IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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36話

 

 

「だーかーらー、言ってんだろ?あたしは空母からの連絡が途絶えたからつって、その確認に来ただけだっての」

 

「それをはいそうですか、で信じる間抜けに見えるか?亡国機業が中枢に食い込んでるとも言い切れねェ」

 

「んなもん、あたしだって知るか!少なくともあたしとナターシャ*1はシロだっての‼︎いい加減理解しろや、このスカタン‼︎」

 

「口が悪ィな、Mother facker。敬いの心はママの胎の中か?」

 

「上等‼︎さっきの決着、ここでつけてやらぁ‼︎」

 

 

 騒々しい声に叩き起こされて、楯無は目を覚ます。気がつけば楯無は、臨海公園のベンチで簪に膝枕をされていた。

 

 

「簪ちゃん………」

 

「あ、お姉ちゃん!気がついた?」

 

「えぇ………」

 

 

 視界いっぱいに安堵する簪をおさめると、ちらりと視線を横に。そこではナナとイーリスが額を合わせて取っ組み合いの喧嘩をしていた。と言っても、2人とも疲労があるのだろう。殴ったり蹴ったりはなく、子供の喧嘩の延長線のようなもの。

 

 彼女として少しのジェラシーを覚えつつも、持ち前の精神力でそれを封殺。元気なものだ、と嘆息して楯無は身体を起こす。

 

 

「あ、まだ、寝てなくちゃ………」

 

「大丈夫よ、このくらい」

 

 

 妹の膝枕は少し名残惜しいが、その機会はまた今度。立ち上がった楯無に反応したナナは先程までガルガルと唸りあっていた事が嘘のように意識を切り替える。

 取っ組み合っていた両手を解けば、支えを失ったイーリスが転ぶ。そしてそんなものは眼中にないと、ナナは楯無に駆け寄った。

 

 

「………大丈夫か?」

 

「ええ、お陰様で。ナナくんも無事みたいね」

 

 

 無茶をさせた事に負い目があるのだろう。しゅん、と意気消沈するように肩を落とすナナ。その下がった頭に軽くチョップを入れて、楯無は笑う。

 

 

「そんな顔しないの。最初に言ったでしょ?有事の際は私を見捨てる事って。こうして生きてるし、大きな怪我もなし。大金星よ」

 

 

 そうは言われても、やはり後悔はあるのだろう。言葉なくともしゅんとしたその態度が言いたいことを全て物語る。仕方がない、と楯無は苦笑い。これを見て、裏社会に通じる人間だとは誰も思わないだろう。

 

 現に簪も、いつもは猫を被っていると解釈したのか、深く突っ込んでくる様子はない。

 

 

「うーん………それじゃあ、お詫びにエスコートしてくれる?お腹が空いたわ」

 

「………あぁ、わかった」

 

 

 それで贖罪になるとは思っていないが、彼女がせっかく提示してくれた妥協案。乗らない選択肢はナナにはなかった。

 

 

「なぁ、あいつらいつもあんな感じか?」

 

「うん………場所、選ばないから………」

 

「お前も苦労してんなぁ」

 

「そこ、うるさいわよ〜」

 

 

 ぶつけた鼻面をさすりながら、思うところがあるのだろう。イーリスと簪はいつの間にか仲良くなっていた。真実であるが、正論とは時に人を傷つけるもの。遠回しに場所は選べ、と言われたが聞こえないふり。

 

 

「それじゃあ、私たちはデートの続きをして帰るから。イーリス、貴女は真っ直ぐ母国に帰ること」

 

「………はぁ、どうせ拒否権はねェんだろ?」

 

「ご名答♪」

 

 

 と言うより、現在のイーリスは完全なる不法入国者。そこを突かれてはいくら代表操縦者であろうと痛い。

 秘匿空母への潜入の件でやり返してやろう、とも考えるがどうせ無駄だろうとすぐに諦めを。それに、秘匿空母ひとつが亡国機業の手によって沈められた今、内輪揉めしてる場合ではないのだから。

 

 

「それじゃあな。ナナ・オーウェン、決着はそのうちつけるからな」

 

「私も………先に、帰るね。あまり遅いと………織斑先生に怒られる、から」

 

 

 イーリスは捨て台詞を吐いてISを展開。そのまま海の向こうへと飛翔した。続くように簪も、同席するつもりはないのだろう。ひらひら、と手を振って帰路へと着く。

 

 それを見送った2人は踵を返して逆方向、目指す先は街である。

 

 

「さぁて、ナナくんはどこに案内してくれるのかしら」

 

「あンましハードル上げンなよ………」

 

 

 正直、ナナにとって食事とはエネルギー補給としか認識していない。美味いも不味いもないし、口に入れられる物は大抵食べなければ生きていけない環境だったのだ。

 

 それが変わったのはここ数ヶ月。楯無や一夏と初めとした面々と関わり出してからだ。そうして生まれ変わった舌に、日本の食事はある意味で最悪。どれもこれもが美味しく、自信を持ってこれだと言えるものがない。

 

 時間的にレストランなどは既に終了。流石にコンビニの弁当ではダメだろう、と考え直近での食事を思い出す。そうしてふと、ひとつの店を思い出した。

 ここから程近く、尚且つ衝撃を受けた食事。あの感動を楯無と分かち合いたいと思い、そこを目的地とする。

 

 そうして連れて行った先は、電車の高架下のラーメン屋台。この時間ならバー、もしくは少し大人な店かと期待していただけあって、呆気に取られる楯無。

 

 

「ここ?」

 

「Ahhhh………まぁ、そうだ」

 

 

 まぁ、冷静に考えればこんな色気もない場所、とてもじゃないが喜ばないだろう。疲労があるからと言えど、あまりにも考えが安易すぎる。やはり場所を変えるか、と考えたところで楯無の笑い声。次いで背中をバシバシと叩かれた。

 

 

「あはははっ!私をラーメン屋台に誘ったの、ナナくんが初めてよ」

 

「そりゃ………光栄なことで?」

 

「褒めてるわよ、ちゃんと」

 

 

 皮肉かと悩むナナに弁明しながらも、楯無の笑いは止まらない。だってそうだろう。あのナナが、元殺し屋のナナが、いつの間にかこんなにも日常に染まっているのだから。

 

 雰囲気も色気もない、言ってしまえば寂れた店。はっきり言って、カップルのディナーには向いていないだろう。それでも予想外の成長が嬉しくて、楯無は笑う。

 

 あまりにも笑うものだからナナとしても不服だ。その内心を表すように表情を歪めれば、楯無も少し笑いを抑える。

 

 

「そ、それで……ふふっ!この場所は、ど、どうやって知ったのかしら?」

 

「笑いながら言うなよ………はぁ、別に、一夏に教えてもらったンだよ。そンで、美味かったから案内した、それだけだ。別の場所にするか?」

 

「いいえ。ここにしましょう」

 

 

 にこにこと、調子のいい楯無に促され2人は暖簾をくぐる。その先にいた無精髭が似合うナイスミドルが「おっ」と声を上げた。久方ぶりの来客に、慌てて新聞を放り捨てる。

 

 

「なんだ、ナナの(ぼん)じゃねえか」

 

「ご挨拶だネ、無頼(ぶらい)

 

 

 団体客を予想していたのか、はぁっとため息を吐かれる。どうやら一度二度の来店ではないらしく、ナナとは見知った間柄のようだ。

 

 

「おらァよう、団体客とばかり………ん?なんでぇ、坊。そっちのは彼女さんか?」

 

「Yeah。自慢の、ネ」

 

「おおゥ、そうかいそうかい!寂れたトコだが、座って座って」

 

 

 そう言われて、楯無は戸惑う。目の前にある木の屋台ベンチの座り方がわからないのだ。

 

 

「これ、またぐの?」

 

「Non、反対側から回り込むンだヨ。そう、そンな感じサ」

 

「いやァ、しっかし、坊に彼女たァなぁ………一の字はどうだ?」

 

「相変わらず、いつも通りサ」

 

「カァーッ‼︎あの朴念仁、まァだ独り身かい。(ちぃ)の姉御の弟離れはいつになることやら」

 

「HAHAHA、弟離れが出来ても、無頼はNo chanceだヨ」

 

「うるせェい‼︎ラーメン2人前だァな?」

 

「Yeah。頼んだヨ」

 

 

 言葉を交わしながら注文を済ませると、ナナは棚に置いてあるコップを取って、楯無の前に置く。

 

 

「これは?」

 

「Waterネ。self serviceだヨ」

 

 

 まさかの人生初のセルフサービスシステム。ここまで来ると逆に面白い。まるで遊園地を楽しむ子供のように、楯無はわくわくしていた。

 

 

「私に黙って来てたなんて、ナナくんったら酷いわねぇ」

 

「Sorry。一夏に口止めされてたよ」

 

「あら、そうなの?」

 

「Yeah、男友達にしか教えてないらしいヨ」

 

「それじゃあ、私は初めての女ってことね」

 

「Ahhh………」

 

「ハハッ!ナナの坊も、彼女にャア頭も上がねぇか」

 

 

 どう返したものか、そんな悩みを吹き飛ばすように2人の前に出されたラーメン。

 透き通った金色のスープに手打ちの縮れ麺、そして女子なら敬遠、男子なら大歓迎の特大角煮チャーシュー。斜めに刻まれた長ネギの山と、トロリとした黄身が食欲をそそる煮卵がふたつ。

 

 しかし、なにより楯無の食欲を誘ったのは、その香りだった。

 角煮の濃厚な香りと、サッパリとしたラーメンの醤油。そこに焦がしニンニクの香ばしさが加わって、思わずお腹が鳴るがそんなことは眼中にない。

 

 疲労した身体が目の前の、美容の敵とも言えるそれを喰らえと。

 

 

「さぁさァ、冷める前に食ってくんなァ!」

 

「いただきます!」

 

 

 ナナから箸を受け取って、合掌。そして素早くその麺を口へ。恥も外聞もなく、ずるずると豪快にすするその様は見ていて気持ちがいい。

 満足気に頷いてそれを眺める無頼。ちらり、と視線をその隣へと向ければ慣れていないのだろう、楯無よりも拙いながらに必死にラーメンをすするナナ。

 

 外人さんだから仕方がないと思いつつも、本音を言えば思いっきり啜って食べてもらいたい。口に出せないジレンマに、身体がむず痒くなる無頼。

 暫くラーメンを食べる音が屋台に響き、そして最後にどんぶりを手に取って汁まで飲み干した楯無がぷはぁ、と息を吐く。

 

 

「あー、美味しかった!ごちそう様!」

 

「あいよ、気持ちの良い食いっぷりだったなァ。坊、こォんないい彼女、逃すんじゃァねェぞ?」

 

I know(わかってるよ)。お会計、千円だったよネ」

 

「はい、ちょうど‼︎またのご来店をお待ちしておりやす」

 

 

 これ以上居座れば揶揄われると、手早く会計を済ませたナナ。楯無と共に屋台を出れば、当然のように腕を組まれる。

 少しばかり気恥ずかしいものがあるが、言ってしまえばそれだけだ。心臓が早鐘を打って取り乱すようなことは、もうない。楯無の計画通り、順調に染められている証である。

 

 出来ればもう少し、こうして歩いていたいと言う思いとは裏腹に、気がつけばIS学園が見えてくる距離まで。夜のお散歩デートはまた今度、これ以上遅く慣れば流石に千冬から大目玉は確実だ。

 

 

「ん?」

 

「あら?」

 

 

 名残惜しみながらも敷地へと入り、寮へと迎えば異変がひとつ。いつもなら爛々と着いている各部屋の照明が疎らなのだ。就寝時間にはまだ幾分か早く、翌日に早起き必須のイベントはない。

 

 華の10代が規則正しい生活を送るとは思えず、何かあったのだろうかと頭を捻りながらも玄関へと辿り着けば、ちょうど部屋へと戻る所だったのだろう。一夏と鉢合わせした。傍には簪と本音の2人のみ。これもまた珍しいと驚きを隠せない。

 

 

「おっ、2人とも。時間ギリギリだったな」

 

「yeah、楽しくてネ。それにしても一夏、他のみんなはどうしたノ?」

 

「ああ、なんかナナと楯無さんのファンが暴れたみたいでさ。騒ぎが大きくなりすぎて、千冬姉から罰則食らったみたいなんだよ」

 

「えへー、私たちは無事だったんだよね〜。ね〜、かんちゃん」

 

「外に出てた、から、難を逃れた」

 

 

 ああ、と一夏の説明に納得を。大方、ナナと楯無、一夏とナナ、どちらを引き合わせるかの喧嘩だったのだろうと当たりをつける。千載一遇のチャンスを逃すまい、と大暴れしたに違いない。

 しかし、そうなると残る疑問は増えるばかり。

 

 

「あら?じゃあ、箒ちゃんたちは?」

 

「外に出れなくなった俺と、誰が過ごすか喧嘩して千冬姉に………」

 

 

 ああ、と2度目の納得を。お部屋デートを誰が勝ち取るか、それこそ先日の体育祭以上のやる気を見せたことは想像に容易い。同時に、千冬の怒りのボルテージも理解する。

 ギリギリとは言え、間に合った事にホッとひと息を。遅れたら最後、同じように重い罰則を食らっていただろう。

 

 

「今頃みんな、アリーナを………走らされてる」

 

「わは〜、アリーナが満杯だね〜」

 

「夜中までらしいからな………それで、ちょうど帰ってきたら簪たちと夕食食べてたとこなんだよ」

 

「………簪ちゃん、上手くやったわね」

 

「………何のこと」

 

 

 惚けて視線を逸らす簪だが、楯無にはわかる。ライバルがいないこのタイミングを、恋する乙女が見逃すはずがない。それも込みで楯無達を尾行したのだ。

 同じ状況なら、楯無も同じことをする自信があるからこその信頼。いつの間にか妹が逞しくなったものだ、とほろりと涙を流した。

 

 

「それより、今日は悪かったな。今度埋め合せするから」

 

「No problem。久々にデートできたカラ、チャラだよ」

 

「そう言うもんか?」

 

 

 納得のいかない一夏であるが、本人が言うなら返す言葉もない。取り敢えず今は納得を。何、遠く離れた友人というわけでもないのだ。機会はいくらでもあるのだから。

 

 

「あ、そういえば、体育祭のやつ。結局どうするんだ?」

 

「「あっ」」

 

 

 言われて思い出したのか、2人して頭を抱える。当然であるが、一夏と同室となる権利を行使するつもりはない。2人が離れたくないと言うのもあるが、何より本国がここぞとばかりに身柄ないし、生態データの確保の命令を出すだろう。

 

 現在凍結されている命令ではあるが、そのチャンスを逃すほど上層部はバカではなく、そしてのらりくらりと躱すのも限度がある。

 その先に待ち受けているのは地獄。ナナの身の安全は保証されないし、何より篠ノ之束の報復が待ち受けている。束を科学者と捉えるか、化け物と捉えるか、それは対峙した者にしか理解できない。

 

 唯一ナナが確信しているのは、本国は地図上から帰る事になるだろうと言うことである。

 

 

「あー………聞いたら不味かったか?」

 

「現実を突きつけられた気分よ………はぁ、どうしたものかしら」

 

 

 束と対峙したことはない楯無であるが、その実績を考えればナナが出す警告も強ち間違いではないと理解している。本国がどうなろうと、正直に言えば楯無には関係がない。

 だが、その被害が日本、引いてはIS学園に及ばないとは限らないのだ。下手に薮を叩く趣味は持ち合わせていない。

 

 タイムリミットは明日まで。それまでに代替え案を出さねばと悩む楯無の裾を、簪が引っ張る。

 

 

「お姉ちゃん。私に、いい考えが………ある」

 

「へ?」

 

 

 今日の一件で姉の気持ちと、自信がついたのだろう。変化の乏しい表情であるが、どことなく自信に満ちた雰囲気の簪。

 

 

「私に任せて」

 

 

 むふー、と鼻を膨らませて、簪は胸を叩くのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「まさか、あの女サイボーグだったなんてニャア」

 

 

 薄暗い部屋の一室。唯一の光源であるパソコンの前でフェリスは独り言ちる。画面に映されているのはこことは別の場所。用意された隠れ家の内のひとつだ。

 

 楯無に敗れ、満身創痍で帰還したスコール。それを出迎えたオータムと甘く熱いひと時を過ごす映像は中々に情熱的で、心底くだらないと内心で吐き捨てる。

 

 研究一筋のフェリスにとって、恋愛だとか愛情だとか、その手の感情は理解し難い。実験動物(モルモット)に注ぐ愛情とは違うものとはわかるが、それだけだ。

 オータムにさえバレてしまった秘密は弱みとは言えず、2人の関係など誰もが知っている。秘密裏に抱えていた研究施設にはIS関係のものとは別に、スコール自身の部品もあるのだろう。フェリスには伝えられていないことだが、その気になればその日の大統領の下着の色まで調べられるフェリスだ。そんなもの余裕で突き止められる。

 

 嫌がらせで豹柄にでも注文してやろうと、山場を迎えた映像を切り捨て、別の画面へと。

 

 

「チッ」

 

 

 次に映し出されたのはどこかのラボ。中央には新しく製造されたISと、それに乗るマドカ。そして傍にクロエを置く束だ。

 束が潜伏するラボのひとつ、その監視カメラをハッキングしたが想定通りだったのだろう。

 

 

『最初の標的はいっくんがいいと思うなぁ。ねぇ、君もそう思うでしょ?』

 

 

 覗きはバレているのだと、ハッキングしたカメラに視線を寄越す束。化け物がっ、と吐き捨ててこれ以上はストレスが溜まると素早く回線を落とす。

 

 時間にすればほんの数秒程度。しかし、それでもしてやられた事は腹立たしく、手元からタバコを取り出して火をつけると煙を肺へと入れる。深く、深く吸って充満した煙をゆっくりと吐き出した。

 

 フェリスにとって束とは忌むべき存在にして、超えるべき目標。あの澄まし顔に一発入れてやることが今の望みなのだ。

 

 科学者として味わったあの屈辱を、凡人の努力を踏み躙る天才への制裁として刻みつけてやる。何も、束を超えるような存在になりたいだとか、作り出したいとかではない。たったひとつ、小さな分野でもいい、それで束に勝ちたいのだ。

 

 そのためには利用できるものは何でも利用する。オータムだろうが、スコールだろうが、マドカだろうが、踏み台にしてやろう。

 それで得られるものは自己満足でしかないが、エゴイストでなければ科学者などやっていられないと、フェリスは考えている。

 

 

「だから、てめぇニャア期待してんだよ、蛇」

 

 

 我が子のように育てた子供。ようやく芽吹いたひとつの種。あいつなら、アレならば、きっと天に届くはずだ。

 くつくつと、その時に訪れる光景を夢見てフェリスはもう一度、煙を吸い込むのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「と、いうわけで………やっほー、一夏〜」

 

「や、やっほー、一夏」

 

 

 休み明けの月曜、朝のホームルームで何故か別クラスの鈴と簪の姿がそこにあった。

 

 

「………ナナ、説明頼めるか?」

 

「HAHAHA。体育祭の権利を行使したら、riot(暴動)起きるネ。だったら、一緒のクラスの方が公平だロ?」

 

 

 まぁ、殆ど簪の案を流用しているのだが、これが意外と悪くない。どこにも角が立たない、素晴らしい案だと楯無が絶賛する姿を未だに覚えている。

 ナナとしても渡りに船であり、否定する材料もなかったので受け入れたのだ。流石に専用機持ち達を隣の部屋に移動させる事は却下したが。

 

 話を聞かされていなかった一夏は渋い顔。せめて話を聞かせてくれ、と天を見上げた。

 

 

「これで事実上、クラス対抗戦はできなくなってしまったわけだが、専用機持ちの訓練は特別メニューを組んでやるから安心しろ」

 

 

 千冬の容赦のない言葉に専用機持ちの面々はげんなりするーーーかと思いきや、早速一夏の隣に陣取ろうとしている鈴に意識がいっていた。

 

 

「ちょっと鈴さん、何を勝手に席を決めてますの!」

 

「そうだぞ、嫁の隣は私とて希望したいところだ」

 

「おい、くっつきすぎだ!」

 

「HAHAHA………判断、早まったカナ」

 

「せ、先生!席替えを希望します!」

 

 

 早速わいのわいのと騒ぎ出す一同を、千冬は深くため息を吐いてから一人一人を叩いて回った。

 

 

「やれやれ。歴代最強にして最大の問題クラスになったな」

 

 

 

 

*1
銀の福音の操縦者

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