IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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思いの外、お気に入りが増えて書きました



3話

 

 

 さて、と内心でため息を溢しながらナナは目の前の状況を確認する。

 

 クラスに合流した翌日、その放課後。ISの操作に一夏は慣れていないらしく、同じ男で代表候補生でもあるシャルルの指導の元自主練習に励むことに。それにどうせなら、と誘われる分にはナナ本人としても問題はない。機体データ、そして一夏本人のデータを取るには打って付けだからだ。

 

 問題は、と射撃訓練に励む一夏とそれをサポートするシャルルから視線を逸らし、アリーナの隅で不満の視線を溢す3人だ。

 

 

「ふん。私のアドバイスをちゃんと聞かないからだ」

 

「あんなにわかりやすく教えてやったのに、なによ」

 

「わたくしの理論整然とした説明の何が不満だと言うのかしら」

 

 

 恨み辛み、そんな呪詛に似た言の葉を溢しながら送る視線ははっきり言って邪魔だ。こうも視線を注がれては動くに動けない。楯無から快く承認をもらったはいいが、さてはこうなる事を予想していたなと胸の内で不満を漏らした。

 

 

「うーん………やっぱ難しいな」

 

「仕方がないよ。一夏の白式はブレード一本の格闘戦オンリーだったんだから。でも、その分動きはだいぶスムーズだよね」

 

「お、そうか?シャルルに言われると自信が出るな」

 

 

 どうやら今の一夏の言葉がお気に召さなかったらしく、3人からの批難めいた視線が更に強くなる。もうここまで来たら口で言った方が早いだろうに、と思いつつも口に出さない。絶対に面倒ごとに巻き込まれると確信しているからだ。

 

 

「おーい、ナナ?どうしたんだ?」

 

「oh、何でもnothing。一夏はよく動かせてるナと思っただけサ」

 

 

 実際、自身とひと月程度の差があるとはいえ、一夏の動きは慣れたものだ。移動には慣れたが、それ以外はまだスムーズにこなせない自身とは大違い。これが血筋というものなのだろうか。

 

 

「そうか?ナナも十分動かせてるだろ」

 

「levelが違うネ。gun shootなんて、まだ無理だヨ」

 

「アハハ………うん、でもナナも近いうちにできるようになるよ」

 

 

 シャルルの精一杯のフォローも今は虚しい。実力の差ははっきりとわかってはいるが、それはそうと当の本人からのフォローはナナのプライドに傷をつける。絶対差を埋めてやると内心で息巻いていると、名案だとばかりに一夏が声をあげた。

 

 

「あ、そうだ。シャルルばっかに頼っても悪いし、箒たちにも頼むか」

 

「hey stop」

 

 

 あまりの提案に思わず取り繕った笑顔が消え、真顔でそう告げるナナ。喉元まで出かけた罵詈雑言を何とか飲み込み、目的を思い出す。自由の身になる為には我慢せねばと言い聞かせ、笑顔の仮面を被り直した。

 

 

「teacherしてもらうにハ、まだ早いヨ。もう少し、自分でfightしてみるネ」

 

「あー、うん。僕もその方がいいと思うな」

 

「でも、2人同時はシャルルもきついだろ?」

 

「僕なら大丈夫だから、ね?」

 

「そうか。あーでも確かに、あの3人の教え方はなぁ………すまん、ナナ」

 

「no problemネ」

 

 

 感覚的な箒と鈴、そして理論漬けのセシリア。全く理解出来なかった3人の説明を思い出し、その二の舞にしようとした事を謝る一夏。怒りを押し込めてちらりとシャルルに視線を寄越す。

 何を言わんとしたのかわかったのか、苦笑いで頷いてくれた。感謝は伝わったようである。

 

 余談ではあるが、生身での射撃ならナナは得意である。しかし、ことISとなると途端にその命中率は下がるのだ。理由としては主に補助機能による反動のなさ、そしてISを操縦しながらとなる平行操作。生身とは違う分、その感覚に慣れないでいた。

 

 しかし、とシャルルから射撃武器の特性を教授する一夏、その専用機である白式を見る。そのスペックや出力、内蔵武器などの数値は各国に公開されており、それだけで言えばお世辞にも良い機体とは言えない欠陥品。

 ブレード一本で武器の収納容量はいっぱいであり、出力が高いわりには内蔵エネルギーはやや低め。寧ろ、よくこれで代表候補生相手に善戦できたものだと賞賛を送る。

 

 更に解せないのは操縦者の特性をISが理解する事によって発現する唯一仕様の特殊能力(ワンオフ・アビリティ)。それを早々に発現させた事もそうだが、それ以上に不可解なのはその能力。それは自身のエネルギーを刃に変えて、ISの操縦者絶対保護のシールドさえねじ伏せる防御不可の攻撃へと転じさせるのだ。

 零落白夜、と名付けられているそれは、かつてISの世界大会モンドグロッソで織斑千冬が見せたものと同じものだということ。それがより一層疑問なのだ。

 

 少なくとも現在、各国で報告されている能力は似たようなものはあれど、完全に一致するものはない。これは一卵双生児だろうと変わらず、完全に同一の人間などいないからである。

 だと言うのに、目の前の男はそれを否定してみせた。だからこそ、本国は勿論、世界各国がその機体データと生体データを欲しがるのだ。

 

 気長にやるとは言ったが、早いに越したことはない。しかし、盗み出す隙は未だ訪れず。そも、四六時中誰かと共にいるので隙がないのは当たり前なのだが。改めてこのミッションの難易度に辟易していると、ふと声がした。

 

 

「ねえ、ちょっとアレ………」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど………」

 

 

 当然の事だが、いくら男性操縦者だからといってアリーナひとつ丸々貸し切れるわけではない。他にも練習目的、あるいは男性操縦者とお近づきにと目的は様々だが他の生徒も一定数いる。

 そんな注目の的となっている人物に視線を寄越せば、そこにいたのはドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒ。華奢な生身とは裏腹に、その身に纏うISは無骨。世界でも最先端の第三世代型なだけあり、見た目から想像が付かないほど性能は良いのだろう。

 

 

「おい」

 

「…………なんだよ」

 

 

 ISの開放回線(オープン・チャンネル)で声が飛ぶ。渋々と言った形で一夏が返事をすれば、言葉を続けながらラウラがふわりと飛翔する。

 

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

「イヤだよ。理由がねえよ」

 

「貴様にはなくても私にはある」

 

 

 どうやら勝手に因縁を付けているようだが、部外者であるナナでさえある程度予想はつく。大方、第二回モンドグロッソの決勝戦、それに出場するはずだった織斑千冬がその試合を棄権したことだろう。

 公にされてはいないが、攫われた少年を助けるために棄権したとのこと。その少年が一夏なのだろう。そして救出に協力したドイツ軍への返礼として期間限定ではあるが、織斑千冬が従軍しIS部隊の教官になっていたことも知っている。

 

 なぜナナが知っているかと言えば、当時の仕事仲間(ビジネスパートナー)が詳しく調べて教えてくれたからだ。尚、その仕事仲間は織斑千冬に相当賭けていたらしく、大損をこいた原因を探っていたらしいのだが。依頼金を払う余裕もなかったので、どうにか気を引こうとアレコレ話していたことをよく覚えている。

 

 

「Ah〜。hey、ボーデヴィッヒ。ナンプレをつける……いや、テンプレ………タンプレ?」

 

「…………もしかして難癖のこと?」

 

「YES、それネ。その難癖をつけすぎじゃナイ?一夏がyouにナニしたノ?」

 

「ふん。外野は黙っていろ。これは私とこいつの問題だ」

 

「HAHAHA!nice joke!my friendのピンチ、止めなきゃNonネ。そレとも、battleして一夏とfriendになりたいのカイ?そのやり方はNot recommendation(おすすめしない)ヨ」

 

「チッ!」

 

 

 煩わしいとでも思ったのだろう。舌打ちと共に繰り出されたのは右肩に装備された大型の実弾砲が火を吹く。瞬間、コールと共にナナの手に顕現させたのは固有武器であるスヴェントヴィト。それを機関銃へと変形させると実弾へ向けて放つ。相変わらず命中精度は低いがそれでも数打てば当たる戦法は有用らしく、限界を迎えた実弾砲が中空で爆発した。

 

 

「武器の無言展開もできない、ロシアの新人(ニュービー)がっ」

 

「HAHAHA!Hot Beerで育てば、頭もHotになるみたいダネ。初めて知ったヨ」

 

 

 さて、煽ってみたものの、このまま戦っても勝ち目は薄いと当たりをつけるナナ。ならばなぜ煽ったかと言えば、単なる一夏への好感度稼ぎである。まずは友達から、と言えば奥手のように聞こえるが、少しでも油断すればその生体データを丸々いただくつもりである。

 

 勝ち目は薄いが、しかしこのまま戦闘にはならないとナナは予想していた。なぜなら、アリーナ内での勝手な私闘は御法度。何より、要注意である自身が他人に銃口を向けたのだ。事態の収束は早めにつく。

 

 

「そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え‼︎」

 

 

 予想通り、アリーナのスピーカーからの声が響く。騒ぎを聞きつけてやってきた担当教師だろう。

 

 

「………ふん。今日は引こう」

 

 

 横槍を2度も入れられて興が削がれたのか、ラウラはあっさりと戦闘態勢を解除してアリーナゲートへと去っていく。その向こうではおそらく教師が怒り心頭で待機しているだろうが、それを素直に聞くラウラではないだろう。

 

 

「ナナ、大丈夫か?悪いな、俺のせいで」

 

「No problem!勝手に動いただけヨ。それに、my friendを馬鹿にされて黙ってラれないヨ」

 

「あー……いや、ありがとう」

 

 

 出会ってまだ2日。だというのに大声で友達認定されて少し気恥ずかしいのか、照れた様子で頬をかく一夏。懐に潜り込むのは容易だと思いつつも、その背後に控える織斑千冬が脅威だと再認識する。

 なにせアリーナの観客席からこちらを睨む姿がちらりと見えたのだ。ISのスコープ機能に驚嘆しつつも、覗かなければよかったと後悔をひとつ。この後呼び出されるのは確定だろう。

 

 

「うーん、彼女も彼女だけど、ナナ。君も煽りすぎだよ?」

 

「HAHAHA、My bad(ごめんね)。次は気をつけるヨ」

 

「まぁ、ナナも反省してるし、もう終わろうぜ。もうすぐアリーナの閉館時間だし」

 

 

 シャルルから攻めるようなジトッとした視線を向けられるが動じた様子もなく、一夏の提案にそれもそうだと乗ろうとしたが視界の隅に入った人物はそれを許してくれないようだ。

 

 

「oh、ナラ先にfinishしてテヨ。next time、予定あるからサ」

 

「あ、じゃ、じゃあ僕も後から行こうかな」

 

「なんだよ、2人して。特にシャルルは部屋でもそうだよな」

 

「really?but、一夏。同性でもskinを見られたくない人もいるヨ。シャルルはそういうtypeなんでショ」

 

「う、うん。実は、その、あまり肌を見られたくなくて、ね?」

 

「えー?でも、案外慣れるかもしれないぜ」

 

「hey、一夏。あんまりgoing……Non。ゴーインだと嫌われるヨ」

 

「あ、うー………そう、だよな。すまん。久しぶりに男友達ができたと思って調子に乗ってた」

 

「う、ううん!僕の方こそごめんね」

 

 

 なんとか一夏との一緒にお着替えを回避できたからか、シャルルがナナにちらりと視線をやってありがとうと伝える。先ほどの借りは返した、とばかりに笑顔の仮面を送り返すナナ。

 そのまま3人それぞれ別れ、ナナの向かう先はアリーナ倉庫。グラウンドを平す機械や、行事に使う備品などで溢れたそこに織斑千冬がいた。不愉快だとばかりに細められた視線は真っ直ぐにナナを貫き、諦めた様子で笑顔の仮面を脱ぎ去ったナナ。

 

 

「それで?こンなトコに呼び出して何のつもりだ?説教なら教室の方が怪しまれないだろ」

 

「………何のつもり、は私の台詞だ」

 

「ハッ!見ての通り、学生らしく友達を作ってるだけだ。何か問題でもあるか?」

 

 

 そう。先ほどまでの流れで他人に銃口を向けた事はまだしも、それ以外は傍目からは友達を厄介な女から守ったように見える。銃口の件も、口論がヒートアップした学生間ならままあることだ。せいぜいが厳重注意が関の山。

 だからこそ、千冬は強く言えない。その思惑がどうであれ、外聞は問題ないのだから。ここに呼び出したのは一重に感情から。弟を、唯一の身内を汚されると思ったからだ。

 しかし、それを誰が責められようか。教師とは言え人間、感情を完全に封殺することなど不可能なのだから。

 

 

「貴様は、自分の立場をわかっているのか?」

 

「理解してるからこそ、友好を深める手段に出てンだよ。じゃなきゃ今頃簀巻きにして本国に送りつけてる」

 

「ッ‼︎貴様ッ‼︎」

 

「落ち着けよ、織斑千冬(ブリュンヒルデ)。別に今すぐにってわけでもねぇ。オレとしちゃ取り敢えず、毛なり爪なり、データになりそうなモン送れたらそれでいいンだよ」

 

 

 例えくだらないものだろうと、任務続行の意思を表示できさえすれば暫くは安泰だろう。後はハードルが上がりきる前に一夏を本国に送ればいいのだが、目の前の人間はそれを許さないだろう。それこそ、自身を殺し学園の評価を貶めようと、必ず一夏を守ろうとするだろう。

 愛されているねぇ、と嘲笑を込めて告げればその首周りのISスーツが掴まれる。息と息が触れ合う様な距離で睨みつけられるが、ナナに動じた様子はない。これが現状の千冬にできる、精一杯なのだから。

 

 

「あいつを、一夏を、私の弟を!実験動物などにさせてたまるか‼︎」

 

「こっちもテメェの命がかかってンだ。はいそうですか、と頷けるわけねェだろ」

 

 

 暫く互いに睨み合った後、その襟首から手を離す千冬。夕陽で影になってナナからは見えないが、その表情は悔しさに歪んでいた。千冬自身わかっているのだ。これが八つ当たりにも満たない、ただの癇癪だと。ただの身勝手なわがままなのだと。

 

 

「………もう、いけ。だが、忘れるな。あいつを害そうものなら、必ず私が息の根を止める」

 

「わかってるよ。オレもまだ死にたかねェ」

 

 

 さて、いかに友好的に、そして自主的に本国へ向かわせるにはどうしたものか。少なくとも、織斑千冬のいる学園内では難しいだろう。しかし、チャンスは必ずあるはずだとほくそ笑み、ナナはその場を後にするのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 その日の夜、自室にて。

 相変わらず書類の山と格闘する楯無を尻目に、ナナは欠伸を溢す。帰宅の道中、一夏がもう暫くすれば大浴場が使えるとはしゃいでいたが、なぜそこまで歓喜に満ちているのかよく理解できない。湯船に浸からずともシャワーで十分だろうに。日本人の謎の拘りは今に始まった事ではないのだが。

 

 よくわからない、と言えばシャルルである。確かに男性操縦者というネームバリューは同じ男性操縦者に接近しやすいというのもあるが、所属している国の、もっと言えば専用機の開発を進める会社やラボの良い広告塔にはなるだろう。反面、その正体がバレた瞬間、全世界からの評判はガタ落ち。立ち直すことは不可能だろう。そこまでして男装するメリットはないはずだ。

 

 

「オイ、更識。学園側はデュノアの件、知ってるンだろうな?」

 

「当然でしょ。転入生、しかも一夏くんっていう男性操縦者がいる中でその身辺調査は秘密裏にされてるわ」

 

「なら、なンで黙ってンだ?下手すりゃ一夏が手籠にされるってのに」

 

「まぁ、その心配もなくはないけど、可能性は低いわよ。黙ってる理由はいくつかあるけど、1番はあの子の安全のため」

 

 

 その言葉に何となく予想がついたナナ。バレた場合は本人の勝手だと騒ぎ強制送還。その後日の目を浴びる事は2度となくなるだろう。なるほど、どこにでもある悲劇で、同情に値しない展開で、よくある結末だ。

 

 

「一応、この学園にいる限り手出しはできないけど、卒業後はわからないからね」

 

「あ?なンだそりゃ」

 

「あら、知らなかったの?この学園にいる限り、あらゆる国家、組織、団体に所属しない。外的介入も本人の意思がない限り不可能よ」

 

「ならオレも自由にできるってことか?」

 

「アナタは例外。自分が死刑囚だってこと忘れたの?」

 

「お陰様で思い出したよ」

 

 

 そも、爆発物付きの首輪を嵌められているのだ。忘れようにも忘れられるわけがない。

 

 

「それより、聞いたわよ。ラウラちゃんと一夏くんを取り合ったって」

 

「………何の話だ」

 

「とぼけちゃって。女の子の間じゃ結構広まってるわよ」

 

 

 どうやら夕方の一件は尾鰭がついて、そこら一帯を既に泳ぎ切ったらしい。暫くはより一層好奇の視線に晒されると思うと頭が痛くなる。学園という閉鎖空間というのもあるが、それにしたって早すぎる。fuckとだけ呟いてベッドへと身体を沈めた。

 

 

「あら、ご飯はいいの?」

 

「………1週間は食わなくても死にはしねェ」

 

「そ。でも、せめてシャワーは浴びなさい」

 

 

 少しの葛藤。そして諦めたようにシャワー室へと向かうナナ。臭いが残るのを嫌ったのだ。臭いを落とすためか、はたまたお湯が気持ちいいのか定かではないが、ナナのシャワーは長い。今のうちに本国への報告を済ませてしまおうと更識は書類の山から目当てのものを引き出す。

 

 本日の銃口を向けた件は確かに危うい。しかし、アリーナで記録された映像を見る限り、固定砲台としての役割は微妙。まだ操作に慣れていないのだろう。

 それを踏まえ、記入の内容には対象と友好関係を順調に結んでいるということを全面に推して書いておく。

 

 更識としても、別にナナの生命を脅かしたくはないのだ。相手は死刑囚とはいえ、生かせるなら生かしておきたい。日本の暗部、更識家の当主としては間違った判断なのかもしれないが、それが偽らざる更識の本音であった。

 

 

「………ままならないものね」

 

 

 ナナの生命を優先するべきか、それとも一夏の安全を優先するべきか。これがなりふり構わない、自身の欲の為ならば周囲の犠牲などと考えている犯罪者らしい犯罪者ならば楯無とこうは悩まない。

 思惑がどうあれ、今は大人しいナナ。その牙を向けないのであれば、生かす価値というのはあるのだ。

 

 実の所、先ほどナナに言った言葉は半分嘘である。死刑囚であるが故にその身に爆弾をつけられているが、例えば本国がその身柄を送還せよと命令しても学園側が拒否すれば応じる必要はない。

 このまま鎖付きとはいえ、穏やかな学園生活を送ってほしいと思うのだ。

 

 コンコン、と叩かれたノック音に思考の海に沈んでいた更識に意識が戻る。食事を運ぶように頼んでおいた自身の右腕の布仏虚か、もしくは様子を見にきた千冬だろうか。どちらにせよ、事前に通知が来るはずなので違うだろうが。

 続け様のノックに諦める気はないと悟った楯無が声をかけて扉を開ける。そこにいたのは噂の男性操縦者、織斑一夏だ。なぜか両隣にはセシリアと箒を侍らせている。

 

 

「あれ?えっと………どちら様ですか?」

 

 

 てっきりナナが出ると思っていただけに、困惑した様子の一夏。時間的にナナを夕食に誘おうとしたのだろうと当たりをつける。しかし、こうも気の抜けた表情を見ると少し安堵を覚える自分がいる。少しからかってやろうといたずら心が鎌首をあげた。

 

 

「ふふ、ナナくんの彼女………なんて言ったらどうする?」

 

「うええ⁉︎」

 

 

 予想通り、美味しいリアクションを頂けたとご満悦の様子の更識。更に追撃として何を言おうかと考えたが、コホンとセシリアの咳払いがそれを遮る。

 

 

「コホン。一夏さん、この方は学園の生徒会長の更識楯無さんですわ。新入生挨拶の時、壇上で祝辞を述べていましてよ?」

 

「いや、あの時は緊張してそれどころじゃなかったから」

 

「まったく………しかし、2年である先輩がなぜここに?」

 

「ノリが悪いわねぇ。まぁ、いいわ。同じ国から出てるよしみとして、彼の事は私が面倒みてるのよ」

 

 

 箒のような質問はされると予想していた為、事前に用意していた言い訳を告げる。これ以上突っ込まれたならばそれはそれは壮大な嘘の物語を朗々と語るつもりだったのだが、どうやらそこまで言及はしないようで納得行った様子の3人。

 

 

「あ、そうだ。ナナいますか?一緒に飯でもって思ったんですけど」

 

「あー、ごめんなさい。彼、今シャワー中なの。それに、疲れてるみたいだからご飯いらないみたいよ」

 

「そっか………うーん、でも、飯を抜いたらその分余計に疲れると思うんだけどな」

 

「まぁまぁ、一夏さん。無理に誘ってはなんですし、早く行きましょう」

 

「うむ、そうだな。ほら、行くぞ」

 

「うぉ!な、なんだよ、2人とも。あ、それじゃあナナによろしく言っといてください!」

 

 

 どうやら3人で、欲を言えば2人きりで食事を取りたいセシリアと箒。両サイドから腕を組まれて半ば引きずられるようにして去っていく一夏。その姿に手を振って見送ると、入れ違いのようにシャワー室からナナが顔を出す。

 

 

「ン?なンかあったのか?」

 

「なんでもないわよ。モテる男は辛そうねぇ」

 

「?」

 

 

 何がなんだかわからず疑問符を浮かべるナナ。一夏も一夏で苦労しているようだと心の中で合掌を送り、更識はまた書類の山と格闘するのであった。

 

 

 

 

 

 

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