六月。
トールズ士官学院に入学して早二ヶ月。僕の日常は惰眠とラジオに占められている・・・予定だったが現実は違う。
時にミントに振り回され、時に青鬼(ラウラ)に追われと想像した怠惰に過ごすという夢の学園生活は砂の城のごとく崩れ去ってしまった。
「ムンクくーん。現実逃避してる場合じゃないと思うよ?」
僕の繊細極まりない心を考えもせずミントは現実に引き戻してくる。
「うぐっ・・・。まずいなぁどうしよ・・・。そうだ取り敢えず部屋戻ってラジオ聞こう・・・!」
「だからそれは現実逃避だよ・・・。しかし、まさか赤点を三つも取るなんて。このままじゃヤバイよ?」
「ぐぬぬぬ、流石に再試で赤点を取るのはまずいよね・・・・。」
先日行われた中間試験。僕は見事に赤点を三つ取るという快挙を成し遂げた。
そうこの学院の1%にも満たない赤点三つをとったものとなってしまった。
もともとこの学院はエリートが多く集まる学院らしく赤点なんてものはほとんどでないらしい。
この学院に入ってしまったことを深く後悔する。
「ムンクくん、あたし今日部活あるから勉強手伝えないよ?」
「元々頼ってないよ・・・。」
「む~。なんか馬鹿にしてるでしょ~。全く!ムンクくんよりは確実に頭がいいのに!」
「うぐっ・・・。」
そうなのだ。普段は頭のネジが3本ぐらい抜けてそうなミントも今回の中間テストでは赤点は一つもなかった。しかも導力学に至っては学年で10位には入っている。
こんなの嘘でしょ・・・?
「というわけで部活行ってくるね!じゃあね~~~。」
そう言ってミントは元気よく駆けてった。
僕もあれぐらい能天気に過ごしたいものだ。
「あぁ・・・・。なんか何もしないで頭良くならないかなぁ・・・。」
しかし、言ってみたところで何かが変わるわけもなく・・・・
「はぁ・・・。めんどくさいけど図書館言って勉強するか・・・。」
図書館には自習スペースという集中して勉強できるようにと作られた空間がある。真面目に学習したい人がよく使う。
取り敢えず僕も使っては見るが勉強の意欲がわくどころか睡魔が襲ってくる。おやすみなさい。
「ZZZ―ぐぅ・・・ラジオって素敵ィ・・・むにゃ。」
「君ィ!!!ここは勉強するところであって寝るとこではない!!起きたまえ!!!」
「後五分・・・。」
んーなんか声が聞こえる。誰だ人がせっかく気持ちよく寝てるというのに。
混濁とした意識を声の主に向けようとするが思うように上手くいかない。いいや、眠いからこのまま寝よう・・・。
「お決まりのセリフはいいから起きたまえ!!!!」
怒声が耳元にいきなり響き意識が覚醒する。
「はっ!?あれ・・・ラジオは・・・?」
夢見心地で辺りを見渡すと意識がいきなり現実に引きずり落とされる。
さっきまでラジオを聞いている夢を見てたのに・・・。
意識を集中させると目の前には赤い制服を身につけた緑髪の青年がいた。
メガネつけていていかにも真面目という感じだ。
「ええい!寝ぼけるな!!」
「うるさいぞレーグニッツ。ここは図書館だ、静かにするのがマナーと言うものだろう。」
今度は金髪の青年が現れた。
こっちは上手く言葉には表せないが高貴さというものを感じる。
整った顔に綺麗に切りそろえられた綺麗な金の髪、そして強い意思を感じさせる瞳がそう感じさせたのかもしれない。
そして身に纏っているのは赤い制服。
またⅦ組。なに?運命なの?最近厄介事は主にⅦ組が運んできている気がしてなりません・・・。
「うぐっ。」
レーグニッツと呼ばれた男は注意され悔しそうにする。
「・・・・」
「・・・・」
何故か二人は無言で睨みあう。
喧嘩寸前という雰囲気だ。
「ええと、二人共落ち着いてください。ここは図書館何ですから喧嘩はダメですよ・・・?」
険悪な雰囲気を見かねたのかおっとりとした雰囲気をした赤い制服を身につけた女性が仲裁に入る。
腰にかかるぐらい長い髪を後ろでひと括りにして三つ編みにしている。
また・・・着用しているメガネは・・・・
うん・・・。それっぽいこと言ってごまかすのはやめよう。誰もが彼女を見たらまずその盛り上がる双丘に目が行くだろう。
メガネで三つ編みで巨乳・・・。ここまで属性が揃った人物僕は見たことないよ・・・。
一言で言えば委員長。委員長の中の委員長。
「む、エマくんか・・・。」
「確かにここでは周りに迷惑がかかるな。」
二人も冷静になったのか睨み合うのを止める
「ええと。私はエマ・ミルスティンと言います。貴方は?」
「僕はムンク。」
「マキアス・レーグニッツだ。」
「ユーシス・アルバレアだ。」
「それでムンクさんはここで何してたんですか?」
「いや、中間テストの再試のために勉強しようと思ってたんだけど・・・。」
「再試!?なんでそこまでひどい点を取ってるんだ!?もっと真面目にやりたまえよ!」
「勉強というが貴様ずっと寝ていたようだが。やかましい寝言がこっちにまで聞こえぞ。」
「あはは・・・。」
エマは愛想笑いを浮かべるがドン引きしているのが分かる。
というか、寝言聞かれてたのか・・・恥ずかしいな。
「あ!そうだ!これも何かの縁ですし私たちでムンクさんの勉強を手伝って上げるのはどうでしょう!」
「え?」
めんどくさそう・・・いや、一人で勉強してたら確実に再試もダメなのだろうから願ってもないことだがマキアスとユーシスの雰囲気を見ると不安しかない。
「な、なんで僕がそんなことを!!?」
「ふん、面白い。まぁ、出来ないなら尻尾巻いて帰るがいい。」
「な、なんだと!!?いいだろうやってやる!君なんかよりはよっぽどいい教え方をしてやる!」
「頭の固い貴様にそんなことが出来るとはおもわないがな。」
「なんだと!?」
何この二人・・・。ほっとくと一生喧嘩するじゃないだろうか。
「(なぜでしょう。おふたりのぶつかり合う姿を見ると胸が熱くなります。)」
なぜだろうか・・・エマを見ると凄い悪寒を感じる。
僕が赤点を取った科目は政治学・帝国史・軍事学だ。
再試までは三日あるので一日ずつ交代で勉強を教えてくれることになった。
マキアスが政治学、ユーシスが軍事学、エマが帝国史を担当する。
Sidoマキアス
「というわけで今日一日でみっちりしごいてやるから頑張ってくれよ・・・っていきなりねるなぁ!!?」
「あ、いやごめんごめん。図書館って何故か眠くなるんだよ・・・。」
不思議だよね。
「全くこれじゃ先が思いやられる・・・・ってだから寝るなーーーー!!!!」
だって眠いんだもの・・・追試?もうどうでもいいや・・・
「すいません・・・図書館で騒いでいると苦情が来たのですがこっちに来ていただけますか?」
ニッコリと笑みを浮かべた図書館の受付が話しかけてきた。
顔は笑っているけど目が笑ってない。
この後別室で正座させられ僕とマキアスは一時間近く説教された。
とまあ、ハプニングはあったもののマキアスは一日で僕の頭にこれでもないかというほど知識を詰め込んでくれた。頭がいたい・・・
Sidoユーシス
「だから寝ようとするな。今度寝たら剣で切ってくれよう。」
いや、怖いよ。
目が本気とかいてマジ。
「しかし俺の前でそこまでの態度にする奴も珍しいな。」
「えっと、もしかして貴族だったりする・・・?」
もしかしてまずかったりするかな・・・。
「まぁ、一応な。アルバレアの名に聞き覚えはないのか?」
「あ、四大貴族の・・・そういえばそんな名前だったような・・・。」
「ふん貴様は変わってるな。普通平民はこの名を聞けば態度が急変するというのに。」
「?いや、家名がすごくてもその人はその人でしょ・・・?」
「ふふっ貴様はやはり面白い男だ。すまない横道にそれてしまったな。再開するとしよう。」
ユーシスの教え方は要点をしっかりと捉えてる。無駄なとこを省いて要点だけ教えてくれるので理解しやすい。
政治の再試はなんとかなると思えるぐらいにまでしてくれた。
Side エマ
結論から言うとエマの教え方は完璧だった。要点をしっかり押さえている上に理解しやすいように内容を噛み砕いて教えてくれる。
その上、講師の特徴まで掴んでるからどういう問題が出るかどうかまで予想している。
しかもだ・・・
「寝たらだめですよ!再試を落ちたら大変ですよ・・・・!?」
僕が眠りに落ちようとするとオロオロしながら必死に声をかけてくる。
流石の僕も罪悪感が出て寝れなかった。
ただ一つ。
「はぁはぁ。なんでマキアスさんとユーシスさんを見ているとこんなに鼓動が早くなるんでしょう・・・。」
時折見せる興奮した表情は悪寒を感じさせた。
決して恋する乙女には見えなかった。もっと邪ななにか・・・・。上手く言葉に表せれないし・・・。というか表したくない。
これ以上触れたら危険だからやめとこう。
――――
後日受けた再試はそこそこな点がとれなんとか合格となった。
正直エマ達の助けがなかったら合格は無理だっただろう。心から感謝する。
「はぁ~~~疲れたぁ・・・。とっとと寮に戻ってラジオでも聞こう。」
僕の心のオアシスであるラジオを聞こう。もうしばらく勉強なんてゴメンだ。
「やぁ、君が最近噂のムンクくんかい?」
耳にハスキーな女性の声が届く。
声の方向に向くとそこにはボーイッシュとも言える美少女がいた。
首にかかるくらいまで切りそろえられた紫髪に切れ目の長いまつ毛。そして特徴的なのは黒いツナギだ。普通作業着として着るもののはずなのに彼女が着ればそれはあたかもファッションの一つに思えてしまう。10人中9人は似合うと言うだろう。
「ええと、なんですか・・・。」
「いやいや、特には要はなかったんだけど君が『あんまりにも虚ろな目』をしているからね。つい話かけてしまったよ。」
「もともとですよ。別に落ち込んでたとかそういうわけじゃないですよ。時々ゾンビとか言われますし・・・。」
自分でいって悲しくなってきた。
「そういう意味じゃないさ。まるでここを見てないかのような虚ろさ。」
「・・・・!!?」
心をえぐられたような感覚。
「君はどこを見ているんだい?」
「・・・・・・。」
どこを見ている・・・?それはきっと・・・・。
「いや、いきなりすまない。初対面でする話じゃないな。」
「失礼した。またね後輩くん。」
ツナギの女はそのままどこかへ行ってしまった。
「どこを見ているか・・・」
頭の中に『どこを見ているんだい?』という言葉が何度も再生する。
「じゃあ・・・どこをみればいいんだよ・・・。」
こ、これで一応現時点でのⅦ組全員出せた・・・
あ、引き続き批判とかここはこうした方がいいとかいう意見を募集していまーす