IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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21話

 

 

「せーのっ」

 

「一夏、誕生日おめでとうっ!」

 

 

 シャルロットの声を合図に、手元のクラッカーが鳴り響く。

 

 

「お、おう。サンキュ」

 

 

 祝い慣れていないのか、それとも人数の多さに慄いたのか。恐らく後者だろうと当たりをつけるナナ。何せ、いつもの専用機持ち5人に加え、五反田兄妹、生徒会メンバーである自身を含めた4人に新聞部の黛薫子。一夏も加えれば合計13人もの人間がひとつのリビングに揃っているのだ。

 元々千冬と一夏の2人だけで住んでいた一軒家。そこまでの人数を収納できるほどの広さはなく、パンク寸前である。

 

 結局のところ、亡国機業の目的は今回も不明。ハッキングされてシステムも異常は見当たらず、せいぜいISを使った市街戦が問題になった程度。死傷者はなく、セシリアが肩を刺されたくらい。被害は第六アリーナの外壁と、混乱により交通が麻痺した程度だろう。その事後処理に追われて千冬はこの場にいない。

 

 しかし、取り調べを受けた際にフェリスの件は耳にした。あの、基本的に他人任せで自らは動かない情報屋がそこまで動けるとは、露ほども思わず耳を疑ったものだ。

 

 

「むぅ。ナナくん、聴いてるの?」

 

「ん?ああ、悪ィ」

 

 

 そんなことを考えていたせいだろう、隣の楯無の会話が耳に入っていなかった。一夏たちが騒ぐリビングの中央、そこから外れた玄関へと続く扉の前でナナたちは聞かれたくない話をする。

 

 

「もう………。それで、相手はどうだった?」

 

「報告した通り、だよ。バイザー被ってたせいで見えづらかったが、ありゃ間違いなく一夏、そしてオレに因縁あるな」

 

 

 スコープ越しとは言え、一瞥くれた相手。それも生半可な敵意などではない、本物の殺意を向けてきたのだ。心当たりなど皆無であり、何が琴線に触れてのかもわからない。だが、確実に手を組んで仲良くなれる事はないと当たりはつけている。

 

 

「そう………引き続き、囮を頼むかもしれないわね」

 

「覚悟の上だ。それに、易々と殺される様な扱きは受けてねェ」

 

「あら、それじゃあ特訓はもっと厳しくしてもいいわね」

 

 

 楯無の言葉に一瞬、ナナは固まる。わかっているのだ。手心を加えられた特訓で掴めるものは少ないのだと。だが、それでも少しの優しさを貰いたいと思うのは仕方がないだろう。

 苦渋の末、「………頼む」と口にしたナナに楯無は笑う。そうでなくては、と。それでこそ、と。

 

 

「ンで、てめぇの方はどうだった?」

 

「どうもこうも、相性最悪よ。私の水、ぜーんぶ掻き消されちゃうもの」

 

 

 楯無が思い起こすのは潜入していたスコールのこと。襲撃のどさくさに紛れて何かを仕掛けようとしていた彼女を楯無は止めた。だが、止めただけだ。得意の水は相手に届かず、あそこで戦っても勝機はなかっただろう。

 ナナに亡国機業相手に無理をするな、と釘を刺しておきながらなんて体たらく。穴があったら入りたいと思うのも仕方がない。

 

 

「そうか。ま、相手の手札が一枚割れたンだ。上等だろ」

 

「………ありがと」

 

 

 自身の失態など、本人が一番理解している。だからこそ、ナナは別に責めたりしない。元より、そう上手く事が運ぶ相手だとは思っていないのだ。

 その不器用な優しさに感謝を溢す楯無。何のことだか、と肩を竦めるナナにより一層好意を寄せる。叶うことなら彼氏が可愛いと声を大にして自慢したい。そんな欲求に駆られるが、それはぐっと我慢を。自室であれば抱きついているところである。

 

 

「あれ、2人ともこんなとこでどうしたんだ?」

 

「Hi、一夏。ちょっとお話してただけヨ」

 

「改めてお誕生日おめでとう、一夏くん」

 

「ありがとうございます」

 

 

 隅にいた2人を見つけた一夏が近寄った。これ以上の秘密の会話は不可能と判断し、2人は当初の目的である一夏の誕生祝いへと思考を切り替えた。

 

 

「berth day presentはナニを貰ったのかナ?」

 

「えーっと、鈴からはラーメンだろ。シャルからは腕時計、ラウラからはサバイバルナイフ、箒からは着物。蘭からはケーキで、のほほんさんからはお菓子の詰め合わせ、セシリアからはティーセット」

 

「五反田の兄からは何を貰ったノ?」

 

「あー………その、なんだ………いい雰囲気になった、男がつけるべきもの、とだけ言っとく」

 

 

 言い淀む一夏を見て、何をプレゼントされたか察しがついたナナ。確かに、一夏には遅かれ早かれ必要になるものだろう。それを察してか、もしくは冗談混じりだったのかはさておき、中学からの友人だと言うだけはあると関心を。

 

 まぁ、誕生日プレゼントなんてそんなものだろう。相談に来た面々も、殆どが後押ししただけであり、その内容までは詳しく聞いていない。一部思うところはあるがまぁ、自身のプレゼントと被ってないだけマシだと思うことにした。流石に他人のプレゼントに口を出すほど野暮ではない。

 

 

「ちなみに、会場の料理は殆ど私と虚の手料理よ」

 

「いつの間に………えっと、ありがとうございます」

 

「可愛い後輩のためだもの。それで、感想は?」

 

「どれも美味しかったです」

 

 

 家事に精通しているだけあって、一夏の料理の腕も確かなもの。だからこそ、用意された料理の数々のレベルの高さは感じていた。

 

 

「そう言えばナナくん、プレゼント渡したの?」

 

「まだだヨ。だから、はい。present for you」

 

「おう、ありがとう」

 

 

 ナナから手渡されたプレゼント。袋に包まれたそれを早速とばかりに開けてみれば、中には1着のエプロンが。

 

 

「前に使っていた物がbrokenしたって聞いたからネ」

 

「おお!助かる」

 

 

 青地のそれを試着してみればサイズはピッタリ。機能性もバッチリで、胸の前にあるポケットは大きく、物を入れておくには最適。確かに前にちらりと話をしたが、まさか覚えていてもらえるとは思わず埒外の喜びを。

 

 

「お礼に今度、何か作るよ」

 

「なら、一緒にcookingネ」

 

「あれ?ナナ、料理するのか?」

 

「最近勉強中だヨ」

 

「そうなのよ!ナナくんったら、私が疲れてるだろうからって手料理作ってくれるのよ」

 

「そ、そうですか………」

 

 

 ここぞとばかりに惚気だす楯無に、若干引いた様子の一夏。ナナもナナで苦笑いを浮かべるしかない。大変そうだな、と一夏が視線で訴えかけるが、ナナからすればお前もな、と言いたいところ。

 何せ、一緒に料理をするかと発言した際に、専用機持ち達と蘭の視線が一斉に注がれたのだから。私も参加したい、と素直に言えばいいものを、意地なのかそれともがっつき過ぎに見られるのが嫌なのかはわからないが、自分もと視線で訴えかけてくるのは勘弁願いたい。元殺し屋であるが、別に便利屋になったつもりはないのだから。

 

 

「なになに?熱いニュース?聞かせなさいよ、たっちゃん」

 

「ふふ、実はね薫子ちゃん。事の発端はーーー」

 

「Ah、楯無。そろそろお口にchuckネ」

 

 

 騒ぎを聞きつけた薫子に、惚気の影響で赤裸々に話出そうとする楯無を止める。学内新聞(ゴシップ)のネタになるつもりはない。ただでさえ、学園祭のツーショットの件で騒ぎ立てられたのだ。これ以上は本当に支障が出る。

 

 こう言うのを止める虚はどこに行ったのだ、と周囲を見渡せばリビングにはいない。側仕えが主人を放っておくなど珍しいではすまない。まさか、亡国機業か?と疑いをかける。

 

 

「一夏。虚はどこに行ったのかナ?」

 

「え?虚さんなら、弾と廊下にいたぞ」

 

「本当⁉︎よし、行くわよ‼︎」

 

「副会長のスキャンダル⁉︎明日の見出しは決まりね‼︎」

 

 

 恋愛話に敏感なのは女子の特権、とでも言うのだろうか。早速とばかりに女子2人がそちらへと。何が何だかわからず、頭をこてんと掲げる一夏は唐変木ここに極まれり。恋慕を寄せる女子達がいっそ哀れである。

 

 

「どうしたんだ、急に十字切って?」

 

「ちょっと、ネ」

 

 

 他人がどうこう言える問題ではない。ナナにできることと言えば、この唐変木が治る事を祈るくらいである。神など信じていないので、そこは気持ち的な問題なのだが。

 

 

「ちょっとナナくん、何してるの?早く早く‼︎」

 

「ハイハイ。それじゃあ、一夏。そう言う事ダカラ」

 

「おう」

 

 

 いつまでも来ないナナに、痺れを切らした楯無に連行。ヒラヒラと手を振って別れを告げると、廊下へと続く扉を盾にして廊下を覗く薫子が。続く様に楯無も同じ様にして覗きだす。仕方がないとため息を吐いてナナも覗く。

 

 どうやら連絡先を交換してたようで、互いに真っ赤になりながらケータイを操作。それが終われば気まずい沈黙が流れる。話を続けたいが迷惑ではないか、うざがられないか、そも話のネタが思いつかない。そんな2人の葛藤が見ているこっちにまで伝わるほどに。

 

 

「じれったいわねぇ………」

 

「ソレを言う資格は、オレたちにないヨ」

 

 

 少なくとも、同じ様な事を虚の前でやったナナと楯無にはないだろう。だが、このままでは埒が明かないのも確か。誕生日パーティーで、他人の恋路の盗み見で時間を潰すのも勿体無い。放っておく事が一番だろうが、それで納得するような楯無ではないだろう。

 どうしたものか、と悩むナナとふと、視線を彷徨わせた弾と視線がかち合う。

 

 

「ちょ、ちょっと待っててください‼︎」

 

 

 それだけ言った弾は勢いよくナナの元へと来ると、その手を引いてリビングの隅へと。されるがまま、厄介ごとに巻き込まれたと確信したナナの表情は死んでいる。

 そんな事はお構いなしに、肩を組んだ弾はそっと小声で相談をひとつ。

 

 

「な、なぁ、ナナさん、だったよな?」

 

「ナナでOKネ」

 

「おっし。それじゃ、ナナ。お前、彼女いたよな?」

 

「yeah、とっても素敵なネ」

 

「なら、恋愛経験はあるってことだ。ここはひとつ、俺の頼みを聞いちゃくれねぇか?」

 

「デートに誘いたいなら、まずは何かのお礼にって口実でいいんじゃなイ?」

 

 

 相談される内容はわかっていると、先手を打って助言するナナ。それに驚いたのは弾のほうだ。

 

 

「………そんなにわかりやすかったか?」

 

「とっても、ネ。確か、youのlittle sisterが勉強見てもらってるンでショ?それのお礼なら、敷居は低いだロウ」

 

「お、おう。確かに、それなら誘いやすいよな………悪い、助かった!今度、ウチに飯食いに来てくれ!サービスするからよ!」

 

 

 助言を得た弾は踵を返すと猛スピードで虚の元へと。なぜこんな所で恋愛について相談されるのだ、と内心で罵倒をひとつ。結果は分かり切っているが、楯無から送られてくるサインを見る限りうまく行ったようだ。

 同時に、用意したメモ帳に何かを書き連ねる薫子。明日の学園新聞の見出しは決まったも同然だろう。

 

 ちらり、と視線をリビングへと向ければ、鈴が用意したであろうパーティーゲームで残る面々が大盛り上がり。思うところはあるが、それはグッと堪えてため息ひとつ。

 

 

(………まぁ、偶にはいいか)

 

 

 汚れ役だろうと、必要とされるのなら悪い気はしない。というより、そうでも思っていないとやってられない。自分を慰めるように、またため息を溢すのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「お、よかった。売り切れはないな」

 

「luckyネ。but、partyの主役が雑用するなンて」

 

「まぁまぁ。何もしてないし、これくらいいいだろ」

 

 

 一夏の家から最寄りの自動販売機。そこで一夏とナナは足りなくなったジュースの補給をするために、缶ジュースを買っていた。

 主役なら主役らしく、パーティーを楽しんでおけばいいものを。そんな小言をぶつくさと溢しながら一夏の買ったジュースを腕に抱える。その数が10を超えた所で、ナナの小言が止まった。苦笑いしながらそれを聞いていた一夏は、おや?と思いそちらに視線を。

 何か警戒したように家とは反対方向へ険しい視線を向けていた。釣られて同じ方向を見る一夏。その視線の向こう、街灯の明かりが届かないギリギリの場所にひとつの人影が。

 

 

「どうしたんだ、ナナ?」

 

「シッ!一夏、ゆっくりbackネ」

 

 

 一夏も見た事がない、最大限の警戒を見せるナナの言葉に思わず従う。だが、その人影が一歩前に出て明かりに照らされた瞬間、一夏の動きが止まった。

 

 

「ち、千冬姉………」

 

 

 15、6歳程の少女。しかし、街灯に照らされたその顔は千冬をそのまま幼くしたものであった。

 

 

「いや」

 

 

 少女が口を開く。その顔にはうすら笑みを浮かべていて、千冬とは似ても似つかない。

 

 

「私はお前だ、織斑一夏」

 

「な、なに………?」

 

「Hey、crazy girl。それ以上、近づくナ」

 

 

 一歩前に出たナナが、一夏と少女の間に入る。面白くない、とばかりに鼻を鳴らした少女は眉を顰めた。

 

 

「オイ、邪魔だ。私は今日の礼を言いに来ただけだ」

 

「ソレ日本語でお礼参り、なンだロウ?」

 

「もしかして、サイレント・ゼフィルスのーーー」

 

「そうだ、そして私の名前はーーー」

 

 

 一歩前に出た少女に、手持ちのジュース缶をひとつ投擲するナナ。それを首を傾けるだけで躱した少女は名乗りをあげる。

 

 

「織斑マドカ、だ」

 

 

 すっと差し出されたのは、鈍く光を放つハンドガン。その瞬間、ナナはISの腕部を部分展開。こんな街中で武器は使えず、拳を握っての特攻。固まる一夏と同じ様に疑問はある。

 なぜ千冬と同じ顔なのか、なぜ織斑を名乗るのか。だが、今は目の前の存在の拘束を優先。話など、その時に聞けばいい。

 

 

「私が私であるために、貴様らは邪魔だ」

 

 

 その言葉と共に乾いた破裂音が響く。同時に、アスファルトを砕く音。発砲と同時に飛び退いたマドカはナナの拳を躱したのだ。放たれた弾丸はナナがISで弾いたが、狙われていたのは一夏。

 

 

「一夏、Run!戻って応援呼ンで‼︎」

 

 

 一夏を庇いながらの戦闘は不可能。そう判断したナナは注意を自身へと向けさせる為にISを解除。大振りな攻撃で一夏の壁になると同時に、相手の油断を誘う。

 

 

「ふん。いつまでそんな猿芝居を続けるつもりだ?」

 

「なンの事だかわからない、ネッ‼︎」

 

 

 低くしゃがんでの足払い。それを飛んで躱したマドカに、そのまま逆立ちするかの様に繰り出した蹴りが決まった。吹き飛ぶマドカだが、ナナの表情は優れない。両腕でガードして勢いを殺されたのだ。

 

 

「チッ、一夏!早く行け‼︎」

 

「あ、ああ!すぐ戻る‼︎」

 

 

 弾かれた様に動きだす一夏を尻目に、ナナはマドカから視線を逸らさない。応援云々は方便。自身が勝手にISを展開したのだ。すぐに楯無が動きだしているはず。それまで時間稼ぎできるかどうかだ。

 薄く息を吐いて思考を切り替えるナナに、起き上がったマドカは一瞥するのみ。

 

 

「ふん。貴様も私と変わらないだろうに、なぜ邪魔をする」

 

「訳のわからねェ事言ってンじゃねェぞ、電波女。好き勝手妄想垂れ流してェンなら、拘束された後でやれ」

 

 

 一夏もいなくなった事で偽りの仮面を脱ぎ捨てるナナ。油断なく、思考は冷たく、冷静に、冷徹に、目の前のマドカを拘束する事のみ考える。

 

 

(獲物はISのみ。相手は拳銃とIS。昼間の動きを考えれば、IS戦に持ち込まれたら勝ち目なし)

 

 

 先ほどの攻防で肉弾戦も出来ることは判明している。筋力の差で押し勝つことへ出来るが、逃げに徹されたらどうなるかはわからない。総じて面倒で厄介な相手だと言うことだ。歯噛みするナナにマドカの視線はどこまでも冷徹。例えるなら、飛べるのに飛ぼうとしない鳥を見る様な、呆れと失望をない混ぜにした視線だ。

 

 

「貴様は、今の立場で満足しているのか?」

 

「生憎と、充実してるよ」

 

「出自を知れば、そんなことは言えまい」

 

 

 銃口をナナへと向け、マドカは嗤う。絶望と失意の底に陥る事を確信するように。そして、その瞬間に弾丸を撃ち込む。そうすればアイツは、マドカが最も憎むアイツはどんな顔をするだろうか。それが待ち遠しく、期待を込め口角が上がった。

 

 

「貴様の正体はーーー」

 

 

 その瞬間、耳元のイヤホンから一本の連絡がマドカへと入る。

 

 

「お楽しみのとこ悪いけど、タイムオーバーニャ。更識楯無が向かってるニャア」

 

 

 それだけ言って切れた通信にマドカは舌打ちを。だが、目の前のナナに対し意識を一瞬と言えど逸らすのは悪手であった。

 その一瞬の内に距離を詰めると、その細い首目掛けてナナが手を伸ばす。驚いたのはマドカだ。事前の情報はフェリスから聞いている。だが、それでも侮っていたのだ。所詮はISを満足に扱えない男だと。殺しの技術のみの男だと。

 その代償は大きく、驚愕に染まるマドカの首が掴まれる。向けようとした銃口は手首ごと拘束され、地面に引きずり倒されて仕舞えば身動きは不可能。

 

 

「カハッ‼︎」

 

 

 驚愕による酸欠、そして押し倒された事による痛み。思考が混濁し、狼狽するマドカを冷たく見下ろしながらナナが口を開いた。

 

 

「チェックメイトだ、Mother facker」

 

 

 ギリギリと、その細い首にかけた手に力が入り酸欠が進むマドカ。朦朧とする意識の中、その冷たい視線に恐怖と憎悪を。フラスコ越しに浴びせられるいくつもの無感情な視線。それが走馬灯のように脳裏を掠める。

 

 

「ぁ、あぁああああ‼︎」

 

 

 強引なISの展開。それにより弾き飛ばされたナナは空中で一回転すると危なげなく着地を。今の一瞬で意識を落とさなかったのはかなり痛い。ナナに残された唯一の勝機だったと言うのに。

 

 対するマドカは喘ぐ様に酸素を求める。絞められた首を抑えながら、怨敵とばかりにナナを睨む。脳内を占めるのはナナへの殺意。生身では油断したが、ISならばマドカの方が上。

 

 

「殺す………‼︎」

 

「やってみろよ、電波女。できるモンならな」

 

 

 中指を立てて挑発するナナ。ISを展開する気配はなく、間違いなく楯無が来るまでの時間を稼ごうとしている。だが、頭に血が上ったマドカにそれを察する判断力はない。

 望み通り、惨殺してやろうとライフルを構える。だが、耳そばでがなりたてるように再度通信が入った。

 

 

「ニャアにやってんニャ。さっさと戻れっつってんだニャ」

 

「黙っていろ‼︎こいつは、今ここで殺す‼︎」

 

「だーかーらー、更識楯無が来るって言ってんニャ。お前が余裕で勝てる相手じゃねェんだニャ。捕まればお前、復讐もクソもなくなるニャ」

 

 

 それでもいいのかニャア?と通信越しでもわかるほど、半月のように嗤うフェリスが想像できる。学園最強と名高い更識楯無。マドカでも苦戦は強いられるだろう。万が一、負けた場合の事を考え舌打ちを。冷や水をかけられた事で冷静さを取り戻した脳で撤退を判断する。

 構えたライフルを降ろし、ナナを一瞥して飛翔。あっという間に夜の闇に紛れたマドカを見送り、ようやくナナは肩の力を抜いた。

 

 

「ナナくん‼︎」

 

 

 タイミング良く現れた楯無に視線を向け、安堵をひとつ。慌てた様子の楯無はナナに近づくと身体を触る。腕や肩、胸や腹、最後に両頬を包んで怪我が無いこと確認するとこちらも安堵の息を溢す。

 

 

「はぁー………無事、みたいね」

 

「お陰様でな。一夏は?」

 

「家に戻したわ。不承不承だけどね。そ、れ、よ、り、も!」

 

 

 頬を包んでいた手を伸ばすと、耳を掴んで思いっきり引っ張る楯無。顔は怒ってますと言わんばかりに頬を膨らませ、眉間に皺が寄っている。激痛の中愛らしい表情だと思う自身がいるが、込められた力は耳を引きちぎらんとばかり。涙目になるナナであるが、楯無は容赦しない。

 

 

「また無茶して‼︎ISの無断使用は致命的だって、本国の時に言ったでしょ⁉︎覚えるまで耳元で叫んであげましょうか⁉︎」

 

「イッ‼︎わ、悪かった‼︎悪かったから、離してくれ‼︎」

 

 

 一頻り引っ張って満足したのか、ようやく手が離されるとナナは耳が付いているかを確認する。それでも怒りは収まらないのか、腕を組んでナナを睨む楯無。

 

 

「まったく………次からはちゃんと私を呼ぶこと!いいわね⁉︎」

 

「………yes ma'am」

 

 

 その返答で取り敢えずは溜飲を下げる楯無。ここまでの道すがら、合流した一夏に何があったかは聞いている。まさかこんな所にまで亡国機業の手が伸びるとは予想外であったが、一先ず撃退できたようで何より。

 

 今後もこの様な襲撃がある可能性を考えれば、一夏やナナは学園の外に出られないだろう。だが、貴重な学園生活を送る上でそれは精神衛生上よくないことは楯無にもわかっている。何より、デートが出来なくなるのは痛い。事情をある程度知っている専用機持ちたちに護衛してもらう事が無難かと考え、それを学園上層部にどう説明するかシュミレーションを。

 

 

「とにかく、まずは一夏くんの所に戻りましょ。すごく心配してたんだから、彼」

 

「…………そう、だな」

 

 

 ナナの脳裏に浮かぶのは先ほどのマドカのこと。織斑を偽名で名乗る分には、まだわかる。だがあの顔は、千冬に似たあの顔は、他人の空似で片付けていいものでは無い。

 千冬が何か知っている可能性は高い。報告の際、根掘り葉掘り聞く必要があると考えていた。痛む耳に意識を取られつつも、ナナは一夏の元へと足を進めるのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 高層マンションの最上階。豪華な飾りで溢れかえっているその部屋で、マドカは椅子に座る。テーブルを挟んだ対面には優雅に紅茶を口に運ぶスコールと、そして片膝を付いて苛立ちを隠そうともしないオータム。そして、マドカの隣にはフェリスが座っていた。

 

 

「それで、今回の独断専行の訳を聞かせてもらおうかしら」

 

 

 紅茶を置いて、スコールがそう問いかけるがマドカは応えず、舌打ちのみ。それにキレたのがオータムだ。テーブルに両手を叩きつけ、勢いのまま立ち上がったオータムの怒声が部屋に響く。

 

 

「てめぇ、耳が聞こえねェのか⁉︎」

 

「オータム」

 

「黙ってろ、スコール。今回ばかりは許しちゃおけねェ‼︎下手すりゃこっちの情報が筒抜けになる所だったんだぞ‼︎」

 

「…………あんな奴らに、私は負けない」

 

「ほざけ、逃げ帰ってきたくせによォ‼︎それに、テメェもだ‼︎」

 

 

 オータムが睨む先、マドカの隣に座るフェリスは触っていたノートパソコンの手を止めると、面倒だと言わんばかりにそちらに目を向けた。

 

 

「こいつの手綱を握ってんのはテメェだろ‼︎大口叩いたわりに任務は失敗するは、こいつのお目付役もこなせねェは、何がしてェんだ‼︎」

 

「おいおい、任務失敗は私だけじゃニャいだろ?アンタの隣のスコールも、任務失敗したんじゃニャいか」

 

「うるせぇ、本命はてめぇのはずだ‼︎」

 

 

 確かにそうであるが、任務に失敗したことに変わりはない。それでもスコールに詰め寄らないのは惚れて弱み故だろう。恋は盲目とは、まさにこの事であると肩を竦めるフェリス。

 

 

「まぁ、その話は置いとくニャ。あと、言っておくけど任務は8割形遂行できてるニャ」

 

「はぁ?テメェ、任務失敗って言ったはずだろ?」

 

「あの場での続行不可ってだけニャ。その証拠に、ほら」

 

 

 ノートパソコンを回してオータムたちに画面が見える様にすると、そこに映し出されたのはIS学園の見取り図。所々抜けがあるが、それでも主要な施設への経路など殆ど網羅されていた。

 

 フェリスの任務はこの通り、学園の全体図の把握。途中千冬の妨害が無ければ、今後悠々と潜入を許すこととなっていただろう。そして、この任務の真髄はそれだけではない。

 

 

「この通り、ネットワークにアクセスして学園の全体図は入手できたニャ。そして、ここ。学園の地下に明らかニャブラックボックスがあるニャ」

 

 

 独立したネットワークを有するIS学園から、更に独立したネットワーク。ただの空白にしては大きく、十中八九何かを隠して置くための空間。それがわかっただけでも大手柄。スコールの口元が蠱惑的に歪む。

 

 

「裏でも有数の情報屋っていうのは、誇大広告じゃないみたいね」

 

「お褒めに預かり光栄だニャア」

 

「ッ‼︎待てよ、独断専行を許したのは間違いねェだろ‼︎」

 

「襲撃の後、気が緩んだ隙に強襲しただけニャ。ニャア、マドカ?」

 

 

 隣のフェリスからの助け舟に、マドカは下唇を噛む。ここで頷けばフェリスに貸しを作ることになり、横に張ればここぞとばかりにオータムが責め入るだろう。

 この様な無駄な時間を過ごすならばと考えるが、ただでさえ怪しいフェリスに貸しを作るデメリットを天秤にかける。無視してもいいが、今回はそれで済ませるほどスコールも優しくない。傾いた天秤にため息を溢しつつも、マドカは仕方なく答えた。

 

 

「………そうだ」

 

「てめっ、そんな言い訳通じるはずーーー」

 

「いいじゃない、オータム。今回は許してあげましょう」

 

「けどっ、スコール‼︎」

 

「ここは私の顔を立てて、ね?」

 

 

 同性でも見惚れる、美しくも可憐な笑みでそう告げられたらオータムは何も言えない。初心な少女のように顔を赤くして「お、おう………今回だけ、だけだからな」と同意すると、大人しく席に座る。

 

 

「Mもフェリスも、次からはちゃんと報告してちょうだい」

 

「あいあーい」

 

「………わかった」

 

 

 その返答を持ってして、スコールは笑みを深める。組織への忠誠はまだしも、少なくとも今は言うことを聞くのだと判明したのだから。

 後はマドカが暴走しないよう、フェリスに言含めておけばいい。それは視線だけで伝わったのか、フェリスもまた視線で返答する。出来うる限り、と言わんばかりではあったが。

 

 

「それじゃあ、この話はこれでおしまい。私は少し出掛けてくるわ」

 

「どこ行くんだよ?」

 

「ちょっと協力者を増やしに、ね」

 

 

 フェリスから送られてきた学園のデータを端末に納め、スコールは嗤う。これからだ、と。我らが復讐はここから始まるのだと、嬉しそうに笑みを浮かべるのであった。

 

 





 アンケートの存在を今の今まで忘れていました。
 沢山の投票をありがとうございます!

 特別編はやる方向なのですが、ネタが思いつかず………
 こちらもアンケートで決めていきたいと思います
 お手数ですが、ご協力お願いいたします
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