いうなれば軌跡の裏道   作:ゆーう1

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二章(後半)
サラは意外と見ている


「あら、まだ起きてたの?」

 

 

 

ラウラと夜中の公園で話をしたあと時間をずらして元遊撃士商会の宿に戻った。

ほら、時間をずらさないと夜とラウラと一緒に帰ってくるとか状況を見られる可能性あるじゃない?

見られたらあらぬ誤解を受けるし。

そうなるとただではすまない。僕が。

確実にラウラにフルボッコにされる。僕は悪くないのに理不尽だろ、おい。

 

話がずれた。戻るとサラとリィンが部屋の通り道で話をしていた。

それがなんとも言えぬ雰囲気でこっそりと隠れていなくなるのを待つことにした。

しかし、サラに気づかれてしまった。

 

「え、えぇ。午前中寝すぎて……」

 

「午前中は実習課題受けてたでしょ!?あなたサボってたの!?」

 

「いえ、最近歩いたまま寝れるようになりまして。」

最近習得した奥義である。

 

「ある意味すごい!?なんて才能の無駄遣い……」

いいえ才能ではなく努力です。

 

 

「それで?あんまり盗み聞きは感心しないわよ?」

 

言葉につまる。

野生の勘レベルだよ、普通にばれてた。

でも、聞こうと思って聞いたわけじゃないから無実だよね?

サラが元遊撃手とか聞いたけど大して興味もないし。

 

 

「い、いやぁ、悪かったですよ。まぁ、聞いたことは別に喋ったりしませんよ。」

ていうか喋ったらろくな目に合わなそう。

 

 

「ま、別にそこまで大した内容じゃないからいいんだけどね。」

 

沈黙。あれだ、僕が喋らないから沈黙が訪れる。

ここにモテる男との差がある、しね。

 

「あなた、少し私に付き合いなさい。どうせ眠気も覚めてるんでしょ?」

 

「いや、眠いです。今から三十時間は寝ないと……」

ムンク式睡眠術。

その効果は絶大で30時間は連続で寝続けられる。

ぜひ、七組には習得してほしい。これで授業とかボイコットしよう。

 

「丸一日以上!?まぁ、いいわ。いいからついてきなさい。」

 

「えっ」

 

「い い わ ね ?」

底冷えするような眼光。まるで獰猛な獅子だ。思わずからだが震える。

哀れな被捕食者でしかない僕は素直に頷くしかないのだ。

 

 

ーーーー

 

「あなたとは一度腹を割って話したいと思ってたのよね。あの時期にいきなりの7組の加入、確実になんかあるでしょ」

サラは一気に酒を喉に流し込みグラスを空にする。

この人酒癖悪そーだから、少し不安になるな。

介抱とか嫌だよ?絶対嫌だからね。

 

「あ、あはは、色々買いかぶりすぎですよ。ていうか僕にそんなのあると思います?」

 

「まぁ、普段のあなたを見てる限りあり得ないと思うんだけどねぇ・・・」

 

先日の旧校舎での戦闘を思いだし内心冷や汗をかく。

アレを見たのはクロウ、アンゼリカ、ミントの三人だけだ。

ばれていないとは思うけど・・・

 

 

 

 

「あなたはなんでそこまで人と関わろうとしないの?」

 

「いや、単にやる気がないだけで……」

 

 

「いいえ、違うわ。いえ、それも理由の一つではあるでしょうけど根本的に違うわ。」

 

言葉につまる。

軽い気持ちで話をしていたはずなのにいきなり核心を的確についてくる。

心の底を見透かされた気になり恐怖が滲み出る。

 

嫌だ。僕を見るな。見ないでくれ。

 

「いや、本気でやる気がないだけですよ・・・だいたい僕がやる気だしたら数少ないアイデンティティーが崩壊しちゃうじゃないですか・・・」

 

「そんな自己形成捨ててしまいなさい・・・」

サラは眉を潜めて頭を押さえる。

 

「まぁ、無理矢理とは言わないわ。それでも目を逸らさないで見据えて欲しいものね。」

そういってサラは僕に優しげな視線を投げる。

恐らくはこの教官は気づいている。

 

僕が何一つ見ようともしていないことを。

ミントのことだってそうだ。

一時期見ようと心が揺れたかもしれないがやっぱり見ることは出来ない。

どうあがいても僕が僕である以上出来ない。

いや、結局しようとすらしていない。

だって・・・

 

 

 

「あはは、善処します・・・」

頭のなかに腐った林檎のように熟成した思考を廃棄処分した。

それを誤魔化すように苦笑して、相づちをうつ。

 

表面上で、言葉でいくら取り繕ったところで僕は彼らをまっすぐ見ることは出来ないだろう。

それは僕にとっての諦めだ。そして諦めてしまったら僕は終わる。

 

僕を真っ直ぐと見つめてきた少女を思い出す。

僕は彼女に見られる資格があるだろうか?

ない。断言できる。

 

また、ゴミの掃き溜めのような思考が浮かび上がってくる。それをまた棄てる。

それでいいのか?という漠然とした疑問が何度も脳内で反芻される。

だが僕はその疑問に解を出すことは出来ない。

出そうともしない。

いくら考えようが納得のいく解はでない。

情けなく無責任に放置するしか出来なかった。

 

ーーーー

 

夜がさらに更ける。

サラは酒を湯水のように喉に流し込んでいる姿が非常に不安心を煽る。

この人出来上がってないよね?

 

「はぁ~やっぱりいいわぁ~五臓六腑に染み渡るわねぇ」

 

「教官飲みすぎですよ・・・嫌ですよ?介抱とかするの?」

いや、本当にやめて。まじで面倒くさいから。

 

 

「はぁ~せっかくいい気分なのにぃ。ムンク貴方モテないでしょ?」

ほっといてよ。

ていうか、ムードが読めないとかいいたいの?今ムードとかそういうのなかったじゃん。

だから、モテないとか認めたくない。まぁ、モテないんですけどね。

 

「そういえばもうひとつ聞きたいことがあったのよねぇ。」

 

「なんですか・・・?」

分かりやすいようにわざとうんざりとした表情をする。

 

 

「あなた、アイン・セルナートって知ってる?」

 

「はぁ・・・回りくどいですよ。全くどこから調べたんですか・・・」

 

 

「まぁね~これで色々コネとかあるからねぇ~」

 

 

「どうせトヴァルさんでしょ。」

ていうかあの人ぐらいしか思い付かない。

案の定サラは「ばれた?」とか言って下をペロリと出した。

なにそれ。可愛い子ぶられてもなぁ、この人いい年だろうに。

 

「ムンク?」

間違えた。この人はいつでも魅力的だよね、生徒じゃなきゃ告白してたね。

ザンネンダナー

 

「しかし、驚いたわーあのアイン・セルナートに 隠し子 がいたなんて!」

 

ズコーッ!!!

「チッガーウッ!!!!」

ちょっと何言ってんの!?なんでそんなことになってんの!?

 

「あれ、違ったの?」

 

「違いますよ。あの人にはかなりの恩があるのは確かですけどね。」

 

「それで、何の用なんですか?わざわざ人も少ない夜中に呼ぶんだから何かあるんでしょう?」

 

「そうね」

サラが一言呟くと雰囲気が変わった気がした。

先程までの弛い雰囲気が嘘かのようになってしまった。怖いぐらい静かで肌がひりつくようだ。

 

「聖女の落日って知ってるかしら?」

 

「せい・・・じょ・・・?いや、知らないですけど。」

嫌だ。

何か嫌な予感がする。

 

「三年前のことよ。」

 

 

「知らないのね、本当に知らないみたいなのね。」

 

「アイン・セルナートは三年前に死亡してるのよ。」

 

 

 

ーーーー

 

その夜のことはもう覚えてない。

気がつけば宿のベッドに倒れこんでいた。

ただ耳にこびりつく言葉があった

 

「ホントウニナニモオボエテイナイノネ」

 

 

 

 




少しずつムンクの過去に触れていきますよー

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