IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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24話

 

 

Jesus Christ(マジかよ)

 

 

 一夏の部屋での作戦会議から翌日。引き続き夕食後に集った3人であるが、開口一番ナナがそんな事を口にする。何せ一夏の頬に立派な紅葉が咲いているのだから。

 

 

「あー………もしかして簪ちゃん?」

 

「ええっと、まぁ、はい………」

 

 

 話を聞く限り、どうやら放課後簪と仲良くなろうとIS整備室へと乗り込んだらしい。噂通り、1人で黙々と実用化を図ろうとする簪に声をかけたのはいいものの相手にされず。

 何とか糸口を見つけようと話を振るが、中々進展しない関係に焦った一夏はつい口にしてしまったらしい。「専用機を見たいから」と。

 

 口に出してしまったが最後、拙いと思うよりも早くビンタをお見舞いされたとのこと。「妹がすいません」と早々に楯無が頭を下げた。

 

 

「いや、俺も悪かったですし、気にしてませんよ」

 

「地雷を踏ンだ自覚はあるンだネ」

 

「それは、まぁ」

 

 

 話を広げようとしたが、あれは悪手だったと一夏も自覚している。それは反省しつつ、更に広がった距離をどう縮めたものかとナナと2人頭を悩ませていた。だが、楯無はどうも違うらしい。

 

 

「うーん………ねぇ、一夏くん。簪ちゃんが叩いた時、どんな感じだった?」

 

「え?そりゃ、怒ってましたよ」

 

「そう………」

 

「…………何かあるのかナ?」

 

「憶測だけど………アプローチが効いてるのかもしれないわね」

 

「ええっ⁉︎」

 

 

 寝耳に水というべきか、信用できないというべきか。少なくとも平手が友情の証だとは一夏は思わない。まさか、更識家では普通のことなのだろうかと勘繰る一夏に、「違う違う」と楯無が訂正を。

 

 

「ウチにそんな習慣ないわよ?ただ、あの子が感情的になるのはそれだけ心を開いてる証拠よ」

 

「理由を聞いてモ?」

 

「更識たるもの己を律するべし、なんて家訓があってね。そのせいなのか、感情を表に出さないのよ」

 

「だから、一夏を叩いたのはEvidence of being spoiled(甘えてる証拠)っだって言うのかイ?」

 

「たぶんね」

 

 

 私にだってそんな感情的にされたことはないわ、と付け加える楯無。その言葉が本当ならば、連日の勧誘が上手くいっている証拠となるだろう。好き嫌いで手を出すのならば、初手で殴られてるはずだ。

 

 

「なら、このまま押せばいいってことですか?」

 

「そうね。あ!でも、明日は箒ちゃんとのデートがあるから難しいわね」

 

「なんで知ってるんですか………」

 

 

 あと、デートじゃありません、と付け加えるがナナと楯無からすればデートである。何せ、雑誌の取材だ。恋する乙女が取材だけで終わらせるなど、絶対にありえない。例えそれが奥手な箒であろうとだ。

 楯無が知っているのは単純に、取材を斡旋した薫子に事情を聞いたからである。

 

 

「うーん、このタイミングで取材………一夏くん、お腹に雑誌でも巻く?」

 

「刺されるんですか⁉︎」

 

「Ah、一夏。君は良い友人だったヨ」

 

「俺を生かす努力をしてくれ‼︎」

 

 

 まぁ、そんな冗談はさておき。と言っても、あまり乙女を弄べばそれも近い未来になるかもしれないのだが、とにかくさておき。

 

 

「jokeネ、joke。明日の取材に緊張してると思ってネ」

 

「十字まで切っておいて………いやまぁ、何喋ればいいかわかんないだけなんだが。というか、ナナは取材ないのか?」

 

「一夏くんと違って、ナナくんの所属は確立してるからね。本国を通さないと問題になるわよ」

 

 

 楯無の言は事実ではある。ただもう一つの理由として、後ろ暗い背景を探られるリスクを減らすものもあるのだが。

 潜入経験のあるナナがボロを出すような事をするとは思わないが、念には念を。何より、記者の中には人を人とも思っていない輩もいるのだ。探られて痛い腹は隠しておくに限る。

 

 

「ソーユー事ネ。なら、今日はこの辺でお開きネ」

 

「そうね。一夏くんにも予定があることだし。取材、頑張ってね」

 

 

 別れを告げた2人はそのまま自室へと。扉が閉まるのと同時に外行きの仮面を外したナナは疲れた様子で、そのままベッドにうつ伏せになった。

 

 

「お疲れ様ねぇ、ナナくん」

 

 

 返事をする気力もないナナに、それも仕方ないかとベッドに座りながらそう思う。何せ、生徒会業務に加え相談室、そして一夏のサポートのために女子達の気を逸らそうとあの手この手で妨害しているのだ。楯無から見ても働きすぎである。キャパの限界がきても仕方がない。

 

 友人だからか、それとも未来の義妹のためか。それは楯無にはわからないが、それでもなんだか悔しくてナナの頬をちょんちょんと人差し指で吐く。

 余程疲労困憊なのだろう、起きる気配もなければ反応もない。面白くない、と頬を膨らませた楯無が頭を撫でたり、背中をさすったりするが、気づけば寝息を立てるナナにやはり反応なし。

 

 

「もう……仕方ないわね」

 

 

 こんな可愛い彼女を放っておくなんて、と口にするが、そんな言葉とは裏腹にその表情に慈愛が満ちていた。ナナが一夏や簪のため、ひいては楯無の為に頑張っているということは理解している。

 

 自身に構ってくれない事に少し不服はあるが、我儘になったものだと自嘲を溢すだけ。愛していると言葉で、行動で示してくれているので不安はない。

 

 

「こうなったのも、ナナくんのせいだからね」

 

 

 更識家の当主として、刀奈としての感情は封印したつもりだった。更識楯無としての役を演じ、刀奈と言う存在は親しき身内にしか見せないのだと。

 だというのに、その字通りするりと内に入ったかと思うと、蝕む毒のように陥落させられたのだ。

 

 当主として厄介な感情だと、楯無は思う。だが、嫌いではない。この悶える様なジレンマも、身を焦がす様な熱も、その全てがどこか心地よく感じてしまう。

 こうなってしまったのも、全てナナのせいである。責任は必ず取ってもらうとしよう。主に婿入りという形で。

 

 

「ん………」

 

「あら、起きた?」

 

 

 意外と柔らかな頬の感触を楽しんでいれば、ナナの瞼が持ち上がる。だがまだ夢現なのだろう。半目のナナが身体を起こす素振りはない。

 

 

「ほら、着替えなさい。そのままだと、制服がシワになるわよ」

 

 

 揺すって起こそうとするが、やはり寝ぼけたまま。このまま放置すれば間違いなくまた寝るだろう。シャワーは一夏の部屋に行く前に既に浴びているので、後は着替えるだけなのだからもう少し頑張ってほしい。

 そんな願いを込めた揺すりはナナに届かず、逆に眠りを妨げる邪魔か何かだと思ったのだろう。寝ぼけ眼のままナナは楯無を捕まえると、その腕に抱いて再び眠りに入った。

 

 

「ちょっ、ちょっと⁉︎」

 

 

 慌てたのは楯無である。何せナナが抱きつくのは楯無の腰。必然的に頭がその双丘に埋まる形になってしまったのだから。全く予想していない、虚を突かれた一撃。抜け出そうにも力が入っていて抜け出せそうにもない。

 羞恥心と、それと僅かな興奮。狼狽する楯無はナナを叩き起こせばいいものを、それすら思い浮かばないほどに頭の中がごちゃごちゃになっていた。

 

 

「ナナくん⁉︎さ、流石に恥ずかしいんだけど⁉︎ひゃっ⁉︎」

 

 

 わずわらしいとでも言わんばかりに、ナナが楯無を抱きしめる力が強くなる。胸に当たる吐息がこそばゆく、抱きしめる力は思わず告白した時よりも尚強い。結局、夜が明けるまで拘束が解かれることはなく、興奮冷めやまない楯無は一睡もすることが叶わないのであった。

 

 翌日。

 

 

「Morning、一夏」

 

「おう、おはよう………うおっ⁉︎」

 

 

 食堂で朝食を、と向かう最中に一夏と合流したナナ。挨拶を交わせば思わず顔を二度見してしまう。何せ昨夜の一夏とタメを張れるほどの紅葉をこさえていたのだから。

 

 

「あー………喧嘩でもしたか?」

 

「Nonネ。これは、美味しい思いした罰ヨ」

 

 

 寝起きに楯無に抱きついていた事は驚きだが、その後がいけなかった。恥ずかしさと寝ぼけて頭が回っていなかったのもあるが、「………何してンだ?」と聞いてしまったのだ。眠気も覚める様なビンタをお見舞いされても仕方がない。

 

 休日と言うこともあり、楯無は睡眠を。反省なさい、と部屋の立ち入りを禁止されてしまったのだ。あの柔らかな感触をもう少し味わっていたかった、と後悔しつつもそれ以上の事に進みそうなのである意味このビンタには助けられた面がある。

 

 困惑する一夏に「Never mind(気にしないで)ネ」と返し、さてどうやって楯無の機嫌を取るかと悩ませるナナの姿が目撃されるのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 更識簪の攻略がはじまり1週間。

 楯無の言葉通り、少しは前に進んだかと思われた関係に進展はなく、正に暖簾に腕押し。それでもめげずに付き纏っていれば、当然の如く噂となる。

 

 自分たちと組む気はないと判明し、専用機持ち達はそれぞれ自身を選ばなかった事を後悔させてやる、とばかりに殺意を尖らせる様な訓練と装備の強化を。なんとか意識を逸らそうと奮闘したナナだが、ここまで来て仕舞えばそんなもの無意味である。

 

 ちなみに、楯無との関係はその日の内に修復済み。と言うより、楯無も売り言葉に買い言葉というだけであり、恥ずかしさを誤魔化す為だと事情を説明すれば難なく許しをもらえた。

 無論、膝枕や添い寝などの対価は要求されたのだが。手を出さない生殺しの日々に、今度はナナが若干寝不足気味である。

 

 

「その、大丈夫か………?」

 

「No problemネ。それより、相談は何カナ?」

 

 

 眠気覚ましのコーヒーを一口。そうして眼前の人物を見据える。

 机を挟んだ向こう、ナナに一任されている相談室にて対面に座るのは篠ノ之箒。一夏の言うところのファースト幼馴染であり、稀代の天災篠ノ之束の実の妹。なんとも大した肩書きである、と内心で皮肉を溢す。

 

 ナナと箒はそこまでの絡みはない。絡むとしても、大抵一夏が同席しているのだ。こうして一対一の会話は誕生日プレゼントの相談以降。タッグを組もうとしていたナナからすれば棚から牡丹餅である。

 

 件の箒は出されたお茶に口をつけず、なんと言うべきか悩んでいる様子で四苦八苦していた。

 

 

「こほん………その、だな。あー………」

 

 

 覚悟を決めたかと思いきや、また言葉を探して口を噤む。大方の予想はナナにもついている。恐らくタッグの打診だろうと。

 箒の交友関係は狭く、専用機持ち達と仲が良いといってもタッグを組むとなると難しい。そも、既にセシリアと鈴、シャルロットとラウラのペアで組まれているのだ。取り残された箒が頼る先はナナしかいない。

 

 もう少し悩み苦しむ様を見ていてもいいが、何も相談室の利用は箒だけではない。この後も予約は入っているのだ。肩を竦めたナナは本題へと入る。

 

 

「oh、そうネ。そう言えば篠ノ之、tag matchの相手は決まってるかナ?」

 

「い、いや、まだ………」

 

「ナラ、That's clutch(好都合)ネ。オレと組まないカイ?」

 

 

 その言葉に、俯いていた箒の顔が上がる。机の下で上手く事が運んだと拳を握り、慌てて気色の表情を隠すと喉を鳴らした。

 

 

「こほん。う、うむ、私もちょうどペアがいなかったからな。いいだろう」

 

「Thank you」

 

 

 大丈夫か、こいつ。思わずそんな言葉が脳裏を掠める。

 色々言いたい事はあるが、友人が少ない理由は何となくわかる。別に友人の多さが人の価値だとは思わないが、友人を作らないのと作れないとでは大きく違う。タッグマッチと言う、主にコミュニケーションという面が重要視されるイベントで、箒と組む事は失敗だったかもしれないと既に後悔を。と言っても、取れる手段はこれしかないので諦めるしかないのだが。

 

 

「それで、だな。早速特訓をしたいのだが………」

 

My bad(ごめんね)。この後も予約あるヨ。訓練は早くても明日ネ」

 

「む、そ、そうか………なら、仕方ない」

 

 

 その反応におや?とナナは首を傾げる。篠ノ之箒という人間は我が強い。主に一夏に対してだが、誘いに乗らなければ暴力をという場面は何度も見てきたのだ。

 てっきり、暴力はなくともなぜ直ぐに始めないのだ、と捲し立てられると思っていただけあってとんだ肩透かし。それが表情に出ていたのか、じとっとした視線がナナに送られた。

 

 

「なんだ、その不思議そうな顔は」

 

「いや、ネ。てっきり怒られると思ってたからネ」

 

「私を何だと思っているんだ⁉︎」

 

 

 机から身を乗り出して怒ろうとするが、何かに気がついた様で思い直すと佇まいを直す。何か悪いものでも食べたのだろうか?と不安になるナナだったが、その訳は本人の口から語られた。

 

 

「お前が言ったのだろう。力よりも言葉によるコミュニケーションを取れ、と」

 

 

 確かに、一夏から気を逸らす為にそんな話はした。だが、それを直ぐに実践しようとするタイプではないだろうと、ナナは思う。未だ疑心が払拭されない事に気がついた箒は、背後を見て扉が完全に閉まっているのを確認すると、今度こそ覚悟を決めて話し出す。

 

 

「オーウェン、お前は武術とは何かわかるか?」

 

「Nonネ。相手を効率よく倒す方法カナ?」

 

「確かにその一面もある。だが武とは、己を律する為にあるのだと私は思う」

 

 

 なンだそれは、と思わず言いかけた言葉を飲み込む。だが、それは顔に出ていたのだろう。思いの外表情が豊かだと箒が笑うと、バカにされていると思ったナナはムッと眉間に皺を寄せる。

 

 

「悪い、話を戻そう。武術をしていれば、大なり小なり行なっていない者との差ができる。その時、その力を思うがままに払えばそれは武とは言えない。ただの暴力だ」

 

「まぁ、そうだネ」

 

「あの時のお前の話は、自らの行いを振り返るきっかけになったんだ」

 

 

 思い返せば中学時代、剣道の全国大会の決勝でのこと。束のせいで度重なる引越しや、一夏との別れ。それらのフラストレーションを対戦相手にぶつけたのだ。結果として箒が優勝したが、あれは紛れもない暴力。感情のままに暴れる子供の癇癪だ。

 それを恥じて一層剣道にのめり込んだが、自分はあの時から何も変わっていない。ナナの恋愛講義はそれを見つめ返すきっかけとなったのだ。

 

 だからこそ、先日の一夏との取材はコミュニケーションを取るように努力した。相変わらずの朴念仁に思わず手が出そうになったが、その時に思い返したのはナナの言葉。おかげで個人的には上手くいったと思っている。

 

 

「だから今回の件含め、お前には感謝している。ありがとう」

 

 

 そう言って深々と頭を下げられるが、ナナからすれば身に覚えが薄い出来事。何せ一夏への気を逸らす事に精一杯だったのだ。感謝されるような話はしていない。

 

 

「Ah………It's nothing(大した事じゃないよ)

 

 

 相談役を承って、面と向かって感謝される機会と言うのは増えた。だが、やはり慣れないようでどう返せばいいのかナナにはわからない。こうして当たり障りのない言葉を返すしかないのだ。

 

 どこか恥ずかし気に視線を逸らすナナだったが、だが、と付け加えた箒の剣幕に現実に引き戻される。

 

 

「偶にあの唐変木には偶に灸を据えてやった方がいいのではないか、と思うのだが」

 

「………何があったノ?」

 

「…………取材が終わった後に食事に誘ったのだが、私が行こうとしていた店は軒並み満員で入れず、一夏の行きつけの店にいったのだが………」

 

「当ててあげるヨ、五反田食堂だロウ?」

 

「…………そうだ」

 

 

 Jeez、とナナが天を仰ぐ。間違いなく一夏を狙う蘭もその場に居たはずだ。微妙な空気になるのは間違いない。

 それに、話を聞けば箒といい雰囲気となった一夏にショックを受けた蘭。その衝動のまま店を飛び出したらしいのだが、あろう事か蘭を追いかけに行ったらしい。五反田食堂の店主にして蘭の祖父の厳に発破をかけられたのもあるらしいが、残された箒が哀れである。

 

 

「あの時の事を思い返すと、どうしても拳が震えて………っ‼︎」

 

「………よく我慢できたネ」

 

「だろう⁉︎その、蘭の気持ちもわかるが、もう少し私にも気を遣っても、せめて一言告げるだけでもよかっただろうに‼︎」

 

 

 ああ、これは長くなるやつだ、と直感するナナ。時計をちらりと見るが、交代の時間までに10分以上ある。まぁ、タッグを組むのだからここで親睦を深めるのもひとつの手だろう、と気持ちを切り替えた。そう思わなければやってられない、と言うのもあるが。

 

 結局、時間いっぱいまで続けられた一夏への愚痴。溜まったものを吐き出してスッキリした様子の箒を見送り、ナナはため息を溢す。箒が意識を切り替えて、コミュニケーションを取るように心がけているというのは大きな収穫。連携練習を続けていればタッグマッチでも好成績は残せるだろう。

 

 まぁ、一朝一夕で変わるような事でもないので、気苦労は絶えないだろうが。それを想像してまた、ナナは深いため息を溢すのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 そんな箒との会話から翌日。

 一夏は無事に簪とタッグを組めたらしく、どう言いくるめたかはナナは知らないがどうやら専用機の実用化を他者と協力して行う事に成功したらしい。二年整備科のエース黛薫子に加え、次点で優秀な2人。そして簪の付き人である布仏本音を加えたチームで現在調整を行なっているとのこと。

 

 まだ手をつけたばかりで進捗もクソもないが、噂に聞く黛たちの腕であればタッグマッチまでに完成はするだろう。これで依頼は一安心、後顧の憂いは断たれた。

 そんな思惑から現実に引き戻されるように、ナナの目の前に迫るランス。寸前の所で躱すことはできたが、あまりにも雑な回避。突き出されたランスをそのまま横に振るわれ、弾き飛ばされてしまった。

 

 

「もう、余所見なんて余裕ね‼︎」

 

「オーウェン⁉︎うっ‼︎」

 

 

 援護に入ろうとした箒が、ランスの先端から発射された射撃の的になる。ナナと箒は現在、楯無の指導の元連携の特訓をしていた。

 元々IS初心者の2人、それも専用機を手に入れてまだ数ヶ月しか経っていないのだ。基礎知識はあるが、それを応用する場数や連携による作戦立てなど足りていない部分が多数ある。

 

 そこでナナが楯無に頼み込んだのだ、連携の指導してくれと。無論、楯無はそれを快く了承。それを対価に存分にイチャつく所存である。対価などなくてもいちゃついているのだが、それはさておき。

 地面の上でダウンする2人を上空から見下ろし、ため息混じりに先ほどの反省を口にする。

 

 

「箒ちゃんは猪突猛進すぎ。ナナくんは注意力散漫よ」

 

 

 公平性を期すために、口頭での指導はそこそこにするはずだった楯無。だが、これはあまりに酷い。タッグマッチまで残り1週間ちょっと。それまで指導してようやくスタートラインに立てるかどうかなのだ。

 

 2人とも、機体スペックだけで言えば上位。なんなら箒など束特性の第4世代だ。しかし、それを十全に使いこなせていないからこそ、こうして楯無1人に完封される。

 

 

「もっとお互いを信頼して、理解しなさい。相手に何ができて、何ができないのか。相手が求めるものはなんなのか………あ、だからって浮気しちゃダメだからね‼︎」

 

I know(わかってるよ)my honey(愛しい人)………」

 

「こんな時でもその調子なのか………」

 

 

 一見ふざけているように見える楯無だが、2人からすれば逆立ちしても勝てない相手。呆れながらも再び立ち上がる2人に、楯無は満足気に微笑む。

 

 

「どうする、オーウェン。狙撃はいけるか?」

 

「Non、お得意の水のヴェールで防がれるヨ。篠ノ之、ビーム兵器は?」

 

「悔しい事に、全て読まれている」

 

 

 個人通信で作戦会議をしながら、視線は楯無に固定。ナナの得意とする狙撃はその殆どが実弾の為、楯無を守る水のヴェールの守りを突破することはできない。大口径の武器ならば、と考えるが大型なればなるほど変形に時間がかかり、その隙を見逃すほど楯無も甘くない。

 

 箒の武器である空裂と雨月も、箒自身が遠距離攻撃に慣れていないと言う点もあり刀の軌道からその全てを読まれて躱されていた。機動力を活かして接近戦を取ろうにも、ガドリングでの牽制、そしてナナの射線に入ったりと得意戦法に持ち込めない。

 

 

「ほらほら、時間は有限。どんどんいくわよぉ‼︎」

 

「チッ、容赦ねェ‼︎」

 

 

 立ち止まっての作戦会議の時間など与えない。牽制のガドリングに2人は分断され、楯無は箒の元へと接近する。新たに展開した蛇腹剣と刀の鍔迫り合いになり、至近距離で両者睨み合う。

 

 

「くっ‼︎だが、この距離ならーーー‼︎」

 

「あら、あまりお姉さんを舐めない事ね」

 

 

 油断か慢心か、接近戦に持ち込めた。これを機に一太刀入れると意気込む箒だが、元より国家代表に選ばれるだけの実力を持ち、ナナや一夏に特訓を指導する楯無。その実力は機体スペックや地力で盛り返せるほど甘くはない。

 

 箒が修める篠ノ之流剣術。そのうちのひとつ、一閃二断の構え。相手の剣を横に弾き、そのまま素早く頭上へと構えて相手を斬る技を披露しようとするが、ランスを弾いた瞬間に腹部に蹴りを喰らう。

 

 

「ぐっ、ぁあああ‼︎」

 

 

 強制的に距離は開いたが、腹部に響く衝撃に負ける事なく箒は突きを放つ。それに合わせて刀の先からビーム状の弾丸が飛ぶが、やけくその一撃など楯無からすれば避けるまでもない。流水を纏った蛇腹剣を振いそれを掻き消すと同時に箒に一太刀浴びせる。

 

 

「はい、またダウン。ナナくんは見てるだけかしら?」

 

「ンなわけないヨ」

 

 

 アリーナの端、その大地を踏みしめてナナが構えるのは高射砲であるKS-19。本来なら車輪を付けて数人がかりで装填、砲撃するそれもISならば1人で可能。変形に時間はかかるが、ナナの持つ手札の中で高威力を誇るものだ。

 

 

「これなら、防げないだロ‼︎」

 

 

 上空にいる楯無に向けた砲撃。重い音と火薬と共に撃ち出された砲弾は確かに水のヴェールでは防げない。だが、ISの機動力と楯無の技術ならばそれを見て躱す事は可能。迫り来る砲弾を横に飛び退いて躱すと、ナナへと向けて接近。

 普段ならば迎撃するためにトリグラフを展開すると予想する楯無だったが、その予想とは裏腹にナナは上空へと逃げる。銃も手頃な機関銃に変形させており、その行動に楯無は眉を顰めた。

 

 

(接近戦じゃ敵わないから逃げた?いや、ナナくんらしくない。何か企んでる?)

 

 

 楯無として厄介なのは両手首に装備してある火炎放射器。水のヴェールでは防げず、更にその熱は絶対防御を抜けるのだから直撃は避けたい。反面、有効射程距離が短い為に接近されなければどうと言う事はないのだが。

 ナナの行動はその手札を捨てるのと同義。上空へと逃げるナナを楯無が追うが、その高度がアリーナ障壁ギリギリまで届いた辺りで止まる。

 

 

「逃避行は諦めたのかしら?このままお姉さんの胸に飛び込んでみる?」

 

「ハッ、それも悪かねェかもな」

 

 

 牽制で撒かれたガドリング。だが、そんなものが届かないことは本人もわかっている。微動だにする事なくそれを防ぐと、ナナは不適な笑みを浮かべる。

 そしてトリグラフを構えると、楯無へと向けて急降下をしかけた。それも後先考えない、瞬時加速を使用しての超加速。

 

 確かに、その速度は驚異。まさかの行動に動きの止まった楯無には躱す暇はない。それでもーーー

 

 

「甘いんじゃない?」

 

 

 ナナの渾身の突進をランスで受け止める。その衝撃は腕が痺れる程だが、その程度であれば問題ない。押し込まれていようと、このまま振り払って追撃を加えればゲームセットだ。

 ISの補助機能をフルに使ってナナを弾き飛ばそうとする楯無。だが、それよりも早く警告が鳴る。曰く、背後からの攻撃予兆ありと。

 

 

「ッ‼︎まさか⁉︎」

 

 

 意識を背後へと向ければ、ダウンしたはずの箒が刀を構えている。その手に持つのは空裂。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつける刀。

 

 

「これなら、どうだ‼︎」

 

 

 上から下への振り下ろし。それに合わせて展開されたエネルギー刃が楯無に向かって一直線に飛ぶ。躱そうにもナナがそれを妨害しており、振り解いたら最後回避は間に合わない。

 この短時間でよくやるものだ、と感心を。合格点には程遠いが及第点には届くレベルだ。

 

 

「でーも、まだまだね」

 

「うおっ⁉︎」

 

 

 受け止めていたナナの力を後方へと流すように、楯無の身体が半身となる。突然力が抜けた事で呆気に取られるナナは、そのまま箒の攻撃へと直撃する羽目になった。

 まさかの事態に固まる箒に、水流纏うランスを構えた楯無が微笑む。

 

 

生徒会長(生徒最強)の肩書きは、伊達じゃないのよ?」

 

 

 次の瞬間、流星の如く降下した楯無の一撃が箒を確実に捉えるのだった。

 

 

「さて、今日はここまでにしましょ。と言うより、これ以上は無理でしょ?」

 

「は、はい………」

 

「yeah………」

 

 

 結局のところ、最後までいい様にしてやられた箒とナナ。ISを解除した状態で地面に横たわる姿は疲労困憊そのもの。手加減なしでと頼んだのは他でもないナナなのだが、時期尚早過ぎたかもしれないと心の中で反省を。

 

 こちらは満身創痍、息も絶え絶えだというのに楯無は少し息を乱しただけ。彼我の実力差が浮き彫りである。

 

 

「でも、最後のはびっくりしたわ。いつの間に作戦立てたの?」

 

「いえ、作戦というか、行き当たりばったりといいますか………」

 

「Adviceに従っただけだヨ………」

 

 

 猪突猛進の勢いだった箒はまずは感情を抑え、明鏡止水の心を胸に周囲を見る様に。ナナは意識が外に向いていたためにまずは集中、そして箒の動きに合わせる様にしたのだ。

 

 結果として失敗だったが、成長の足掛かりにはなっただろうと納得する楯無。タッグマッチで重要なのは何よりパートナーの存在だ。それを無視して1人で全てを行うことなど不可能。今まで2人とも誰かと肩を並べて、と言うことがなかったためにいい経験になった。後は回数をこなせばいずれ、自身にも届くだろうと楯無は確信している。

 

 

「そ。それじゃあ戻るわよ。ナナくん、いつもみたいにシャワーを覗いちゃダメだからね」

 

「オーウェン、お前………」

 

False accusation(冤罪)ネ。ちゃんと清いお付き合いヨ、オレたちは」

 

 

 楯無のちょっとした冗談を信じた箒から険の籠った視線が向けられ、すぐさま両手を上げるナナ。実際、そんな事をした覚えはなく、大方リラックスさせる為だろうと非難めいた視線を楯無に向けた。

 ころころと笑う楯無は箒を連れてアリーナを後にすると控室のシャワールームへ。

 

 

「あ〜、いい気持ち」

 

 

 さあああっと優しいお湯の雨を全身に浴びながらら楯無は安堵の声を漏らす。

 ノズルひとつずつで区切られたシャワールームで、2人はお互いに隣のボックスに入った。ボックスといっても足下と顔は完全に解放されていて、普段は女子の楽しげな会話が響いている。ちなみに仕切りとして入っているパネルは半透明の曇りガラスで、面積としては胸元から太ももまでカバーしているものの、中にいる人間の体型はシルエットで見えてしまう。

 

 女子からも注目を浴びてしまうバストサイズの箒としては、このシャワールームはあまり好きではなかった。

 

 

「……………………」

 

「箒ちゃんはお風呂派?」

 

 

 さっきから黙りこくっている箒に、楯無が声をかける。

 

 

「…………怖いんです」

 

「何が?」

 

「私はこの力を、扱えるのか」

 

 

 シャワーを浴びながら箒が見るのは自身の手。紅椿という、自身の姉が作った世界最新鋭の機体。それを十全に使いこなせていない事は、箒自身理解している。

 ISを手に入れた時、その力に溺れてしまった。自身には過ぎた力を律する為に、箒は自問する。この力を正しく使えるのか。この力を制御できるのか。

 また暴走するのではないか、と考えてしまえばこれ以上の力を求める事に足がすくんでしまう。

 

 

「楯無先輩。貴女はそこまでの力を持って、恐怖はないですか?」

 

「うーん………ねぇ、箒ちゃん。束博士は好き?」

 

「はい?」

 

 

 返ってきた言葉に思わず疑問を浮かべる箒。たった1人の姉であり、機体をくれた恩もある。だが、好きか嫌いかで言えば、嫌いではないとしか答えられない。

 

 

「嫌い、ではないです………」

 

「うん」

 

「でも、わからないんです」

 

「わからない?」

 

「姉が何を考えているのか………」

 

「そんなの、私もそうよ」

 

 

 キュッと楯無がシャワーを止めて、仕切りパネルにもたれかかる。身体とパネルの間で豊満な胸が苦しそうに歪んだ。

 

 

「わからないのは怖い。わかろうとするには勇気がいる。でも、これだけは言えるわ。その機体は間違いなく、束博士が箒ちゃんを思って作ったものだって」

 

「………その根拠は?」

 

「同じ姉としての勘よ」

 

 

 その言葉に箒は俯いたかと思えば、重いため息を溢す。また揶揄われたのかと、真面目に聞いた自分が馬鹿だったと。だが、続く楯無の言葉は自然と耳に入った。

 

 

「だから、恐れないで」

 

 

 唄う様に紡がれたその言葉が、箒の耳に残る。

 

 

「箒ちゃんのお姉さんが、箒ちゃんを思って作った力を恐れないで。そうすればきっと、道を違える事はないわ」

 

 

 そう優しく告げた楯無の顔は、どこまでも安らかな笑みだった。

 

 

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