僕がベンチから立ち上がりリィン達の所へ戻ろうとするとラウラは慌てて立ち上がり僕を引き止めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれムンク!?戻るってこのまま戻るつもりか!?」
ラウラは僕の行動が信じられないといわんばかりに引きとめてきた。
あぁ、分かるよ。こいつはそういう奴だよな・・・でも僕は違う。
「そうだけど何か問題でもあるの?」
ラウラが何を言いたいのかは分かる、だが、あえてとぼけたような言葉を吐く。
だって、これ以上できることなんてないのだから。
「ムンク!!あの子達をそのまま放っておくつもりか!!?」
やっぱりそうか・・・こいつはそう言う奴だよね。返ってきたのは予想と寸分違わぬものだった。
ラウラは正しいだけではなく困っている人を見捨てることもできないお人好しだ。
それも度を越したレベルのお人好し。
だが、僕はここまでのお人好しなんかじゃないし、赤の他人に構うほど出来た人間じゃあない。
だから、次言うことも決まっている。
「あぁ。」
バチン
僕の無慈悲とも言える発言に切れたのか、きつい一振りが僕の頬に叩きつけられた。
ラウラのその大きな瞳はキッと僕を睨みつけている。
「ふざけるな!!そなたは最低だ!!何故そんな非常なこと言える!!」
「じゃあ、どうしろっていうの?あの子達だけ救うっていうの?あんま表では見かけないけどどこの街にもそうだけどあんな感じの子供ってたくさんいるんだよ?」
一人いれば何にもいる。当たり前の話だ。
当然だが、一人を救えば他の子供は救わないのか?という不平等が生じる。
先程と同じような境遇の子供がどれだけいるだろうか?
一人一人救うなんてことは学生でしかない僕には少なくとも出来ない。
「うっ ・・・ それは・・・」
「そういう人達を一人一人救うにしたってお金は?場所は?面倒はだれが見るの?」
少なくともぼくには無理だ。それにそこまでしてやる義理もない。
「それでも!それでも私は!!」
ラウラとの口論が更にヒートアップしようとするその時、間に誰かがヌッと入ってきた。
「まぁまぁ、落ち着きーや。喧嘩はよくないで?カップルさん。」
「だだだだ、誰がカップルだ!!!」
ラウラを顔を真っ赤にさせて必死に否定する。
意外とこの子不意打ちに弱いのかね。こんな戯言普段通りサラッと流せばいいのに。
ていうか、そういう反応やめてよねー。そんな態度すると9割方面白がって更にからかわれるんだし。
あまりこの会話に交じりたくもないが、何らかの否定をしておかなければ、カップルを肯定している気がしてむずがゆい。
ほら、沈黙は肯定とかいっちゃうじゃないですかー
「そうだよ、誰がこんな猪・・・ごめんなさいラウラ様、言葉の綾でございます。」
強烈な殺意を持って睨まれた。
いや、ほんと謝るから大剣に手をかけるのやめて。いや、ほんと辞めてくださいごめんなさい。
「しっかし、ネクラなあんさんやるなぁ!こんなごっつい美少女落とすなんて!ぜひご教授願いたいとこやな!」
だめだ。この人の頭の中ではカップル設定だ。
ていうか根暗ってなに?僕の事?いや、根暗なんですけどね。
「いや、だからラウラとはそういう関係じゃ・・・単なるクラスメートですけど」
ラウラと恋人になるなんて毎日がバイオレンスになるだろう。そんなのとてもじゃないが身がもたないしごめんだ。
それに控えめにみてもラウラは美少女だ。対する僕は単なるネクラだ。釣り合いはとれない。
「なるほどなぁ・・・うんうん!照れ隠しみたいなもんか!いいねぇ!甘酸っぱい青春みたいな感じで!」
納得したと思いきや明後日の方向の結論をぶちかましてきたよ・・・
あ、この人話を聞かないタイプの人だ。
「この人話聞いてないよね・・・?」
「あぁ、聞く耳を持ってないようだ・・・」
なんでこう、僕の回りには人の話を聞かない人ばっかりなんだろう?
「あぁ、そういや自己紹介がまだやったな!ワイは巡回神父やっとるゲビン・グラハムっていうねん!ほな、よろしゅう!!」
――――
いきなり絡まれたケビンに無理矢理連行され喫茶店でくつろいでいる。
「まさか、ケビン殿が神父とは恐れ入った。」
「あれだよね、そこら辺のゴロツキかナンパ男みたいだもんね。」
「あんさん達結構酷いこと言いよるな・・・。」
僕たちのいいようにケビンは項垂れる。
実際仕方ないと言えば仕方ない、だって全然聖職者には見えないし。
普通聖職者と言われれば法衣を身にまとい厳格な雰囲気を醸し出しているとイメージする。
しかし、ケビンは法衣こそ纏っているものの真逆の印象だった。
まず、その緑髪をかきあげツンツンにした髪型。そして厳格というよりは軽薄と感じてしまう雰囲気なのだから仕方ない。
「それでカップルさん達はなんで喧嘩してたん?」
だからカップルじゃない。もうわざとやっているでしょ。
何度も思うけど僕の周り人は話をいいかげん聞け。
「だから私たちは恋仲ではないと何度言えば分かる!!だいたいこんな腑抜けたやつ願い下げだ。」
「そりゃ僕もだよ。何も考えずに暴れまわる猪なんて・・・ごめんなさい。謝るからその拳を抑えて下さい。」
ラウラが鬼のように睨むのでひたすら平謝り。
いや、お前だって願い下げとかいってるじゃない?僕だけ怒られるとか酷くない?
「なはは!!根暗なアンさん完全に尻に敷かれとるなぁ!」
笑い事ではない。尻に敷かれているどころかもはやサンドバックだ。
「何ラウラ、やたらと機嫌悪いね。生理か何か?」
パァン!!(ラウラが僕にアッパーをぶちかます。)
ドスン!(仰向けに地面に倒れた僕にそのままマウント)
ゴッ!ゴッ!ゴッ!(そのまま僕の顔面に拳を振り下ろす。)
「こひゅー・・・こひゅー・・・」
あぁ、綺麗な川が見える・・・
あははは、川の向こう側にはこの世のものとは思えないような綺麗なお花畑が見えるよ・・・あはは、アハハハハ
「お、落ち着きいや!?あんさんもう虫の息やで!?風前の灯やで!?」
こんな日常で死を感じるとか僕の日常はバイオレンスにも程があるでしょ・・・・
――――
「なるほどなぁ・・・。それで二人が揉めていたわけやな。」
ケビンに事の顛末について説明した。
「難しい話やなぁ。悲しい話ではあるが今の世の中では孤児ってのはどこにでもおるしなぁ・・・。もちろん教会としても全ての子供を救いたいとは思いはするが所詮理想論でしかないしなぁ・・・。」
やはりこの手の話は教会側とはいえ難しい問題なのかケビンは眉をひそめる。
「しかし!あんなかよわい子供たちを捨て置くことなど出来ない!!そなたは心を傷めないのか!?」
やはりラウラはどうにか出来ないかと叫ぶ。
「あぁ、ワイも出来ればそうしたい。せやけどなさっき根暗の兄さんが言った通りそういう子供はごまんとおるねん。そして子供一人を養うのにどれくらいお金がかかるか姉さん知っとるんか?それに土地だって必要だし面倒を見る人だって必要になるんやで?」
「それは・・・」
正論を言われてしまいラウラは言葉につまる。
あれ?僕も似たようなこと言わなかったっけ?まぁ、教会関係者が言うとなんか重みが違うよね。仕方なし。
「姉さんが言ってることも分かる。せやけどな子供一人の命を預かることを軽く見過ぎやで。それにな姉さんの性格上一人救ったらまた他も救わなければ気が済まないやろ。そんなことしてたらキリがないで?」
「・・・・・」
ラウラは何も言えない。
そして僕は言わずもなが。
「おっとすまんな。結構きつく言ってしまうたな。一つ言っておくで?理想を求めるのも大事やが理想に届かずとも今自分ができる最大限のことをすることのほうが時には大事やで。さて、そろそろワイも行かなきゃならんとこがあるから行くわ。後数日は滞在するつもりやから何かあったら相談には乗るで?」
そういってケビンは立ち上がり喫茶店から去っていった。
――――
ケビンが去ってからも僕とラウラは喫茶店に居座っていた。
お互い会話をすることはなくだんまりがかれこれ一時間は続いている。僕があんまり会話しないというのは割と普通のことだがラウラが一言も話さないのは結構珍しい。
ラウラなりにケビンに言われたことを考えているのかもしれない。
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙が続く。
あー喋らなくていいから楽でいいや。このまま、ぐーたら過ごしたいなぁ・・・
とか思っていたらラウラが沈黙を破り僕に質問を投げかけてきた。
「今自分ができる最大限のことをする・・・か。ムンク私に今出来ることはなんだと思う?」
「僕にそんなこと聞くなんて随分と珍しいね。」
本当に珍しいと思う。だって彼女はいつも凛としていてその歩みには迷いがなかった。
「茶化すでない。フィーとのことだってそうだ、私が求めているものが理想だということも分かってはいるのだ・・・だけど妥協はしたくないのだ・・・心がモヤモヤして納得できないんだ。」
迷っているラウラをあまり見たことがないだから驚いたというよりは新鮮だった。
更に言えば親近感のようなものまで湧いてきた。
僕はいつだって迷っている。だから、いつも迷いのないラウラが迷っているとなんていうか「あぁ、こいつも悩むんだ・・・」と思ってしまう。
だから、答えてあげよう。
僕のとても答えとはいえない方法を。
「だったら思いっきり悩めばいいさ。悩んで悩んで悩み抜いてそれで出たのが多分答えだ。」
これでも迷いに関しては僕の方が大先輩だ。なにせ僕はいつだって悩んでいる。
そして先輩なら後輩にアドバイスしてやるのが義務というものだ。
「その答えが間違っていたら?正しい答えではなく全く見当違いのものだったら?私は大きな過ちを起こすのではないかと怖いよ・・・。」
本当に驚いた。
ラウラという人間は弱音を吐くような人間ではないと思っていたからだ。
いつも凛としていて、気高く奢らずその姿はおとぎ話に出てくる戦乙女ヴァルキュリアのように思えた。
そんな彼女が顔を苦しげに歪ませて弱々しく僕を見てくるのだ。まるですがるように。
「間違えればいいじゃない。」
「は?」
「だから、間違えればいいじゃない。悩んで間違って、また悩んでその度に答えを出せばいいじゃない。そうやって自分の納得する答えを泥臭く探せばいい。」
まぁ、間違えずピタリと正解を当てれるのが一番なのだが、僕は要領が良くないのでそんなことは出来ないしこの方法しか知らない。
だいたい間違ってはいけないって考えが馬鹿らしいね。僕なんて間違い過ぎてもはや数えるのすら億劫だし。
「間違ってもいいのか・・・・?」
「はぁ・・・やっぱり頭が固いなぁ。間違えない人間なんていないし、間違っちゃいけない決まりなんてのもない。納得がいくまで間違え続ければいい。」
本当にラウラは頑固だと思う。
「クククク アハハハハハハハハハ!!!!!そうかそうだな。何度でも問い続ければいつか答えは出るか・・・その通りだ、全くその通りだ!至ってシンプルだ。そうかこんなにも簡単なことだったのだな。」
ラウラはついさっきまでは真剣な顔をして眉を顰めていたのに、今度は大きく口をあけて笑い始めた。
「いや、あくまで僕に1意見だからあんまり真に受けられると・・・。」
僕の話なんて聞き流して欲しい。いやほら自分がアドバイスして失敗されるとか嫌じゃない?
「いいや真に受けるさ、だって間違え続けているそなたが言うんだからな。ここまで説得力のある言葉を私は聞いたことがない。」
なにそのひどい言いよう。自分では自覚してても人に言われるとなんかショック。
結局否定は出来ないけどさ。
「だから私を見ていてくれ。答えを出して見せるから。」
彼女は右手を自分の胸に添えて僕に視線を投げる。
その真っすぐに向けられた真剣な瞳に思わずどきりとしてしまう。
普段の行動とかが酷くて(僕に対して)忘れがちだけどラウラは本当に美少女なんだなと思ってしまった。
な、なにか悔しい!
なにはともあれ答えは出ていないものの彼女は吹っ切れた。ならば、答えなどすぐに見つけてしまうことだろう。
ちょいと一言。
なんでわざわざこんな話しを入れてややこしくすんなよ!!!って感じる人たち用に弁解的なのを一つ。
作者自体が本編をみてラウラに不満みたいなものを感じました。
作者的にはラウラを叱る人的なのがほしかったために今回の話をいれたというわけです。
ちょうどムンク君は家族に何らかの思い的なのがある(暫定)らしいのでムンク君に叱らせてみました。
以上!!!