終わったなと思った。一度壊れた関係はもうほとんど戻ることはない。
今回の事件はハッキリ言って運が良かった。死んだっておかしくなかった。
だったら、もうミントを僕に関わらせるわけにはいかない。
意外だったのは僕の心がひどく痛いことだ。どうやら僕いつの間にかこの日常を気に入っていたらしい。
でも、これでいいんだ。
「・・・・。」
ミントは無言でうつむく。
「・・・が・・・よ」
「え?」
ミントの声はとても弱く消えてしまいそうなほど小さく聞き取ることが出来なかった。
「違うよ・・・違うよムンクくん!!そもそも今回はアタシがムンクくんを危険な目に合わせたんだよ!?」
「いや、でも・・・」
「でも、じゃないよ!なんでムンクがそんな思いつめなくちゃいけないの!?違うよ!!」
「でも、ミントは死ぬ可能性だってあったんだよ!?」
思わず怒鳴ってしまう。だがミントの目は一ミリたりとも僕から動いたりはしない。
「それはね、お互い様だよ。だからねアタシが言わなきゃいけないのはね!『ありがとう』なの。だからねムンクくんアタシを助けてくれてありがとう!」
「・・・ん・・だよ。」
「ほえ?」
「なんでだよ!!今回ミントは死ぬかもしれなかったんだよ!!?それなのになんで・・・なんでそんなこと僕に言えるの?」
言葉がつい荒くなってしまう。普段あまり表に出ない感情の渦が現れる。
「ムンクくんのそういうなんでも自分のせいにするのはよくないとこだね。今回ムンクくんにあたしは二度も助けてもらったんだよ?あのでっかいのから逃がしてくれて・・・その後もボロボロになっても戦ってくれて・・・・。」
ミントの目がキラリと光に反射する。それでもミントの瞳は大きく見開き僕から視線は外れない。
強い・・・強すぎる瞳だ。
「だから、感謝こそしても恨むことなんて絶対ない!!ありえない!!しかも怖いなんて絶対思わないよ!!だって・・・だって・・・。」
「ムンクくんは・・・ムンクくんじゃない。何も変わってないよぅ・・・。」
それはミントの丸裸の本音だったのだろう。
途中からどんどん涙声になりついには泣いてしまった。
何かが僕の中で壊れた気がした。
多分それはいつも自虐しかしていなかった自分だ。こんなありがとうなんて言われたことなかったから。
結局は逃げたかっただけなのかもしれない。
傷つけしまうから関わらない。これを逃げと言わずなんというか。
「それにね、無理して話さないでもいいんだよ。だってムンクくん凄い辛そうだもん。だったらいいんだよ。話さなくても。」
唖然とする。普段は馬鹿にしているがこの子はなんて器の大きい子なのだろうか。普通あんな力を見てこんなことが言えるだろうか?
なんてお人好しだ。
そんな優しさに触れてしまうのだから涙が出そうになる。それをミントに見られるのは恥ずかしいのでわざと顔をうつむかせる。
「ん?もしかしてムンクくん泣いてるの???いいんだよ~~~泣いても?」
声からしてミントは楽しんでいる。確実に顔をにやけさせていることだろう。
「な、泣いてないよ!」
なぜか悔しい僕は勢いよく顔を上げて否定する。多分泣いてはいないが涙目にはなっているので説得力なんかはないだろう。
「やっぱ泣いてるよ!!目元とかめっちゃ赤いもん!」
ミントは僕を楽しげに僕をからかう。
たいしたことなんて多分してない。というか泣いている人間をからかうなんてひどいことだ。
でも心が安らぐのはなぜだろうか?
「ミントありがとう。」
自然とそんな言葉が出た。
「!?」
「えっと、どうしたのそんな鳩が豆鉄砲くらったような顔して。」
そりゃミントはいきなり口をあんぐりとあけて目を見開いているのだから驚く。
「むむむむムンクくんが笑ったーーーーーーーー!!!???」
「え、いや僕もふつーに笑うでしょ!!?」
心外な・・・僕も笑うぐらいするよ
「いやいやいや!!気持ちわるく笑うことはあってもそんなに輝いた笑顔見たことないよ!!」
なんて子だろうか普段の僕の笑みは気持ち悪いらしく、しかも笑顔としてはカウントされないらしい。
なにそれひどくない?おれ泣いていい?あ、もう泣いてた。
「ムンクくんムンクくんもっかい笑って!いやその薄気味悪い方の笑顔じゃなくて!!カメラ持ってくるから!!」
目の前ではミントがギャーギャーとせわしなく騒いでいる。
そんなミントを見ていると自分がなんで「もう関わらなくていい」とか色々悩んでたのかバカらしくなってくる。
全くこの子といるといい意味で飽きない。
―君はほんとに諦めたように笑うね。見ていて不愉快だよ。―
ふといつしか言われたそんな言葉が頭をよぎる。
その時は顔の表情なんて気にも止めなかった。笑い方で何が変わるのかとも思っていた。
だけど今ではそんな笑みではないらしい。
魔皇兵の戦闘の時もそうだが僕はどうやら少しずつ変わっているらしい。
不思議と悪い気分ではないし、心が軽い。だからこれはきっといい変化だ。あの人もそんな変化を考えて僕に言葉をかけてくれていたのだろう。
普通に笑えるようになったらしいよ、アインさん。
心の中に鮮烈に映るカーネリアの君になんとなく独白してみる。
多分特に何かが起こることもなく、意味なんてないだろう。
でも、それでいいのだ。
本人の耳に届くことは
いつかは本人にいってみたいものだ。
「だーかーらー、その気持ち悪い方じゃないってーーーー!!!」
「いちいち気持ち悪いって言わないでよ!!?」
彼女はそれでもといい笑顔で僕に笑いかけてくる。勝手に僕が引いた身勝手な境界線を何もないかのように簡単に踏み越えてくる。
最初は煩わしかったけどそれはいつしか当たり前のことになっていたらしい。
いつの間にか僕は彼女の存在を受け入れている。
なら、僕もその行動に答えなければいけないのだろう。
えっと、でもいきなりは無理そうだ・・・だから少しずつでいいからミントのことをしっかりと見ようと思った。
ヘタレとかじゃないからね!?あれだよ、僕の心は繊細だからだよ!?
7/16
前回あった旧校舎での事件の怪我はずでに全回復しており僕は普通に登校していた。
時刻はまだ8時丁度。
僕が1限目の授業に遅刻しないなんて珍しいな。何を隠そうこれまでの半分は遅刻しているからね僕。
「あら~ムンクくんだ。おはよー。」
学生寮を出て学院に向かっていると緑髪が目に止まる。
「あぁ、ミントか。あい、おはよー。」
内心ゲッと呻くがそこはなんとか喉に収める。
この学院で最大のトラブルメーカーのミントであっても流石に早朝から厄介事は起こさないだろう。
「でもムンクくんが朝遅刻しないで登校してるとか、雪でも振りそうだよね~。」
なんてひどい言いようだろうか、夏に雪なんてふらねーよ。
まぁ、全面的に同意だが。
「あれ?なんか校舎の中に凄い人だかりが出来てるよ?」
「ほんとだ、何かあったのかな?」
何かあったから人だかりが出来ているのだろう。
何?有名人でもきたのかな。例えばこの学院の理事長のオリヴァルト皇子とか。
なわけないか。
「行ってみようよ!!」
ミントは強引に僕の腕を掴んで引っ張り、人ごみの中突入する。
人ごみの中もみくちゃにされて人だかりの中心に到着するまでにもう僕ボロボロ。人の圧力って恐ろしいな。
「え?」
ミントは口をあんぐりさせて固まる。
ミントの視線の先を見てみるとそこにはデカデカと張り紙が貼ってあった。
なるほど、これに人だかりが出来ていたのか。
ここまでの人だかりだ。これは相当な内容が書いてあるのだろう。
「は?」
張り紙の内容を見ると僕はミントと同じように固まってしまった。
この時のことを僕は深く後悔するだろう。物事を深く考えず怠惰に生きていたことを。
自分の行動が日常にどんな影響を与えるか考えずに生きていた自分を。
時代のうねりはすぐそこまで来ていて、その余波はどこまでも襲いかかる。
運命というのがあるというなら良し悪しに関わらず唐突なのだろう。
人だかりに囲まれている張り紙にはこう書かれていた。
本日をもって
一年Ⅴ組 ムンク
一年Ⅴ組 ミント
以上二名を一年Ⅶ組所属とする。
to be continued
とりあえず僕がかんげていた一章が終わりました。
いや~~小説書くって想像以上に大変。ホントは8話ぐらいに収めるつもりがこんなにかかった・・・。
さて、今回の内容に不満を感じてしまう方本当に申し訳ありません。
感想などにも7組以外の視点が面白いという意見があり今回のムンクの7組加入は迷いましたがこれは一応最初から決まっていたので何卒ご了承くださると幸いです。
というわけで次回からは二章みたいな位置づけです。
引き続き感想、批評を募集中!!!