IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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13話

 

 

 あれから2日。楯無の宣言通り、一夏とナナの特訓は連日続いていた。今は一夏の射撃についての理解を深めるため、シューター・フローによる円状制御飛翔(サークル・ロンド)を行なっている。

 

 互いに同じ方向へと回転し、そのまま射撃を繰り返すこの技。ある意味大道芸の一種であり、言葉にすれば簡単だが実際にやってみるとかなり高度なテクニックを要するのだ。

 射撃能力はもちろん、高度なマニュアル機体制御、同時に回避と命中に意識を割かないといけない。

 射撃が苦手な一夏は当然であるが、これにはナナも大苦戦。生身ならまだしも、機体制御に意識を取られすぎるのだ。楯無曰く、スケートの様につま先で流されながらしがみつく様にしつつ滑るらしいのだが、いまいちよく理解できていない。

 

 

「一夏くん、スピード落ちて来てるわよ。ナナくんは射撃の手を止めない」

 

「は、はい!」

 

「all right」

 

 

 一夏と共に円状回転しながら、サブマシンガンによる射撃を放つ。一夏による反撃はないが、これは一夏の装備が関係していた。

 

 新たな武器である荷電粒子砲。一撃は重いが連射は不可、そして一夏の射撃能力の事を考えると近距離で放つしかないのだ。一夏に課せられているのはシューター・フローの円軌道からの、瞬時加速による直線軌道への変更。そのまま相手の弾幕を突き抜け、ゼロ距離での発砲だ。ナナはそれを躱し、円軌道を続けながらの射撃。どちらも意識を途切れさせれば壁に激突する羽目となる。

 

 

「オッケー、速度上がって来てるね。それじゃあ、瞬時加速いってみよう!」

 

「ええっと、シューター・フローを途切れさせず、チャジー………ッ‼︎」

 

「一夏⁉︎Oops」

 

 

 次の瞬間、瞬時加速のチャージに意識を取られすぎた一夏が壁へと激突。それに意識を取られたナナもまた壁へと激突した。

 箒を除く専用機持ちたちはこのくらいはできるらしく、実際にシャルロットとセシリアの実演では自分たちより高速でミスなくこなしていた。本国での件以降、ISに対して少しは理解が深まったと思っていたが、どうやら壁はまだ高いらしい。

 

 

「はい、起きて。もう一回」

 

「…………楯無さん、厳しいな」

 

「まだ優しいヨ。オレなンて、特訓でボコボコにされたヨ」

 

 

 しかも的確にダメ出しされながら、と付け加えれば一夏の目が死んだ。楯無の特訓で確実に実力はついているが、高すぎる壁に絶望しているのだ。

 

 

「お喋りする余裕があるみたいね?もう少し厳しくしようかしら」

 

「いい⁉︎す、すぐやります!ほら、ナナも‼︎」

 

「HAHAHA………」

 

 

 苦笑いをひとつ溢し、空を見上げる。夕暮れに染まる空には、すでに幾つかの星が瞬く。今夜もまた、遅くなりそうだ。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 その日の夜。ベッドにうつ伏せになったナナが苦悶の声を漏らす。結局特訓はアリーナ使用時間ギリギリまで続き、部屋に帰って身支度を整えた瞬間に限界が来たのだ。情報処理に酷使された脳がこれ以上動くなと騒いでいる。

 

 

「おつかれねぇ。ギブアップする?」

 

「ふざけんな………明日こそ成功させてやる………」

 

 

 ナナの隣に腰掛ける楯無。どうやらまだ煽りに対して反応できる余裕はあるようだ。それでこそ、と薄く笑いナナの頭を優しく撫でる。傷んでいた髪は最近ようやく潤いを取り戻し、撫でていて楽しい手触り。

 その優しい手つきに抵抗する気も起きず、うとうとと重くなる瞼を必死にこじ開けながらナナは疑問を口にした。

 

 

「楯無………一夏やオレの特訓は………例の組織の、自衛のためか………?」

 

「………そうよ」

 

「そう、か………なら、泥塗らねぇように、しないと………」

 

 

 そこまで言って、ナナの意識が完全に落ちる。最初の頃ならば物音ひとつ立てただけで目覚める浅い睡眠も、今はかなり深く寝に入るように。それだけ疲れていたこともあるが、何より楯無を信頼しているからだろう。

 それが嬉しくて、その寝顔を愛おしく眺める楯無。

 

 ナナが言った事は、楯無の計画の確信をついていた。

 IS学園の学園祭は学園から企業に呼び込みをかけるが、その他にも生徒たちが招待券を配り、親しい友人や家族までもが来るのだ。それ故に来場者の家族は膨大。毎年のことであるが、よからぬことを考える輩もいるのだ。

 

 企業側には不正や違反が発覚した場合の措置を伝えているが、学生側の招待客までは目が届かず、歴代ではあわやという場面もあったらしい。去年は精々が盗撮程度。それも一枚も撮らせる事なくお縄となった。

 

 しかし、今年は違う。織斑一夏やナナ・オーウェンと言う特例が在籍し、それを狙って亡国企業は潜入することだろう。例年以上に招待する企業には目を光らせているが、それでも万が一にも潜入を許した場合のことを考えてナナたちには厳しい特訓を課した。

 何せ相手の持つISは間違いなく出力制限を取っ払っている。制限を強制的にかけられる学園側のISでは余程の実力がない限り勝ち目はない。

 だから、勝つまではいかずとも、楯無や教師陣が現場に駆けつけるまでの時間を稼げる様に。そして、上手くいけば亡国企業の一員を捕獲するために。その為の特訓だ。

 

 

「ナナくんには、私の考えがお見通しね………」

 

 

 一から十まで全て、と言うわけではないがそれでも自身がエサとされていることには気がついているだろう。それでも特訓を投げ出さないのは一重に信用しているから。

 先ほどナナが顔に泥を塗らない様に、と言っていたが楯無からすれば逆だ。その信頼に応えなければ、ナナの側にいる資格はないと思っている。

 

 だからこそ、考えられる全ての潜入経路に対処する。最悪の場合、生徒内にスパイがいることも念頭に入れなければならない。右腕である虚にも言えない、生徒会長としてあるまじき判断。けれど、暗部の長として全てを疑わなければならないのだ。

 孤独を感じる事は、当然ある。だが、ナナがいてくれたならば、もっと言えば隣に立ってくれるのならば、孤独に震える心に温もりを感じられる。

 

 

「おやすみなさい、ナナくん」

 

 

 そっと、寝息を立てるナナの頬に口付けを。これで起きたら暴走する所だが、幸いな事に覚醒する気配はない。少しは反応してくれていいのに、と少しの不満、そして起きなくてよかったと言う安堵に苦笑いを溢し、楯無もまた自身のベッドに身を預けるのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 特訓を初めて1週間。そろそろ限界が来るからだろう、と言う楯無の予想は当たった。慌てる事なく緑茶を一口。これまでに対処法はいく通りも考えている。この程度乗り越える事など造作もない。

 

 

「さて、お話は何かしら?」

 

 

 微笑みを浮かべて眼前に座る人物を見る。箒を始めとした、専用機持ちたちだ。警戒の色を露わに、一挙手一投足を見逃すまいと全員が楯無に視線を注いでいた。

 限界が来る、と言ったのはご覧の通り箒たちの事だ。それもそのはずでこの1週間、放課後は殆ど楯無との特訓で絡めてないのだから。もしや一夏を盗られるのでは、とヤキモキする気持ちは同じ女として理解している。だからシャルロットにお茶を誘われた時から動揺はない。

 

 ちなみに、一夏たちには本日自主練を言いつけてある。この1週間での成長は飛躍的で、課された課題もそれぞれ成功率は3割ほど。初めて成功させた時の2人の喜び様は目に焼きついている。

 

 

「言いたい事はわかるでしょ?」

 

 

 全員を代表して口を開いたのは鈴。あまりはぐらかしても可哀想か、と肩をすくめ素直に口にした。

 

 

「一夏くんの特訓のことかしら?」

 

「そうですわ、更識会長」

 

「嫁との時間が減るのは、由々しき事態」

 

「それに、一夏はうちのクラスです」

 

「僕たちの方で指導してあげたいなぁって」

 

「楯無でいいわよ。もしくはたてなっちゃん」

 

 

 鈴に続く様にセシリア、ラウラ、箒、シャルロットが練習でもしたのかとツッコミたくなるくらいの連携で口を開いた。色男は辛いわねぇ、と内心で愚痴をこぼす。

 

 

「そ、そうですの………んん!では、楯無会長にはオーウェンさんがおられるのでしょう?そちらに注視してはいかがです?」

 

「あら、ナナくんだけ除け者なの?一夏くんが聴いたらどう思うかしらね?」

 

 

 その言葉に、全員が押し黙る。別に、ナナの事を嫌っている訳ではない。楯無も好きな相手と組んだ方がいいだろう、という判断だ。だが、言葉だけで捉えればそうとしか聴こえない事も事実。もし、一夏の耳に入れば怒りを買う事は確定しているだろう。

 

 シャルロットとラウラは恋愛にアドバイスをもらったり、鈴は臨海学校でフォローを入れてもらった経験もある。セシリアと箒も、しれっと2人きりにしてもらった。それを蔑ろにしていることに気がついた故にそれぞれが視線を逸らす。いじめ過ぎたかと少しばかりの反省を。

 

 

「まぁ、今のは聞き逃してあげましょう。それでなんで一夏くんの特訓を続けるのか、だったわね。単純に、ナナくんの刺激になると思ったからよ」

 

「オーウェンの?嫁を当て馬にしていると言うことか?」

 

「そんなのじゃないわよ、ラウラちゃん。今まで私が彼の相手をしていたけど、同じ相手で練習を続けても頭打ちになるでしょ?」

 

「………それで、一夏に白羽の矢が立ったと」

 

 

 箒の言葉に、楯無が正解と書かれた扇子を開く。

 

 

「その通り。一夏くんにもいい刺激になっているみたいだし、この間なんてシューター・フローを成功させてたわ。ほら、これが証拠」

 

 

 懐から取り出した小型の空中投影ディスプレイに映し出されるのは、先日の特訓の様子。回転速度は専用機持ち達から見ればそれなり。けれど、慣れていない2人からすれば十分な速度だろう。

 

 楯無のスタートの声が入った瞬間、一夏が瞬間加速によって軌道を直線へと変える。一気にナナとの距離を詰めると、荷電粒子砲を放った。ナナはそれを躱し、同じく瞬間加速によって再び距離を空ける。

 一瞬の静寂、そして2人の喜ぶ声が聞こえた。眩しいくらいの笑顔をこぼす一夏とナナが地面に降り立つとハイタッチ。楽しそうな雰囲気に見ているこっちまでほっこりとしてしまう映像だ。

 

 

「まだ成功率は3割くらいだけど、1週間でこれなら上出来でしょ?」

 

「それなら、あたし達だって………」

 

 

 負け惜しみの様に鈴が呟くが、そんな事は本人が1番理解している。一夏と自主練する様になって数ヶ月経つが、映像のように成長を喜ぶ様を5人は見た事はない。

 鎮圧に沈む5人の空気を入れ替える様に、楯無が手を叩く。別にマウントを取りたいわけではないのだ。

 

 

「まぁ、あなた達が心配するのもわかるわ。彼、魅力的だものね」

 

「べ!別に、そんなんじゃ………」

 

「隠さなくてもいいわよ、鈴ちゃん。私も偶にキュンとする時あるもの」

 

 

 その言葉に全員がまさかを考えて、反応する。これだけ反応がいいと揶揄いがいがあるものだと笑い、手を振りながら場を収める。

 

 

「やぁね、純粋な乙女としてよ。私にはナナくんがいるもの。余所見してる暇なんてないわ」

 

「………あ、あの!ナナとは、その、どこまで進んでるんですか⁉︎」

 

 

 ナナと楯無の熱愛っぷりは全校生徒が知る所。というより、そうなる様に楯無が仕向けている。人目がつくところでいちゃつく、までは行かずとも付き合ってるなと思わせる行動は取ってきたのだ。

 

 これ以上一夏の話題を出すのは精神衛生上よろしくないとシャルロットは判断。話題転換の為にずっと気になっている質問を投げかけた。それは他の4人も同じようで、楯無の言葉に耳を傾ける。一夏との距離を詰めるきっかけがあるかもしれない、と期待を込めて。

 

 

「いやん、シャルロットちゃんのえっち」

 

 

 明言するとナナの方へと詰められた時にボロが出るかもしれないので言葉を濁す。だが、それだけで十分だ。各自衝撃を受けた様に稲妻が走り、勝手に想像してくれるのだから。

 

 

「う、嘘。あいつ、そこまで………!」

 

「あのオーウェンさんが、いつの間に………!」

 

「軟派な奴だと思っていたが………いや、逆に男らしいのか?」

 

「?つまり、どう言う事だ?」

 

「えっとね、ラウラ。その………うぅ」

 

 

 約1名、よく理解せずに顔を赤くしたシャルロットに死体蹴りを続けていたが、それはさておき。一様に顔を赤くしたそれぞれを眺め、くつくつと楯無は笑う。実際は先日の頬にキスした件が精一杯なのだが、それを言及するものはいない。

 

 

「まぁ、そんなわけだから、私が一夏くんに手を出す事はないから安心なさい。それより、皆んなは一夏くんのどんなとこに惹かれたのか、お姉さん気になっちゃうな〜」

 

 

 組んだ両手に顎を乗せて、楯無は笑う。きっかけは違うかもしれないが、せっかくの女子会。楽しまなければ損である。

 楯無の言葉をきっかけにぽつり、ぽつりと一夏の魅力が語られ、その場の熱と楯無の話術に煽られてヒートアップ。

 あそこは治してほしい、あれは魅力的だ、過去にこんな事が、とわいのわいのと騒ぎ出す。それを肴に楯無は緑茶を一口。苦味のあったはずの緑茶は、甘露のように甘く感じた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 茶葉をティースプーン3杯分入れ、沸騰したお湯をティーポットに注ぐ。すぐに蓋をしてゆっくりと蒸らすと、それをティーカップに。最後のベストドロップまで注ぎ切ると、それを運ぶ。恭しい態度で虚と楯無の前に置くと、2人は慣れた手つきで一口。

 

 

「………蒸らし時間が短くて紅茶の香りが弱い。茶葉が少なくて水っぽい。総評価3点ですね」

 

「Fuck‼︎」

 

 

 虚の採点に、ナナが口汚くそう言った。

 

 学園祭まで残り1週間。それに向けてナナはご奉仕喫茶のために、紅茶の淹れ方や執事としてのマナーを虚に師事してもらっていたのだ。

 本日の特訓はお休み。クラスの準備も大詰めということもあり、各種報告、歳費の計算などでクラス代表の一夏が手を離せないからだ。休憩や僅かな隙間時間を使って指導してもらい、その集大成をと意気込んでいただけあり落胆も酷い。ちなみに点数は10点満点中である。

 

 気持ちを沈めようと自身が淹れた紅茶を一口。虚に言われた通り、初めより幾分かマシになったが粗が目立つ。決して自身を貶す為でなく、妥当な評価なのだ。

 

 

「まぁまぁ、初めの頃より上出来よ」

 

 

 確かに、虚と比べると雲泥の差であるが、それでも好きな人が淹れてくれたと言うだけでプライスレス。それに、楯無は知っている。自他共に厳しい虚から点数をもぎ取るのは困難だと。

 

 伊達に幼い頃から楯無に仕えているだけあり、虚のメイドとしての技量は相当のもの。それを基準にしているのだから、素人に毛が生えた程度の腕前であれば0点以下。楯無家でも虚から高得点を貰えるのはごく少数である。3点と言うのは一般的なお店で出されても遜色ないレベルなのだ。

 最近は紅茶の研究のために虚の淹れた物ばかり飲んで、舌の肥えたナナには理解できないのだが。

 

 

「それに、学園祭の出し物としてはこれで十分よ」

 

「ンなワケにいかねェ。やるなら徹底的だ」

 

 

 完璧主義、とまではいかないが、それでもやるならばとことん突き詰める。裏社会で生きてきたナナにとって、それを怠ることはできなかった。ぶつぶつと、今回の失敗を口の中で反芻するナナを横目に、紅茶を飲み終えた虚がため息を。

 

 

「今更ですが、なぜこの様な事を?」

 

「決まってンだろ。笑ったテメェらを見返すためだ」

 

 

 あまりにもらしい言葉に、さすがの楯無も苦笑い。だが、それにと続けたナナの言葉は予想できなかった。

 

 

「………あいつらが準備を頑張ってンだ。下手なモンは出さねェだろ」

 

 

 一夏との特訓や相談室の利用などで、クラスの出し物の手伝いをナナは出来ていない。それは仕方がないことだとクラス全員が理解しているのだが、ナナ本人は納得いってないのだ。

 IS学園で珍しい男子が、執事の格好をしてご奉仕。例え、くだらない事だと思っていても決定事項であり、準備も何も手伝わないで非難していい物でもない。クラス全員が出し物に力を入れている事を知っているから。

 

 だから、せめて与えられた役を完遂するのだと、やや照れた様にそう告げた。

 

 

「ふーん………」

 

「………なンだよ。言いたい事でもあるのか?」

 

「べっつにー」

 

 

 ニヤニヤと、望外の成長に感心する様な、揶揄うような笑みでナナを見つめる楯無。その視線が居心地悪くて虚にどうにかしろ、と視線を向けるがこちらもまた同じ様な視線を。どうやら味方はいないようだ。

 

 

「存外、可愛い所もあるのですね」

 

「そうなのよ。でも、いくら虚でもあげないわよー」

 

「いつからテメェのモンになったンだ、オレは」

 

「あら、最近はほぼずっと私と一緒でしょ?」

 

「まぁ……そうだが………」

 

 

 最近、と言うよりは夏休みから今までずっとなのである。偶に更識家の用事などで外す際は千冬が監視するのだが、それも両手で数える程度だ。その言葉に、ふと虚が疑問を覚える。

 

 

「監視役は織斑先生もではなかったのですか?」

 

「そうなんだけど、うーん………あの人、なーんかナナくんを避けてる感じなのよね」

 

「テメェの弟が心配なンだろうよ」

 

「それで投げ出す人じゃない事は知ってるでしょ?」

 

 

 本来であれば、私生活を楯無が、学園生活を千冬が、と言った形での監視体制だったのだが、ここ最近は確かに異常。ナナが話しかけたりすれば反応するのだが、どうにも前よりも更に線を引いている。扱いのわからない爆弾を急に手渡されたような、そんな感じだ。

 

 楯無もそれに気づいているが、せっかくナナとの時間を増やすチャンス。みすみす逃すまいと黙っていたのだ。それに気がついた虚から、非難めいた視線が楯無に飛ぶ。お説教をどうにか回避できないか、と画作する楯無を救う様に、ナナが助け舟を出した。

 

 

「まぁ、犯罪者と関わり合いになりたくねェって事だろ。それより当日の事だが、どうやって一夏を舞台に誘導するつもりだ?」

 

「そうそう!その話も進めないと。だから、虚。お話はまた今度って事で………」

 

「………はぁ、わかりました。ですが、後日必ず話合わせていただきますからね」

 

 

 一先ずは話題の転換に成功。問題を先送りにしただけだが、それは未来の自分に任せる事とする。いかに自然に、そして驚嘆させて一夏を舞台に立たせるのか、それを話し合っていれば陽も暮れてくる頃合い。草案は完成したので、後はそれを詰めていくだけだ。

 本日のところは解散。楯無とナナ、2人連れ添って寮の部屋へと戻る道中であった。

 

 

「あら、織斑先生」

 

「更識に………オーウェン、か」

 

「Hi、織斑teacher。good evening」

 

 

 寮の玄関、門限に遅刻する生徒はいないかと目を光らせていた千冬と遭遇した。いつも鋭い視線も、ナナに目を向けた瞬間にどこか後ろめたいものへと早替わり。変化としては小さいが、2人には十分に伝わる変化だ。

 

 何があったか探るべきか、と楯無が思い悩むが、それよりも早くナナが口を開いた。

 

 

「oh、ソーだった。この間はbyteの斡旋、Thank youネ」

 

「あ、あぁ。そうか……」

 

 

 どこかよそよそしい返答をする千冬の脳裏に浮かぶのは、あの臨海学校での出来事。束から聞いた、ナナの正体。気にしない、と思うのは簡単だが、それが出来れば苦労はしない。

 どうしても考えてしまうのだ。ナナと一夏、その正体を知った時2人がどんな反応をするのか。そして、どんな視線を自身に向けてくるのか。それが気がかりとなり、不安となり、そうして恐怖となって千冬の枷となる。

 

 そんな事は露知らず、周囲を見渡し他に人がいない事を確認したナナはため息をこぼして仮面を剥ぎ取る。

 

 

「はぁ………なンのつもりか知らねェが、下手な演技は逆に怪しまれるぞ。それとも、それがテメェの狙いか?」

 

「………いや、そう、だな。以後気をつけておく」

 

 

 ああ、これはダメだと判断するナナ。いくら言葉を重ねようが進展しない、思い詰めた先に立ち止まる事を選んだ者の反応だ。ナナの嫌いなタイプである。

 

 

「あぁ、そうかい」

 

 

 それだけ吐き捨てるように告げると、千冬を一瞥する事なくさっさと寮へと入るナナ。ぎゅっと握りしめた拳を、楯無は見逃さなかった。

 

 

「織斑先生、何かありました?」

 

「………いや。少し、疲れているだけだ。お前も早く戻れ。門限は近いぞ」

 

「………わかりました。それでは、お先に」

 

 

 明らかに心配されている、と言う事は伝わっただろう。千冬の言動が原因で、ナナの正体が芋蔓式にバレるような事があってはならない。それは千冬もわかっているところ。少なくとも、人前で同じ過ちを繰り返す事は少なくなるだろう。

 

 本人が口を閉ざす以上、問題の解決はできない。千冬自身、他人に触れられたくないのだろう。例え身内の一夏であろうと、その壁を越える事はできない。

 

 

「………それだけ面倒ごとってわけね」

 

 

 少なくともそう予想した楯無。学園祭が近いのに、問題は増えるばかり。監視カメラはあるが、少しくらいナナに甘えてもいいだろうか?そんな事を考えるくらいに疲れを宿す楯無なのであった。

 

 





 評価付与してくださった方、この場を借りてお礼を申し上げます。
 本来なら学園祭に突入するつもりが、テンション上がって先延ばしに………

 次こそは学園祭をやって、イチャイチャさせる腹積りです
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