Übel or Justiz Online ~悪役少女の破滅の道~   作:蓋然性生存戦略

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お待たせしました
多忙って嫌ですね、本当に


星の賢者

『Übel or Justiz Online』モニタールームにて。

 

「よっす。調子どう?」

「あ、社長」

 

余りにも軽い調子で、『Übel or Justiz Online』を作り上げた会社、アヴァロン社の社長が入って来た。

統括Pたる星野ミオンは慣れた様子で出迎え、コーヒーとお茶菓子を持ってくる。

 

「いやぁ、初日でタンナが落ちましたよ」

「マジか」

 

タンナ陥落の報。

別段、どこかの街が陥落することは想定の範囲内だ。

だが、タンナからというのは意外だった。

あそこは最も戦力が集中している始まりの街であり、周囲のエネミーのレベルも高い。

必然的に腕のあるプレイヤーも集まり、そう簡単に陥落するものではなかったはずだったからだ。

 

「人数は?」

「一人」

「へぇ……出自は?」

「バチカルですね」

「マジかよ」

 

出自によっては、一人で陥落させることはできなくはない。

だが、返ってきた答えは予想を大きく裏切り、流石に想定していない出自だった。

 

「バチカルを使いこなせるバカがいるのか。ありゃ私でもないと使いこなせないと思ったんだがな」

「私もそう思ってましたよ。バチカルの選出を見てご愁傷さまって思いましたからね」

 

出自、バチカルこと《邪悪の樹・無神論》。

それはあらゆる能力を高水準で備える、カタログスペックだけ見れば少々どころではなくバランスがおかしい出自である。

だが、それ相応のデメリットも存在しており、それでバランスを取ろうとしていたのだが……。

 

「バチカルは基礎的な能力だけで、特殊能力なんかはほぼ無い。クリフォト共通の悪魔の諸装なんかは、全部マニュアルで補正なんてゼロだから動かすだけで苦労するはずなんだが……しかも魔王型の災厄のくせにDEX傾向は1。それでも全部当てる。バカげたリアルスペックだな」

「自慢の娘です」

「娘?もしかして、あの人形ちゃんか?」

「もしかしなくてもそうですよ」

「あのお人形みたいにやる気皆無だったあの子がなあ……スペックは高いと思ってたがここまでとは」

 

お遊びにしても失敗だったかな、と社長は頭を掻いた。

とは言え特に反省はしていない。

それ相応に勇者の出自なども作ったし、なんなら本来は勇者側の方が少し有利だったりもする。

 

まあ、それはそれとして、レオナ=ユベリアというプレイヤーは社長の想定を上回る存在だった。

 

「それで社長。タンナが滅んだので《賢者》が動くと思うのですが」

「タンナの担当って誰だっけ」

「コスモスですね」

「あ、じゃあたぶん無理だ」

「え!?」

「コスモスは難儀な子だからね、少なくともあの子とは敵対しないだろ」

 

社長は確信した。

あのガキ制御しようとしても無理だな、と。

世界が味方してやがる、と。

 

「なんでです?いや本当に」

「あれ?忘れた?コスモスには特殊ギミックがあって、常に脳波スキャン時のデータを参照して《色別》するって」

「ですから、それがあるから断罪から逃れられないという話では?」

「それは副次的に嘘が分かるってだけで、その本質はウソ発見器じゃないんだよ。だからコスモスの気質上、彼女はレオナちゃんに手を出せない」

「と言いますと?」

「自分も夢を見ているのに、誰かの夢を壊すなんて、良い子ちゃんのコスモスにはできないのさ」

 

純粋に、夢を見ている子には、特にね。

社長はそう言って、コーヒーを一口啜った。

レオナは他のプレイヤーとは違う。

本気の本気で、頂点を取りに来ている。

この世に君臨する、絶対悪になろうとしている。

子供の頃からの夢を、叶えようとしている。

だから、コスモスは手が出せない。

夢見る少女は、夢に弱いのだ。

 

 

 


 

 

 

「……はて。不思議と偵察隊が迂回している場所を強引に進んでみましたが……何とも幻想的な場所ですね」

「陛下、流石に警戒を……」

「必要でしょうか。ここの主と対峙してからでも遅くはないように見受けられます」

「……困った主人です」

「ふふ、頼りにしていますよ」

 

私は生まれた場所を調査すべく、偵察隊を放って探索をしていました。

すると、不思議とマッピングに穴が産まれました。

奥地の奥地、小さな街一つがすっぽり入りそうなほどの面積が、空白となっていました。

おかしなことです。

私は偵察隊に、くまなく探索しろと命じたのですから。

聞けば空白地帯は断崖絶壁とかでもない様子。

何かしらの力が働いていると見て、アインと共に動きましたが……正解でしたね。

 

そこは、一言で表すのならば妖精の住処。

常に月明りのような光に照らされ、蛍のような光が舞い、少しひんやりとする涼しげな微風が舞っています。

小さな命が無邪気に飛び回り、私の髪をいたずらに弄っては去っていく。

それでいて、どこか静かな印象を受けます。

 

「読書するにはいい場所かもしれませんね」

 

ちょうど、遠目にログハウスが見えるので、そこへ向かうとしましょうか。

そう思い、一歩足を差し向けました。

その瞬間、何かが光り、私は反射的に剣を抜きました。

 

「陛下!!」

 

——キィィィン!!

 

閃く剣戟、散る火花。

アインが何かを弾いたようですね。

私がそれを認識した時には、アインは既に加速しており、私はそれに追従しました。

ですが……

 

「……『動かないで』」

「なっ!?」

 

アインの動きが急激に止まり、慣性を殺せずにそのまま転がります。

私も一瞬だけ動きが縛られたような感覚に陥り、足を縺れさせ転びそうになりましたが、翼ではばたいて、なんとか体勢を立て直しました。

しかし、出鼻はくじかれました。

 

「……私の呪言を受けて、動けるんだね」

 

声がして、その方向を見遣ると、そこには幼い外見の少女がいました。

140㎝にも満たない小柄な体躯に、白銀の長い髪。

白磁の肌を白いワンピースに包んだ、儚げな少女。

恐らく、人ではないでしょう。

地面からフヨフヨ浮いてますし。

 

「一応、魔王をやらせてもらっていますから。そういった類のものは耐性があるのですよ」

「……じゃあ、タンナを壊したのはあなた?こっちの混沌の騎士ではなく?」

「そうですね、タンナを滅ぼしたのは私です」

 

どうやら、この少女は勘違いをしているようです。

タンナを滅ぼしたのは私ですよ。

いやまあ、大半はアインで間違いありませんが。

 

「……そう。ならいい。私の役目はあくまで『悪性』の排除。あなたは違う」

「……?私はこれから巨悪として君臨する予定なのですが?」

「……あなたはそれが夢なのでしょう?純粋に、それを願っている。違う?」

「それはそうですが」

 

なんでしょう。

この少女、なんというか、ズレてますね?

 

「……ひとまず、勘違いで攻撃したことは、謝りたい。ごめんなさい」

「いえ、それは構わないのですが。とりあえずアインは無事ですか?」

「……混沌の騎士のこと?死んではいない。呪言で一切動けないだけ」

「アインは私の近衛ですので、返していただけると幸いです」

「……ごめんなさい。『自由にして』」

「はっ!?陛下、ご無事ですか!?」

 

ひとまず、アインを返してもらうことに成功しました。

呪言とやらが解けるなり、私の心配をする彼女は、なんというか、もっと自分のことを心配した方が良いと思います。

 

「私は無事ですよ。どうやら手違いのようです。そこの……申し訳ありませんが、お名前を伺っても?」

「……コスモス。コスモス=クロノスティング=ブルームブルー。コスモスで良い」

「ありがとうございます。そこのコスモスさんはタンナを滅ぼした者を確認したかっただけのようですので、問題ありません」

「しかし」

「少なくとも、今は敵対者ではありません。肩の力を抜いてください」

「……そう仰るのであれば」

 

全く、心配性ですね。

近衛として正しい姿ですので、安心です。

 

「……そう言えば、あなたの名前は?」

「これは失礼を。私はレオナ=ユベリアと言います。気軽にレオナと呼んでください」

「……ん。レオナ、その色を、喪わないでね」

「色、ですか?」

「……なんでもない。それよりも、そろそろ帰った方が良い。ここは時空が切り離されているから、外がどれほど時間が経っているか分からない」

 

それはちょっと困ります。

コスモスさんには礼を言って、すぐさま引き返しました。

言われた通り、30分も経っていないのに、外は2時間ほど時間が経っていました。

 

 

 

 

……なんだか損した気分ですね。

 

 

 

 


 

 

 

 

今日、魔王が私の領域にやって来た。

生まれたての災禍、今はまだちっぽけな魔王。

いつの日か、私たち賢者をも脅かす、そんな存在。

けれど、私はそれを裁くことが出来なかった。

裁くことを、したくなかった。

 

彼女もまた、夢を見ていたから。

まるで稚児のような、幼くて純粋な、夢の色。

憧れて、憧れを捨てきれず、憧れになろうとした、そんな色。

 

レオナ=ユベリア。

 

《邪悪の樹》に連なり、無神論を背にせし、異邦の民。

彼女は、向こうの世界でどんな思いを抱いて生きて来たのだろうか。

溢れる才覚を持て余すことしかできなかった彼女は、一体どれほどの苦痛を堪えて来ただろうか。

 

だから、私は裁くのではなく、許すことにした。

他の誰が許さなくても、私だけは、彼女を許したい。

かつて、私が許されたように。

 

「……私は”見つけた”のかもしれない。だとすれば……私はまた、咎人になる」

 

まだ、確信はない。

けれども。

彼女が、世界を変えてくれるのなら。

 

「……その時は、私はこの楔を引き抜いて、彼女について行こう」

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