ふと思う・・・最近僕ラジオ聞いてなくない?
いや、何が不味いってこれ僕の数少ないアイデンティティーだよ?別に自己形成のためとかキャラづけのためにラジオを聞いているわけではないがこれはまずい。非常にまずい。
だって僕だよ?休日には惰眠を貪り好きな時間に起きてはねっころがりながらご飯を食べラジオを聞く。
あ、平日もこんな感じだった。
とにかくそんな僕がラジオを聞いてないなんて言うことはあり得ない。
だから今すぐラジオを聞かなければ!!
え?うだうだうるさい?
あ、はい。
現実逃避やめまーす。
結果だけ言ってしまえば特に苦労することもなく泥棒には簡単に追いついた。
その泥棒は年端もいかない少年だったからだ。
少年がいたところは綺麗とはとてもではないが言えないようなとても衛生上悪いところだった。
ボロボロに擦り切れた毛布やガラクタとしか見えない物置などからここで生活しているということが察せた。
要は孤児ということなのだろう。
そこには一人男の子がいた。
衣服はボロボロのつぎはぎだらけて泥にまみれている。
鼻を突くような匂いからしても風呂なんて入っていないのが分かった。
路地の隅っこで震えながら睨み付けてくるその目はまるで餓えた狼のように感じた。
「何故盗みなんてことした!」
案の定というか、ラウラは男の子に激昂した。
小さな子供であろうと盗みという行為が許せないのだろう。
「お腹が減ったから・・・食べ物がなかったから!」
それに対し子供の言い分は単純なものだった。
シンプルだ。笑えるぐらい単純で盗みという行為をしなければ生きるのすら危ういということだ。
整備された帝都でも貧富の差はやはりあるようだ。
「だからって!」
しかし、あくまでもラウラはその姿勢を崩さない。
だからといって盗みという犯罪をしていいわけがないと激昂する。
正しい・・・どこまでも正しいがそれだけだ。やはりそれだけでしかない。
「ラウラ、ストップ。」
状況を見かねてラウラを止めに入る。
「何をする!!ムン・・・」
「怯えてるよ。」
男の子は已然と睨んでいるがその後ろには小さな女の子が小動物のように震えていた。
そんな姿に毒抜かれたのか、ラウラは何も言えなくなる。
「ちょっと聞いていいかな?」
「なんだよ・・・あんまり近くに寄るなよ。腐った臭いがする。」
それは僕をゾンビとでも言いたいのだろうか。子供にすらこんな扱いである僕って何なんだろうか・・・泣きたくなってきた。
子供は僕を不審そうな目つきで睨む。
「君たち親とかはいないの?」
「そんなのいねぇよ・・・物心ついた時にはもう俺と妹の二人っきりだ。だからあぁでもしないと生きれないんだ!!」
「なるほどな・・・ラウラもう帰ろうよ。」
つまりそういうことだ。生きるために必死で仕方なくやっているということだ。決して褒められたものではないが、僕にこの子たちの行動を止めようとまでする気は湧いてこない。
それはある意味この子たちに死ねと言うことに変わりないのだから。
「いやしかし・・・」
「君たち悪かったね、脅かしちゃってこれは少ないけどお詫びね。」
そういって僕は財布の中からいくらか紙幣を取り出し子供の右手に握らせる。
情けないことだが正直たいしたお金はではない。
別に大したことではない自己満足の偽善だ。
これでこの子達が救われるわけでもない。
「ほら、ラウラ行くよ。」
「ちょっ・・・ま、まて・・・」
お金を渡し、ラウラを強引に引っ張りこの場を後にする。
ラウラは釈然としない雰囲気を醸し出しているがそんなことは知ったことではない。
当然僕だってあまりいい気分ではない。だが無力な僕に出来ることなんてほとんどない。
そんな思考を消すために歩く速さを強める。
身寄りのない人間なんてものは沢山いる。一人一人救うなんて不可能だ。そんな金はない。場所もない。
それがどうしようもない現実。
出来ることは何も出来ない悔しさに歯噛みすることぐらいだ。
――――
子供たちの前から離れ、少し歩いたところでラウラがジト目で僕を見てくる。
「ムンクどういうつもりだ・・・?盗まれた人には何て言えばいい。」
「あ」
そういえばそこまで考えていなかった。
どうするかなぁ・・・
盗まれた方からしたら、盗まれ損なわけで子供の事情なんて関係ないよなぁ。
「あぁ、取り敢えず謝る?」
「はぁ・・・」
ラウラは呆れてため息を吐くが仕方のないことだ。
あんな子供をしょっぴいて連れて行くなんて流石の僕もなけなしの良心が痛む。
「それにしても意外だな。」
「へ?何が?」
「いやそなたが他人にそんな気をかけるなんて珍しいではないか。いつも無関心そうしているからな。まさか金銭を渡すなんて今日は雪でも降るのか?」
やや皮肉がかかっている言葉だがその通りなのだからぐぅの音も出ない。ぐぅ。
「いやぁ、気まぐれだよ・・・それに・・・いやなんでもない」
声に出してしまいそうになった言葉を無理矢理飲み込む。
「それになんだ?そんな言い方では気になるじゃないか?」
「まぁ、なんだ・・・なんとなくだけど僕はあの子の気持ちがわかるんだよ。だからあんななれない行動に出たんだろうなって思っただけだよ・・・」
「ほう・・・解るとは随分な言いようではないか。まさかそなたも孤児だったなんていうのか?」
冗談交じりにラウラは喋るが、それが核心を突いているのだから笑えない。
「そうだよ・・・僕もあの子達と似たようなものだったんだよ・・・」
「へ?」
ラウラが間抜けな声を漏らす。
これは仕方ないことだろう。なにせ冗談交じりに言った言葉が肯定されてしまったのだから。
「僕も元孤児みたいなものだったんだよ。」
―――――
僕が元孤児みたいだと唐突なカミングアウトしてからラウラが妙によそよそしくなってしまった。
何この空気・・・やめて欲しいんですけど・・・
仕方がないことと言えば仕方がないのだが、チラチラとこちらの様子を伺っているのがむずがゆい。その上振り向いてラウラの方に目を向けると途端彼女は目をそらす。どうしたらいいだか・・・
取り敢えず落ち着かせるという意味合いも含めて近くにあったベンチに腰掛ける。ラウラも続いてベンチ座るがやはりそわそわしている。
まぁ、休めるからいいよね。歩くのって疲れるんだよね。
「・・・・」
「・・・・」
ラウラが口をもごもごさせて言葉を出そうとするが、やはり言葉には出さない。
そして僕も自分から話題をふるような人間ではないので必然とラウラとの間に沈黙が訪れる。
沈黙自体はいいが、むしろ大歓迎なんだが今のこの状況はあまり好きにはなれなかった。
ラウラが気まずそうにこちらの様子を伺っているのだからどう反応していいのか困る。
しかし、ラウラはサバサバしたような性格だからこういうことを気にしない人間と思っていたんだけど・・・
まぁ、僕の普段が色々とアレだから意外すぎてどう反応したいいのか分からないということだろう。
流石にこの状況は好きになれないので不本意ながら話題をふることにする。
「ラウラあの子達どう思った?」
「え!?あ、あぁ、どう思ったと言われても。どんな理由があろうと盗みはいけないことだろう。」
いきなり話題を振られて驚くが、当然と言わんばかりに自分の意見を述べる。
「はぁ・・・ほんと優等生みたいな回答だなぁ。」
「じゃあ、何が正解なのだ?」
僕の言いように頭にきたのかラウラはむっとした表情を作り不快をあらわにする。
だが構わず言葉を続ける。
「ラウラが言ってることってさ、あの子供たちに死ねって言っているようなものなんだよ?」
「私は!!!そん・・」
ラウラの言葉に無理矢理言葉を被せて遮る。
だって、話進まなそうだし。
「どういうつもりだろうが結果的にそうなるんだよ・・・正しいだけじゃ腹は膨れない。」
そんなことで腹が膨れるなら今頃世界平和が成り立っているに違いない。
「それでも、盗んでいい理由には」
あくまでも彼女は正論を述べる。
そうだ。確かにその行為自体を許して言い訳ではない。
だが―――
「はぁ。もちろんあの子達を肯定なんてするつもりはないよ。でもどうすればいいのさ?」
「それでも、それ以外に方法が!!」
「ないよ。あるっていうの?子供が働けることなんてほとんどないよ?誰が雇うの?」
当たり前の話だが子供が出来る事なんてものはたかが知れている。ましや子供が金を稼ぐなんてことは無理だ。
「それは・・・」
「よくてそこら辺の変態に身売りくらいだよ・・・」
「ムンク!!」
僕の言葉が指す意味が理解できたのかラウラは激高する。
「そう怒んないでよ・・・でも分かったでしょ・・・正しさなんてものがどれだけ身勝手なのか。」
その言葉に返答はない
だって正しいだけでは腹はふれないのだから。生きていけないのだから。
思い当たる節がいくつかあるのだろう。
「では、では!どうすればよいのだ!!」
「フィーへのわだまかりと似たようなかんじだよ。いい機会だし、自分で考えてみな?どうせ僕の答えを聞いたとこで納得なんて出来ないだろうし。」
所詮他人の考えは他人の考えだ。
どれだけ取り繕うが受け入れることはほとんど出来ない。
結局は自分で答えを見つけ出さなければいけないし、受け入れられないのだ。
仮に無理矢理受け入れたとしてもいつかそれは偽物だと絶望するだけだ。
そして答えを出せたならフィーとの問題も解決するかもしれない。
「それじゃ、みんなのところに戻ろっか。」
ムンクの七組の認識
リィン クソイケメン
アリサ 伝説のツンデレ
マキアス 哀れな子羊(メガネ枠)
ユーシス 哀れな子羊(貴族枠)
エマ 捕食者(腐)
ガイウス なんか風
エリオット 良心
フィー 幼女
ラウラ 猪女
ミント 爆弾娘
サラ なんだかんだ売れ残りそう
サラ「ムンク~ちょっとこっちに来なさい~。」
しばらく教室には見るも絶えないグロテスクな肉塊があったそうな。