Übel or Justiz Online ~悪役少女の破滅の道~ 作:蓋然性生存戦略
生放送も終えまして、17時目前。
事前アップデートが配信されていたので済ませており、すぐにログインできる状態です。
システムを操作して切替え、ログインに備えます。
昔はログイン戦争などと言うものが起きていたようですが、今はそんなことはありません。
近年開発された新世代ネットワーク構築のおかげで、無縁のものとなりました。
最速でログインし、眷属の動きをまず確認します。
余談ですが、メンテナンス中もワールドの時間は動いています。
サーバーを止めずにリアルタイムで変更を加えているということですね。
なんなんでしょうね、この会社。
「アイン。状況を」
「ハッ。陛下のお言葉の通り、普段とは異なる魔物が出現していることが確認できています。事前の指令通り、優先的に討伐を行っております」
「他に変わったことは?」
「例のダンジョンですが、仕掛けが見つかりました。階層の四つ角に存在する部屋のゴーレムを倒し続けると、謎の魔法陣がそれぞれの部屋に出現するようで」
「ほう?」
「しかし、魔法陣の効果が一切不明のままです。同時に魔力を流して見たりもしましたが、何も変化はありませんでした」
「ふむ。気にはなりますが……調査は切り上げて結構です。これより勢力が動き出します、そちらへの対応を優先してください」
「御意に」
仕掛けとやらは気になりますが、悠長にしていることはできなくなりましたからね。
「それとですが、変異種の出現地点はやはりダンジョンも含むようです。戦闘部隊より報告が上がっております。また、戦力配分の調整が難しいとの声も」
「多少相手のレベルを下げても構いません、変異種を優先してください」
「そのように通達いたします」
やはりダンジョンも対象でしたか。
そうなると経験値回収部隊の戦力配分が難しくなりますね。
多少の余裕を持たせてはいますが、ダンジョンと言う環境の中で3割増のステータスを持つエネミーを相手させるには少々心許ないでしょう。
狩場を後退させ、イベントエネミーに集中させます。
「イベントアイテムはまあいいでしょう。問題はレイドボスです。どこにいるかなどの手掛かりがあれば、先んじて手を打ち始めても良いのですが……」
「そちらに関しては足取りを掴めておりません。申し訳ありません」
「構いません。どうせ最後の1週間には姿を現すのです、あまり気負わないでください」
今日という日は予定が詰まっていますからね。
水面月姫さんとも、共謀する約束があるのですから。
私はアインを筆頭とした近衛部隊を伴って、ログイン地点の前哨基地から出立します。
目指すは《星降る海岸の港町》、イベントエリア。
活気のない港町ですが、それでもまだ人が住んでいるので、店の類とかもあったのですよね。
それを水面月姫さんが土地ごと買い上げて、自分の商会系列に仕立て上げてしまったのですが。
そんな系列店のひとつで目立つようにお茶をしましょう、と。
全く、面白い演目が見られそうで何よりですが。
街に進入し、堂々と歩みます。
あちらこちらから視線が飛んできますね。
不埒者はいないようですが、敵意は少なからず。
ふふ、悪くありませんね。
「やっほ、レオナちゃん。約束の時間までは少しあるぜ?」
「そういう水面月姫さんこそ、お出迎えと言うには少し早い思いますが?」
集合場所は、最も人通りの多いファストトラベル施設のある広場。
私と親しげに会話を始めた水面月姫さんと、その護衛である鬼目突姫さんに、多くのプレイヤーの視線が集まります。
それもそのはずです。
水面月姫さんはパイプドリーム商会の商会長ですが、その姿を公にしたことは今までありません。
誰もその正体を知らず、パイプドリーム商会と言う巨大な影しか、プレイヤーは知らないのです。
ですから、このプレイヤー二人は一体何者か?
そんな憶測が一瞬で飛び交うのです。
「いつもイイ取引をさせてもらってるからね、今日は何を持ってくるのかとワクワクしちゃって」
「いつもとさして変わりありませんよ。新しく見つけたダンジョンの素材はありますが」
「もー、レオナちゃんそういうとこだぜ?っと、アインちゃんコンチャ!近衛の皆さんの分も食事があるから期待してね」
「過分なご配慮、感謝いたします」
取引、と聞いた時点で、察しの良いプレイヤーは勘付いているようですね。
共に歩き始めた私達を、遠巻きについてくる者が多数。
しばらく歩いて、そこそこ人通りのある通りのレストランで、私たちは商談と言う名の茶番を始めます。
「で、今回はどんなもん?」
「近衛」
「は。御前、失礼いたします。前回と同様の品を前回と同じ数をご用意させていただきました。そこへ更にフロトータスの涙石*1、怪魚の心臓*2、マニートシェルの真珠*3を各50ずつ」
「うっへ。レオナちゃんさぁ、毎回ボクのお財布ブレイクするの止めな~い?それともまたボクに、
「いえいえ。善意ですよ。ですがまあ、用立てて欲しいものはありますね」
「よ~しバッチコイ!」
「沼沢の魔鉄*4、4等級以上の魔力結晶*5、雷電魚の鱗*6。それぞれ100ずつ」
「どれも在庫はあるけど、取り寄せに時間がかかるね。宅配先は?」
「前哨基地にお願いできますか?」
「オッケー、それなら1週間後にまとめてお届けさせてもらうよ。ま、今回の取引は差し引きこんな感じ。一応これ明細ね」
「いつも言っていますが、取引の公平性に関しては信用しているのですが」
「ポリシーって奴さ。信用第一だからねえ……」
「だからこそ気に入ったのですけどね」
「そりゃどーも。じゃ、堅苦しい話は終わったし、お茶しようよ」
「構いませんが、多忙なのでは?」
「あっはっは!
「水面月姫、30分だけだぞ」
「はい……」
あとは優雅にお茶会です。
そしてお馬鹿さんが釣れるのを待つだけです。
「おい、アンタ。もしかしてパイプドリーム商会の商会長か?」
そして、そういうお馬鹿さんはすぐに釣れるのですよ。
人は愚かですからね。
「そだけど、キミは?」
「なんで敵と取引してんだよ!!」
「なんでって言われても。キミにとっては敵かもしれないけど、ボクにとってはお得意様だ。それだけの話だろう?外野にとやかく言われる筋合いはないよ」
「自分たちだけよけりゃいいってか!?」
ああ、この方は特にお馬鹿さんのようですね。
全く、お勉強した方がよろしいのでは?
「全く。こういう輩はいつなんどきでも湧いてくる、本当にしつこい。飽き飽きする、心底うんざりするよ」
その割には満面の笑顔ですね、水面月姫さん。
「口を開けば自分だけズルいだの恥を知れだの。
キミたちには関係のないことじゃないか、自分のことに目を向ければ十分だろうに。
ボクたちが儲けているからなんだというのか。なら自分もと努力すれば済むことだ。
ほかのプレイヤーに出来たんだ、理論上はできると思えよ。
何も難しく考える必要はない。人が何を求めて金を払うのか。
それを正しく理解して実行している子はだーれも文句を言わないよ。
人がいる限り金はめぐるんだから、いつまでもぶー垂れてないで努力をすればいい。
ほとんどの人間がそうしている。
何故キミたちはそうしない?
理由は一つ、クレーマーは怠け者の集まりだからだ。
クレーマーの相手は疲れるよ。ズルいと言いたいのはボクの方さ。
何の得にもならないことで真剣になれる精神性は本当にズルい」
某鬼の構文を使えて楽しいのは分かりますが、程々にしないとGM呼ばれますよ。
私は紅茶でも飲んで知らんぷりしますからね。
ほら、鬼目突姫さんも呆れていますよ。
「なっ……」
「良いかい?ボク達パイプドリーム商会は、商談が成立する知性があれば誰とだって公正公平に取引する。例え孤児であろうと人外であろうと、それこそ魔王であろうとね。この理念は最初から掲げていることで、どんなお得意様であろうと、この理念を曲げることは許さないし、曲げさせない。絶対中立の商業組織、それがパイプドリーム商会だ。キミたち人類プレイヤーだけに都合のいいお店じゃあないんだよ。お分かり?」
あ、この様子だと私以外にも人外プレイヤーの取引先がいますね?
態度的に私が一番の取引先だとは思いますが。
「全く、バカに付き合ってたらお茶が冷めちゃったじゃないか……店員さん、新しいのをお願い」
「かしこまりました」
まあ、ここまでは予定通り。
大衆の面前でどういうスタンスであるかを示すためのパフォーマンス。
実際にどの程度の相手まで取引するための指標として、私は適格でしょうね。
勿論、ギャラは頂いています。
先程の商談内容に少しオマケしてもらう約束ですね。
「それはそれとして。私の眼前で敵と公言したのですから、この場で殺される覚悟はあるのでしょうね」
さて、今度は私の番です。
レヴォルトを懐から引き抜き、お馬鹿さんに銃口を向けます。
「尤も、敵と呼ぶには烏滸がましいほどの小物ですが」
ーーパァン!
右手が利き手のようですので、右腕に目掛けて1発。
撃たれるとは思っていなかったのか、避けるそぶりすらせずに腕が吹き飛びました。
「がっ?!」
「避けるそぶりすらしないとは、ナメられたものですね。なぜ私がこの街中で平然とお茶をしているのか、その事実に疑問すら持てないような
この街が今、誰の支配下にあるか。
そして私とその他の立場の違い。
最後に人外プレイヤーの受け皿としてここが機能すること。
それらを宣言して、私は銃を懐にしまって紅茶を堪能します。
少し冷めても美味しいですね。
個人的にはアイスティーの方が好みなので。
それはそれとして、ここまでが予定された茶番です。
あとは情報が拡散されるのを期待するだけですね。
野次馬はたくさんいたのですから、よく広がるでしょうね。
水面月姫さんは絶対中立組織の長です。
賄賂などには応じないでしょうが、平等で公正公平な取引であれば応じるでしょう。
そこが攻略ポイントであることは、賢い方ならわかるはず。
上位帯と呼ばれる方々は基本頭の回転が速いですから、すぐに気づかれるはずです。
簡単なことなのですよ。
私以上のお得意様になれば良い。
壮絶なマネーゲームの始まりですよ。
それだけのことです。
軍事力と資本力、そして組織力で圧をかけてくるタイプの魔王。
なお本人も強い。