IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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12話

 

 

 夏休みも終わり新学期。

 休みの間何をしていたか、どんなところに行ったかを話し合うのは人の性。無論、それに追随する問題というのもある。主に人間関係で。

 

 

「その、私、夏休みの間に彼氏が出来たんだけど………全寮制であんまり会えないし………浮気とかされたらどうしようって考えちゃって」

 

 

 ナナの対面、そこに座る女子の話に首を縦に揺らしながら話を聞く。例え心の中でI don't give a fuck(知るかボケ)と漏らそうとも、笑顔の仮面は崩れない。

 なぜこんな事をしているのかと言えば、広まった噂のせいだ。ナナは人間関係、特に恋愛方面に強い、という謎の噂。ラウラにアドバイスしたのをきっかけに広まった噂は収束することなく、こうしてしばしば相談を受けるのだ。

 それに乗っかったのは楯無。どうせなら相談室を作り、そこで聞けばいいと生徒会の権限で空き部屋をひとつ占領。ナナの拒否権はなかった。

 

 ちなみに、下手な事を吹き込まないように監視カメラと盗聴されているのは建前で、実際ナナに言い寄る輩がいないかと楯無が強引に設置していた。

 

 生徒会への意見などを書き込むホームページに相談室利用欄が追加され、予約制となったこの制度。開始3日目にして大盛況である。ちなみに、目の前の女子で本日5人目。似たような内容であれば3人目である。

 

 

「うンうン、心配だよネ。少し話したダケでも、Boyfriendへのbig loveが伝わってくるヨ」

 

「そうなの!きっかけは夏祭りだったんだけど、中学の時の同じクラスの人でね!」

 

 

 聴いてない。聴きたくない。そンな気持ちが溢れてくるが、それを噯にも出さないのは裏社会や、潜入などで培った経験だ。陰謀渦巻く政治屋のパーティに忍び込むのと比べれば、素人相手など容易い。

 

 

「とても素敵な出会いだネ。だから、ほんのちょっと彼を信じてあげたらいいヨ。youのような素敵なladyを、裏切ったりしないヨ」

 

「そ、そうかな?」

 

「Yes。ああ、デモあまりしつこく連絡するのはNonネ。冷めちゃうからネ。普段会えない分、holidayに存分楽しめばいいサ」

 

「うぅ……そっかぁ。ううん、ちゃんとお休みの日に遊べばいいだけだもんね!ありがとう!」

 

 

 話を聞いてもらえて満足したのか、女子生徒は手を振って部屋を出る。笑顔で手を振替して完全に扉が閉まるのを確認すると、疲れたように顔を伏せる。

 こんな依頼、楯無からじゃない限り絶対にやっていない。依頼を請け負ったのは金額が充分だったのと、後は気持ちの問題。頼られて嬉しく思った感情のせいだ。

 

 ため息を溢したナナが付属の端末を確認。今のが最後のようだ。本日は比較的マシである。前日には楯無のファンが来て、「お姉様と別れろ‼︎」と脅迫されたのだ。無論、該当生徒は即刻教師陣に回収された。

 付き合っている、という関係ではないが、噂のせいもあり側から見ればそう見られている。そう思えば少しの気恥ずかしいさが。そのタイミングでケータイに楯無から連絡が来るのだから、意地が悪いと思ってしまうのも仕方がないだろう。

 

 

「お疲れ様。どうやら終わったようね」

 

「監視カメラで見てるくせに、よく言う」

 

「あら、別に四六時中見てるわけじゃないのよ?まぁ、迎えに行くから待ってなさい」

 

God it(わかったよ)

 

 

 通話を切り、暫く。言葉通り楯無がやってくる。まるで仕事帰りの夫婦のようだ、と思った自身を呪うが楯無の目的はそこだったりする。

 ナナとの恋愛は周囲が許さない。しかし、せめてその気分だけでも味わいたいのだ。乙女の必死な抵抗とも言える。

 部屋に到着し互いのベッドの上で腰を下ろすと、どちらとともなくため息を。完全に動きがシンクロしていた。

 

 

「さて、ナナくん。新学期はどうかしら?」

 

「どうもこうも、疲れて仕方がねェ。今日の昼なンて、生きた心地がしなかったくらいだ」

 

 

 思い出すのは昼食。前の時間に1組と2組対抗の実践授業が行われた。戦ったのは一夏と鈴。第二形態移行により戦闘力が大幅に上昇した一夏の白式だが、その分エネルギー消費量も増加。結果として大敗を期したのだ。

 

 その反省会という名の昼食会。いつものように専用機持ちが集まって姦しく話していたのだ。内容は誰が一夏と組むのか。

 例え話でしかないのだが、それは大いに盛り上がっていた。鈴が近、中距離をカバーできる自身が相応しいといえば、箒がワンオフアビリティで擁護できる自分こそがと対抗。ラウラは私の嫁なのだから組むのは私だと言えば、シャルロットが組んだ経験がある自分が妥当だと言い張る。

 

 そこで爆弾を投げ入れたのは一夏だ。「どうせなら、俺はナナと組みたいな」と言ったが最後、その場の全員から刺すような視線が送られた。篠ノ之束以降の、死を感じた瞬間である。

 

 

「でも、嫌じゃないんでしょ?」

 

「………否定はしねェ」

 

 

 普通とは少し違うかもしれないが、それでも学生らしい生活がナナは嫌いではなかった。それをお見通しだと楯無が笑い、ちらりと胸元のネックレスが揺れる。

 人目のあるところでは隠しているが、それでも生徒会業務や人目が少ないところでネックレスを見ては嬉しそうに笑う姿を、ナナは知っている。それだけ気に入ってくれた嬉しさ反面、なんとも言えない恥ずかしさで視線を逸らす。

 

 ニヤニヤと、揶揄うように笑う楯無を誤魔化そうと、別の話題を振った。

 

 

「んんっ!そういや、楯無。BT兵器はその射線を自在に操れるンだったよな?」

 

「理論上はね。それに技術力というよりは適正面が大きいわよ。それがどうしたの?」

 

「いや………オルコットのやつがそれに悩ンでるみたいでな」

 

 

 昼食会の時、話に割って入ってこなかったセシリア。模擬戦の実力で言えばセシリアの戦績は著しく低い。エネルギー消費の激しい一夏、そしてナナ自身と五分五分の勝率である。それを気にして立候補できなかったのだろう。

 

 

「うーん………私の武装もBTは使ってないし、アドバイスはできそうにないわね。そもそも彼女、BT適正は誰よりも上よ」

 

「だからこそ、だろうな。その分、本国からの圧もあるだろ」

 

「でしょうね。こればっかりは、時が解決するように願う他ないわ」

 

 

 楯無の言う通り、それしかないのだろうと納得するナナ。まぁ、本当にまずい状況になれば口を出すつもりではいるが。

 それが可笑しかったのか、また楯無はニヤニヤとナナを見つめる。居心地の悪い視線に、苦虫を潰したようなナナが口を開く。

 

 

「………なンだよ」

 

「いやぁ?ちゃんと周りを見れて偉いわね。流石は相談役」

 

「猛烈に後悔してるとこだよ」

 

 

 他人を気にかけるなど、昔の自分なら考えられない。たった数ヶ月だと言うのに自分の中の価値観というのが大きく変わっているのを感じる。原因は紛れもなく楯無のせいだ。負けを認めるようで悔しいが、けれど不思議とこの変化は嫌いではないと思う自分がいる。

 

 

「まぁまぁ。そうやって周囲に目を向けられるのは成長だとおもうわよ」

 

「………だと良いんだが」

 

 

 呆れた様にそっぽを向くナナ。それが可愛くて、つい楯無がその頬を突く。その反応がまた面白く、背後にきゅうりを置かれた猫の様に飛び上がってベッドから転げ落ちた。

 

 

「て、てめぇ………」

 

「ふふ、照れちゃって。可愛いんだから」

 

 

 してやったり、と可憐に笑う楯無。それを見るとどうしても言葉が出て来ず、不意を突かれたことなどどうでもよくなってしまう。せめてもの抵抗として舌打ちを溢すが、顔を赤くしていては意味がない。

 

 

「ふふ。あ、そうそう。一夏くんのことなんだけど、生徒会に入ってもらうことにしたわ」

 

「あ?そいつぁ急だな。なンかあったのか?」

 

「まぁ、各部からの意見なのよ。一夏くんをうちの部活に入れてくれって。でも、どこか一箇所に入れたらどうなるかはお察しでしょ?」

 

 

 楯無の質問に、否応なくその未来が想像できてしまう。一夏のいる部活に人が殺到、今いる部を辞めてまで入部する輩もいるだろう。そして始まるのは部活内での一夏争奪戦。一夏の身は確実にズタズタにされる。

 

 

「だから、生徒会に入れて各部に持ち回りでのレンタルって形にするの。それなら不満も少ないでしょ」

 

「それはそれで不満が出そうだけどな」

 

「勿論、強引に入れたりしないわよ。ちゃんと公平なゲームで決めるわ」

 

「へぇ、なンか策でもあンのか?」

 

 

 ナナの言葉にうすく笑って返す楯無。人差し指を唇の前に持ってくると、静かに息を漏らす。内緒という事だろう。その仕草に言葉なく、思わず惚けてしまうナナ。

 恋心を自覚したからか、ネックレスを貰って以降楯無の押しは強くなる一方。その甲斐あってか、そろそろナナの心もプライドで支えるのも限界が見えてきた。高鳴る心臓が諦めろ、と言ってる様で腹が立つが、深呼吸で落ち着ける。

 

 

「わかったわかった。サプライズなンだろ。どの道、一夏だけじゃなくオレも巻き込まれるだろうしな。精々楽しみにしておくよ」

 

「聞き分けが良くて大変よろしい」

 

 

 くすくすと笑う楯無。余談であるが、一夏と同じくらいナナにも部活動の勧誘の話は来ている。その場合、監視の目が届きにくくなると言う建前の元却下しているが、私情がかなり入っている事は事情を知っている人間から見ればお見通しである。

 そして一頻りわらったあと、ひとつ懸念事項を思い出した。

 

 

「ねぇ、ナナくん。亡国企業(ファントムタスク)って知ってる?」

 

「なンだ、そいつは。TVショーのコメディアンか?」

 

「ISを使う国際テロ組織よ。目的も、構成員すら正体不明の組織。裏社会にいたナナくんなら情報を持ってると思ったんだけど…………」

 

「悪ィな。オレは依頼をこなすだけで、同業者なンざ知らねェよ。仕事仲間なら知ってるかもしれねェが」

 

「そう………コンタクトは取れる?」

 

「取れてたら今頃オレはここにいねェよ」

 

「そう、よね………」

 

 

 少し気落ちする楯無。情報を得られなかったのもそうだが、何よりナナと離れ離れになる事を想像して寂しくなったのだ。いつか来る、確定した未来だが、できれば想像したくない。

 

 ナナが情報屋との繋がりを隠したのは、後ろめたいからだ。楯無を騙すようで悪いが、これが最後の生命線。首の爆弾の解除に繋がる蜘蛛の糸なのだ。いくら惚けようとも、そのラインまでは越えられない。越えたら最後、どんな反応をされるかなど考えたくもなかった。

 

 少し重い空気が流れる中、それを破る様にノックの音が響く。ちらりと楯無を確認するが、首を横に振る。虚や千冬ではないようだ。

 

 

「おーい、ナナ。いるかー?」

 

「oh、一夏。どうしたノ?」

 

 

 素早く意識を切り替えると扉を開ける。周囲に他の人間の姿はなし。珍しい事もあるものだと少しの感心を。

 

 

「いや、飯まだなら一緒にって思ったんだけど………お邪魔だったか?」

 

「No problemネ。それにしても珍しいネ、一夏1人なンて」

 

「それがなんか女子会?するらしくてさ。男子禁制なんだと」

 

「あら、そうなの?だったら、私もご一緒しちゃおうかしら」

 

 

 いつもならナナとは別に食事を取るのだが、先ほどの雰囲気で寂しくなった楯無は少しの欲望に従う。一夏の提案は渡りに船であった。

 ひょっこりと、ナナの肩から顔を出した楯無に一夏は驚き、そしてナナも突然の接触に固まった。

 

 

「え?更識先輩も?」

 

「楯無でいいわよ。先輩もいらないわ」

 

「えーっと………」

 

 

 ちらり、と一夏の視線がナナに向かう。呼んで良いのか、という確認だ。別に名前くらい好きに呼べばいいだろうに、と思いつつも頷き返すと「じゃあ、楯無さんも一緒に」と告げた。

 

 

「じゃあ、早速行きましょう。あまり遅くなると、食堂の人に迷惑だからね」

 

 

 ナナと一夏の手を引き、前を歩く楯無。一度揶揄われた時以来の絡みに、どう接すればいいか困惑する一夏。仕方がない、とばかりに苦笑いをこぼすナナに耳打ちをひとつ。

 

 

「なぁ、ナナの彼女さんっていつもこんな感じなのか?」

 

「HAHAHA………ソーだね。彼女は自由な人間なンだヨ」

 

 

 へぇ、と溢す一夏であるが、一方のナナは話の内容は確実に楯無に聞こえていると確信している。いくら小声で話そうと、暗部に携わる人間がこの距離で聞き逃すはずがない。

 その証拠に、誤魔化すためなのかナナを握る手が強く握られる。よく見れば耳も赤くなっていた。なるほど、こういうのには弱いままなのかと楯無への対策を冷静に分析。機会があれば仕返しできると確信した。

 

 その後、3人で食事を。2年である楯無が1年生食堂に出現したことに周囲は動揺、更に一夏とナナを引き連れているのだから更に波紋は広がる。

 更識楯無は男子2人と懇意にしている、という新たな噂が学園中を駆け巡るのに時間は有さないのであった。

 

 根掘り葉掘り聞き込みを開始する者は、持ち前の話術で話題と注意を逸らし、聞き耳を立てようとする者もいたが、話す内容はそこまで深くない。精々が近頃の調子はどうだ、くらいである。

 

 流石は楯無、と内心で称賛を。食事が終わり帰り際、楯無はふと溢した。「明日の全校集会を楽しみにしておいて」と。

 

 

「え?何かあるんですか?」

 

「ふふ、内緒よ。それじゃあまた明日」

 

「そーゆー事みたいネ。 Catch you tomorrow(また明日) 一夏」

 

「お、おう」

 

 

 別れを告げた2人は揃って帰路へと。その背中を眺めながらふと、思った事を口にする。

 

 

「夫婦みたいだったな………」

 

 

 言葉もなく、互いの欲する調味料を譲り合う姿は熟年そのもの。かと言って冷めているわけでなく、互いにちゃんと礼を言い合う。そしてその間に流れるのはドラマや漫画の中でしか知らないが、まるで新婚夫婦のよう。

 ナナの意外な姿を見れたが、アレはベタ惚れだなと確信した一夏は少し羨ましいと思うのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 翌日、朝のSHRと一限を丸々と使った全校集会にて。

 ホールに全校生徒、教員が集合するのは圧巻の一言で、広い室内が狭くなった様に感じる。それだけ人が集まれば当然、前後や隣で話し合う人間が出てくるわけで、普段の教室以上に姦しい状態へと陥っていた。

 

 

「なぁ、昨日のことなんだけど、やっぱナナはなんか知ってるのか?」

 

「Nonネ。いくら聞いてもさっぱりヨ」

 

 

 一夏やナナも例外ではなく、列の前後で話し合う。と言うよりも、話しておかないと周囲からの視線が気になって仕方がないのだ。

 片や織斑千冬の実弟、片や更識楯無との恋仲を噂される人物。普段交流のない者からの好奇の視線は、中々にむず痒いものがある。

 

 

「それでは、生徒会長から説明させていただきます」

 

 

 静かに響く虚の声。ざわつきが引き潮のように消えていくと、満を辞して楯無の声がホールに響く。

 

 

「やあみんな、おはよう」

 

 

 にこり、と微笑みを浮かべる楯無に、列のあちこちから熱っぽいため息が溢れる。初めて見る、生徒会長としての姿に驚きを。同時に、何か企みを含んだ笑みに警戒を露わにするナナ。

 

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは」

 

 

 閉じた扇子を慣れた手つきで取り出し、横へとスライドさせる。それに応じる様に空間投影ディスプレイが浮かび上がった。

 

 

「名付けて、各部対抗男子争奪戦‼︎」

 

 

 小気味のいい音を立てて、扇子を開く。それに合わせて、ディスプレイには一夏とナナの写真がデカデカと映し出された。

 割れんばかりの叫び声に、ホールが冗談ではなく揺れる。ああ、なるほどと感心するナナと、まさかの事態に口を開く一夏へと再度視線が集まった。

 

 

「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行なって、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思いーーー」

 

 

 ぴしっ、の扇子でナナたちを指す楯無。

 

 

「織斑一夏、並びにナナ・オーウェンを、一位の部活に強制入部させましょう!」

 

 

 再度、雄叫びが上がる。

 

 

「うおおおおおおっ!」

 

「素晴らしい、素晴らしいわ会長!」

 

「こうなったら、やってやる………やぁぁぁってやるわ!」

 

「今日から準備はじめるわよ!秋季大会?ほっとけ、あんなん!」

 

 

 仮に入部したとしてもマネージャーが関の山なのだが、そこに触れるのは野暮というものだろう。同時に、なぜ一夏を生徒会に入れたいのかようやく理解した。

 

 件の亡国企業からすれば、一夏やナナは格好の獲物。専用機を持ちながらも、その認識は他の専用機よりも劣り、意識も低い。それから守る、または釣り出すエサとして保護するつもりだ。

 

 

「というか、俺の了承は………?」

 

「HAHAHA、諦めるネ、一夏。覆水boneに返らず、なんだロ?」

 

「それを言うなら盆、だからな。あぁ、つまり………」

 

 

 幾ら訴えようと後の祭り。無意味だということだ。

 かくして男子争奪戦は戦いの火蓋を切るのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 同日、教室にて放課後の特別HR。現在はクラス毎の出し物を決めるため、わいのわいのと盛り上がりを。教卓の前で指揮をとり、出された案を板書しているのはクラス代表の一夏。

 出された案を眺め、くだらないと頬杖をつくナナ。何せ、その全てが一夏とナナを客寄せパンダとしたものばかり。例を挙げるなら、ホストクラブ、ツイスター、ポッキー遊び、王様ゲームなど。許されるのなら全て投げ出して相談室へと避難したい気持ちである。

 

 

「全部却下で」

 

「ええええー‼︎」

 

 

 大量サウンドでブーイングが響くが、全くもって普通の判断である。

 

 

「あ、アホか!誰が嬉しいんだ、こんなもん!」

 

「私は嬉しいわね。断言する!」

 

「そうだそうだ!」

 

「オーウェンくんは賛成だよね?ねっ⁉︎」

 

「HAHAHA、一夏とAgree(同意見)ネ」

 

「そんな‼︎他のクラスから色々言われてるのに!」

 

「うちの部活の先輩も期待してるのに!」

 

 

 そんな事は知ったことではない。こう言う時に頼りになる千冬は教室におらず、出し物が決まれば職員室に報告しに来いとのこと。場所が場所ならばFuckと声をあげているところだ。

 だが、かと言ってナナに代案はない。そも、学園祭自体初めてのこと。何をすればいいのかすらわからないのだ。だから、助けを求める一夏の視線は努めて無視している。

 

 

「とにかく、もっと普通の意見をだな」

 

「メイド喫茶はどうだ?」

 

 

 そう言ってきたのはラウラだ。予想外の意見に全員がぽかんと口を開けている。

 

 

「客受はいいだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える。確か、招待券制で外部からも入れるのだろう?それなら、休憩所としての需要も少なからずあるはずだ」

 

 

 いつも通り、淡々とした口調であるが、あまりにも似合わなすぎて全員が理解に時間を有した。ナナに関してはメイド喫茶が何なのかすらわかっていない。

 

 

「え、えーと………みんなはどう思う?」

 

「いいんじゃないかな?一夏やナナには執事が厨房を担当して貰えればオーケーだよね」

 

 

 きょとん、とする女子全員だったが、シャルロットによる援護射撃に復活。的確に撃ち抜く腕前は流石と言うべきか、それとも余計な事をと恨むべきか。

 

 

「執事!いい!」

 

「それでそれで!」

 

「メイド服はどうする⁉︎私、演劇部衣装係だから縫えるけど!」

 

 

 一気に盛り上がりを見せるクラス女子一同。少なくとも、執事の真似事をさせられる事は理解したが、ここで水を差しても意味がない。いつだって、決断するタイミングは一瞬しかないのだ。

 

 

(………他の案よりはマシか)

 

 

 考えた末、そう自分を慰めるナナ。執事経験はないが、金持ちのパーティに潜入した際に何度も見た事はある。それに、最悪楯無がいるのだ。少しばかり協力してもらうのもいいだろう。

 

 メイド服と執事服にもアテがあるらしく、結果として1年1組の出し物はメイド喫茶改め、ご奉仕喫茶に決定するのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「あっはははは‼︎」

 

「笑い事じゃねェよ………!」

 

 

 その後、生徒会室にて。事情を説明すれば、腹を抱えての大笑い。机まで叩いて笑うのだから、思わず青筋を立てるナナ。目尻に浮かんだ涙を拭いながら、楯無は顔を上げる。

 

 

「ご、ごめんごめん。それにしても、ナナくんが執事………あはははは‼︎」

 

「チッ………似合ってねェのは理解してるよ」

 

 

 ナナの執事服姿を想像して、楯無が更に笑う。服装は似合っているが、その中身は執事には程遠い。人に仕えることに露ほどの敬意も払わず、中指を立てて反抗するタイプなのだ。例え取り繕っても、その正体を知る身からすれば酷い詐欺だ。そのギャップがツボに入り、楯無の笑い声は止まる事を知らない。

 

 

「お、お嬢様、流石に失礼ですよ………」

 

「肩震えてンぞ」

 

 

 助け舟を出そうとした虚だが、楯無と同じくツボに入った様で顔を背けながら肩を振るわせていた。

 

 

「はぁ、はぁ、ふぅ………それにしても、よく反対しなかったわね」

 

「他よりもマシだったって話だ。代案もねェことだしな」

 

 

 椅子に腰掛け、脚を組みながら乱暴に紅茶を一口。違いというのはわからないが、美味しく感じるのは注ぎ手の腕なのだろう。ちらり、と未だ肩を震わせる虚に視線を。目指すべき高みは遠いようだ。

 

 

「それで、生徒会長様が考案した必勝の策ってのは、大丈夫なンだろうな?」

 

「安心なさい。こう言うのはお家芸よ」

 

 

 笑いから復活した楯無。ぱん、と開かれた扇子に書かれているのは「必勝」。

 

 

「そいつぁ何より。ンで、どンな内容なンだ?」

 

「なに?信用できないの?」

 

「まさか。他ならねェてめぇの策だ。信用してるよ」

 

 

 ぶっきらぼうに言い退けてしまうナナ。その信頼が嬉しくて、思わず揶揄いたくなるが自重を。自室ならまだしも、今は虚の目がある。

 口元を扇子で隠しながら思案を。そしてナナにならいいか、と内容を話した。

 

 

「生徒会の出し物は演劇よ。シンデレラは知ってるかしら?」

 

「あー………12時の鐘で魔法が解けるやつだったか?」

 

「そう、それ。でーも、ただの劇じゃないわよ?観客参加型、王子役にナナくん達をあてがって頭の上の王冠を取れば同室になれるって宣伝するわ。参加条件は生徒会の出し物に投票すること。ね?大丈夫でしょう」

 

 

 楯無の言葉に納得するナナ。箒たちはもちろん、普段絡みの少ない者もこの機会にと参加するだろう。たが、ひとつ懸念がある。

 

 

「もし、オレが他の奴と同室になったらどうするつもりだ?」

 

「ナナくんなら大丈夫。そうでしょう?」

 

 

 確信を持った問いかけに、ナナが不敵に笑って応える。乱戦が予想される中で姿をくらませる事など、ナナからすれば赤子の手をひねるようなもの。例えそれが観衆の面前であろうと変わらない。

 

 その笑みが想像よりも好みで、思わず顔を逸らす楯無。そこを日頃の礼だとばかりにナナが攻め立てた。

 

 

「なンだ、照れてンのか?」

 

「そんな事‼︎………ないわよ」

 

「なら、こっち向いてみろ」

 

「嫌よ。今は、その、タイミングが悪いのよ」

 

「へェ」

 

 

 ニヤニヤと、意地悪く笑うナナと赤くなった顔を見られてたまるかと背ける楯無。普段とは違う構図ではあるが、それでも間違いなく甘い空気が流れていた。そして、その空気に終止符を打つのはお決まりの様に虚であり、最早最近の日課である。

 

 

「こほん。お二人とも、そろそろ織斑くんが来る頃ですよ」

 

「なンだ、一夏のやつにも説明するのか?」

 

「まさか。ちょっとしたお詫びのお話よ」

 

 

 勝手に巻き込んだのだ。今後のことも含め、一夏に詫びを入れるのは妥当と言えよう。虚の言葉通り数分後、本音に連れられた一夏が3人の前に現れた。

 

 

「ただいま〜。おりむー連れてきたよ〜」

 

「のほほんさん、ここ生徒会室じゃ………あれ?ナナもいたのか?」

 

「Hi、一夏。織斑teacherへの報告はどうだっタ?」

 

「ラウラが提案したって言ったら爆笑してた」

 

 

 それはそうだろう。同じ立場であれば、ナナも爆笑する自信がある。自身の任務を終えた本音はおやつタイムらしく、冷蔵庫からケーキを。それを包むフィルターを舐め出すのだから虚に叱られていた。

 

 

「やぁ、よく来たわね」

 

「楯無さん………」

 

「言いたい事たくさんあるだろうけど、取り敢えず今回は了承も得ずにごめんなさいね」

 

 

 警戒を露わにする一夏に楯無が頭を下げる。謝って欲しいと思っていたが、別に頭まで下げて欲しいとまで思っていない一夏は逆に頭を上げるように懇願した。一夏はただ、説明して欲しかったのだ。

 

 

「や、やめてください。それに、俺はただ事前に説明して欲しかっただけだし………」

 

「まぁ、そうよね。ナナくんには先に説明したけど、ここ最近織斑一夏を入部させてくれって部活動が多いのよ。今回はそのガス抜きのため」

 

「巻き込まれたのはビックリしたケド、放置したらそのうち実力行使が始まってたかもネ」

 

 

 ナナの予想は当たらずも遠からず。生徒会が各部からの申請を無視していれば、間違いなく争奪戦は繰り広げられていただろう。そうなれば割を食うのは確実、楯無の提案は絶妙なタイミングであった。

 

 そのことにイマイチ納得のいっていない一夏だが、ひとまずは溜飲を下げる。同じ男子であるナナも納得しているのだから、あまり騒ぐのはみっともないと思ったのだ。

 

 

「お礼はちゃんと考えてるわよ?時に一夏くん、ISの自主練してるんだって?」

 

「それは………はい。箒たちや、偶にナナともやってます」

 

「偉いわね。向上心がある子は好きよ。そんな君に、私からのプレゼント!なんと、生徒会長自ら手取り足取り指導してあげるわ」

 

 

 楯無の提案に、不安気な視線をナナに向ける。大丈夫なのか、と言葉にせずとも伝わるのは仲が深まったからか、それともただ単に全身からそれが漏れ出しているからか。

 

 

「Don't worryネ、一夏。楯無は生徒会長、つまりは学園で1番の腕前ヨ」

 

「そうなのか?」

 

「その通り。それで、どうする?こんな機会、2度と来ないかもしれないわよ?」

 

 

 楯無の提案にしばし考え込む一夏。そして、ようやく決心がついたのか楯無へと視線を向けた。

 

 

「それじゃあ、お願いします」

 

「ええ、任されました。ちゃんとナナくんもいるから、安心してね」

 

「一緒に頑張るネ、一夏」

 

 

 こうして、楯無の思惑通りに事が運び、脳内で横槍を入れるだろう箒たちの対処をどうするべきか思考しながら、ほくそ笑むのであった。

 

 

 

 

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