Übel or Justiz Online ~悪役少女の破滅の道~   作:蓋然性生存戦略

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今は気が向いているので


奪還戦も終わり、後処理と共にやってくる新たな(台)風

さて。

消化試合はスキップしましょう。

今回、私が得られたものは、そう多くはないです。

大量の経験値と、ネロ、そして多数の軍勢。

そして、この地の絶対的な支配権。

しかし、それと同じくらい消耗したものも多く、すぐに同じだけの侵攻をされれば、苦しいと言わざるを得ません。

とはいえ、それは向こうも同じこと。

同じ規模の攻撃はかなり無理をしないと実現は不可能でしょう。

コスモスさんから聞いた兵力事情を考えれば、確かなはずです。

双方ともに、消費したリソースは大きかったというわけですね。

さらにいえば、第一席が奪還に本気であれば、自ら来ていたはずとのこと。

であれば、しばらくは問題がなさそうですね。

さっさとリソースをもう一度集めて復興しましょう。

北側の外壁は完全に崩壊してしまっているので大変なんですよ。

工兵部隊を増やしたほどです。

 

「……レオナ」

「どうしました?」

「……足りないかも」

「まあ、そんな気はしていました」

「……特に輸入に頼っていたっぽい資材が」

「深刻ですね」

 

しかし、物資の不足はやはり深刻なようで。

どうしましょうか。

貨幣はあるんですよね、略奪しましたし。

それを使う先がないというだけで。

はてさて、困りましたね。

こういうプレイングですので、伝手が作れませんし。

 

そうしてコスモスさんと2人で頭を悩ませていると。

 

「あ、見つけたっす!レオナさん、コスモスさん、お客さんが来てるっぽいっす!!」

「「客?」」

 

客が来たと、イーティさんが伝えてきてくれました。

しかし客ですか。

イーティさんはポンコツさんですが、外からやってくる人には注意するよう言いふくめてあります。

それを忘れて安易に客と宣う人ではありません。

言われたことをちゃんと守ろうとする人です。

ですので、相手に敵意がないのは本当でしょう。

 

「客はどこに?」

「客間に案内して、アインさんが対応してくれてるっす」

「分かりました。コスモスさんは警戒を。私が応対しましょう」

「……気をつけて」

 

ウダウダと悩んでも仕方ありません。

奇貨となるかどうか、見極めましょう。

 

 

 


 

 

 

「お待たせしたようで」

「いや全然。事前連絡無しで来たのはこっちだからね。キミが魔王レオナで合ってるかな?」

「ええ、相違ないかと。そちらは?」

 

客間に向かえば、高低差のある女性が2人。

片方は幼女と言っても差し支えない、身長140cmほどの長い黒髪の少女。

彼女はソファに座り、すっかりとくつろいでいます。

ちなみに、私と会話しているのはこの少女です。

 

もう片方は、身長180cmを優に超えるであろう、黒髪をポニーテールにまとめた剣士の女性。

少女はともかく、剣士の方はとてつもなく強いですね。

ステータスではなく、技量という意味で。

おそらくは、達人の中でもさらに上澄みと見ました。

少女の右後ろに立ち、いつでも守れるようにと自然体で構えています。

 

「ボクはパイプドリーム商会の商会長、水面月姫(ミナモノツキ)。こっちは護衛の鬼目突姫(オニノメツキ)。よろしく」

「要件を伺っても?」

「いいね、ボクもサクッと本題に入りたいタチなんだ。単刀直入に言うと、取引しない?」

「取引、ですか」

 

ふむ。

およそ人類の敵になりつつある私に取引ですか。

NPCではないのは確定として、その目的が読めませんね。

 

「ボクは商人だからね、キミという莫大な富の源泉を逃すわけにはいかない。以前のタンナが行っていた交易内容と、今回の奪還戦で消費されたであろう物資、そしてキミがこの地で乱獲しているであろう素材の市場価値を加味すれば、これほど利益が見込める取引先候補はない。売買、どちらも対応しよう。どうかな?」

 

渡りに船という話ではあります。

ですが、そう。

信用がないのです、この方に対して。

 

「悪くない話ですが……まだ信用するには足りませんね。商人とは、信用が第一でしょう?」

「そりゃそうだ!まあ、簡単な話さ。ボク達商会の理念は、()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけだ。商談が可能な知能があって、商談が可能な関係値の範囲であれば、ボク達は商談を持ち掛ける」

 

……少々、興味を惹かれますね。

 

「少なくとも、話を聞こうという気持ちにはなりました。続きをどうぞ」

「では遠慮なく。もちろん、さっき誰にでも公平にと言った手前、ボク達パイプドリーム商会はキミたちクリフォト陣営を優遇はしない。キミたちの敵対勢力にも、同じ条件で取引をする」

「絶対中立の商業組織、といったところでしょうか」

「その認識で構わない。とはいえ、()()()()()()()()()()

「へぇ、裏の目的があると言いたげですね?」

「もちろん。ただ馬鹿正直に金稼ぎがしたいだけならこんなことしないよ」

 

なるほど、なるほど。

 

「誰に対しても。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()。悪魔の商人といっても過言ではありませんね?」

「そのとーーーーり!!表向きは公正公平な商会、その裏では巨悪ですら取引を是とする、悪魔の商人たち!!いい響きでしょ~~?そうは思わない?」

 

熱量はともかく、同類でしたか。

それならば、私たちは手を取り合うことができそうです。

少なくとも、私の心を動かせる程度には、厚みのある言葉でした。

 

私は姿勢を組みなおし、可能な限り満面の笑みで言い放ちます。

 

「いいでしょう、その狂言、乗って差し上げます。アイン、貯蔵庫から薬草、鉱物、魔物素材を二割ほどざっくりと持ってきてください」

「えっ」

「承知しました、陛下」

 

ふふ、足りている素材はとことん余っていますからね。

交換取引と行きましょう?

 

しばらくして。

 

「お待たせしました、陛下」

「ありがとうございます、アイン。さて、水面月姫さん。この対価は支払えると見込んでのことですが、いかがでしょうか」

「お、おう……ジャブを打ってみたら釘バットでフルスイングを返された気分だぜ……だがしかし!!ここで呆けたままのボクではなぁい!!でも一括払いは現状できないのでちょっと待ってね」

「かまいませんよ」

「あと、この街に店広げてもいい?ボクも出入りしやすくなるしさ」

「空いている区画があったはずです。かまいませんよ」

 

貨幣を使う商業施設は欲しいと思っていました。

こちら側に参入してくるプレイヤーも増えるかもしれません。

その場合に備え、準備はしておきたいと思っていたところです。

アンデッドではない眷属も増えるでしょうしね。

 

「やったー!!ヒイラげふんげふん鬼目突姫、これ設置お願いね!!」

「水面月姫、落ち着け。護衛を自分のもとから離してどうする」

「大丈夫大丈夫!それでボクが死んだらボクが間抜けだっただけの話だ」

「なにも大丈夫ではないが?まったく……」

 

鬼目突姫さんはアインに案内させ、店の設置を任せました。

その間、水面月姫さんは必死にそろばんを叩いているようです。

 

「キィィェエエエエエーーー!!今回持ってきた予算から大幅にオーバーだよぉー!!予想外、圧倒的予想外っ!!」

「愉快な方ですね」

「まぁね、これでもボク配信者だったし?リアクション芸は得意だよ」

「さようですか」

「ところでキミ、やっぱりプレイヤーだよね」

「さすがに気づかれましたか」

「わざとか、どうりで今の問答で誤魔化されないわけだ」

 

プレゼンの仕方からして、私がプレイヤーだろうという見当をつけて突撃してきた類の方のようですからね。

隠しているわけでもありませんし、疑われ続けるよりは明らかにしてしまったほうがいいでしょう。

 

「で、キミの目標は?」

「圧倒的な巨悪になって勇者に討たれることですが」

「やられるまでが目的か~~!そこまでは予想してなかったな~~」

「悪役とその散り様が好きでして」

「難儀なヘキだね」

「ええ、本当に」

「ま、キミが盛大に爆散するまでは、ボクもボクでこのゲームにおける目的を達成し続けられそうだ。お互い、よろしく頼むよ」

「ちなみに、なぜアナタはこの商会を?」

「ヒーローもヴィランもやったからね。今度は善にも悪にもなる、中立の組織をやってみようと思っただけさ」

「ヴィラン経験について詳しく」

「食いつくねえ!!別に大したことはないさ。馬鹿みたいに強いヒーローにシバかれて改心したのさ」

「光堕ち経験者でしたか」

「恋にも落ちたね」

「そっちの情報は要らないです」

「残念」

 

そんな感じで雑談をすることしばし。

 

「水面月姫、設営が完了したぞ」

「陛下、お待たせしました。ご報告があります」

「その報告はボクがやっちゃおう。アインさん、だっけ?案内してくれる?設営したお店に関しては、ボクが説明しよう」

 

設営が完了したようで。

水面月姫さんが説明してくれるとのことですので、アインに案内されるままついていきます。

というか、さほど歩かずとも見えてきましたね。

なんですかあの大きな建造物は。

普通にモールとかの大きさなのですが?

 

「いやぁ、すごいね!!ここは地脈が豊潤だからボクの《商展開(ショウテンガイ)》も規模が大きくなったみたいだ!!あ、安心してほしい。初期費用に地脈を使ったというだけで、維持に関してはボク持ちだ、支配権なんかもそっちに左右される、気に入らなければ強制撤去が可能だよ」

「いえ、その心配はしていないんですが」

「ならばよし!ようこそ、《狭界商殿街(ディメンションモール)》へ!!」

 

こんどは水面月姫さんに案内されるままに中へ入ると、そこには予想通りの光景が並んでいました。

数々のテナント、品物、買い物客。

 

「この中ではあらゆる戦闘行為が禁じられ、あらゆる取引が公正と判断される商談を通してしか行えない。また、取引相手がどんな存在であるかも、自ら明かさない限りはわからない。わかるのはボクだけ。このモールの中では、出店者もお客さんも、相手が誰であるかはわからないまま、公平に取引をしなければならない。もし不公平な取引をしようものなら、このモールの利用権限を剥奪される仕組みさ」

「ちなみにですが、私が入った時点でテナントと客がいたということは」

「お察しの通り、ボクが設置した個所からなら、どこからでもアクセスが可能で、設置したモールの数と規模によって、この中も拡張されていく。維持費は……商会の売り上げかな。補足すると、入った場所からしか出られないから安心してね」

「なるほど、思ったよりも危険ですね、水面月姫さん」

「いやぁ、それほどでも。出自のおかげさ」

 

もしかせずとも、普段は水面月姫さんも、NPCのように振舞っているのではないでしょうか。

でなければ、この規模の能力を持っている方が掲示板で噂にならないわけがありません。

モールの存在自体は、実は知っていましたが……。

その主がプレイヤーだとは思いませんでした。

 

「《エルメスの寵児》。それがボクの出自でね。いろいろビルドの方向性はあったんだけど、あいにくとボクはVRゲームでの運動はからっきしだ。だから商売に振り切ったらこうなっちゃったのさ」

「それ、本来は色々できたものを一点特化にした結果できた、特異点的な産物では?」

「ボクもそう思う。あ、そうそう。パイプドリーム商会には、あと2人幹部がいるから、今度紹介するね」

「楽しみにしています。ところで、買取はどうしますか?可能ならば買い入れもしたいのですが」

「あ、ごめん。細かい商談はVIPルームでやろう。もちろん、全部買い取らせてもらうよ。ただまあ」

「物々交換でも構いませんよ」

「助かる~~!!あれ全部貨幣で買うだけの予算はなくってさぁ!!」

「見通しが甘かったですね」

「物資の見通しは良かったんだけどね」

 

ひとまず。

強力な協力者を、また得られました。

恵まれていますね。

コスモスさんには……どう説明しましょうか?

敵でも味方でもありませんが、信用はできる。

そう言って、許してもらえますかね……?




・水面月姫
このゲームでひっそり(いうほどひっそりか?)と一大商業勢力を築いたプレイヤー。
文字通り誰が相手でも公正公平に取引をするのが理念のパイプドリーム商会の長。
戦闘力は5を大きく下回る1の雑魚。

・鬼目突姫
水面月姫の護衛に徹しているプレイヤー。
バカみたいに強い、技量だけで言えば作中最強のプレイヤー。
プレイ時間の関係でステータスで劣る。
その代わりに身勝手の極意を会得してる。

・パイプドリーム商会
いつの間にか発足していた(他プレイヤー目線)巨大な規模のお店。
割といろんな町からアクセスできて、公平な取引を必ずしてくれるので人気。
テナント争いが絶えない。
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