IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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10話

 

 

「なんと言うことだ」

 

 

 高級そうなカーペットの上、職人が一から手掛けた漆塗りのデスクトップに座る老齢の男女。10人それぞれが格式高いスーツに身を包み、肥えた腹や無意味に厚い化粧と香水を振り撒き、ナナの前に座っている。

 この分だと肘掛けも最高級のものだろう、と現実逃避気味に考えた。

 

 場所は本国。国の上層部が揃う会場にナナはいた。

 

 IS学園は夏休みへと突入し、学生たちはそれぞれ思い思いに過ごす事だろう。しかし、専用機持ちは違う。夏休みだろうと容赦なく本国からの招集はかかるし、上半期の成果を報告しろとも言われる。

 ナナも例外に漏れず、こうして来たくもない場所へと馳せ参じたのだ。

 

 理由は単純に、束の一件の報告。文面では既に送りつけているのだが、頭の硬い連中はそれを信じず、口頭での説明を要求した。断ってもよかったが、何度も同じ要請を出されると流石に頭に来るものがある。

 これでそれに終止符を、と考えたがどうやらそうはいかないらしい。

 

 

「我が国の最新ISを使っておきながら、この程度の成果とは」

 

「やはり、犯罪者程度ということでしょう」

 

「それに織斑一夏に手を出せば、篠ノ之束が報復するとは………」

 

「ふん。稀代の天才といえど、所詮は技術屋だろうに。我が国を相手取ることなど不可能」

 

「ならば、その妹の篠ノ之箒を手中に収める事も視野に入れねば」

 

「確か、未だどこの国所属か決まっていないはずですよ」

 

「最新鋭の機体共々、我が国の所属としたいところですな」

 

 

 会議という名の雑談が始まって実に1時間。目の前の人間は同じような事しか口に出さない。誰も彼もが自国の利益、引いては自身の権力しか見ていないのだ。くだらない、と拘束された椅子の上でナナは明後日の方向を見る。

 

 信用は当然なく、両手両足は電子錠で拘束され、その上から更にストレッチャーを縦に立てたようなものに雁字搦めにされているのだ。ある意味これも刑罰だろう、と自身を慰めようとするがやはり理不尽に対する怒りしか募らない。

 

 精神的疲労がごりごりと蓄積されていく中、まとめ役であろう老紳士が杖を叩いて注目を集める。静まり返った会議室内で老紳士が咳払いをひとつ溢すと、中央のナナを睨むような視線を向けた。

 

 

「話を纏めると、だな。織斑一夏、篠ノ之箒、両名に手出しは下策。このまま静観するしかない、ということだな?」

 

「その通り。手ェ出したら最後、この国の終焉のラッパは吹かれたも同然。下すのは神罰じゃなくて、人災だがな」

 

「貴様‼︎」

 

 

 あまりの物言いに1人がデスクトップから身を乗り出しそうになるが、再び杖の音で固まり、渋々と引き下がる。

 

 

「考えられる手は?」

 

「電子機器全てを乗っ取られる、くらいには考えられるだろうよ。下手すりゃ、防衛機構がそのまま牙を向くだろうよ」

 

「そんな事有り得るはず‼︎」

 

「ない、とは言えねェだろ?相手はISを作り上げた張本人だ。そして、各国が必死に作り出した第三世代型を嘲笑いながら新型を作る性格の悪さだぞ」

 

 

 ナナからすれば簡単に想像がつく。万全に整えた防御を退屈そうに潜り抜け、呆気なく一夏や箒を救い出し、赤子の手をひねるように全てを灰塵に帰す束の姿が。

 それほどまでに世界には電子機器が溢れ、それを全て操る事が可能だと断言できるほどに束は異常なのだ。

 

 

「こいつは親切心として伝えておくが、アレを同じ人類として扱わない方がいい。神や悪魔より、よっぽと残酷な何かだ」

 

「ええい、黙れ‼︎我が国の誇る軍事力が、そう易々と突破されるはずないだろう‼︎その口を閉じねば、爆破させるぞ‼︎」

 

「へぇ?できるのか?」

 

 

 ナナの助言に、幾人かが考えを改めようとヒソヒソと相談するが、先ほど食いついた男だけは違うようだ。口の端から泡を飛ばし、ナナを脅す。それも仕方がないだろう。ナナが語るのは普通に考えてあり得ないことなのだから。夢物語のような内容を信じろ、という方がどうかしている。

 

 理解はするが、納得はしない。それに、いい加減フラストレーションが溜まって爆発しそうなのだ。ちょうどいいカモを見つけたとばかりに、ナナは男を睨みつける。

 

 

「オレは確かに死刑囚だ。だが、その価値は織斑一夏と同等。データも完全に取れていないのに、テメェはオレを殺せるのか?」

 

「ふ、ふん。データなど死体からでも取れる。それに、織斑一夏のデータも更識楯無に命じれば………」

 

「無理だよ。あいつが従う義理はねェ。オレの方がよっぽと忠犬さ」

 

「何を………‼︎」

 

「双方やめんか」

 

 

 苛立ちが募ったのだろう、今度は力強く杖を叩く老紳士。歯噛みする男を視界にも入れず、結論が出たのだろう。両手を組んで口元を隠すと、その結論をナナに命じた。

 

 

「織斑一夏、篠ノ之箒、両名に危害は加えぬ。だが、それは一時的なもの。準備が整い次第、身柄、もしくは生体データの取得を命ずる。皆もそれでよろしいかな?」

 

 

 老紳士の言葉に素直に頷くのは3人。渋々と言った様子なのが5人。納得がいってないと拗ねるのが1人。それを可決と取ったのか、老紳士が話を締めた。

 

 

「それでは、この話は以上。退室を命ずる」

 

 

 その言葉と同時にナナの背後の扉が開くと軍人が2人入室する。そのままナナに袋を被せると、その場からナナを引き摺り出した。扉の閉まる音、そして道を覚えられないように複数回の回り道と寄り道を繰り返してようやくナナは解放された。

 案内されたのは職員の休憩部屋の一室。自販機と簡易的なテーブルとソファが置かれたそこに、待ち人はいた。

 

 

「おかえりなさい。遅かったわね」

 

「文句は後ろの奴らに言え」

 

 

 ナナの言葉に背後の軍人が殺気立つが、楯無が苦笑いでそれを止める。そのまま後は任せるように指示すると軍人2人が苦々しい表情で退室した。

 

 

「まったく………言い方ってものがあるでしょ?」

 

「事実だろ」

 

 

 拘束されたまま肩を竦めると言う器用な真似をするナナに、楯無はため息を溢す。

 

 

「それより、いい加減こいつを外しちゃもらえねェか?脚が痛くて仕方がねェ」

 

「あー、はいはい。ちょっと待ってなさい」

 

 

 渡されていた合鍵でナナの拘束を解く楯無。カチャカチャと、暫し2人の間に鎖が外される音のみが響く。無心でいなければ、ふとした拍子に抱きつかれた事を思い出してしまうのだ。

 

 あの後、楯無との熱愛を噂され、互いにそれを鎮火させようと必死に動いたがより一層噂を燃え上がらせる羽目となったのだ。ここまで来てしまっては諦める他ない、という段階で白旗を上げた。

 余談ではあるが、ナナには楯無と別れろ、という脅迫文がいくつも届いている。夏休みが始まるまでそれらをシュレッダーにかける事が日課になっていた。

 

 

「はい、これで終わり………ッ‼︎

 

「ああ………ッ‼︎」

 

 

 ナナが拘束されていたストレッチャー、その正面の錠を最後に外す。中腰での作業だったために反射的に立ち上がった楯無。その拍子に互いの顔が近づき、2人揃って逸らした。否が応でも押し倒した件を思い出してしまったが為に。

 しかし、ここで互いの負けず嫌いが発動。弱みを見せてなるものかと、互いの顔を視界に入れずに煽りをいれた。

 

 

「あ、あらー?もしかしておねーさんにだ、抱きついたこと思い出しちゃったかしら?」

 

「………うるせぇ、満更じゃなさそうなテメェの間抜け面を思い出しただけだ」

 

「妄想もそこまで行くと悲しいわねぇ。第一、男の人に抱きしめてもらうくらいで動じる程、安い女じゃないわよ」

 

「事実から目ェ背けンなよ。ISを展開する余裕もなかったくせに」

 

「貴方が怪我しないように考慮してあげたのよ」

 

「言ったな?」

 

「えぇ、言ったわよ?」

 

 

 次第に互いに向き合い、早く折れろと念じた視線がぶつかる。しばらくの睨み合いの後、これまた互いにため息をこぼした。こんな事をしているから噂がより酷くなるのだと気づいたからだ。

 

 

「はぁ………やめだやめ。これ以上続けても、意味がねェ」

 

「そうね。これ以上はやめておきましょ」

 

 

 ん、とナナが手を差し出せば、楯無が足の錠の鍵を渡す。拘束を解いて歩けるようになれば、2人連れ立って部屋を出る。続けて向かうのはISの研究、開発を担うラボ。

 送られてくるデータだけでは足りない、とこちらも招集がかかっているのだ。同時に、楯無のISの調整も行うためこうして待ち合わせていたのである。

 

 ISの試運転や装備の点検も兼ねているラボは、国の運営ということもありその敷地は広大。入り口を軍人が警護し、監視システムを何重にも張り巡らしたそこは一種の要塞なのだ。

 そんな所に要注意の死刑囚が向かうのだから警備は普段よりも厳重体制。ISの調整を行う楯無の他に、もう1人の専用機持ちが警護に当たった。その人物というのがーーー

 

 

「寂しかったですうううう、お姉さまぁああ‼︎」

 

「あーもう‼︎私にその気はないって何回言わせるの⁉︎」

 

「そんナ!つれナイ!」

 

 

 元ロシア代表のログナー・カリーニチェ。特徴的な狐面から涙を溢れさせ、楯無に抱きつく様は奇妙である。年齢は楯無の5つうえだったはず、と考えてより一層面倒なのが出てきた、とげんなりとするナナ。

 

 

「テメェの信奉者、だいたいこンな感じだが………ひょっとして、そう言う趣味なのか?」

 

「そんなわけないでしょ⁉︎みんないい子よ‼︎」

 

「ムッ⁉︎お姉さまに馴れ馴れしい君は誰かナ?感動の再会を邪魔しないで欲しいのだけド?」

 

「そうか。なら、一足先に失礼させてもらうとしよう」

 

「行かせるワケないでしょ⁉︎ほら、貴女も仕事する‼︎」

 

 

 ちぇ、っと口を尖らせて渋々と楯無から離れるログナー。仕事を忘れているわけではないようだ。

 

 

「それジャ、気は進まないケド、仕方なク、お姉さまから離れまス」

 

「引っ付かなくていいのよ。それで、案内はしてくれるのでしょうね?」

 

「お姉さまとならどこへデモ‼︎」

 

「このくだらねェ三文芝居続けるなら、先行くぞ」

 

「もう、それはダメだって言ってるでしょ」

 

 

 手早く終わらせてさっさと学園に戻りたいナナ。それを長引かせようとするログナーは気に食わないようだ。無視して進もうとするナナを、楯無は腕を組んで先に行かせないようにする。腕に抱きつく形になっているのは本人の意図するところではない。

 

 

「………離しちゃくれねェか?」

 

「ダメよ。あんまり勝手な行動してると、本当に監禁されるわよ?」

 

「そいつはわかった。わかったから、離してくれ。………その、なんだ。当たってる」

 

 

 言い淀むナナの言葉に、楯無ははっと気がつく。ナナの腕を抱いているということは、楯無の胸の感触が伝わっているということ。恥ずかしくなった楯無がぱっと腕を離すと、互いに背を向けてナナは空を見上げ、楯無は自身の身体を抱きしめる。

 

 

「………えっち」

 

「なっ⁉︎いや、今のは不可抗力だろ………」

 

「チィッ‼︎」

 

 

 互いに恥ずかしさ満点。せめてもの反抗に避難めいた視線を向ける楯無。それに反抗しようとナナが声を上げた瞬間に、特大の舌打ちがログナーから鳴らされた。

 今まで自分たちが何をしていたか、それを傍目から見た時どう映るのか。それを理解した2人は黙り込み、ログナーが本来の仕事に戻る。

 

 

「それじゃあ、お姉さまはあちらの職員が案内しマス。男の方は私について来テ」

 

「あら、別々なの?」

 

「お姉さまの裸を私以外に見せるワケにはいきませんカラ」

 

「貴女にも見せるつもりはないわよ。それじゃあ、後で。暴れたりしちゃダメよ」

 

「そいつに意味がねェことは理解してる。信用しとけ」

 

「はいはい、行くヨ」

 

 

 職員とログナー、それぞれに案内され別れる2人。ログナーの後をついて行くナナだが、道中に見えた案内板に不審を覚える。この先にあるのは学園のアリーナのような試験会場しかないのだ。

 間違い、ではないのだろう。その足取りはしっかりとし、時折こちらを伺う視線は敵意がたっぷり。なるほど、そう言うつもりなのだろうと当たりを付ける。

 

 それから歩く事少し、ようやく試験会場に辿り着いたログナーはようやくナナを正面に見据える。ここに来るまで逃亡の気配はなく、また襲いかかるような事もしなかった。そのどちらかに引っ掛かれば容易く監獄にぶち込めたのに、と後悔しつつも計画に変更はないと決める。

 

 

「よくついて来たナ」

 

「そりゃそうだろ。監獄に戻るような真似はしたくねェからな」

 

 

 どうやら自身の考えはお見通しだったようだと歯噛みするログナー。だが、所詮はそれだけ。問題はないのだ。

 

 

「それじゃあ、この後どうなるかはわかるナ?」

 

「オレを痛めつけて、あいつに2度と近づけさせない事を誓わせるか?守る保証はねェがな」

 

「違うナ。貴様を今!ここデ!ぶちのめすんだヨ‼︎」

 

 

 刹那、ISを展開したログナーがその拳をナナに向けて振るう。ナノマシンによる爆発を推進力に、ブースターをフルに使った一撃は地面に亀裂を入れた。そこに肉を叩いた感触は、ない。

 

 

「ぶちのめすどころか、殺す気満々じゃねェか」

 

「心配無様ダヨ‼︎病室で暮らしてもらうダケだからナ‼︎」

 

「墓の下の間違いじゃねェのか?」

 

 

 空中を睨むログナーの先、同じくISを展開したナナもログナーを睨む。

 専用機モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)。楯無のIS、ミステリアス・レイデイのモデルとなった機体だ。

 

 楯無のISと比べて装甲は厚く、ナノマシンによる防御はそのまま攻撃に回せる仕様。楯無以上の事はできないが、決して油断はできない相手。元とはいえ国家代表であったログナーの実力を考えれば敗色濃厚と言えよう。

 

 

「ともかク!私が勝てば、お姉さまに近づかないと約束してもラウ‼︎」

 

「そいつができなけりゃ?」

 

「死ネ‼︎」

 

「過激派すぎンだろ。ったく、あいつのファンはどうなってンだ………」

 

 

 この調子であれば、学園内でもそのうちこの様な輩が出ないとも限らない。今のうちに何か対処法を考えておくべきか?と思考するナナだが、その油断を狙われる。

 

 

「私の愛の前に、死ネ‼︎」

 

 

 呼び出したのはランス。そのまま先ほどと同じ要領での突撃。直線的な動きは読み易く、呆れる様に横に躱すが、瞬時に爆発で軌道を修正するとナナの胴体へと直撃した。

 

 

「ぐっ‼︎」

 

「もらっタ‼︎」

 

 

 そしてランスの先端を起点に、大爆発が起こる。水を起点とし操る楯無のミステリアス・レイディとは違い、ログナーのISはナノマシンを空気中に散布。そしてそれを爆発させるのだ。指向性を持たせた爆発はランス直線上の空間を焼く。

 勝負は決した、と油断はしない。現に爆煙に紛れて放たれた弾丸がログナーを襲う。

 

 

「へぇ、意外だナ。まだやられないなんテ」

 

「どっかの生徒会長様から鍛えられたモンでな」

 

 

 爆煙が晴れた先、座標から少しズレた位置にナナはいた。爆発の直前に両手首の火炎放射器を推進力に緊急退避したのだ。それでも多少は掠ったのだろう、ISの表示するエネルギー残量は減っている。

 舌打ちひとつ溢し、アサルトライフルへと変形したスヴェントヴィトを放つ。それに対し、ログナーも再びランスの先をナナに向けた。突撃ではなく、ランスに仕込まれた4門のガドリング砲がナナを襲う。

 

 

「チッ、そいつもアイツと一緒かよ」

 

 

 撃ち合いは不利だと判断したナナが地面スレスレを飛行して躱すが、上空のログナーはそれをガトリング砲で追い詰める。

 

 

「ほらほら、逃げないト蜂の巣だヨ」

 

 

 すぐ後ろを弾丸が通過する。いい様に踊らされている事に腹が立つが、冷静な視線で状況を見据えるナナ。加虐趣味に走ったログナーがすぐさま自身を終わらせる様子はない。日頃楯無と共にいる恨みも込めて存分に痛ぶるつもりなのだろう。

 

 撃ち返そうにも、その隙を見せるたびに射線を晒して牽制される。下手に撃ち返すのは悪手だと悟る。できても牽制が関の山だ。学園のアリーナもそうだが、こうも見晴らしがいいと不意打ちは不可能。そも、IS同士の戦闘となるとナナの強みは全く活かせない。

 

 忍び寄り、不意を突き、確実にターゲットを仕留める。一撃で今後を左右する環境に置かれていたナナに、今の様に攻撃を喰らっても平気で続行可能な環境というのは慣れていない。調子が狂ってしまう。

 

 

(距離は大凡50m………トリグラフは届かねェか)

 

 

 刃の長さを変えられるトリグラフで不意を、と考えるがそれも難しい。思考の海に沈んだのが不味かったのだろう。ナナの右足に刃が巻き付く。その柄を握るのはログナー。蛇腹剣によるものだ。

 

 

「沈みナ‼︎」

 

「うっ‼︎」

 

 

 大きく振りかぶった軌道に沿って、ナナが振り回される。壁に、地面に、弄ぶようにぶつけられ続け、右脚の装甲が破壊された時点で漸く解放された。鞠のように地面を転がり立ちあがろうとするナナの眼前を、ログナーのランスが捉える。

 

 

「弱いナ、お前。お姉さまに指導して貰った意味ないダロ」

 

「かもな」

 

 

 ああ、そういえばこんな事前にもあったな。と脳裏に蘇った記憶を辿る。あれは確か、学年別トーナメントで特訓をしていた時の事だ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「はい、おしまい。これで通算何度目かしら?」

 

「ぐっ」

 

 

 楯無のランスがナナの眼前に構えられ、敗北を悟るナナ。楯無の言葉に腹が立つが、言い返す言葉もない。

 苦虫を噛み潰した表情のナナに、いじめ過ぎたかと反省を。ランスを肩に担いだ楯無が今回の戦闘の反省点をあげた。

 

 

「貴方は考え過ぎで、相手の動きを見過ぎなのよ。もっと直感的に動いたら?」

 

「それでダメージもらっちゃ世話ねェだろ」

 

「生身なら問題あるけど、ISなら1発や2発くらい大丈夫よ。それで不意をつければ万々歳、形勢だって逆転できるかもしれないわよ」

 

「つってもな………」

 

「あー、まぁ反射的に避けるのは初心者ならあることよ。けど、貴方はそれだけじゃない。元々の癖ってところかしらね。おかげで追い込み易くて助かるわ」

 

 

 楯無の言葉に押し黙ってしまうナナ。わかっているのだ、態々避けずとも良い攻撃まで避けているのは。しかし、それが染み付いてしまっているのだから仕方がない。強くなるにはその癖を抜かなければならないのだが。

 

 

「はぁ………ほら、いじけないの。もう一戦、付き合ってあげるから」

 

 

 差し出された手に一瞬の戸惑いを見せる。そのまま手から腕へと視線を移し、最後には楯無を見上げる状態となる。月夜を背景にキョトンとした表情を浮かべる楯無を愛らしいと一瞬だけ思ってしまい、それを誤魔化すように自身でぶっきらぼうに立ち上がる。

 

 

「あら、つれない」

 

「うるせェ。次こそ吠え面かかせてやる」

 

「できるかしら?」

 

「やってやらぁ‼︎」

 

 

 不意打ちで放たれた弾丸を、涼しげな表情で受け止める楯無。その全てが水のヴェールで塞がれ、不敵に笑った楯無が再びランスを構える。

 

 

「元気でよろしい。それじゃあ、再開ね」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ちょ、ちょっとちょっと⁉︎何してるの⁉︎」

 

 

 試験会場の放送室。そこからスピーカーを通して楯無の困惑した声が響いた。どうやらいつまで経っても来ないナナたちを探しに来たらしい。職員の制止はなかったのだろうか?と見渡すが職員たちの方はこの戦闘は織り込み済みのようで、ちょうどいい機会とばかりに機材を運んでその様子を録画している。なるほど、ログナーの政治的手腕が伺えるものだと1人納得を。

 

 

「ちょうどイイ。見ていてくだサイ、お姉さま‼︎このログナーが、貴女にたかる蝿を潰すところヲ‼︎」

 

「ナナくん‼︎」

 

 

 振りかぶったログナーのランス、それがスローモーションのように流れる。死の予感に、脳が必死に対処を考えているのだ。けれど、ナナの胸の内には怒りが溢れていた。

 

 ふざけるな、と。

 

 お前がそんな哀れな声を出すな、と。

 

 そして、そんな声を出させた自身に対する激しい怒り。

 

 それが胸中に渦巻いて、頭の中が真っ白になるほどの激情がナナを支配する。迫り来るランスの側面をトリグラフで叩き、狙いを逸らす。そのままランスに沿ってトリグラフを走らせるとその切先をログナーに叩きつけた。

 

 

「っざけんな‼︎」

 

 

 勝利を目前とし、眼前に油断していた。ログナーの胸に叩きつけられた刃は最大限まで伸び、反対側の壁へと叩きつける。振り回された衝撃で切ったのだろう、口の中に溜まった血を吐き捨てるとログナーを睨む。

 

 

「ふざけんじゃねェぞ‼︎オレの知るテメェは、ンな情けねェ声なンて出さねェ‼︎テメェはいつもみてェに笑って、オレの勝利を確信してろ‼︎」

 

 

 ログナーの激突した壁に向け、レール砲を放つ。断続的に響く発射音が2度、3度続いた所で砂塵からログナーが現れる。制空権を奪い、上空から仕留めるつもりだ。

 

 

「びっくりしたケド、その程度じゃやられないナ‼︎」

 

 

 4門のガトリング砲が火を吹き、先ほどと同じ様にナナを追い詰めようとする。しかし、ナナはそれを旋回しながら躱すのではなく、空を滑るように左右に動きながらログナーに近づいて行った。

 その動きは先ほどまでと違い滑らかで、まるで蛇が藪を這いずるような動き。スラスターの出力の微調整が可能とする動きだが、それが出来るほどの実力はないはずだ。

 

 

「まさか、成長したってコト⁉︎」

 

 

 素人に毛が生えた程度の操縦しかできないはず。そしてそれは先ほどまではその通りだった。だが、今の動きは明らかに熟練者のそれ。ともすれば今の動きだけであれば、ログナーより上かもしれない。

 

 

「くっ、ケドそれだけだヨ‼︎」

 

 

 接近するナナに、ログナーは掌を向ける。そしてナノマシンがナナの周辺を覆う事を確認すると爆発させた。肉眼では捉えられない、不可視の一撃。これで勢いを削いだ、とランスを再び構える。

 

 

「っらぁあああ‼︎」

 

 

 爆煙を突き破り、全身煤だらけになりながらも突撃をかますナナ。だが、それは織り込み済み。ガトリングで蜂の巣にしてやる、とログナーが引き金を引く瞬間だった。

 

 

「ッ‼︎⁉︎瞬間加速⁉︎」

 

 

 一瞬にして彼我の距離を縮められた。瞬間加速は一部の天才を除けばコツを掴むまでに大変な労力と時間がかかるはず。そしてナナがそれを使えないことは知っていた。

 だが、目の前の現実はそれを否定する。現に距離はなくなり、呆気に取られたログナーの顔面をナナが掴んだのだから。

 

 ナナ自身、瞬間加速が使えた事には驚いている。だが、不思議と力が湧いてくるのだ。まるでISがこうすれば良い、とばかりにナナを導く。

 それにナナは応える。応えてやるから、力をもっと寄越せとISに吠える。誰にも負けないくらいに、2度と楯無にあんな声を出させないで良いように。

 

 

「グリルにしてやるよ」

 

 

 悪逆に笑うナナの宣言通り、ログナーの顔面を掴む左手から炎が走った。急速に減るエネルギー。反撃しようにも絶対防御を貫通する熱波に頭がくらくらとする。そしてISのダメージが危険領域に達した瞬間に勝敗を告げるブザーが鳴った。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「もう‼︎こんな勝手な真似して‼︎」

 

「怒ってるお姉さまも素敵デス………‼︎」

 

「真面目に聞く‼︎」

 

「はぁイ」

 

 

 楯無の前で正座させられ説教されるログナー。しかし、怒り心頭の楯無を前にしても嬉しそうなのは気のせいではないのだろう。なぜか嬉しそうに揺れる尻尾を幻視してしまう。

 

 勝敗をつけた2人はそのまま回収。IS学園程ではないが、それでも一級品の医務室に運ばれて診断を受けたところ、ログナーは多少の水分不足、そしてナナはいくつかの裂傷程度。念の為に、と巻かれた包帯を鬱陶しく思いながらベッドに腰掛けてその様子を眺めるナナ。

 

 貰った水を口に含めるが、口の中の傷に響いて顔を顰める。暫くは辛いものは控えた方が良さそうだ。

 

 

「でも、お姉さま。職員には話を通してマス。戦闘の一部始終は録画されテ、解析に回してますヨ」

 

「職員だけじゃなくて、私たちにも通しなさい‼︎ナナくんも‼︎」

 

 

 まさかこちらに矛先が向くとは思わず、肩が跳ねた。持っていた水が少量溢れるが、それが気にならないくらいには緊張してしまう。美人の怒り顔は怖いものだ。

 

 

「あんな見え見えの挑発に乗らないの‼︎ただでさえ危ない立場なんだから」

 

「チッ、もう少し焼かれていたラ、監獄にぶち込めたのニ………」

 

「ほら見なさい‼︎」

 

 

 聞こえる程度の小声でログナーが呟くが、どうやら揶揄っただけらしい。自身の言葉でナナに問い詰める様が愛おしいようで、くにゃりと身体を曲げて喜んでいる。狐面から感情は伺えないが、その分身体から溢れているので存分に読みやすい。

 

 

「あー、はいはい。わかったわかった。今後は軽はずみな行動は控えるよ」

 

「ちゃんと聞きなさい‼︎」

 

 

 適当に流そうとすれば正に火に油。烈火の如く燃え上がった怒りの楯無は、聞く耳を持たないナナの耳を引っ張る。

 

 

「ちゃんと理解するまで、何度でも言ってあげましょうか⁉︎」

 

「イッ‼︎わかった!わかったらから離せ!」

 

「ムッ‼︎お姉さま、私にモ‼︎私もよく理解できませんでしタ‼︎」

 

「ややこしくなるから黙ってなさい‼︎」

 

 

 乱入しようとするログナーに意識を取られたのか、拘束が緩む。その隙に逃げ出すと耳がちゃんとついているか確認する。幸いなことに無事なようだ。

 

 

「イツツ………ったく、収監されりゃテメェも仕事が減って万々歳だろ。それとも何か?オレと離れるのが寂しいのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

 

 いつもの仕返しとばかりに揶揄ってみようとするナナ。しかし、予想だにしなかった返ってきた言葉に呆気に取られてしまった。ぽかん、と口を開けるナナに自身が何を口走ったか理解した楯無は慌てて訂正を図る。

 

 

「ちがっ!その、あれよ。途中で放り出すのは私のプライドが許さないの。いい?」

 

「お、おう。そうか………」

 

「苦しそうなお姉さまも可愛いナ」

 

 

 怒りとは違う感情で顔を真っ赤にする楯無。頭に血が昇っていたとはいえ、なんて事を口走ってしまったのだと自己嫌悪と反省を。それはそれとして、ログナーの発言に身の危険を覚えて一歩退く。頬の横で両手を重ねてうっとりとするログナーの近くにいる勇気は流石の楯無にもない。

 

 

「ああ、まだいたんだね。ちょうどいい」

 

 

 微妙な空気の中、医務室に顔を出したのは着崩した白衣の女。ベリーショートの金髪を掻きながらタバコを口にする姿はどこぞの不良のようである。というか、がっつり喫煙禁止を破っていた。

 

 

「さっきのデータを元に、IS自体のデータも取りたいんだ。さっさと研究室に来てくれるか?」

 

「あ、ああ………」

 

「おっし。ちゃんと伝えたからな。10分以内には来いよ」

 

 

 手元の資料に目を通しながら退室する女性。あんな見た目ではあるが、IS研究の第一人者なのだ。若手故に舐められることが多いため、あのような雰囲気を出しているとはもっぱらの噂である。

 

 

「はぁ………それじゃあ行きましょうか。ログナー、貴女はちゃんと反省すること」

 

「………わかりましタ。ケド、お姉さまの事は諦めませんからネ‼︎」

 

「わかったから。仕事はちゃんとすること」

 

 

 楯無に手を引かれて医務室を後にするナナたち。道中背後からログナーの視線が突き刺さるが、不思議と敵意を感じない。好意的かと問われればそうではないのだが、次は負けない、と言った類のものだ。今までそんな視線を向けてくる者はおらず、殺意でも敵意でもない視線は変にむず痒い。

 

 首の後ろを掻きながら研究室へと到着。楯無はISの調整を途中で投げ出した為、ここからは別行動だ。

 

 

「はい、それじゃあ今度はちゃんと職員さんに協力すること。また喧嘩なんかしたら酷いわよ?」

 

「わかってるよ。耳を引っ張られるのは勘弁だからな」

 

 

 楯無の言葉を背に受けて、研究室へと入ろうとするナナ。空気の抜ける音がして左右に開いた扉を潜ろうとして、その脚が止まる。不思議に思う楯無が首を傾げていれば、何かの決心をつけたのだろう。ナナが背後をちらりと覗いて、言葉を紡ぐ。

 

 

「その、なンだ………お前のアドバイスのお陰で勝てた。だから、あ、ありがとよ………楯無」

 

 

 仮面を被らない、本人としての感謝の言葉。そして初めて呼ぶ楯無の名前。それに呆気に取られ硬直する楯無。「………礼は言ったからな」と恥ずかし気にそう吐き捨てると急足で研究室へと入っていくナナ。

 

 その後ろ姿を眺めながら、楯無は自分の胸辺りを掴む。ばくばくと高鳴る心臓がうるさくて、顔に熱が集中して自分でも赤くなっているのを感じる。何より、名前を呼ばれただけだというのに喜んでいる自分がいるのだ。

 それを必死に止めようとより一層強く胸を掴むが効果はない。これは恋ではないのだ、と言い聞かせても感情がそれを否定する。

 

 

「真っ赤なお姉さまも可愛いケド、あの男のせいだと思うト納得行かないナー」

 

「ッ⁉︎あ、貴女まだいたの⁉︎」

 

「いや、お姉さまに別れの挨拶しないト」

 

「いいから早く行きなさい‼︎」

 

「はーい。それじゃあお姉さま、また後デ」

 

 

 今度こそ仕事に戻ったのか、ログナーも続いてナナの後を追う。それを見送ると顔を覆って膝から崩れ落ちる楯無。耳の奥ではナナから呼ばれた名前が木霊して、暫くは動けそうにない。

 こんな姿を虚に見られれもしたら、険の籠った声で注意されるだろう。けど、嬉しかったのだ。初めて名前を呼ばれたことが。初めて感謝されたことが。

 これがもし、本当の自身の名前だったならば、と考えただけで脳が沸騰する。

 

 

「う〜〜っ‼︎見てなさい‼︎絶対この仕返しはするんだから‼︎」

 

 

 ここまで楯無を恥ずかしめたのだ。絶対に同じ思いを味合わせてやる、と決意する楯無。その視線の先、扉の向こうでナナもまた同じく顔を真っ赤にしているのだが、見えなければ意味がない。

 唯一両者を目撃していたログナーだけが、真実を知っていた。

 

 

 





今回オリジナル回ということもあり、楯無と存分に絡ませて満足。
シュチュエーションの希望があれば、ご連絡をお願いします
隙を見て入れられたらな、と思います
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