されるようにはなっている。
普段はそれに対して流れるがままに通り名を変更していたが、ここに来て最上はしっかりと画面を確認する。
そこには、首都環状で勝利を重ね続けてきた者だけが得られる特別な通り名が表示されていた。
「究極の、不沈艦……?」
カーナビに表示された新たなる通り名…それこそが、「究極の不沈艦」だった。
合計400勝以上、10敗以下、そして直近10日間のバトル回数100回以上を全て満たすと現れる特別な通り名。
確かにここ数日、新世代の走り屋や元・十三鬼将、さらにはPhantom9といった様々な実力者とバトルしたのは勿論覚えているが…マシンをほぼ満遍なくチューンした後にも、セッティングを調整するために、現れたライバルたちに対して見境なくバトルしていたような気がする。
それだけのことをしていたら、自然とこの通り名も出てくるものなのかもしれない。
だが一方で最上にとってはある感情も芽生えていた。
「これ、いいね…僕固有のそれにしよっか!」
直感でその通り名を気にいった最上。
カーナビにおいて、「通り名を変更する」「変更した通り名に固定する」と設定し…その名を自分自身のものにした。
それはやはり…彼女が忘れているのかもしれないが、やはり「重巡洋艦」や「航空巡洋艦」だった過去があったからか、あるいは…ただの偶然か。
そのどちらかであるのは間違えないが、最上自身がその通り名を直に気にいっていたというのが言うまでもない事実であったというのはここに記しておく。
「究極の不沈艦」、こと最上。
彼女による侵略は首都環状屈指の実力者たちにも及ぼうとしていた。
(第25話End)