IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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18話

 

 

 週末。つまりは楯無とナナのデート当日。

 約束の30分前に到着した楯無は、ガラスケースに映る自身を眺めながら何度目になるかわからない身だしなみを整える。

 

 

(………ナナくん、まだかしら)

 

 

 同時に出れば良かったのだが、ナナを驚かせたいという気持ちが強く別々に出発。待ち合わせの時間もドキドキと心臓が高鳴り、恋する乙女の気分は最高潮。何せ、付き合ってから初のデートである。気分も気合いも上がるというものだ。

 

 右手首の時計を何度も確認するが、針は一向に進まず。焦ったい気持ちに苛まれるが、ここは我慢する他ない。気を紛らわせる為にまずはどこから行こうか、そんなプランを考えている時だった。

 

 

「カーノジョッ。もしかして暇してる?」

 

「よかったら俺たちと遊ばない?」

 

 

 声をかけてきたのは、いかにも遊び人といった風体の男2人。女性優遇社会になってから、男性の地位というのは下がる一方。しかし、それなりの容姿があれば権力者である女性から愛されるというのはままあること。

 

 なるほど、彼らはそういうタイプなのだろうと冷静に分析を。ナンパされた経験は初めてであるが、そう易々と靡くほど軽い女ではない。

 

 

「ごめんなさい、待ち人がいるの」

 

 

 拒絶の笑顔100%。だから近づくな、と言う思いを込めるが男2人に効いた様子はない。

 

 

「え?なになに?その子も女の子?」

 

「だったら、4人で遊びにいこうよ!」

 

 

 ああ、そう解釈されたかと内心ため息を。さてどうしたものか、と悩む楯無だったが、その不安はすぐに露へと消える。

 

 

「Hey guy's」

 

「は?な、に………?」

 

 

 男の内、1人の肩を叩いて現れたのはナナ。余所行きの笑顔を被っているが、目は少しも笑っていない。そも、細身とは言え180を超える大男なのだ。一瞬固まってしまうのも無理はない。

 

 

「She is my girlfriend。Please pick it up(お引き取り願えますか)?」

 

「は?え?外人?」

 

「おい、邪魔すんなよな」

 

 

 肩を置かれた1人とは反対に、もう1人の男がナナの胸ぐらを掴もうとする。その瞬間、ナナに触れようとした男の手が落ちた。困惑するよりも早く、喉元からの出血。誰が見ても助からない致死量、背筋をなぞる死の気配。突然の事で目を見開く男だったが、それも一瞬のこと。

 手は落ちておらず、喉元からの出血はない。しかし、先ほどの死はあまりにも鮮明で、脳に深く刻み込まれた。

 

 

「Are you ok?」

 

「ヒッ⁉︎す、すいませんでしたー‼︎」

 

「あ、おい、どうしたんだよ⁉︎」

 

 

 覗き込むように現れたナナの顔を見て仕舞えば、また恐怖がぶり返す。逃げる様にして走り去る男を、もう1人が追いかける形でその場を後に。

 他愛もないと鼻を慣らして、ナナは楯無へと意識を向ける。

 

 

「お待たせしたネ」

 

「そうでもないわ。それより、何したの?」

 

「チョット脅しただけだヨ。穏便に済ンで何よりネ」

 

 

 何のことはない。ただ殺気を送っただけ、とナナは言う。その鮮明なイメージは言葉にせずとも相手に伝わり、ああして死の気配を読み取ってしまったのだ。いくつもの死を作り上げてきたナナ。それを一般人に伝えることなど造作もない。

 

 カラカラと笑うナナだが、楯無のじとっとした視線に言葉をなくす。はて、穏便に事を済ませたはずだが、何か不味かっただろうかと頭を捻る。その心当たりがない様に呆れた様に楯無がため息を溢す。

 

 

「………私、いつものナナくんとデートするつもりだったのだけど?」

 

 

 楯無の言葉にそう言うことか、と合点を。気恥ずかしさを誤魔化すためにやっていた事がお気に召さなかったらしい。万が一、IS学園の生徒に見られでもしたら面倒だが、楯無の機嫌を損ねるよりはマシ。

 咳払いひとつで意識を切り替えると、少し照れた様に頬を掻く。

 

 

「あー……これでいいか?」

 

「よろしい。ん」

 

 

 満足したように頷いた楯無が差し出した手。一瞬の迷いの後、その手を繋ぐ。自身とは違う、小さくきめ細かな肌の手。それに少しドキリとするが、表に出さない。こんなところでいちいち反応していたら、今日一日中は乗り切れないと叱咤して。

 

 

「よし。それじゃあ行きましょ」

 

「あー………その、楯無」

 

「なに?」

 

「………服、似合ってる」

 

 

 ブルーのチェックシャツの下に白いシャツ。黒のミニズボンといったガジュアルコーデは、少なくともナナ目線ではよく似合っていた。これならばナンパされても仕方がない、と思えるほどに。

 本心からの言葉なのだろう、頬を少し赤くして告げた言葉に楯無は絶句。まさか服装を褒められるとは思っていなかったのだ。

 

 

「そ、そう?ナナくんも、その………似合ってるわよ」

 

「………おう」

 

 

 黒シャツとデニムパンツというシンプルスタイルだが、それ故に大人っぽい印象が強くなる。ナナもナナで照れて頬を掻いて視線を逸らしてしまうので、2人の間には甘酸っぱい雰囲気が垂れ流し。

 微笑ましいやら、他所でやれやら、そんな視線が道行く人々から向けられるが、そんなものが気にならないくらいには2人の世界に入っていた。

 

 そしてその瞬間、冬場に発生する静電気のような音が一瞬聞こえた。

 

 

「イッ⁉︎」

 

「?どうしたの?」

 

「………なンでもねェ。それより、行くぞ」

 

 

 腰の辺りを摩りながら、ナナは楯無を連れて駅前のモールへと。

 

 その遥か後方、遠くからナナたちが確認できる位置にて監視役の虚がいた。本来ならば更識家の監視役を使うところなのだが、今回は当主のデート。情報漏洩を防ぐためにこうして虚が出張ることになったのだ。

 

 

「はぁ………」

 

 

 ため息を溢すのも無理はない。せっかくの休日に、なぜ他人のデートの行方を見守るハメになったのか。せめて千冬がいれば、と思うが当の本人は月末のイベント、キャノンボール・ファストの準備で忙しない。

 放っておけ、と思う自分がいるが、万が一にでも一線を越えられてはたまったものではない。ナナ本人からの依頼でもあるが、威嚇用の電気ショックを装備させることに抵抗はなかった。

 

 叶うことなら、思い人である五反田弾と共に2人を見守りたいが、現状望むべくもない。これは将来のための勉強の一環だ、と自身に言い聞かせて虚は2人の尾行を開始する。

 

 

「んで、行きてェって言ってたのはどこだ?」

 

「ふっふっふ。それはね………ここよ!」

 

 

 モール内に入り歩く2人。そして含み笑いの楯無が自信満々に指差す案内板に書かれていたのは、まさかのゲームセンターである。以前一夏と共に巡った経験はあるが、確かに種類は豊富であり、年頃らしくはしゃいだ記憶はある。ゲーム機はもちろん、プリクラなどの写真機もたくさんあったが、わざわざ楯無が指定する意味がわからない。

 そんなナナの表情を読み取ったのか、楯無は胸を張って言い切った。

 

 

「前に一夏くんと遊んでるのを見て、楽しそうだったからよ。それに、私ゲームセンターって行ったことないし」

 

「ああ、そういうことか」

 

 

 つまりは自分も遊びたい、ということだろう。そも、楯無の実家の事を考えればゲームセンターで遊ぶことなど選択肢にすら入らないだろう。これを機に未知を体験してみたい、ということだ。

 

 

「それじゃあ、エスコートはお任せしてもいいかしら?」

 

「…………お任せください、お嬢様」

 

 

 少し皮肉げに、それでも笑みを浮かべて答えれば、楯無は笑って握った手を更に握る。痛くはないが、それでも手の温度を更に意識してしまい少しナナは照れた。それを表面に出さないのは、最早慣れつつある。

 

 そして、虚とは別に、その現場を目撃する人影があった。

 

 

「ん?あれ、ナナと楯無さんか?」

 

「あ、本当だ」

 

「ナナ………ああ、この前一夏さんといた」

 

 

 偶然にも買い物に出掛けていた一夏とシャルロット。元はそこに鈴も加わる予定だったが、急遽予定が入りキャンセル。2人きりのデートだと浮かれたシャルロットだったが、一夏の誕生日プレゼントを買いに来た五反田蘭と鉢合わせ。

 それじゃあまた、と一夏が別れるはずもなく、またシャルロットも除け者にする様な性格でもない。そんな経緯もあり、こうして両手に華となったのだ。

 

 

「隣の人、彼女なんですか?」

 

「そうだよ。学園内で1番熱いカップルじゃないかな」

 

「へー………」

 

 

 遠目でしか見えないが、蘭の目から見てもいい雰囲気だというのはわかる。2人とも大人びていて、自分の少し上だと言うことが信じられないくらいだ。いつか私も一夏さんと、と夢見てちらりと隣の一夏の様子を伺うが、本人が意識した様子はない。

 

 

「うーん、ここで会ったのもなんだし、2人も一緒に誘うか」

 

「それはご遠慮願えますか、織斑くん」

 

「うおっ⁉︎」

 

 

 どうせなら、と善意で声をかけようとする一夏だったが、いつの間にか背後にいた虚がストップをかける。音もなく忍び寄った虚に一夏以外の2人も驚き、飛び退きながら3人揃って背後を確認。

 

 

「う、虚さん⁉︎」

 

「お、驚かせないでください………」

 

「ふふ、ごめんなさい」

 

「い、一夏さん、こちらの方は?」

 

「あ、ああ。生徒会の布仏虚さん。虚さん、こっちは俺の友達の妹の蘭です」

 

「ご、五反田蘭です」

 

「これはご丁寧に。布仏虚です」

 

 

 微笑みを携えて、丁寧にお辞儀を。その綺麗な所作に蘭は呆然。様になりすぎて、本職のメイドのようだと現実逃避気味に考える。

 

 

「それより、織斑くん。ダメですよ、デートの邪魔をしては」

 

「そうだよ、一夏。他人の恋路を邪魔したら、馬に蹴られちゃうんだからね」

 

「すいません、一夏さん。フォローできません」

 

「うっ……すみません」

 

 

 乙女3人の非難を浴び、胸が苦しくなる一夏。デートだと最初からわかっていたら誘う事など考えない分別はある。しかし、件の2人の距離感がいつも通りすぎてただの買い物だと誤認してしまったのだ。

 まぁ、仕方がないと嘆息をひとつ。非難は甘んじて受け入れて、一夏は虚へと向き直る。

 

 

「そう言えば、虚さんはなんでここに?」

 

「買い物ですよ。お気に入りの茶葉が切れそうだったので」

 

「茶葉………すごい、本当にメイドさんみたい」

 

「ああ、虚さんはあそこの楯無さんのメイド………っていうか付き人?みたいなもんなんだ」

 

 

 はえー、と驚愕が通り過ぎてそんな言葉しか出てこない。周りにはいない、大人のような女性に蘭は知らず知らずのうちに関心を寄せていた。

 

 

「あ、そうだ。虚さん、蘭が来年IS学園に入学するらしいんですけど、何かアドバイスあります?」

 

「あら、そうなのですか?流石にISの指導などは無理ですが、勉強を見るくらいであれば力になれますよ」

 

「ほ、本当ですか⁉︎お願いします‼︎」

 

 

 成績自体、蘭は問題はない。模試では問題なくA判定を貰っているし、中学内でも評判は良い。それでも現役の生徒から勉強を見てもらえるというのは、かなりのアドバンテージ。一夏の後輩となる、という目的に近づく大いなる一歩だ。

 

 期待する蘭と同じ様によしっ、と心の中でガッツポーズを取る虚。これで合法的に蘭の、引いては弾に近づく事ができると。無論、一夏を止める事が本命であったが、蘭に近づく打算がなかったわけではない。連絡先を交換しながらほくそ笑む虚。乙女とは時に強かである。

 

 

「………何してンだ、あいつら」

 

「さぁ?でも、楽しそうだからいいんじゃない?」

 

 

 当然、一夏たちの姿はナナたちも認識している。この場で鉢合わせしたのは意外ではあるが、邪魔してくる様子もないので放置を。虚がいる事も楯無は不思議と思わない。監視役として来たのだろうと、的確に分析していた。

 

 そんな4人を放っておいて、2人はゲームセンターへ。

 様々なサウンドやミュージックで耳が痛くなるが、それは我慢。そんな事でデートを取りやめにするわけにはいかない。

 

 

「それで、何をしてェンだ?」

 

「何があるのか知らないのよね………あ、あれなんてどう?」

 

 

 楯無が指差したのはガンシューティングゲーム。迫り来る敵を撃ち抜く、よくあるゲームのひとつだ。意気揚々とゲーム機に近づいた楯無が、あれやこれやと操作を開始する。

 

 

「へぇ、ソロモードに対戦モード………協力プレイなんてものもあるのね。ねぇ、せっかくだから協力プレイしましょうよ」

 

「別にいいが、楯無。銃の扱いはどうなんだ?」

 

「あら、愚問よ。ナナくんの方こそ」

 

「それこそ愚問だな」

 

 

 方や名家の名の元、様々な分野を修めた楯無。方や銃とナイフで裏社会を生きて来たナナ。オモチャの獲物であるが、2人に扱えないはずかなかった。

 コインを入れて説明が流れる。どうやら敵を倒すとポイントを得られる様だが、当たる場所によって違うらしい。最終的にポイントは合計されるが、それでもそれぞれのポイントは見比べられる。

 

 

「ねぇ、勝負しない?得点が低い方が次のゲーム奢りね」

 

「面白れェ。偶にゃあテメェの鼻を明かすのもいいだろうよ」

 

「あら、自信満々ね。でも、私も中々の腕前なのよ」

 

 

 互いにそれぞれの銃を手に取りスタート。素早く、そして的確に迫り来るモンスターを撃ち抜く2人。その判断の速さもそうだが、何より目を引くのは全てクリティカル(ヘッドショット)を決めていることだ。

 初めてとは思えないうまさに次第に周囲の目が集まり、そのうち歓声が。目線も合わせず、声もかけず、互いに互いをフォローしながら高得点を叩き出すのだから盛り上がらない筈がない。

 そして2人の協力の末、ノーダメージでラスボスも倒してクリア。得点結果はドローである。周囲の歓声を気にも止めず、舌打ちをひとつ。

 

 

「チッ、ドローか」

 

「いいじゃない、楽しかったんだし」

 

「………まぁ、そうだな」

 

 

 注目の視線というのは、学園で慣れた。声をかけようとする輩を目線で牽制しながら、さて次はどれで遊ぼうかと画作する。まぁ、全ては楯無の気の向いたままなのであるが。

 

 

「あ!次はあれにしましょ!」

 

 

 お次はレースゲーム、その次はバスケのシュート対決、それが終わればと次々にゲームをこなしていく2人。どれにおいても最高得点を叩き出し、周囲には人が集まる一方。

 2人とも美形であり、お近づきになりたいと思う輩もいたがナナの視線は元より、周囲からの同調圧力によってそれも皆無。結果としてナナと楯無は周囲の目があるとは言え、邪魔されることなくゲームセンターを遊び尽くしたのだった。

 

 

「ふぅ………流石に疲れたわね」

 

「確かにな」

 

 

 遊びも終わった現在、2人は近くのバーガーショップにて休憩を。普段の学園生活や生徒会業務とは違う疲れに、2人して椅子に深く座って疲れを癒す。

 ナナが購入したバーガーをひとつ食べていると、楯無がそれを見て笑う。確かにサイズは小さいが、それほど可笑しいことだろうかと疑問をひとつ浮かべた。

 

 

「ふふっ、口元にケチャップついてるわよ」

 

 

 紙ナプキンを手に、楯無がそれを拭う。気恥ずかしさに視線を逸らしながら、誤魔化す様にまたバーガーを口に運べば楯無はまた笑った。

 

 

「ふふっ………それにしても、我ながら遊んだわねぇ」

 

「そうだな。これで特別訓練は乗り越えられるか?」

 

「うっ。思い出させないで………」

 

 

 明日からは放課後はみっちりと特別訓練、それも千冬の監修だ。いくら楯無と言えど疲労困憊になることは目に見えている。項垂れる楯無を見れて、ナナは満足げに笑う。自身にも待ち受けていることなのだが、それは努めて考えない様にした。

 

 

「にしても、だ。こいつァどうにかならねェのか?」

 

 

 ナナが取り出したのは携帯端末。その写真フォルダに入っている、ついさっき転送された写真。プリクラで撮った写真だ。

 デコレーションが施された複数枚の写真はどれも楯無が手がけており、ハートマークやら背景やらを使いラブラブ感満載にされていた。それについてはナナは気にしていない。恥ずかしい気持ちはあるが、そのうち慣れると思っているから。

 

 問題はその被写体だ。普通に撮ったつもりだが、目が大きくなっていたり、脚が異様に長くなっていたりとナナからすれば違和感が強い。

 

 

「そう言うものなんでしょ?それにこんな美女との写真なんて、そう撮れるものじゃないわよ」

 

 

 ちなみに楯無はその内の一枚、腕に抱きついて渾身のデコレーションを施した写真を待ち受けにした。互いに頬に朱色が差しているが、それも良い塩梅である。出来上がったシールの方は全て楯無の手に。帰ったらフォトフレームに入れて飾るつもりだ。

 

 

「………まぁ、とやかく言っても仕方ねェことか」

 

 

 そう言うナナも、送られて来た写真は全てお気に入りフォルダへと転送している。楯無に見られたら弄られることは確定しているので、隠し通すつもりだ。まぁ、それらを閲覧できる楯無側からすれば無駄な努力なのであるが。

 

 

「それで、こいつ食ったらどこに行く?」

 

「そうねぇ。ショッピングなんてどう?」

 

「テメェのお眼鏡に叶う店があるといいけどな」

 

「あら、良い商品に高いも安いもないのよ」

 

 

 それはナナも知っている。楯無が金持ち故に高価な点に執着しないことも。今まで見て来た金持ち特有の傲慢さはなく、庶民として目線を持ち合わせている。そう言うところも惚れた要因のひとつなのだろう。

 

 

「………なに、そんなに見つめて。意外だった?」

 

「いや………惚れ直したところだ」

 

 

 ぽっと楯無の顔に赤みが刺す。こうやって偶に攻められるのは、やはり慣れない。心構えが出来ていない隙を上手く突いてくるものだから、余計に。

 今度は楯無が目線を逸らしながら、誤魔化す様にジュースを一口。その様を見て、ナナは勝ち誇るかの如く笑みを深めた。

 

 

「………そう言う歯の浮くようなセリフ、どこで覚えてくるのよ」

 

「仕事柄、としか言えねェな」

 

 

 してやられたという悔しさと、楽しそうなら何よりという安堵。二律背反するような感情に弄ばれるが、それが不思議と嫌じゃない。

 ズゴゴッ、と楯無がジュースを飲み切ったのを合図に2人は立ち上がる。ショッピングの時間である。言われずとも自然と手を繋ぐのは、それだけ互いに信頼していると言うことだろう。

 

 流石は周辺でもトップクラスの巨大モールと言うべきか、見回る店は多数ある。それらを2人のペースで歩きながら、時に店の外から、気になれば店内にとショッピングを楽しむ。ナナは特に欲しいものはないが、こうして楯無に付き添っての買い物は悪くない、と思う。

 素通りしていた店も、楯無と一緒に行けば新たな発見が。見飽きたものにも新たな一面が。何より、一喜一憂する楯無の表情を見れることに満足感が満たされる。

 

 

「買ったわねぇ。荷物、大丈夫?少しくらい持つわよ?」

 

「こンくらい問題ねェよ」

 

 

 楯無がはしゃぎながら買ったフォトフレームや洋服、雑貨や小物などは全てナナが持つ。良いものを見せてもらった礼だと思えば、この程度の重さは苦ではない。

 納得のいかない楯無だが、ここで時間を食うのは勿体無いと渋々黙認を。門限を考えれば回れて後ひとつ。さて、お目当ての店はと視線を前にしたところでちょうどその店が視界に入った。

 

 

「さ。最後はここよ」

 

 

 楯無が目指していた店。それは以前ナナがネックレスを購入したアクセサリーショップだ。

 

 

「ここか………なンか買うのか?」

 

「ええ。ちょっとね」

 

 

 ナナの手を引きながら、楯無は並べられたアクセサリー類に目を光らせる。今日1番の真剣な表情に、ナナは少し見惚れた。

 あれでもない、これでもないと唸りながら見るのはイヤリングだ。はて、やはり安物のネックレスでは不満だっただろうかと内心冷や汗を流すナナを他所に、楯無はいくつか手にとって見比べる。そうして決まったのだろう。手に取った一つをそのまま購入すると、ナナへと手渡した。

 

 

「はい、これ」

 

「……………………は?」

 

「何驚いてるの?前にプレゼント貰ったでしょう?そのお礼よ」

 

 

 渡されたのはよく言えば無難な、リングの様に丸いシルバーのイヤリング。手元のそれと楯無の顔を交互に見て、漸く合点のいったナナが笑う。

 

 

「な、なによ。そんなに変だった?」

 

「ハハハッ!いや………」

 

 

 無駄な杞憂であった、と一安心。早速とばかりにそれを左耳に付ける。初めての事で少し手間取ったが、何とか装着できた。

 

 

「どうだ?」

 

「似合ってるわよ、すっごく!」

 

 

 楯無の目から見ても満足いくものらしく、薄く笑う。それが可愛らしくて、愛おしくて、じっと見つめれば楯無もまた見つめ返す。周囲の音が遠くなり、世界に2人しかいないような錯覚に陥り、次第にその距離が近づく。

 

 自然と楯無の顎に伸ばした手は、抵抗なく受け入れられた。視界いっぱいに広がる互いの顔。期待からか閉じられた眼と少し尖らせた口元を見れば、楯無も同じ気持ちなのだろうと察しがつく。近づく2人の顔、それを目撃した周囲は顔を赤くしてその行く末を見守る。

 見ているこっちが恥ずかしくなるような空気の中、その距離が指一本分へと迫った刹那。

 

 

「イッ⁉︎」

 

 

 ナナの腰に電気ショックが走った。その痛みで現実に戻った2人。公の場で、それも大衆の面前で何をしようとしたのか理解した楯無は顔を真っ赤にして背中を向ける。

 痛む背中を摩りながら、ナナは背後を睨む。視線の先、人混みの向こうにいる虚の目は冷たい。お前らは絶対そこで終わらないだろう、と視線が雄弁に語っていた。

 

 依頼したのは自分自身であり、虚の判断は間違っていない。だが無粋な真似には間違いなく、行き場のないモヤモヤが胸中で渦巻いた。

 

 

「んんっ!さ、さぁ、そろそろ帰りましょうか⁉︎」

 

「………おう」

 

 

 顔を真っ赤にした楯無の手を握り、互いの顔を見ない様にして歩き出す。初々しいまでの雰囲気に周囲から羨望やら嫉妬やらの視線が浴びせられるが、2人の心境はそれどころではない。

 

 そうしてモノレールへと乗り込む2人。幸いなことに席に余裕はあり、互いに肩を並べて座る道中、はしゃぎ疲れたのだろう。いつの間にか眠った楯無の頭がナナの肩に置かれる。

 隣を見れば瞼を閉じて静かな寝息を立てる楯無。それがつい先ほどの光景と重なって、慌ててナナは視線を逸らす。気を紛らわせる為に考えるのは亡国機業、そしてかつての仕事仲間であるフェリスのことだ。

 

 学園祭以降、当然ながら逃したオータムとフェリスの足取りは掴めない。不気味なほどに静かで、気味が悪いほどに音沙汰ない。ナナの過去が流布された様子もなく、ありがたい反面その静寂が怖い。

 

 

(………何をしかけてくる?)

 

 

 チャンスがあるとすれば、月末のキャノンボール・ファスト。ISの高速軌道によるレースは当然ながら各国の要人や大物が観戦に来るのだ。特に今年は異例の一年生参加、つまりは男性操縦者が見れるとありその注目度は高い。

 自身ならばそのチャンスは逃さない。あらゆる手を使って侵入し、そしてターゲットの息の根を止める。その経験があるからこそ、確実に何か仕掛けてくるつもりだと推測していた。

 

 

(あいつらの狙いは一夏とオレ。狙うとしたらどのタイミングだ?)

 

 

 観客席から出場選手の控室へと繋がる通路はない。例えそこに侵入できたとしても、厳重な警備の中進むのはリスクが高い。自身ならば気の緩んだ瞬間、勝負が終わった瞬間を狙うが、と考えて頭を振る。

 

 相手の手札が不明な状態では、最低限の対策しかできないのだ。そしてそれを考えるのは自身の仕事ではなく、同じ様に事態を想定している教師陣の役目だ。

 

 ため息ひとつ溢して、窓の外を流れる景色を眺める。夕焼けに染まる街並みは既に過ぎ、映されるのはオレンジ色の空と海。悩んでいることが馬鹿らしいと思えるような景色を見つめ、ナナの頭が船を漕ぐ。どうやら予想以上に疲れていたらしく、睡魔に抗おうとするが心地よい揺れがトドメとなり瞼が落ちる。

 

 2人が動かないことを確認した虚は、状況把握のために隣の車両から近づく。互いに頭を預けて眠る姿はこちらの心配や心労など考えていない様に安らかで、呆れた様にため息を。

 

 

「はぁ………起こさないでおきますか」

 

 

 2人とも初のデートで疲れたのだろう、とそのまま寝かせる親心。対面に座った虚は自然と写真を一枚撮る。夕日に照らされ眠る2人を、誰が元殺し屋と日本の暗部の当主だと思うだろうか。

 学園に到着するまでの間、安らかな2人の寝顔を虚は堪能するかのように眺めるのであった。

 

 

 

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