「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で-   作:カービィ改二

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第3話です。
バトルを重ねる最上の前に、あるドライバーが現れます。


act.3「Rebirth of the Legend(伝説の復活)」

新たな魂の鼓動…感応し、呼応する古き魂。

挑戦者を歓迎する先人と、意思を受け継いでいく挑戦者たち。

新旧の魂がふれあい、ぶつかりあい…やがて混じりあい、リズムとなる。

 

そして紡がれていく、新たな“伝説”―――――。

 

 

 

 

最上はスイフトスポーツで首都環状デビューをした翌日。

彼女はまた首都環状にやってきていた。

今日は都心環状線芝公園からのコースインだ。

 

「(東京タワーも外国人増えたよなあ…たしか、アニメの聖地なんだっけ?)」

芝公園からコースインした青いZC33Sスイフトスポーツ。

ドライバーはやはり最上だ。

都心部を中心に仕事をしていた彼女は、東京タワーやスカイツリーの外国人観光客が増えていることを感づいていた。

アニメの聖地になったという話は聞くが、その関係だろうか。

タクシーで夕方から夜までしこたま稼いで、そのまま車を乗り換えて深夜の首都高へ。

それが最上のルーティンになろうとしていた。

カーナビ上にはいくらか青い矢印が表示されているが、距離はある。

ウォームアップがてら軽く流しながらコースを移動しようと最上は思っていた。

芝公園からコースインしたスイフトスポーツは浜崎橋を左に進み、そのまま3車線区間に入った。

 

「(さてっと、今日もまたバトルを…って、あれ?)」

すると、合流して3車線区間に入った時の事だった。

後方から1台車が追い付いてくる。

白のリトラクタブルマシンだ。

かなり派手な塗装とエアロを施した、どこか貫禄のあるようなマシンだ。

 

推奨BGM:1st Samurai(from beatmaniaⅡDX10thstyle)

「(…後ろに1台?)」

コースイン前にカーナビでドライバーが近くにいることは確認していたから不思議ではないが、まるで自分を狙っていたかのようにマシンが後方に迫っている。

そして後方についたマシン…AE86トレノのヘッドライトが眩しく光る。

 

「(あっ、パッシングされた?)」

パッシング…いわゆるバトル申し込み。

今まで散々自分がしてきたことだから、やり返されても何ら不思議でもない。

相手の名は…「ローリング野郎1号」。

どうやら今まで戦ってきたチームのリーダーらしい。

カーナビに情報が出ている。

 

「(…いいよ。相手になるさ)」

最上としては、カーナビの情報から「パッシングを受けた」と認識していた。

自分がバトルを仕掛けまくったこともある以上、自分が逆にバトルお受ける立場になることは全くもって不思議ではなかったのだ。

そうである以上、売られた喧嘩は買おうと思っていた。

バトル申し込みをされたことで、スイフトスポーツとAE86トレノは互いに自動走行モードとなっていた。

カーナビに表示された2つのゲージ…そこからカーナビ上にカウントダウンが表示されようとしていた。

2台は新交通システムの高架下を通過し、汐留S字の中間地点に差し掛かろうとしていた。

 

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

GOサインと共にアクセルを全開に踏み込み、目の前の右コーナーへと飛び込んでいく。

アクセル全開で踏み込みつつもハンドルを右に曲げ、右コーナーを加速しながら突破する。

後方のハチロクトレノも食らいついては来ているものの、やはり新車と旧車の違いか…徐々に車間距離が離れていく。

コーナーを勢いのまま立ち上がったスイフトスポーツを追いかけ、ハチロクトレノも肉薄するが…それでも車間距離は徐々に引き離される。

だがここで、最上はあることに気が付いた。

 

「(段々と慣れてきたぞ。GOサインの時にアクセルを踏み込めば加速が鋭くなる!)」

スタートシグナルの「GO」という表示と共に最上はアクセルを全開に踏み込んでいた。

すると、普段よりも加速がさらに増しているように感じる。

速度は80キロから130キロまでくん、と上がり、そこからスピードを維持することが出来ている。

これはやはり首都高でのバトル上のテクニックなのだろう。

 

「(前にいる以上、このまま逃げ切っちゃえ)」

汐留JCTを通過して左車線を走るスイフトスポーツ。

一方で後方にハチロクトレノも追いかけている。

先手を取った以上、最上としてはこのまま勝負を付けたいと思っていた。

いくらハチロクトレノが多くの走り屋から愛されたマシンとはいえ、比較的新車のスイフトスポーツには劣る面も少なくない。

走り屋入門のマシンと言うのは時代に合わせて変化はしているものの、スイフトスポーツはその中でも比較的速くておまけに性能も悪くないマシンだ。

そんなマシンを最上は昨日のバトル漬け…それこそ10戦以上したことであっという間に手中に収め、ブレーキングやハンドルのコツも掴みつつあるのだった。

どこでブレーキを踏み込み、どこでアクセルを踏み込むか。

そんなポイントを最上は掴みつつあった。

スイフトスポーツの前に汐留トンネルの右直角コーナーが迫る。

速度は160キロ出している。

 

「……」

コーナーが迫る中で右車線を走っていたトラックをパスしてアクセルオフ、ブレーキを踏み込んで速度を調整。

ブレーキリリースと共にハンドルを右に曲げ、アクセルを踏み込む。

速度が120キロまで落ち、左車線から右車線へ。

僅かにオーバーステアとなるもののアウトインアウトのラインを描き、コーナー出口でそのまま左車線へ。

120キロからそのまま加速していくスイフトスポーツは、汐留トンネル出口へと緩い左コーナーを抜けて加速していく。

だがそんな中で最上はあることを思いつつあった。

 

「(うーん…やっぱりこの車じゃタクシーの時みたいな力強さを感じないな~)」

最上はスイフトスポーツに対して愛着を僅かに持っていたものの、それでも日ごろの足であるクラウンスポーツに比べると明らかに力不足を感じていた。

まあそれは無理もない話である。

何せスイフトスポーツとクラウンアスリートは素で2倍以上の馬力差がある。

言ってしまえばスイフトスポーツのパワーが劣っているのは無理もない話なのであり、彼女としては「初心者向けマシンなんかよりももっと速い車に乗るべきだったのではないか?」と思うようになっていた。

だが一方で、こんなことも考えるようになっていた。

 

「(でも、コーナーを走っている時にアクセルを抜くと一気に曲がってくれるのはいいね)」

最上としては、FF挙動のスイフトスポーツの旋回性の特徴を好むようになっていた。

基本的にアクセルを踏み込みながらコーナーリングするとマシンは徐々に膨れていく。

だがそんな中でアクセルを抜くことで、急旋回することのできる走り方がある。

タックインと呼ばれる急旋回テクニックだ。

これをうまく使いこなせれば、ヘアピンコーナーなどでもマシンの特性を生かした走りができるかもしれない。

おまけにやり方次第で曲がるマシンであるならば、環状線区間であれば悪くはないのかもしれない。

そう最上は思うようになっていた。

 

「(FFのような面白い曲がり方をするマシンで、パワーがあればなぁ…)」

銀座付近のS字コーナーまで走り抜けていくスイフトスポーツの中で、最上はそう思った。

スイフトスポーツと似た走りができるうえで、パワーがあるマシンだとしたらどうすればいいんだろう?

彼女はそう疑問に思うようになっていた。

そしてそんなよそ事を考えているうちに、銀座~新富町付近のロングストレートを走り抜けているスイフトスポーツのカーナビには「WIN」という文字が表示されているのだった。

 

「驚いたぜ…なんて奴だ」

一方、こちらはバトル相手であるローリング野郎1号のマシン。

スイフトスポーツから振り切られたハチロクトレノは銀座出口付近を立ち上がり、バトルが終わっていたとはいえ…スイフトスポーツを追いかける。

昨日から噂のドライバーが首都環状にいたからバトルを仕掛けたが、まさかこうも相手にされないとは思いもよらなかった。

このドライバーはすごいかもしれない…そうドライバーである男は直感するのだった。

もし、あのドライバーと自分の兄貴がバトルしたらどうなるか?

彼にとってはそんな興味を持つのだった。

 

「(ふうー…ウォーミングアップで1戦バトルしたけど、何とか勝てた)」

一方、こちらは橋脚を2つ抜けて江戸橋JCT方面へと走るスイフトスポーツ。

ドライバーである最上は多少なりとも疲労を感じていた。

最上にとってはコースインした直後のバトル。

雑魚相手に何戦かしておきたかったが、ここへきてそれなりに速いドライバーと出会うことになったようだ。

 

「仕事の疲れが抜け切れてないのかな…ちょっと休憩しよう」

目の前に見える江戸橋JCT。

最上は深川線方面へ向かえば箱崎PAへ行けることを知っていた。

疲れていると認識した最上は、スイスポを環状線から箱崎方面へと走らせるのだった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

―――箱崎PA。

 

「(段々と僕もバトルに慣れてきたって感じかな…って、あれ?)」

バトルを終えて箱崎PAで一息ついていると、最上の元へ2台のハチロクトレノが連れ立ってPAに入って来た。

片方は…先程バトルしたマシン。

もう1台も昨日バトルをしたはずだ。

2人の男が各々のマシンから降りて、こちらに話しかけてくる。

最初に口を開いたのは…先程バトルをしたマシンから降りてきた男だ。

 

「よぉ、さっきバトルした走り屋だな。俺たちは<ROLLING GUY>。俺はそのリーダーのローリング野郎1号だ。見ての通り、ハチロク乗りのチームをやってる。首都環状でも長くやってるからな。そこそこ名が売れているんだぜ」

「は、はあ…どうも」

最上は挨拶をされて、ただ「どうも」と言った。

彼女としてはあまり男から話しかけられることは慣れていないようだ。

いや、普段から会話は少なくないが…仕事とは割り切っているというべきか。

すると、男は言葉を続ける。

 

「……いや、名前だけじゃねぇ。今では実力もついてきているはずだ。新しい走り屋たちの踏み台になるのは、もうごめんだ……と思っていたんだがなぁ」

ローリング野郎1号の言葉に、別のマシンから降りた若者…ローリング野郎5号がこう口を開く。

 

「ちぇっ、こんなルーキーに負けちまうなんてよー。リーダー、せっかく完璧なマシンに仕上げてたのに、最近またイチから色々いじってるんでしょ?余計なコトせず、そのままにしときゃ良かったんじゃないの?」

「何言ってやがる、お前もまだまだ“ルーキー”じゃねえか!…ったく、一丁前に威勢だけは良くなりやがって」

5号の言葉に対し、1号は呆れ気味にそう言った。

すると、再び1号は最上に目線を向ける。

そして走り屋としての心得を伝えるかのようにこう口にする。

 

「いいか、首都環状を走り続けたいなら、“余計なコトせずそのまま”なんて甘い考えは捨てとけ。たとえ一時、頂点を極めたと思ったところで、それに満足してあぐらをかいているようじゃあ、次の瞬間には落ちぶれちまう。“栄枯盛衰”ってヤツさ」

「はあ…」

1号の言いたいこと、それはやはり…「満足せずに上を目指し続けろ」ということだった。

だが、5号はそれに茶々を入れるようにこう口にする。

 

「いやいや、<ROLLING GUY>が頂点を極めたことなんてないでしょ。“いつも枯れっぱなし”だよ」

「うるせぇ!『たとえ』だって言ってんだろ!…悪い、話が逸れた。それで、あんたと話がしたくて声をかけたんだよ」

「僕に?」

1号は5号に多少反論するも、すぐに最上に興味を示す。

そしてこう口にした。

 

「あんた、いい腕してるぜ。俺たちは不甲斐ないところを見せちまったが…俺の最も尊敬するハチロク乗りが、あんたとバトルしたがってる」

1号が語った言葉、それこそ「最上とバトルをしたいドライバーがいる」ということだった。

それは一体どういうことなのか?

 

「僕と?」

「ああ。そのハチロク乗りも気になっているみたいだしな」

「その人って、一体?」

「ローリングマスター…先代のローリング野郎1号を務めていた男さ。折角ならここで、バトルをしてもらいたいと思っている。どうだ、バトルを受けてもらえないか?」

ローリングマスター…先代のローリング野郎1号であり、今の1号の直接の血のつながりがある兄である。

最上としては差し出された挑戦状を断る道理もなかった以上…こう口にする。

 

「先代のリーダー、ってことだね…いいよ。なんなら今からでもいいよ」

「本当か?助かるぜ…ちょっと今電話してみる」

最上の言葉を聞いた1号は、そのままスマホを取り出してマスターの元へと電話をかけ始めた。

 

「もしもし、兄貴?例の走り屋が見つかった…ああ、俺は負けた。兄貴とのバトルを伝えたら、今すぐでもいいって…来れるか?今、俺達は箱崎PAにいる。待ってるから…ああ、よろしく」

そう言って1号は電話を切った。

どうやらすぐに来るようだ。

 

「兄貴と連絡が取れた。すぐに来るそうだから、ちょっと待っていてくれ」

「う、うん…わかった」

すると、最上はあることが気になったかのように1号に話しかける。

 

「……ところでさ、あなたは僕の事をさっき、『定時の作業員』って言っていたよね?」

「ああ。それがどうした?」

「それって、一体何なんだい?」

最上としては「定時の作業員」と呼ばれたことが疑問だった。

これは一体何なのか?

自分の名前とは関係ないのか?

そう思った最上は1号に質問した。

 

「何なんだ、って…あんた、もしかして通り名の事知らないのか?」

「う、うん…」

「リーダー、この人はデビューしたてだよ…無理もないと思うけど」

最上の言葉に対し、5号も納得したかのようにそう口にする。

すると、1号は「こりゃルール説明が必要か」と言わんばかりにこう口にした。

 

「それもそうか…じゃあ待っている間に説明しておくか。いいか?首都高を走る走り屋には1人1人固有の通り名が与えられる。俺達だったらローリング野郎1号だったりローリング野郎5号だったり」

「そうなのかい?」

「ああ。お前さんの通り名は定時の作業員…まあ後でカーナビを見ればわかるだろ。そしてそのカーナビは他の走り屋たちにも共有される」

首都高を走るドライバーたち1人1人には固有の「通り名」が与えられている。

最上の場合、昨日の走りからして「定時の作業員」という通り名になっていたようだ。

そしてその情報は、他のドライバーにも共有されるらしい。

 

「じゃあ、僕は今…首都環状で勝手に『定時の作業員』って呼ばれているのかい?」

「ああ。あんたは今、初期設定になっていると思う。だから称号はランダム設定にしているはずだ…あんたの自身の走りによってその称号って言うのは変化するもんだ。もしよければあとでカーナビの設定画面を見てみるといい。設定画面で固有のものにも変更できるみたいだしな」

「う、うん…後で見ておくよ」

首都高での通り名はカーナビで自動設定されるが、これを更新しないようにする設定も可能だ。

すると、そう言ったところでPA入口からエンジンサウンドが響いてきた。

 

「リーダー、来たみたいだ」

「ん、おお…兄貴が来たか」

かなりチューニングされた4A-Gのエンジン音を響かせて入ってきたのは、黒と赤のツートンカラーのAE86レビン。

見た目はかなり手が施されている、それなりに貫録のあるマシンだ。

 

「あの車が…」

「ああ。俺の兄貴…先代のローリング野郎1号こと、ローリングマスターだ」

1号がそう言うと、そのマシンは自分たちに気が付いたのか…ローリング野郎1号のマシンの横に駐車する形で止まった。

車からレーシングスーツを纏ったレーサーの男が降りてこちらにやってきた。

彼と最上、そして1号と5号が対峙する。

 

「よう、弟。電話で聞いたが噂のドライバーに負けたんだって?」

「ああ…それで、この人がそうだ」

1号が最上を紹介する。

ローリングマスターは軽く見つめるも、何かを感じ取ったかのように口を動かす。

 

「ほう…確か、定時の作業員なんて言われていたな」

「う、うん」

「俺はローリングマスター。弟から聞いてはいると思うが、俺とバトルをしてほしい」

ローリングマスターからの要望…それは言うまでもなく、バトルをしてほしいというものだった。

最上もその話は1号から聞いていたがゆえに、それは全くもって問題ない話である。

 

「勿論いいよ…で、コースは?」

「箱崎から都心環状線内回りへと合流したところがスタート。俺が後方からパッシングするからバトルを受けてくれ」

「いいよ。普通にどちらかの心が折れるまで、でいいんだね」

「ああ、それでいい。それじゃあ早速始めようか」

ローリングマスターの言葉にこくりと頷いた最上。

その様子を見たドライバーたちは各々のマシンに乗り込んで早速移動を開始するのだった。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM:KAMAITACHI(from beatmaniaⅡDX14 GOLD)

 

―――数分後、江戸橋JCT。

箱崎方面から都心環状線へと合流する4台。

先頭がスイフトスポーツ。

続いてローリングマスターのハチロクレビン、3台目に見学のローリング野郎1号…ハチロクトレノ、最後尾に同じく見学のローリング野郎5号のハチロクレビン。

4台が連なって、一定の速度を保ちながら左車線を走行している。

 

「(さて、やるか…)」

先頭の2台が都心環状線へと合流したところで、ローリングマスターがスイフトスポーツに向けてパッシングする。

 

「(きたか…)」

一方の最上もカーナビの反応からバトル申し込みがされていることを認識していた。

バトルの時は迫っているのだろう。

前もって決めていた以上、断ることはない。

マシンが自動操縦となって速度が60キロを維持し、バトルの当事者2台が縦列状態で走行していく。

2台が呉服橋入口付近を走行しているところでカーナビでカウントダウンが始まろうとしていた。

 

3

 

2

 

1

 

GO!

 

「―――!」

「……!」

スタートと共にアクセルを踏み込む2人。

マスターも最上も互いにアクセルを全開に踏み込み、マシンを加速させていく。

スタート直後の加速勝負では…2台はほぼ互角である。

だが、ハチロクレビンはスイフトスポーツを追い抜かんとばかりに左車線から右車線へと移動する。

 

「(おっと…!)」

だが、その移動に気が付いた最上も負けじと右車線へと移動してハチロクレビンをブロック。

マシンの軽さを生かした俊敏さで対抗する。

 

「(やるな。だが、ここからどうする!?)」

マスター自身こうなることは予想はしていた。

だがブロックし続けていてはスリップストリームに入ってこちらが有利になれる。

根負けするか、スピードを生かしてそのままぶち抜くか。

自分としてはスピードを生かしてぶち抜きたいと思っていた。

呉服橋出口直後の右高速コーナーへと飛び込む2台は、やはりテールトゥノーズの状態を維持して走行し続ける。

右高速コーナーから神田橋出口までの直線区間、2台のドライバーは互いにアクセルを踏み続けてマシンを加速させていく。

互いの速度はまず150キロは出ている…が、そんな中でマスター側があることに気が付いていた。

 

「(徐々に離されてる…?やっぱりスペックじゃ向こうが上ってことか!?)」

そう、いくらカリカリにチューニングしたハチロクトレノとはいえ、相手は比較的新しいスイフトスポーツ。

軽量スポーティでハチロクと同等の馬力があるとはいえ、やはりそこは年季の差というべきものか…FFならではのトラクションの良さを生かしているのか、少しずつ隙間が広がっているように見えた。

 

「(この直線区間で少しずつ離せているけど、明確に差をつけるためには…)」

一方の最上は、後方に食らいつくハチロクトレノを早めに振り切りたいと思っていた。

ストレートではあまり差がつかない以上、どうすればいいか…となると、答えは単純だ。

神田橋出口の先、竹橋JCTまでには複数のコーナーが存在する。

そこへ強引に突っ込んでマシンの差を広げるしかあるまい。

そう彼女は認識した。

ストレートで振り切れないのならば、コーナーで攻め込むしかない…そう思うのだった。

神田橋出口横で一般車両のセダンを追い抜いたところで、多少の上り坂の右高速コーナーが迫る。

 

「(コーナーを攻めるなら、内側を維持し続けるしかない…!)」

最上の戦法は右車線を維持し続けるインベタ走法だった。

コーナー直前でブレーキを踏み込んで減速し、そこからコーナーの右端まで攻め込むというやり方である。

だが、一方で後方のハチロクレビンは…

 

「(コーナー幅を生かして攻め込んでやる!)」

セダンを追い抜いたところで左車線へ。

コーナー直前とはいえ左車線に移ったのは、やはり左車線からインに攻め込んでコーナー中央で右車線へと移動、そのままコーナー出口で左車線へと膨れるというアウトインアウトの走り方をやりたかったからだろう。

インベタ対アウトインアウト。

どちらが速いのか?…雌雄を決しようとしていた。

2台のマシンは互いに160キロは出ている。

 

「…!」

「―――!」

2台のマシンのドライバーが互いにアクセルオフからブレーキを踏み込む。

速度は160キロから130キロ台まで下がった。

ハチロクレビンは左車線から右車線へと攻め込んでいく。

だが、その時だった。

 

「(…速い!?)」

わずかながらスイフトスポーツのコーナーリングスピードが速い。

ほんのわずかではあるが、やはり速い。

インベタを走るスイフトスポーツは、そのまま右車線を維持していたが…コーナーを抜けて僅かに旋回してたところで、右車線から徐々に左車線側へと移動していく。

 

「(このまま真っ直ぐ突き抜けちゃおうか)」

神田橋出口直後にある右高速コーナーの先には、左高速コーナー、再び右高速コーナーという複合高速コーナー地帯。

だが、やろうと思えば一直線で突破可能だ。

相手との差をつけるならここしかない。

下手にコーナーリングするよりかは、一本の直線で強行突破すればいい…そう最上は確信した。

乗ったままのスピードを維持させるように、最上はアクセルを踏み続けていく。

2つのコーナー区間においても、ハンドルは必要最低限しか曲げずに悪背うrを踏み続けてることをやめないでいた。

速度は再び160キロ近くまで加速する。

この時点で、後方のハチロクレビンは徐々に小さくなりかけていた。

 

「(っ…コーナーで速度に乗せられちゃ、こっちが不利だ…!)」

一方のマスター。

コーナーで思うようにスピードが伸びなかったのか、クラッチを切ってシフトアップしたのはいいが前方のスイフトスポーツとの差は徐々に開いていく。

向こうが異様に攻め込んでいたのか、それともここの走りを理解して、車を理解して攻め込んだのかはわからない。

だが確実なのは、向こうがコーナーワークで速いという事だ。

パンピーな複合コーナー地帯を一直線に駆け抜けていくスイフトスポーツに、完全に後れを取っていた。

 

「(速い…だめだ、このままじゃ…!)」

何とかして追いつきたいと思って自分もアクセルを踏み込む。

だが、複合コーナー地帯をコーナーの中央を突破していくのは、プロレーサーである自分としては流石にリスキーだった。

下手に事故ればすぐに仕事に支障が出ると認識した以上、エスケープゾーンがほとんどない首都高においては…攻め込むことが難しい状態だった。

やはり下手にサーキットで経験を積んだことが仇となったか、それとも初心を忘れたか。

プロとしての経験が、逆にマスターの限界を引き下げた…正確には環状線を攻め込んでいた時のような豪快さ、無茶ぶりを失わせるような原因となってしまっていた。

最初の高速コーナーでスピードがスイフトスポーツ程のらなかったこともあり、前方を走る蒼いスイフトスポーツの存在はあっという間に40メートルは引き離された。

この先もしばらくは直線区間が続く以上、もう難しいのかもしれない…そう直感してしまった。

カーナビの体力ゲージも、自分のそれがほとんどない状態。

どうやらコーナーでのスピード差に寄って削られてしまったのだろう。

そう思うと、もう負けを認めるしかなかった。

 

「(追いつけない…くそっ)」

竹橋JCTを過ぎ、スイフトスポーツは既に高架下の左高速コーナーを走行してハチロクレビンを振り切っていた。

勝敗はもう決したと言っても過言ではないだろう。

最上の勝利だった。

ローリングマスターの体力ゲージは0となり、カーナビには「LOSE」の文字が表示されるのだった。

 

「(すげぇ…でもまさか、兄貴が…!)」

一方、こちらは後方で追走していたローリング野郎1号。

バトルの顛末は彼が見守っていた。

粘りの勝負の末に振り切られた。

ローリングマスターが遅いという訳ではない…スイスポの方がコーナーを攻めていたのだ。

あそこまでの攻め込み具合を見た以上、敗北を認めざるを得ない。

そう1号自身も痛感していた。

 

―――勝者、最上。

スイフトスポーツは3台のハチロクを振り切ったところで、マシンを減速させていく。

 

 

 


 

 

 

推奨BGM

バトルを終えて霞ヶ関出口から降り、そのまま一般道路の端にスイフトスポーツを停車させると、3台のハチロクが連れ立ってスイスポの後ろに付く形で駐車した。

それを見た最上は、やはり車から降りてドライバーたちと対峙する。

マシンから降りてきたのは、ローリング野郎1号と、その兄貴ローリングマスター、そしてローリング野郎5号だ。

ローリングマスターとしては、バトルの結果に驚きつつも同時にどこか納得していた。

一方で1号と5号は、まさかマスターが負けるとは思っていなかったようだ。

最初に口を動かしたのは1号だった。

 

「まさかとは思ったが、ローリングマスター……兄貴にも勝っちまうなんてな。こいつはいよいよ、とんでもない怪物を見つけちまったのかもしれねえ」

「やっぱり、噂のドライバーなだけはあるんだ…」

「噂は聞いちゃあいたが、ここまでの実力とはな。昨日首都環状に上がったばかりのルーキー相手に、こんな風にぞっとさせられたのは…そう、4年ぶりだ」

「4年ぶり…?そうなんですね」

1号、5号、マスターも互いに納得したかのようにそう交互に口を動かす。

どうやら最上の実力はそれ相応のものだったようだ。

最上が不思議に思う中で、マスターが言葉を続ける。

 

「ハハッ、面白くなってきたじゃねえか!強い走り屋が増えるのは大歓迎だ。新たな“伝説”の誕生に立ち会えるかもしれないんだからな」

「新たなる、伝説…?」

マスターが満足げにそう口にした一方で、最上にとってこんな感覚は今までにはななかった。

ローリングマスターの言葉に呼応するかのように、「魂」が震えるのを感じた。

自分の奥底に眠る、走り屋の「魂」が。

 

「(これが、首都高を走ることなのかな)」

少しずつ、走ることの楽しさを感じ始めた最上。

後に最上は「伝説」の着火剤同然となるのだが…

この時の彼女はそんなことを知る由も全くなかった。

(第3話End)

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