IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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32話

 

 

「アンタ、セシリアと何かあったの?」

 

 

 体育祭当日、その早朝。朝早くにも関わらずIS学園の調理室には幾人かの影が。何のことはない、専用機持ちの面々である。

 体育祭となればお弁当。一夏には是非とも自身の手作りを、と相談するまでもなく集まった面々の中に、ナナはいた。

 

 例に漏れず、楯無のためである。この準備のために忙しなく動く楯無の一助になれば、とナナも弁当を作りに来たのだ。そんな中、隣で調理する鈴から飛んだ疑問。

 

 ナナが名前呼びするのは楯無か一夏、後はシャルロットと簪くらい。その中にセシリアも加わったのだからその疑問も当然であり、一部の口さがない者からは鞍替えした、なんて噂もあるのだ。

 友人として許しておけないし、万が一、億が一にもそれが本当ならば鈴はナナに暴力を振るうこともやぶさかではない。恋のライバルではあるが、決して貶めていいわけではないのだから。

 

 毒牙を振るった、と思われているナナは少し苦笑い。揚げていたからあげを油から取り出すと、重箱に詰めながら答えた。

 

 

「別に、一緒に料理しただけだヨ?その時にfast name呼びにok貰っただけサ」

 

「はぁ?ホントにそれだけ?」

 

「yeah、本当だヨ。ねぇ、セシリア?」

 

「わたくしとしては、未だにファミリーネームで呼ぶナナさんに驚きでしたけど」

 

 

 話を振られたセシリアは苦笑い。手元にはいくつかのパンとチーズやレタス。本日のメニューはサンドイッチのようだ。

 初めは体育祭で疲れた身体には辛いものがいいだろう、とトムヤムクンを作ろうとしていたがそれはナナに止められた。いくら伊勢海老などの最高食材を使おうとも、異様な刺激臭を放つブートジョロキアを使って仕舞えば元も子もない。「カプサイシンは疲労回復によろしいですのに………」と未練たっぷりに呟くが、聞かないことにする。

 

 

「ああ、確かに。私も未だにファミリーネームだな」

 

「そう言えばそうだね。箒もファミリーネーム呼びだよね」

 

「そうだな。私としては、名前で呼んで欲しいのだが………」

 

 

 斜め向かいのラウラが反応すれば、その隣のシャルロットが同調し、話を振られた箒が同意する。ちなみに、ラウラが昼食にと持ち込んだヘビは没収され、今はシャルロットと仲良くフルーツを切っていた。栄養価重視で見た目を気にしない、軍人思考の弊害である。

 

 箒の懇願にも似たその言葉に、あー、とナナは言葉を溢す。最初は仲良くなるつもりもなく、どうせ短い付き合いだと割り切っての苗字呼び。今更変える必要もない、と思っていたが案外そうでもないらしい。

 

 

「なんて言うか、距離があるのよね、距離が。別に楯無さんから名前呼び禁止、なんて言われてないんでしょ?」

 

「まぁ、そうだネ。but、突然fast nameで呼ンだら驚くでショ?」

 

「別に気にしないわよ。ほら、呼んでみなさいよ。鈴様でもいいわよ」

 

「私も他人行儀なのは嫌だ。ラウラと呼べ」

 

「一度はペアを組んだ仲だ。箒でいい」

 

 

 手元を見ずに、それぞれ作業を行う姿は流石の一言であるが、今だけは料理に集中して欲しいというのがナナの素直な感想。何と言うか、こそばゆいのだ。全身がむずむずすると言うのか、恥ずかしいさとはまた違う、不思議な感覚。それに翻弄されながらも、期待を持たれた視線に根負けしたナナは両手を上げて名前を呼ぶ。

 

 

「All right all right。わかったヨ、鈴、ラウラ、箒。オレもナナでいいヨ」

 

 

 それに満足したのだろう、それぞれが頷いて笑うと再び作業へと。何だったんだ、と肩を竦めナナも作業へと戻る。自身と仲良くなって一夏への架け橋にでもするのか、と勘ぐるが、それならばもっと早くに行動するだろう。ただ、全身を巡るむずむずが未だに消えなくて、少しぽかぽかとする胸に困惑しているのは確か。

 

 

「ちなみに簪は何を作ってるンだイ?」

 

「菓子パン………それと、スーパーエナジーゲル三号どっこらショットの、組み合わせ………」

 

「What?」

 

「スーパーエナジーゲル三号、どっこらショット………今、開発中の、スーパーフード………」

 

 

 表情が乏しくてわかりづらいが、誇らしげに掲げる小瓶がそうらしい。いや、掲げられても理解は及ばないのだが。それに気づいた簪が空中投影ディスプレイを起動、そのままWEBページを開いた。

 

 

「じりじりじりーん、じりじりじりーん。朝だー朝だよー新しい朝だー。あわわ、寝坊しちゃった。ご飯を食べる時間もないよう。でも大丈夫、こんな時は更識印のスーパーエナジーゲル三号どっこらショット。スプーン一杯。ごっくんごくん。わー、一日の必須栄養素、必須アミノ酸、カロリーがこの一杯で。すごーい、おいしーい。まずは食べてみて」

 

 

 ディスプレイでは簪がパペットを使っての一人芝居。あまりの棒読みと無表情に、ナナは思わず天を仰ぐ。同じくそれを見た他の面々も大体似た様な反応だ。ラウラのみ、その栄養価が本当ならばと感心していたが。

 

 

「今度、企業に売り込みかけようと………思って………どう?」

 

「あー………個性的でよろしいのではないかと」

 

「う、うんうん、簪らしさが出ていいんじゃないかな?」

 

「あたしはノーコメントで………」

 

「ふむ、場合によっては軍で採用できるかもしれんな」

 

「ラウラ、お前………」

 

「Ahh………頑張ってネ」

 

 

 キラキラした瞳でそう言われてしまえば酷い出来だ、と誰も言えない。微妙な空気の中、その路線もありかもと、軍にも売り込みを掛けようとする簪だけが異様に元気なのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「それでは、これより一年生による代表候補生vs match大運動会を開催します!」

 

 

 楯無の声に、歓声が上がる。それは選手だけでなく、裏方の上級生からもだ。

 何せ今回あまりにも急なイベント。当然生徒会や教師陣のみでは人手が足りない。何より、私も代表候補生だから織斑一夏を争奪する権利があると叫ぶ女子もいたのだ。

 

 ちょっとした騒動になりかけたそれを楯無は鎮圧。結果として楯無の設定した裏方ポイントによって、一定以上の貢献度をあげた生徒には一夏に何かをさせる権利が与えられると言うことで、人員不足と抗議を抑えたのだ。

 

 

「選手宣誓、織斑一夏!」

 

「俺ぇ⁉︎」

 

 

 他が脚線美とヒップラインを露わにするブルマ姿の中、ナナと一夏は短パン姿。場違い側がハンパじゃねェな、と内心で溢しながら抵抗する一夏を壇上へと運ぶナナ。

 

 

「こ、こう言うのはナナの方が適任じゃ………」

 

「oh、何言ってるンだイ?今日は織斑一夏争奪戦だヨ?主役は君で、オレは裏方だヨ」

 

「そーゆー事。ほら、頑張れ男の子!」

 

「おわっ⁉︎」

 

 

 ぐいぐいと、ナナに引っ張られるわ楯無に押されるわであれやこれやと壇上へ。そうすれば突き刺さる期待を膨らませた視線の数々。そうして10代の男子には目の毒になる光景に思わず後退りしそうになる一夏の腕を、ナナは逃がさない。

 腕を組む形になったので、それはそれで別の歓声が上がったのだが、さておき。突然の事で頭が真っ白になりながらも、なんとか一夏が言葉を紡いだ。

 

 

「せ、選手宣誓ッ!」

 

 

 裏返った声でそう言うと、女子の中から声援が上がった。

 

 

「織斑くん、がんばれ〜」

 

「ふぁいと〜!かっこいいとこみせろー」

 

「へへー、おりむースマイルすまいる〜」

 

 

 そんな黄色い声、一段と顔を赤らめながら、一夏はどうにか続けた。

 

 

「お、俺たちはっ、正々堂々、力の限り、競い合うと…………誓います!」

 

 

 それを皮切りに、全学年の女子からまたひときわ大きな歓声が湧き起こる。それに流されないのは今体育祭の主役とも言える各グループの団長ーーー即ち、一年専用機持ちたち。各々が優勝した後の事を考えて、その座を虎視眈々と狙って闘志を燃やしていた。

 

 

「ホラ、一夏。ぼーっとしないヨ。お仕事沢山ネ」

 

「お、おう………てか、いつまで腕組んでるんだよ………」

 

「Oops。うっかりネ」

 

「はいはい、薄い本が厚くなりそうだからそのくらいにしときなさい。ほら、実況席行くわよ」

 

「本?ナナ、何のことだ?」

 

「………清らかな君のままでいてネ」

 

「???」

 

 

 そんな一幕もありながら開催された体育祭。その記念すべき第一種目は50メートル走。実況を楯無、解説をナナが担当し、訳もわからず一夏も同じ席に座らされる。

 予定では自分は裏方作業だったはずなのに、とおかしいと思いつつも、ナナと楯無から逃げられるとも思わないので大人しく従うしかない。まぁ、何もせずにただ座るだけと言うのは一夏としては落ち着かないのだが。

 

 

「一夏、手持ち無沙汰ならstretch手伝ってきなヨ」

 

「へ?いや、俺なんか行っても邪魔じゃないか?」

 

「落ち着かないンでショ?今日の一夏のお仕事は感想と、選手サポートだヨ」

 

 

 ほらほら、とナナに背中を押されて一夏は選手の元へと。第一走者なのだろう、鈴のストレッチに付き合っていた。

 先日の襲撃事件以降、いつもの面々を異性として認識し始めた一夏。ドギマギとした雰囲気を醸し出し、それを肴にナナは微笑む。

 

 

「あら、やけにご満悦じゃない?」

 

「まぁ、ネ。まだ始まったばかりだけド、楽しいヨ」

 

 

 隣の楯無からの質問に、ナナはそう返す。偽らない本音の言葉に、楯無もご満悦。彼氏が楽しんでくれている様で何よりである。

 

 そうして始まる50メートル走。パァンっ!と景気のいい音を立てて、スタートピストルが煙を吐く。

 

 

「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃ〜っ!」

 

 

 飛び出したのは長いツインテールを揺らす鈴。まるで忍者修行でもあるかの様に、その髪は下方向に垂れることがない。

 

 

「おおっと、いきなり鈴組がポイント先取!」

 

「元から身体動かすの得意だしネ。身体能力は高いヨ」

 

「あー、確かに。鈴のやつ、昔から体育得意だったしな………」

 

「あら、それだけ?せっかく頑張ったんだから、もっと褒めましょうよ」

 

「え、えー………か、可愛くていいと思います」

 

 

 そのアナウンスを聞いて、俄然やる気を出し始める女子一同。そして、汗を拭いていた鈴吐くボッと真っ赤になっていた。 

 

 

「………よし!箒組2番手は私自ら行こう!」

 

「あー!箒っち、自分も褒められようとしてるでしょ!」

 

「なっ⁉︎わ、私はただ、点差を広げないためにだなっ」

 

「またまた〜」

 

 

 友人数人から膝ツンツンを受けながら、違う違うと言い訳する箒だったが、その隣では入念なストレッチをしているセシリアがいた。

 

 

「わたくしには勝利こそが華。わたくしという華には勝利こそが相応しいのですわ」

 

 

 ふわっと髪を横に流す。相変わらず、高級コロンのいい香りが広がる。

 

 

「負けないよ、僕だって!」

 

 

 ん〜〜っと背伸びをして背筋をほぐす。息を吐いたところで、反っていた胸がぷるんと揺れた。

 

 

「ナナくん?」

 

「HAHAHA、不可抗力ネ。一夏、君も男ならわかるだロウ?」

 

「えっ⁉︎おまっ、ここで俺に振るのか⁉︎」

 

 

 慌てて胸を隠しながら、キッと一夏を睨むシャルロット。思わず見てしまって楯無に詰められるナナはさておき、睨まれた方としては、冤罪、誤解、濡れ衣である。

 ぶんぶんと顔を横に張る一夏を、シャルロットは「知らない!」とばかりにそっぽを向く。しかし、無常なのは50メートル走のスタートである。

 

 

「オンユアマーク………セット。ゴー‼︎」

 

 

 ぱぁんっとピストルが響き、箒とセシリアが飛び出す。それを慌ててシャルロットが追いかけようとして、足がもたれて盛大に転んでしまった。遥か向こうでゴールインするセシリアを眺めながら、シャルロットは自分の失態にじわりと涙を浮かべた。

 

 

「痛っ………」

 

 

 しかも、膝に擦り傷を作ってしまった。

 ますます気持ちが落ち込んでいると、そこに刺す影ひとつ。

 

 

「大丈夫か、シャル。怪我してないか?」

 

「え………いや、あの………」

 

「膝、怪我してるじゃないか、ほら、向こうの救護テントまでおぶってやるから」

 

「い、いや、僕はっ、そのっ………!」

 

 

 予想外の展開に、シャルロットは動揺を隠せない。しかし、少し恥ずかしがりながらも一夏の背中に乗っかった。

 当然、周囲からは羨望の眼差し。箒とセシリアは頑張ったのに、と恨み辛みに似た視線を。そんな中、やはりと言うべきか、次走者のラウラと簪は何かを思いついたのだろう。ニヤリとほくそ笑みを浮かべていた。

 

 

「Ahh、一応連絡しておくヨ。態と転ンだりしちゃNonネ」

 

「発覚したら後日、織斑先生のご指導が待ってるわよ〜」

 

 

 釘を刺すアナウンスに、2人の肩がびくりと揺れる。ちらり、と放送席に視線を向ければニヤニヤと、それでも目が笑っていない楯無たちと視線がかち合う。言うまでもなく、バレているのだ。

 結果として意気消沈した2人の順位は低く、第一種目は鈴組が一位となるのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「さて、次の種目は〜⁉︎」

 

「IS学園特別競技、球打ち落としだネ」

 

「打ち落とし?玉入れじゃなくて?」

 

「これは伝統ある我が校の競技よ。各チームは空から降ってくる球をISでしたすら撃墜!」

 

「なお、小さいほど得点が高いみたいだヨ」

 

 

 楯無とナナ、息のあった2人の説明にへー、と感心する一夏。肝心の競技については触れない。無茶苦茶だ、と騒いでももう遅いのだから。

 

 

「それじゃあフィールド中央に全自動標的投擲機、設置!」

 

 

 光の粒子が集まり、装置が構成されていく。体育祭であろうと最新技術を投入するあたり、さすがはIS学園としかいいようがない。

 そして何より圧巻なのは、装置を囲むように配置される専用機だろう。六機の専用機がこのように揃い踏みになる光景はまず他では見られず、会場は大盛り上がり。慣らし起動とばかりに、それぞれが軽く飛翔した。

 

 

「それでは、ISによる球打ち落とし、スタート!」

 

 

 開始と同時に装置から色とりどり大小様々なボールが吐き出される。わぁっと空に舞い上がったそれらを、最初に捕捉したのはシャルロットだった。

 

 

「レイン・オブ・サタディ!」

 

 

 シャルロットは早速両手にサブマシンガンを呼び出すと、二挺流で次々にターゲットを撃ち落としていく。スコアを表示するウインドウでは、まさに雨の様に得点が加算されていった。

 

 

「やるな。だが!」

 

 

 一定の距離を保ちつつ上方に向けて斉射するシャルロットの隣を、紅い影が飛翔した。

 

 

「はああああっ‼︎」

 

 

 紅椿の二刀、空裂と雨月を駆使して、標的を切り裂きながら旋回上昇を続ける箒。

 

 

「あら、箒さん。そのターゲットはわたくしがいただきましてよ?」

 

 

 ブルー・ティアーズのビットによるBTレーザーが負けじと球を打ち倒す。

 

 

「最高得点の黄金玉、落としますわ!」

 

 

 セシリアが高得点を狙うが、目標は真っ二つにされた。

 

 

「へへん!狙ってたのよ、これ!」

 

 

 鈴の双天牙月による一刀両断。さらにら下方に向けて衝撃砲を放つ。

 

 

「へへーんだ。一網打じーーーん⁉︎」

 

 

 衝撃砲のエネルギーが標的に命中する前に霧散する。よく見ると、そのターゲットもまた落下を止めていた。

 言うまでもなく、ラウラのISシュヴァルツェア・レーゲンの特殊武装AICによるものだ。慣性を停止させる結界は、ボールの落下さえ止めている。

 

 

「ふっ。もらった!」

 

 

 巨大な咆哮を上げて大口径レールガンが火を噴く。次の瞬間、AICによって静止させられていたボールは一直線に全て破壊された。

 その狙い澄ませた一撃は、一気にスコアを塗り替えていく。

 

 

「おおっと、これは勝負あったか〜⁉︎」

 

「流石は代表候補生だよネ。みんな、ISの扱いが上手いヨ」

 

「見てるだけで勉強になるって言うか………」

 

 

 感心するナナと一夏。それに触発されてかもっと良いところを見せてやろう、と意気込む一同の中、冷静な者もいた。

 

 

「マルチロックオン、完了………」

 

 

 吐き出され続ける標的に一斉にロックオンマーカーをつけて、ミサイルを全弾発射する簪。ポイントが塗り替わるのに時間は掛からなかった。

 

 

「更識簪、ポイントを稼ぎまくりです!これは私も姉として鼻が高いです。簪ちゃん、がんばれ!」

 

「いや、何普通に贔屓してるんですか!」

 

「いやー、ちょっとくらいいいかなって、あは」

 

「ナナ、止めてくれこの人」

 

「HAHAHA、それが無理な事はわかってるだロウ?」

 

 

 それもそうだ、と肩を落とす一夏。

 それから更に試合は白熱し、ポイントはほぼ全員が横並びになってきた頃、箒は1人考えていた。

 

 なんとか一発逆転をする方法を。ライバルを突き放して、一夏に自慢できるような画期的なアイディアを。そうして思いついたのは、射出装置の出口ギリギリに大出力エネルギーカノン、穿千を放つこと。

 

 我ながらいいアイディアだ、と自賛しつつ悟られないように周囲を確認。5人はそれぞれに獲物を取り合っていて、こちらに注意は向いていない。今が絶好のチャンスだ。

 

 着地をすると腰を落として、肩部ユニットを展開、エネルギーの充填を始める。その間、確信に満ちた笑みを浮かべる箒だったが、その間に状況はますますややこしくなっていた。

 

 

「いただきましたわ!」

 

 

 セシリアの狙撃を回避する鈴。

 

 

「ちょっと、危ないじゃない!」

 

 

 回避した先、鈴とシャルロットがぶつかる。

 

 

「うわわわっ⁉︎」

 

 

 姿勢を崩したシャルロットは、マガジンの弾をばら撒いてしまう。

 

 

「あっ………」

 

 

 弾丸が簪のミサイルを直撃し、爆風が巻き起こる。

 

 

「ぬっ⁉︎な、なんだ?」

 

 

 爆風に背中を押されたラウラは、はずみでリボルバーキャノンを発射する。他でもない、箒に向けて。

 

 

「な、なにっ⁉︎」

 

 

 直撃は免れたものの、おかげで穿千の射線がずれてしまった。そして、行き着く先はーーー

 

 

「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!その装置、高いのよ⁉︎」

 

「チッ‼︎」

 

 

 楯無の声と同時にナナがスヴェントヴィトを展開。穿千のエネルギーを横合いから殴りつけるようにして放たれた弾丸。それによって引き起こされた爆風に煽られ装置は転倒、紫電が走るとボールの射出が止まってしまった。

 

 

「Ahhh………out、カナ?」

 

「確認、確認急いで‼︎」

 

 

 しん、と静まり返る会場の空気。その中で整備科の幾人かが装置の安否を確認する音だけが響いていた。

 ごくり、と固唾が飲み込まれる中、どうやら修理可能のようで、掲げられた丸のマークに全員が安堵のため息を溢したのだった。

 

 

「箒組、危険行為につきマイナス200点」

 

 

 もちろん、お咎めなしとはいかず、放棄の悲鳴がこだました。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 その後も第三種目の軍事障害物走、第四種目の騎馬戦と続き、白熱した所で昼休憩へと。アナウンス終了後、机に頭を投げ打つ一夏。

 

 

「ようやくお昼か………」

 

「お疲れだネ、一夏。みんなとお昼、食べてきなヨ」

 

「おう、そうする………って、ナナと楯無さんはどうするんだ?」

 

「ナナくんがお弁当作って来てくれたのよ。だから、私たちは別で食べるわ」

 

「なら、一緒に食べようーーー」

 

 

 ぜ、と続けようとした言葉は、口に添えられたナナの人差し指に遮られる。薄く笑った顔からしぃっ、と息が吐かれると、その意図を理解した一夏。

 

 

「あ、あー………それじゃあ、みんなと食べてくる」

 

「yeah。relaxしてきナ」

 

 

 ひらひらと、手を振って別れを告げるとナナも漸くひと息。周囲に人がいるので他所行きの仮面は外せないが、それでもひと段落ついたと気持ちを緩める。

 

 

「ナナくんもお疲れ様」

 

「楯無も、ネ。ここまで準備するの、大変だったロウ?」

 

「このくらい何ともないわ。それより、私たちもお昼にしましょ」

 

 

 とっておきの場所があるのよ、と楯無に案内されたのは校舎裏。建物が影になっている影響でグラウンドよりも幾分か涼しく、非常用の階段に腰掛けて人目につかない様に対策を。

 

 

「ここなら多少はリラックスできるでしょ?」

 

「みたいだネ………ハァ」

 

 

 周囲に人がいないことを確認すると、仮面さえ脱ぎ捨てて脱力を。本当にお疲れ様、と楯無がその頭を撫でて労う。

 

 

「それじゃあ、ナナくんお手製のお弁当をいただきましょうか」

 

「………あンま期待すンじゃねェぞ」

 

 

 ナナにしては珍しく弱気な発言。何せ一夏を初めとした料理上手が周囲にたくさんいるのだ。中でも師事を受けている虚には遠く及ばない、と自覚しているが故に楯無に差し出すのは少し億劫。

 

 けれど、少し強引にナナの用意した重箱を強奪すると、手際よく蓋を開けた。

 1段目には唐揚げを初めとしたおかず類。2段目にはおにぎりが入っている。彩り豊かなそれに、楯無はご満悦。自身のために作ってくれた、それだけでプライスレスだ。

 

 

「卵焼きも上手になったじゃない。えらいえらい」

 

「ン………まぁ、な」

 

 

 早速とばかりに紙皿と割り箸を手に、お弁当を頂く。

 最初は失敗していた卵焼きも綺麗に巻かれており、出汁も効いている。楯無の好みの味付けだ。それだけでナナがどれだけ努力してきたのが伺える。

 

 唐揚げの味付けもよく出来ており、冷めていても美味しいと感じられるように工夫を。他にもアスパラベーコンやきんぴらごぼう、煮物やミニトマト。そのどれもがナナの努力の結晶。

 美味しい美味しい、と舌鼓を打つ楯無を横目に、ナナはほっとひと息。口にあった様で何よりである。

 

 

「あンま詰めすぎて喉詰まらせるなよ。ほら、お茶」

 

「ありがと」

 

 

 水筒で渡されたお茶を飲んで一呼吸。ああ、幸せだ、と楯無は感慨に浸る。

 更識の名を背負うと決めた時から、ただの学生としての生活は出来ないと思っていた。しかし、今はどうだ。普通の学生のように体育祭を楽しんで、彼氏の作ったお弁当を食べてゆっくりとできる。去年までは考えたことも無い、幸福なひと時だ。

 

 

「ふぅ………ありがとう、ナナくん」

 

「別に、弁当くらいなンともねェよ」

 

「それもだけど、そうじゃないわ」

 

 

 だったら何だ?と隣に座る楯無へと視線を向ける。いつもと違うブルマ姿に、少し恥じらいを覚えるが、それ以上にこちらを見つめる楯無が可愛くて、ドキリと心臓が跳ねた。

 

 

「私の彼氏になってくれて、ありがとう」

 

 

 ふわり、とそよ風に舞う髪と、見惚れてしまう程の美しい笑顔。まるで時が止まったかの様に、世界から聞こえる音が遠くなる。無意識のうちに距離を詰めたナナがそっと顔を近づける。それに応えるように楯無も目を閉じた。

 

 2人の顔がどんどん近づき、あとほんの少し、数センチにも満たない距離にまで近づいた刹那であった。ナナの携帯端末が鳴り出したのは。

 一気に現実に引き戻された2人は急いで顔を背けると、互いに赤い顔を隠す。

 

 気を紛らわすように未だになり続ける端末を確認すれば、相手は箒のようだ。

 

 

「H、Hi、箒。 What's the matter?(どうかしたのかな)

 

『ああ、少し聞きたいことがあったのだが………大丈夫か?』

 

「y、yeah!No problem(問題ない)No worries(問題ないよ)I'm full of pep(絶好調さ)!」

 

『そ、そうか………実はかき氷機を借りたいのだが』

 

「What?何かあったノ?」

 

『あー………実は、一夏と昼食を取っていたんだがな………』

 

 

 箒の説明によると、流石にみんなで一緒に、となるとゆっくりと休めないと判断され、各自持ち時間10分として順繰り一夏が回っていくことになったらしい。最初は鈴、次にセシリアと続いて今は箒の番。

 さっそく腕によりをかけた弁当を、と意気込んだのはいいものも、なぜか一夏はかなり汗をかいており、呂律が回っていなかったと。話を聞けば前のセシリアの料理のせいだとか。

 

 ナナの指摘もあり、無難なサンドイッチに変えた筈の昼食。けれど、セシリアは諦めていなかったのだろう。ナナ達の目を盗んでサンドイッチに忍ばせたのはブート・ジョロキアエキス。それも濃度を高めた特製のものをだ。

 

 思わず天を仰いだナナ。心の中で一夏に謝罪する。監督せずに申し訳ない、と。

 

 そんな事もあり、少しでも辛さを癒すべくかき氷でもと思いついたらしい。

 

 

『それで、どうだろうか?』

 

「ソーユー事ならOKネ。調理室にあるヨ」

 

『すまない、助かった』

 

 

 それだけ言って切られた通話。その端末を眺めながら、ナナはため息を溢す。セシリアの料理の件もそうだが、何よりタイミングが悪い。せめてあと数秒遅ければ、と胸の内で愚痴を吐く。

 

 時間を見れば、昼休憩終了まで残り10分。午後の競技の準備もあるため、一夏を除いた裏方要員は休憩時間が短いのである。移動も考えると、そろそろ腰を上げねばならないだろう。

 仕方がない、と嘆息し、端末をポケットにしまう最中であった。

 

 

「ねぇ、ナナくん」

 

「なンだ?ーーー」

 

 

 せっかくのチャンスを潰され、少し苛立ち混じりに返事をしながら楯無の方へと顔を向けた瞬間、その唇に柔らかな感触が。不意を突かれたこと、そして何よりその感触に驚いてナナの呼吸が止まる。

 僅か数秒の出来事であるが、体感としてはそれよりも尚長い。惚けたままのナナに、してやったりとばかりに楯無は笑みを浮かべるとそそくさと階段を降り始めた。

 

 

「お昼ご飯、美味しかったわよ。ありがとう」

 

 

 そう言い残して去る楯無に「お、おう………」と間の抜けた言葉しか返せない。だが、それは楯無にも言えた事で、用意したセリフしか言えず、もしナナが言葉を投げかけてもまともな返事は貰えなかっただろう。

 

 真っ赤になった顔を見られないように、ナナは天を仰ぎ、楯無は下を向いて考えることは互いにひとつ。この後顔を合わせるのがとても恥ずかしい、である。

 

 結局のところ、弁当の片付けと惚けた思考も正常に戻すため、ナナは盛大に遅刻を。そして、ひと足先にテントに戻った楯無は真っ赤になった顔を見られ、薫子から特にいじられるのであった。 

 

 





セシリア(の手料理)には勝てなかったよ………
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