IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

27 / 52
26話

 

 

 IS学園タッグマッチトーナメント。

 

 本来であれば学校全体の専用機持ち同士のタッグバトルが観れるはずのイベントは、突如として来襲した無人機によって阻まれた。

 ご丁寧に各ペア毎に一体。前回侵入した無人機ゴーレムよりも更にパワーアップさせたゴーレムⅢは強敵である。

 

 左腕の超高密度圧縮熱線に、右腕のブレード、並の攻撃では傷一つ付かない硬い装甲、そして周囲を浮遊する可変シールドユニットなどの目に見える兵装はもちろん厄介。だが、何より手を焼くのは相手が人ではないということ。

 

 AIを搭載した無人機は人の可動域を無視した動きを可能とし、そして怯えることも怯むこともなく機械的にこちらを攻撃してくるのだ。今まで対人相手でしか戦った事のない専用機持ち達はこれに苦戦。

 それに加え、守りの要であるシールドバリアの展開に著しく障害を発生させる謎のエネルギー。操縦者の絶対防御をも阻害するそれは、間違いなくこちらの命を狙いに来ている。

 

 教員達が救助に向かおうにも、各障壁がそれを妨害し救援は望めない。狭いピット内では思う様に動き回る事ができず、それぞれが徐々に押され始めていた。

 

 

「やぁあああ‼︎」

 

 

 だが、そんなものは関係ないと果敢に攻めの姿勢を崩さない者が1人。他でもない更識楯無である。

 

 前述した事は、楯無も頭の隅では理解している。このままでは敗色濃厚だと。箒と一緒に戦うしかないと。

 だが、それを無視して身体を動かすのは燃える様な怒り。水を操るミステリアス・レイディでも消しきれない憤怒。そして、身を焦がすほどの焦燥感。

 

 視界の隅には壁に背を預けたまま動かないナナ。ハイパーセンサーに映されるバイタルはかなり低い。時間が経つ度に弱くなる呼吸と心音が、より一層の焦燥感を楯無に与えていた。

 

 

「このっ‼︎どきな、さいっ‼︎」

 

 

 流水を纏うランスによる刺突。貫通能力の高い一撃であるが、無人機にその先端が突き刺さる手応えはなく、逆に弾かれると崩れた体制を狙ってブレードが振るわれた。

 それを反対側に呼び出した蛇腹剣で辛うじて防ぐと、もう一度刺突をかます。ランスを握る手はIS越しでも強く握り締められ、素手であれば当に楯無の手は自らの血に濡れているだろう。

 

 

(許さない‼︎)

 

 

 最愛の人を傷つけた目の前の無人機を。

 

 こんな事をしでかした黒幕を。

 

 目の前でみすみすとそれを許した己自身を。

 

 

「ッ、はぁあああああ‼︎」

 

 

 更にもう一歩踏み込んで、無人機を壁に押し付ける。スラスターを全開にしていると言うのに、背後の壁が軋むだけで無人機に突き刺さる気配はない。どれだけ硬い装甲だ、と悪態を吐く楯無の目の前に掲げられた左腕。

 掌にある4門の砲口から熱線が飛ぶよりも早く、楯無はそれを大きく飛んで躱す。

 

 

(まだ、大丈夫………‼︎ちゃっちゃと倒して、すぐに医務室で治療すれば助かる‼︎)

 

 

 肩で息を整えながら、早く早くと焦燥感だけが募る。だが、そんなものは希望的観測に過ぎないと楯無の冷徹な部分が答える。あれは助からない、見捨てるべきだと更識家当主としての思考。

 

 当主として、見捨てるべきものを救おうとする判断など間違っている。今は箒と協力してこの場を切り抜けるのが最適解だろう。だが、そう簡単に切り離せないのが感情というもの。

 

 奥歯を噛み締め、どうやって目の前の敵を倒すかばかりを考える。目の前の一体さえ倒せれば、ナナを箒に任せてもう一体を足止めすることは可能。最悪、自身は傷つこうが構わない。熱線の照射を躱しながら、攻略法を思案する楯無の背後。ISが警告を告げると同時にもう一体の無人機のブレードが袈裟に振るわれる。

 

 

「ガハッ‼︎」

 

 

 装甲やシールドバリアなどお構いなしに振るわれたそれは、楯無の柔肌に傷を付ける。思考の海に溺れる余り、視野狭窄に陥っていた楯無は気づかなかった。ただでさえ学園最強の手に余る相手を、それよりも劣る箒が長時間1人で相手にできるわけがない。

 

 床に叩きつけられる形で倒れた楯無。それでも立ちあがろうとするその視界に映ったのは刀を床に突き刺して必死に立ちあがろうとする箒の姿。

 真紅の装甲はボロボロで、身体にも少なくない傷が目立つ。額を切ったのか、とめど無い血が箒の顔の半分を汚し、それが自身の独断専行による結果だと理解するには時間がかからなかった。

 

 申し訳なさと悔しさ。下唇を噛み締め、反省は後だと反撃しようと立ち上がる。だが、悪いニュースと言うのは続くもので、ハイパーセンサーから告げられた報告に楯無の呼吸が止まる。

 

 

「う、そ………」

 

 

 何度見ても変わらない、0を表示するバイタルサイン。嘘であれと願うが非常な現実は告げる。ナナの死亡を。最愛との永遠の別れを。

 支えていた柱がぽっきりと折れた感覚。その先にあるのは空虚な絶望。構えたランスが手から零れ落ち、頬に一筋の涙が流れ落ちる。

 

 

「ナ、ナくん………」

 

 

 いつか迎えに来てくれると言ってくれた、楯無にとって初めて心の底から好きになった異性。親愛とも友愛とも違う愛を教えてくれた男性。彼とならばきっと共に生きていけると確信できた彼氏。

 

 それがもういない。

 

 もう笑いかけることも、赤面することも、料理を作ってくれることも、添い寝をしてくれることも、何もかも永遠に訪れない。

 

 

「楯無さんっ‼︎」

 

 

 刀を杖代わりにして立ち上がった箒から飛ぶ警告。まずは実力の高い方からと計算したのか、無人機二体による熱線での挟撃。砲口から光が溢れ、眩く楯無を照らしているが、当の本人は動く気配はない。

 

 命の危機に瀕しているというのに、世界から聞こえる音は遠く、視界はぐにゃりと歪み天と地が入り混じる。まるでこの世に己1人しかいないような錯覚。足元に開いた穴に落ちるような虚脱感。

 綺麗な瞳いっぱいに涙が溢れ、それが堰が切れた様に溢れ出すと同時に、ピット内を眩い閃光が照らした。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 黒い黒い景色の中、声がした。

 

 誰かが自身を呼ぶ声がした。

 

 どろり、と粘着質な泥の中に沈む意識を上に向ければ、一筋の光が自身を照らしている。

 

 その先にあるのは最強が膝を付く姿。最愛が傷つく姿。己の身を焦がす女性の絶望した姿。

 

 どこか他人事にも思えるようなそれを目撃した瞬間、泥に沈もうとする意識を奮い立たせる。泳ぎなど知らない幼児の様に無我夢中で、不恰好に、それでも必死に上へ上へと目指す。

 

 だが、どれだけもがこうとも光は遠く、逆に己の意識は沈みゆく。

 

 ふざけるな、と声にならない声が漏れた。

 

 あそこへ戻るのだ。戻って、生きて、曇った顔を晴れさせるのだと。

 

 目的を持って、意思を持って、執着にも似た愛を持ってもがく。もがいてもがいてもがいて、それでも光に届かない。沈みゆく程に底冷えするような悪寒が全身を襲うが、それとは相反する様に燃ゆる心。ふざけるな、ともう一度衝動のままがなり立てる。

 

 これが理不尽に人命を奪ってきた己の罪と言うのなら、神とやらはとんだ捻くれ者だ。今更自身の行いを正当化するつもりもない。罪があるのなら罰はいずれ受けよう。

 

 だが、アイツは、楯無には関係がない。己の罪に巻き込まれていい人間ではないのだ。

 

 泥臭く足掻いている内に、ふと再び声が聞こえた。聞き覚えのない声はこちらの狼狽など知ったことではない、とばかりに落ち着いた声で問いかける。

 

 何がそこまで君を駆り立てるのだ、と。

 

 それに持ち合わせる答えはいくつもある。生きたいと思う本能。楯無を救いたいと言う欲望。虚仮にした無人機にやり返したいと思う精神。そのどれもが的を射ておらず、結局の所コレだろうと言うものを、煩わしいとばかりに吐き捨てた。

 

 

「アイツを愛してるからに決まってンだろ‼︎」

 

 

 声の主からは返答はない。そも、ソレ自体がただの幻聴だったのだろうと切り捨て足掻き続ける。一向に進まない、無駄な足掻きとも言えるソレは、けれど次の瞬間劇的に変わる。

 

 自らの身体が光に包まれたかと思えば、先程までが嘘だったかの様に光へと進みだす。

 何故そのような事になったのか、理解はできない。だが、今は理解出来なくても構わない。これで漸く届くのだ。彼女を、最愛を、楯無を、救い出すことができるのだ。

 

 

「そんな君だからこそ、手を貸したくなるんだ」

 

 

 視界いっぱいに光が広がる直前、安心したような声が聞こえた。身を包む光から響いた様に思える声に後押しされ、ナナの意識は浮上する。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「楯無さん‼︎」

 

 

 眩い閃光と熱波と爆煙がピット内に充満する。その衝撃のあまり支えにしていた刀から手が離れ、もんどり打って倒れる箒。寝そべる様な姿勢のまま、爆発の中心に目をやった。

 

 二体の無人機が挟む中央、床の金属が融解するほどの熱で凹み、その中心は赤く染まっている。それだけでどれだけの熱量なのか一目瞭然。息を飲み、信じられないとワナワナと震える箒の視線は無人機たちの背後。ISのハイパーセンサーが教えてくれた、その人影に驚愕していた。

 

 機能美に優れた流れる様な流線型で、ぱっと見トカゲのような出たちであったISではなく、装甲を一回りゴツくして、波打つ様に鱗のような物が表面を覆うIS。羽の様であったスラスターは見る影もなく、その代わりにマントのように両肩から膝下にかけて縦に伸びる左右四対スラスターへと。

 その名の通り龍の子に相応しい、逞しい尻尾を揺らしながらその人は楯無を抱き抱えていた。

 

 驚いたのは楯無も同様。だが、それは箒の比ではない。

 

 信じられないと、都合のいい夢だと理性が騒ぐが、こちらを見抜く眼差しが、安堵に頬を緩める表情が、IS越しに確かに感じる体温が幻想ではないと告げる。

 

 

「悪ィな、こンな目に合わせて」

 

「ナナ、くん………‼︎」

 

 

 確かにバイタルは消えていた。ISが下した判断に間違いはない。だが、こうして生きていた事に、楯無は涙を流す。横抱きにされたままその首に抱きつくが、同時にナナの背後から熱線が浴びせられる。

 ナナが生きていた事に、当然無人機に驚きはない。淡々と、粛々と、与えられた命令をこなすだけ。再び殺してやろうと、そんな殺意もなく放たれたソレは空を切る。

 

 熱線の軌道を見ることもなく、無人機の上空を飛んで熱線を躱したナナは箒の隣に着地すると、楯無をそっと降ろす。

 

 

「ハッ、やる気満々じゃねェか。リベンジマッチにゃちょうどいい」

 

「お、オイ、オーウェン‼︎」

 

 

 箒の制止に耳を傾ける事なく、鉤爪のような装甲の両手を上げる。両手首に枷のように嵌められた10の棘に覆われたリング。それを無人機に向けると棘が伸び、ふたつのリングが激しく回転を始めた。その隙を逃す無人機ではなく、好奇とばかりに右腕のブレードを瞬時加速を用いて振り上げる。

 一気に距離をなくした無人機二体。それに動じる事なく、ナナは第二次移行を果たしたトゥガーリン=ズメエヴィチの新たな機能を発動させる。

 

 

悪龍大煉獄(ズメイ・チスティリシチェ)、発動」

 

 

 瞬間、ナナの両手のリング、それぞれの棘から発射されるのはかつての火炎放射器の機能。ひとつひとつが従来のものと変わらない威力を持ち、回転しながら放たれるそれは単純に以前の10倍の威力。更に射程距離まで伸び、炎は無人機二体を捉えるとアリーナへと続くゲートまで押しやった。

 

 可変シールドユニットによりダメージは軽量と言えど、明らかに有効打。炎が収まった後にはその軌道上の物が焦げ、電気系統がいかれたのかフリーズする無人機。だがそれも数秒の事で、自己修復を果たした無人機は怯む事なく攻撃を再開する。

 

 

「チッ、やっぱ無理か………。楯無、片方任せられるか?」

 

「え?」

 

「二体同時は無理だ。背中を預けンなら、お前がいい」

 

 

 鉤爪を起点に展開されるエネルギークロー。それを駆使して飛ばされる熱線を裂きながら、ナナは言う。実際、いくら機体性能が上がろうと目の前の無人機二体同時撃破は不可能だ。だからこそ、ナナは頼る。信頼している楯無に、助けを乞う。

 

 一瞬、惚けた楯無だったが、溜まった涙を拭き取ると不敵に笑って答える。

 

 

「お姉さんを誰だと思ってるの?任せなさい」

 

 

 感動の再開は後回しに。まずは目の前の敵を倒してからだ。展開したランスを構え、ナナの隣に立つ。そうして片方が遠距離から近距離の戦闘を目論んで接近した瞬間に2人は別れた。

 

 接近する無人機の脇を通り、ナナが熱線を飛ばす個体へと向かう。反転して迎撃しようとする無人機だったが、それは楯無によって塞がれた。

 

 

「あら、どこへ行くつもり?あなたの相手は私よ」

 

 

 両手で掴んだランスを思いっきり振り回し、無人機へと叩きつける。衝撃に腕が痺れるが、そんな苦痛を感じさせない程妖しく、楯無は微笑むのであった。

 

 

「よォ、二束三文の不良品。scrapになる覚悟はできたか?」

 

 

 遠距離攻撃を行なっていた無人機だったが、その効果は薄いと判断したのだろう。ナナが接近すると同時にブレードを構えると、容赦なくそれを振るう。それを腕一本で受け止めると、ナナは不敵に笑った。

 その一撃が止められた事に、無人機のAIが混乱する。事前情報ではナナの機体に防ぐ術はない筈。だと言うのに目の前の現実はソレを否定するのだ。

 

 第二次移行による機体の変化。それによる装甲の変化によるものと予測。データ収集を優先し、対象の分析と対処法の再計算。そう導き出した無人機が取った行動は距離を取る事。

 

 熱線による飽和攻撃による牽制、そしてその対処法次第でどのように攻めるべきかを分析する腹積りだ。瞬時加速による離脱を図ろうとして、スラスターにエネルギーを充填するよりも早くその胴体にナナのISの尾が巻き付く。

 

 

「どこへ行くつもりだ?」

 

 

 そのまま振り回された無人機が壁へと叩きつけられる。明らかに飛距離が足りていないはずだが、驚いた事にその尻尾の拘束は解かれることなく、壁からゲートまでの距離まで伸びていた。

 困惑か、それとも再計算によるものなのかライン・アイが赤く点滅。まずは拘束からの解放をと、自らの胴体を締め付ける尾に向けてブレードを振るおうとして、右腕が宙を舞う。

 

 無人機の視界に映るのは悪辣に笑うナナ。その両手のエネルギークローで裂いたのだ。視覚情報による分析の結果、それが超振動していることが判明。近接格闘でしか使えないほどの射程しかない分、攻撃力にそのリソースを割いていることは明白。

 手札をひとつひとつ暴いていくが、このままでは破壊されることは目に見えている。シールドユニットによる防御を優先、そして至近距離での熱線を照射することを導き出す。

 

 

「テメェはオレの大事なモンに手ェ出したンだ」

 

 

 無人機の周囲を舞う球体がシールドを展開。これで攻撃は届かず、熱線による一方的な攻撃が始まる筈だった。だがーーー

 

 

「死ぬ覚悟はできてンだろうな?」

 

 

 スヴェントヴィトを展開するナナ。操縦者の意思に応えて変形するその速度は以前よりも早く、その銃口を無人機へと向ける。そうして一瞬の内に展開されたのは列車砲。当然そんな巨大な物がピット内に収まるはずもなく、砲身が無人機諸共壁を突き破った。

 

 さしものシールドもその質量を受け止める事は出来ず、球体諸共破壊。無人機の装甲も亀裂が入り、所々から火花が散る。ブースターもいかれ飛行は不可。銃口の先でぶら下がるしかない無人機であるが、それでも左手の銃口をナナへと向ける。

 

 

「遅ェよ」

 

 

 冷徹に、冷淡にその姿を見据え、内に秘めた熱を溢す様に引き金を引く。轟音とISでも受け止められないほどの衝撃。壁を破壊した先、フィールドへと弾き飛ばされた無人機は完全に停止するのだった。

 

 一方、楯無サイドはと言うと。

 絢爛舞踏を発動した箒の加勢も入り、二対一での戦闘を繰り広げていた。ただ、絢爛舞踏が回復できるのはエネルギーのみ。機体の損傷や疲労や傷まで回復できるわけもない。

 肩で息をする楯無はランスを握ると、無人機の懐に入り刺突。スラスターを全開にしてゲートへと押しやった。しかし、それでも装甲を突き破れないのは既に確認済み。だが、それでいい。これは拘束するためにやったのだから。

 

 

「箒ちゃん、後押しお願い‼︎」

 

「で、ですが………‼︎」

 

「いいからやりなさい‼︎」

 

 

 ぴしゃりとした怒号を受けて、箒は一度びくりとした後、言われるままに背部展開装甲の出力を上げて楯無へと突撃。

 

 

「ぐ、うっ………‼︎」

 

 

 ずしん、と背中に強烈な重量感がのしかかってくる。

 けれども楯無は攻撃の手を止めない。水のドリルランス、そこに搭載されたガトリングガン、それらは確実に無人機の装甲にダメージを与え、絶え間なく火花を散らし続けた。

 

 

「楯無さん‼︎」

 

「ふ、ふふん………まだまだ。お姉さんの奥の手、披露してあげる」

 

 

 それまで両手で支えていたランスを左手一本に任せて、楯無は真上に向かって右手を突き出す。

 

 

「ミステリアス・レイディの最大火力、受けてみなさい………‼︎」

 

 

 楯無の掌の上に、水が集まっていく。通常時は防御用に装甲表面を覆っているアクア・ナノマシンを一点集中、攻撃転用にする一撃必殺の大技。その名もミストルティンの槍。

 

 構成するアクア・ナノマシン全てが超振動破砕を行う破壊兵器の塊であり、表面装甲がどんなものであれ、紙屑のように突き破ることができる。

 しかも、敵装甲内部でアクア・ナノマシンはエネルギーを転換、一斉に大爆発を起こす。そのエネルギー総量は小型気化爆弾四個分にも相当する、まさに奥の手。

 

 エネルギーの流れを検知したのか、無人機は大型ブレードで楯無を切りつけようとする。ミストルティンの槍を発動するには集中力が必要で、抵抗も防御もできない楯無の肌が斬られようとする瞬間、横合いから飛び出したナナがそれをエネルギークローで破壊した。

 

 

「邪魔すンなよ。オレの彼女の見せ場だ」

 

「ふふ。それじゃあ期待に応えましょう‼︎2人とも、防御はしっかりね‼︎」

 

 

 楯無の掌の上で形成されて水の槍。狙いを定めた一撃が、放たれた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「な、なんだ⁉︎」

 

 

 第三アリーナ、そのフィールドにて。

 ナナたちと同じく無人機に襲われていた一夏と簪。打鉄弐式の性能を十全に活かすためにアリーナのシールドを裂いて躍り出た2人は、突如として巻き起こった反対側のゲートの大爆発に目を見開く。

 

 箒たちによるものかとプライベート・チャンネルを開くが、反応がない。無人機による強力なジャミングによるものだ。

 

 

「織斑、くん………!」

 

「うわっ⁉︎」

 

 

 簪に身体を引っ張られ、空中でひっくり返る一夏。直後、強力な超高密度圧縮熱線が空間を焼く。

 

 

「くっ、しぶとい!」

 

「私が………!」

 

「簪⁉︎無理するな!」

 

「織斑くんは、向こうのゲートの状況を………確認して………」

 

「わ、わかった!」

 

 

 簪が無人機と斬り合いを始める。その隙にもうもうと煙をあげるゲートへと向かう一夏。そして、接近すると同時にハイパーセンサーがIS反応を検知。どうか無事であってくれと願い、その場に急行する一夏が見たものはあまりにも場違いな光景だった。

 

 

「………楯無、わかっちゃいると思うが、もう少し後にしねェか?」

 

「わかってる。わかってるけど、もう少しだけ、ね?」

 

「こんな時まで………オーウェン、お前………」

 

「オレのせいじゃねェだろ」

 

 

 ナナに抱きつき、意地でも離さないと言わんばかりに硬く背中に回した手を離そうとしない楯無。それを困ったようにどうするべきか悩むナナに、呆れた様にそれを見る箒。

 ナナのISが見るからに変化していたり、無人機の行方やこの爆発の原因を知りたいところであったが、脳がフリーズした一夏が導き出した言葉はひとつだけ。

 

 

「………何やってんだ、お前ら?」

 

「よォ、一夏。見ての通り、不良品をスクラップにしたところだ」

 

 

 一連の行動の理由は、自身の身など考えていない楯無を庇う為にナナが急行。爆発の煽りを受けて多少の傷は負いつつも無事に生還を果たしたのだが、ここで楯無がつい思い出してしまったのだ。

 ナナが死んだ時のことを。もしかすればこれは都合のいい幻覚ではないのかと。それを否定するように抱きしめるものだから、ナナとしても拒否はしづらい。そも、ことの発端は自身が油断していたのが原因だ。大人しくテディベア役になるしかなかった。

 

 まぁ、素直にそう言ったところでややこしくなるだけなので誤魔化すのだが。

 

 ナナの口調に思うところはある。だが今はその時ではないと漸く追いついた思考で頭を振ると、一夏は現状を説明する。

 

 

「それより、手貸してくれ‼︎今、簪が1人で無人機と戦ってるんだ‼︎」

 

「嘘、簪ちゃんが⁉︎」

 

「あ、おい、楯無‼︎」

 

 

 一夏の言葉にいち早く反応したのは楯無。ナナへの抱擁を止めると、すぐさまフィールドへと向かう。だが、ミストルティンの槍の影響によりアクア・ナノマシンの総量はゼロ。エネルギーの底も見えている。

 だと言うのに駆け出すのは、やはりそれだけ簪の事を思っているからであろう。後追いするナナも機体のエネルギーは残り少なく、有効打である悪竜大煉獄を発動させるだけの総量は既にない。精々支援攻撃が関の山。それでも楯無の気持ちを汲んで引くことはしない。

 

 手元にスヴェントヴィトを呼び出し、ライフルへと変形させると引き金を引く。だがやはり効果はなく、無人機故に気を散らすこともできない。

 そうして薙刀で応戦していた簪だったが、遂にその獲物が相手のブレードにより下から掬い上げられて宙を舞う。

 

 天高く掲げられるブレード。それを躱す余力は簪にない。しまったと後悔するがもう遅い。死神の鎌は振り下ろされたのだ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ーーーえ?」

 

 

 振り下ろされたブレードは、簪の身体に届かなかった。その前に現れた影が、庇う様に抱きしめた。きつく、きつく抱きしめた。

 

 

「おねえ、ちゃん………?」

 

 

 影は、楯無だった。

 残り少ないエネルギーをためらう事なく使って飛翔したその体は、大切な妹を守った。守って、代わりに斬られた背中から鮮血が溢れ出す。

 

 

「おねえ………」

 

 

 どさり、音を立てて身体が崩れる。

 

 

「お姉ちゃん!お姉ちゃん‼︎」

 

 

 倒れた楯無を抱き起こし、揺する。背中に回した腕が、暖かな血で真っ赤に染まった。

 

 

「やだ………やだよぅ………お姉ちゃあん………」

 

「あは………。そう呼ばれるの、何年振りかしら………?」

 

 

 楯無は笑っていた。嬉しそうに。ただただ、妹の無事を安心するように。

 

 

「どう、して………こんな………」

 

「妹を助けるのに、理由が必要………?」

 

「だって!だって………もう、無理なんだよぅ………」

 

「無理じゃ………ないわ」

 

「無理だよ!この世にヒーローなんか、いないんだよ‼︎」

 

「そうかしら………?」

 

 

 にこりと笑みを浮かべる楯無は、どこまでも優しい。そして追撃を加えんとする無人機に突撃する影を見て、安堵する。

 

 

「ほら、来たわよ。ヒーローが」

 

「テメェ、誰に手ェ出してやがる」

 

「よくも楯無さんを‼︎」

 

 

 憎悪に満ちたナナの声と、怒りに満ちた一夏の声が重なる。両手のリングを回転させ、ナナが放つのは火炎放射ではなく、口径を絞って断続的にしたもの。放たれるエネルギーの形状から悪竜投擲槍(ズメイ・カピヨー)と名付けられたそれは、シールドによって防がれるも、確実にエネルギーを削る。

 

 そして防御に専念して動けない無人機を、一夏の零落白夜が襲った。だが、やはりそれは警戒されていたのだろう。一夏が刃を振るうと同時に、その場を離脱する無人機。上空へと逃げた無人機が掌を翳して照準を定めた。

 

 

「やらせん‼︎」

 

 

 2人の前に飛び出したのは箒。両腕を前に突き出し、展開装甲を開放。強力なエネルギー・ブラスター・シールドが形成され、熱線は完全に遮られた。

 

 

「くそっ、エネルギーが………‼︎ナナ、お前は⁉︎」

 

「似た様なモンだよ、クソッタレ」

 

 

 火炎放射よりもエネルギー使用は少ないとは言え、それでも現状ではできて数秒の足止めが限度。スナイパーライフルによる狙撃を試みるが、やはり効果は薄い。

 

 決定打は一夏の零落白夜であるが、エネルギーを回復させるための箒も今は手が離せない。どうしたものかと考えるナナを尻目に、決意を決めた簪が飛び出す。

 

 

「簪⁉︎」

 

「私が、時間を稼ぐから………その間、に」

 

 

 戦う2人の後ろ姿を見て、簪は決意した。

 いつまでも弱く、臆病で、勇気のない自分。今だって盾役に名乗りをあげたのはいいものも、恐怖で手が震える。だが、それよりも怖いものがあると知った。

 

 楯無が傷つくのが、一夏が傷つくのが、何より怖い。それと比べれば我が身に襲いかかる恐怖など塵にも等しい。

 背後から聞こえる制止の声を振り切って、簪は荷電粒子砲を放った。

 

 

「くそっ!箒、絢爛舞踏を頼む‼︎」

 

「ああ!だが、紅椿もやられている。時間がかかるぞ」

 

「なるべく早く頼む。そう何時間も粘ってられねェからな」

 

 

 アンチマテリアルライフルへと変形させたナナが、引き続き援護射撃を行う。装甲にあたれば僅かにダメージを与えることはできるが、これでは突破は不可能だろう。

 そも、高威力のものとなるとその分リソースを圧迫するために、在庫は少ない。砲弾を使うにも、フレンドリーファイヤを恐れて使用は難しいだろう。

 

 Fackと叫びたい気持ちを抑えて、ナナは照準を定める。最後に残された手札はあと一枚。それを切る瞬間を見定めながら。

 

 視線の先では荷電粒子砲を撃ちながら、攻撃を回避する簪の姿。それに加え片手の装甲を収納し、フリーとなった手で空中投影キーボードに情報を入力。

 本来であれば完成が間に合わずにマニュアルで操作するはずだったミサイルポッド。それをこの土壇場でマルチ・ロックオン・システムを完成させるつもりだ。

 

 大気の状態、各弾頭の機動性、タイムラグ、爆発における相互干渉、発揮できる攻撃力、それらを片手間に計算するのは至難の業どころの話ではない。人生で一番集中していると断言できるほどのそれは、ついに実を結ぶ。

 

 

「この山嵐から、逃れられる………?」

 

 

 肩部ウイング・スラスター、そこに取り付けられた6枚の板がスライドして開く。その中から、ちょうど粒子組成が終わった八連装ミサイルが六箇所、計48発、一斉に顔を出したのだった。

 

 撃たれる前に迎撃を計ろうとする無人機。熱線を照射しようと掌を向けるが、下からの衝撃に照準がズレる。その正体はフィールドのナナのライフル。ざまあみろとばかりに悪どい笑みを浮かべ、続け様に弾丸が飛ぶ。

 

 それを防御することは容易い。だが、それをしてしまえば目の前のミサイルの餌食となってしまう。

 

 

「力を貸して、打鉄弐式‼︎」

 

 

 凄まじい音を立てて、ミサイルが一斉に発射される。

 

 

「ダイレクト・リンク、確立………!マニュアル・ロック、開始………!」

 

 

 無人機へ向けて、ミサイルが一斉に襲いかかった。それも直線的な動きではない、複雑な三次元躍動をしながら急接近していく。完全マニュアル制御されたそれを回避することは不可能。熱線による迎撃も難しい。

 可変シールドユニットをそちらへ回し、ナナの援護射撃は装甲で受け止める。だが、的確なミサイルの攻撃によりシールドユニットの中枢部分が吹き飛ばされた。

 

 防御を失い、スラスター制御による後退回避を始めるが既に遅い。狙いを定められたミサイル群は、それこそ嵐のように無人機へと襲いかかる。

 

 だが、無人機もこの状況を打破しようと左腕にエネルギーを集中させる。ミサイルのマニュアル制御によって完全無防備になっている簪へと向けて、熱線を放った。

 

 

「やらせん‼︎」

 

 

 簪の前に飛び出したのは箒。先ほどと同様、エネルギー・ブラスター・シールドによって熱線を完全に遮るが、それならばと熱線を高出力連射モードへと移行。箒の盾を突破しようと畳み掛ける。

 

 

「くっ………!紅椿!見せてみろ、お前の力を‼︎」

 

 

 その呼びかけに応えるように、紅椿の肩部ユニットが音を立ててスライドする。その形は、まるで巨大な鏃を番えたクロスボウ。出力可変型ブラスター・ライフル穿千。最大射程に優れた一点突破型の射撃装備である。

 

 初めての武器だというのに、その使い方は理解できる。それを不思議に思いつつも、今はその時ではないと思考を切り替える。

 

 

「左腕、もらったぞ!」

 

 

 展開装甲に使われているものと同じ、真紅のエネルギー・ビームが超高密度圧縮状態で放たれる。両肩二門で放たれた攻撃は、凄まじい熱量で空間を焼き払いながら突き進み、無人機の左腕を吹き飛ばした。

 だが、無人機である以上痛みは感じない。崩れた姿勢を強引に立て直すと、瞬時加速で箒に向かって突き進む。

 

 そして次の瞬間、下からのレーザーが無人機を狙撃した。

 

 

「ハッ、よォやく一矢報えたな」

 

 

 マントのようにナナを包んでいたスラスター。その先端は砲口となっており、八門全てが無人機に向けられていた。ナナにとっての隠し球、高出力のレーザー兵器にエネルギーを全て使ったのだろう。機体が空中に溶けていく中、ナナは不敵に笑う。

 

 

「後は任せたぞ、一夏」

 

「おう‼︎これでーーー‼︎」

 

 

 ナナの狙撃によって露出した無人機のコア。両手で握った零落白夜の強く雄々しいエネルギーが天高く掲げられる。熱線は間に合わないと判断した無人機の判断はブレードでの防御。

 

 

「終わりだぁああ‼︎」

 

 

 一瞬の抵抗。そして競り負けた無人機のブレードが砕け散る。そのまま吸い込まれるようにコアを斬り裂き、無人機ごと両断された。

 上下に別れた無人機が一瞬の紫電を断面から走らせると、そのまま爆発を起こす。爆風に煽られながら限界が来たのだろう、せめて楯無を護らんと手を伸ばそうとしてナナの意識はそこで途絶えたのだった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。