IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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 今回短め
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9話

 

 

「作戦完了ーーーと言いたいところだが、お前達は独自行動により重大な違反を犯した。帰ったらすぐ反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ」

 

「………はい」

 

 

 腕を組んで仁王立ちの千冬の前に並んでいるのは、6人の専用機持ちたち。それぞれ正座させられており、セシリアに至っては真っ赤な顔が真っ青になるほどの苦痛を味わっている。

 まぁ、独断行動にしては破格の罰と言えよう。これは作戦完了の功績と相殺した結果であり、千冬の温情とも取れる。

 

 摩耶の隣で救急箱を持ち、ナナは今回の事を振り返る。

 一夏が怪我をしたのは予想の範疇。なんなら多少の怪我が増えてもバレないとさえ思っていた。しかし、今の一夏に火傷の後はなく、傷は多少あるがどれも真新しいもの。それが解せない。

 少なくとも、跡が残るとは思っていたのだが、綺麗さっぱり消えているのだ。考えられる事はひとつ、白式の第二形態移行が原因。だが、ISが搭乗者の傷を治癒するなど聞いた事もない。

 

 束さえ不思議がる、白式の謎。それが鍵なのだろう。

 

 

「あ、あの、織斑先生。もうそろそろその辺で………け、怪我人もいますし、ね?」

 

「ふん………」

 

 

 怒り心頭の千冬に対して、摩耶はおろおろとしている。さっきから救急箱を持って来たり、水分補給パックを持って来たりと忙しい。

 

 

「じゃ、じゃあ、一度休憩してから診断しましょうか。ちゃんと服を脱いで全身見せてくださいねーーーあっ!男女別ですよ!」

 

「oh、残念ネ。そしたら一夏、君はオレが診断するヨ」

 

「お前はお前で話がある。織斑、傷や違和感があればすぐに報告しろ。そして………よくやった、お前ら。よく全員無事に帰って来たな」

 

「え?あ………」

 

 

 少し照れくさそうに、そう言葉を発した千冬はナナの襟首を掴むとそのまま別室へ。盗み聞きされていないか入念にチェックすると、ナナに向き直る。

 

 

「貴様、やるにしてももう少し隠せ。疑いしか出て来んぞ」

 

「ああ、一夏のデータの件か?安心しろよ、もうそいつに意味はねェ」

 

「そう言われて頷く馬鹿がどこにいる………」

 

「そりゃそうだろうな。だが、あいつはあの篠ノ之束が見張ってる。下手に手は出さねェよ」

 

「なに?」

 

 

 ナナの言葉に千冬が眉を顰める。顎で続きを促す様に指示すれば、抵抗する意思のないナナは朗々と語り出した。

 

 

「言葉通りの意味だよ。あいつのデータを無断で持ち出そうものなら、篠ノ之束がそれを阻止する。例え、それが国相手だろうとな」

 

「………根拠は?」

 

「あいつにやられた、負け犬としての直感だよ」

 

 

 ナナの言葉に、間違いはないだろうと確信する千冬。

 一夏は束のお気に入りだ。それを奪おうものなら、何が何でも排除する。そこに躊躇などない。その結果、一国を滅ぼそうとも。

 

 

「…………わかった。取り敢えずは信じてやろう。だが、貴様はどうするつもりだ?」

 

「どうもこうも、自由の身にはなれねェ事は確定してるンだ。精々、残り少ない日の目を浴びておくことにするよ」

 

「そうか………」

 

 

 教員として失格かもしれないが、その言葉に安堵を覚えてしまう千冬。一夏の脅威がひとつ減った事を喜んでしまったことに恥を覚え、教員として何かできる事はないかと考えようとするが、それは他でもないナナが止めた。

 

 

「言っておくが、安い同情なんてするなよ?あくまで手段がなけりゃ、の話だ。オレは絶対、この首輪を外してやる」

 

「それを、教員の私に宣言する意味がわかっているのか?」

 

「わかってるよ。ただ、なぁ………なんでだろうな。腹のモン、ぶちまけておきたかったンだよ」

 

 

 床に腰を下ろしたナナが、くしゃりと前髪を掴む。その身体は震えており、いつもよりも弱々しく千冬の目に映る。

 

 

「………何があった?」

 

「はぁ………どうもこうも、あの篠ノ之束に脅されたンだぞ?死ンでねェことが奇跡だ。今日だけで何回走馬灯見たと思ってやがる」

 

 

 ナナがここまで素直になるほど、多大なストレスを与えられたのだろう。これは演技ではない、と千冬に思わせる恐怖。死を体感した人間の反応だ。

 

 

「本国には上手い事言っておく。まぁ、篠ノ之束と直接会えて、接点まで持てたんだ。暫くは何も言って来ねェだろうよ」

 

 

 小言はあるだろうがな、と付け加え落ち着いたのだろう。震えが治まったナナは立ち上がると千冬と向き合う。その瞳に恐怖はなく、貪欲に生きる事を見ていた。

 

 

「話は以上か?なら、オレは戻るぞ」

 

「………ああ。だが、オーウェン、ひとつだけ覚えておけ」

 

 

 そのまま去ろうとするナナの背中に、千冬は声をかける。これは教員としてではない、1人の大人としての言葉。

 

 

「どうしようもなくなったら、頼れ。少しは力を貸してやる」

 

「………そりゃドーモ」

 

 

 いつもの調子が出て来たのか、反抗期の少年のように振り返りもせずにそう返して部屋を出る。後に残された千冬は少し、今までの態度を後悔するのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 夜の海というのは、中々に趣があるものだとナナは思う。昼間とは違い静寂な海に響くのは細波の音。灯りの少ない代わりに月明かりが周囲を照らし、世界に己しかいないと錯覚してしまう。これで2人きりならば、絶好の告白のシチュエーションといえよう。

 

 まぁ、実際はそんな事はなく、思いふける瞬間などありはしないのだが。

 

 

「なぁんでこうなるのカナ?」

 

 

 ナナの視線の先、そこにいるのは一夏と箒だ。明日で臨海学校も終わるため、泳ぎ納めに行くのだと言って聞かない一夏を尾行したのが少し前。暫く泳いだ一夏を、水着姿の箒が待ち構えていたのだ。おそらく、海に向かう一夏を見掛けた故の行動だろう。

 

 問題はその後である。何せ、他の4人もまた一夏と2人きりになろうと動いていたのだから。

 

 

「ちょっと、邪魔しないでよ‼︎」

 

「ああ!あんなに一夏さんと近づいて………う、羨ましい‼︎」

 

「ふむ、ああ言うやり方もあるのか………ええい、見えないではないか‼︎」

 

「ナナ。僕を通してくれるやね?ねっ⁉︎」

 

「元気だネ、君たち」

 

 

 近くの岩場にて、お互いに意識し合う一夏と箒の元へと乱入しようと奮戦する鈴を妨害し、今にでも手が出そうなセシリアを牽制し、観察するラウラを帰る様に促し、押し通ろうとするシャルロットを邪魔立てする。

 なぜこんな事をするのか、ナナ自身もよくわかっていない。ただ、少しだけ羨ましいと思ってしまうのだ。

 

 自分にはできない事だから。自分には過ぎたものだから。

 

 だから、あの雰囲気に水を刺したくないのだろうと、納得する。そうしている間にも一夏と箒の間が縮まっていく。それに気を取られたのが運の尽きだろう。

 

 

「〜〜っ‼︎もう、我慢なりませんわ‼︎」

 

「ちょ、Wait‼︎Don't move forward(進むな)‼︎」

 

 

 セシリアがブルー・ティアーズのBTを飛ばしたのを皮切りに、それぞれ得意な獲物を呼び出す面々。流石に抑えきれず、進行を許してしまったナナは全員に足蹴にされてしまった。

 結局のところ一夏と箒の間に割って入った4人はそのまま逃げる2人を追う羽目に。

 

 それを仰向けになりながら眺め、ナナはため息を溢す。足蹴にされたのにも関わらず、不思議と苛立ちはない。きっと、この光景を楽しんでいる自分がいるせいだろう。

 我ながら死に直面して変わりすぎだ、と思わず自嘲する。その笑い声は夜の海に呑まれ、消えていくのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「紅椿の稼働率は絢爛舞踏を含めても42%かぁ。まぁ、こんなところかな?」

 

 

 空中投影ディスプレイに浮かび上がった各種パラメータを眺めながら、その女性は無邪気に微笑む。

 

 子供のように。天使のように。

 

 月明かりが照らすその顔は、いつもと変わらない。いつだってどこか退屈そうな顔の、篠ノ之束その人だった。

 鼻歌を奏でながら、別のディスプレイを呼び出す。そこには白式第二形態こ戦闘映像が流れていた。

 

 それを眺めながら、束は岬の柵に腰掛けた状態でぶらぶらと足を揺らす。

 目の前にはただ海が広がり、高さは30m近い。落ちれば無事では済まないその場所でも、束の表情は決して変わる事はない。

 

 

「ISの暴走を止め、新型の高性能機をお披露目。これで晴れてお前の妹は専用機持ちとしてデビューしたこととなったわけだ」

 

 

 森から音もなく千冬が姿を現す。漆黒のスーツに身を包んだその姿は、夜の闇をすべて引き連れているかのような静かな威厳に満ちていた。

 

 

「やぁ、ちーちゃん。バレバレだったかな?」

 

「隠す気があったのかと疑うくらいにはな」

 

 

 ふたりは互いの方を向かない。背中を向けたまま束はさっきまでと同じようにぶらぶらと足を揺らし、千冬はその身を気に預ける。

 

 どんな顔をしているか、別に見なくてもわかる。

 

 そんな確かな信頼が、2人の間にあった。

 

 

「束、ひとつ聞きたいことがある」

 

「ちーちゃんから質問なんて、珍しいねぇ。どんなことでも束さんが答えてしんぜよう」

 

「あいつ………今はナナ・オーウェンと名乗っている男。アレはなんだ?」

 

 

 白式の件。紅椿の件。聞きたい事はいくつかあるが、それは千冬の中で答えが出ている。だからこそ、問いただす。千冬の中の最大の疑問を。

 

 

「一夏がISを動かした事は、検討はつく。だが、あいつは別だ。お前は関わっていない」

 

 

 そして何より、あの束が興味を持つ存在。ISを動かした事以外にも、何かあるはずだと千冬は確信していた。暫くの沈黙、そして堪えきれないとばかりに束が大いに笑う。

 

 

「あははは‼︎………ちーちゃん、あの計画は覚えてる?」

 

「………忘れるはずもないだろう」

 

「だよね。ちーちゃんたちのルーツだもん。生き残りは2人だけ、そうでしょ?」

 

「そう言うことか………」

 

 

 束の言葉の裏に隠された言葉を読み取り、納得する。だからと言って、態度を変えるつもりはない。あからさまに不自然であるし、何より彼自身知らない真実。

 迎え入れようとするには、あまりにも遅過ぎた。

 

 

「束さんもびっくりだよ。まさか他にもいたなんてね。うっかり殺しかけちゃったけど、生きてるからモーマンタイ!」

 

「かなりトラウマになってるみたいだがな」

 

「そこは知らないよ。私のせいじゃないもん」

 

 

 再び、沈黙が2人の間に落ちる。

 

 

「ねぇ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」

 

「そこそこにな」

 

「そうなんだ」

 

 

 岬に吹き上げる風が、一度強くうなりを上げた。

 

 

「ーーーー」

 

 

 その風の中、何かを呟いて束は消えた。

 忽然と。突然と。

 

 

「……………」

 

 

 千冬は息を吐き出して、後頭部を押し付けるように木に寄りかかる。

 その口元から漏れる声は、潮風に流れて消えた。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「おかえりなさい。待ってたわよ」

 

 

 臨海学校も終わり、寮へと帰宅したナナを待ち構えていたのは楯無。途中まで一夏たちと一緒であったが、翌日の朝までに反省文を提出せねばならず、急足で帰っていった。それまでは楯無の予想通り。心の中でガッツポーズをあげた。

 

 本音の写真の件は虚が何とか納得させて事なきを得たとはいえ、悔しい気持ちはある。そして臨海学校前にドギマギとした雰囲気を、自身の勝利で終止符を打つつもりだ。

 絶対に赤面させてやる、という意気込みで服装は水着の上にエプロン姿。ぱっと見裸エプロンのようで楯無も恥ずかしい思いをしているが、背に腹はかえられない。

 

 そんな覚悟の元、いざ実践してみたものの、ナナからの反応はない。男性が喜ぶ服装を調べたが外したか?と焦る楯無だったが、次の瞬間だった。

 

 

「はぁ………」

 

「えっ?ちょ、きゃあ‼︎⁉︎」

 

 

 突然、脱力したナナが楯無に覆い被さったのだ。そのまま床に倒れ込む2人。床にぶつかった衝撃よりも困惑が勝ち、何が何だかわからない楯無だったが、ナナがその肩に顔を埋める事でより一層の困惑が楯無を襲う。

 

 

「ちょ、ナナくん⁉︎流石に恥ずかしいんだけど⁉︎」

 

「あー………ちくしょう。何でテメェが出てくるンだよ」

 

「それはそうでしょ⁉︎私もここに住んでるのよ⁉︎」

 

「悪ィ、寝る………」

 

「嘘でしょ⁉︎ナナくん⁉︎ナナくーん⁉︎もしもーし⁉︎」

 

 

 ナナが言うのは束と対峙した時のこと。死の予感が肌を逆撫で、脳が必死に対処法を探って走馬灯を見せていた時のこと。

 過去の殺しや裏社会での生活ならまだしも、鮮明に思い出したのは楯無の存在。会えなくなるのは、少しだけ辛いと思ったが最後、脳は楯無との記憶しか掘り起こそうとしなかったのだ。

 僅か3日しか経っていないとはいえ、ナナからすれば安堵を覚えた。それを最後にナナの理性は飛び、こうして無様を晒すこととなったのである。宣言通り、僅か数秒で泥のように寝てしまった。

 

 だが、楯無からすればそんなもの思惑の外。気になる男子が突然ゼロ距離で密着してきたのだから溜まったものではない。必死にどかそうとするが意識のない人間は重く、そして困惑極まってISを展開する事など忘却の彼方。

 

 どうしよう、どうしようとテンパる楯無は忘れている。部屋の扉は開きっぱなしであると言う事を。そして、その姿を目撃されている事にも、気が付いていない。

 

 

「嘘、オーウェンくんが生徒会長を………っ‼︎」

 

「私たちのお姉様がっ‼︎」

 

「ナナいちに亀裂………新刊があっ‼︎」

 

 

 複数人に現場を目撃され、噂は即日中に広まる。結果として、事態に気がついた千冬の助けが入るまでナナと楯無は醜態を晒すのであった。

 

 

 

 

 

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