「艦これ」いつかあの海で×首都高バトル 2025 -いつかあの環で- 作:カービィ改二
最上に迫る「鬼将」のドライバー2人…
果たして最上はどう戦う?
新車を手に入れるも、チューナーの勧めによってスイフトスポーツで環状線を走り続ける最上。
何度も勝利を重ねる中で、最上の前にあるドライバーが挑戦状をたたきつけようとしていた…。
―――この日、最上は鈴ヶ森入口からコースインして勝島、汐留方面へと走っていた。
マシンはこの後都心環状線を走ることを目的としていた為にRX-8である。
平和島からコースインした理由は、ライバルがいることが分かっていたのと同時に横羽線でウォーミングアップをするためだった。
そして実際、鈴ヶ森から横羽線を北上し…また2人、彼女はドライバーを撃破した。
現在の走行位置としては…芝浦出口付近である。
「(ようし…湾岸線や横羽線でも少しずつ勝利出来てる)」
RX-8やスイフトスポーツで勝ち星を挙げていく最上。
今回の相手もそれほどの相手ではなかったのでスイフトスポーツで勝利出来た。
まあ流石に自分の車よりも小さい軽自動車だったのだから無理もないのだが。
だが一方で最上はふとこうも思うようになっていた。
「(何というか、見掛け倒しも少なくないね…)」
横羽線や湾岸線を走るドライバーたちの中には派手なエアロやバイナル、ペイントを施した者たちが少なくない。
だが一方で見かけ重視というか、見た目から入る人間が多いのか、その性能は最上のRX-8やスイフトスポーツでも十分勝ててしまうほどの低さだった。
派手さを求めて、見掛け倒しな人間が多いというべきなのか…そんなことに関しては、流石の最上も呆れ気味だった。
自分のように地味で、車の内側がチューニングされている方が速いというのは…最上自身が一番わかっているのである。
するとその時だった。
先程のバトルを終えてクーリング走行に入っていた中で後方から1台のマシンが迫ってくる。
推奨BGM:Watch Out!!(from beatmaniaⅡDX14 GOLD)
「(あっ、後ろから1台…?)」
台場線の高架下を潜り抜けたところで、1台のマシンが後方から迫ってきた。
パッシングをするのは赤い大型ワゴン。スバル・レヴォーグ…その見た目通りのヘビーなワゴンである。
大きなマシンであるが、同時にそれ以上に見た目もごつく…エアロも大きく改造されていた。
通り名は「ヒップホップレッド」。「RYTHEM BOX」のチームリーダーのようだ。
「(あのワゴンは…チームのリーダーかな。だとしたら、また挑戦状を?)」
最上はこれまでのバトルから、こうなることはある程度わかっていた。
首都環状の走り屋たちを潰していくと、いずれそのチームメンバーのリーダーとバトルすることになる。
そしていくらかチームリーダーを倒せば実力者とバトルすることが出来る。
そう考えると、横羽線や湾岸線でのバトルもある程度の領域まで来たという事だろうか。
だが、一定速度を維持していると…目の前には浜崎橋JCTが見えた。
「(まあ、いいか。このままなら環状線に入る…!)」
左側から台場線の合流で3車線区間。その真ん中を2台のマシンがバトルを待機していた。
このまま走っていけば都心環状線でのバトルになるだろう…
そうなれば、自然と勝算はある。
そう思うと、最上は少しだけ気が楽になった。
そんな中でカーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!」
GOサインと共にアクセルを踏み込む最上。
目の前の浜崎橋JCTを右方面に向かい、都心環状線内回りへ。
前方はクリアな中で、後方のレヴォーグは最上のスイフトスポーツを追い抜かんと右車線へと移っていた。
目の前の左高速コーナーへ向けてアクセルを全開に踏み込み続けるも、ハンドルを左に曲げてマシン調整。
環状線合流前の左高速コーナーを2台のマシンがサイドバイサイド…140キロ以上の速度で駆け抜ける。
アウトからレヴォーグのノーズが突き出たところで、2台は環状線へと合流する。
「(速い!でも…)」
スピードの乗り具合では明らかにレヴォーグの方が上。
加速でもわずかに向こうの方が上のようだ。
レヴォーグとスイフトスポーツがサイドバイサイドの状態のまま直線区間を走り抜ける。
3車線区間でも互いに一歩も譲らず、互いにマシンを疾駆させていく。
速度が170キロ近くまで加速する中で、最上は勝負どころを見極めようとしていた。
「(読めた…!)」
前方に迫るは…汐留出口直前のS字コーナー。
先程の高速コーナーに比べると明らかにコーナーとしてはきつく、必要に応じて減速は必須だろう。
だがそれでも最上には勝算があった。
あのコーナーを向こうの車…自分の車より重い車よりコーナーを素早く駆け抜ければいい。
マシンの軽さはここで大きな役割を果たすだろう、と最上は確信していた。
いくらストレートで速くとも、コーナーで追いつかれては意味がない…この車の軽さを極限まで生かせば勝てる。
最上がそう思う中で、目の前にS字コーナーが迫る。
「(アクセルを抜いて…)」
前方のS字コーナーに対して、最上はアクセルを抜いてハンドルをくい、と左に曲げる。
勿論一番左の車線に花にも存在しないことを踏まえた上での行動だ。
アクセルオフからくん、と一気に左に曲がったスイフトスポーツは、そのままコーナーの内側に切り込んでいく。
FF車ならではのタックインを発動させ、一気にコーナーに切り込んだスイフトスポーツ。
だがコーナーに切り込んだ時点で、一番右の車線を走っていたレヴォーグはスイフトスポーツとは違ってブレーキを踏み込んでいた。
「(くっそぉ…やっぱりこの音響機材が引っ張るか…!)」
ヒップホップレッドは本業がDJであり、彼が率いるチームも音楽にこだわりを持つドライバーばかり。
そんなドライバーである以上、車内のスピーカーはすでに30個を超えている。
そしてそんなにスピーカーを積むとどうなるか…というと、車が重くなるのは火を見るのよりも明らか。
軽いスイフトスポーツがブレーキせずにコーナーに飛び込んだのにも関わらず、レヴォーグはブレーキをきっちり踏み込んで減速せざるを得ない状況だった。
高速コーナーならともかく、複合コーナーやヘアピンなどでは減速が必須…そんなマシンだったのである。
そしてブレーキを踏み込んだことにより、スイフトスポーツが一気に形勢をひっくり返す。
「(速い…!)」
ノリに乗りながら走ってはいたが、そのノリ以上に相手のマシンはスピーディにコーナーを駆け抜けた。
最初の左コーナーを一気にコーナー内側まで切り込んだかと思いきや、すぐに右に切り返して次の右コーナーも左車線から真ん中、右車線へと滑らかにグリップを維持しながら駆け抜けていく。
そしてそんなスピードに乗ったマシンは、あっという間にレヴォーグを引き離し…汐留JCTの右方向へと走り抜けて、レヴォーグを振り切るのだった。
「(やっぱり速度を落としたコーナーがダメか…あの人も、その類だったみたい)」
汐留トンネル直前のストレート区間でアクセルを踏み続ける最上。
彼女は相手のマシンに対してやはり、「見掛け倒し」と判断するようになっていた。
派手なエアロと派手なバイナルが施された「ヒップホップ・レッド」のマシンは、どうやら自分の想像以上にヘビーなマシンになっているようだ。
そんなマシンでは…軽量なマシンであるスイフトスポーツにコーナーで振り切られても無理もない話である。
そして何より…最上こそ気が付いてはいないが、彼らのチーム…「RHYTHM BOX」は音響装備や音にこだわりを持ったチーム。
だからこそ、「理想の音響環境で、好きな音楽を聴きながら走る」ことを優先しているため、スピーカー類による重量増もあり、バトルでは分が悪い。
ただでさえ重いマシンがさらに重くなってしまっては…バトルで不利に働いているのも何も無理もない話であった。
汐留トンネルに入り、右直角コーナーをそのまま170キロというスピードを維持して駆け抜けていき…トンネル出口へ。
そしてトンネル出口から数十メートル走ったところで、カーナビに「WIN」の文字が表示されていたのだった。
「(リーダーが相手だから身構えたけど、結構何とかなるんだね)」
アクセルを抜いてブレーキを掛け、減速させる。
速度は170キロ台から70キロ台まで減速した。
そこから目の前のS字コーナーも右車線を維持しながら走行させていく。
最上はどこか安心しつつも緊張を解かずに、スイフトスポーツで環状線内回りを走行するのだった。
―――数十分後。
最上のスイスポは環状線内回りを走行している。
場所としては霞ヶ関トンネルの中…霞ヶ関出口と入口合流の間。
何人かライバルとバトルをした上で、環状線を走行している。
とはいえバトルはしていないので速度は70キロ台だが。
「(さて、まだ水温も油温も大丈夫そうかな)」
水温も油温もまだ警告灯が点灯するほどではない。
まだバトルはこなせるだろう、夜はまだ時間がある…そう最上は思った時だった。
目の前の右直角コーナー…その内側にある霞ヶ関入口から、1台のマシンがコースインしてきた。
推奨BGM:Dead Heat(from DanceDanceRevolutionA20)
「(あの車は…)」
エアロを纏い、派手に黄色く塗装されたマシン。
86かBRZのどちらか…ではあるが、そんなマシンがコースインしてきたのが目視で確認できた。
コースインしてきたその…ZR6型BRZは、そのまま誰かを探すかのようにゆっくりと走っている。
最上はそのマシンの後方にまでスイフトスポーツを接近させ、相手の情報を見る。
「(裏切りのジャックナイフ…?まさか、ポラリスとかと同じ…?)」
―――裏切りのジャックナイフ。
元・十三鬼将の1人。天才的なセンスを持つ一方で、長年積み重ねてきた努力によって、その走りはさらに磨き上げられ、鋭い輝きを放っている。
美意識が高いためにマシンの外観も威嚇的でありながらスタイリッシュさを重視しており、ハイパワーを象徴する大型マフラーが人目を引く。
そんなマシンが、最上の目の前にいた。
2台は一定速度を保ちながら、左車線をテールトゥノーズの状態で赤坂ストレートを走り抜けていく。
「(何だろう…速そうだ。まあ、本当に速いのなら僕に勝負を仕掛けてきても…おかしくないね)」
最上としては威圧的なそのマシンに対して、少なからず興味があった。
これ程派手なマシンなのだから、きっと実力もあるに違いない。
それも、ただのハッタリではなく…確実な何かがある。
それはやはり、これまでのチームリーダーたちとは違い、久遠のポラリスと同じように「ボスレベル」と呼ばれるドライバーであるように思えたからか。
そう思った以上、最上としては勝負を待ち構えたいとも思った。
そしてそう思ったところで、スイフトスポーツは右車線へ。
そのままアクセルを軽く踏み込んでBRZを追い抜いた。
「(ここ数日話題のドライバーだな…よし)」
追い抜いた瞬間、ジャックナイフは先程のスイフトスポーツが例のドライバーであることに気が付いていた。
ここ最近新世代のドライバーと呼ばれる者たちが話題を呼んでいるそうだが、自分としてもその存在には気になっている。
そうである以上、バトルを仕掛けたい。
そう思ったところで、ジャックナイフはハンドル右レバーを操作してパッシングを仕掛ける。
「(やっぱり仕掛けてきたか…そうである以上、勝負だ!)」
カーナビにバトル受付の内容が表示されたスイフトスポーツ。
ドライバーである最上も勝負を仕掛けられる可能性があることは察していた。
どんな人物であるかはわからない。
しかし挑戦を断る道理もない。
今は自分の実力を示すまで…そう思った最上は、バトルを受け付けるために速度を落とすのだった。
スイフトスポーツの後ろにBRZが付き、互いのマシンの速度が60キロを示している中で…竹橋JCTとの分岐の寸前でカーナビのカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!」
赤坂ストレートの中間でバトルスタート、アクセルを踏み込む。
60キロから徐々に加速していく2台。
加速としては…BRZの方が上。
左車線を走っていたスイフトスポーツの右サイドにあっという間に並ぶ。
速度は140キロ。
目の前の竹橋JCTまで2台は並走し続ける。
「(速い!でも…)」
前方に迫る左高速コーナー。
そのコーナーの左車線には一般車の赤いハチロク。
最上が不利だ。
だがインコースを取っている以上譲るわけにはいかない。
竹橋JCTの案内ゲートの下を潜り、最上の前方にはハチロクが迫る。
ハンドルを左に切り、コーナーへ。
「(…行ける)」
前方のハチロクのわずかに右サイドを通れば問題ない…一種の度胸試しである。
速度としてはBRZとスイフトスポーツはほぼ互角。
インコースを取っていれば抜かれることはあるまい…そう思った。
左に曲げていたハンドルを僅かにセンターに戻し、ハンドリングを調整。
左サイドにハチロクが通過するように右へと徐々に寄っていく。
右サイドにはBRZ。それでも譲る気はないのでアクセルは踏み続ける。
「くうっ…」
BRZのドライバーは左サイドにスイフトスポーツが迫っていることはわかっていた。
押し出し同然になっているが、それでもこちらは引くつもりはない。
そして次の瞬間。
「……」
サイドバイサイドから一瞬の3ワイドへ。
スイフトスポーツにBRZは完全に外側へ押し出された形となる。
隙間としては1mもないほどに接近するが、同時にBRZの右サイドと壁との挟み撃ちにもなっている。
コースのほぼ中央を走り抜けたスイフトスポーツはわずかながらノーズを取ってBRZからリードを取った。
ハチロクのオーバーテイクと共にそのリードは徐々に大きくなっていき、やがて追い抜いた。
サイドが完全にがら空きになったところで、BRZはスイフトスポーツの後方に付けてスリップストリームに入ろうとするが…アクセル全開で踏み続けているスイフトスポーツに、徐々に差を付けられていく。
「(離される…!)」
最高速度としてはスイフトスポーツの方が上なのか?
いや、一瞬の度胸試しに敗れたからか?
BRZはスイフトスポーツとの距離差を25m以上まで引き離そうとしていた。
環状線とはいえ2台にとってはストレート区間となるエリア…竹橋JCTから一ノ橋JCTへ走っていく中でも、最上のスイフトスポーツは確実に後方との距離を引き離していく。
「(この先の直角コーナーで攻め込めばもう終わりだ)」
最上としてはとどめの一撃を一ノ橋JCT先の左直角コーナーで仕向けるつもりだった。
いくら相手が速かろうと、コーナー勝負で負けるわけにはいかない。
そう思った以上、勝負所をはっきりとさせていた。
速度は180キロ近くまで乗っている。
直角コーナーにしてはオーバースピードだろう。
だがそれでも攻め込まないと負ける…そう最上は認識した。
一ノ橋JCTの分岐を左方向に進み、右車線からコーナーリングへ。
「(…行け!)」
コーナー中間、右車線にタウンエース。
自然とラインは右車線から左車線へ。
アクセルオフから僅かにブレーキを踏み込み、速度を150キロまで減速。
アクセルオフのままタックインを決めるように一気にハンドルを左へ。
スイフトスポーツは右車線から左車線へ移り、ハンドルを微調整しつつそのまま車線をキープ。
そしてコーナーをそのままの勢いで突破し、一ノ橋JCTの合流付近でアクセルオン。
滑らかにコーナーを駆け抜けたスイフトスポーツはそのままの勢いで加速していく。
「(どうだ…?)」
再びコースは東京タワーを視界に入れつつもストレート区間。
このストレート区間で同相手が食らいついてくるか…と思ったが、実際のところはコーナーを走り抜けて数百m走り抜けたところで、カーナビに「WIN」の文字が表示された。
「(終わった…振り切ったし速度落とすか)」
どうやらコーナーで自分は圧倒的な差を出すことが出来たらしい。
一瞬だけブレーキをフラッシュさせてそのままコーナーへ飛び込んだ。
結果としてどうやら相手のコーナーリングスピード以上のスピードで駆け抜け、ただでさえあったアドバンテージを広げることが出来たようだ。
相手を振り切ったことで安堵した最上は、ゆっくりとマシンのスピードを落とすのだった。
―――数分後。
最上のスイフトスポーツは芝公園、浜崎橋JCTを抜けて左方向…都心環状線方面へ。
この時点で最上は再び次のライバルを探すハンターになっていた。
「(さて、次のマシンはどこに…)」
まだバトルとしての数は少ない方。
先程の「裏切りのジャックナイフ」は確かに速かったが、それでもまだ自分の実力で何とかなった以上余裕がある。
どこかに強いドライバーがいないだろうか…
そう最上が思っていたころだった。
汐留S字を真ん中の車線で走っていたところでバックミラーが白く光った。
推奨BGM:ACCELERATION(from pop'n music éclale)
「(…また勝負を仕掛けられた?)」
パッシング。
ここ最近はライバルたちを倒してきたからなのか、一方的に勝負を仕掛けられることも珍しくはない。
やはり先ほどの裏切りのジャックナイフと同様だろうか。
そう思って後方を見ると…そこには、先ほどのBRZと似た…紫色のマシンが迫っていた。
BRZと似ているが若干異なる形状…86GTであった。
カーナビで通り名を確認すると、「ブラッドハウンド」と書かれている。
やはりこのドライバーも実力者だろうか?
「(ブラッド、ハウンド…?)」
マシン形状からして、先ほどの「裏切りのジャックナイフ」と関わりがあるのではないか?
最上はふと思った。
後方のマシンは見たところ先程のマシンとマシンベース自体はほぼ同じ。
違うとしたら細かなエアロとその外観か。
先程バトルしたドライバーの兄貴分だろうか?
だが一方でこうも考えを巡らせる。
「(いや、偶然だよね。さっきの羽田線からの合流だろうし。まあ、バトルしてほしいなら受け付けるさ)」
先程最上は浜崎橋JCTを抜けて都心環状線内回りを走っている。
そこに来るまでには…台場線や羽田線からの合流もある。
きっと合流からの偶然だろう、そう最上は思った。
そして挑戦状を叩きつけられた以上…自分としては是非バトルをしたい。
そう最上はやる気になった。
勝負を受け付けるためにハザードランプを点け、汐留JCTを都心環状線方面へ。
2台が左車線を走りながら一定速度を維持しつつ走行しつつも、汐留トンネル手前でカウントダウンが始まろうとしていた。
3
2
1
GO!
「―――!」
カウントと共にアクセルを踏み込み、加速していくスイフトスポーツ。
だがすぐに86GTが右サイドに並ぶ。
加速勝負でいきなりインコースを突かれてしまった以上、最上としてはどうしようもない。
並走状態…サイドバイサイドで汐留トンネルの最初の右高速コーナーを駆け抜けていく。
トンネル内で速度は140キロ台まで加速する。
「(やっぱり…速い!)」
先程の「ジャックナイフ」と同じくらい…いや、それ以上の速さ。
サイドバイサイドから先行を許すことになってしまう。
汐留トンネルの最初の右高速コーナーであっさりと追い抜かれ、先行を許してしまう。
それでも…
「(逃がすもんか!)」
アクセルを踏み続ける最上。
ハンドルを僅かに曲げて左車線から右車線へと移り、86GTのスリップストリームに。
いくら加速差で差があっても、逃がすわけにはいかない。
そう思った以上必死で食らいつく。
前方の86GTとは付かず離れずの位置。
向こうが本気を出していないのか、それとも空気抵抗が減ってこちらの速度が上がっているのかはわからないが…それでも何とか食らいつく。
汐留トンネルの2つ目の左高速コーナーをテールトゥノーズの状態で抜け、2台はそのまま銀座エリアへと走っていく。
「(この先も直線区間が続く以上、早めに仕掛けるしかない…)」
最上自身、前方のマシンを追い抜くためには賭けに出るしかないと思っていた。
この先の低速S字コーナー。
ここに前のマシンよりも速く突っ込めば…勝機はある。
コーナーで失速したところを突けば何とかなるだろう、という算段だ。
速度は互いに160キロ以上まで加速している。
前方の86GTに食らいつくスイフトスポーツ。
S字コーナーが迫ってくる。
「―――!」
前方の86GTのブレーキランプが点灯する。
その瞬間を最上は見逃さない。
前方はクリア、あとはコーナーに飛び込むだけ。
そう思った以上、アクセルを抜いてブレーキを一瞬だけ踏み込む。
86GTが140キロくらいまで下がっているのならば、スイフトスポーツは150キロくらいのスピード。
だがそのままハンドルを左に切り、左車線に移るのと同時にスイフトスポーツはコーナーへ突っ込んでいく。
「(ここだ、行っけえ!)」
複合コーナーの左コーナー直前でサイドバイサイド、かと思いきやそのままオーバーテイク。
そこからハンドルをぐいと左に切ってタックインを決めるスイフトスポーツ。
左端の壁スレスレを駆け抜け、86GTの前へ。
右サイドがガラ空きになったところで、アクセルを踏み込んで左から右へとハンドルを切り返す。
左から右へと大きく軽やかに旋回するスイフトスポーツは、猛烈な突込みによる速度を維持したまま銀座から新富町までの高架下区間を疾駆していく。
「(やっぱりコーナーじゃ、身軽なこっちが速いんだ…)」
後方の86GTの姿はみるみるうちに小さくなっていく。
そんな中でも一般車をよけつつ最上はそう思った。
今回のように複合コーナーなどのコーナー区間であればまだこちらもある程度は勝つ見込みはある。
だが一方で、スタートで振り切られてしまっては意味がない。
後方の86GTが小さくなっていく中で最上は色々と考えていた。
「(でも、この車じゃ速くなるためには限界が近いみたいだね)」
いくらこの車が軽量スポーティとはいえ、今後様々なドライバーとバトルしていくことになる以上必ず壁にぶち当たる。
その為にRX-8を買った。
そこから今、この勝負を持って最上は「この車の限界があるのでは」とつくづく痛感するのだった。
コーナー勝負というあまりにも博打なやり方では長くないと彼女はふと思うのだった。
新富町出口を抜け、1つ目の橋脚へ。
1つ目の橋脚においてスイフトスポーツは右車線を通過。
速度が180キロ以上まで乗っている中でも、「RX-8ならもっと速くなれるのでは…」と彼女は静かに思っていた。
そう思う以上、最上はマシンパワーの必要性をも痛感するのだった。
後方の86GTのライトは小さく、相手の体力ゲージも減っていく。
そして京橋出口…1つ目と2つ目の橋脚の間でカーナビに「WIN」の文字が表示されるのだった。
「(…はあー、何とかなった)」
京橋出口先の下り坂でアクセルを抜いてブレーキをゆっくりと踏み込んでマシンを減速させる最上。
そのまま2つ目の橋脚も右車線から通過した。
相手の実力は確かに高かった。
今までの走り屋たちとは違う何か…久遠のポラリスと似たようなものがあった。
自分に勝負を仕掛けてきた、ということはやはりそれ相応の実力者だったのかもしれない…最上はそう認識するのだった。
2つ目の橋脚を抜け、八重洲線からの合流で3車線に。
上り坂を上れば江戸橋JCTである。
「(…ちょっと疲れたな。このまま行けば箱崎PAに行けるし、休憩しよう)」
裏切りのジャックナイフ、ブラッドハウンドといった実力者たちを相手に2連戦した彼女も、流石に疲労を感じずにはいられなかった。
そのままスイフトスポーツは一番右の車線から深川線…箱崎PA方面へと向かうのだった。
―――箱崎PA。
最上のスイフトスポーツと、後から追ってきたブラッドハウンドのBRZが箱崎PAへ入ってくる。
2台が駐車した後、先ほどのバトル相手であるブラッドハウンドが最上声を掛けてきた。
バトル中に感じた圧倒的なプレッシャーはすっかり影をひそめており、気さくで面倒見の良さそうな男だった。
「やるな、定時の作業員。お前のその走り…まるで奴の再来だ。噂に聞いていただけはある…」
「…奴?」
最上に対してブラッドハウンドは気さくにそう話しかける。
奴、とは何者か?と最上が思っていると、彼はさらに言葉を続ける。
「お前も聞いたことくらいはあるんじゃないか?…かつて、“最速”と呼ばれた走り屋…迅帝」
「…迅帝?それって?」
ブラッドハウンドが口にした言葉…「迅帝」。それは何者か?
そう最上が思ったところで彼は言葉を続ける。
「もう10年近くも前のこと…ある夜、突如として首都環状に現れ、並み居る強敵たちを次々と打ち破り、瞬く間に頂点へと昇りつめた男。かつて迅帝に最も近い実力を持つ存在とされていた、俺たち…元・“十三鬼将”にとっても、因縁の相手さ」
「十三、鬼将?」
最上にとっては固有名詞がよくわからなかった。
だがそんな彼もそれなりの実力者であるという事だろうか。
「首都環状の走り屋たちの趨勢の中心には、常に迅帝がいた。とはいえ、常に無敗を誇っていたってワケじゃない。新たに現れた走り屋に敗れ、姿を消していた時期も度々ある」
「はあ」
―――迅帝、それこそ首都環状の伝説。
首都環状の走り屋たちの中心には常に迅帝がいたが、彼自身も無敵ではない。
「迅帝不在の時代には、他の走り屋たちが覇権を狙って動き出す。ここ首都環状では“十二覇聖”の連中が勢力を伸ばし、阪神や名古屋でも有力な走り屋たちが躍進していたらしい」
「阪神や、名古屋…?」
「だが、その度に奴は帰って来た。「走りたい」という強い意志が、何度でも奴をここに呼び戻すのさ。4年前─深い悲しみが奴の心を凍てつかせたあの時でさえ、走りへの情熱が完全に消えることはなかったんだ。どこまでも、走ることに取りつかれ、身を焦がしている……」
迅帝という伝説のドライバー。
そんな彼は走りたいという強い意志によって何度も首都環状へと復帰を果たしていた。
すると、一人語りを終えたブラッドハウンドは最上の方を振り返ってこう質問する。
「どうだ?お前さんにも、心当たりがあるんじゃないか?」
「……」
最上には、迅帝と呼ばれる男がよくわからなかった。
だが一方で、どこまでも走ることに取りつかれ、身を焦がしている…そんな男の半生に最上は不思議と興味がわいた。
とても、他人事とは思えない程に。
(第7話End)