翌日、IS学園1年1組の教室。
朝からがやがやと元気な生徒の九分九厘が女子という状況で、唯一の男性操縦である織斑一夏はため息を溢す。
側から見れば贅沢だ、羨ましい、おいそこ代われなどと言われるが、本人からすれば好奇の視線に晒されているだけであり、精神的にキツイだけだ。それも見目麗しい女子たちとなると尚更。ISの適正は顔面偏差値に影響があるのだろうか、と疑うくらいには皆眉目秀麗である。
並である身としてはより一層居心地が悪いと感じる一夏だが、それは本人としての感想であり、周りから見れば十二分に整っている顔立ちである。
それはさておき、せめて同じ男性がいればこの境遇に愚痴をいったり、くだらない話で騒いだりとできるかもしれないが、そんなものは望むべくもない。
仮に女子相手にそんなことをしてみれば変質者、は言い過ぎかもしれないが白い目で見られるのは間違いないだろう。
何かの間違いで男子が入学してくれないだろうか。欲を言えば中学の時の友達のようにバカ話ができるくらい、仲良くなれたらいいな。と現実逃避する一夏。
そんなことを考えていれば鈍い衝撃が頭を襲った。
「何をぼさっとしている」
「イっ‼︎」
叩かれた頭を抑えながらゆっくりと頭を上げれば、そこに自身の姉でもあり、一組担任の織斑千冬がそこにいた。
手に持った出席簿が心なしか煙をあげているように見えるのは、果たして気のせいか。
「ち、千冬姉………」
「織斑先生だ。連絡事項は聞いていたか?聞いていないのであれば他の者から聴け。では山田先生、ホームルームを」
「は、はいっ」
バトンタッチされたのはちょうど拭いていたメガネをわたわたと掛け直すのは副担任の山田摩耶だ。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも3名です!」
「え………」
「「「えええええっ⁉︎」」」
いきなりの転校生紹介にクラス中が一気にざわつく。
そのような情報は誰も得ておらず、正真正銘のサプライズ。しかしふと、一夏が千冬の表情を見て少し違和感を覚える。
(あれ?千冬姉、緊張してる?)
普段と変わらない厳しい顔つきだが、弟である一夏はその違いを把握していた。
あの千冬が緊張する相手が転入する。それはある意味一大事だ。しかし、千冬が緊張する相手など思いつかない。ただの喜憂か?と考えていれば、教室のドアが開かれる。
「失礼します」
「Hi」
「……………」
クラスに入ってきた3人の転校生を見て、ざわめきがぴたりと止まる。
それも仕方がない。
唯一と思われた男性操縦者が一気に2人も増えたのだから。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
転校生の1人、人なつっこそうな顔。礼儀の正しい立ち振る舞いと中性的に整った顔立ち。髪は濃い金髪。それを首の後ろで丁寧に束ねている。身体はともすれば華奢に思えるくらいスマートで、しゅっと伸びた脚。貴公子とも言える面持ちのシャルルがにこやかな顔でそう告げて一礼する。
それに続くようにもう1人の男が笑顔で手を振りながら自己紹介。
「ロシアから来タ、ナナ・オーウェンだヨ。日本語苦手、だけど頑張るヨ。nice to me to」
もう1人は片言の日本語を駆使しながらそう言った。
シャルルとは違い真っ黒な髪を腰まで伸ばし、そう言う髪型なのか頭の中央から斜めに髪が3束ほど上に向いている。軽薄そうな笑み、といえば悪く聞こえるが、しかしそれが妙に似合っている。身長は並んだ三人の中では一番高く、一夏が並んでも頭ひとつ分は高いだろう。細いというよりは引き締められた腕に続く両手首にはリング、首にはチョーカーというには太めの首輪がしてある。印象としていえば近所の年上のお兄ちゃんともいえるような、そんな雰囲気。
「お、男………?」
「ソーだヨ。IS学園には先に1人イルって聞いてたけド………もう1人いるのは驚きネ。Ahh、驚き桃の木さんしが木、だったかナ?」
「僕も驚いたよ。同じ境遇同士よろしくね、オーウェンくん」
「ナナでOKヨ、デュノア。それデ、噂のMister織斑は………」
「僕もシャルルでいいよ。えっと………」
「きゃ………」
「はい?」
「きゃああああああああーーーーーっ‼︎」
刹那、歓迎とも見舞われる黄色い声がクラス中に響き渡り、冗談じゃなくガラスを揺らした。
「男子!それも2人も!」
「しかもうちのクラス!」
「美形!守ってあげたくなる系の!」
「イケメン!甘えたくなる系の!」
「ここが楽園か!!」
「oh、熱烈歓迎ネ………耳がキンキンするヨ」
両耳に人差し指を指して耳栓するが効果なし。思わず苦笑いを溢すナナに一夏は心の中で同情すると同時に、これからもっと大変になるぞと警告を唱える。
思い出すは入学初日。あの時は廊下いっぱいに他クラスの生徒が押し寄せすし詰め状態。無数の人から浴びる好機の視線はこれからだ。
「あー、騒ぐな。静かにしろ」
「み、みなさんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから〜!」
忘れていたわけではないがーーーというよりも意識の外に追いやるのに難しいもう1人の転校生は、見た目からしてかなりの異端であった。
輝くような銀髪。ともすれば白に近いそれを、腰近くまで長く下ろしている。綺麗ではあるが整えているようではなく、ただ伸ばしっぱなしという印象のそれ。
そして左目に医療用ではない本物の眼帯。残っている右目は赤色を宿しているが、その温度は限りなくゼロに近い。
身長は小さいが、その全身から放つ冷たく鋭い気配がまるで隣に立つシャルルと同じ背丈であるかのように見るものに感じさせていた。
「…………………………」
当の本人は未だ口を開かず、腕組みした状態で教室の女子たちをくだらなそうに見ていた。しかし、それも僅かのことで、今はもう視線を千冬に向けていた。
「………挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
いきなり佇まいを直して素直に返事をする転校生ラウラに、クラス一同がぽかんとする。対して、異国の敬礼を向けられた千冬は先ほどとはまた違っためんどくさそうな顔をした。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではおまえも一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
そう答えるラウラはぴっと伸ばした手を身体の真横につけ、足をかかとで合わせて背筋を伸ばしている。どう見ても軍人、そうでなくても軍施設関係者である。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「………………………」
クラスメイトたちが沈黙し、続く言葉を待つが、名前を口にしただけでまた貝のように口を閉ざしてしまった。
「あ、あの、以上………ですか?」
「以上だ」
空気にいたたまれなくなった山田が出来る限りの笑顔でラウラに訊くが、返ってきたのは淡白な即答だけだった。
「!貴様がーーー」
ふと、視線が合った一夏を見つけると、今までの表情が嘘だったかのように怒りに満ちた声を上げ、つかつかとそちらに詰め寄る。そして右手を高くあげた瞬間、その手が止められた。
「テンコー初日に穏やかじゃないネ。もう少しfriendlyにしようヨ」
にこりと笑みを崩さず、ラウラの手を止めたナナ。それを横目でジロリと睨むと、怨嗟が混じったような声でラウラは告げる。
「………邪魔をするな、ロシア人」
「Non。
暫しの間ラウラが睨み続けるが、効いた様子もなし。舌打ちひとつすると乱暴に拘束を説いて一夏を睨みつける。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、断じて認めるものか」
来た時と同様すたすたと一夏の前を通り過ぎると空いている席に座って腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなる。
処置なしと言わんばかりに肩をすくめ、今度は一夏に手を差し出す。
「Hi、Mister織斑。君の事はよく知ってるヨ。ナナ・オーウェン。ナナと呼んでネ」
「あ、ああ。俺も一夏って呼んでくれ。さっきはありがとう」
「You are welcome」
手を繋ぎ握手。そうしてナナの後頭部へと吸い込まれる千冬の出席簿。あ、という一夏の言葉も束の間、バシン、といい音がして思わずナナが蹲った。
「さっさと席に座れ」
「………ボーリョクteacherネ」
肩を竦めるナナが渋々といった調子で空いていたラウラの隣に座った。
いや、なぜそこに座る、とクラスメイト全員が心の中で突っ込んだ。
「ゴホン!ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。織斑、男子の面倒はお前が見てやれ。以上、解散!」
千冬がパンパンと手を叩いて行動を促す。
ナナは鼻歌混じりに、シャルルは礼儀正しく言われた通り織斑に近づいた。
「君が織斑くん?初めまして。僕はーーー」
「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから」
「oh、ゆっくぅりお喋りするヒマもないヨ」
説明と同時に一夏は行動を移し、シャルルの手を引いて教室を出る。その後ろをナナがついていく形だ。
「とりあえず男子は空いているアリーナ更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれ」
「う、うん………」
手を引かれるシャルルが妙に落ち着きなく、握られた手を見つめる。
それを眺めながら走るナナは内心でなるほどと理解し、それを表に出さず走る。詳しい話はあの女が知ってるのだろう、と決め付けて。
「ああっ!転校生発見!」
「しかも織斑くんも一緒!」
HRが終わり、早速各学年各クラスから情報先取のための尖兵に発見された。
波に飲まれれば最後、質問攻めのあげく授業に遅刻、鬼教師の特別カリキュラムが待ち受けていることを理解している一夏の脚は止まらない。
「いたっ!こっちよ!」
「者共出会え出会えい!」
「なんだかホラ貝吹きそうな雰囲気だなっ!」
「Japanese武家屋敷ネ!サムラーイ!サムラーイはドコかナ?」
「ナナはナナでテンション高いなあっ!」
丁寧に一夏がツッコミながら走ると言う特技を見せつつ、一同は女子たちの猛攻から逃れるために走り抜く。
「織斑くんの黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」
「しかも瞳はエメラルド!」
「黒髪ロングもポイント高いわ」
「身長もあるし、なんだか大人っぽい!」
「な、なに?なんでみんな騒いでるの?」
「HAHA!nice jokeネ。少ないモノを取り合うのはどこも一緒だロウ?」
「………?」
「えっと、ISを操縦できる男子が珍しいからみんな集まってる、ってことで大丈夫だよな?」
「yeah!そゆことネ!」
「あっ!ーーああ、うん。そうだね」
こいつは隠す気があるのだろうか?
そう思わずにはいられないシャルルの役者加減に内心呆れ、自身の驚異足られないことを認識する。仮に本物の男だったとしても、採取対象が増えるだけなのだが。
しかし、なぜフランス政府はこんなものを送ったのかと疑問を覚える。
「俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」
「うん。よろしく一夏。僕のこともシャルルでいいよ」
「わかった、シャルル」
シャルルと一夏のやりとりを眺め、ハニートラップでも仕掛けるのか?と夢想する。
しかし、女の園でハニートラップを仕掛けても効果はいかほどに?悩ませてもわからない問題はひとまず置いておき、一同はなんとか第二アリーナ更衣室へ到着した。
「うわ!時間ヤバいな!すぐ着替えちまおうぜ!」
「着替え?ああ!あのスーツのことカイ?」
「そうだよ。あれ着ないとISが正常に動かないらしいぞ」
「really?あのスーツピチピチだから嫌いヨ」
「あー、わかるぞ。裸にならないといけないから引っかかって着づらいんだよなぁ」
「ひ、引っかかって?」
「おう。………って、着替えるの早いな」
いつの間にか着替えていたシャルル。その目はよそよそしく、着替えてる男2人の裸を見ないようにしながらも、興味があるのかチラチラと視線がそちらを向いていた。
「よしっと。着替え終了!」
「oh。一夏も早いネ」
「まぁ、2人よりは長くここにいるからな。ナナは………うん、終わったみたいだな」
「yeah。………Ahh、シャルル。そんなに見ないでヨ。very Embarrassing」
「ぅえっ⁉︎み、見てない‼︎見てないから‼︎」
「なんだ?男の裸見ても楽しくないだろ?」
「同感ネ。見るならnice bodyのladyに限るヨ」
「おっ!やっぱ男同士だとそう言う会話できていいよな」
「も、もうっ!行くよ、2人とも!」
「あっ、待ってくれよ」
顔を真っ赤にしたシャルルに続くように一夏は駆ける。その2人の背中を何の感情もなしに、強いて言うなればモルモットを眺める学者の様な気持ちで眺め、ナナはそれについていくのであった。
◇◆◇◆
その後、無事ギリギリという段階で所定アリーナに到着した一夏たち。
現在はISの熟練度、教師としての違いが露見するかの如く、目の前ではISの模擬戦が繰り広げられていた。片方は
相手を誘導し盾にしたり、かわした直線上に相方がいたりと翻弄する始末。
初めて生で観戦する模擬戦に、ナナはこういうものかと感慨深く眺める。山田の技術はもちろん、代表候補生の動きも今の自分には参考になるものばかり。
(
第一目標は織斑一夏の生体情報の入手であるが、ISを通じて仲を深めるという案を人知れずに進めているナナは食い入るようにその模擬戦を眺める。
そして遂に代表候補生2人がぶつかった瞬間に手榴弾が投下。戦闘不可能となった2機が墜落し、山田の勝利が宣言された。
さて、教師陣の実力も判明したところで、授業は本題に。今回は量産機を使用したISの歩行訓練。触れる機会の多い専用機持ちが主軸となり一般生徒に教えるというものだ。
千冬がグループに別れろと宣言するが、当然のごとくと言わんばかりに男子3名に人が集中。頭が痛いとばかりに患部を抑え、すぐに出席番号順に並べと鶴の一声を挙げれば、あっという間に整ってしまった。
「ああ、それと、オーウェン。貴様は織斑の班につけ。基礎さえ固めてない奴に指導役など任せられん」
「oh、そーゆーのは先に言って欲しいネ」
「今言った。わかったなら早く動け」
ナナのグループについた女子たちはせっかく男子と仲良くなれるチャンスを不意にされ、若干不服そうにしていたが、千冬の言葉に逆らうことなどできない。残りのグループに紛れるような形で別れ、ナナも追随するように一夏のグループに入った。
「なぁ、ナナ。千冬姉が言ってた基礎が出来てないってどういうことだ?」
「そのまんまネ。IS動かシタの昨日が初めてヨ」
「え?じゃあそれまで何を?」
「本国じゃベンキョーばっかりヨ。もう頭痛いネ」
「ああ、わかるぞ。ISの座学って訳の分からない単語が多すぎてよく理解できないよな」
「that's right!あんなのゴーモンネ。打首ゴックモーンネ」
「そこ!無駄話せずにさっさとISを取りに来い!!」
千冬の怒号に従い、そそくさと準備を進める一同。そして千冬にバレないよう小声でわいわいと喋りながら歩行訓練を進める。
最初の1人が終わり、さて次へと回すところで問題が発生。ISを直立させたまま使用者が降りたため、次の人間が乗れないのだ。初めはどうするか悩んだ一夏だが、周りの助言もありISを展開してお姫様抱っこする形で次の人間を乗せる。
見てる分には面白いが、不思議なことに何故か次からお姫様抱っこして乗せることが恒例となってしまい、当然の如くと言わんばかりにナナの順番が回ってきたというのに直立したままのIS。
「あー、どうする、ナナ?」
「せっかくダカラお願いしよーカナ」
「………冗談だよな?」
「授業進めなきゃあのogerに怒られるヨ」
苦笑いする一夏に肩をすくめながらそう返すナナ。露骨に肩を落としてため息を溢すと覚悟を決めたようにナナを抱き上げる。
その瞬間、周りから黄色い声援が上がったのは空耳だと一夏は思いたかった。
「thank you、一夏。prideはズタズタだけどネ」
「言わないでくれ……。ああ、そうだ。ナナ、この後の昼休み一緒に昼食でもどうだ?」
「oh!goodネ。保護者に許可を貰ってくるヨ」
「保護者?」
「yeah。怖い怖いお目付役がついてるのサ」
まぁ、ダイジョーブだヨと告げ、ナナは訓練に集中する。実際、織斑一夏との交友を深める為と報告すれば許可はもらえるだろう。間違いなく監視はつくだろうが、反抗する意思のない身としてはいても居なくても変わらない。
鼻歌まじりに歩行しつつ、腑に落ちないながらも渋々と許可を出すであろう楯無の姿を夢想して腹の中で大笑いするのであった。
◇◆◇◆
昼休み
なんとか許可をこじつけたナナは一夏とシャルルと共に屋上へ。無論弁当など持参しておらず、売店で購入したいくつかのパンを持ってである。
なんのことはない、普通の昼食をと考えていたナナは現在、珍しく本心から苦笑いを溢す。
屋上にいるのは三人に加え、先程の授業で教師相手に惨敗していたセシリア・オルコットと凰鈴音、それとポニーテールが特徴の日本人。前者はともかく後者に関しては何の関わりもないためただただ困惑を浮かべる。
どうやら一夏は日本人の女子と待ち合わせしていたらしく、なぜこんなにも連れてきたのかと小言を言われていた。
彼女としては2人きりで昼食をと計画していたのだろう。側から見ればホの字であることは明らか。どうやら一夏はかなりの恋愛の機微には疎いらしい。
「えっと、僕たちお邪魔だったかな?」
「ん?なんでだ?」
そう言ってしまうくらいには鈍感である。
これ以上は日本人女性に一夏が殺されかねないと思い、それは困ると助け舟を出す。
「Ah、一夏。それより彼女達を紹介してもらえるカナ?」
「ああ、そうだな。こっちは箒、小学校まで幼馴染だったんだ」
「篠ノ之箒だ。よろしく頼む」
「で、こっちはセシリア。イギリスの代表候補生」
「セシリア・オルコットですわ。お見知り置きを」
「こっちは鈴。中国の代表候補生」
「凰鈴音よ。一夏とは小5からの付き合いよ」
「nice to me to、篠ノ之、オルコット、凰」
「よろしくね、3人とも」
それぞれ紹介を終え、昼食へ。どうやら篠ノ之は一夏に弁当を作って来ていたらしく、一夏はそれを食べていた。そして鈴はおかずの回鍋肉を食べさせたり、セシリアはサンドイッチを差し出したりと、どうやら一夏は相当気に入られていると当たりをつける。
いざとなれば取れる人質が増えたことはナナとしては喜ばしいことである。実行すれば間違いなく首輪は爆発するだろうから最終手段ではあるが。
「そ、そうだ!パンだけのナナとシャルルにも食べてもらったらいいんじゃないか⁉︎」
篠ノ之に弁当の唐揚げ(なぜか篠ノ之側には入っていない)を箸で口の中へと渡したせいか、私も私もと一夏に迫るセシリアと鈴。さすがに2人同時は無理だと泡食った一夏は矛先を2人へと移させる。
渋々と言った調子ではあるが、仕方ないとばかりにセシリアのサンドイッチがシャルルに、鈴の回鍋肉がナナに渡される。
「そ、それじゃあいただくね………ウッ!」
サンドイッチを一口齧ったシャルルが急にむせ返す。何とか口の中のものを吐き出さないでいたが、余談は許さない状態。四苦八苦しながらソレを飲み込み、無理やり笑顔を浮かべる。
「と、とてもおいしかったよ」
「そうでしょう?このセシリア・オルコットにかかれば、ですわ!」
10人中9人が嘘だとわかる感想に、セシリアは鼻高々といった様子。最後の一人は作った当人だ。
その後ろでは合掌する一夏。ナナも続いて見様見真似で合掌する。
「そしたラ、オレもご馳走になるヨ」
アレを見た後ではこれもお察しだろうと高を括るが、意外なことにこちらの回鍋肉はまともで、思わずといった調子で目を見開いた。
「oh、Yum!it's hot and tasty!」
「当然でしょ。伊達に中華料理屋の娘やってないわよ」
「greatネ、凰!junior high schoolとは思えないヨ!」
「誰が中学生よ!どう見ても高校生でしょ!」
鈴のツッコミに思わず疑問を頭に浮かべるナナ。そして隣に座るセシリア、そして箒の女性らしい体の一部を見て、最後に鈴を見る。
何がとは言わないが、明らかに2人よりも遥かに小さなソレ。鼻で笑えば言わんとせんことがわかったのか怒髪天にきた鈴が言葉にならない怒りを叫びながらナナに掴みかからんとする。一夏が後ろから羽交い締めにしてなんとか押し留めているが、ナナは笑って煽るばかりだ。
「離しなさいよ、一夏ァ!」
「お、落ち着けって!ナナもナナで笑ってるんじゃない!」
「sorry。but、どこがとは言わないケド、一夏と並んでもsmallネ」
「シャーーーーー‼︎」
「煽るなよ‼︎⁉︎」
そんな一幕もあり、無事午後の授業を終えたナナは一夏たちと別れを済ませ自室へ。
貼り付けていた笑顔を剥ぎ取り、疲れを含んだため息を溢す。
「随分と楽しんでるみたいね」
「言ってろ、mother fucker」
自室に戻れば先に入っていた楯無からそう投げかけられ、不機嫌そうにそう答える。
扉から手前にあるベッドに寝転がると、首だけそちらに向けて楯無を睨む。
「それで?多忙な生徒会長様はなンで部屋でサボってンだ?」
「言ったでしょう?貴方の監視は最重要、生徒会の仕事をしながらでも続けなくちゃいけないの。この書類の山が見えない?」
「そりゃお偉いことで。肩でも揉んでやろうか?」
「そのまま首を絞められそうだから遠慮するわ」
「そうかい」
疲労故に暫くぼうっと天井を眺めるナナと、書類をどんどん処理していく楯無。しばらくの間互いに無言で、ペンを走らせる音が部屋に響いていた。
そうしてようやく目処がついたのだろう。ペンを傍に置いて背筋を伸ばす楯無。凝り固まった肩を回してナナの方を見る。
「それで?一夏くんの印象はどうかしら?」
「ああ、いい奴なんだろうよ。社交的で明るく、周りを気にかけることのできる、真っ直ぐな瞳のいい奴さ」
「あら、意外。そう言うタイプは嫌いなのかと思ってたわ」
「まさか。大好きだぜ、そう言う奴。騙しやすくて利用しやすい。この首輪が外れる日も近いだろうさ」
「そうでしょうね」
あまりに予想通りの返答に呆れながらそう返して、そういえばと思い出したように問いかける。
「報告で聞いたけど、中国の代表候補生にお熱みたいじゃない。言っておくけど、手を出したら国際問題になるわよ」
「あ?何の話だ?」
「今日のお昼のことよ」
そう言われて暫く考えた後、ああ、と思い出したように呟く。どうやら本気で忘れていたようだ。
「別に手ェ出そうなンざ考えちゃねェよ。あのメンツの中じゃ織斑一夏に接近しやすいってだけだ」
「随分と悠長なことするのね」
「期限は指定されてねェンだ。のんびりやるさ」
肩をすくめて戯けるように冷笑すると、昼間に購入したであろうカロリーバーを口にする。そして楯無に遠慮なくシャワーを浴びてすぐさま寝に入ってしまった。
同居人の自由さに思わず呆れ、楯無はため息を吐くと学園の書類に紛らせた本国からの書類を書き上げる。内容はナナに対する観察報告。現状反抗の兆しなし、けれど注意は必要とだけ記すと備え付けのプリンターから転送する。
呆れるくらいに警戒心のない寝顔をちらりと見て、本当に警戒が必要なのだろうかという湧き上がる疑問を抱く。寝顔だけ見ればそこらにいる年頃の男の子。そこに血に濡れた後ろ暗いものは見えない。
ままならないものだと一仕事終えた楯無はシャワーを浴びると、同じように寝床に就く。
彼らの生活はまだ始まったばかりである。
とりあえず書き溜めはここまで
需要があれば更新いたします