IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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23話

 

 

「妹ォ?」

 

「そう。更識簪、私の妹よ」

 

 

 時は少し遡り、ナナと楯無の自室。持ち帰った鍋を美味しくいただき、楯無は食後のお茶を、ナナは洗い物に精を出しながらそんな会話をひとつ。

 1人用の小さな鍋を洗いながら、なぜそんな話題を出すのか甚だ疑問だとばかりにナナは頭を捻る。お茶を一口飲んで唇を濡らした楯無は、重いため息と共に事の経緯を話し出した。

 

 

「キャノンボール・ファストの一件から今度、専用機持ちを対象とした全学年合同のタッグマッチが開催されるわ」

 

「………ああ。自由の効く専用機持ち達のレベルアップ、ってわけか」

 

「そういうこと。そこで、一夏くんに彼女と組んで欲しいんだけど………」

 

 

 一夏の事だから理由を説明すれば承諾してくれると思うが、いつになく憂いの表情の楯無。それだけで何か厄ネタがあるのだろうと察する事ができる。洗い物を終えたナナがそれらを拭いて乾かすと、同じくお茶を持って楯無の向かいへと座る。

 

 

「なンだ?一夏じゃ荷が重いって事か?」

 

「そうじゃないんだけど………一夏くん、目の敵にされてそうなのよねぇ」

 

「?面識があったのか?」

 

「ないんだけど………彼女、日本の代表候補なんだけど、専用機がないのよ。開発元は倉持技研」

 

 

 それだけでああ、と納得するナナ。倉持技研は一夏の専用機、白式の開発元でもあるのだ。大方、そちらにリソースを振りすぎてもう片方の専用機まで手が回っていないと言う事だろうと当たりを付けた。

 

 一夏に非はないが、それでも恨まれるのは仕方がない。何せ、一夏がいなければ専用機が手に入っていたかもしれないのだから。例えタッグを組めようと、その溝を埋めるのは中々に難しい。

 

 

「他の奴じゃダメなのか?」

 

「一年生は一夏くん争奪戦になるでしょうし、関わり合いがないからダメよ。二、三年生の方なら尚更ね」

 

「…………あれか?クラスの片隅で誰とも関わらねェタイプか?」

 

「その通りよ…………」

 

 

 なるほど、根暗か。と口にはしないが納得するナナ。その手のタイプと付き合いは無く、あっても仕事中に何度か目にした程度。自分の世界に引きこもり、周囲と壁を作るのだからこちらとしても手が出せないのだ。

 

 この短いやり取りの中で、妹の存在が楯無のアキレス腱だと言うことはわかる。更に言えば将来的に義妹になるかもしれない相手なのだ。It's a hassle(面倒だ)と言って無碍にする訳にもいかない。

 

 

「その相手、オレじゃダメなのか?」

 

「ダメじゃないけど、一夏くんより勝算低いわよ」

 

 

 楯無の言葉になぜ?を浮かべるナナ。一夏よりも勝算が低いとなると、それこそかなりのもの。身内の仇になったつもりはないのだが、と肩を竦めるナナに、楯無は気が進まないようで誤魔化すようにお茶を一口。

 しかし、ナナからの無言の圧力に負けて渋々と口を開いた。

 

 

「その、なんて言うのかしら………ナナくんは私の彼氏よね?」

 

「yeah。確認するまでもねェな」

 

「それが問題なのよ」

 

「Uh………あぁ、仲悪ィのか」

 

「うぐぅ」

 

 

 楯無の言に悩むこと少し、合点がいったとばかりに口にした言葉は鋭い刃となり、楯無の心の臓へと突き刺さる。痛む胸を抑えてテーブルに突っ伏す楯無を他所に、それは確かに場違いだと納得を。

 何せ、嫌う相手の関係者だ。後ろから刺されると思わない方がおかしい。

 

 

「な、仲が悪いと言うか、一方的に嫌われてるって言うか………とにかく、私の彼氏だって事は学園中が知ってる事。簪ちゃんの耳にも確実に入ってるわ」

 

「お前、何したんだよ」

 

「………当主問題で、ちょっと」

 

「………器じゃねェ、とでも言ったか?」

 

 

 ナナの言葉に、再び楯無が轟沈する。正確には「無能なままでいなさいな」なのだが、突き放したことに違いはない。

 

 それもこれも、簪を守る為である。

 当主の妹、となれば万が一の為のサブとして育てられ、自由な生き方はできないだろう。恋愛はもちろん、下手をすれば都合のいい傀儡として下剋上の神輿に担ぎ出される可能性も。

 

 それらを防ぐためにも、楯無は突き放した。最愛の妹を。血を分けた姉妹を。

 

 利用価値はないのだと周囲に知らしめ、そして下剋上など起こす気も起きないほどの実力差を妹含めて見せつけたのだ。

 後悔することはある。というより、後悔してばかりだ。だが、あの時取れる手段としては最善。これを機によりを戻そうなど、そんな甘い考えは捨てている。

 まぁ、嫌われている現実を突きつけられると中々にキツイのだが。

 

 

「まァ、それなら仕方がねェ。未来の義妹への挨拶は、別の機会だな」

 

 

 何かしらの理由があるのだろう、とナナも察している。彼氏とは言え、まだそこに踏み込んでいい訳ではないのだ。時が来れば楯無の方から語ってくれると信じているが故に、ナナは一線を引く。

 

 

「そうなるわね。はぁ………顔合わせはいつになるかしら」

 

「案外、近いかもな」

 

 

 何せ一夏である。男性操縦者にして、女を陥落される事が得意な一夏である。その胸襟を開かせる腕前はナナにだって真似できない。

 おどける様に肩を竦めるナナを尻目に、楯無は立ち上がる。とりあえずは一夏に簪の事をお願いしに行くつもりだ。さて、どうやって頼み込むかと頭を悩ませながらドアノブに手をかける楯無に、「ああ、そうだ」と思い出したナナがその背中に声をかけた。

 

 

「あんま抱え込みすぎンなよ、刀奈。てめぇの抱えてるモンを支える事ぐらいは、できるつもりだ」

 

 

 生徒会業務に加え、タッグマッチの件、亡国機業の件、そして妹の事。ナナから見てもかなりの課題を抱えているのだ。そのどれもを解決する力を、ナナは持ち合わせていない。それに歯痒く思いながらも、強力することはできるのだ。

 

 このまま全てを楯無に任せるのは柄ではなく、そして彼氏としても失格だ。楯無の隣に立つ事を決めた時から、荒波に揉まれる覚悟はしている。差し出された手に応える準備は万端だ。

 

 

「えぇ、頼りにさせてもらうわ」

 

 

 これだから、ナナを好きになってよかったと、心の底から楯無は思う。更識家の楯無ではなく、1人の人間(刀奈)として、扱ってくれる。それが本人にとってどれだけ救いになることか。

 ナナに抱きつきたい気持ちが心の底からむくむくと湧き上がるが、これ以上遅くなっては一夏の迷惑となる時間になるだろう。それは戻ったときにと決心し、朗らかな笑みを浮かべた楯無は、浮ついた心で扉を潜るのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 さて、そんな一幕を挟みつつも一夏は楯無からの依頼を了承。黛薫子の姉が企画する、箒と一夏のインタビューが週末に控えている為に早速翌日から行動を開始。

 4限目が終わり、昼休みに入った時間帯。一夏は計画を実行する。題して『一緒に昼食を取って仲良くなろう作戦』である。

 

 いつもなら専用機持ちの誰かの誘いの元食堂を利用するのだが、今日このときばかりは購買で購入したパンを片手に簪のいる4組に乗り込むつもりだ。

 

 

(って、思ったんだけどなぁ………)

 

「待っていたわよ、一夏!」

 

 

 早速とばかりに計画は頓挫してしまった。

 タッグマッチの件に関しては既に朝のSHRで説明されているため、こうして早めに行動して他の専用機持ちと組むのを防ごうとしたのだが、教室に出た瞬間に待ち構えていたのは鈴。昼休みのチャイムが鳴ってまだ30秒くらいだぞ、と言いたくなった。

 

 

「アンタ、あたしと組みなさいよ!」

 

「お待ちなさい、鈴さん!一夏さんと組むのはわたくしですわ!」

 

「いや、嫁は旦那である私と組むべきだ」

 

「経験のある僕と組んだ方がいいんじゃないかなぁ」

 

「こほん。その、一夏がどうしてもと言うのなら、組んでやらんこともない」

 

 

 教室の出口で待ち構えていた鈴に脚を止められ、それは譲らないとばかりに他の面々も一夏の逃げ道を防ぐ。恐れていた事態がすぐに起こってしまった。あまりの女子の行動の速さに思わず天を仰ぐ一夏。

 

 

「すまん。先約があるんだ」

 

「は?先約?まさかーーー」

 

 

 どうにか断れないか、と言葉を口にするが、その瞬間に全員の視線が教室内のナナに注がれた。

 何のことだかわからず、取り敢えず手でも振って応えるナナだが、その反応からして違うだろうと全員が察する。ナナの性格ならばそれは辞退するだろうし、何より楯無と組むだろうと予想しているからだ。

 

 同じく、視線を向けた専用機持ち達の誰でもないと言う事も、今の反応で察せる。ならば嘘をついたのか、と非難めいた視線が一夏に向けられた。

 

 

「アンタねぇ………近、中距離をカバーできるアタシと組むべきでしょうが!」

 

「いえ、遠距離でのサポートが得意なわたくしが!」

 

「学年内での実力ならば、私が一番だが?」

 

「ぼ、僕は一夏の癖を知ってるし、的確にサポートできるよ!」

 

「わ、私は、ISの相性が良いからであってだな………」

 

 

 すぐバレるような嘘は吐くべきではない、と一夏は心の中にそっと刻む。より一層退路が塞がれるだけだからとわかったからだ。

 

 

「なになに?また喧嘩?」

 

「一夏くんの争奪戦みたいよ」

 

「あー、いつもの………」

 

「はい!男子同士で仲良くペアを組んだ方がいいと思います!」

 

 

 周囲に助けを求め様にも、いつもの事として誰を手を差し出してくれない。何なら謎の挙手をされただけだ。どう切り抜けたものか、と悩む一夏に救いの手がひとつ。

 

 

「hey hey、一夏は用事があるみたいネ。通してあげなヨ」

 

 

 ふわりと、自然に。専用機持ちの間を縫って現れたナナが手を引いて包囲網の外に連れ出すと、そのまま一夏の背中を押す。助け出された本人も何が何だか、と困惑したが早く行け、とハンドサインで促すナナに助け出されたのだと理解するとサムズアップしてその場を任せる。

 

 

「悪い、任せた‼︎」

 

「あ、ちょっと、一夏ァ‼︎」

 

Don't move(動かないで)ネ」

 

 

 後を追いかけようとする鈴たちの前で両手を広げて止めるナナ。5人全員で行けば通り抜けられるかもしれないが、確実に誰か捕まる。そうすれば共にタッグを組むチャンスは無くなるだろう。それがもし自分ならばと警戒して動けなくなる面々に、ナナはため息を溢す。

 

 

「ちょっと、オーウェンさん。通していただけます?」

 

「っていうか、アンタは誰の味方よ‼︎」

 

「勿論、一夏の味方だヨ」

 

 

 どうにか隙を、と5人それぞれがチャンスを伺うがその隙は中々現れない。その諦めの悪さは評価するべきか、と悩むナナだが生憎と通すわけにもいかない。何せ今回、自身が表立って動くことは不可能。せめて貢献する為にサポートに回る必要があるのだから。

 

 さて、こう言う場合「先に進むならオレを倒してからだ」という場面だとこの間観たドラマで学んだが、生身なら兎も角ISを部分展開されては勝ち目はない。どう時間を稼ぐべきかと少し考え、妙案を思いつく。

 

 

「はぁ………一夏がみんなに嫌われてるかもって相談するだけあるネ」

 

 

 その言葉に全員の動きが止まる。勿論そんな相談は受けておらず嘘八百であるが、案外胸の内はそう思ってるかもしれないな、と思いながら言葉を続けた。

 

 

「は、はぁ⁉︎そ、そんなワケーーー」

 

「だって、何かあったら暴力、脅迫………これがloveだと思う方が異常ネ」

 

「そ、それは、一夏さんが中々気づいてくれないからであって………」

 

「そ、そうだよ!それに、思わせぶりな態度もいけないと思うよ!」

 

「HAHAHA、nice one。この中に誰か1人でも、ちゃんと好意を伝えた相手はいるかナ?」

 

「私は伝えているぞ」

 

「ああ、ウン。ソーだネ」

 

 

 まぁ、ラウラという例外はさておき。ナナの目から見て照れ隠しなのか、それともそう言う趣味なのかは判断つかないがそれらの行動は目に余る。任務があった時はおこぼれの血を目当てに無視していたが、今はそうも行かない。

 これを機に少し釘を刺しておくのも悪くない、とさながら舞台役者のように大袈裟な身振り手振りで注目を集める。

 

 

「Domestic violenceなンて、仲が悪くなる一方だヨ?一夏、優しいから見逃してるけど、その内愛想尽かされるヨ?」

 

 

 呆れた調子のナナの言葉が鋭い刃となり、それぞれの胸を貫く。そのダメージは大きく、脚に震え出す始末。楯無との仲の良さを周囲に認知されているだけあり、かなりの攻撃力である。

 目論見通り、と内心で口角を上げてナナは教室へと脚を運んだ。少し面倒だと頭の隅で声が上がるが、それも致し方ないこと。漏れ出しそうなため息を抑えて、ナナは壇上に立つ。

 

 

「相談室に勤めている身として、特別授業をしてあげるヨ。勿論、他のみんなも参加OKネ。さて、聴きたい人は?」

 

 

 ナナの言葉に、クラス中から手が上がる。これを機に楯無との関係を聴きたい者や、今後の恋愛に活かせるかもと打算する者。単純にナナとお近づきになりたい者とその意思は様々であるが、それはさておく。

 専用機持ち達は一瞬、この隙に一夏を追うかと悩むが、それよりもナナの話である。例え強引にタッグを組めたとしても嫌われてしまっては意味がない。それぞれが適当な席に座ったのを確認すると、ナナはほくそ笑む。

 

 元殺し屋が恋愛を語るなど嗤い話にもならないと失笑するが、その現実は見ない様に、なんとか意識を一夏から逸らそうと弁舌を開始するのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「はぁ………」

 

 

 ベッドの上で大の字になって重いため息を溢す一夏。夕食を終えた彼は本日の反省を頭の中で反芻する。

 ナナのサポートもあり、無事に4組の簪に接触することはできた。だが、取り付く島もないとはこの事とばかりに相手にしてもらえず、結局会話らしい会話もできずに終わったのだ。

 

 そも、今まで接点がなかった間柄なのだ。突然タッグを組んで欲しいと頼んで、はいそうですかとなるわけがない。楯無の差金だろうと看破されるのも無理はないのだ。予想以上に姉との溝は深い。

 

 

「どうしたもんかな………」

 

「ドーしたもコーしたも、attackするしかないネ」

 

「でも、あんまり強引にしちゃダメよ?」

 

 

 誰もいないと思って出した独り言に、思わぬ返しが入る。反射的に身体を起こした一夏の視線の先にはナナと楯無の姿があった。2人揃って持参したであろう書類を捌きながら、お構いなくとばかりの態度。一夏がドン引きするのも仕方がない。

 

 

「ど、どうして2人がここに?」

 

「どうしてって、ねぇ?」

 

Strategy meeting(作戦会議)のためだヨ、ネェ」

 

 

 ねー、と2人で顔を合わせて、同じ方向に頭を傾ける。仲睦まじい光景であるが、一夏からすれば不法侵入の件で頭がいっぱいだ。今まで散々女子達にされてきたが、まさかナナまでそちら側に回るとは。ある種絶望である。

 

 

「一応knockしたヨ?デモ、反応なかったからネ」

 

「鍵もちゃんとかけないとダメよ、一夏くん」

 

「そうか、俺のせいか………」

 

 

 簪の事で頭がいっぱいになっていたあまり、気づかなかったようだ。だとしても、せめて声をかけて欲しい。そう思うのは我儘だろうか。

 天を仰ぐ一夏を慰めるわけではないが、書類も一区切りついたのだろう。身体を少し伸ばした楯無は一夏の方へと向き直り、ナナは持参した紅茶を淹れる。リラックスできるように、とカモミールティーを3つそれぞれの近くに置くと、話題を口にした。

 

 

「さて、一夏くん。失敗したみたいだけど、まだ初日。巻き返しは効くわ」

 

「まぁ、そうなんですけど………あんまり上手くいきそうじゃないというか」

 

 

 ナナの淹れた紅茶で口を濡らしながら、簪の対応を考える。少なくとも、今のままでは何百回声をかけようと結果は同じだろう。恋愛には疎いが対人には一夏もそこまで疎くない。

 ナナならどうする?と言う視線を向ければ、少し考えた後肩を竦めながら答えた。

 

 

「こう言う時は、共通の話題探しネ。楯無、彼女の好きなものは?」

 

「うーん………ああ、あの子よくヒーロー物のテレビ見てるわね」

 

「あー………俺、あんまり詳しくなくて」

 

「この路線はやめておくネ」

 

「諦め早くないか⁉︎」

 

 

 提案しておきながらであるが、ナナも別に場を和ませようとしたわけではない。少なくとも、姉の楯無が第一に思い浮かべる趣味ーーーつまりは、簪にとっての1番話題が広がるであろうそれに興味が向かなければ意味はない。

 一夏が聞き上手ならばまだしも、付き合いの中でそれはないとナナは断言できる。計画は初手で頓挫したのだ。

 

 

「後は………専用機を自分で作り出そうとしてること、とか?」

 

「専用機を?そんな事できるんですか?」

 

「できるみたいネ。楯無、貰った未完成の専用機を実用化して今の形にしたヨ」

 

 

 は?と思わず口から音が漏れる。元の形があったとはいえ、それを実用化させるなどいち生徒ができるはずがないのだ。それは今までISの事を学んだ下地があるから故の真っ当な判断。プラモデルのようにいくわけがない。

 視線の先の楯無は困った様に頬を掻くと、紅茶を一口。様になる姿ではあるが、今はそれどころではないのだ。

 

 

「うーん、語弊があるんだけど、流石の私も1人で全部できるわけじゃないのよ?あの時だって、虚や他のみんなの力を借りたわ」

 

「それで実用化できたンだから、大したものだヨ。まぁ、結局独力で作ったって rumor()になったみたいだけド」

 

「それでか………」

 

 

 姉が作れたのだから自分も、と倉持技研から提供された未完成の専用機を実用化させようとしているのだろう。しかも、あの様子であれば誰かと協力している事はない。そして、それが上手くいっていないことは今まで行事を休んでいる事から明らかだ。

 

 今回のタッグマッチは強制参加。専用機がないから免除、と融通が効くほどIS学園は甘くない。最悪、学園中から嘲笑の的にされるだろう。

 その予想は当たらずも遠からず、と一夏は思っている。何せ、簪の事をクラスメイトに聞こうとした時に聞こえたのだ。代表候補生になれたのも、結局姉のお陰なのだろう、と。

 

 姉を、そして周囲を見返す為に、あの冷淡な表情の裏で激情を燃やしている。それが空回りだと認める事ができずに。

 

 

「But、一夏。いきなり専用機作りの手伝いなンてdumb move(悪手)ネ。警戒されて終わりだヨ」

 

「それはわかってるよ。ただ、どうしたものか………」

 

 

 まぁ、確かにナナとしても打つ手はない。いっその事、自身が悪役となり一夏に救わせると言うマッチポンプに走った方がまだ可能性がある。ただし、それは最終手段。バレた時のリスクも考えれば、二進も三進も行かなくなった時のみにしか使用できない。

 

 

「ふっふっふっ」

 

 

 男が2人して頭を抱える中、仕方がないとばかりに楯無が含み笑いで注目を集める。何か策でもあるのか?と視線をそちらへと向ければ、気持ちのいい音と共に扇子が開かれる。書かれている文字は「雑談」。

 

 

「あんまり根を詰めても仕方がないわ。せっかくの機会だし、お話といきましょ」

 

「えぇ……」

 

 

 何かと思えば、いっそふざけているのかと怒鳴りたくなる内容。誰の依頼のせいでこんなに頭を悩ませているのだと、余計に一夏は頭を抱えた。

 

 

「………そうだネ。これ以上悩ンでも迷走するだけだヨ」

 

「ナナ、お前までもか‼︎」

 

「息抜きネ、息抜き。ほら、追加の紅茶はいかがかナ?」

 

 

 一層頭を抱えた一夏に追い打ちをかける様に、ナナがティーカップに紅茶を注ぐ。実際、妙案は出てこないのだ。気持ちを一転させるのも悪くはない、とナナも楯無の案に乗る。そうなれば必然的に一夏も折れるしかない。

 

 

「はぁ………先が思いやられる………」

 

Me too(オレも)ネ。タッグマッチ、相手探し面倒ヨ」

 

「え?楯無さんと組むんじゃないのか?」

 

「それがね、学園全体の専用機持ちは11人。奇数だから1人余っちゃうの」

 

「ああ、だからか」

 

 

 専用機持ちの中でも頭ひとつ抜けた楯無は1人で、と言う事らしい。てっきりナナは楯無と組むとばかりに思っていただけあって、素直に驚きを隠せない一夏。

 

 それでもそこまで気落ちしていないのは、何かしらの策があるからだろうと察する。生徒会業務もそうだが、ナナといちゃつく計画を立てるのにも楯無は余念がない。今回2人で部屋を訪れたのもその一環なのだろうと当たりを付ける。

 

 

「2、3年生の2人はそっちで組むみたいだし、残るは1年生の中………ナナくん的には誰が好みかしら?」

 

「君以上の女性はいないヨ。まぁ、組むとしたら篠ノ之だネ」

 

「箒か………」

 

 

 確かに、遠距離が得意なナナとオールラウンダーの機体とは言え近接に重きを置いている箒であればタッグとしてピッタリだろう。だが、なぜだろう。2人が背を預けて戦う姿を想像しただけで、モヤりとしたものが一夏の胸の内に巣食う。

 

 ナナは楯無を溺愛しているし、そう言う事にはならないとは一夏としても断言できる。しかし、言いようのない不安というべきか、自身でも何が不満なのかわからない何かがあるのだ。

 

 その表情の変化に目敏く気づくナナと楯無。存外、そう言った意識はあるのかとアイコンタクトで会話を。一夏が誰を選ぶかわからないが、それはそれは楽しみだとひっそりと笑みを浮かべていた。

 

 

「No problemネ、一夏。彼女に手は出さないヨ」

 

「それは信用してる。ってか、なんでそんな話するんだよ‼︎」

 

 

 その胸の内にあるものにまだ理解はないらしく、良くないものとだけしか認識していない様子の一夏。「Jesus(嘘だろ)」と呟いたナナは悪くない。

 昼休みに専用機持ち含めた面々に説教を垂れたが、一夏にも必要なのかもしれない。そうでなければ彼女達が不憫だ。元とは言え裏社会の人間にそんな事を思われている時点で相当である。

 

 

「あ、そうだ。ナナ、昼休みに何かしたか?何かみんな余所余所しくてさ」

 

「………dunno(さぁ?)

 

 

 昼の内容は一夏、もとい男性が好意を寄せる女性の傾向である。長ったらしく話したが、要約すれば暴力を振るっても振り向かないよ、である。思う点があったのか、もしくはどう接すれば良いのかわからずその様な結果となったのだろう。

 まぁ、それぞれどうアプローチするのかは本人次第であり、関与すべきではない。そのアプローチを無碍にするのならば、それこそ手遅れ。一夏にもこんこんと説教する他なくなるだろう。

 

 

「女の子のあれこれ知りたいかもしれないけどダメよ、一夏くん。そういう時は信じてそっとしてあげるのも、男の子の器量よ」

 

「いや、そう言う訳じゃ………まぁ、はい」

 

 

 素直に首を縦に振る一夏に、楯無は満足そうに頷く。

 そんな他愛もない話を交えながら、対簪への指針は決まる。即ち、押して押して、押しまくるのだ。一歩間違えれば宥めた専用機持ち達と言えど黙っておられず、烈火の如く一夏に問い詰めるだろうが取れる手段はそれしかない。

 

 ちなみに、ナナの悪役案は却下された。ナナ個人としては良いと思ったのだが、一夏はその様な英雄的行動が嫌いらしく、そして楯無も彼氏が将来の義妹に嫌われるのは看破できないとのこと。

 

 愛されていると照れ隠しのため息を溢しつつ、取り敢えずは解散の流れとなるのであった。

 

 

 

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