「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で- 作:カービィ改二
十三鬼将四天王狩りと新世代の走り屋の残党狩り。
新世代の走り屋たちとの大規模レースを制した最上。
そんな最上の前に、十三鬼将四天王のドライバーと…新世代の走り屋の残党が現れようとしていた。
疑念と羨望渦巻くバトルが再び始まる。
―――新世代の走り屋たちとの大レースの翌日。
また最上は首都環状にコースインしていた。
今回のコースインは都心環状線内回りの霞ヶ関からだ。
「(えーっと、たしかもうそろそろ…)」
最上はコースイン前に、首都環状でまだ倒していないドライバーがいないかを確認していた。
その中で…都心環状線内回りに1人倒していないドライバーがいる。
その一番最初のドライバーとして、最上が比較的得意とするコーナー区間が多い都心環状線エリアのドライバーを倒しにやってきていた。
霞ヶ関からコースインし、赤坂ストレートを走っている時に1台のマシンが迫ってくる。
推奨BGM:XANADU OF TWO(from beatmaniaⅡDX18 Resort Anthem)
「(いた…たしか、シャドウアイズ?)」
前方に迫ってくる、リアを黒色、それ以外のほとんどが紫色となっている禍々しい色の80スープラ。
谷町JCTを通過したところで相手のマシンの後方に付けて、カーナビで相手の名前を確認する。
十三鬼将四天王のドライバー…「シャドウアイズ」。
彼女もまた最上に挑戦状を叩きつけたドライバーの1人だった。
「(黄色いNSXと一緒にいた人だよね。なら、遠慮なく)」
十三鬼将四天王のドライバーであることは最上も覚えていた。
そしてそんな実力のあるドライバーであるというのならば、勝負を仕掛けることは遠慮しなくてもよい。
そう最上は認識して、80スープラにパッシングする。
ハザードを出し、60キロを維持するスープラ。
同じく60キロを維持して一ノ橋JCT方面へ走行するシビック。
2台はテールトゥノーズの状態で左車線を走る。
互いに睨み合うかのような状況の中で、カーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――」
GOサインと共にハンドルをしっかりと握りながらアクセルを踏み込む。
だが、スタート直後の出来事だった。
「(あれ、前を譲った?)」
スタート直後、加速する2台だが…最上はシビックを右車線に移してそのまま加速の勢いでオーバーテイク。
前方のシャドウアイズは加速が鈍いのか、最上に先手を許したような感覚だった。
それはどちらかというと、相手が狙ってやっているように最上には思えた。
スタート直後から速度は60キロから一気に120キロ、180キロと狭いストレート区間で遠慮なく加速していく。
それでも後方のシャドウアイズは食らいついては来ている。
出だしの加速が多少鈍いだけで、ある程度スピードが乗れば食らいついてくるようだ。
「(後ろから追撃してくる感じかな…ならば、ぶっちぎる!)」
食らいついてくるシャドウアイズのマシンの姿を見てふと最上は思った。
逃げられるのならば猛追し、先を譲られたのならば大逃げする。
そんな一種の攻略法が最上にはあった。
そんな攻略法をわかっていたからこそ、最上は攻め込むことをやめない。
ある種の必勝法を持っていれば、大抵のドライバーには勝ててしまうことを…彼女は知っていたのである。
2台は数メートル間の車間距離を維持しながら一ノ橋JCT方面へと走っていく。
速度は200キロを優に越しているが、互いに引く気は全くもってなかった。
「(そう簡単に僕が策にハマると思ったら大違いだよ)」
一ノ橋JCT先の左直角コーナー。
最上はそこが勝負どころであると見切っていた。
自分の車は確かに速いが、同時にコーナーでも負けていない。
実力者相手にコーナー勝負できっちりと太刀打ちできる程の実力を自分は持っている…そんなことを最上は自覚していた。
「(さて、この人は僕について来れるかな…)」
最上としては相手の実力が気になっていた。
ここまでのバトルを踏まえてもコーナー1つで勝負がつくことは多く、実際最上はそのつもりでいた。
アクセル全開…250キロオーバーでコーナーに突っ込む。
シビックはそのまま一ノ橋JCTの分岐を左方向に進み、80スープラも数メートル後方を追従する。
だが、シビックがコーナーに飛び込もうとした次の瞬間だった。
「(引いた…ここだ)」
一ノ橋JCTの分岐を通過した直後、最上は後方の80スープラが引いた…つまりスピードを落としたことをバックミラーのライトの照度から直感した。
それを認識したのと反射的に最上はアクセルをリリースして一瞬だけブレーキを踏む。
そうしたかと思いきや、アクセルを軽く踏み込んでハンドルを曲げる。
右車線から左車線まで一気に攻め込む走り方…文字通りのアウトインアウトの走りで直角コーナーを走り抜ける。
その走りはひとたび左車線に車がいたらクラッシュ待ったなしのとんでもなく攻め込んだ走りだった。
だがここまで攻め込んでいけるのも、最上自身の勘の良さと日ごろからの運転技術を磨いているからこそできる芸当だろう。
230キロオーバーと言うスピードでコーナーを通過したシビックは、そのまま芝公園方面へと加速していく。
4速から5速へ切り替えたところで最上は軽くバックミラーを確認する。
「(離れた…やっぱりか)」
先程の直角コーナーで思いっきり攻め込んだ最上のシビックだったが、どうやら相手は多少なりともマージンを持った走りをしてしまったようだ。
だが結果としてそれがバトルにおいては命取り。
コーナーにノーブレーキで突っ込んだことで、シビックは後方の80スープラをあっさりと数十メートルまで引き離してしまった。
相手の体力ゲージはみるみるうちに削られていく。
勝負どころで仕掛けた結果の勝負はあまりにもあっけない、と言ったところだろうか。
「(はあ…やっぱり、僕の方が速かったなぁ)」
最上はどこか相手に失望しながらもそう思った。
ここまで様々な実力者を倒してきている以上、そう簡単には負けないと思っていたが…実際のところそのようだ。
最悪コーナー1つで相手を捻りつぶしてしまうことが出来る実力。
それほどなまでに最上の度胸があるのか、それとも感覚がマヒしているのかはわからない。
だがそれでも最上のコーナーワークには確かな実力があるというのは言うまでもないだろう。
そしてそのまま芝公園出口手前のS字コーナーに飛び込もうとしたところで…シビックのカーナビには「WIN」の文字が表示されていた。
「(まずは1回勝ったけど…このまま横羽線に行こうかな)」
最上はふとそう思い、浜崎橋JCTを右方向…横羽線・台場線方面へとシビックを走らせる。
1回勝利したきりでは満足できない、そんな最上の裏の性格が見え隠れするかのように…彼女はシビックを操縦していた。
―――数分後。
実際に最上のシビックは浜崎橋JCTを右方向、そして羽田線方面へと走っていた。
横羽線を軟化させるようにシビックを走らせる最上。
速度は80キロと比較的抑えめだ。
だが、芝浦入口を通過してしばらくしたところ…貨物線の高架下を通過して数秒したところで、後方から1台のマシンが最上に挑戦状を叩きつけようとしていた。
推奨BGM:THE CANNONBALLER(from beatmaniaⅡDX25 CANNON BALLERS)
「(芝浦の入口から1台やってきた…)」
シビックの後方からやってくる1台のマシン。
かなり派手なバイナルが施された、多くの企業ステッカーが貼りつけられたレーシングマシンのような出で立ちの赤いマシン…RZ34のフェアレディZである。
RZ34は右車線を走るシビックの後方に付けたかと思いきや、そのままライトを仕掛けてきてパッシングする。
最上のシビックには相手の情報が表示されていた。
「(マネードリーム…このドライバーは?)」
最上にとってこの名前は聞いたことがなかった。
おそらくPhantom9でもなければ、十三鬼将でもない…新世代の走り屋の1人だろう。
だがそうであるというならば寧ろ都合がよい…折角ならバトルをしよう。
そう思った最上は、シビックを60キロまで減速させてハザードランプを出す。
そしてその状態を維持して天王洲アイルが近づくところで…カーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――!」
GOサインと共にアクセルを踏み込み、加速させる。
加速の度合いとしては2台はほぼ互角…いや、シビックの方がわずかに上。
それでも後方のRZ34はスリップストリームに入っているのか粘り強く食いついてくる。
速度は60キロから一気に200キロオーバーまで到達するが、均衡状態は変わらない。
「(速い…しっかりと食いついてくるか)」
天王洲方面へと疾駆する2台だが、シビックの後方にRZ34は食いついて離れない。
性能としてはほぼほぼ互角であることは間違えないだろう。
前方に天王洲手前の左直角コーナーが迫る。
アクセルを軽く抜いてハンドルを左に曲げる最上。
エンジンパワーを適度に与えつつ直角コーナーを一定速度で旋回していく。
典型的なアウトインアウトのラインを描き、コーナーを突破。
だが後方のRZ34はずっとシビックの後方に食いついてやまなかった。
ストレート区間で最上はバックミラーを見てふと後方のRZ34の走りに疑問を持つ。
「(腕はあるけど、洗練されているというかなんというか…)」
後方のRZ34はシビックにピッタリと食らいついて離れない。
スリップストリームにずっと入っており、追い抜くチャンスを伺っているようだ。
その走りは最上のような粘り強い走り…というよりは、相手にピッタリと食いついて隙が生まれたらそこを狙いに行くような走り。
だがそれは言い換えればミスがないので、あまりにも洗礼されすぎていると言っても過言ではなかった。
とはいえ後方のマシンにとっては追い抜くためのもう一歩が足りないようだが。
250キロオーバーで右高速コーナーを通過するも、後方のRZ34は食らいついたまま。
だがそこで最上はふとあることを思いつく。
「(ここにはここの走りがあるってこと、教えるつもりで行こうか)」
大胆なだけでは勝てない。
洗練された走りでは勝てない。
最上もそんなことはわかっていた。
だからこそ、多少なりとも邪道な方法を披露するのも一つだと思った。
2台はずっとくいついてまま京浜運河横の超ロングストレート区間を走り抜けていく。
後方にずっと食らいつくRZ34に対して最上がやること、それこそが直線区間での蛇行運転だった。
右車線から左車線、左車線から右車線へと瞬時に移動することを繰り返すその走りは相手を挑発するようであり、同時にプレッシャーを与えるかのような走り。
前方を見えにくくすることにより、相手の追い抜きを予防するという魂胆だ。
「(抜けるものなら…抜いてみて!)」
最上の走りは邪道と言えば邪道だ。
スピードとモラルが求められるレースの世界でやったら一発アウトかもしれない。
だがそれでもここは首都環状と言う特殊なフィールド。
270キロオーバーでのスラロームも、何かの違反であるという訳ではないのだ。
後方のRZ34はシビックの後方に迫ってくる。
直線区間でスラロームなんてしていたら、速度が落ちるのは無理もない話なのだ。
右車線から左車線へ、左車線から右車線へ…ずっとそれを繰り返している。
それを繰り返していたのだが、横羽線と並走していたモノレールが離れようとしている部分の寸前…文字通りのストレートエンドの右高速コーナー手前でシビックは突如として左車線へ。
おまけに加速も一瞬だけ鈍ったのだが…それを見切ったかのように、RZ34は内側へと飛び込んできた。
だがそれは、最上にとって計画的と言ってもいいほどだった。
「(…かかったね!)」
シビックの内側にRZ34が飛び込んだかと思いきや、シビックは加速して左車線から突如道路の中央部分へ。
中央部分に行くことで2台はサイドバイサイドの並走状態に。
しかも右車線を走り続けるRZ34とは車線の間隔程度まで離れているのではなく…隙間十センチあるかないかまで接近していた。
これこそが最上の作戦…言ってしまえば逃げ場を完璧になくすというやり方だ。
RZ34を壁とシビックの間の最低限のスペースに追い込んで左右への移動を困難にするという文字通りの挟み撃ち。
RZ34の性能がシビックよりも上ならばまだしも、加速は僅かにシビックが上。
そこで多少手加減して互角の加速となってしまえば…もうRZ34はそのスペースからは、減速するかニトロを使って強引に出し抜くことでしか脱出できない。
コースの内側にRZ34をきっちりと追い込むことで、速度を落とす以外逃げ場を無くなってしまったも同然の状態となっている。
追い抜くための大掛かりな隙間と言う釣り糸を垂らした結果、マネードリームは見事なまでに釣られてしまったのだ。
そして300キロ以上のスピードで並走するその時だった。
「―――!!!」
RZ34の前方に現れたのはまさかの大型車…一般車のVNHレヴォーグ。
ワゴン故のその巨体は右車線に居座っていた。
だがそれでも真ん中を走り続けるシビックは全くもって退く様子がない。
こうなるともうブレーキを踏んででも減速をしないとぶつかってしまう。
マネードリームはアクセルを抜いて慌ててブレーキを踏み込む。
だがその瞬間を最上が見逃すはずもなかった。
「(もらった!)」
RZ34のドライバーがブレーキを思いっきり踏み込んだその瞬間を最上は見切っていた。
ブレーキを踏んで失速するRZ34に対し、最上はわずかにハンドルを左に曲げて移動させたかと思いきやアクセルを踏み続ける。
それと同時に、バックミラーに映ったRZ34のヘッドライトはみるみるうちに小さくなっていく。
そんな中でも最上は止めと言わんばかりにアクセルをべた踏みに踏み込み続ける。
だがそれでも…勝島入口手前の左直角コーナー手前で最上はアクセルを抜き、ブレーキを軽く踏み込む。
300キロオーバーから多少減速しつつも、ハンドルを左に曲げてシビックを旋回させていく。
270キロオーバーと言うスピードの中で、最上はアクセルを多少踏みつつもコーナーを脱出させていた。
「(悪く思わないでくれよ?これが、首都環状ならではの走りさ)」
勝島手前の左直角コーナーを抜け、アクセル全開状態での立ち上がりから300キロまで加速していたシビック。
シビックを追いかけるRZ34の存在は、シビックのバックミラーから完全に消え去った。
そしてそれはすぐが森方面に走行していく中でもずっと変わらなかった。
最終的には後方のRZ34は加速差を埋めることが出来ず…勝負を投げたかのように泣く泣くリタイア。
シビックのカーナビには「WIN」の文字が表示されるのだった。
「(ふう、これで一安心)」
カーナビの文字を見て一安心した最上は、アクセルを抜いてブレーキを徐々に踏み込んで減速させていく。
鈴ヶ森出口を通過したところで、シビックは320キロオーバーからコーナーを抜けて100キロ台まで減速させていた。
とはいえ今回も最上は勝利することは出来たのだが…最上にとってはどちらかと言うと「勝ったことの爽快感」よりも、「勝てたことによる安心感」こそが最上にとって一番感じているものだった。
それはやはり、シビックを大切な人にチューンしてもらった恩義を忘れていなかったからなのかもしれない。
そんなものを最上は感じつつも、彼女のシビックは横羽線を南下していく。
―――数分後。
最上のシビックは平和島を通過し、昭和島JCT付近を走行していた。
速度は60キロで、先ほどのバトルのクーリング走行を維持している状態。
その速度であれば基本的には普通の一般車両と遜色ない程なまでにシビックは目立っていなかった。
すると、湾岸線からの合流を過ぎた直後…一台のマシンがシビックの後方に迫る。
推奨BGM:HEROES(from beatmaniaⅡDX33 Sparkle Shower(BEMANI PRO LEAGUE -SEASON 5-テーマソング))
「(後ろから1台?…湾岸線からの合流か)」
昭和島JCTを通過し、湾岸線方面から1台のマシンが合流してきた。
銀色と緑色のマシン…何十年も前の族車風、あるいは街道レーサー風と言うべき超ド派手なエアロの…チェイサーである。
一目では原型が分からないほどまでに改造されたマシン…チェイサーは自分のシビックを探していたかのように後方に付いた。
そしてそのまま後方からパッシングを複数回浴びせられた。
2台はテールトゥノーズの状態で左車線を走っている。
「(一徹、ストレート?随分とまた派手な…)」
最上としては後方のマシンの派手さにどこか呆れていた。
パンピーで路面も荒い首都環状と言う環境には不向きなのではないか?と疑ったのだ。
あんな車で環状線なんて走ったら火花が散りかねないのではなかろうか…そう思ってしまった。
ともあれここを走る走り屋であるのならばバトルすることには何ら変わりもないのだが。
後方からパッシングを受けた以上勝負は喜んで受けるまで。
羽田トンネルに入ったところでハザードランプを出し、バトルを承諾する。
そしてそのままカーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――」
GOサインと共にアクセルを踏み込む最上。
だがスタート直後、チェイサーがいきなり畳みかけてきた。
左車線を走っていた2台だが、いきなり右車線に飛び出て猛加速をしてきたのだ。
しかし次の瞬間。
「(おっと?!)」
咄嗟の判断と言うべきか、天性の勘といったところか。
ギアを一気に3速に切り替えた上でニトロを噴射。
それと同時にチェイサーの猛追を見切ったのか、最上はハンドルを右に曲げて即座にチェイサーの進路を妨害する走りに出た。
チェイサーの横幅を生かしたかのように、文字通りのブロッキング。
追い抜かそうとしていたチェイサーはブロックのあまり減速を余儀なくされる。
「(お生憎様、そう簡単には抜かさせないよ)」
スタート直後のブロックに成功したことで先行のポジションを取ったシビック。
あまりのロケットスタートぶりに動揺したが、こちらもニトロを使った強引に加速させつつブロックすることでその芽を摘み取った。
ニトロを使ったことであっという間に速度は250キロまで到達するが、後方のチェイサーは食いついて離れない。
速度が250キロに到達したところで、あとはエンジンパワーに頼った加速を指せるようにニトロを切ったが…それでも一瞬でも油断したら追い抜かされてしまうと思った以上、最上はシビックをチェイサーの動きにシンクロさせるように車線変更を繰り返してブロックし続けていた。
ここまでくれば最上自身の走りにも完全に貫禄が付いたというべきなのかもしれない。
「(この先のカーブでこの妨害を追い抜いてくるか…?)」
280キロオーバーと言うスピードで疾駆する2台が、トンネルを抜けて空港西出口まで迫ろうとしていた。
空港西出口通過直後にはご存じの通り右直角コーナーがある。
ここまでストレート区間での加速勝負だが、カーブではどうなるか?
最上としては勝負をつけるところはそこかもしれない、とふと思った。
カーブで引き離すという一種のギャンブル。
これまでの相手は基本的にコーナーが弱いことが多かったが、このドライバーはどうなのか?
そう最上が思いつつ、トンネルを抜けた2台の前に右直角コーナーが迫る。
「―――っ」
コーナー直前、アクセルをリリースしてブレーキを一瞬だけ踏み込んだ最上。
直後アクセルを僅かに踏み込みつつハンドルをキッチリと右に曲げ、左車線から右車線へと攻め込む。
文字通りのアウトインアウト走法だが、走り自体は基本に忠実。
速めにブレーキを掛けて一定の速度でコーナーを通過し、そのままスピードに乗って立ち上がっていく。
コーナー通過時に260キロオーバーでありながらシビックはコーナーの内側にピッタリと攻め込み…そのまま左車線へと膨れてコーナーを脱出する。
速度が270キロを記録したところでコーナーを立ち上がって羽田出口方面へのストレートを駆け抜けていくのだが…ここで最上は軽くバックミラーを確認する。
「(あれっ、追いついてこない?カーブでもしかしてやられた?)」
そう、先ほどの右直角コーナーでチェイサーは大幅に減速していたのである。
バックミラーのチェイサーはみるみるうちに小さくなっていくのだが…それほどなまでにコーナーで攻め込んでいなかったのである。
それでも最上は全くもって油断することはなく、アクセルを踏み続ける。
空港西出口から羽田出口方面に向けて、シビックはアクセル全開で加速し続ける。
だがそれでも最上にとってはある懸念材料があった。
「(この直線区間でまた追いついてくるかな…)」
スタートダッシュと直線での伸び。
これが相手の強みであるという事はわかっている。
だからこそ、僅かな直線でも食らいついてくるのではないだろうか?
そう思ったところで、チェイサーは再び加速してくる。
少しずつではあるが…その存在はバックミラーに光るライトと言う形で徐々に大きくなってくる。
だが大きくなってくる中で、シビックの目の前に羽田出口前の左直角コーナーも迫っていた。
「(ならば、ゴリ押しは技術で制するまで…!)」
相手がストレートでのゴリ押し勝負を挑んでくるというのならば、逆に自分はコーナーで勝負を付けに行く。
1つ2つのコーナーで差を付けられるチャンスがあると見切った以上、勝負所はもう定まった。
前方に羽田出口手前の左直角コーナーが迫る。
コーナー直前、280キロ出ているシビック。
そこからアクセルオフからの、一秒にも満たない左足でのハードブレーキング。
前輪がロックする寸前までブレーキを踏み込んだかと思いきやすぐにリリース、ハンドルを左に曲げてアクセルをほんの僅かに踏み込んで旋回させる。
右車線を走っていたシビックは再びコーナーの内側…左車線まで一気に切り込み、そのまま250キロオーバーでコーナーを駆け抜ける。
そして羽田出口横を通過し…前方には大師料金所跡までのロングストレートが現れた。
ここで最上は待っていた「あれ」を再び発揮することになる。
「(この差を維持するためにも…こうだ!)」
羽田出口横を通過したところで最上はハンドルに取り付けられているニトロスイッチを押す。
250キロでコーナーを突破したシビックはニトロの加速によって、ものの数百メートルで300キロまで到達する。
その加速は直角コーナーで大幅に減速した一徹ストレートのチェイサーとは比べ物にはならない程の速さだった。
ニトロ込みで300キロに到達した後はマシンの負荷も考えニトロを切り、そこから先はマシンのエンジンパワーをフルに活用してさらに速度を伸ばす。
「(振り切られる…1つのコーナーでドカンと差が付けられて、追いつけない…!!)」
「(そっか、ストレートだからだね。何というか、ド直球も極まるとこうなるんだねえ)」
羽田出口手前の左直角コーナーで大幅に減速してタイムロスする一徹ストレート。
シビックが250キロオーバーでコーナーを脱出したのに対し、こちらは180キロまで減速。
あまりにも速度差がありすぎた。
車線変更レベルならともかく、直角コーナーやヘアピンコーナーには全くできない超極端なチェイサーの弱みが見事なまでに露呈し…その結果としてこの状況ではとても追いつけるものではなかった。
そんなことも知らずに涼しい顔でシビックを操縦する最上は、320キロオーバーと言うスピードの中で相手の通り名をふと思い出していた。
「ストレート」という通り名である以上、やはり直線番長なのかもしれない。
あまりにもド直球な通り名だが、逆にそれが得意であるという事の証拠であり自負なのだろう。
シビックはそのまま大師料金所跡まで突っ走る。
「(はあー、やっぱり例に及ばなかったなあ。まあ、遅いわけじゃないし…僕と言う相手が悪かっただけだろうね)」
大師橋横を通過するシビック。
そんなシビックの中で、最上自身自分自身が多少なりとも早いことを自覚していたからか…一徹ストレートに対してはそう静かに思うのだった。
結局首都環状の走り屋たちは自分と比べて明らかにコーナーが苦手なドライバーが多く、それは実力者においても同様だった。
…実際のところは最上のコーナーリングスピードがあまりにも異常すぎるのではあるのだが。
だがそれでももし湾岸線や横羽線の別区間で勝負となっていたらどうなっていた頃やら…とも感じた。
力のゴリ押しは時としてそのコーナーの不利をもひっくりかえしかねない…そう最上は認識しつつも、同時に今回ばかりは技術で何とかなっただけだ、ということも彼女は自覚していた。
そしてそう感じたところで、カーナビには「WIN」の文字が表示されていた。
「(さて、これで一段落かな)」
減速しながら大師料金所跡を通過し、そのまま速度を落としていくシビック。
だがこれで今のところ横羽エリア湾岸エリアを走るライバルに青い矢印は存在しない。
言ってしまえばライバルたちの多くを蹴散らしていたのである。
それを認識した最上はシビックをゆっくりと減速させて、速度を60キロまで落としたところで横羽線を南下させていく。
―――大黒PA。
一徹ストレートをバトルの末に振り切った最上は、横羽線をそのまま南下して大黒PAにやってきていた。
バトルを終えたところで彼女は休憩しつつ今日は首都環状を降りようと考えていた。
流石に明日も仕事があるからだろうかはわからないが。
大黒PAで休憩していると、先ほどバトルした2台のマシンがPAに入って来るのが見えた。
マシンから降りてきた2人組は、すさまじい剣幕でこちらに迫って来る。
1人は、やや古風な印象を受けるが 硬派で実直そうな男、 一徹ストレート。
もう1人は、華やかな容姿に芯の通った強さを感じさせる女、マネードリームだ。
しかし今、2人の目には激しい怒りが燃えていた。
「いい気なものね、 究極の不沈艦!」
「?」
「今回は遅れを取ったが…てめェは俺が必ず潰してやる。この卑怯モンが!」
開口一番に最上に罵声を浴びせる2人…マネードリームと一徹ストレート。
だが、最上は不思議と冷静だった。
呆れつつも彼女もまた口を開く。
「はあ…初対面なのに随分な言い様だね。君たちは何を言っているんだい?」
毅然と対応できているのは、日頃から様々なお客を相手にして運んでいるタクシードライバーと言う職業柄からだろうか。
飄々としている態度に、一徹ストレートは言葉を続ける。
「あ?何しらばっくれてんだ!ネタは上がってるんだぜ。てめェが久遠のポラリスを呼び出した上で、危険走行を仕掛けたって証言してる奴がいンだよ!」
「へえ、そうなんだ?で、その話をしたのは誰?いつ、どこで話してたの?それに君、本当にその話を直接聞いたのかい?」
最上としてはその噂の出所が知りたかった。
だがその言葉を聞いた一徹ストレートはどこか動揺したかのように口を開く。
「それは…そんなの、つい最近そう話してる奴がいたんだよ!噂だ、噂!」
「ふうん、じゃあ君は根も葉もない噂を君は信じるのかい?おまけに恐喝まがいに押しかけてくるなんてどうかしてるよ?」
「うるせえ!そう言った奴がいたからそうなんだよ!」
勢いでゴリ押しする一徹ストレート。
あまりにも一方的な態度に最上ですら呆れるしかなかった。
そこに畳みかけるようにマネードリームも罵声を浴びせる。
「幸い、彼女自身は大きなケガもなく、無事だったらしいけど…許せないわ。クルマへの愛情も、乗り手へのリスペクトもないのね。このッサイテー野郎!」
「……!」
マネードリームの言葉に最上は一瞬だけかっとなったが、その怒りも一瞬で収まった。
何故だか知らないが、そんな言葉を聞いたからには不思議と冷静になったのだ。
だがその一瞬の感覚の中で、一徹ストレートが捨て台詞を吐く。
「次は今日のようにはいかねぇからな。首を洗って待っていやがれ!」
「あっ…」
2人はこちらが反論する猶予も与えず怒りに任せてまくしたてると、それぞれのマシンに乗り込みPAを出て行った。
「(…一体どういう事だろう?)」
…自分が久遠のポラリスに危険走行を仕掛けた?
謂れのない噂を立てられるのには慣れてきたが、 これは度を越している。
危険走行があったことは事実なのか?
だが悪評が付いているのは事実のようだ。
そう気が付いたからこそ、最上はある行動をとろうと決断した。
「(まあ、あそこまで言われたのなら…その気になるのも面白いかな。やってやろうか)」
非難を浴びせられるくらいなら、その道にとことん堕ちてやる。
今まではどちらかと言えば受動的だったが、ここにきてスイッチが入ったかのような感覚になった。
どんな手を使ってでも首都環状最速になってやる…最上はそう決心するのだった。
最上が秘めている反骨精神が、静かに目覚めようとしていた。
「(もし最速になるのに、力が足りないのなら…)」
ずっと乗り続けてきたシビックだが、今後もし迅帝やスネークアイズといった実力者と相まみえることになる以上マシンの性能が足りないかもしれない。
その場合はどうするか?…最上はふとそう思ったが、今はその答えが思い浮かばなかった。
だが同時に、久遠のポラリスは例のチューナーの元に幾度か訪ねているとは聞いているが…彼女は今、どうしているのだろうか。
最上は久遠のポラリスの行方も疑問に思うのだった。
(第29話End)