Übel or Justiz Online ~悪役少女の破滅の道~ 作:蓋然性生存戦略
「……レオナ、私の契約者になって」
———シークレットワールドクエスト《星詠みの夢》が発生しました。本クエストは自動で受諾されます———
突如として告げられた、コスモスさんとシステムからの言葉。
契約者とは?
シークレットワールドクエストとは!?
いきなり叩き付けれた情報に流石の私も混乱に陥りました。
説明が欲しいです。
まあ、あとから考えると、そのまま説明が欲しいと伝えてしまったのは失敗だったような気もしますが。
「……順序を追って説明していただけると助かるのですが」
「……ん、分かった」
そうして、コスモスさんの長いお話が……
「……事の発端は五千年前……」
本当に長かったのでカットです。
要約だけしますね。
1:遠い昔に人柱になった恩人を助けたい。
2:今はタンナのあの森にのみ、契約で縛られているので身動きが出来ないし、契約が無いと存在を維持できない。
3:恩人を助けるために今ある世界が邪魔。
4:つまり世界に喧嘩を売りたいので、世界に喧嘩を売る気満々の私に話を持ち掛けた。
ということですね。
それ私でなくてもよかったのでは?と思わなくもありませんが、色々と満たさないといけない条件がありそうなので何とも言えませんね。
「……なんだか随分と話を端折られた気がする」
「話が長いからですよ。コスモスさんが昔話をしている間に、街に到着するどころか私の部屋に辿り着いたうえで、お茶とお茶菓子まで用意出来ましたよ。次からはもう少し要約して欲しいですね」
「……分かった」
ジト目で恨めしそうに見られましたが、私もジト目で返します。
話が長いんですよ。
どこぞの推定数万歳の猫耳先生じゃないんですよ。
テキストならばまだ笑い話で済みますが、実際に聞くとなると苦しいものがありますね。
さて、愚痴はここまでとして、前向きに検討しましょうか。
とはいえ、まだ情報が足りませんが。
「ひとまず、事情は把握しました。私としても、コスモスさんほどの戦力を迎え入れられるのならば、契約に応じることもやぶさかではありません」
「……そう。でも、そう言うってことは、条件がある。でしょ?」
「そうですね。今私が持ちうる情報だけで、はいそうですかと契約に応じるわけにはいきません。最低でも三つ、行うべきことがあります」
「……なんでも言って。可能な限り応える」
「と言っても難しい話ではありません。まず、私に生じる可能性のあるメリット、及びデメリットを提示していただきましょう。これはどちらについても、どんな些細な可能性でも構いません。次に、コスモスさんに生じる可能性のあるメリット、デメリット。こちらも一つ目と変わりません。そして最後に、契約に際して改善が可能かどうかの協議。それらを行ったうえで、改めて検討しようと思います」
ひとまずはメリット・デメリットを知るところからですね。
契約によって搾取するのもされるのも、私は好みませんし。
やはり暴力、暴力という恐怖による支配。
これぞ悪です。
「……ねえ、私が聞くのもどうかと思うけど、あなた本当に魔王?悪の権化なんだよね?」
「契約を悪用するのは、私のやり方ではないというだけですよ」
「……分かった」
なにはともあれ。
話を聞きましょうかね。
「では、プレゼンを聞きましょう」
ずっと、諦めようと思っていた。
永遠に、そんな機会は来ないと、そう思っていた。
そう思いながら五千年、ずっと引きずっていた。
「……まず、私たちに生じるメリットから」
「最も気になるところですね。助かります」
そんな、私に都合のいい夢、見れるとは思っていなかった。
だから、嬉しかった。
「……レオナに生じるメリットは、私を仲介して魔力を自然から供給可能になることと、私が環境を管理することによる上質な自然由来素材の供給。あとは長年生きた知恵袋、くらい」
「いささかパンチが弱い気がしますが、デメリット次第ですね」
だから今、私は怖い。
この千載一遇の好機を、逃すかもしれない未来が。
「……私に生じるメリットは、正直……このタンナの土地から離れることができる程度、かな」
「メリットの時点で貴女に不利な契約であることは理解していますか?」
「……分かってる」
「はぁ……まあ良いでしょう。デメリットの方を聞かせてもらいましょうか」
怖い。
感触は、芳しくない。
レオナは常に無表情だけど、それでも感情が顔に出る。
分かりやすく。
今、レオナは不機嫌であることは、容易に察することができた。
「……レオナに生じるデメリットは、他の星の賢者、及びそれに類する抑止勢力から狙われやすくなること。私の拠点となる専用の自然環境を用意する必要があること。最後に、気付かれやすくなること」
「ふむ……思ったよりも軽いものですね。最後の一項目が比較的痛いですが……些細な問題ですか」
冷や汗が、止まらない。
けれど、先程よりは、手応えは悪くない。
まだ、まだ大丈夫……。
「さて、それでは聞かせてもらいましょうか。貴女に、生じる不利益を」
「……まるで、そこが本題だと言いたげだね」
「ええ。こと取引において、一方的に利益を得て、相手に不利益を被らせるのは私の主義ではありません。私が不機嫌な理由は、もうお分かりですね?」
私は黙るしかなかった。
目的を考えれば、私が被る不利益など、些細なことだと考えていた。
でも、違った。
「その反応で大まか理解しました。現状では、契約を結ぶべきではありませんね。必死なのは痛いほど理解できましたが、そう安売りされては私も困ります。正直、もう少し吹っ掛けられると思っていました」
「……そんなこと、できるわけない……もう二度と来ないかもしれない好機を掴めるのなら、命以外惜しくない」
「今その好機を棒に振ろうとしているわけですが……」
「……」
「少し、意地悪を言い過ぎましたかね。泣かないでください、コスモスさん。前もって協議しましょうと、そう言ったでしょう?」
レオナが、私を真直ぐに見据えていた。
深く、深く吸い込まれそうなその眼差しは、とても生まれたばかりとは思えないほど、底が見えなかった。
悔しい。
悔しい、悔しい悔しい悔しい。
まだ生まれたばかりだからと、安売りでもなんでも、売り込めばいいと思っていた私が憎い。
千載一遇の好機を、私は慢心で逃そうとしていた。
涙が、溢れそうになる。
「……ん……わかった」
「本当に五千年生きてます?何から何まで幼女ですよ?さぁ、切り替えてください。貴女にとっての利益も、生み出さないといけませんからね」
「……ありがとう」
「礼には及びませんよ。私の自己満足でもあるので」
けれども。
今はただ、この差し伸べられた手に、縋ろうと思う。
今の彼女がどれだけ己よりも脆弱であろうとも。
今は彼女しか、頼れないのだから。
そうして、協議が終わった後、彼女はこう言った。
「誰かを救うために世界を滅ぼす。その時点で私は結構前向きだったのですよ。そういう配下がいても良いと、私は思ったのですから。だって、その方が物語は面白いでしょう?」
ふと、今はもう声も顔も思い出せない恩人と、彼女を重ねた。
この破滅的な美しい色を、私は知っているから。
「……そうだね。綺麗だと、そう思う」
「気が合いますね。幸先は良さそうです。これから、よろしくお願いしますね、コスモスさん」
「……ん、よろしく」