「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で-   作:カービィ改二

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第2話です。
物語はかなりサクサク進みます。

いよいよ最上が首都高へ本格参戦。


act.2「Machine(走るためのマシン)」

初めての勝利。

それも、戦おうという明確な意志もなく出来た勝利。

その勝利はささやかなものだったが、同時に最上を何かに駆り立てようとしていた。

バトルから2日後、スケジュール上前もって決めていた休日。

最上はある場所へと向かうのだった。

 

 

推奨BGM

―――スポーツカー専門中古車販売店。

都内某所にあるスポーツカー専門の中古車店には、ずらりとスポーツカーやそれ相応の車たちが並んでいる。

スポーツカーだけでなく軽自動車、ワゴン、セダン、更にはSUV…それこそ幅広く並んでいる。

そんなお店に例の少女…最上はやってきていた。

服装はやはりボーイッシュそのもので、傍から見れば男そのものだ。

スカートが嫌いなので案の定ズボンを履いている。

 

「(あの高揚感が今でも抑えられない…)」

最上はタクシーでお金を稼ぐことはともかく、首都高でバトルをして勝利した余韻に未だに浸っていた。

数日たってもその高揚は不思議と抑えられない。

だからこそ、あの感覚をもう一度確かめてみたい。

禁断の果実を齧った以上、果実を食い尽くしてやる…それくらいの気持ちだった。

だが同時に、あることも考えていた。

 

「(でもやっぱり、仕事の車を傷つけるわけにはいかないからね)」

そう、前のバトルで使っていたマシンはタクシー。

いわば自分の食い扶持であり、小遣い稼ぎの道具。

そんな車に乗ってバトルをして、仮に事故でも起こしてみようものならとんでもない信用問題だ。

だったらどうするか、となると…首都環状で使うべきマシン…スポーツカーを購入するべきなのではないか、と思ったのである。

そう思ってやってきたのは…スポーツカー専門の中古車販売店だ。

店頭に置かれている車たちを最上はじろじろと見ている。

すると、車を物色していた彼女の元へ店員がやってきた。

 

「いらっしゃいませ。車をお探しですか?」

「あのー…サーキットに興味があるんです。何か初心者にお勧めの車ってありますか?」

「初心者、ですか。お客様は免許を最近取得したばかり、ですか?」

「ううん、もう5年になるんですけど…せっかくだし速い車に乗ってみたいと思ったんです」

「成程、以前の車は?」

「いやあ、僕は普段タクシー転がしてるんだけど…せっかくならそれとは違う車に乗ってみたいなって」

「タクシー…ですか?」

最上としては今までとは違う車に乗ってみたいと思っていた。

それはやはり首都高を走るにあたって心機一転したいと思っていたからか、それともマンネリを打破したかったかはわからないが。

それでも店員にとっては、彼女がタクシードライバーとは思えなかったからか…少しだけ驚いているようだった。

流石に最上ほど若い女性がタクシードライバーと言うのは、どちらかと言えば珍しいからか。

 

「うん、クラウンのですが」

「となるとセダン以外、ですか…そうですね、では1台いい車があります」

「本当かい?」

「ええ、こちらへどうぞ」

そう言って店員は最上を連れてある車の元へと向かう。

そして店舗の端の方に置かれていたマシン…それこそが、後に最上が選ぶマシンとなる一台だった。

 

「こちらです」

「へえ…これが初心者向けの車?」

青色のスポーティな小型車両…スズキ・スイフトスポーツ(ZC33S)。

比較的小型なFFスポーツで、最近の若者が乗るスポーツカーとしては選択肢の一つとして十分なマシンだ。

値札に書かれた値段は280万円。

値札のところには細かなスペックが書かれており、どうやらマフラー改造、車高調導入済、バケットシート導入済、更にはリアウイングもBLITZ製のGTウイングなど至れり尽くせり。

馬力自体も通常の140馬力から155馬力まで引き上げられており、内部のチューニングも施されているといったところだろう。

走行距離も18000キロと走り込まれてはいるが…決して超長距離というわけではない。

少なくとも普通のスイフトスポーツよりかははるかに改造されたものであると認識していいだろう。

 

「この値段で書いてあるけどさ、込み込みで本当にこの値段でいいの?」

「はい、この値段は全て必要経費込みです。おまけにこの車は少なからずチューニングされているので、通常時よりも速く走れますよ」

「そうなんだ。じゃあ、早速だけどこれにしようかな」

最上は何も考えていないかのように、そう口にした。

いや、正確に言えば彼女の感が「この車を買え」とでも言ったかのように…迷わずにそう言った。

 

「かしこまり…ええっ!?試乗もなしでいいんですか?」

「いいのいいの。僕、あまり深く考えることが苦手だからさ」

「は、はあ…失礼ですが、ご予算とかは?」

店員としては愕然とするしかなかった。

何せ試乗もなしにいきなり車を選んではそれを購入する客なんて、聞いたこともない。

まさかそんな客が現れるなんて思ってもいなかったのである。

だが最上はそれをわかっていたかのように、こう返事をする。

 

「まあ、そこは気にしなくていいよ…でも、本当にこの値段でいいんだね?一応そこだけ聞いておきたいんだけど」

「はい、念のため計算いたしましょうか?」

「そうだねえ…そこで認識の間違いとかあったら困るから、お願いするよ」

「かしこまりました。それでは店の方へご案内します」

「よろしくね」

そう言って店員は店の方へと最上を連れていくのだった。

 

その後最上は契約などを確認し、お目当てのスイフトスポーツをローンすら組まずに一括払いでポン、と購入してしまった。

その光景に関しては店員がまた驚いたのは言うまでもない。

とはいえ最上はこのような形で、首都高を走るためのマシンを購入したのだった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM:DDR System Songs+Replicant Mix(from DanceDanceRevolutionA3)

―――その日の晩、深夜0時半。

タクシーでの営業を終えた最上は、自宅に戻ってきたかと思いきや早速購入したばかりのスイフトスポーツに乗り込み、シェイクダウンのために首都高へと向かっていた。

 

「(なんだかワクワクするなあ…こんな気持ちになったのは、初めてタクシー営業をした時以来かも)」

首都高を走ることに関して、最上は不思議とワクワクしていた。

首都高自体は昼間に何度か走ったことがあるから、多少の土地勘はある。

だからそこまで緊張するほどのものではない。

だとしたらやはり、自分がこれまで操縦したことのない車で首都高に乗り込むからか。

谷町JCTから都心環状線外回りに合流したスイフトスポーツは、そのままの勢いで加速していく。

 

「(そういえば、この車に搭載されているカーナビは首都高でのバトルに対応しているんだってね)」

最上はカーナビをちらりと見て確認する。

首都高に入る前にカーナビのモードを変更してあった。

首都高でバトルをする際は、基本的に「首都高でのバトルに対応しているカーナビ」の装着が義務付けられている。

これによって、相手との車間距離がわかるだけでなく…独特のルールにも対応している。

首都高でのバトルは基本的に明確なゴールが存在しない。

相手を一定以上振り切るか、振り切られて降参するか…或いはコンピュータが自動判断して降参するかのどれかである。

それに加えて環状線に合流した直後に、試しに大型トラックの後ろに付いたら…「名も無き者」と表示された。

どうやらこれは一般車であるらしく、「首都高の走り屋」であったらそれぞれ固有の通り名…ニックネームみたいなものが付くのだとか。

一応一般車ともバトルは出来るらしいので、以前バトルをしたというのは…おそらくこういうことなのだろう。

バトルできる範囲は限られているので、その範囲内に入ったらGPSが反応してバトルが出来るようになっているらしい…なかなかハイテクなシステムだ。

カーナビの情報サイトにおけるデータベースを試しに見たところ、現在500人以上のドライバーが登録されており…そのうちチームに所属するドライバーたちを倒していけば、首都高の実力者たちに自分の名前が広まるようになっているらしい。

つまり「制覇するためにはチームのドライバーやそのリーダーたちを倒して名を上げれば更なる強豪を倒せるようになる」らしい。

首都高を制圧するためにできることは…チームメンバーやチームリーダーたちを倒すことが先決となるのだった。

 

「(まあ、今の僕には『首都高の走り屋たちを倒したい』って願いが叶えばいいかな)」

最上にとって今存在するのは、全てを支配するという制圧欲。

全てのドライバーを倒し、自分の実力を示したいという気持ちだった。

すると、目の前にある車が見えてきた。

 

「(あれも…走り屋かな?)」

霞ヶ関トンネルに入り、霞ヶ関出口横を通り抜けた紫のワゴン。

スバル・レヴォーグ(VMG)。

ここまで80キロを維持していたスイフトスポーツだが、ここで少しだけ加速して接近する。

左車線を走るレヴォーグの後方15メートル程度に接近していた。

 

「(…アップビート。どうやら走り屋のようだ)」

接近したところでカーナビをチラ見すると、相手の情報が表示されている。

アップビート…DEPARTURESというチームの一員のようだ。

レベルは1、車種はやはりVMG型レヴォーグと書かれている。

先日のハチロクとは違うとはいえ、もしかしたら…と最上は思った。

 

「(折角だ…やってみよう)」

スイフトスポーツに乗り換えての初めてのバトル。

どんな相手だかはわからないが、最初のバトル相手としては上出来だろう。

そう思った最上は、ハンドルに取り付けられているレバーを回してパッシングするのだった。

これが、バトル申し込みの合図だ。

 

推奨BGM:R∞tage(from beatmaniaⅡDX26 Rootage)

「(おっ、俺に勝負か?)」

レヴォーグのドライバー…アップビートは後方からのパッシングに気が付いた。

カーステレオから爆音の音楽が流れる中で、カーナビも反応しており、「残り時間:10」「バトル許可:ハザードを維持する」「バトル拒否:ハザードを解除する」という文字が書かれていた。

カーナビがそう表示されるのと同時に自動的にハザードを焚いている。

残り時間の間にずっとハザードを維持すればバトル許可、ハザードを解除すればバトル拒否となる。

首都高でのバトルは相手の同意があってこそだ。

ハザードを解除すればそれはバトル拒否の証拠になるが、ハザードを数秒出せばバトル許可の証拠になる。

 

「OK、いいぜ!」

アップビートとしてはバトルを受けることは大歓迎だった。

ハザードボタンを押さないようにして、バトル許可を出す。

 

「(バトル申し込み完了、これでいいのかな)」

相手のハザードが出たところで、スイフトスポーツは自動走行に入っていた。

一定距離…テールトゥノーズの状態を維持して、2台は同じスピードで走行している。

サーキットでのローリングスタートと同じ原理のようだ。

やがてカーナビにカウントダウンが表示される。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

「よっ、と!」

バトルスタートと共に加速する2台。

先行するレヴォーグを追いかけるように、最上もアクセルを踏み込んで加速させる。

3速8000回転からクラッチを切って4速へ。

慣れた手つきでシフトアップと同時に、スイフトスポーツは加速していく。

一方のレヴォーグも同じようにシフトアップしつつも加速する。

 

「…あれ?」

最上としてはバトルの展開が意外なものだった。

レヴォーグは少なくとも280馬力はあるマシン。

そんなマシンに勝負を挑んだのであるならばあっさりと振り切られてもおかしくはないのだ。

最上はあまり車の知識はないが、ああいう大きなマシンはその車体を前へ進めるためにエンジンも強力なものになっているというのが最上の認識。

だからこそ、今食いつけているのは彼女にとっても意外だったのである。

速度は80キロから140キロまで加速していく。

 

「(こういうのは…先手必勝って言うよね?)」

最上は前方を走るレヴォーグの加速にやきもきしながらそう思った。

確かに前の車は決して遅いという訳ではない。

加速勝負で自分より多少劣るだけである。

加速勝負でリードする最上のスイフトスポーツは、左車線から右車線へ。

そこから加速の差でサイドバイサイドになった。

 

「(速い…!?)」

アップビート自身、踏み込んではいるものの加速はほぼ互角。

レヴォーグの速度は150キロを示しており、スイフトスポーツもほぼ同じ速度だった。

前方がクリアな状態の中で並走し続ける2台は、目の前に霞ヶ関入口と左直角コーナーへと迫っていく。

 

「(くっ…!)」

苦戦しがちなアップビートであるが、この先の直角コーナーはインコースである以上自分が有利。

そう思うと多少心の余裕がある。

速度は163キロを示したところで、コーナーが間近に迫る。

アップビートはアクセルオフからブレーキを踏み込み、ギアを下げる。

だが、次の瞬間だった。

 

「(これで…どうかな?)」

コーナーへ突っ込んだスイフトスポーツ。

レヴォーグよりもオーバースピードで突っ込むことで、レヴォーグの前へ。

ブレーキを一気に踏み込んだかと思いきやすぐにリリース、その軽量ボディを生かして一気にハンドルを左に切る。

前輪駆動のスイフトスポーツは、レヴォーグの前へ出たかと思いきやタックインを決めてオーバーステアに。

右車線から一気に左車線へ…放物線のようなアウトインアウトのラインを描きながらレヴォーグをあっさりと追い抜き、アクセルオフのままコーナーを立ち上がっていく。

 

「っ…!?」

アップビートは愕然とするしかなかった。

いくらコーナーで自分が減速したとはいえ、タックインでこうもあっさりと先手を取られるとは思わなかった。

レヴォーグの前に出たスイフトスポーツは、そのままアウトインアウトのラインを描きながら下り坂左直角コーナーを立ち上がっていく。

立ち上がっていく中でアクセルを踏み込まれたのか、スイフトスポーツは下り坂から三宅坂JCT直前の分岐へ。

そのまま右方向…都心環状線方面へと歩みを進める中で、スピードに乗ったスイフトスポーツは一気に加速していく。

 

「あんな突っ込みで…!?」

レヴォーグのドライバー…アップビートは驚くことしかできなかった。

見た感じ初心者のマシンだというのに、度胸があるのか初めてのコースのコーナーにも遠慮なく突っ込んでいく。

初心者であるのは間違えないが、それでもその初心者にしては速すぎる。

下り坂区間とコーナーが合わさったことで、どうやらその速さが増しているのかもしれない。

だが、こちらも280馬力以上のレヴォーグ。

そう易々とは振り切られまいとアクセルを踏み込む。

だが…

 

「(くっ…アウトに膨れる!)」

レヴォーグの弱点…やはりその縦長なマシンと車重の重さ。

ワゴンのマシンは決して一概に走りに向いているという訳ではない。

おまけに相手のマシンはレヴォーグよりも明らかにコンパクトでスポーティなマシン。

都心環状線と言うテクニカルセクションにおいては軽やかにコーナーを抜けることが求められる以上、あちら側に分があるのは言うまでもないだろう。

アクセルを踏み込み、ハンドルを左に曲げているが…レヴォーグは左車線から右車線へとはみ出てしまう。

壁への接触…はないが、それでもやはりスイフトスポーツの速さに挑発されてしまったのかもしれない。

だが、三宅坂JCTを右方向に通過したところで彼はあることに気が付く。

 

「(も、もうあんな所に!?)」

スイフトスポーツは霞ヶ関トンネルから北の丸トンネルへと飛び込み、その最初の高速コーナーに飛び込んだかと思いきや…アクセル全開のままトンネルを駆け抜けていく。

下り坂の勢いを維持したまま完璧にレヴォーグを振り切ろうとしていたのだった。

高速コーナーの先に消えたスイフトスポーツを追いかけてアップビートもアクセルを踏み込むが…追いつけない。

それくらいなまでに、スイフトスポーツのスピードは乗っていたのだ。

 

「(やられた…くそっ)」

カーナビには「LOSE」の文字が出ていた。

どうやらシステム上バトルの結果が出たらしい。

だがアップビート本人からしても、この勝負は文句なしの敗北と言ってもよかった。

カーステレオから流れる音楽も聞こえないくらい衝撃的な走りだった。

だが軽量スポーティなマシンの特性を完全に把握していたのか、こうもあっさりと負けるとは思ってもいなかった。

一体何者だったのだろうか…

そう思いつつも、アップビートはアクセルを抜いて勝負から降りるのだった。

 

「(あれっ、追いつかなくなっちゃった?)」

一方、北の丸トンネルを走るスイフトスポーツ。

速度が150キロを示す中で最上がカーナビをちらりと見ると、そこには「WIN」の文字が書かれていた。

そうなったかと思いきや、マシンは自動的に減速して自動走行に。

どうやら自分はバトルに勝ったらしい。

走りに集中するうちに、相手をあっさりと振り切っていた。

だがここまであっさりと勝負がつくとは思ってもいなかった。

そして最上はバトルに勝つのと同時に、ある感情がふつふつとわいた。

 

「(勝った…)」

不思議な感覚だった。

あの時ハチロクを振り切った時と同じような、相手を打ち負かすことで得られる快感のようなものを最上は得ていた。

この感覚は、どうやらこの車であっても感じることが出来るらしい。

禁断の果実を齧ったあの感覚。

これだ…自分はこれを求めていた。

そう最上は認識する。

 

「(この感覚…あの時と同じだ。これなら、またしばらく勝負を挑んでいこうかな)」

勝負に勝つことで得られる快感。

それを認識したところで自動走行は解除され、最上は再びアクセルを踏み込む。

バトルによって得られる快感…それを得るために。

なおカーナビ上には地図上に緑の矢印1つと沢山のの青い矢印が表示されている。

これが首都高のドライバーたちなのだろう…そう認識した最上は再びバトルへと挑みに行くのだった。

 

―――この後、その晩だけで最上は更に9人、加えて「名も無き者」も10人程撃墜したことを記載しておく。

 

 

 


 

―――箱崎PA。

 

「ふうー、結構走っちゃった」

首都高に入って1時間ほど。

彼女は箱崎PAにいて、自販機で買った水を飲み干していた。

普段は昼も夜もそつなくタクシーの仕事をこなす彼女だが、今日は1時間だけ早上がり。

くるくると環状線を回っていたが、それでもバトル自体はサクサクと進んだことによって、1時間程度しか経っていなかった。

おそらく今後こういうことは続くだろうが、それでもスイフトスポーツの走行距離計は50キロ以上を記録している。

バトルをして勝利することで得られる爽快感…その爽快感に包まれながら最上はPAの夜風を浴びていると、見知らぬ人物が現れた。

その人物が近寄ってくる。

 

推奨BGM:neogenesis(from beatmaniaⅡDX16 EMPRESS)

「…?」

自信に満ちあふれつつも堂々とした振る舞いが印象的な、活発そうな女だ。

その人物は最上の方へやってきて、彼女に話しかけた。

 

「こんばんは、いい夜ね。見かけない顔だけど、アンタ…首都環状は初めて?」

「えっ?そうだけど…」

「へえ、なかなかやるじゃない!…って、自己紹介がまだだったわね。私、この辺りじゃ名の通った走り屋なの。12時過ぎのシンデレラ、なんて呼ばれてるわ」

「シンデレラ…?」

―――12時過ぎのシンデレラ。

名だたる強豪ドライバーの中でもひときわ有名な女性ドライバー。

キャリアも長く、首都高を走るものの中ではそれなりの有名人だ。

最上が不思議な感覚を覚えつつも、12時過ぎのシンデレラは話を続ける。

 

「実は、さっきのバトルを何回か見てたんだけど…アンタがどんなヤツなのか、 直接話してみたくなっちゃったのよね〜」

「そうだったんですか?」

「で、こうしてPAまで追いかけさせてもらったってワケ」

「はあ」

「早速だけど…アンタの走り、正直まだまだ粗削りだと思うわ。誰彼構わずバトルを仕掛けてるし…だけど、他の人にはない “煌き” がある…」

「煌き?僕の走りに?」

一方的に口を動かすシンデレラは最上の走りに対し、煌きがあると断言した。

それは言い換えてしまえば、才能と言うべきものかもしれない。

 

「ええ…私はね、 走り屋同士のバトルって、一種のコミュニケーションだと思ってるの」

「コミュニケーション?」

「アンタはここで、これから多くの走り屋たちと出会う。何十、何百というバトルを経験する中で誰に出会い、 何を感じて、 どこまで行けるんだろう?ねえ、とってもワクワクすると思わない?」

「それは…」

ワクワク、というよりは…自分が何処まで行けるのかを試したい。

それが最上の本音。

すると、シンデレラは話を続ける。

 

「『何のために走るのか?』…これは、走り屋みんなが胸に秘めてる問いよ。アンタがその “答え” を見つけた時…コースの上で聞かせて欲しいの。バトルを通じて、ね」

「何の、ために…」

何のために走るのか、という命題。

その答えをいずれ教えてほしい。

それがシンデレラからのリクエストだった。

最上はそれに対して茫然と答えるしかなかった。

 

「その時は、容赦しないから!…それじゃあ、次はコースでね」

「は、はあ…じゃあ」

走り屋の女…12時過ぎのシンデレラはそう言い残すと、身を翻して自らのマシンに乗り込んだ。

かなり派手に改造された黄色のRX-8だ。

夜目にも鮮やかな黄色のマシンが、 夜の首都環状を切り裂くように軽やかに駆けていく。

 

「何のために、か…」

PAに残された最上は、ふと屋外に出ては夜空を見上げてぽつりとつぶやくのだった。

何のために走るのか。

その意味を、彼女はあることに走ることの意味を示そうとしていた。

 

「(相手を打ち負かすことによる爽快感、かな)」

そう最上は考えた時、この首都環状に巣食う「魔物」の息遣いが聞こえたような気がした。

走り屋たちが走る理由を知るために。

全てのドライバーに自らの姿を拝ませるために。

走り屋を打ち負かすことで得れる爽快感を感じるために。

そして…全てを制圧するために。

 

一度は全てを失った少女…最上が心の奥底に秘めた、全くもって意識していない底知れぬ野望が…彼女の中ではっきりと目覚めようとしていた。

(第2話End)

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