「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で- 作:カービィ改二
快進撃を続ける最上の前に現れる、あのドライバー。
そして首都高バトル屈指の人気を誇る彼女も登場です。
凪の時代は終わった。
次々と、新たな魂が産声を上げる。
首都環状の魔性に取り憑かれ、共に惹かれ合い、答えを求める新たな魂たち。
そのシンクロニシティは大きなうねりとなり、新たな景色が現出する。
そして一際煌く一つの光―――。
それは、深淵まで踏み込んだ者だけが発する魂の光。
―――紅童子とのバトルの翌日、深夜11時。
やはり最上は首都環状にコースインしている。
不思議な違和感を抱きながらも、彼女は首都高を走ることを辞めずにいた。
今回のコースインは都心環状線外回り、霞ヶ関入口からである。
「(自分が何のために走るのか…か)」
コースインして80キロを維持しながら走るスイフトスポーツの中で、ふと最上は考えていた。
今、自分は「何のために走り屋が首都高を走るのか」を知るために走っている。
ここ連日走っているが、まだ最上はそれが見いだせない。
走る理由なんて様々だろうが、最上にはそれがまだ見いだせずにいた。
他の人がなぜ走っているのかを知りたいから走っている…どちらかと言えば受動的な考えであった。
だが一方、最上はふとこうも考えるようになっていた。
「(速く走るために理由なんて、いるのかな?)」
三宅坂JCTを右方向に進むスイフトスポーツ。
そんな中で最上は、「走ることに理由なんてあるのか」と思うようになっていた。
だが最上はここ数日間走り込むことで、「倒すことの爽快感」を感じるようになっていた。
その思いはまだ最上は自覚していないが、ここ数日間環状線ばかりを走り込んでいても…少しは楽しいという感情があったのかもしれない。
勝つことはやはり、最上にとっても気持ちがいいのだ。
そう茫然と考えながら走っていると、千代田トンネルに入ったところで最上はあることに気が付いた。
「(あっ、まただ…)」
ここ数日、環状線を走っているとバトルを挑むこともそうだが…バトルを挑まれることも増えてきた。
どうやらチームリーダーと呼ばれる人間たちがチームメンバーたちの仇討のためにやってきているようだ。
どうやら今後方でパッシングをしてきた相手もその類に違いない。
後方に見えたのは…緑色のスイフトスポーツだ。
推奨BGM:THE FIRST SPACE FIGHT from FALSION(from pop'n music20 fantasia)
「(…スイフトスポーツ?僕と同じ車の人かな)」
2台のスイフトスポーツが右車線を一定速度で走行している。
ここにきて同車対決である。
色々なドライバーとバトルはしているが、ここで初めての同車対決だ。
最上としてはバトルを挑まれた以上、相手に興味があった。
「(格上のマシンならともかく、同じマシンなら…どれほどのものか気になっちゃうね)」
最上は日ごろからタクシーを転がしているドライバーだ。
だからどちらかといえば走りに自信がある。
同じマシンに乗っているドライバーなら、尚更負けたくない。
自分も腕を磨いてきたのだ…そう簡単には負けたくない。
そう最上は思った。
そんな思いを持つ中で、カーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!」
カウントダウンと共にアクセルを全開に踏み込み、スタートダッシュを決める最上のスイフトスポーツ。
一方で後方のスイフトスポーツはやや差を取られるも…最上のスイフトスポーツに食らいつかんと追いかけてくる。
北の丸トンネルを走り抜ける2台のスイフトスポーツだが、加速面で有利なのは最上のそれのようだ。
食らいつかんと追いかけては来ているが、それでもじりじりと離される。
結果として最上が優勢だった。
「(僕と同じ車なら、そう簡単に追い抜かれることはないだろう…)」
最上自身、ここで簡単に負けるわけにはいかなかった。
それこそ同じ車に乗っているドライバーとのバトルだからだろうか。
彼女にも彼女なりのプライドと言うものがあったようだ。
右車線を走る最上のスイスポ。
左車線を走る86GTを追い抜いたところで後方を一瞬だけ見ると、スイフトスポーツは徐々に引き離されているのが見えていた。
「(ストレートで引き離せてる!ようし…これなら僕の車の方が速いってことだ。このままこの先のトンネル出口のカーブで差を付けちゃえ)」
千代田トンネルの出口は皇居のお堀の横にある右ヘアピンコーナー。
ストレート区間で目いっぱい引っ張り、ヘアピンで差をつけて圧倒してしまおう。
それが最上の魂胆だった。
同じ車に乗っているドライバーにはそう易々と負けるわけにはいかない以上、本気のスピードを出していた。
速度としては160キロは出ている。
軽量スポーティなスイスポ、おまけに環状線と言う狭いコースにおいてはかなりの速度だ。
だがトンネル出口が迫る中で、最上はハンドルを僅かに左に切り、右車線から左車線へとスイフトスポーツを移動させる。
「(カーブの内側に一般車がいたらたまったもんじゃないからね)」
トンネル出口のコーナーはコーナーの内側が見えない…いわばブラインドコーナー。
そうである以上、最上は左車線にマシンを移して事故を未然に防ぐ。
トンネル出口寸前でアクセルリリース、ハンドルをニュートラルにしたままブレーキを踏み込む。
左車線を走りつつもコーナーの先が見えたところで、ブレーキリリースから再びアクセルを踏み込みつつもハンドルを右に切って、一気に右車線へ。
速度が160キロ台から120キロ台まで減速したところで、左車線から右車線へ。
右端の壁へと接近させつつも典型的なアウトインアウトのラインでコーナーを立ち上がる。
一方でコーナー脱出と共に左車線へ再び膨らんでいた。
「(ようし、これで…!)」
コーナーを脱出して再びアクセル全開。
相手の差を付けんとアクセルを踏み込む北の丸出口、北の丸トンネルへ向けて駆け抜ける。
比較的得意なエリアなのかもしれないが、最上はとにかくアクセルを踏み続けていた。
バックミラーを軽く見ても光源は既に小さい。
どうやら勝負あったというべきだろう。
「(ふう…これで一段落)」
北の丸トンネルに入ったところで、カーナビには「WIN」の文字が表示されていた。
その文字を見たところで、最上はアクセルをリリースからブレーキを踏んでマシンを減速させる。
戦闘終了で最上は安堵したかのようにマシンを減速させていたが、同時にあることが気になっていた。
「(でも、ちょっと気になったな…あの車、僕と同じ車だった…)」
最上は相手のドライバーが気になった。
自分と同じスイフトスポーツに乗っているドライバーとは、一体どのような人物なのか?
そう思った以上、最上は相手のマシンを待ち伏せするかのようにマシンを左車線に寄せて減速させる。
幸いにも交通量が少ないこともあり、左車線でゆっくり走っても文句は誰も言われない状況だった。
後方からスイフトスポーツのライトが大きくなるにつれて、最上はハザードランプを出す。
「自分に付いてきてほしい」と意志表示をするように最上はスイフトスポーツを箱崎方面へと走らせようとしていたのだった。
「(もしかして、僕の事が気になったのかな?)」
一方、最上に挑んだドライバー…峠のチャレンジャーも、同じマシンに乗っている最上の存在が気になっていた。
先程のハザードはどうやら「ついて来い」と言うべきなのかもしれない…
そう感じ取った峠のチャレンジャーは、静かに最上のマシンについていくのだった。
「(あれが噂のドライバーか…悪くはなかったな)」
一方で、はるか後方において2台のスイフトスポーツのバトルを見守っていた86GTのドライバーは最上の実力について静かに感心するのだった。
―――箱崎PA。
PAに2台のスイフトスポーツが横並びで止まっている。
先ほどのバトル相手がマシンから降りて話しかけてきた。
まだ若く、真面目で聡明そうな雰囲気の青年だ。
「さっきはどうも。君のような実力者に出会えて嬉しいよ!」
「あはは、どうも。ちょっと僕と同じ車に乗っていたから、気になっちゃったんだよね」
明るい雰囲気にほぐされたのか、最上もどこか心を開いたかのようにそう口にする。
「へえ、そうなんだ!僕は峠のチャレンジャー。<CHALLENGERS>のリーダーさ」
「<CHALLENGERS>のリーダー?へえーそっかあ。ところで、峠って…?」
最上は通り名がちょっと気になったかのように口にする。
「僕たちは日頃は地元で峠を攻めているんだけど…腕試しがてら、首都環状にチャレンジすることにしたんだ。短期遠征というトコロかな」
「普段は別のところを走っていて、わざわざここに?そうなんだ…」
CHALLENGERSは元々峠の走り屋たち。
どうやら首都環状が気になったそうだ。
すると、最上の通り名が気になったかのように峠のチャレンジャーはこう口にする。
「あなたはたしか…定時の作業員、さんでいいのかな?」
「あっ、うん。そうだね」
「さっきのバトル、すごくいい走りだったよ。僕も峠で腕を磨いたつもりだったけど、まだまだだと思ったね」
「ああ、いえ…どうも」
峠のチャレンジャーはやはり最上の実力を認めたかのようだった。
するとその時だった。
最上と峠のチャレンジャーが話をしていると、目立つドレスアップを施されたマシンが現れた。
緑のZN6…86GTだ。
ZN6は自分たちに興味を持ったかのように、横並びで止まっていた2台のスイスポのさらに左側…最上のマシンの隣に駐車する形で止まった。
「あの車は…?」
86GTから降りてきたのは、どこか浮世離れした印象の若い男だ。
マシンだけでなく、自身の身なりにもこだわりがあるらしく、これ見よがしにブランド品を身に着けている。
それなりの金持ちのようだ。
「やあ、横から失礼するよ。箱根くんだりから首都環状まで乗り込んできたっていうガッツのあるチームのリーダーと、最近何かとウワサのルーキーとの対決だなんて、見ごたえがあったよ」
「はあ」
「あなたは、一体?」
突然現れた男は、どうやら峠のチャレンジャーと最上のバトルを見ていたようだ。
一体誰なのか、と最上や峠のチャレンジャーは問う。
すると男はこう口を開く。
「俺はルーレット野郎1号。<ROULETTE GUY>っていうチームのリーダーをやってる」
「ROULETTE、GUY?」
その名前にどこか最上は聞き覚えがあった。
たしか、ROLLING GUYだっただろうか。
その亜種とも言うべきチームか?
そう思っていると峠のチャレンジャーが言葉を続ける。
「あれ?ひょっとして、あの“ハチロク"チーム<ROLLING GUY>と面識があるのかい?」
峠のチャレンジャーの言葉に対し、軽く笑みをこぼしてルーレット野郎1号は言葉を続ける。
だがその言葉にルーレット野郎1号は軽く微笑んでこう口にする。
「はは、別にそういうわけじゃないんだけどね。確かに…“ハチロク"愛では、あのオジサンたちにだって負けていないつもりだよ?」
すると、ルーレット野郎1号は峠のチャレンジャーに向けていた目線を最上に向けてこう言い放つ。
「そっちの君はたしか…定時の作業員だね」
「あっ、はい」
「若い者同士、お互い仲良くしようよ。最近の首都環状には、君の他にもとびきり目立つ“スター"がいることだしね」
「うん、よろしく」
ルーレット野郎1号は最上にも明るくふるまい、最上もそれに答えるようにふるまった。
更に会話は続く。
「君の噂は聞いていたけど、ここ数日結構走り込んでいるみたいじゃないか。いい腕をしているよ」
「あ、どうも…ところで、さっき言った『スター』って何かな?」
最上は「スター」という言葉が気になったかのように疑問を口にする。
「おや…その様子だと、君はまだ会っていないのかい?」
「うん…」
ルーレット野郎1号は「そうだったか」と納得したかのように、こう言葉を続ける。
「そうだなあ…お楽しみは取っておいた方がいいからあまり詳しくは言わないけど、じきに出会うことになると思うよ。そのコと君には、同じ“煌き"があるって言ったらいいのかな。天才同士は惹かれ合う、ってワケさ」
「天才…?」
ルーレット野郎1号が言った「天才」と言う言葉。
その言葉に最上は興味を持った。
自分以外にも話題のドライバーがいるとは。
そう思った以上、いずれバトルをしてみたいと思った。
「ヒントを言うとしたら…天の川のようなデザインが施されたBCNR33を見たら、是非バトルをしてみるといいよ」
「天の川のような、デザイン?」
「もしかして、あの子ですか?」
「ああ、あの子…だよ。あ、あまり詳しくは言わないであげてね。楽しみは取っておいた方がいいから」
「はあ」
ルーレット野郎1号は峠のチャレンジャーに対して、どこか口止めをするように言った。
それはやはり最上に楽しみを取っておかせたかったからだろうか。
ルーレット野郎1号から聞いた「スター」の存在。
最上はふとその存在が気になり始めているのだった。
―――峠のチャレンジャーやルーレット野郎1号との出会いから、数十分後。
夜もまだ比較的早いということもあってか最上はまだ走り足らず、再び環状線内回りからコースインしていた。
例の「スター」を探してみたいと思っていたからだ。
現在は神田橋入口付近を走行している。
「(たしか、BCNR33って言っていたな…)」
ルーレット野郎1号から聞いた存在、「天の川のようなデザインのBCNR33」。
そんなドライバーが最近最上と同じく噂らしい。
自分も少しずつ噂になっているようだが、同時に最上自身そのドライバーの事が気になり始めていた。
だがふと、最上はあることに気が付く。
「(あれ?BCNR33って何だっけ?車の形式?)」
最上にはあまり車の知識がない。
タクシーで使っているクラウンとスイフトスポーツくらいならともかく、最上はあまりスポーツカーに触れる機会がなかった。
そうである以上、乏しいのは無理もない話だったのかもしれない。
「(…まあ、いいか。走っていればいずれ会えるだろうし)」
最上は車の事が気になったものの、あえてそのことは考えないようにした。
噂のドライバーである以上、いずれ会えると信じたからだ。
そんな中で、竹橋JCTを左方向に進んだ時だった。
前方に丸目のテールランプをした黒い車が見えた。
そのマシンは左車線を走っている。
「あの車は…」
前方を走るBCNR33に少しずつ接近するスイフトスポーツ。
そこからBCNR33の後方に付いたところで速度を落とし、一定の車間距離を保つ。
黒色のボディで外観自体はほぼノーマルだが、両サイドに描かれているのは…天の川のようなデザイン。
車種はわからないが、どうやら例のドライバーらしい。
リアバンパーの右側に張られているステッカーは「POLARIS」。
通り名は…「久遠のポラリス」と書かれている。
このドライバーがそうなのか?
推奨BGM:THE SHINING POLARIS(from beatmaniaⅡDX4thstyle(CS))
「(さっきの人が言っていたな…スターって。あの車はポラリス…ポーラスター(北極星、南極星のこと)なのかな?だとしたらこの人が…)」
ポラリスとは今の北極星の事。
似たような言葉にポーラスターがある。
何にせよ星ということでは間違えないようだ。
最近話題のドライバーはこのドライバーに違いない…そう最上は思った。
そしてそう思った以上、最上としてはバトルを仕掛けたいと強く願うのだった。
「(僕もここ最近話題になっては来ているみたいだし、興味はあるんだ…こっちから仕掛けちゃおうか!)」
そう思った以上、最上はスイフトスポーツのライトをパッシングする。
場所としてはちょうど北の丸出口の手前だった。
「…?」
BCNR33のカーナビに「バトル申し込み」の文字が出ていた。
ドライバー…久遠のポラリスは自分に勝負を挑んでくるドライバーがいることを意外に思っていた。
だがここでは断るのもどうかと思う。そう思った以上、ポラリスはバトルを受け付けるのだった。
そしてバトル承諾が完了すると、2台のカーナビにカウントダウンが表示される。
3
2
1
GO!
「―――!」
「……」
後方からのスタートとなるスイフトスポーツ。
前方のBCNR33を追いかけるが、スタート直後の加速で置いて行かれる。
「(…速い!)」
スタート地点は北の丸出口横の直線区間。
北の丸出口を通り過ぎるとすぐに北の丸トンネルだ。
ここではパワーがものをいう以上、最上のスイフトスポーツが置いて行かれるのも無理もない話だった。
ノーマルで280馬力級マシンとチューンしても150馬力程度のマシンではとても差がありすぎる。
アクセルを全開に踏み込んでも、みるみるうちに引き離されていく。
「(くっそぉ…真っ直ぐの区間じゃ向こうにパワーがあるんだ。BCNR33って、スカイラインGT-Rのことかよ…!)」
最上自身車の知識が乏しいにせよ、スカイラインGT-Rというマシン自体は知っていた。
そのマシンの性能も知らないが、それでも速いという事はわかる。
ストレート区間で引き離されるのは無理のない事だったが、同時に最上にとってはフラストレーションの原因にもなっていた。
パワーで引き離されていることが、どうにも屈辱的だったのだ。
カーナビに表示されている最上側の体力ゲージが徐々に削られていくのが分かる。
それほどまでに直線区間では差を付けられていた。
トンネル出口の右高速コーナーを駆け抜ける2台だが、既に車間距離は車2台分…少なくとも25mは引き離されていた。
「(単にパワーに乗せられているだけじゃない。この人は速い…!)」
左車線から右車線へと移るBCNR33。
一方でそれを追いかけて最上のスイフトスポーツも追従する。
しかしそれでも車間距離はある程度離れたままだ。
スリップストリームに入っても加速は明らかに向こうの方が上。
「(これじゃあダメか?いや、まだ…)」
引き離されている最上だったが、それでもあきらめるつもりは全くない。
だがこの調子ではジリ貧だ。
どうにかして打開策を導かないといけない。
皇居横のストレート区間を走る2台だが、前方のBCNR33はまもなく千代田トンネルへと飛び込もうとしていた。
「……」
一方、こちらは久遠のポラリス。
バトルを仕掛けられた以上全力で相手しているが、どうやら現状はパワーでゴリ押しが出来ているようだ。
このままこの差を維持してねじ伏せてしまおう。
そう思った以上、コーナーを攻めこんで差を付けてしまいたい。
そう思ったところで、前方に千代田トンネルの入り口が迫る。
「―――」
アクセルオフからブレーキング。速度は180キロ台から130キロ台まで下がる。
ブレーキリリースと共にハンドルを一気に切り、ヘアピンコーナーを攻めていく。
右車線から左車線へ…そして左端の壁スレスレを狙って、アウトインアウトのラインを描くべく駆け抜けていく。
だが、次の瞬間だった。
「……!」
トンネル入口…ブラインドコーナーのちょうど中間地点に現れた1台のトラック。
コーナーを攻め込んでいたBCNR33の前に突如現れたそのトラックに、ポラリスは動転した。
リリースしていたブレーキを再び踏み込んで急ブレーキ。
突然フルブレーキをするのだから、BCNR33はわずかながら体勢を崩して後輪をスライドさせる。
アテーサE-TSが装着されている以上スピンはあり得ないが、それでもハンドルを曲げた状態でフルブレーキングをしたらどうなるかはある程度想像が出来るだろう。
テールスライドで左を向いたBCNR33だが、ブレーキを踏み込みつつもハンドルを右に曲げてカウンターを当てる。
トラックのちょうど右横…すれすれのところを駆け抜け、コース中央の僅かに左の場所へ。
接触寸前で事故回避は出来たが、速度は大幅に下がってタイムロス。
トラックのちょうど真後ろにつけてポラリス自身が動転してしまったこともあり、速度は一気に50キロ台まで速度が下がってしまっていた。
「(お、っと!もらい!)」
一方で後方から追いかけていた最上…スイフトスポーツはその隙を見逃していなかった。
ブレーキを踏み込んだうえでリリース、そこからアクセルオフのままでハンドル調整をしつつ突っ走り、そのまま動揺していたBCNR33の右横を…右車線の上を安定して走行しつつも華麗にスルー。
そのままコーナー脱出と同時にハンドルをニュートラルに戻し、アクセル全開で千代田トンネルのストレート区間を必死になって逃げていく。
トンネル内の新宿線との分岐寸前において、速度は80キロ台から既に160キロ以上まで加速していた。
そんなスピードを出すことで、相手の体力ゲージはみるみるうちに減っていく。
それほどまで車間距離が離れたようだ。
「(相手は慣れていないんだ。車を避けることがまだまだ不慣れ…そういう意味じゃ、僕の方が経験値が上だったようだね)」
車を左右に揺らして一般車両を避ける中で、最上は相手のドライバーが失速した原因を静かに分析していた。
最上は日ごろからタクシードライバーと言う形で車に乗っており、様々なことを経験してきた。
車に対する経験値は人一倍だったのである。
ここにきてどうやらそれが大きな差として生まれたようだ。
攻め込んだ走りは時に大きなロスを生むことが分かっていた以上、最上はある程度余裕を持った走りをした。
結果としてこの大逆転へとつながるのだった。
スイフトスポーツが分岐と次の合流の間にきたところで、スイフトスポーツのカーナビにはWINの文字が表示されていた。
その文字を確認したところで、最上はアクセルオフからブレーキを踏み込んでマシンを減速させた。
ちなみにカーナビの体力ゲージは、最上のそれは残り5分の2程度だった。
どうやら結構差を引き離されても、まだある程度は大丈夫だったようだ。
「(ふうー、間一髪)」
カーナビに表示された文字に安堵した最上だったが、同時に先ほどのドライバーに興味を持った。
そう思った以上、マシンを左車線に移動させた上で減速させて再びハザードを付ける。
先程のマシン…久遠のポラリスを誘導するかのように。
「(さっきのドライバー、ちょっと気になったな)」
速度は40キロ台まで減速していたが、同時にポラリスに「ついて来い」と言いたげだった。
後方からは追いかけてきたBCNR33が迫ってくる。
「(来た来た。ちょっと声を掛けてみようか)」
彼女に対してハザードを出すことで、最上は彼女を誘導するのだった。
スイフトスポーツの速度を60キロまで引き上げることで、最上はBCNR33を誘導する。
―――霞ヶ関出口付近。
出口の先の道路の左端に…路肩に、スイフトスポーツとBCNR33が縦列駐車で止まっている。
先ほどのバトル相手…BCNR33から降りてきたその乗り手は――まだ若い少女だった。
「……」
最上としては意外であり、ちょっとした驚きだった。
自分と同じくらい…いや、下手をしたら自分より若いドライバーじゃないか。
それも、自分と同じ女のドライバー。
走り屋は基本男だらけのむさくるしいものだと認識していた最上にとっては、意外でしかなかった。
「君が噂のドライバーかい?さっきは速かったね。驚いたよ」
「……」
最上は実力を認めるように言ったが、例のドライバーは黙りこくったまんまだった。
よほどの人見知りのようだ。
そうならば…と最上は再び口を動かす。
「ああそうか、僕は…そうだね、最上って呼んでよ」
「……?」
最上は「通り名」ではなく、自分のあだ名を口にした。
ここでは通り名を言うべきだろうが、最上はそのことを忘れてしまっていたようだ。
「君みたいな女の子がいるなんて、僕も嬉しいよ。こう見えて僕も、女なんだけどね」
「……」
最上はズボンをひらひらさせて女であるようにふるまった。
久遠のポラリスは、最上が女であることが信じていないようだった。
まあ無理もない話だ。
最上の姿はあまりにもボーイッシュ、下手をしたら男からも男であると勘違いされるほどの姿な上に、一人称も「僕」なのだから。
とはいえお胸はそこそこあるのだが…そこに関しては触れないようにしておく。
「その様子だと、疑っても仕方ないよね。でも本当に、僕は女なんだ。もしこれから何度か会うことになったら、仲良くしてほしいな」
最上は持ち前のコミュニケーションスキルで久遠のポラリスの心を開かせようとする。
そこはやはりタクシードライバーとして様々な相手に臨機応変に対応してきたこともあるからだろうか。
だが彼女は何も語らない。
最上が「自分は女である」という事を語っても、やはり疑われているのか…幾度も口を開きかけては、やめてしまう。
その様子は、戸惑っているようであり、何かを恐れているようでもある。
それでも最上は自分が女であることを打ち明けて、積極的にコミュニケーションを取ろうとする。
だがそれでもなかなか心を開いてはくれない。
まあ初対面なので無理もない話ではあるのだが…そこはやはり様々なお客を運ぶタクシー業をしている最上が有利であるという事だろうか。
そのことを最上はわかってもいた。
「……」
「あっ、お帰りかい?じゃあ、またどこかで…」
一方的な押し問答をしばらく繰り返した後、ポラリスは静かに目を伏せ、ただ一言も発することなく去ってしまった。
BCNR33のエンジン音が静かに響いたかと思いきや、後には夜風だけが残された。
とはいえ、最上は彼女に嫌われたという訳ではなさそうだ。
―――久遠のポラリスとの会話から数分後。
久遠のポラリスとの出会いで感じた不思議な感覚に茫然としていた最上の前に、メカニックらしきツナギを着た男が現れた。
ちなみに男のマシンはハイエースである。
「くくく…お前さん、なかなかいい走りをするじゃないか」
「…?」
「さっきのバトル…ポラリスとのそれを見てたんだよ。お前さん…いい腕をしている」
男が最上に話しかけるが、どうやら先ほどのバトルの見物人だったようだ。
そう言われた以上、最上は相手の事が気になった。
「僕とさっきの車のバトルを?そうなんだ」
「ああ…ちょっとお前さんの車、見せてもらってもいいか?」
「えっ?」
そう言ってやってきたのは…見たところ早老の、年長者のドライバー。
どうやら彼は最上の車が気になったようだ。
そう言ってチューナーは最上のスイフトスポーツを一通り見渡す。
そしてこう口にした。
「ふむ…見た感じマシンもそれなりにイジってるみたいだな。だが、まだまだ駆け出し…ってところかね」
「あの、あなたは一体?」
男は最上のマシンを「駆け出し」と語った。
その言葉が気になった最上は、再び質問する。
車に詳しいようだが、一体何者なのか?
「オレは首都環状のあたりを流してる、しがないメカニックさ。“伝説のチューナー"だなんて大それた名で呼んでくる奴もいるが、そんな大層なもんじゃあねえよ。くくく……」
「伝説の、チューナー?メカニック?」
男は自分の事を「しがないメカニック」であり、「伝説のチューナー」と呼んだ。
だが、最上は不思議と悪い気はしなかった。
それはやはり、相手にそれ相応の実力があると感じ取ったからか。
「俺はPAで面白い走り屋を見かけた時に、こうして声を掛けさせてもらってる」
「それって、何のために?」
「オレにマシンをちょいとばかりイジらせてくれれば、グンと速くしてやる」
「えっ、本当?車を速く出来るのかい?」
「まあ…その分お代はいただくがね」
「はあ」
チューナーは気になったドライバーがいたら積極的に声を掛けて、お得意様にしようとしているようだ。
どうやら最上にはその素質があるらしい。
だが一方でお金が必要であることも語った。
「それはさておき…ちょっとお前さんと話がしたい」
「僕と?」
「ああ…今、時間はあるか?」
「うん、いいよ」
「よし…なら、コーヒーでも飲みながら話すか」
伝説のチューナーは最上に関心を持っているようだ。
近くの自販機でコーヒーを買ってきた男は、最上に手渡した。
男のコーヒーはブラックだが、最上のコーヒーは微糖だった。
2人が軽くコーヒーを飲んだところで、男が話し始める。
「単刀直入に言おう。お前さんはどうやら、この首都環状の大きな変化の中心にいるようだな」
「首都環状の変化の中心?それって?」
「この首都環状でも、とりわけ歴史の長いチーム<ROLLING GUY>の連中を倒した上、今やハチロク乗りの間でその名を知らぬものはいないほどの走り屋――ローリングマスターをも撃破した」
「ああ、そういえばそうだね」
最上はふとこれまでのバトルを思い出す。
ROLLING GUYのドライバーたちを破り、その上のローリングマスターも倒した。
あの勝負もなかなか楽しかった。
チューナーは話を続ける。
「さらに<Phantom9>の“黒崎三兄弟"の1人である紅童子を撃墜してみせた。4年前、あの連中は首都環状を散々荒らして回ったらしい。数多のチームが<Phantom9>の手にかかって解散に追い込まれたそうだ」
「えっ、そうだったの?」
「ああ。まあそういうわけで、〈Phantom9〉は方々から恨みを買っているようだ。くくく…お前さんが紅童子を破ったと聞けば、目の色を変える奴はさぞかし多いだろう」
「紅童子…あの人って、そんなすごい人だったんだ」
「まあ、多方面から恨みを買われたのは事実のようだ」
紅童子とのバトルはテクニックを用いて勝利した。
だが一方で、彼が言っていたこともまた事実のようだ。
どうやらPhantom9と呼ばれたドライバーたちが首都高を荒らしまわったそうだが…最上にとっては本当なのか疑心暗鬼だった。
それがここにきて、実際の話だったと断定することが出来た。
チューナーは話をまた続ける。
「そして――久遠のポラリス」
「…さっきの車、かな」
「ああ。今のところ、奴はまだまだ未熟…それどころか、走り屋としての一歩を踏み出したばかり…ってところだな。そう、お前さんと同じだ」
「あの子が…」
最後に久遠のポラリスの話。
彼女はやはり自分と同じく未熟だが、彼の話に出てきている以上どこか才能があるようだ。
するとチューナーは最上の方を向いてこう口にする。
「ここまでバトルを複数こなしてきたお前さんに、一つ聞きたい。お前さんはこの首都環状で名だたる走り屋たちと出会い、バトルをして…何を感じた?」
「何を、感じた…?」
伝説のチューナーの言葉をきっかけに、12時過ぎのシンデレラとの会話が胸の内に蘇った。
だがそれでもそれを上手く言葉にすることは出来ない。
そう思った最上は、少しだけ合間を置いて悩みつつもこう口にする。
「えっと…チューナーの、おやっさん」
「ん?どうした?」
「僕にはまだ、何を感じたかって言うのは…ハッキリと言葉にはできないんだ。僕は、その答えを求めている。だから、走っている。何のためにこの首都環状を、走り屋の人たちが走っているのかを知りたいんだ」
「……」
最上自身、自分が何を感じたのかを口にするかはまだ言葉不足だった。
これまでバトルをこなしてきたのも、何かを感じたかったから。
だがまだ最上自身は答えを見出せてはいない。
それでも最上は走り続けたいと口にするのだった。
だが一方で最上はあることにも気が付いていた。
「でも、これだけはわかる…今の車じゃ、必ず限界は来ちゃう。何を感じたか、は今のままじゃわからないままだ…」
「ふむ…まあ当然だわな。何せお前さんのスイフトスポーツは初心者向けのマシンだ。素の性能自体は悪くはねえ。だがパワーがな…今後名だたるドライバーたちに挑むとなった場合、近い将来限界は来てしまうだろう。じゃあ、お前さんはどうする?」
最上自身、今のマシンでは必ず限界が来ると認識していた。
納車してまだ一週間程度しか経っていないが、この車では今後太刀打ちが出来なくなってしまうのが事実だろう。
では、どうするか?
そう質問された最上は、あることを口にする。
「…おやっさん。お願いがあるんだ」
「お願い?」
「僕は、この車じゃない車に乗って…もっと速くなりたいんだ。だから、車を用意してくるよ。その時は、その車を速くしてほしい…」
最上が選んだ決断…それこそ新しい車への乗り換えだった。
その目は真剣そのもので、様々なドライバーとバトルをしたいという意志表示としては十分だった。
チューナーは理解したかのようにこう口にする。
「…いいだろう。お前さんには名刺を渡しておく。車を乗り換えたら、この住所に車を持ってこい」
そう言って伝説のチューナーは名刺を内ポケットから取り出し、最上に渡す。
最上が受け取った名刺には、そのチューナーの名前と本業である文房具屋の住所が書かれていた。
どうやら普段は文房具屋をやっているようだ。
「…文房具屋?」
「表向きの文房具屋は夜8時まで。それ以降は裏の店でチューニングをやっている…いるかどうかはまちまちだが、基本0時くらいまではいるから、よかったら電話してくれ。携帯であれば11時くらいまでなら出れる」
「この番号に…」
「ああ。お前さんの電話、待ってるぜ」
どうやら名刺の住所に電話すればいいらしい。
一旦はこれで車のチューニングに関してはまとまった。
すると、男はあることを気にしたかのようにこう口にする。
「あとはお前さん、ずっと都心環状線だけを走っているようだな」
「え?ああ、うん」
「…お前さん、別の場所に興味はないか?」
「え?」
「首都環状と言うのは都心環状線だけじゃないんだぜ」
「都心環状線、だけじゃない?」
「ああ。主に都心環状線江戸橋から深川方面、辰巳、レインボーブリッジを経由する新環状ルート、高速セクションと高速コーナーが両立する横羽線、ただひたすらにパワーが求められる湾岸線と大黒線…お前が想像している以上に、首都環状というのは広いもんだ」
「……」
男からの提案…それは都心環状線だけでなく、広いステージに目を向けろというもの。
首都環状のバトルは既に書いている通り、新環状ルートや横羽線、湾岸線、大黒線なども舞台だ。
様々なドライバーとバトルすることを望んでいる最上にとっては、その広いステージに目を向けるべきなのは当然なのかもしれない。
「その別のエリアにも、お前さんが想像するよりも遥かに速いドライバーたちがいる。そっちの方に顔を出してみて、バトルを繰り広げれば…お前さんが求める答えと言うのは、何かしらの手がかりになるかもしれないな」
「僕の、求めるものが……」
「ああ。お前さんには少しだけ期待させてもらうよ、くくく…」
伝説のチューナーからの助言、それこそ「都心環状線だけでなく新環状ルートや湾岸線、横羽線にも顔を出せというものだった。
これまで最上はずっと都心環状線ばかりを走ってきたが、首都環状でバトルが盛んなのはそれ以外にもあるらしい。
そしてチューナーにとってはそれが、最上にとっての刺激になるのではないかと読んでいたのだった。
最上はこれから誰に出会い、何を感じて、どこまで行けるのだろうか。
首都高の混迷が深まる中で、最上は新たなる一歩を歩みだそうとしていた。
(第5話End)