IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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33話

 

 

「さ〜て、午後の部最初の競技はコスプレ生着替え走だあ‼︎」

 

「なんですか、それ。って、あれ?ナナは?」

 

 

 昼食も終わり、競技は午後の部へ。放送席に座る楯無と一夏だが、そこにナナの姿はない。見回してもその影も見えず、どうかしたのかと疑問を覚える一夏を、まぁまぁと楯無が宥めた。

 

 

「後で会えるわよ。さて、この競技は今回が初!ってことで、デモンストレーションが用意されてるわ!それじゃあカモン!」

 

 

 その言葉を合図に、競技用レーンにスモークが焚かれる。人一人隠せる充分な量のスモークが晴れると、そこにいたのはナナ。その目はどこか虚で、現実逃避するように空を見上げていた。

 

 

「いや、何でナナが⁉︎」

 

「なんでって、ナナくんの出場を望む声が多かったからだけど?」

 

「………本音は?」

 

「私がナナくんのコスプレを見たいから‼︎」

 

 

 恥じらう事もなく断言する楯無に、頭が痛いとばかりに一夏が机に突っ伏す。裏方からは要望が届いたお陰だろう、黄色い歓声が聞こえる。

 

 

「大丈夫よ。ナナくんも喜んで受け入れてくれたから」

 

「今までにないくらい目が死んでますよ?」

 

 

 実際、その相談を持ちかけられた時はナナは当然拒否を示した。けれど楯無の口八丁に乗せられ、気がつけばその流れに乗る羽目となったのだ。それならば、と周りの裏方もおこぼれに預かろうと様々な衣装が用意され、ナナの進むレーンに置かれたボックスと番号の振られた更衣室。余りにも迅速なその動きに、早々にナナは心を殺した。

 

 

「ルールを説明するわ。本来なら2人1組で行うこの競技、目の前のボックスから番号の割り振られたボールを取ってもらうわ。ほら、ナナくん、スタートスタート!」

 

「すまん、ナナ。無力な俺を許してくれ」

 

「…………No problemヨ」

 

 

 絞り出した、哀愁に満ちた一言を溢してナナは言われた通り進む。そうしてボックスの前に立つと固唾を呑んだ。用意された衣装の中には正気を疑うレベルのものがあったのだ。それだけは絶対に引きたくない、と今だけは神に祈りを捧げボールを引き抜く。描かれた番号は3番だ。

 

 

「そしたら対応された更衣室に向かってね。一応肩から下はカーテンで隠されてるけど、下からライトアップされてボディラインははっきり見えるわよ」

 

 

 大人しく3番の更衣室に向かうナナだが、身長が高いせいだろう。用意されたカーテンは胸の高さにまでしか届いていない。

 

 本当にやるのか、と最後の確認と慈悲を求めた視線は、楯無の笑顔によって返される。更に心を殺すと、仕方なしと覚悟を決めて上着を脱いだ。

 途端に上がる黄色い歓声。想像よりも引き締まった身体に視線とカメラが集中した。

 

 

「いいわよ、ナナくん!もっと色気を出していきましょ‼︎」

 

「いや、何を求めてるんですか………」

 

 

 これには楯無も大興奮。普段シャワー終わりを見ているが、やはりシュチュエーションと言うのは大事なのだろう。そんな事、今のナナには知ったことではないのだが。

 諦めと無我の境地へと至ったナナは、羞恥に苛まれることなく用意された衣装を着用。いつかの学園祭に来た燕尾服に似た、ハイ・コージ型のブライダルスーツだ。

 生地からインナーまで黒地のスーツだが、ネクタイと衿型が臙脂色。胸元の白い薔薇が際立っており、思わず全員が言葉を無くした。何せ似合い過ぎている。似合い過ぎて言葉も出ないのだ。愁いに満ちた表情さえ、今はただ美を引き立てる材料。

 

 最早無言でシャッターを切る薫子に、後で写真を貰おうと決めた楯無。こほん、と一息入れて皆の意識を呼び戻すと説明を続けた。

 

 

「さ、さて、衣装に着替えたらまずは第一関門の跳び箱!今回はナナくん用に10段用意したけど………」

 

「難なく飛びましたね………」

 

 

 このデモンストレーションを早く終わらせたいのだろう。楯無の説明と同時に跳び箱を飛ぶナナ。動きに制限のかかるスーツであるが、そんなもの感じさせない軽やかなジャンプ。ほぅ、と感嘆のため息が周囲から溢れた。

 

 

「え、えーと、次は平均台なんだけど………」

 

「2、3歩で終わりましたね………」

 

 

 続く平均台は飛び跳ねるようにして終わらせてしまう。バランスを取るために両手を広げずともその体幹が揺らぐことなく、向こう岸へと渡ったナナは次の飴玉探しもクリア。そして最後の麻袋徒競走も終えるとゴールテープを切った。

 

 デモンストレーションはこれで終わりだ、とばかりに放送席へと戻ると両手で顔を覆い、動かなくなる。限界が来たのだろう、とその肩をそっと一夏は優しく叩いた。

 

 

「ナナ、お前はよくやったよ………」

 

「thank you、一夏………」

 

「こ、こほん。まぁ、こんな感じでやってもらうわ!」

 

 

 意気揚々と、そう高らかに告げる楯無だが出場者たちは皆首を横に張るばかり。確かに、この後となると否が応でもナナと比べられる。コスプレの羞恥も相まって足が竦むのも仕方がない。

 

 しかし、ここで中止となるとナナの努力が報われないのは明らか。致し方なし、と苦虫を噛み潰した楯無は苦渋の決断を下す。

 

 

「うぅ………では、この競技では一位のチームに500点あげます!」

 

 

 今までの得点を無視する大量点。今までの競技は何だったのだ、と思うところはあるが、それは封殺。今は何より、大運動会の続行である。

 それが功を奏したのだろう、代表者全員が参加を決意。まぁ、結果として語ってしまえば、この得点は誰の手にも渡らないのであるが。

 

 それぞれ着替えを手伝うパートナーを選び、そして抽選。箒はチャイナ服、セシリアは巫女服、鈴はドレス、シャルロットは軍服、簪はネコこ着ぐるみパジャマに当たった。その中でも特に災難だったのはラウラだろう。何せ引き当てたのは姫騎士衣装。謂わゆるコスプレであり、言って仕舞えばビキニアーマー。

 

 羞恥心が天元突破したのだろう。まさかのISを繰り出して競技を乗り切ろうとしたラウラを教員の真耶が鎮圧。その騒動に巻き込まれて競技は中断。

 自身は何のために、とナナは天を仰ぎ、一夏と楯無はかける言葉が見つからず、ただただ哀愁漂うナナに同情の視線を送るしかないのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「空が近い………」

 

 

 ある種の慣れなのか、騒ぎ立てる事なく目の前の現状を一夏は確認する。場所は上空。ISによるものではなく両手を背後で拘束され、自身に括り付けられているのは大量の風船。頬どころか全身に当たる風は心地よいを通り越して、少し肌寒い。おかしい、なぜこうなったのだ、と一夏は過去を振り返る。

 

 ついさっきまで競技に使った道具の片付けとナナのフォローを行なっていたはずだ。そうして、ああ、そうだ、と思い出す。確か楯無から差し入れのパンを食べたのだ。その後の記憶が一切ない事を鑑みれば、自ずと答えは出てくる。

 

 

「楯無さん‼︎」

 

『はいはーい。どうかしら、一夏くん。地上50メートルからの景色は?』

 

 

 悪びれる様子もなく、ISの開放回線から聞こえてくる楯無の声。色々言いたいことはあるが、特に知りたいことはただ一つ。

 

 

「何ですかコレは⁉︎」

 

『え、バルーンファイト』

 

「なんでそんな事聞くの?みたいな顔しないでくださいよ!しかもファイトって何ですか、何が戦うんですか⁉︎誰と戦うんですか⁉︎」

 

 

 ここまで来たら突然の上空への恐怖心など何のその。疑問と困惑と怒りが無い混ぜになってそれどころではない。

 

 

「と言うよりナナは⁉︎ストッパー役がよく通しましたね⁉︎」

 

『sorry、一夏………』

 

 

 回線から聞こえて来たナナの声。そちらに目を向ければ楯無とは違い、その表情は後悔に彩られている。

 

 

「ナナ‼︎お前なら………お前なら止めてくれると思ってたのに………‼︎」

 

『オレも知らなかったヨ、この競技。デモ、君の安全は守るヨ』

 

 

 何せ本来であればトーナメント式の綱引きだったはず。しかし、真の種目は隠されていたのだ。メインの一夏はパンに仕込んだ薬で眠らせ、傷心中のナナはそれに気が付かない。あまりにも計画された動きであり、ナナが気づいた時には既に競技開始数秒前。そこから止める手段は持ち合わせていなかった。

 

 

『えー、それでは説明します。この最終競技では、一夏くんの風船を割りながら、最後にキャッチして地上に降ろした人が勝ちです。得点はなんと1億点‼︎』

 

『今までの競技、何だったンだろうネ。ちなみに、一定高度まで下がったら、オレがキャッチするヨ』

 

 

 その言葉通り、一夏が下に視線をやれば地上に黒い点がひとつ。ISを展開したナナだ。万が一に備えて待機していた事に、ほっと安堵の息を溢す。けれど、すぐに先ほどの競技の説明を思い返して顔を青くした。

 

 

「あ、あのー………風船を割るのってもしかして………」

 

「愚問だな、一夏!」

 

 

 すらりと2本の刀を抜いて、箒がIS紅椿を上昇させる。

 

 

「わたくしたち以外、他にいるとでも?」

 

 

 スナイパーライフルを構えるのは、セシリアとISブルー・ティアーズだ。

 

 

「これで決着つけてやるわよ!」

 

 

 青龍刀を振り回して、鈴がIS甲龍を戦闘モードに移行する。

 

 

「一夏、フランスの女の子は時に強引なんだよ?」

 

 

 ショットガンをポンプアクションさせて、シャルロットがISラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの装備を展開。

 

 

「今度こそ…………私がいただく!」

 

 

 先ほど摩耶に吹き飛ばされた大口径リボルバーキャノンを交換して、ラウラがISシュヴァルツェア・レーゲンを身に纏う。

 

 

「私………負けない」

 

 

 全ミサイル。即時発射待機の状態にセットして、簪がIS打鉄弐式で空に舞う。

 

 合計6機のISが一夏を取り囲むようにホバリングしており、その光景は忘れていた恐怖を思い出させた。

 

 

「びゃ、白式‼︎」

 

 

 慌てて自らのISを展開しようとするが、白式は一夏の声に応えない。戸惑う一夏に楯無がいい笑顔で答えてくれた。

 

 

『あ、白式は今、半強制スリープモードにいれておいたから』

 

『ホントにゴメンヨ、一夏………』

 

「悪魔がいる………」

 

「それじゃあ〜〜〜開始ッ‼︎」

 

 

 あとナナ、お前は悪く無いと付け加えるよりも早く、宣言される競技のスタート。同時にシャルロットの放つショットガンが一気に一夏の風船を割る。

 当然、風船の数が減れば一夏は下へ。その身体は地表へと近づく。

 

 

「し、死ぬ!死んでしまう!」

 

『そうなる前に、catchするヨ…………maybe』

 

「そこは断言してくれ‼︎うおっ!」

 

「チェストォォォォォォッ‼︎」

 

 

 一夏の頭の上、そのギリギリを二振りの刃が通過する。同時に大量の風船が割られ、落下速度は更に加速。

 

 

「見たか、一夏!」

 

 

 だと言うのに、何とも清々しい笑顔の箒である。

 

 

「どきなさいよ、箒!衝撃砲、いっけえええええっ‼︎」

 

 

 言葉と同時に3度の衝撃音。見事風船群を貫いたそれは、ものの見事に一夏を絶望の淵に突き落とす。脳裏に掠める濃厚な死の気配。パニックになりそうな一夏を、そっと支えたのは他でも無い簪だった。

 

 

「大丈夫、あなたは死なないわ」

 

 

 にこり、と背後から抱きしめた簪が微笑む。つられて一夏も微笑んだ。

 

 

『さぁ、白熱のバルーンファイト‼︎このまま簪ちゃんの勝利となるかぁ‼︎⁉︎頑張れ、簪ちゃん‼︎』

 

『贔屓は程々にネ。時々、一夏は嫌われてるのかと疑うヨ』

 

 

 それは一夏も常々思っている事である。心に余裕ができたおかげか、実況と解説の声を耳が拾うようになり、心の中で頷く一夏。

 

 

「私の嫁を離せぇぇぇ‼︎」

 

「当たら、ない………」

 

「えっ」

 

 

 両腕にプラズマ手刀を展開したラウラが突っ込むが、それを躱す簪。けれど、その腕に抱えていた一夏は放り投げてしまった。

 

 

「うおおおおっ⁉︎」

 

 

 放り投げられた衝撃で、ぶちぶちと風船がちぎれて行く。ますます近くなる地表。死を覚悟する一夏を受け止めたのは、鮮やかなオレンジの翼を持つシャルロットだった。

 

 

「一夏、僕が守ってあげる」

 

 

 暖かな笑みにホッと安堵を溢す一夏だが、死に近づいたせいなのだろう。鋭敏になった触覚はまた別の問題を拾ってしまった。

 

 

「あ、あのー、シャルロットさん?そのええと………」

 

「ん?なあに、一夏」

 

「えーと、ですね。その、体が密着して、その………」

 

 

 一夏の顔がシャルロットの顔も間近にある。しかも、体は柔らかな膨らみに当たっていて、にっちもさっちもいかない状況だった。

 

 

「い、一夏、近いよ………」

 

「す、すまん」

 

 

 見つめ合う2人。交差する視線。離れる身体。

 

 

「「あっ」」

 

 

 何とも間の抜けた話ではあるが、後悔したところで時は戻らない。再び落下する一夏を、今度は蒼穹の閃きが受け止めた。

 

 

「わたくしは離しませんわよ、一夏さん♪」

 

「せ、セシリアか。助かった………」

 

 

 誇らしげに一夏の体を全身で受け止めたセシリアは、すぐさま向かってくる他のISに反応。青の翼、ビットが四基素早く放たれる。

 研鑽を忘れない彼女の腕前は入学当初よりもずっと上がっており、偏向射撃は勿論、今ではもうビットを操るのに制止することもない。

 

 

「このまま降りますわよ、一夏さん。準備はよろしくて?」

 

「お、おう」

 

 

 セシリアの体から香る甘い匂い。思春期真っ盛りの男子高校生には些か刺激の強いそれに、一夏の鼓動は速くなる。耳元で叫ぶように高鳴る心音、羞恥と興奮から赤くなる顔。

 くらくらと色香に惑う一夏。あまりに慣れていない感情は余計に混乱を呼び、回らない頭が必死に解決策を模索する。

 

 

「すまんっ、セシリア!」

 

「い、一夏さん⁉︎」

 

 

 結果として導き出されたのは逃走。未知の感情に耐えきれなかったとも言う。けれど、何も考えなしでの逃走ではない。ちゃんと確認していたのだ、彼の存在を。頼りにしている、友人の姿を。

 

 

「ナナァッ‼︎」

 

「All right」

 

 

 一瞬の浮遊感のあと、襲い来る軽い衝撃。地表から5メートルを切った所で、まるで曲芸でもするかのようにナナが一夏を抱えて回転すると、そのまま地面へと着地。回転により流された運動エネルギーが僅かに一夏を襲うが、程度は軽い。

 

 キャッチしてくれると信用していたが、それでもやはり恐怖はあったのだろう。ナナの腕の中で荒くなった呼吸を整える。

 

 

「はぁ、はぁ………た、助かった………」

 

「ハァ………無事で何より、ダヨ」

 

 

 なぜあそこで逃げ出したのだ、と言いたい所であるが、それも致し方なし。それこそ、色香に惑わされる経験はこの数ヶ月で爆発的に増えた。一夏の気持ちは痛いほどナナにはわかる。それも、恋を恋として認識しだした時期ならば尚更。

 

 まぁ、否が応でも慣れるしかないのだ。先駆者として言えることはそれだけである。

 

 

「はーい。それではこの種目はナナ・オーウェンくんの勝ちということで〜」

 

「ちょ、山田先生⁉︎」

 

 

 いつの間にいたのやら、実況席の真耶がにこりと微笑みながらそう宣言した。慌てて楯無が止めようとするが、時既に遅し。ごく一部から聞こえた勝鬨の声は全体へと広がり、最終的には歓声となってしまう。

 

 

「ルールはルールですし」

 

「いや、ナナくんは参加者じゃ………え、えー………」

 

「それに、オーウェンくんがキャッチしたらノーゲーム、なんて話もないですからね」

 

 

 

 確かにその辺りは説明していなかったが、まさかそれを逆手に取られるとは思わなかった。何せ、名目上とは言え監視としての同室なのだ。教師側の一存で辞めていいわけではない。

 けれど、それを声を大にして言えるわけなく、そしてこの歓声を止める術をさすがの楯無も持ち合わせておらず。どうしたものか、と頭を抱えるしかなかった。

 

 

「そんな馬鹿な話があるか!」

 

「そうよそうよ!」

 

「許せませんわ!ええ、許せませんとも!」

 

「山田先生、ひどいですよ!」

 

「ええい、一夏は私といればよいのだ!」

 

「ナナ………卑怯」

 

 

 折角のチャンスを不意にされて黙っていられるわけもなく、地上に降りて猛抗議する一同。しかし、待ち受けていたのは千冬の出席簿アタックだ。

 

 

「駄々を捏ねるな。これにて大運動会は終了!各員、片付けにかかれ!」

 

「そんなぁ………」

 

 

 へなへなと崩れ落ちる専用機持ち一同。同じくナナも心労が溜まったのだろう、膝から崩れ落ちた。

 

 

「うおっ⁉︎だ、大丈夫か………?」

 

「No problem………って言いたいけどネ」

 

 

 絶対に事後処理が面倒だ、と襲い来る仕事と専用機持ち達からの苦言の未来を思い浮かべて、ナナは静かに心の中で泣くのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 その日の夜、ナナと楯無の部屋にて。

 体育祭の後始末もひと段落。残るは課題の処理のみである。それが1番厄介で、できれば無かった事にしたいのだがそうはいかない。重々しい表情で膝を向け合う2人は、揃ってため息を溢す。

 

 

「………どうする?」

 

「どうしましょう………」

 

 

 課題と言うのは勿論、体育祭優勝の件。

 一夏の安全のためとはいえ、ナナがそれを受け止めてしまったのが運の尽き。せめてナナがキャッチすればノーゲーム、と付け加えれば良かったが後の祭り。忙しくてそこまで気が回らなかったのだ。

 

 順当にいけばナナと一夏は同室。そしてクラスも2人を残して他の専用機持ちは他クラスへと移動。これがちゃんとした勝負の結果ならば、皆も納得しただろう。しかし、今回は鳶に油揚げを掻っ攫われたようなもの。暴動が起こることは目に見えている。

 

 今は代案を考えると言って時間を稼いでいるが、それも時間の問題。振替休日である明日を過ぎてしまったらアウトなのだ。

 

 

「………今回はイレギュラーってことで、優勝特典なしってのはどうだ?」

 

「ダメね。吐いた唾は飲み込めないし、信用に関わるもの」

 

 

 2人が必死になるのは暴動が怖いというのもあるが、何よりも部屋移動の件だ。形骸化しているが、ナナの監視のための同室。死刑囚であるナナをそう易々と野放しにすることはできない、と言うのは建前。本音は折角2人きりになれる空間を手放したくないのだ。その思いはナナと楯無、どちらにも共通しており、だからこそ真剣に悩んでいる現状である。

 

 

「………いっそ、もう一回大運動会する?」

 

「出しても通らねェだろうな」

 

 

 そうよねぇ、と楯無が脱力して机に伏す。同じくナナもいい案が出ずに天を仰ぐ。いっそ事情を説明して部屋の移動を無しに、と考えがよぎるがすぐさま棄却。それができれば苦労しない。

 

 はぁ、と2人してため息を溢す中、ふと部屋の扉が叩かれる。ちらり、と楯無に目配せして首を横に振られた。ならば抗議しにきた箒たちだろうか?そんな予想を立てながらナナは立ち上がると扉を開く。

 

 

「おっ、よかった。まだ起きてた」

 

「Oh、一夏。 What's up?(どうしたの)

 

 

 扉の外にいたのは一夏。周りに専用機持ちの姿は見えず、どうやら1人の様だ。

 

 

「いや、明日休みだろ?今日の慰労会、ってわけじゃないけど、どっか出かけようぜ」

 

 

 助けてもらったお礼もしたいしさ、と付け加える一夏。誘われる事自体、ナナとしては嬉しい事だ。しかし、今はとにかく目の前の問題を片付けなければ進めない。

 

 申し訳ないが断ろうとしたその矢先、ナナの背後から楯無が顔を出す。抱きつく様にして肩から顔を出すものだから、一瞬ナナの言葉が詰まる。驚きと同時に、背中に当たる柔い感触。何度やられても慣れないそれに、思わず言葉を失ってしまったのだ。

 

 

「あら、いいじゃない。私もご一緒していいかしら?」

 

「それはもちろん」

 

「お、おい、楯無………」

 

「このまま考えても仕方がないでしょ?気分転換よ、気分転換」

 

 

 肩越しに小声でそう言われ、ナナも確かにと考える。明日一日中部屋に閉じこもって考え込もうが、迷走するだけだ。気分転換に外に出歩くのも悪くはない。

 もっとも、耳に当たる楯無の吐息と声に誘惑され、正常な判断ができてるとは言い難いのだが。

 

 

「よし、それじゃあ明日、9時に駅集合な」

 

「ええ、楽しみにしてるわ♪」

 

 

 ひらひらと手を振って一夏を見送ると、ナナは嘆息を。横目でちらりと楯無を覗けば、明日は何を着て行こうかと浮かれた様子。これは自身にも影響が及ぶな、と諦めるように天を仰ぐのであった。

 

 

 





気づけばかなり時間が経ってた…………
その癖いつもより短め………
お待ちいただいていた方々、申し訳ありません
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