「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で- 作:カービィ改二
第四章もクライマックス…スカールバレットやNAMAHAGEとの戦い。
そして最上を待つ新たな展開とは…
―――十三鬼将の四天王、そして「紅の悪魔」を撃墜した最上。
紅の悪魔曰く、迅帝と戦える日は近いという。
だがそれでも…最上にとっては、「やり残したこと」があった。
その「やり残したこと」を成し遂げるため…最上は今日も首都環状にコースインする。
紅の悪魔とのバトルの翌日、この日は大井南から湾岸線東行きにコースインしていた。
すぐ近くにライバルがいることを察知した以上、ここからコースインして相手を待つことにする。
シビックは大井南JCTを湾岸線方面に少しだけ進んだ先の路肩で…ハザードランプを出して止まっていた。
大井南の後方…東海JCT方面から接近してくるのを待つ。
「(もうじき来るはずだ…)」
ハザードランプを出して止まっているシビックの中で、最上はバックミラーを見ながら後方のマシンが来るのを確認していた。
1台、また1台と通過していくが…同時に探していたマシンが迫ってくる。
しばらくして…1台のランエボ10が通過していった。
推奨BGM:Eira(from REFLEC BEAT 悠久のリフレシア)
「(きた…)」
ランエボ10の通過を確認した最上は、サイドブレーキを外したうえでギアを1速に入れてアクセルを踏み込む。
最高速仕様のシビックの加速は鈍いが、ゆっくりと加速していく。
すぐに80キロに到達して、先行するランエボ10に接近する。
真ん中の車線を走っているランエボ10の後ろにつけ、ライバル情報を確認する。
そのライバルの通り名は…探していたドライバーそのものだった。
「(やっぱり…スカールバレット!)」
ランエボ10のドライバーの正体を、最上は知っていた。
首都環状の実力者の1人、「スカールバレット」。
スネークアイズと因縁のあるドライバーである。
彼の部下3人をすでに撃墜している以上、最上には彼に対する挑戦権があり…同時に彼とバトルすることこそが、「やり残したこと」だった。
彼とバトルすれば…Phantom9のスネークアイズ以外のもう1人も会えるのかもしれない。
最上はそうも思っていた。
そうである以上、シビックのヘッドライトをパッシングさせる。
前方のランエボ10がパッシングに応じるようにハザードランプを点滅させ…すぐに、カーナビのカウントダウンが始まる。
3
2
1
GO!
「―――」
GOサインと共にアクセルを踏み込む。
スタート直後の直線区間での加速は互角…かと思いきや、僅かながら向こうの方が上。
一気に200キロオーバーまで加速するが、車間距離は数メートルずつではあるが開かれ続けていく。
速度はそこから250キロオーバーまで加速する。
「(冷静に…相手を見るんだ)」
ランエボ10の後方で、振り切るギリギリの位置を維持し続けるシビック。
先程の加速差はとっくの党に収まり、ほんの僅かずつではあるがシビックはランエボ10に接近を始めていた。
虎視眈々と相手を見つめるような、そんな走りでランエボ10の後方にシビックをピッタリと付けている。
最上は後方からスカールバレットに向けてプレッシャーを与え続けている状態である。
「(この先のカーブで差を詰められたら詰めるけど、そうじゃなかったら強引にニトロを使ってでも…)」
東京港トンネル手前の右高速コーナー。
延々と続く直線区間の終わりとも言うべき高速コーナーは、やり方次第では全開走行で突破も可能だ。
だがスピードがあまりにも乗っていることや一般車両の関係もあって、アクセルを抜いてしまう人間も少なくはない。
最上としてはそこを突くべきだと考えていた。
そして実力者であるはずのスカールバレットのランエボ10の場合はどう動くのか?
コーナー中間部には一番左の車線を一般車両が通過しており、それ以外はクリアだ。
シビックを早めに一番右の車線に移し、ライン取りを優先させる中で…ランエボはどう攻め込んでくるか?
300キロ近いスピードの中で、真ん中の車線のランエボがインコース…右車線に攻め込んでくる。
だが、最上はその中で生まれた隙を見逃さなかった。
「(あっ…ここだ!)」
アウトインアウトのラインを描こうとしているランエボ10だが、そのコーナーリングスピードは自分のそれよりもわずかながら遅い。
おそらくアクセルを一瞬だけ抜いたのだろう。
そこに捻じ込むことは出来るはずだ…そう認識した以上、アクセルをずっと踏み続けてシビックのノーズをランエボと壁の間のスレスレの位置に視界を捉えた。
「―――!」
「…っ!?」
真ん中の車線から右車線に攻め込んでくるランエボ10。
だが、コーナー突入直前の速度差を生かして最上はシビックをランエボが本来走るべきラインの上…いや、正確にはそのさらに壁沿いを走らせていた。
アウトインアウトのラインを描くはずのランエボのラインはシビックによって潰され…シビックはランエボと壁の間という隙間を走り続ける。
一番右の車線を壁すれすれまでシビックを接近させる、文字通りのインベタ走行。
ランエボ10がほんの僅かながら余裕を持ったコーナーリングだったのだが…シビックはその隙を見逃すはずもなかった。
ランエボと壁の間のわずかな隙間に対して強引にシビックのノーズを突っ込ませ、そのまま内側からシビックはランエボ10を追い抜いていく。
車体を突っ込んだことで、シビックとランエボとの隙間は10センチあるかないか、そしてそれは右端の壁とも同様。
そんな超極限ギリギリの位置を、最上は涼しい顔でシビックを走らせていた。
「(…ふくれる!?)」
「……」
あまりにも想定外すぎる飛び込みに、流石のスカールバレットも動揺した。
アウトインアウトのラインを描くはずが、そのラインが潰されたことでほんの僅かずつではあるがコーナーの外側に膨れていく。
正確に言えば、一番右の車線から真ん中の車線へと膨れていくのだ。
それは言ってしまえば、ベストラインから膨れるような走り。
シビックは一番右の車線を維持し続けるが、ランエボは真ん中の車線で踏みとどまった。
だがそんな外側に膨れる走りであった以上…わずかながらシビックとのコーナーリングスピードに差が生じてしまい、コーナーの先の東京港トンネルに入り…そこから走り続ける中で、さらに車間距離が開いてしまう。
「(くッ、こうなったらやるしかない…!)」
「(さあ、逃げるぞ…!)」
東京港トンネルに入り、シビックのマフラーから青い炎が出ている。
どうやら勝負にケリをつけるつもりらしい。
それを見たスカールバレットもニトロスイッチでニトロを発動するが…それでも車間距離は少しずつではあるが確実に引き離されていく。
東京港トンネルの長い直線区間において、シビックは前方の一般車たちを華麗に捌いていく。
一方のランエボも負けじと食いつこうとするが…如何せんここは直線区間である湾岸線。
コーナーがない以上…相手のミスを待つだけの勝負になってしまうのは言うまでもないだろう。
「(まだ離される…!コーナーリングスピードでこうも差が…!)」
先程の高速コーナーはほんのわずかながらシビックの方がコーナーリングスピードは上だった。
そしてその差こそが…東京港トンネルの直線区間で車間距離を少しずつではあるが開かせる大きな要因となっていた。
青い炎を噴き出し続ける2台だが、その車間距離はみるみるうちに開く。
340キロオーバーと言うスピードでトンネル出口を通過し、そのまま有明JCTへ方面。
シビックがテレビ局横を通過したところで、後方のランエボとの車間距離は既に40m以上は引き離されている。
「(あの高速コーナーで、まさかこうも…!)」
スカールバレットとしてはたかだか1つのコーナーでこうも勝負がひっくり返るとは思ってもいなかった。
まさかあのギリギリの空間にマシンを捻じ込んでくるとは思ってもいなかったのだ。
よくて自分のノーズに食いついてくるかくらいだと思っていたが、実際はそうではなくノーズを僅かな隙間に突っ込ませて強引にオーバーテイクするという走りに出た。
これくらい際どい走りをするというのであれば、首都環状の走り屋たちが相手にならなかったのも…自分の部下たちが負けたというのも想像に難くはない。
そうである以上、どんな走りをしても…あのドライバーの実力を認めざるをえなかった。
「(Amazing…私は敵ではなかったようですネ…)」
有明JCTをシビックが通過したところで、スカールバレットは潔く降参する気持ちを持っていた。
あそこまでの実力であるというのならば、部下たちを破ってきたのは間違えない。
もう自分にも敵うドライバーなんかではない…あのドライバーはとんでもない曲芸師だ。
そう思ったところでカーナビに「LOSE」の文字が表示され…ランエボ10をゆっくりと減速させていく。
「(…意外と、呆気ないなあ)」
一方の最上。
こちらもカーナビに「WIN」の文字が表示されたことを確認し、アクセルを抜いてエンジンブレーキのみで減速させていく。
正直なところ最上としてはこうもあっさりと追い抜けるとは思えなかった。
もっと張り合ってくると思ったのだが…実際のところは向こうがコーナーリング中に日和ってしまったのだろう。
だがまあ、自分も自分でよくあそこまで際どい走りをするものだ。
そうでもしないと追い抜けないと思ったのだからやっただけ…と言えばそれまでではあるが。
最上は自分の腕に対して多少驚きつつも、シビックをそのまま惰性走行のまま辰巳PAに向けて走らせるのだった。
―――辰巳PA。
先に入ってきたシビックにつられ、ランエボ10が入ってきた。
最上とスカールバレットが対峙するが、スカールバレットとしてはやはり最上の実力に興味があるようだ。
スカールバレットは最上の実力を称賛するように口を開く。
「Excellent!これほどの実力をお持ちとは。3人から実力は聞いていましたが…やはりあなたのような傑物を捨て置くのは惜しい」
「…どうも」
スカールバレットのどこか親しげな態度に最上としては不信感しかなかった。
やはり彼は自分の事を狙っているのではないか?
そう思っていると、スカールバレットが言葉を続ける。
「それほどの実力があれば、私の築く“楽園”で、名誉もカネも、全てが思うままになるでしょう。もう一度、考えてみることを勧めますが―――」
その時だった。
辰巳PAに突然車が入って来たかと思いきや…その車の中から別の男…壮年の走り屋が2人の元へ現れ、スカールバレットの言葉を遮った。
もう若くはないが、走り屋らしい壮健さを備えた…風格のある男だ。
「そこまでだ…スカールバレット。究極の不沈艦は、お前さんの騙る“楽園”とやらには興味がなさそうだぜ」
「……」
「それに…お前さんに賛同する奴は、この首都環状にはいないだろうよ。ここは“最速"を求める魂たちが作り上げる舞台……よそ者が金儲けするための場所じゃない。敗者らしく、おとなしく引き下がるんだな…」
突然現れた壮年の走り屋に対し、最上はどこか困惑するしかなかった。
このドライバーは一体何者なのか?
そう思っていると、スカールバレットがどこか呆れ気味に口を開く。
「おやおや、これはおかしな話だ。あなた方<Phantom9>も、この首都環状においてはよそ者。侵略者でしょう。…ああ、貴方だけは違うのでしたネ。未明の時代を駆け抜けた、生ける伝説"パープルメテオ"……」
スカールバレットが言った「パープルメテオ」。
それが壮年の走り屋の正体らしい。
だが、パープルメテオと呼ばれた男はそれに対して嫌そうにこう口にする。
「悪いが、今の俺は<Phantom9>のNAMAHAGEだ。スネークアイズの命に従い、究極の不沈艦を討ち取りに来た」
「え…僕を?」
「まんまとお前の手駒に加えさせるわけにはいかない。邪魔をするなら……俺が相手になろう」
最上の呟きを気にせずにNAMAHAGEと言う男は言葉を続けた。
さすがのスカールバレットもこの状況はあまりよくないと思ったのか、溜息をついてこう口を開く。
「…敗者は黙って立ち去るとしましょう。今日のところはね」
そう言ってスカールバレットはその場を立ち去り、ランエボ10に乗って辰巳PAを後にした。
それを見届けたところで、最上の方に振り向いたNAMAHAGEが話しかける。
「―――さて。究極の不沈艦」
「は、はい」
壮年の走り屋…NAMAHAGEの眼差しはやはり最上に対して興味があるのと同時に、表情は真剣そのものだった。
「長ったらしい前口上を述べるつもりはない。勝負といこうや」
「…わかった」
「この先箱崎までの一発だ。始めよう」
NAMAHAGEの言葉に対し、最上は静かに頷いた。
互いのマシンに乗り込み、辰巳PAを出発する。
―――首都環状の伝説、「パープルメテオ」…またの名を「NAMAHAGE」との決戦が始まる。
―――vsNAMAHAGE
推奨BGM:Saiph(from GITADORA HIGH-VOLTAGE)
辰巳PAを抜け出した2台が並走状態のまま走行している。
スタート直前のスタンバイ状態で、互いに速度を60キロに維持して走行していた。
相手の車はフロントを赤色、リアを黄色に纏った80スープラ。
その姿は最上でも確かなものを感じていた。
「(相手のことは分からないけど、きっと長い戦いになるだろうなあ)」
かなりカスタムされているであろうそのスープラの威圧感は最上にとってもそれなりのもの。
おそらく箱崎までには決着はつくだろうが…それでもそれなりの長期戦になることは間違えないだろう。
だがPhantom9の残党である以上、負けるわけにはいかない…そうシビックを操縦させながら最上は思っていた。
辰巳PAを出発して左ヘアピンコーナーを並走しながら通過、湾岸線西行きとの合流地点を通過したところでカーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!」
GOサインと共にアクセルを全開に踏み込む最上。
並走状態の2台は前方のストレートに向けて互いに加速していく。
2速から3速、3速から4速へシフトアップ…速度250キロオーバーになっても並走状態であることには変わらない。
前方は比較的一般車両も少ない状況だが、最上としてはこの状況を長引かせるわけにはいかないと思っていた。
「(直線では互角…ニトロを使って強引に追い抜いても食いついてくるだろうし、ここは後ろについて粘るか)」
並走状態でも最上は状況をしっかりと分析していた。
何かの拍子で目の前に一般車両が現れたのならば失速しかねないし、相手とラインが交錯する可能性だって十分にあり得る。
ならばどうするか?となると…早めに進路を譲って、相手の後方にくっつくべきなのかもしれない。
そうすれば空気抵抗も抑えられて効率的に速度を上げられる。
そう思った最上は、一瞬だけアクセルを抜いて80スープラをシビックの前方に出す。
そしてそのまま左車線を走っている80スープラの真後ろにシビックを移動させ…テールトゥノーズの状態を維持させようとしていた。
「(後ろに付いたな…俺の走りを分析するつもりか…?)」
80スープラの後ろにシビックはピッタリとくっついて離れない。
320キロオーバーと言うスピードの中でピッタリとテールトゥノーズを維持し続けている。
だがそれでも追い抜く気配は見受けられない。
一体どういうつもりなのか?
何にせよ何か狙いがあるのは間違えないだろう。
「(俺の走りについて来れるというのなら、ついて来い…)」
相手に何かしらの狙いがあることはわかっていても、NAMAHAGE自身冷静だった。
百戦錬磨である彼にとってはどんな走りにも対策が出来ている。
そして性能で互角であるというのならば…相手の根負けを待つというやり方だった。
速度は300キロオーバーの中、2台はテールトゥノーズの状態で枝川出口横を通過する。
「(上手い…直線区間だからってこともあるけど、やっぱり隙は見当たらない)」
ストレート区間でNAMAHAGEの80スープラは全く隙を生じさせず走り続けている。
ピッタリと後方に付けるという事は相手のミスにも巻き込まれかねないという事でもあるのだが…伊達に首都環状の実力者であろう彼の後方に付いていても、全くもって不安を感じなかった。
寧ろ安定して走っていけるような、そんな感覚だった。
だがこの状況ではストレート区間で追い抜くことは難しいだろう。
そうなると…追い抜くポイントは言うまでもない。
「(やっぱり、カーブでどこまで行けるかだよね!)」
新環状左回りは直線区間が大半だが、それでも複合コーナーや直角コーナー、ヘアピンコーナーなどパッシングポイントは複数存在する。
コーナーで勝負に出ることだっていくらでも可能なのだ。
左右に振れる80スープラにシビックは猛追し続け、全くもって離れない。
最上は冷静に相手の走りについていくようにアクセルを調整していた。
そして、勝負どころも既に見切っているのだった。
「(それにしても…後方から感じるこのプレッシャーは大したものだ。俺の弟子を彷彿とさせるような…)」
枝川出口から大型ショッピングセンター横を通過してもシビックはずっと80スープラの後方にピッタリとくっつき続けている。
まるでどこまでも食らいついてくるスッポンのようだ。
だがここで、NAMAHAGEは最上が最初進路を譲ったことに関してあることに気が付く。
「(まさか…あのドライバーは、俺のマシンの後ろにつけて空気抵抗を軽減させることで、コンディションを維持していた…!?)」
「(仕掛けるとしたら、この先のS字カーブ…僕の強みを分かっているからこそ…攻め込むんだ)」
ものの数十秒で終わることの多い首都環状でのレースだが、今回に至ってはそれ以上の長さ。
そうなると求められるのは、マシンコンディションのマネジメント…つまりどれだけ速さを維持できるかという事だ。
後方のシビックがもし、コンディション低下を考えてこの80スープラの後方に付けたというのならば…なかなかの策略かという事だろう。
現状は80スープラがリードをしているが…それでもどこか追い詰められているような感覚。
それがNAMAHAGEにはあった。
ショッピングセンター横を抜け、しばらくすると右高速コーナーから左直角中速コーナーへの複合コーナー地帯が迫る。
そんな中でも2台はずっとテールトゥノーズの状態を維持し続けていた。
だが、最初の右コーナーに飛び込もうとした次の瞬間だった。
「―――」
「(っ…まさか!?)」
複合コーナーの2つ目…左直角コーナーへ備えるべく右車線に移った80スープラだが、シビックは左車線を走り続ける。
80スープラがブレーキランプを点灯させたかと思いきや、そのすぐ横をシビックが300キロオーバーで走り抜けていく。
まるでここを狙っていたかのように…追い抜くことを決めていたように。
そしてシビックは80スープラを追い抜いた瞬間、ブレーキランプを点灯させてワンテンポ遅く左直角コーナーに飛び込んでいく。
「―――!」
320キロオーバーからのレーシング仕様のブレーキを生かしたフルブレーキング、前輪に負担がかかる中で最上はしっかりとブレーキを踏み続ける。
何かの拍子でアンダーステアが出かねないが…それでもブレーキリリースからハンドルをきっちりと左に曲げ、シビックを旋回させようとする。
ハンドルを目いっぱい左に曲げ、左側の壁に沿うようにあるゼブラゾーン上を突っ切るシビック。
80スープラを追い抜きつつも際どいラインを描きながらシビックはコーナーの内側目いっぱいに攻め込んで旋回していく。
そのコーナーリングスピードは、80スープラが到底追いつけないレベルの速さだった。
コーナーリングスピードにおいてシビックは80スープラを凌駕し、バックミラーの80スープラをみるみるうちに引き離していく。
「(速い…いや、速すぎる…!)」
「(たしかにあの車は速いけど、まあ相手が悪かったね。これで決める!)」
80スープラが200キロ台で旋回する中で、シビックは230キロ台と言う猛烈な速度…これだけでもはっきりとわかる異常値とも言うべきスピードで旋回していく。
ゼブラゾーンから徐々に膨らみ、左車線、果てに右車線までアウトインアウトのラインを走ったシビックは…そのスピードを生かして加速していく。
勿論、コーナー脱出と共にマフラーから青い炎を出してニトロを全開に吹かしている。
勝負どころであるという事は最上自身が一番わかっていたのだろう。
一方の80スープラもコーナーを脱出する寸前にニトロをふかしたのだが…この時点で既に車間距離は30m以上は引き離されている。
同じようにニトロをふかしたのはいいが…如何せんコーナー脱出速度が違いすぎることもあって防戦一方が精いっぱいの状態だった。
車間距離はみるみるうちに離れ、木場入口から福住出口までに、80スープラから見たシビックは遥か彼方の点とも言うべき状態だった。
「(見事だ…コーナー1つでこれだけの腕なら、俺でも文句のつけようがない…)」
NAMAHAGEは最上の実力を認めるようにそう思った。
アクセルを踏み続けてももう追いつけないことはわかっているが、最後の抵抗。
だが…それもむなしく、すぐにカーナビに「LOSE」の文字が表示されるのだった。
―――首都環状最速の男、NAMAHAGE。そして新進気鋭の不沈艦、最上。
2人のバトルは長期戦となりつつも決着自体はあまりにもあっけなく、最上に軍配が上がった。
―――箱崎PA。
ゴールに到着した2台から降りたドライバー同士が対峙する。
NAMAHAGEは最上の実力を認めるようにこう口を開く。
「フ…やるな。俺の負けだ。実力は噂通りと言ったところか」
「いや、速かったです。あなたも…」
実際最上にとって、NAMAHAGEは速かった。
貫禄も実力も十分に感じられた。
それを感じたことは、最上にとっても大きかった。
すると、彼が言葉を続ける。
「いよいよスネークアイズが直接、お前さんを狙ってくることだろう。奴は新世代の寵児であるお前さんを倒すことで実力を証明し、“最強の挑戦者”として迅帝に挑むつもりだ」
「僕を、倒すことで…」
「ああ。それだけが、今のスネークアイズの走る理由―――先代に才能を見いだされ、走りの世界で生きる方法を教わった小僧が、<Phantom9>という武器を与えられた時の条件…すなわち、奴の行動原理そのもの。スネークアイズは迅帝を倒すことでしか、己の価値を証明できないのさ」
「今のスネークアイズに、そんなことが?」
NAMAHAGE曰く、今のスネークアイズは先代に才能を見出され、<Phantom9>に条件付きで入ったらしい。
それこそが…首都環状最速のドライバー、「迅帝」を倒すこと。
それが彼の今の存在意義だという。
そのことに関して、NAMAHAGEはどこか憐れみを感じつつこう口を開く。
「哀れなヤツさ…いつの時代も、若者ってェのは悩み多く、繊細で、不器用なモンだな。アイツも…俺の弟子もそうだった。悩みながら、迷いながら、『スピードだけがたった一つの真実』と信じてただひたすらに走り続けてきた」
「そうだったんだ…」
「因縁の先に何があるのか…舞台袖から、見届けさせてもらうとするか」
NAMAHAGEは最上に何かを期待するように、そう口にした。
「…わかった。その時は、バトルを…見届けてよ」
NAMAHAGEの真剣なその眼差しに、最上自身そう答えた。
最上の言葉に対し、NAMAHAGEも静かに頷いた。
―――NAMAHAGEとのバトルした同日の夕方。
この日、タクシードライバーの仕事はオフだった。
最上はNAMAHAGEを倒したことを報告しに、例のチューナーの元を訪れていた。
ここ数日間最上はチューナーの元を訪れてはいなかったが、流石に現状報告をするべきだろうと思ったからだ。
チューナーの貸し倉庫にシビックを入れ、車を前にして彼と対話する。
対話において、チューナーと最上はそれぞれ缶コーヒーを飲んでいた。
「もう噂は聞いている。遂にお前さんも来るところまで来たって感じだな」
「うん…スネークアイズが、僕に挑戦してくるかもしれない…って」
「まあ、そうだな…<Phantom9>も残るは奴一人。そして残った十三鬼将も迅帝だけ。まあ、スネークアイズを破れば迅帝も引きずり出せるに違いねえ」
「道は開かれた、って感じだね」
「ああ…そうだな」
最上自身、最速への道は開かれたと思っていた。
そのことに感心したようにチューナーがぽつりとこう口にする。
「コイツの実力に関して言えば…その速さはやはり、ひかるが惹かれたのもわかるな…」
不思議と、チューナーの口から意味深な言葉が出た。
「ひかる」という固有名詞だ。
その言葉を最上は聞き逃さなかった。
「ひかる?おやっさん…ひかる、って?今、何か呟いていなかった?」
「おっと…つい名前が出ちまった。久遠のポラリスの名前だよ」
久遠ひかる。
それこそが久遠のポラリスの本名。
名字はこの時はわからなかったが、最上にとっては意外な名前だった。
「へえ…あの子、名前はひかるちゃんって言うんだ。可愛いね。でも、おやっさんはどこでその名前を知ったの?」
「単純だよ。アイツも俺の元に車をチューンしに来てるから、その時に聞いたんだ」
「ふーん…そっか。で、僕はこれからどうするべきなんだろうね?シビックはもう殆ど手の施しようがないほどまでチューニングしたんでしょ?」
「ああ…後俺が出来ることは、一時的なチューンを施すくらいだ」
「そっか…それを施せばさ、僕はスネークアイズとかに勝てるかな?ひかるちゃんともバトルすることになるだろうし、そっちも…」
「いや、ちょっと待った。それについては…俺の話を聞いてほしい」
「話?いいけど」
最上はシビックに一時的なチューンをすれば勝てるのではないか、と思っていた。
だがそれは甘い考えだ…と言わんばかりにチューナーが言葉を続ける。
「ここから先は格段に相手が速くなる世界だ。首都環状屈指のチームがいる領域…十三鬼将や<Phantom9>といった実力者でも、下手をしたら舌を巻くレベルの奴らが待っている」
「そんなに、速いの?」
「ああ。いくら俺がチューンしたそのシビックでも勝てなくなるかもしれねえな」
「そうなのかい?」
残っているチーム…「SPEED MASTER」「ASIAN AGES」「ROYAL DREAMS」。
この3チームは首都環状屈指の超強豪チーム。
これまでの十三鬼将やPhantom9といった実力者たちでさえ時に敗れてしまうほどのかなりの実力者たち。
そんな強豪チームの前には、最上のシビックも敵う可能性が低くなることをチューナーは語った。
「ああ…今のお前さんの車じゃ、俺が一時的なチューンを組んでも…迅帝やスネークアイズに勝てる可能性は良くて2割だ」
「じゃあやっぱり…僕は速い車に乗り換える必要があるのかな?それこそ、GT-Rとか?」
「そうだな…エンジンの載せ替えという手もあるが、マシン買い替えの方が手っ取り早いな。NC1のNSXやR35GT-Rといったところだ。どっちにせよ同じくらいお金はかかる」
チューナー曰く、ここから先はやはりR35GT-Rのような段違いのマシンに乗り換える必要があるようだ。
だがそのことに関して最上は困惑するしかなかった。
何故なら…
「でも…そういう車って、疎い僕でも値段が知れてるよ。速いけど、中古でも高いんでしょ?タマ数も少ないだろうし、僕でもそう簡単には買えないさ。僕の給料だって限界はあるわけだし…かといって、首都環状を毎晩走りながら朝から晩までタクシー運転なんて…いくら僕が運転好きだからって、体がもたないよ。お客さんからの評判も、下げるわけにはいかないしさぁ」
そう、最上は走り屋としてかなり名を上げたのはいいが…普段の仕事は一介のタクシードライバー。
タクシードライバーは確かにやり方次第でお金は稼げる。
時間帯ごとに稼げる場所も知ってるし、いつ仕事に行けばお金を稼げるかもわかっている。
だがそれでも数日でホイホイと高級車を買える程稼げる…というわけではない。
GT-Rなんて普通に買えば1000万は手堅い。
実際FL5シビックを買った時には、それまで貯めるに貯めていた貯金と…スイフトスポーツ、RX-8を売却した時の資金があったからこそ買えたのだ。
おまけにR35GT-Rは生産数も実際限られており、専門店ならともかく普通の中古車販売店ではなかなか手に入らない。
最新モデルもあるにはあるが、最上の稼ぎでは到底足りないレベルだし受注生産なので入手困難。
ここにきてR35GT-Rを買え、となるとそれはなかなかに難しい問題だった。
だがそれをわかっていたのか、チューナーは言葉を続ける。
「だからこそ、俺はお前に提案したい」
「提案?」
「そうだ…よく聞け」
そう言ってチューナーは最上と目を合わせてこう口にする。
その顔は、最上が見ても真剣そのものだった。
「お前…俺と契約しないか?」
チューナーが放った言葉、それこそが「最上とチューナーの間の契約」だった。
だがそれは一体どういうことなのか?
最上は一瞬だけポカンとした。
「契約?」
「お前が自分で選んだマシンは、今後俺以外誰にもチューンさせないと。そんな契約だ」
「おやっさんと僕で、専属契約を結ぶってこと…?別にいいけど」
「…意外と、呆気ないな」
最上にとって、チューナーの「契約」という言葉はあまり重いものだとは思っていなかった。
だがその反応はチューナーにとっては予想外だったようだ。
すると最上が本心を語りだす。
「だってさあ、おやっさんは僕の車をトコトン速くしてくれたじゃないか。そんな人にここまで世話になったからにはもう、引くに引けないでしょ。それに、本当におやっさん以外に車を速くしてくれる人を知らないんだ」
「ククク…そうか。言っちゃえばお前さんは俺を頼るしかないんだな」
「うん。それに僕の車を速くもしてくれたから…おやっさんが言ったことは信じるし、信用するよ」
最上はやはり、「車を速くできる人」を例のチューナー以外知らなかった。
それはやはり、普段はタクシードライバーであるという職業柄…車を一種の「金儲けの道具」くらいにしか思っていなかったことに対して、ふとしたことがきっかけでバトルの世界に飛び込んだ自分の意識を変えさせてくれた…そんな恩人のような人を裏切ることは寝覚めが悪いと感じたからと言うのもあるし、本当に彼以外に車のチューナーのコネを持っていなかったからというのもあるのだろう。
そして何より、最上の車たちを速くしてくれた実績もある。
そのことを聞いた以上、チューナーはニヤリとして言葉を続ける。
「…いいだろう。ここまで付き合ってくれたお前ならば…俺の隠し玉を、俺が仕上げた最強のマシンを乗りこなせるかもしれねぇ」
「隠し玉?その車なら、迅帝とかに勝てるかな」
「絶対の保証はない…だが、お前さんなら可能性はある。シビックの時よりも格段に可能性は上がるさ。乗ってみるか?」
「…乗るよ。ここまで来たなら、乗るしかないよ」
今後スネークアイズや迅帝、そして久遠のポラリスと戦う事になるかもしれない以上、シビックで敵わないというのならば…乗り換えることも厭わない。
最上はそんな心意気だった。
そしてその心意気を読み取ったのか…チューナーもこう口にする。
「いい覚悟だ…明日、電車か自分のタクシーでここに来い。その車を…用意しているからな」
伝説も、外道も、新鋭も、知ったことか。
誰が一番速い?それ以外に何の意味があるって言うんだ。
夜の環状線を彷徨う無数の魂たちが、狂おしいほどに渇望する栄光と…孤高の境地。
―――"最速"。
その称号を手にした者は、時代の先導者となる。
たとえ、それを望まずとも…
(第31話End)