いうなれば軌跡の裏道   作:ゆーう1

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はじめての実技テスト

「へぇ~昨日そんなことあったんだ。」

 

「あ、あはは相変わらずすごい他人事って感じだね。」

エリオットは眉を潜めて苦笑い。

 

「というかムンク昨日は何をしてたんだ?」

リィンが呆れたように聞いてくる。

 

「うーん、多分そのぐらいの時間は爆睡してたはず……」

 

まさか爆睡してた間にそんなことが起きていたなんて思いもしなかった。

昨日のことだ。

なんでもリィンの妹がこの学園にきて、旧校舎にて正体不明の化け物に襲われたらしい。

幸い妹はリィンとクロウによって助けられ無傷だとか。

ここで頑張って僕が助けたら例の妹はヒロイックサーガみたいな本のヒロインみたいになってたかな?いや、考えるだけ虚しいからやめとこう……

 

「僕が寝ている間に色んなことがおきたんだなぁ…」

 

「というか貴様随分と余裕そうだが実技試験はさぞ自信があるようだな?」

 

ユーシスが皮肉を込めた言葉を放ってくるがそれよりも気になることが一つ……

「実技試験?なにそれ?」

 

 

 

 

「うぎゃああああ」

 

宙を回転しながら華麗に舞う一つの人体。

先に一つ言おう。

普通人は宙を舞わない。

 

「あら、情けないわねぇ。大げさだわぁ」

開放的な格好をロングコートに一張羅に包んだお姉さん系の女性は困ったように苦笑い。

普通人をぶっ飛ばしたらそんな反応しないでしょ、心配しろよ。

 

 

 

「あなた、もうちょっと頑張りなさいよ~これじゃ張り合いがないわぁ。」

 

「そ、そんなこと言われてもですね、サラ教官……」

張り合いって、あんたもう人間の動きやめてますって。

ライオンのごとく獰猛に大地を縦横無尽するあなたに叶う人はいません。

そんなんだから結婚できないんだ。

口が避けても言葉にはしないけど。

 

「それで?貴女達はまだやれる?」

 

「当然だ!」

「ん。愚問。」

青髪と銀髪の少女はサラ教官を強い瞳で睨み返す。

僕だったら当然目をそらす。だって怖いし。

 

 

 

 

いきなり試験とか言われてラウラとフィーという絶賛仲違いしている地獄のチームに放り込まれ、試験内容はサラ教官と戦うというとんでもないものだった。

 

―――回想

 

「今日は新人もいるから、実力試しも兼ねて全員アタシと戦ってもらうわよ!!それじゃまずラウラ、フィー、ムンク入って!!」

今回はサラ教官との戦闘だが実技試験は毎回やることが違うらしい。

聞いた話によれば戦術殻という人形を使うことが多いらしい。

というかサラ教官と戦闘って嫌すぎる・・・。学内ではその教師らしからぬ格好や行動につい目がいってしまうが、実力はあのナイトハルト教官に劣らずとも凌ぐとも噂されている。

 

その上ラウラとフィーが同じチームとまで来た。普通の状態でも嫌だが今は尚更嫌だ。なにせラウラとフィーの関係は今最悪。特に表立って喧嘩するわけでもないがこの二人から出ている攻撃的な雰囲気は胃に悪い。

しかも、いつもひどい僕に対するラウラの説教が二割増という。悪いことずくめだ。

 

「それじゃっ!とっとと始めるとしますか!ムンク!どのぐらいやれるか見せてもらうわよ!!」

サラから凄まじいプレッシャーが吹き上げる。

右手には身の丈近くあるロングブレード、左手には魔導銃。

サラの戦闘は見たことないがその武器を見ただけで恐ろしさを感じてしまう。

 

最初に動いたのはサラ、左の魔導銃でフィーを牽制しつつ、ラウラに突進。

当然ラウラはその大剣で迎え撃つが弾き飛ばされ一瞬宙に浮く。

 

「ダブルアーツ!」

精神を集中させアーツを駆動させる。

エアストライク!

 

不可視の風の塊がサラに向け走る。

サラは最小限の動きで回避するが、放ったのは一発ではない。二発目は一発目とは時間差攻撃になるよう少しだけ遅らせて発動させてある。

風弾はサラの脇腹めがけて―――

 

バン!

だがサラはなんの苦もなくロングソードで叩き落とした。

 

だが目論見は成功だ。もともと攻撃のために放ったわけではなく、ラウラの体制を立て直させるために放ったものだ。

 

「へぇ・・・使い方は上々ね。じゃあ、まず厄介なアンタから潰さなきゃね!!」

 

 

そして僕はいつの間にか宙を舞ってたわけである。

以上回想終わり。

え?想像していたより短かすぎる?

サラに潰すと宣言された次の瞬間には望まぬお空のお散歩を強要されたわけである。

まさに瞬殺。

残ったフィーとラウラは諦めず抵抗するが、二対一という状況を上手く利用することができず僕ほどとは言わないがすぐ倒されてしまった。

 

 

――――

「はーい!それじゃ、評価の時間よー」

 

「概ねみんな及第点をあげれるわ。特にマキアスとユーシスは随分丸くなったわね。」

 

「き、教官!気持ち悪いこと言わないで下さい!」

「一瞬背筋が凍ったぞ……」

 

その時エマに電流走る!

こ、これは!?

対立するマキアスとユーシス……お互いの間にはいつしか友情が、そして……きましたわああああああああ!!!!」

 

「ちょっとエマ!何言ってるのよ!?」

 

「は!?あ、アリサさんわ、わたし今言葉に出してました!?」

そりゃ、おもいっきり。

 

「何故だろうな……最近よく悪寒をかんじるんだが。」

「あぁ、不本意だが貴様もか……」

哀れな子羊達だ……

マキアスとユーシスの回りの空気だけどんよりと淀んでいる。

まるで性質の悪い幽霊に出くわしたかのような顔だ。

そして、恐らくその悪寒は正しい。

恐らくだがこの二人が委員長の頭のなかに描かれた花園を見た瞬間、この世に絶望することだろう。

 

「はいはい!まだ評価の途中だから無駄口しない!」

 

「それで評価の続きね。ラウラ、フィー、ムンクあんた達はダメダメね。落第レベル。」

あちゃー。やっぱりだめだったかー。

といっても落第レベルとか言われて動じるほど僕の心は繊細でもない。

しかし、僕の特に気にしない態度を気にさわったのか……

 

「ムンク!前々から言っているがもっとやる気を出してもらわなければ困る!」

「ぶっちゃけサボりすぎ」

ラウラとフィーは僕を責め立ててきた。

いや、その通りだけど君ら今喧嘩中じゃないの?

僕を責めるときだけ意気投合しないでよ。

 

「いいえ。問題なのはあんた達よ。」

 

二人は思い当たる節があるのだろうかばつが悪そうにうつ向く。

この二人は個人のスキルでは頭一つとびぬけているのに連携が悪すぎた。

まさか、戦闘中アークスのリンクが切れるとは相当なレベルだ。

最近仲が悪いらしいからあたりまえだろうけど。

 

「ムンクはまだましよ。あんた達前衛の援護としてはそこそこではあるけど役割を果たしていたわ。」

 

「ぐっ」

「っ!」

 

そう。こんな僕だがちゃんと仕事はしていたのだ。

主にやっていたのはダブルアーツを使っての牽制。

後衛はあまり得意という訳でもないが適材適所というやつだ。このチームは優秀なアタッカーが二人いるのでわざわざ僕が前に出る必要はない。

 

「だからってサボりすぎね。最低限のことだけすればいいということでもないわ。

前に出れる場面もいくつかあったはずよ。」

 

おもいっきしばれてた。

いや、だって怖いんですもの。

適材適所とか選らそうに言ってたが、正直に本音を言えば前線で繰り広げられる人間の限界を超えたような戦いに混じりたくなかっただけです……

 

「はぁ、聞いた通りの子ね……やっぱりナイトハルト教官のとこに送り込んだ方がいいのかしら」

 

「そ、それだけは!?」

 

電光石火の土下座を繰り出す僕。プライドなんて異次元に放り投げました。

回りの7組の面々はドン引きしているがそれどころではない。

ナイトハルト教官みたいな鬼教官のところに送り込まれたら登校拒否になる自信ある。

 

 

「冗談はそこまでにしておいて特別実習の発表するわよ。」

 

「へ?なにそれ。」

さっきから知らないことばっかりだ。これだから7組には加入したくなかったんだ。

めんどくさそうなことがたくさん。

 

「ムンクくん、このクラスに所属される時いわれたじゃない?」

 

ミントがこっそり耳打ちしてくれた。

なんだろ・・・最近ミントがしっかりした子に見えてきた。病院行ったほうがいいかな?

あー、そんなのもあったなぁ……

 

「ムンク、あなたねぇ……」

サラ教官は呆れたようにため息をはく。

怒る気力も起きないとはこのことなのだろう。

 

「ま、いいわ。とりあえず今月の実習の班分けよ。」

そういってサラ教官から一枚の紙が渡された。

内容は

A班 リィン、フィー、ラウラ、エリオット、マキアス、ムンク(実施地:帝都ヘイムダル)

 

B班エマ、ガイウス、ユーシス、アリサ、ミント(実施地:帝都ヘイムダル)

 

といったものだ。

 

ぎゃああああああああああ

らららららラウラいるじゃん!!??しかも機嫌悪くてまじでヤバそうな状態のラウラ。

もうやだ、後で遺書でも書いておこう。

 

「これって・・・」

「あら、どちらの班も実習地が同じなのですね。」

「ふむ、二つの班で手分けするということだろうか?」

「まぁ、ものすごく大きな街だしそうなるのが自然だけど・・・」

どうやら基本的に実習地は班によって違うらしい。

ちなみに参加しなくてもいいらしいが僕はナイトハルト教官の所へ送られるらしい。逃げられない……

 

 

「「「・・・・・・」」」

全員が何か思うように沈黙する。

 

明らかに今不仲なラウラとフィーを同じ班にしている。

 

「サラ教官」

 

「何かしら、リィン君?」

 

「君付けはやめてください。」

リィンは呆れたように半眼でサラを睨みつける。

 

「いえ、班の編成については何も問題ないのですが……毎回だしにされてませんか?」

 

周りの面々も頷く。

どうやらリィンはこのクラスでこんな感じの立ち位置らしい。

以前もマキアスとユーシスとの仲を取り持ったとか。人あたりもよく、困っている人を放っておけない性格からサラ教官に色々と押し付けられているらしい。

 

「~~~~♪」

それにサラ教官は白々しく口笛を吹いてごまかすだけだ。

 

「ねぇねぇ、ムンクくん、なんだか面白そうな感じになってきたねぇ!一緒の班になれなかったのは残念だけど。」

隣にいるミントどこまでもお気楽で朗らかに笑っている。この子みたいな思考できたら人生幸せなんだろうなぁ・・・

僕としては今回は君みたいなハプニング娘と別れられて少し安心です。

 

とりあえず笑顔でリィンの肩をポンと叩く。

今回の厄介事は全て任せたという意を持たせて。

後日聞いた話だとこの時の僕の笑顔は過去最高に気持ち悪かったらしい(ミント談)

 

それを察したリィンは

「えぇ……ムンクも手伝ってくれよ。同じチームなんだから……」

 

「ムリ 絶対 ダメ」

あんな機嫌の悪いラウラに関わったら少なくとも致命傷を貰う可能性がある。

それだけは避けたい。

絶対やだ。

 

「あ、あはは」

エリオットとマキアスはそんな状況を察してか苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

 

 

実習当日

はっきり言って雰囲気は最悪だった。

朝集合してからフィーとラウラはお互いに挨拶をするぐらいでそれ以外ほとんどまともに喋らなかった。

特に直接的な喧嘩や口論はすることはなかったが沈黙が怖い。

言うなれば冷戦状態だ。

 

列車の中ではリィンの涙ぐましい苦労が見れた。

度々訪れるなんとも言えない沈黙を打破しようと色々と話を振っていた。

何このイケメン。モテるのも納得だ。

 

ただ、リィンの苦労も悲しくあまり報われなかった。

度々フィーの言葉から傭兵関係のことが出るとラウラはフィーを睨み、また沈黙が訪れる。

そんなことの繰り返しだった。

それらのことを除けば概ね良好に列車は帝都に進行した。

 

「わわ!!見てみて!!帝都が見えるよ!!」

ミントが窓から体を乗り出して子供のようにはしゃぐ。

 

「いや、危ないから。落ちても知らないよ・・・?」

 

「ぶー、ムンクくんは雰囲気壊すんだからー。あーでも楽しみ!!帝都ってだけでもワクワクするのに夏至祭もあるんだから!!」

この子は何しにいくつもりなのだろうか。完璧遊び気分だ。

いや、いまだ隙をみてなんとかサボろうとする僕もあんまり人のことは言えないけどさ。

 

夏至祭か・・・

エリオットやマキアスが言うには帝国でもかなり大きな祭りの部類らしい。なんだかんだ僕も楽しみにしているのは内緒だ。こういうイベントの時ってラジオ番組が活発になるんだよね。

 

楽しみもたくさん出てくるがそれと同じように不安も湧いてくる。

帝都ヘイムダル、夏至祭。

この2つのキーワードが揃うだけで何かを考えさせられてしまう。何かが起こるのではないかと考えさせられてしまう。

そう思い赤に染まる帝都ヘイムダルを列車の窓ガラスから見上げる。

それはまるで巨大な化け物ように感じさせられた。

 


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