昨日、あの後は二人で近くの大きな湖に行き釣りをした。
「諏訪にある湖だから諏訪湖って言うんだよ。へへっ、私と同じ名前だ。」
なんて事を諏訪子から聞いた。妖怪や神がいるだけで、湖や山の地名は変わらないのかもしれないなどと考えながらぼーっと釣り糸を垂らしていた。結局俺は1匹釣ったが、その魚も食える部分がないらしくリリース。諏訪子もヒットはしていたが、如何やら釣れなかったらしい。
ボウズ二人で悲しみの中、洩矢神社へ戻る。そして二人でここへ来てから三日間何も変わり映えしない食事をとり、昨日に引き続き2人で温泉に浸かり、夜が明けた。
鳥居の方から何やら話し声がするので目が覚める。顔を洗い、着替えて外へ出ていくと2日ぶりに早織さんがいた。盗み聞きした訳ではないが自ずと2人の会話が耳に入ってくる。
「早織、君がよければ赤ん坊引き取ればいいじゃないか。亡くなった夫も君がそうする事を願っていると思うよ。」
「し、しかし…私1人では、この子を食べさせていけません。働いている間の面倒は誰が見てくれるんですか。」
「ならうちに戻ってこればいいじゃないか。早織、嫁いでここを出た手前、夫が亡くなっても戻るに戻れなかったんだろう?また前みたいに一緒に暮らそう。」
「しかし私が戻ってくるのは迷惑では?今は辰哉くんもいますし、、、」
「彼なら大丈夫だよ。きっとわかってくれる。」
「あのー、さっきから何の話してるんですか?」
俺の話が出始めたので声をかける。
「うわ、びっくりした。起こしちゃったね。ごめんね辰哉。」
「いや、いいんだ。それより早織さんがここに戻ってくるって?」
「あの、それは私から説明するね。かくかくしかじか…」
早織さんに言われ、事の顛末を知る。要約すると、今住んでる家の前に赤ん坊が捨てられていたので、赤ん坊のために里親を探してあげたい。しかし、亡くなった夫との間に子供がいないこともあり自分で育てたい気持ちを持っていた。結局働いている間に赤ん坊の面倒が見れないので断念し、諏訪子に里親探しの件を相談しに来たところ、巫女として働いていた頃のようにここで赤ん坊と共に住めばいいと諏訪子は言う。しかし、今は俺が住んでいるので、申し訳ないと早織さんは考えていたようでそんな時にちょうど俺が声をかけたと言う事らしい。
「そう言う事なら、俺は気にしないですよ。なんなら今からでも赤ちゃんを連れて来てくださいよ。赤ちゃん好きなんで。」
「ほらぁ、早織。辰哉もそう言ってるしいいでしょ。」
「しかしぃ〜、私ももう老い先短い人生ですし、」
早織さんはきっと、自分が亡くなった後のことを想像しているのだろう。赤ん坊について考えている様は正に立派な母親だ。
「早織、良い?迷惑になるなんて考えないでいいんだ。私は、いや、私たちは君が赤ん坊と共に戻ってくる事を望んでいる。」
「そこまでおっしゃるなら、、分かりました。でも今日のうちは家に戻ります。今住んでる家との兼ね合いもありますし、1週間経ったら荷物を持ってここに越してきます。」
「うん。それでいいよ。辰哉もいいよね?」
「うん。早織さんなら大歓迎だ。それにご飯を食べるなら人は多ければ多いほどいい。」
「ありがとうね。辰哉くん。では、私は帰ります。来週戻って参ります。」
と言い、鳥居を出て階段を下ってく早織を見送り、今に戻り2人して座り休憩する。2人とも少し距離をとって寝転がっていたが、諏訪子がポツポツと話し出す。
「あの子はね、この神社に捨てられていたんだ、、、だからね、あの子は私の娘も同然なんだ。」
少し間が空く
「あの子にちゃんとした人間の暮らしをして欲しくて、あの子が好いていた子に嫁がせたんだ。でも、夫は5年もしないうちに流行り病で亡くなってねぇ、、私はあの子に幸せになって欲しくて、グスッ、なのにこんな結末はないだろう。」
体を持ち上げ、諏訪子の方を向くと彼女は目に服の袖を当て顔を覆っていた。しかし、震えた声から泣いているのを察するのは簡単だった。
「そこからもあの子は町で暮らしてたんだ、義両親に親孝行すると言ってね、そして一年ほど前だったかな、その2人も天寿を迎えたんだ。だから、たまにまた一緒に住もうなんて言っていたんだ、、けど、グスッ、もう長くない命だからって、、町で暮らすって言って聞かなくて。」
諏訪子の泣き声がする。いつの間にか体操座りのような格好になっていた諏訪子に俺も寄り添い、背中をさする。
「あの子がどう思っているか、分からない。でも、大切な人の死を見送るのも神の務めなんだ。だから、私はあの子が天寿を迎えるまでそばにいてあげたい。」
「そうか。」
一言だけ相槌を打ち諏訪子が泣き止むまで俺はずっと彼女の隣にいた。
〜少女嗚咽中〜
窓から茜が差し込む。
「私、早織が子供を引き取りたい気持ちがあると言った時少し嬉しかったんだ。」
諏訪子が静かに呟く。
「だからつい、喧嘩しちゃった。こんな事あの子一緒に住んでた20年でもなくてね、少し嬉しかったんだ。本物の親子ってこんな感じなのかなって。」
「うん。」
「だからね、私はあの子の子供が大きくなったら、3人で買い物に行くんだ。家族みたいだろ?」
「うん。」
「それで、おばあちゃんなんて呼ばれたりしたら、怒るんだ。私はまだそんなに老けてないって。」
「うん。」
「そこには辰哉もいて、みんな笑ってるんだ、私も、早織も大きくなったその赤ん坊も。」
「うん。」
「それで、早織が天寿を全うしたら、私がその子を立派に育てるんだ。ありがとう辰哉。ずっと私の話を聞いてくれて、肩の荷が軽くなった気分だよ。」
諏訪子がようやく顔をあげ、辺りを見渡す。
「えぇ〜、もう夕方じゃん。ご飯如何しよう。」
「今日は俺が作るよ。大丈夫、任せてくれ。」
諏訪子は少し悩んだ後言う。
「わかった、じゃあ今日は辰哉に任せるよ。」
「任された。」
と言い厨房に向かう俺。1人で初めて土鍋で炊いた米は殆どが焦げてしまっていた。
早織と諏訪子の過去でした。少し無理矢理になってしまった気がします。
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