「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で- 作:カービィ改二
コース開放に伴う最上の新たなる挑戦とは。
そして早々に最上は新たなるマシンを手に入れます。
ローリングマスター、紅童子、久遠のポラリス…
首都高でも話題の実力者たちを1週間足らずで打ち破ったドライバーの存在は、徐々にではあるものの知れ渡るようになっていた。
そしてそのドライバーが受けた助言…それこそ、環状線以外の新たなるコースへの挑戦。
その助言を受けた以上、彼女はその地へと歩みを進めるのだった。
―――例のチューナーと出会った翌日。
最上のスイフトスポーツは首都環状の都心環状線内回り銀座からコースイン。
江戸橋JCTを右に向かい、深川線方面…新環状ルートへと走っていた。
江戸橋JCTを通過し、外回りとの合流を経て箱崎JCT。
真ん中の小松川線…ではなく、右側か左側の深川線へと行くのが新環状ルート。
最上は右側を選択し、そのまま上り坂を駆け上がっていく。
「(ここが新環状ルートかぁ…)」
分かれていた2車線が合流し、箱崎入口の合流が左から現れる。
そこから隅田川を渡りながらも下り坂だ。
下り坂を味方につけて加速する中で、目の前にはしばらく先の右直角コーナーまで長いストレート区間が続く。
右直角コーナーを抜ければすぐ次の左直角コーナーだが、そこを抜けると福住出口付近のストレート。
今は馬力も速度も低いスイフトスポーツにとっては、コーナーばかりだった環状線に比べると明らかに雰囲気が違っていた。
「(なるほど…確かにこの車じゃパワーが足りないと言われるのもわからなくはないかな)」
チューナーから言われていた言葉を思い出しながら最上は操縦する。
これまでのコーナー区間ばかりだった都心環状線に比べて、明らかにストレート区間が多いこのルートでは自分の方が不利なのではないか、と思ってしまった。
きっと新環状ルート以外も…つまり湾岸線や横羽線も似たようなものだろう。
思い返せばタクシー営業で通ったこともあるが、やはりそれでもとても直線区間が長かったような記憶がある。
こんなコースでアクセル全開をし続けたら、間違えなく車が悲鳴を上げてしまうだろう…そう最上は思った。
だがそんな中で、福住出口前の左直角コーナーを抜けているところであることに最上は気が付く。
推奨BGM:Harmonia(from pop'n music ラピストリア)
「(あっ、あれは?)」
直角コーナーの先に1台の車がいる。
一般車ではない、多少チューニングがされている車のようだ。
とにかく外観が四角い、珍しい車…オレンジと白を基調としたトヨタ・bBである。
そのペイントからしてどうやら走り屋であることは間違えない。
「(大きさは…僕の車と同じくらいかな。ならば…)」
最上としては新環状ルートのドライバーの実力が気にもなっていた。
言ってしまえば小手調べをしたかったのだ。
自分と同等クラスのマシンであることは間違えがない。
ならば…と最上は認識する。
「(早速だけどお手並み拝見、っと)」
マシンを減速させ、オレンジのbBの後ろへ。
後方に付いたところでカーナビに名前が表示される。
「Roadnauts」の「よろしくメカニック」と書かれていた。
やはり走り屋だ。
そうである以上勝負を仕掛けないわけにはいかない。
「(パッシング…!ようし)」
一方のbBのドライバーも後方からのパッシングに気が付いていていた。
どうやら勝負を仕掛けられているようだ。
走り屋である以上断る通りはない。
受けて立つ…そうbBのドライバーが認識して、ハザードランプを出す。
そうすることで、すぐにカーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!」
「……!」
福住出口横を抜けたところでバトルスタート。
bBとスイフトスポーツのドライバー同士、互いにアクセルを踏み込んで加速させていく。
互いにスタートダッシュは互角。
いや、ほんのわずかにスイフトスポーツの方が有利だったか。
次のコーナーに向けて右車線へと移るbB、一方であえて左車線を走り続けるスイフトスポーツ。
加速面では僅かにスイフトスポーツの方が有利だが、ここからどう動くか。
目の前には右直角コーナーが迫る。
互いに速度は120キロは出ている。
「くううっ…!」
bBのドライバーは加速合戦の中でアクセルを抜いた。
「(おや?)」
最上はbBが一瞬だけ減速したのを見逃さなかった。
目の前の直角コーナーくらいなら、自分のスイフトスポーツであればアクセル全開でも曲がれると認識した最上だが、どうやら相手にとってはオーバースピードだったのかもしれない。
だがそれが最上にとっては大きなチャンスとなった。
アクセルを踏み続けつつもハンドルを右に曲げるも、左車線から右車線へ。
bBを左車線で追い抜いたかと思いきや、そのままアウトインアウトのラインを描いて再び左車線へ。
速度は130キロ以上まで加速していく。
コーナーを抜けたらそこから先はストレート区間。
もうここまでくれば跡は一般車を避けることに専念しつつ相手を振り切ることが目標だろう。
「(まあ、車を見て判断すれば同等クラスのマシンなら何とかなりそうだね)」
直線区間でアクセルを踏み続ける中で最上はふと思った。
相手さえ選べばまだ自分にはチャンスがある。
環状線をずっとメインに走っていたが、もし自分と同クラスのマシンであればある程度は勝負が出来るだろう。
相手さえ選べば、だが。
相手の体力ゲージが減っていく中でも最上はアクセルを踏み続け、前方の一般車両を左に右に避けていく。
だが、しばらく走り続けて塩浜入口方面へ接近していたその時だった。
「…あれ?」
加速が止まった。
これは一体何が起きたというのか?
スピードメーターを軽く見ると180キロを示しており、アクセルをいくら踏み込んでも180キロ以上出ない。
だがそれを一瞬確認したがすぐに目線を前方に戻す。
一体どういうことなのか?そう思いつつもアクセルを踏み続ける。
先ほど見たところ水温も油温も問題なさそうだし、一体どういうことか?
そう考えていると、ある結論に至る。
「(あっ、そうだ…!普通の車は確か、180キロでリミッターが付いているんだっけ!?)」
教習所で確か、「普通の車はスピードリミッターがある」と聞いた覚えがある。
教本にも書かれていたはずだ。
これはどうすればいいのだろうか…
そう思ったところで、塩浜入口の先で最上は別のあることにも気が付く。
「(あ…あのドライバーなら何とかなったみたいだ)」
カーナビに表示された「WIN」の文字。
どうやら先ほどのバトルには勝利できたようだ。
それを判断したところでアクセルを最上は抜いてスイフトスポーツを減速させる。
惰性走行となったスイフトスポーツは、180キロからゆっくりと減速して走行。
130キロ前後まで下がったところで、最上は再び軽くアクセルを踏んで速度を維持させていく。
だがしかしこのバトルにおいて、最上はあることを痛感する。
「(この調子じゃ、流石に勝ち続けることは難しいかな…こんな直線区間じゃ僕の車は不利かもしれない)」
今のスイフトスポーツでは直線区間じゃ勝てない可能性が高い。
もし直線勝負をするとなった場合、スピードリミッターはどうすれば外すことが出来るのか?
最上はその方法を知らない。
スピードリミッターを解除すれば直線区間でも多少の相手は勝てるだろう。
だが、先のバトル相手は弱かったとはいえ…今後どのようなドライバーが現れるのかはわからない。
今後勝ち続けていくためには…マシンを強化する必要がある。
だがこのスイフトスポーツでは間違えなく限界がすぐに来てしまうだろう。
新しいマシン、どうすればいいか。
最上はぼんやりとハンドルを握って操縦しつつも考えていた。
すると、その時だった。
「(そういえば今日、試しに近くの店に行ったらまたいい車があったんだよね…)」
最上は今後の戦略をどうするべきか考える中でふとある車があったことを思い出した。
そこそこ速めのマシンがあったような気がする。
もしその車に乗るとしたら…?
もしその車が今後の自分のためになるというなら…?
その車なら、今後首都環状で活躍できるかもしれない。
そう最上は認識した。
…この後、最上は新環状エリアから再び都心環状線エリアへ移動。
バトル相手を吟味しつつ挑戦したことで、4人ほど撃破したことを記述しておく。
―――2日後、夜。
下町エリアにある文房具店…その裏にある整備ガレージ。
そのガレージの大きなスライドドアがガラガラと開いた。
「ごめんくださーい」
声の主はやはり最上だった。
大きなスライドドアを開け、ガレージの中に入る。
ガレージの中には整備スペースがあるのと同時に…例のチューナーがいた。
例のチューナーが最上に気が付き、彼女の方へやってきた。
「よう…来てくれたんだな」
「うん。おやっさん以外、車を速くできる人を僕は知らないからさ…どうしてもお願いしたくて来たんだ」
「ほう…そうか。新しい車はもう買ったのか?」
「そうなんだよ、ちょっと見てもらっていいかな」
「…いいだろう。ここに入れな、見るくらいならできるから」
チューナーの言葉を聞いた最上はガレージ手前に置いていたニューマシンを、ガレージに入れる。
新しく最上が購入したマシンがガレージに入り、ライトオフの上でエンジンを止めた。
LED蛍光灯による照明がマシンを照らす。
最上が新しく買ったニューマシン、それは…
「…RX-8か」
「うん。前の車もよかったけど、ステップアップにはこの車がちょうどいいって言われてさ…」
「くくく…悪くねえ判断だ。それで、この車をどうしたい?」
車を止めた最上とチューナーが会話する。
青色のRX-8(SE3P)…これが最上の新車だ。
外観上はまだフルノーマルと言っても過言ではないだろう。
ピカピカなマシンは、どうやら見たところ綺麗に整備されているようだ。
「いやあ、おやっさんに言われて新環状とか湾岸線とかをスイフトスポーツで走ってきたんだけどさぁ…やっぱりあの車じゃとても勝ち上がって行けそうにないんだ。直線区間だとスイフトスポーツじゃ難しいと思っちゃってね」
「ほう?じゃあパワーが欲しいと?」
「うん。今はやっぱり直線での速さが欲しいかな…」
最上が求めたのはパワー。
それはやはり、スイフトスポーツでは新環状ルートや湾岸線という、直線区間がとんでもなく長いコースをテリトリーとするドライバーたちに太刀打ちが出来ない可能性があるとわかったからだろう。
「…なるほどな。じゃあチューンをするとしたら…RX-8をターボ化するところから始めよう」
「ターボ化?車ってターボが付いている車ばかりじゃないの?」
「RX-8は自動吸気といってターボは取り付けられていない。だが、お前さんが言う通りパワーが欲しいというなら…それから始めるのが一番だと思うが、どうする?」
「ふーん…やっぱりお金かかる?」
「工賃込みで100万くらいか」
工費で100万円。
ターボ化と言うのは人の手が加わる以上、部品代だけでなくその工賃もかかる。
だがこのくらいの金額ならまあ妥当と言えば妥当だろう。
しかし相場が分からない最上にとっては苦い顔をするしかなかった。
「ええーそんなに?車ってお金がかかるのはわかるし、払おうと思えば払えるけど…流石に高すぎない?」
「ターボ化なんてそんなもんだ…それにお前、RX-8に乗り換えたんだろう?」
「そうだけど…」
「確かにチューニングすることは断らねえ。だがまずは、純正のRX-8で首都高をしばらく走ってみな。スイスポとは伊達に100馬力違う。走りのフィーリング…つまり感覚も違いすぎるはずだ。まずはその車に腕を慣らすことから始めろ」
チューナーは最上に対し、最初からチューンするのではなく…少しだけ乗り回してから乗るようにするべきだと説いた。
いくら最上が才能の塊とはいえ、2倍以上の馬力にしたらそれこそ事故るリスクがあまりにも高いと考えたからだろう。
だがチューナーの言葉に対し、最上はどこか不安げにこう口にした。
「…勝てないなんてことはないよね?」
「くくく…意外と心配性なんだな。まあまずはその車で新環状ルートや湾岸線の奴らを数名シバいてみな…お前さんならできなくないだろう」
「…まあ、おやっさんが言うなら」
「ああ、そうしてくれ…お前さんはここまでステップアップが順調すぎる。時には壁にぶつかることも大切なんだよ」
最上の才能を見抜いたチューナーの言葉に対し、最上は黙って従うことにした。
だが一方でこう愚痴をこぼす。
「でもさぁ、あれだけ僕の事を買ってくれてたのに、何かおやっさんに意地悪されてる気がするよ」
「何とでも言え。お前はまだその車の事を全くもってわかっていない…まずはその車がどういう車なのかを知るところから始めろ。お前さんには才能がある…だが、その才能はまだ粗削り。実力をしっかりと整えるんだ」
「…わかったよ。すればいいんでしょ?」
「ああ、やってみろ」
チューナーは最上に対し、やたらむやみにチューニングを施すのではなく、どのような車であるのかをしっかりと自覚するように指摘した。
愚痴をこぼしながらも、丸め込まれたかのように最上は黙って従うのだった。
するとチューナーはまた気になったことを話す。
「そういや前の車はどうした?もしかして、金の工面のために売ったか?」
「ああ、あれ?あれはまだ取ってあるよ。いずれ売るつもりだけど」
「そうか…ならまだ売るのは先にしたほうがいいな」
「なんで?」
チューナーは最上に対し、スイフトスポーツはまだ売らない方がいいと助言した。
それは一体なぜなのか?…チューナーが言葉を続ける。
「お前さんの実力なら、あのスイフトスポーツでもまだ戦えるはずだ。完全に乗り換えるのは時期尚早と言うべきか」
「まあ、環状線は何遍も走って慣れてるからね。でも、それだけ?」
「お前さん、車の駆動方式とか考えたことがあるか?」
「何それ?」
「お前さんの2台のマシン…スイフトスポーツとRX-8はそれぞれ、エンジンパワーを前輪に伝えるか、後輪に伝えるかで明確な違いがある」
「というと?」
「車の走らせ方が違うんだよ。お前さん、車はみんな同じだと思ってないか?」
そうチューナーに指摘された最上は苦い顔をした。
図星だったようだ。
「おやっさん、わかるんだ?まあ、RX-8を少し首都環状で走らせて…何となく違うって思ったけど」
「そうか。車で違いが出ることが分かったなら、あとはお前さんなりのやり方を見つけ出すまでだ」
「やり方?」
「どんな車なら走らせやすいか、どんなコースに車が向いているか…」
「だとしたら…RX-8とスイフトスポーツを乗り比べるべきなのかな」
「それも1つだな。ただ両方チューンするとしたらやはりお金が余計にかかる。今のうちはスイフトスポーツに乗っておくのも1つかもしれない」
チューナーは最上に対して、まだしばらくはスイフトスポーツを使うべきだと説いた。
いくら最近話題のドライバーとは言え、まだまだスイフトスポーツでも発見できる要素はあるはずである。
そう考えた以上、最上にはスイフトスポーツに乗り続けるように勧めた。
だが勧めたところで最上はある質問をする。
「…おやっさん、スイフトスポーツの事を推してるよね。僕はあまり自覚ないけど、あの車って実はそんな速いの?ストレートじゃ180キロで頭打ちなんだけど」
「まあ、直線じゃ無理もねえな。だがお前さんは自覚ないかもしれねえが、あのスイフトスポーツはノーマルに比べればそこそこ手が入ってるんだぜ。NA故にパワー不足かもしれねえが、足回りは悪くない…コーナーを攻めるマシンとしちゃ良質な類だ」
「そうだったんだ…僕、あまり深いこと考えずにあの車を買っちゃったんだよね」
「くくく…そりゃ随分思い切りがいいというか、無謀というかまあ」
「いやあ、昔からそうだったんだよね。何事も悪いほうにはならなかったんだ」
最上としてはスイスポを勧められたことが不思議だった。
いくら多少チューンされているとはいえ、所詮はスイフトスポーツ。
本当に速いのか、と説いたところでチューナーは「あのスイフトスポーツはそこそこ手が入っている」という事を伝えるのだった。
一方で最上はそんなマシンを、「あまり深いことを考えずに買った」と語った。
深いことを考えずに挑んでいくこと自体が、最上の生涯においては物事が上手くいくことが多かったからだろうか。
するとチューナーはこう口にする。
「ともあれ、そのRX-8とスイフトスポーツをもう少し乗ってみろ。お前が少しずつ話題になったら、その時はチューンを考えてやるよ」
「…本当だよね?」
「ああ、男に二言はないさ」
最上に対してノーマルのRX-8とスイフトスポーツに乗ることを勧めたチューナーは、同時に今後チューンをすることを検討すると伝えた。
その言葉に対しては、最上も納得気味に口を動かす。
「まあ、おやっさんがそう言うなら信じてみようかな…ああそうだ、おやっさんに渡したいものがあったんだ」
「渡したいもの?」
「僕は普段、タクシーを転がしてんだ。ひょっとしたらだけど…おやっさんとは長い付き合いになりそうだから、宣伝用の名刺を渡しておくよ。この前おやっさんから名刺をもらったからね」
チューナーの話に納得したところで、最上は胸ポケットから1枚の名刺を差し出す。
それを受け取ったチューナーは見ながら口を動かす。
「最上タクシー、ねえ…お前さん、もしかしてタクシーで首都高を?」
「お客を迎えに行く時くらいかな〜便利なんだよね、首都環状ってさあ。でもバトルとかってなると、やっぱりクラウンって重いからさ。おまけに営業車でバトルするわけにもいかないでしょ?」
最上はどこか照れ隠しをするかのようにそう言う。
するとチューナーはあることに気が付いたかのようにこう口にする。
「くくく、なるほどな…だかまあ、だからお前さんは若くしてそれなりの貫禄があるわけだ」
「貫禄?」
チューナーは最上の走りに対して「貫禄」があると語った。
これは一体どういうことなのか。
「ポラリスとのバトルを見た限りだが…お前さんに走りには、若い割にはどこかどっしりとした構えがあったんだよ。貫禄と言うべきか、迷いがないというか…」
「そうなの?僕はあまり考えたことがないけど…」
「俺はそれを、何かしらの経験に裏付けられたものだと思った。お前さんはタクシードライバー…日ごろから車を転がしているわけだろう?」
「うん」
「その日ごろから車を転がすという経験が、自然と走りにおいても貫禄として身についているようだ。お前さんは見たところ若いが、その若さと同時に中堅ドライバーのような貫禄もある」
「…よくわからないけど、そうなんだ」
「ま、お前さんの走りにはしっかりとした姿勢があるということだけわかってくれりゃいいよ」
「はあ」
チューナー曰く、最上の走りは実力者相当のものがあるらしい。
すると言葉を続ける。
「あとはそうだな…お前さんは今、3台の車を乗っている。それぞれで違う感覚のはずだ。タクシーは長いだろうしパワーがある。だがノーマルじゃないとダメだろう。だから残りの2台で、タクシーと似た感覚をどう感じ取るか…試行錯誤してみる気はないか」
「うーん…」
チューナーは最上に対し、2台の感覚をどれだけタクシーに近づけることで最上が速く走れるようになるのではないか、と勘付いた。
その言葉に対しては最上はどう答えればいいかわからなかったが、こう口にする。
「まあ、僕ももう少し頑張るよ。でもさ、お願いがあるんだ」
「お願い?」
「さっきも言ったけど…スイフトスポーツで新環状を攻めたら、180キロで速度が頭打ちになっちゃって…」
「ああ、なるほど。さてはリミッター装置を外していないんだな?」
「うん…僕にはよくわからなくてさ」
最上のお願い、それこそがスピードリミッターの解除方法がわからないというもの。
今後180キロ以上…200キロ以上のバトルは間違えなく経験することになるであろう最上にとってそれは致命傷だった。
すると、チューナーが提案する。
「とりあえずカー用品店に行ってみろ。サーキット走行をする、と言えばリミッター解除装置を売ってくれるはずだ」
「本当かい?お金かかりそうだけど…」
「安心しな。パーツにしちゃ手ごろで、2万もありゃ買えるぜ」
「そうなんだ…なら買ってこようかな」
チューナーの提案こそ、最上のマシンにリミッター解除装置を装着すること。
その上でチューナーは言葉を続ける。
「まあ、リミッターカットの取り付けくらいならタダでもやっていい…パーツを買ってきたら車で持ってこい。だが条件もある」
「条件って?」
「今後お前さんが首都高で速くなりたい以上、俺以外のチューナーにお前さんの車をいじらせない、ということだ」
チューナーはリミッターカットの取り付けを手伝う代わりに、「最上のマシンを自分以外の誰にもチューニングさせないこと」を条件として挙げた。
「どういうこと?」
「別のチューナーに仕事は任せない方がいい、ということだ」
「うーん…まあ、いいけど。僕は車を速くできる人を、おやっさん以外知らないからね」
「くくく…あっさりとしてるな。まあ最低限、パーツを買ってきたらやってやるよ…なんならスイフトスポーツの方も解除するか?」
「そうだねえ、お願いするよ。また数日したらスイスポを持ってくるからさ、お願いね」
「いいだろう…だがパーツは自分で買ってこいよ。2つ必要なことを忘れるな」
「わかってるってば」
最上はチューナーの、「例のチューナー以外の別のチューナーに車のチューンを任せてはいけない」…つまりは「伝説のチューナーが専任でチューニングを施す」という契約にあっさりと同意をした。
そしてその契約を交わした翌日には、最上のRX-8はスピードリミッターの解除が施されるのであった。
―――スピードリミッターを解除した夜。
最上はスイフトスポーツではなく、RX-8を操縦していた。
スピードリミッターを解除した以外はほぼノーマル。
チューナーの言われた通り、まずはノーマルに極限まで近い状態のマシンを味わうことにしたのである。
だがコースはこれまでの環状線や新環状ルートとは違う。
珍しく横羽線を下っていたのである。
「(さて…このRX-8でこの直線区間においてどう戦えるか)」
浜崎橋から横羽線下りへ。
芝浦入口を過ぎ、鉄道貨物線とモノレールの高架下を通過。
そのまま天王洲方面へ100キロ程度を維持しながらRX-8を走らせる。
すると、マップにライバルが表示された。
推奨BGM:LAX5 feat.Ryota Yoshinari(from beatmaniaⅡDX19 Lincle)
「(おっ、新しいドライバーか)」
前方に迫ってくる走り屋…赤色のワンエイティである。
見かけ自体はかなり派手なエアロなそのマシン…の通り名はチーム「PHASE X」の「ダンジェリンレッド」と書かれていた。
右車線を走るRX-8だが、ワンエイティは左車線を走っている。
「(何やら速そうな車が目の前にいるけど、どうなのかな…)」
最上は相手のマシンを見て、外観からしてかなりチューニングされているのではないかと認識した。
一方で最上はまだ横羽線のドライバーたちとバトルをしていない。
腕試しをしたいという気持ちもしっかりと持っていた。
そしてそうである以上…最上は勝負を仕掛けようとする。
「(いいや、やっちゃえ。まずはチャレンジ!)」
バトルを仕掛けることを決断した以上、RX-8を減速させて左車線へ。
速度が50キロとなって、ワンエイティの後方にぴったりと付いたところで最上はパッシングする。
「(お、バトルか)」
前方を走るワンエイティのドライバーは、後方からのパッシング…バトル申し込みに気が付いていた。
何者かは知らないが、バトルを仕掛けられた以上断る道理もない。
速度を一定に保ち、バトルスタートの時を待つ。
バトル申し込みを受諾したと判断されたところで、カーナビにカウントダウンが表示されようとしていた。
3
2
1
GO!
アクセル全開とはいえ、ほぼノーマルに等しいRX-8。
速度は60キロからゆっくりと100キロまで加速していく。
加速勝負ではほんのわずかながらRX-8の方が有利のようだ。
「(食らいつけてる。簡単じゃないかもしれないけど、追い抜けるかも…)」
左車線を走っている2台だが、天王洲へ向かう最中にRX-8は右車線へ移る。
加速勝負の中で2台はサイドバイサイドとなる。
速度は130キロを示し、クラッチを切ってシフトアップ…さらに加速していく。
前方がクリアな状態だが、目の前にはあるものが迫ろうとしていた。
「(左カーブ…!さあ、どうなる…?)」
天王洲アイル付近の左直角コーナー。
アウトにいるRX-8が有利だが、ワンエイティも譲らない。
200m、100mと迫っていく。
サイドバイサイドの状態でこのままコーナーに飛び込む…と思われる。
だが次の瞬間。
「っ…!」
ダンジェリンレッドはアクセルを抜き、僅かながらワンエイティを減速させる。
実は音響機器を多数満載している以上、車重が普段よりも重い以上減速するのはどうしようもない。
軽量スポーティというワンエイティの特性を消す弱点を持っているマシン。
そう考えると早めの減速も無理のない話である。
だが最上はその隙を見逃さなかった。
「(…隙ありっと!)」
左サイドのワンエイティが減速したのを見た以上、譲る気はなかった。
左サイドがクリアになったところで、ノーブレーキのアクセル全開でコーナーに飛び込んでいく。
飛び込むのと同時にハンドルを一気に左に切り込む。
左サイドがクリアな状態が分かっていた以上、内側に飛び込んでも問題ないという判断だった。
右車線から左車線へ…アウトインアウトのラインを描き、アクセル全開でコーナーへ突っ込む。
そしてそのまま左車線から右車線へと膨らんだところで、RX-8は下り坂という事もあってさらに加速する。
「…速い!」
天王洲付近の左直角コーナーをアウトインアウトのラインで走行しつつも、ノーブレーキで走り抜けていったRX-8。
一方で早めに減速することで安全マージンを取ったワンエイティ。
コーナー一つでもその差は歴然だった。
ブレーキングしたワンエイティと比べても明らかにスピードが乗っていたこともあり、徐々に引き離される。
モノレール駅の横を通り抜け、景品運河方面へと加速し続けるRX-8。
その車間距離はあっという間に30mは引き離された。
ダンジェリンレッドは必死にアクセルを踏み続けるが、それでも車間距離が埋まることはない。
やはり本来軽量スポーティなワンエイティが重くなっていることが影響しているのかもしれない。
「(あれえ…見掛け倒しだったかな…)」
モノレール駅横を通り抜け、右高速コーナーへ。
一般車をスイスイとよけながら加速するRX-8。
ストレートでの伸びもあり、あっさりとワンエイティを引き離せていた。
160キロでシフトアップし、4速…速度はまだ180キロ程度。
それでも向こうの車はもうどんどんと小さくなっていく。
このまま踏み続ければ勝負はついたと見てもおかしくないだろう。
「(でもこれは、車の差で勝てたのかな…スイフトスポーツだったらどうなっていたことか)」
一方で最上はふとそう思った。
今はRX-8に乗っていたから直線区間で大きく差を広げること自体は出来ているが、やはりこれから高速コースを走るとなったら…比較的コーナーリングマシンであるスイフトスポーツではとてもではないが馬力不足。
やはりこのRX-8に乗り換えて横羽線を走っていること自体は間違えではなかったのではないか、とも思うのだった。
「(少しの間どこを走るかで車を使い分けよう。でも、いずれこの車に乗り換えたい…この車だけをチューニングしていくとしよう)」
これから少しの間コースごとにマシンを乗り換えることを検討したが、同時にしばらくしたら完全にRX-8をチューンする形で完全に乗り換えよう…そう最上は認識するのだった。
そしてそう認識したところで、最上のRX-8のカーナビには「WIN」の文字が表示されていた。
これから攻略していく高速コースのために、新たなるマシンを手に入れた最上。
彼女による「首都高の侵略」…の速さは、さらに加速する。
(第6話End)