「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で- 作:カービィ改二
十三鬼将と伝説のあのドライバーとの対決。
―――新世代の走り屋たちを破りつつも、いわれのない罵声を浴びせられた最上。
そんな最上は、走りの中で「頂点に立てば誰も文句は言わない」と思った。
首都環状最速まで駆け上がる旅も、少しずつ佳境へと迫っていく。
一徹ストレートたちとのバトルの翌日、最上は箱崎PAからコースインしていた。
今日の仕事が下町メインだったのでこのあたりからコースインしようと考えていたらしい。
自由にタクシーを飛ばしている最上だが、その移動先と言うのは基本彼女の気分次第。
東京都内を自由に行き来する文字通りのフリーダムぶりだった。
そんな彼女も今や首都環状ですっかり名を上げている名士の一人なのだが。
推奨BGM:Digitized Ocean(from beatmaniaⅡDX33 Sparkle Shower)
「―――さて、いるみたいだね」
箱崎PAからコースインしたところで、隅田川を渡っている部分にライバルがいるのを確認した。
それを追いかけるようにアクセルを踏み込んでシビックを加速させ、やがて右車線を走っていたその車の後方に付ける。
カーナビには「沈黙のカシオペア」と表示されている。
「(沈黙のカシオペア…フェアレディZだ)」
スカールバレットの部下の1人である沈黙のカシオペア。
マシンは黒色のZ33フェアレディZである。
これまでに最上は夜明けのガーネット、紺碧のスナイパーの2人を倒している。
このドライバーを倒せばスカールバレットへの挑戦権を得られることは最上も自覚していた。
そうである以上…後方にシビックを付けた最上がパッシングをすることには全くもって躊躇がなかった。
福住方面へと60キロで走る2台のカーナビにおいて、カウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――!」
GOサインと共にアクセル全開。
だが同時に福住出口手前の左右連続直角コーナーへと2台は飛び込んでいく。
スタート直後の右直角コーナーをアクセル全開で走り抜ける2台。
だがコーナーワークにおいては多少沈黙のカシオペアが上なのか…Z33とシビックはテールトゥノーズの状態を維持し続けていた。
コーナーワークではほぼ互角か、外側…左車線にシビックを揺さぶってもすぐにZ33が前方をブロックしてくる。
どうやら向こうは自分の走りを見切っているのか鉄壁のブロックで進路を邪魔してくる。
速度が250キロまで加速しても前方のZ33はシビックをブロックし続けていた。
左車線や右車線にゆさぶりをかけても全くもって動じていない…追い抜こうとするとすぐにブロックしてくる。
「(上手い…進路を潰してきているんだ)」
福住出口付近のストレートを走り抜ける2台。
正直なところブロックばかりされては最上としてはらちが明かなかった。
正攻法では相手にすくわれる…このままでは進路を邪魔されて追い抜けない。
まるで自分を分析しつくしたかのような走りだ。
だが、そうであるのならば…
最上としてはとっさの判断でふと1つの戦略を見出す。
「(多少は邪道な方法も、戦略としてはいいのかな!)」
邪道な走りをする奴には自分の走りと言う正攻法を。
分析しつくして追い込んでくる奴には邪道な走りでその分析を叩き潰す。
そんなマインドセットが最上には備わっていた。
そう思った以上最上はアクセル全開の中で、右手でライトスイッチを一瞬だけ数回ひねってシビックのライトを点滅…パッシングさせる。
シビックのヘッドライトが夜闇の中で眩く点滅する。
「―――!?」
真夜中の首都高において突如発せられた閃光。
それがZ33のバックミラーに見事なまでに反射していた。
レース中のパッシングなんてものはとても想定できるはずもない。
モータースポーツの世界では速い車が遅い車に進路を譲るようにパッシングすることはあるが…首都環状では基本的にバトル中のパッシングはあり得ない。
だが最上にとっては、パッシングこそが一種の「目くらまし」。
まさかの反撃に動揺した沈黙のカシオペアは、動揺のあまりシビックのブロックに隙が生じてしまう。
「(…そこだ!)」
パッシングに動揺したZ33を見切り、シビックはアクセル全開のまま右車線へ。
Z33は目くらましの効果か…ブロックしてこない。
ほんの一瞬の加速の鈍りが命取り。
あっという間にサイドバイサイドに並ばれたかと思いきや…次のコーナーのインコースへとシビックは飛び込んだ。
「(っ…こんなことをする奴だったのか!?)」
「(首都環状で勝つにはルールなんていらないのさ)」
右直角コーナー手前で軽くブレーキングをしたかと思いきや右車線を維持し続けるシビック。
一方でZ33はシビックよりほんのわずかに手前でブレーキを踏み込んだが…アウトコースという事もあり、シビックに先行を許してしまう。
おまけにインコースのシビックのコーナーリングスピードはZ33よりも上。
突っ込みでも立ち上がりでもシビックの方が優位に立っていた。
そうである以上、あっという間にシビックとZ33の車間距離は引き離されていく。
「(前に出た以上、絶対に食いつかせるものか!)」
「(離される…!)」
インコースを粘り強く攻め込んだシビック、アウトコースに膨れていたZ33。
福住出口から塩浜、辰巳方面まではこの先ロングストレート。
どれだけコーナーで攻め込み、素早く脱出できたかが勝負。
そして右直角コーナーを抜けた2台のドライバーは互いにニトロスイッチを押してマシンを強引に加速させる。
「―――!」
「……」
Z33もシビックも互いにニトロを使っている。
だが、先のコーナーリング勝負で明らかにシビック優勢だったことが大きいのか…2台の車間距離は更に引き離されていく。
コーナー脱出から塩浜方面へ走る2台は互いに270キロは超えているのだが…Z33が270キロ台なのにシビックは300キロオーバーまで出ている。
インコースで攻め込んだことの効果が想定以上と言っても過言ではないだろう。
ここまでくるともう沈黙のカシオペアにとっては手も足も出ない。
ただただシビックを必死に追いかけることしかできないが、食いつける見込みはない。
カーナビの体力ゲージはどんどんと減っていき…シビックとZ33の車間距離が80m以上まで引き離された。
こうなったらもう勝負はついたも同然。
シビックが塩浜入口の合流を通過しようとしたところで、シビックのカーナビには「WIN」の文字が表示されるのだった。
「(ようし、これで1勝。意外と大したことはなかったね)」
最上としてはウォーミングアップのついでだったが、実力としてはあくまでそこそこといったところだった。
昨日戦った一徹ストレートやマネードリームほどではない、と言えばそれまでではあるのだが。
最上の実力も確実に上がっていることの証拠でもあるのかもしれない。
塩浜から辰巳に向かうシビックは300キロオーバーからアクセルオフのまま滑走してエンジンのクーリング走行に入ったまま走り抜けていく。
―――数分後。
エンジンのクーリング走行の真っただ中のシビックは、辰巳JCTを通過して湾岸線に合流しようとしていた。
塩浜から辰巳まで走行していたことで、水温も油温も90度以下まで引き下げることが出来ていた。
だが同時に最上はあるドライバーの事が気がかりだった。
「(もうそろそろ合流してくるかな)」
実は湾岸線区間からこちらに向かって走行してくる1台の存在を確認していたのだ。
まるで自分を探しているかのように、千葉県方面から走ってきている。
おそらくこの先の湾岸線に合流したところで勝負を仕掛けられるかもしれない。
そう思いつつも、最上はシビックを走らせる。
そしてそのまま湾岸線に合流…東雲方面に走らせていると、後方から1台のマシンがやってくる。
推奨BGM:Verflucht(from beatmaniaⅡDX21 SPADA)
「(来た…車種は?)」
一番左の車線を走るシビック。
標的を見つけたかのように、そのマシンが後方に迫ってきた。
夜闇に隠れつつも、バックミラーに映るそのマシンは嫌と言うほど目立っていた。
その車は金色に光る…派手なカスタムが施されたNA1型NSX。
車に見覚えは十分にあった。
後方に付けられたところでパッシングを浴びる。
カーナビには…予想通り「夢見の生霊」と書かれていた。
「(夢見の生霊…!遂に来たね)」
以前、自分に話しかけてきた十三鬼将四天王の最後の1人。
これまでにダイングスター、追撃のテイルガンナー、シャドウアイズの3人は既に破っているので…その本丸とも言うべきドライバーだろう。
とはいえここまで来たのならば勝負を受けることに関して躊躇はない。
ハザードランプを出し、臨戦態勢に。
そのまま有明出口手前を通過しようとしたところでカーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――!」
GOサインと共にアクセルを全開に踏み込み、120キロからシフトアップ。
湾岸線の超ロングストレートという、パワーがとにかく求められる区間。
その区間において最上はアクセルを全開に踏み込み、2速から3速、3速から4速へとシフトアップ。
クラッチを切りつつ加速しつつ、有明JCTへと向かっていく。
だがここで最上はある事に気がtるく。
「(あれぇ…加速が鈍い?)」
出だしでリードを取った最上のシビック。
それどころか、後方のNSXとの車間距離が徐々に離れていく。
最上としてはあまりにスポーティなマシンからして先手を取ってくると思っていたので予想外だった。
と言うのもまあ無理もない話で、夢見の生霊のNA1はノンターボ。
VTECターボのシビックとはパワー面では大違いであるのも無理もない話だった。
2台はそのまま一番左の車線を走りながら、有明JCTを左方向…台場線方面へと向かう。
だが、分岐手前であることに気が付く。
「(…ニトロで食いついてきた!?)」
「(ケケケ…そう簡単には逃がさねえよ?)」
一定の距離まで引き離していた後方のNA1だが、それが有明分岐直前で食らいついてきた。
速度としては互いに300キロは出ているが、明らかにNA1の方がスピードが上。
この時点で最上は相手がニトロを使っていることを直感していた。
「―――っ」
真ん中の車線に移ってオーバーテイクを仕掛けてきたNA1。
だがそれを見越して、最上もニトロスイッチを押す。
ブロックしなかったのは後方のNA1に突っ込まれる可能性も考慮しての事だった。
ニトロを使ったことでシビックも急加速し…分岐通過時にはNA1とサイドバイサイドの状態だった。
速度は互いに320キロは出ているが、先ほどと違ってスピード自体は互角と言ったところだろう。
「(ほう、やるな…俺様のニトロを見切って食らいついてきた)」
「(やば、油断して内側に入り込まれた…)」
台場線に分岐した後に存在するのは、レインボーブリッジ方面への右直角コーナー。
台場線に入ると車線は2車線になるのだが、ここでNA1は右車線。一方のシビックは左車線にいる。
言ってしまえば夢見の生霊が有利な状況だ。
この先のコーナー勝負であるという事は2人とも互いに理解していた。
「(このままじゃコース内側から…ええい、次のコーナーはなるがままだ!踏ん張るぞ…!)」
「(ケケケ、逃がすかよ…!)」
最上自身次のコーナーではインコースを取られている以上不利であることはわかっている。
だからこそ外側から攻め込まないと負ける。
得意なコーナーへの突っ込み勝負で賭けに出るしかない。
思い切りの良さは自分自身がよくわかっているが、ここでやらないと勝てない。
そう思いつつも、上り坂を上る2台の前に右直角コーナーが迫る。
互いに330キロ出ている以上、求められるのはどこまでスピードを出し続けるかの度胸勝負とブレーキング勝負。
上り坂を上り切ったところでコーナーである以上、ブレーキを踏み込まないと互いに曲がらない。
さて、どちらがブレーキを先に踏むか?
「―――!」
「…っ!?」
最初にブレーキを踏んだのは…意外なことに、インコースのNA1。
いや、アウトインアウトのラインを描くならともかくインベタのラインを描くなら無理もない話かもしれない。
アクセルオフからフルブレーキングを決め込み、ハンドルを右に曲げる夢見の生霊。
だが、それを見切ったのか…次の瞬間、最上もフルブレーキを踏み込む。
NA1がほんの僅かながら後輪を滑らせながらゼロカウンターでコーナー内側のゼブラゾーン上を突っ切る。
そしてそれの前に飛び込むかのように…シビックもアウトインアウトのラインを描くべくゼブラゾーンへと突っ込んできた。
「(…いけぇ!)」
「(げえ…っ!突っ込みやがったァ!?)」
オーバースピードで突っ込みつつもアウトインアウトのラインを描いたシビックはNA1を出し抜き、ゼブラゾーン上で強引にオーバーテイク。
多少タイヤを滑らせるNA1に対し、シビックは僅かにタイヤを滑らせつつもほぼグリップ走行。
FFならではの特権であるタックインを見事に炸裂させ、インコースへと鋭い突っ込みをすることが出来ていたのだ。
「(やっちゃえ!)」
ゼブラゾーン上からコーナー出口に向けてアウトへと膨れていく2台。
だが、コーナーリングスピードは明らかにシビックの方が上。
コーナーで突っ込んだシビックは後方のNA1を振り切らんとする勢いで加速していく。
そしてそのまま、湾岸線東行きからの合流付近を通過したシビックは…コーナーリング手前で切っていたニトロを再度噴射させ、NA1との車間距離を開かんとする。
240キロオーバーでコーナーを駆け抜けたシビックは、ニトロを噴射させてあっという間に300キロオーバーに。
こうなると純粋なパワー勝負でも分がある以上、シビックがアッという敵に有利と言ってもいいだろう。
そして当のNA1は…コーナー脱出したのはいいものの、コーナーリングスピードで引けを取っていたために車間距離をみるみる引き離されていく。
「(驚いたぜ…まさかあそこまでの度胸持ちとはなァ…!)」
夢見の生霊は最上の度胸の強さを認めるかのようにそう思った。
だが前方のシビック以上にコーナーリングスピードで失速した以上、ニトロを使っても追いつけないことは…彼自身もよくわかっていた。
それでもNA1側も諦めずにニトロを使って食らいつくが…車間距離はみるみるうちに広がっていく。
勝負はほぼ付いたも同然…レインボーブリッジに向けての区間で、夢見の生霊は実力を認めるようにアクセルを抜くのだった。
そしてそのまま、NA1のカーナビには「LOSE」の文字が表示されていた。
「(はあー、間一髪。まあカーブじゃやっぱり僕の方が有利なんだね)」
一方、台場入口横を通過したシビックで最上はカーナビの「WIN」の文字を確認していた。
その文字を確認した上で、アクセルをリリースしてシビックを自然減速させていく。
コーナーへの突っ込み勝負、そしてニトロをフルに活かしたバトルだったが…何とか勝つことが出来た。
沈黙のカシオペアの時とは大違いの一戦で会ったことは間違えない…伊達に十三鬼将四天王の一角と言う、言わば実力者であることは間違えないのだろう。
それでも、勝つことが出来た以上最上としては爽快感よりも安堵の気持ちが大きかった。
シビックはそのままレインボーブリッジを通過していくが、そんな中でも最上はレインボーブリッジの装飾がまるでシビックの凱旋を祝福しているかのようにも感じられた。
「(少し疲れたし、このままレインボーブリッジを渡ったらパーキングに入ろうか…)」
レインボーブリッジを抜けた先にある芝浦PA。
最上はそこで一息つくことを決めるのだった。
―――芝浦PA。
「夢見の生霊」とのバトルを終えてPAに入ったシビック。
休憩がてらニトロ補充をしていると、見覚えのあるマシンが先客としてPAに入っていたのを見つけた。
首都環状の夜景に映える、鮮やかな黄色のRX-8…ドライバーは誰を隠そう12時過ぎのシンデレラである。
すると、彼女が最上を見かけて…その様子を見て話しかけにやってきた。
「こんばんは、いい夜ね」
「やあ、どうも」
「しばらく会わない間に随分と腕を上げたみたいじゃない。元・十三鬼将の連中もすっかり形無しね」
12時過ぎのシンデレラは最上の成長ぶりに感心していた。
そのことに関しては最上も悪い気はしないようだ。
「いやーあはは。今の車と僕の相性がピッタリなこともあるからかな」
「まあ、アンタは私を倒したんだから…そうでなくちゃ納得がいかないわ」
「そうかなあ?」
最上が疑問に思う中で、12時過ぎのシンデレラは言葉を続ける。
「…前に話したこと、覚えてる?」
「前に話したこと…"煌き"だっけ?」
「ええ、そう。アンタには"煌き"がある―――光のように眩く熱い気持ち。私は、それが迅帝に挑むための"資格"だと思ってる」
「迅帝に挑む、資格?それって?」
「『もっと走りたい!』っていうワクワクした気持ちを呼び起こしてくれる人のこと。心のエンジンに火を入れてくれるような…そんな人。今の迅帝には、そういう"ライバル"が必要だと思う…」
「…そうなんだ」
最上としては12時過ぎのシンデレラが迅帝について何か知っているのかを知りたくなった。
すると彼女に話しかけようとしたその時…金色に輝く機体が、 PA中の衆目を集めながら颯爽と現れる。
その中から降りてきたのは、愛機にも引けを取らない…サングラスをかけた派手な出で立ちの、赤い服の男だった。
車から降りてきた男は、12時過ぎのシンデレラと最上の方へやってきた。
「あら?宮川クンじゃない。久しぶりね、何か御用かしら?」
12時過ぎのシンデレラがそう言った。
宮川、と言われた男はどこかあざ笑うかのように口にする。
「君を笑いに来た…そう言えば、君の気が済むのだろう?」
ギザな言葉で12時過ぎのシンデレラを誘惑するが、彼女はどこか呆れ果てていた。
「…相変わらず人生楽しそうね、見てると元気出るわ。赤いのに乗るのはやめちゃったの?」
「何色の機体に乗ろうが、 私は紅の悪魔だ。それ以上でもそれ以下でもない。私は、そこの青年に話があって来たのだ」
紅の悪魔、と名乗った男。
だが確かにマシンはド派手なエアロの…金色の、VAB型WRXだ。
すると紅の悪魔は最上に目線を向ける。
「…僕?それで紅の、悪魔さんだっけ?僕に用?」
「究極の不沈艦よ。迅帝に挑まんとする君が、この紅の悪魔に勝てない度とは言うまいな。―――見せてもらおうか。首都環状を騒がす新鋭の走りとやらを」
紅の悪魔はやはり最上に興味があるようだ。
回りくどい口調だが、最上には何となく何を求めているのかは分かった。
「…要するに、バトルってこと?」
「ま、そういうこと。アンタなら心配いらないと思うけど…頑張って!」
「…ありがとう。バトル、受けて立つよ」
「よろしい…コースはC1外回り。早速始めよう」
紅の悪魔の言葉に最上は頷き、再びシビックに乗り込んでいく。
―――首都環状を長年走り続けているベテランドライバーとのバトルが始まろうとしていた。
―――数分後。
芝浦PAを出た2台はそのまま浜崎橋JCTを左方向に進み、都心環状線外回りへと入っていた。
バトルとなるコースに合流したところで、後方のシビックが前方のマシン…魔改造されたWRXにパッシングを仕掛ける。
推奨BGM:Plan 8(from beatmaniaⅡDX20 tricoro)
「(何だかずいぶん派手な車だなぁ…まあ、バトルすることには変わりないけどさ)」
最上としてもやはり相手の車に関しては気になっていた。
金色のボディカラー・リアに紺色のバーニア風パーツ・ボンネットダクトに緑のカメラアイ・赤いアクセント…どこかのロボットアニメに出てくるような外観をしたWRXであるが、勝負するべき相手であることには変わりない。
モノレールの高架下を通過したところで、カーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――!」
GOサインと共に加速する2台。
最上自身アクセル全開でWRXを追いかけているが、それでも加速はほぼ互角。
かと思いきや、スタート直後の加速で手加減をしたのか…シビックは右車線からWRXを追い抜いた。
「(…前に行かせた?)」
逃げようとしたが、WRXは後方にピッタリとくっついてくる。
2速から3速、3速から4速へとシフトアップする中でも前方のWRXはシビックの後方に付いていた。
スタート直後のストレート区間でリードを取ったシビックだが、WRXも全く離れていない。
どうやらスタート直後は相手にわざと先行させて、後々追い詰めるやり方のようだ。
「(先に行かせたかと思いきや…ピッタリと食いついてくるくらいには速い)」
「(戦いとはいつも二手三手先を考えて行うものだ…それを証明する)」
嘗ては首都環状の裏四天王、更には十二覇聖という首都環状屈指の実力者とたたえられた紅の悪魔。
そのキャリアは長く、実力も圧倒的。
そんなWRXにシビックは何とか食いつけているレベルだった。
芝公園出口手前の左から右への複合コーナー地帯に飛び込む2台は、ほぼ同じポイントでブレーキを踏み込んで減速し、そのまま左へ旋回。
2つ目のコーナーもコーナーの外側から飛び込んで内側へと突っ走るアウトインアウトのラインを描き、走り抜けていく。
2台はテールトゥノーズの状態を維持しながら、芝公園出口横を通過する。
「(流石に実力はあるみたいだ…でも、隙がないわけじゃない)」
テールトゥノーズの状態で、プレッシャーを与えられ続けていた最上。
左右に揺さぶってもWRXはシビックの後方にピッタリと食らいついてくる。
多少なりとも押されている状態ではあるが、それでも動揺はしていなかった。
相手がどんなに実力者であっても、完全無欠であるという訳ではない。
必ず走りには隙が生じるはず…最上はそう思っていた。
2台はなおもテールトゥノーズの状態で右から左への複合コーナーを250キロオーバーで駆け抜けていく。
「(実力者の自負があるのは間違えないと思う。でも、その驕りが逆に…足元をすくってしまうことは、僕も知ってるから…!)」
紅の悪魔のWRXが後方にピッタリと付けている中でも、自分の走りをする最上。
ハンドルを左にキッチリと曲げ、タイヤがグリップする限界と言うべき速度でシビックを旋回させる。
シビックがコーナーの内側まで攻め込む一方、WRXはわずかながら壁から離れた…多少なりともマージンを持った走り。
それはやはり、あまりにもゴツすぎる外装のエアロとそのワイドボディが原因だろうか。
内側に攻め込んだ場合そのワイドボディが接触してしまう可能性はいくらでもあるのだ。
狭い環状線ではそのワイドボディが逆に足かせになっているようにも思えた。
そしてそのわずかな差が、徐々に大きくなっていくことは…紅の悪魔自身も自覚していた。
「(なんと…ほとんど隙がない。奴も必死という訳か…!)」
「(少しずつ、離せている…!)」
複合コーナー地帯で僅かながら車間距離が開けていることを感じた最上。
こうなればもうあとはコーナー脱出後の立ち上がり勝負である…そう彼女は感じた。
一ノ橋JCTの分岐を抜けた直後に現れる右直角コーナーにどれだけ攻められるか、そしてそこからどれだけ素早くトップスピードに持って行けるか。
最上自身勝負所はそこだととらえていた。
芝公園入口の合流を過ぎ、すぐに一ノ橋JCTの分岐が迫る。
280キロ近いスピードでコーナーに突っ込む2台。
果たしてアクセルを先に抜くのはどっちか。
「(突っ込むぞ…いっけえ!)」
「(っ…!?)」
アクセルを先に抜き、ブレーキを踏み込んだのは…紅の悪魔だった。
WRXがアクセルを抜いてブレーキを踏んでからワンテンポ置いたところで…シビックもブレーキをフラッシュさせる。
かと思いきや、そのまま左車線からブラインドである右車線に目いっぱい突っ込んでいく。
直角コーナーで240キロは出ているのではないか?
一方のWRXは230キロ台程度。
コーナーへの突っ込み勝負でシビックが上を行ったのだ。
アウトインアウトのラインを描き、そのまま飯倉トンネルへと疾駆するシビック。
だが同じラインを走ろうとするWRXは、スピード差からみるみるうちに引き離されていく。
「(離される…!)」
飯倉トンネルにシビックが飛び込んだ時点で、車間距離は30mは引き離されていた。
マフラーから青い炎が出ているのでニトロを使っていることは間違えない。
紅の悪魔自身コーナー脱出と同時にニトロスイッチを入れる。
だが、やはりコーナーリングスピードと立ち上がりの速さで差を付けられていたのか…その車間距離は変わらないか、少しずつ開いていくかのどちらかだった。
飯倉トンネルから谷町JCTへ走る2台だが、車間距離は既に50mは離れている。
谷町JCTから霞ヶ関までの区間で更に開いていくが、この時点で既にシビックの速度は320キロオーバー。
一方のWRXも300キロは出ていたのだが…もう追いつけないことは言うまでもないだろう。
シビックのテールランプが闇夜の中へと消え、トンネルの先へと走り去っていくところで…WRXのカーナビには「LOSE」の文字が表示されていたのだった。
「これが若さか…だが認めたくないものだな。自分自身の、走り続けてきたが故の過信というものを」
紅の悪魔は最上の実力を認めるように、そう静かに呟くのだった。
彼自身、走り続けてきたことのプライドが逆に足かせになってしまっていることは改めて痛感するのだった。
後ろから追い詰めるはずだったが、逆にコーナーで差を付けられて結果的に振り切られてしまった。
どこか自分に驕りがあったのは間違えない…そう彼は思わずにはいられなかった。
そう思いつつも紅の悪魔はアクセルを抜き、ブレーキを掛けてマシンを減速させていく。
首都環状の猛者と新参の不沈艦…紅の悪魔と最上のバトルにおいて、勝利の女神は最上に微笑んだ。
―――箱崎PA。
バトルを終えた2人が、車を止めて会話している。
対峙している中で紅の悪魔は満足げにこう口を開く。
「ふっ、感謝する。いいバトルだった」
「ああ、いや…どうも」
やはり先のバトルは彼を満足させるのに十分だったのだろう。
すると彼は続けざまに質問してくる。
「…君に一つ質問がある。君は、"最強の存在"となった自分をイメージできるか?」
「え?いや…そう言われても」
紅の悪魔の質問に最上が多少困惑しつつも、彼は言葉を続ける。
「その栄光の陰にあるのは孤独だ。癒えることのない渇き―――」
「孤独と、渇き?それって?」
彼の言う「渇き」とは何なのか?
それを質問しようとしたところで再び彼は言葉を続ける。
「4年前、ある男が当時の首都環状の全ての走り屋を倒し、頂点に立った」
「4年前…?」
紅の悪魔の独白、それこそが4年前の首都環状最速の話。
彼はさらに口を動かす。
「新たな伝説を作り上げたその男は、闘う相手を…"ライバル"を失った。それゆえ、更なるSTAGEを求め、師と共に首都環状を去ったのだ」
「そんなことが、首都環状で?」
彼曰く、4年前に首都環状で頂点になった男は…頂点になった後、闘う相手を失って首都環状を去ってしまったという。
そのことに関して紅の悪魔はサングラス上からでも怒りを露にしているのが、最上でもわかった。
「―――認められるものか。どうして、勝ち逃げなど許せようか?闘う相手が必要だというなら、何度でも立ちはだかってやろう。我々は…かつての迅帝を知る走り屋たちは、ヤツの心に再び火を点けようとしているのだ。それぞれのやり方でな…」
「そうだったんだ。つまり4年前に…最速のドライバーは、やる気を失ってしまったんだね」
「その通り。そして迅帝に挑まんとする新世代の挑戦者よ…その資格となる闘志の火種は、君の魂の中にも煌いているようだ」
「僕に、迅帝に挑む権利が…」
「私や十三鬼将の連中たちを倒した以上、奴から興味を持ってくるだろう。その時まで…腕を磨いておけ」
紅の悪魔の忠告に最上は静かに頷いた。
だが同時に最上にとっては、紅の悪魔が…「迅帝に挑む資格がある」と言葉を濁しつつもそう言っているように感じた。
それでも、今すぐには挑めない。
なぜなら…
「(…いや、まだだ。まだやり残したことがある。それを乗り越えた時…ひょっとしたら)」
最上は、まだ戦うべき相手がいることを忘れてはいなかったのだから。
新世代の走り屋たち、十三鬼将、そしてPhantom9。
大立ち回りを披露する最上の戦いも、いよいよ佳境へと迫っていく。
(第30話End)