IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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42話

 

 

「ッ‼︎そんな………ッ‼︎」

 

 

 旅館へと辿り着いた楯無は、目の前の光景に絶句する。

 更識家の息のかかっていた旅館は、古き良き日本の宿といった風光明媚を誇る宿は、見るも無惨な姿に変わり果てていた。

 

 旅館の母屋はその姿を土台だけ残して崩れ去り、自慢であった中庭の日本庭園を彩っていた樹々は倒壊、もしくは燃えて黒炭に成り果てていた。庭園の顔とも言えた池はその水が全て干上がり、泳いでいた鯉たちはひとつ残らず焼けて死んでいる。

 地面がガラス状になっていることから、先ほどの上空へと昇った巨大な爆発はここが発生源だと嫌でも理解した。

 

 けれど、楯無の心配はそこではない。

 旅館は確かに崩れたが、最悪また建て直せばいい。だが、失った命は戻らないのだ。

 

 

「どこ………‼︎どこに……ッ‼︎」

 

 

 ISのセンサーを全開にして、生存者をーーー真耶とナナの安否を確かめる。死ぬはずがない、と自身に必死に言い聞かせても、目の前の絶望的な状況から生存の可能性は低いと更識家の当主としての理性が、冷徹に告げていた。

 そんなはずない、と頭を振って思考を誤魔化し、捜索を続けること数十秒。ISが生存者の反応を捉えた。

 1秒とかからない勢いで、悲鳴を上げるスラスターの声を無視して、現場へと直行。そこで楯無が目にしたのは、地面に倒れ伏す2人の姿。

 

 

「山田先生‼︎ナナくん‼︎」

 

 

 急ぎ2人のバイタルサインを確認。ISが告げる症状から、真弥は左腕の骨折と複数の裂傷、そして軽度の脱水。ナナは中度の脱水に加え、ISの強制展開による精神的負荷。

 トリアージ判定は黄色。だが、この熱が今だけ燻る環境下では、それが赤に変わるまで時間はかからないだろう。放っておけば命に関わる状態だ。

 

 すぐさま2人を抱えてその場から避難。熱の篭らない、風の抜ける開けた場所へと横たわらせるとミステリアス・レイディが生成する冷たい水を、ゆっくりと、祈るようにその唇に含ませた。

 

 本来であれば敵を穿つための武器が、今回は2人の命を繋ぎ止めるものになるとは、なんたる皮肉か。そんな現実逃避しそうになる頭を叩いて、水の操作に集中。

 

 意識のない人間に水を飲ませるのは危険なことで、その水が肺に侵入しないようにするには、普段とは違う操作が必要だった。

 ゆっくりと、慎重に、けれどなるべく急いで。そんな慌てそうになる心を必死に蓋をして、2人の身体に潤いを送り込む。楯無にとって永遠にも思える数分が経過した頃、ようやく真弥の喉が小さく震えた。

 

 

「……………ッ、ゲホッ‼︎ゲホッゲホッ‼︎」

 

「山田先生‼︎よかった………」

 

「はぁ、はぁ………更識、さん………?」

 

 

 混濁した瞳に光が戻り、先に目を覚ましたのは真耶。まだ意識が朦朧としているのか、ぼんやりとした頭で周囲を見渡す。そして、隣のナナが視界に入った瞬間、意識を失うまでの記憶が蘇る。

 

 

「オーウェンくん⁉︎あっ………」

 

「先生、無茶しないでください。さっきまで脱水症状が出てたんですから」

 

 

 反射的に身体を起こそうとして、上半身が地面を離れたところで視界がふらつく。再び倒れそうになる頭を左腕で支えようとして、脳を貫く痛みがそれを許さない。そうだ、スコールに立ち向かった時に折られたのだと理解する。

 

 生徒の前で弱った姿を見せるわけにはいかないと奮起するが、身体は言うことを聞かず。結局、立てた膝に頭を預けて、深いため息をこぼした。

 フレームの歪んだメガネがずるりと地面に落ちるが、それを拾う気力も体力もまだ回復していない。

 

 

「ごめんなさい………不甲斐ない、ですよね。先生なのに………」

 

 

 歪んだ視界の先、地面に転がったメガネを視線だけで追いながら、真耶は掠れた声で呟く。

 

 

「誰も先生を責めませんよ。スコールが、来たのですよね?」

 

「………えぇ。それで、オーウェンくんが………彼は、無事ですか?」

 

「ッ‼︎ゲホッ、ゴホッ‼︎」

 

 

 真耶の言葉と同時に、まるで示し合わせたかのように息を吹き返すナナ。ゴホゴホと、ナナの咳き込む声だけがしばし3人の間で響いていた。

 そして、ようやく息が整ったのだろう。最後に深く息を吸って吐くと、未だ頭痛のひどい患部を抑えながらゆっくりと上体を起こした。

 

 

「あ゛ー………クソ、死に損なったか………うおっ⁉︎」

 

「ッーーーー‼︎」

 

 

 意識と記憶ははっきりとしていたのか、悪態を吐きながら、皮肉をこめながら生存に感謝を。けれど、次の瞬間、ISを解除して言葉もなく抱きついた楯無に押し倒された。

 

 突然のことで何が何だか、そして現状はまだ把握できていないのか、目を白黒とさせるナナ。けれど、そんなものお構いなしにと、楯無は強くその身体を抱きしめる。

 

 

「お、オイ、楯無………」

 

「生き、てたぁ………」

 

 

 ぽつりと、抱きつかれるナナの身体の隙間から溢れた、楯無の声。

 ISが告げるバイタルサインから、ナナが生きている事は確認できていた。けれども、数字では語れない、何か不確定要素があるのではないかと気が気ではなかったのだ。

 

 「よかった……よかったよぅ………」と鼓動する心音を感じるたびに、楯無が漏らす歓喜の声。それを聞いてしまっては、何も言えない。抱きつかれて身体が痛いだの、勝手に殺すなという文句も、勝手に喉奥へと引っ込んでしまう。

 どう返すべきかもわからず、居心地が悪そうに視線を彷徨わせ、未だ離れる様子のない楯無の頭を撫でながら視界に入る真耶の顔。殺し屋の自分にも守れたものがあったのだと、安堵のため息を溢した。

 

 

「メガネメガネ………あった。ああ、やっぱり、感動的な場面はしっかりと見たいですからね。よかったですね、更識さん」

 

「よォ、真耶。互いに死に損ねたみてェだなーーーったたたたた‼︎」

 

 

 軽口ひとつ叩いた瞬間、楯無からの抱擁が強くなる。これでは抱擁というより鯖折りだ。ISの強制展開、そして想定以上のダメージにより残った痛みは軽度と言えど、抱き締められて痛まないほどではない。

 

 苦痛に歪むナナを嗜めるように、ずれそうになるメガネを抑えながら真耶が注意を飛ばした。

 

 

「ダメですよ。更識さんは本当に心配していたんですから、それを蔑ろにするような事を言っては」

 

「あー………そうなのか?」

 

 

 楯無にそう尋ねれば、胸の中でこくこくと頭を動かしたかと思うと、拘束する力が緩められる。せめて口で言ってくれ、と文句を言いたいのだが、悪いのは自分だ。そんな言葉、吐けるはずがない。

 

 

「それにしても………ふふ、やっぱり。オーウェンくんと更識さんは、仲良しですね」

 

「だから、オレはナナ・オーウェンじゃねェってーーーぃたたたたた‼︎」

 

 

 どうやらその役の否定もダメらしい。再び強くなった拘束に、またもや苦悶の声を漏らす。

 

 

「ダメですよ、オーウェンくん。自分の名前を、そんな否定しては」

 

「………ンな事言ったって………」

 

 

 自身にその名を語る資格はもうないのだと、もう一夏たちの近くにはいられないのだと、そんな卑屈な感情から溢れる否定。

 昔なら金と銃とナイフさえあれば満足していたのに、今ではあれも欲しいこれも欲しいと強欲になった自身の心。それを恥じるナナであるが、けれども、真耶はーーーナナにとっての最高の教師はそれを否定した。

 

 

「いいえ、貴方はナナ・オーウェンくんです。私を助けてくれたのは、殺し屋の過去を持ちながら、それでも人の心を忘れなかったナナ・オーウェンくんです。………ありがとうございます、私を助けてくれて」

 

 

 そう告げられた言葉にナナはーーー殺し屋であったことも肯定されたナナは瞠目し、そして恥ずかしそうに視線を逸らす。誤魔化すように楯無の頭を撫で、小さく「………おう」とだけぶっきらぼうに返した。

 

 素直じゃない、と真耶は微笑む。

 京都の一角、難を逃れた公園ではしばし、穏やかな空気が3人を包んでいた。

 

 そんな空気を引き裂くように、突然鳴り響くコール音。それが楯無から発せられるものだとわかると、ナナを解放。目尻に残った涙を拭きながら、ISの通信機能を展開した。通話の先から聞こえた声は千冬のもの。

 

 

「はい、更識です」

 

『よかった、無事だな………荷物は無事に受け取れたか?』

 

「はい。拠点は壊滅し、オータムは奪い返されましたが、山田先生とナナくん両名、命に別状はありません」

 

『では、負傷していると言う事だな…………程度は?』

 

「山田先生は左腕を骨折、ナナくんは襲撃したスコールと交戦した際にISを強制展開。かなりのダメージを負ったようです」

 

『そうか………ならば、山田先生に荷物を渡してこちらへ来い。厄介ごとが増えた』

 

「厄介ごと?」

 

『………織斑一夏のISが暴走している』

 

 

 告げられたその言葉に、3人は息を飲む。

 なぜそんなことが起こったのか、その言葉さえも吐き出せない衝撃。瞠目する3人を置いて、千冬が、実の弟の危機に1番焦燥感を抱いている千冬が、それを飲み込んで次なる指示を飛ばす。

 

 

『亡国機業は幹部、離反者を含め離脱を確認。本作戦は、織斑一夏の制圧へと変更する。更識、貴様は急ぎ飛んでこい。現在、篠ノ之たちが対応しているが1人でも戦力が欲しい』

 

「………っ、了解」

 

 

 短く、ハッキリと告げ、通信は切られる。そこにいるのは先ほどまで歓喜に泣いていた少女ではない。日本の暗部、更識家の当主として、そしてIS学園生徒会長としての更識楯無だ。

 

 

「話は聞いてたわね?2人は自衛隊と合流して、引き続き治療を受けて。山田先生、ナナくんをお願いします」

 

「オイ、ふざけんな」

 

 

 未だ痛む身体に鞭を入れて、ナナは立ち上がる。倦怠感と虚脱感に襲われ、脳が休息を要求しているが、そんなもの今のナナには関係のない事。立ち上がると言う、普段なら訳もない動作でさえ今は肩で息をするほどの労力だ。

 

 

「一夏がヤベェ状態になってンのに、呑気に寝てられるか‼︎オレも連れていけ‼︎」

 

「ふざけないで‼︎貴方、自分の状態をわかってるの⁉︎」

 

 

 楯無の叫びが夜の公園に響く。量子化していたアタッシュケースを取り出すと、それを思わず真耶に投げ渡すほどの怒り。

 手の中でわたわたとアタッシュケースを取りこぼす真耶を尻目に、楯無はナナに詰め寄った。

 

 

「身体もボロボロなら、ISもボロボロ………そんな状態で何ができるって言うの⁉︎」

 

「だから指咥えて待ってろとでも言うのか?それこそふざけんな‼︎あいつは………今暴走してる織斑一夏は、オレの………オレのダチだ‼︎」

 

「それで怪我を増やしたら……死んだらどうするの⁉︎」

 

「死ぬもンかよ‼︎」

 

「死にかけたくせに、よく言うわね‼︎」

 

 

 ナナとしても、楯無の気持ちはわかる。ダメージを負いすぎてISを展開できるかどうかも怪しい自分が現場に向かったところで、できることなどない。

 だが、そんなものナナを縛る理由にはならない。大人しく指を咥える理由になりはしない。

 

 ナナにとって、一夏は、織斑一夏という存在は、かけがえのない友だ。

 初めは実験体として、自分が自由になる為の交渉材料として見ていなかった。だが、彼の温かさに触れ、その光に照らされて、どうしようもない存在である自身にも居場所を作ってくれた彼を放ってはおけない。

 

 ナナの過去を知って、拒絶されるかもしれない。もしかすればもう友人だとは思ってくれていないかもしれない。だがそれでも、例えそうだとしても、ここまで受けた恩を返さない理由にはなりはしない。

 一度は捨てた役だが、ナナ・オーウェンだと認められた今、ナナは心のままに、その叫びに従う。

 

 互いに平行線の言い争い。どちらも譲らない、終わりのない水掛け論。それを打ち破ったのは他でもない、真耶だった。

 

 

「それでしたら、私が連れて行きますよ」

 

 

 折れた腕でなんとかアタッシュケースを開き、中にあった待機状態のISを展開。かつて銃央矛塵(キリリング・シールド)と謳われた山田真弥の専用機、ラファール・リヴァイヴ・スペシャル、The Show Must Go On(幕は上げられた)の姿がそこにあった。

 

 使用者の負傷を検知したISは自動的に折れた左腕を固定。ナノマシンによる治療が行われているが、今作戦では使えないままだろう。

 

 

「山田先生………ですが、貴方もーーー」

 

「生徒の危機に、先生が寝ていられませんよ。片腕でもトリガーは引けます。それに………こうなったら止められない。更識さんが1番わかっているんじゃないですか?」

 

 

 真耶の言葉に、楯無は思わず口を噤む。確かに、ここで口論していても時間の無駄。放置して現場に行こうものなら、それこそ多大な無茶をしてついてくるだろう。その代償など、勘定にいれることなく。

 

 それを考えれば連れて行く方が無難なのかもしれない。けれど、もし、を考えて、メリットとデメリットを天秤に乗せて、しばらく悩んだ末、楯無の秤は傾いた。

 

 

「あー、もう‼︎絶対に、絶対の絶対に無茶はしないこと‼︎現場に到着したら織斑先生の指示に従う事‼︎それをちゃんと約束して‼︎」

 

「………っ‼︎ああ、恩に切る」

 

「話は纏ったようですね。それじゃあ行きましょう。もう1人の生徒を助けに」

 

 

 不承不承、ナナの熱意と真耶の説得に折れた楯無はISを展開。負傷している真耶の申請を置いておいて、ナナを抱き上げる。万が一のために機体のバリア範囲内に入れるために密着するが、今はドキドキとできるような心境ではない。

 これだけ言っても無茶をするんだろうなぁ、と頭のどこかでそれを確信しながら、2機のISは飛翔するのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「目を覚ましなさいよ、一夏ぁ‼︎」

 

「…………」

 

 

 白騎士の刃を受け止め、躱しながら、鈴たちは必死の説得を試みていた。しかし、一夏の意識は覚醒しない。どころか、わずわらしいノイズとばかりに、攻撃の手はますます激しくなる。

 

 一撃一撃が精確無比で、躊躇わず振るわれるそれに、かつての一夏の面影はどこにもない。

 

 

「どうする⁉︎このままでは私たちのシールドエネルギーが持たないぞ‼︎」

 

「そこは箒さんの絢爛舞踏を期待してますわよ!」

 

「あれは、しかし………」

 

 

 紅椿のワンオフアビリティ、絢爛舞踏。エネルギーを回復させるそれは確かにこの場では最適だろう。だが、その発動条件は一夏を想うことなので、今の状況では難しい。

 しかし、それを伝えようにも恥ずかしさが前に出てしまう。

 

 

「だが、みすみすやられはしないぞ‼︎目覚めないと言うなら、叩き起こすまでのこと‼︎」

 

 

 防戦一方から一転、防御のために振るっていた鈴の青龍刀が弾き飛ばされ上段に構えた白騎士の背後を、箒が強襲する。

 死に体の鈴よりも高い優先順位度。素早く振り返った白騎士と箒の刀がぶつかった。

 

 

「今ならわかる、どうしてフォルテが裏切ったのか‼︎」

 

 

 好きな人のために、何もかも捧げる。

 何もかも捨てられる。

 命をかけられる。

 

 

「何を賭しても、私はお前を救い出すぞ‼︎一夏‼︎」

 

 

 思いの力に応えた紅椿の出力が上がる。それは白騎士の刀を弾き飛ばすには十分な力。眼下の炎に照らされて夜空を煌めく一刀。しかし、一切の動揺を見せず、白騎士の左腕から放たれる荷電粒子砲。ゼロ距離で放たれたそれは、箒の腹部を焼いた。

 

 

「がはっ‼︎」

 

 

 体勢を崩した箒に、追撃の一撃を喰らわせようとした刹那、横合いからの鋭い狙撃がそれを阻んだ。

 

 

「わたくしだって、一夏さんのためなら!」

 

「そうよ。あたしだっているんだから!」

 

 

 戦線にセシリアと鈴が加わり、さらに戦闘は激化の一途を辿る。

 しかし、白騎士に刷り込まれた織斑千冬(ブリュンヒルデ)の動きは、三体一という状況でさえ、逆境とはなり得ない。

 

 

「負けませんわ!わたくしの想いは、それほどお安くなくってよ‼︎」

 

 

 一夏との出会い。

 思えば、あの時から惹かれていたのかもしれない。

 だからこそ、最初は素直になれなかった。

 けれど、戦って、自らの敗北を悟って、そこで気付いた。

 自らの初恋と、素直になる気持ちを。

 

 

「一夏さんをわたくしから奪おうなどと、一万年早いですわ!」

 

 

 セシリアのビットによる集中攻撃。更には、鈴の衝撃砲が白騎士に距離を取らせる。

 

 

「なにさらっと一夏を自分のものにしてんのよ、アンタは!」

 

 

 鈴の思いも負けていない。

 小学校時代に異国の地だった日本に来て、不安から強がっていた鈴。

 そんな鈴に出会って、気持ちをほぐしたのが一夏だった。

 つらいときも、寂しい時も、いつもそばにいてくれた一夏。

 その一夏が今内なる闇と1人闘っている。

 かつて、一夏が鈴にしたように。今度は、鈴から手を差し伸べよう。

 それが、今もずっと続いている初恋なのだから。

 

 

「一夏は、アンタなんかに渡さないんだから‼︎」

 

 

 鈴の双天牙月の連結と投擲によって、ぐらりと白騎士が揺れた。

 そこに、畳み掛けるようにショットガンの散弾連射が襲いかかる。

 

 

「シャルロット‼︎」

 

「お待たせ‼︎どういう状況かは通信で聞いていたからわかるけど、なんだか告白大会になってない?」

 

 

 束からうけたダメージによって離脱していたシャルロット、ラウラ、簪の3人。千冬の安静の指示と制止を振り切って、戦線に加わった。

 

 

「ふふん、そう言うことなら私の出番だな」

 

「私も、負けてない………」

 

「それじゃあ、お先に‼︎」

 

 

 そう言って飛び出したのはシャルロットだ。

 

 

「目を覚まして、一夏‼︎」

 

 

 未だ体勢を立て直さない白騎士へと繰り出すのは、シールドの中に隠していたとっておき。旧世代型の装備であるが、最新装備にも張り合える強力な攻撃力を持つ隠し玉、パイルバンカー灰色の龍鱗(グレー・スケール)

 

 

「これで!」

 

 

 一夏との出会いから、心を救われたシャルロット。

 ここにいればいいと、言ってくれた一夏。

 居場所は決めている。

 心の置き所も、もう決まってある。

 だから、言葉にしたい。

 伝えたい。

 

 

「僕の大好きな一夏に戻って‼︎」

 

 

 体勢を回復する白騎士だが、シャルロットの一撃の方が早い。直撃を避けるために犠牲にした左腕の装甲が打ち砕かれ、武装多機能腕(アームド・アーム)を失い、手札の一枚を失う白騎士。

 この場をどう切り抜けるかデータを算出。その一瞬の隙は致命的な隙となり、プラズマ手刀が装甲の隙間に差し込まれる。

 

 

「私を守ると言っただろう、一夏!」

 

 

 最低の出会いから、最高の初恋へと変えてくれた一夏を想う気持ちは、誇れるほどに強い。

 自分を守ると言ってくれた。

 だったら、自分も一夏を守りたい。

 一夏を包み込める存在でありたい。

 

 

「私の声が聞こえるか、一夏!」

 

「私たち、だよ。ラウラ‼︎」

 

 

 右肩の装甲がプラズマ手刀に破壊され、ラウラが飛び退いた刹那、白騎士に連装ミサイル山嵐が迫る。ミサイルの爆発直後に離脱したシャルロットとラウラは、箒たちと並んで射撃武器の集中砲火を浴びせた。

 

 

「一夏を、返して………‼︎」

 

 

 楯無の影に怯えていた簪。

 その闇に囚われていた心を救い出したのは一夏だった。

 一夏は、光のような存在。

 眩しくて、暖かで、まっすぐな存在。

 だからこそ、自分もそれに近づきたい。

 もう2度と、負けたくない。

 なにより自分自身に。

 

 

「お姉ちゃんがいなくても、私は………‼︎」

 

「皆さん、お待たせしました‼︎」

 

 

 突如として戦線に乱入するひとつの機影。それが山田真耶だと理解するのに、全員が数秒を有した。

 

 

「山田先生⁉︎」

 

「なんで………ってか、そのISは⁉︎」

 

「話は後に。まずは一夏くんを止めます‼︎」

 

 

 集中砲火を浴びせられ、機動力の落ちた白騎士。そこに畳み掛けるように真耶のISの背後、4枚のウイング状のシールドが白騎士を挟み込む。シールド同士はワイヤーで結ばれており、完全に身動きが取れない状態。

 その隙間に右腕に構えたサブマシンガンを捩じ込むと、躊躇いもなく引き金を引く。

 

 上空に響き渡る剣呑な音。それは、シールド内で跳弾を繰り返して、白騎士の装甲を削る音だった。

 これこそが真耶が代表候補生時代に得意としていた技、絶対制空領域(シャッタード・スカイ)。そのあまりにもエグい技から、一部では悪魔だとも呼ばれている過去が真耶にはあった。

 

 

「う、うわっ………」

 

「山田先生、えぐい………」

 

 

 けれど、その凶悪さ故に威力はお墨付き。誰しもが勝利を確信して手を止めたその時である。

 カチリ、と無情にも弾切れを告げる真耶のサブマシンガン。一度それを収納して、新しいものを再展開。そのコンマ数秒の隙を白騎士は見逃さなかった。

 

 

「きゃあっ‼︎」

 

「山田先生‼︎」

 

 

 装甲が幾分か削れた分、動きやすくなった身体。シールドと身体の隙間は剣を振るうには十分。一度弾かれた剣を量子変換し、手の中に再構成。シールドを結ぶワイヤーを断ち切り、白騎士は自由を取り戻す。

 

 すぐに遠距離での集中砲火を再開しようと、それぞれが銃を構えるが、白騎士からすれば欠伸が出るような遅さ。一瞬にして無力化できる。

 

 ボロボロのスラスターが点火され、いざ進まんと身体を乗り出した瞬間であった。頭上から信じられないとばかりの絶叫が聞こえたのは。

 

 

「ちょ、ナナくん‼︎ダメ‼︎」

 

 

 反射的に空を見上げる白騎士。そこには白騎士めがけて落下する生身のナナの姿。

 

 白騎士の戦線が届け先の千冬より手前にあったことが運の尽き。迂回は遠く、更に上空からナナを送り届けようとした楯無だったが、白騎士頭上に差し掛かった瞬間、腕の中のナナが暴れて落としてしまったのだ。

 

 助けに飛び出そうとする専用機持ちだが、距離が遠い。白騎士の注意を戻そうにも、ナナを巻き込む危険性がある。動くに動けないジレンマ。助けに行こうにも行けない絶望。ただ、白騎士がナナを無視する事に賭けるしかなかった。

 

 ナナの耳元で唸りを上げる業風。立ち昇る煙が目に入り、自然と涙を溢すが見つめる先は一点、白騎士の姿のみ。

 白騎士からすれば取るに足らない存在。資格なき、力なき者。だが向かってくるのなら斬り伏せるだけ。切り上げるために剣を斜め右下へと構え、迎撃体勢。後はタイミングに合わせて振り上げるのみ。

 

 そしてその瞬間は訪れる。

 

 夜空に煌めく刃の一線。誰もがナナの死を幻視したが、そこに血飛沫は上がらない。いや、ナナの姿も見当たらない。

 驚いたのは周囲だけではない、白騎士本人もだ。今のは確実に、絶対に斬り伏せるには十分なタイミング。

 

 演算によれば、ナナは墜落死を待つだけの障害物。けれど、白騎士は確かに見たのだ。剣が振るわれる直前、ナナが確かに笑ったのを。獲物が狙い通りの罠に嵌ったと笑う、嗜虐的な笑みを浮かべたのを。

 

 

「よォ、ガラクタ………」

 

 

 白騎士のセンサーが捉える地を這うような、重い声。左上へと振り上げた死角。首だけで背後を振り返ればそこにナナがいた。

 残されたエネルギー残量から、残された時間は10秒保てばいい方。ワンオフアビリティ、キュゲスの指輪を用いた透明化は白騎士にも捉えられなかった。

 

 武器を展開するエネルギーもない。そも、武器のほとんどは壊れている。けれども、正気を失った友を目覚めさせるのに武器などいらない。

 

 

システム(てめぇ)如きが………一夏(そいつ)を、良いように使ってンじゃねェエ‼︎‼︎」

 

 

 足場のない空中であるが、持ち前の器用さをフルに使った重い拳。全身の関節を稼働して放たれたそれは過不足なく頬を捉え、バイザーを破壊。

 吹き飛ぶ白騎士は今の一撃で限界が来たのだろう、光の粒子となり消えていく。

 

 

「ハッ、オレのダチに手ェ出してンじゃねェよ………」

 

 

 同じくエネルギー限界を迎えたナナのISも光の粒子へ。一夏とナナ、2人揃って地上へと落下する。

 

「「「一夏‼︎」」」

 

「ナナくん‼︎」

 

 

 けれども、専用機持ち達がそれを回避。燃え盛る森に到達するよりも早く、その身は回収された。

 

 

「助かったぜ、楯無」

 

「もう、あれだけ言ったのに無茶して………お仕置き、覚悟しておいてね」

 

 

 ああ、これは本気で怒っている。

 言葉の節から聞こえる怒気に、そう直感したナナは現実逃避をするように、箒たちに受け止められた一夏へと視線を。多少の傷はあるようだが、呼吸は安定。今はただ眠っている様子だ。

 

 然るべき未来を考えようにしながらナナは、安堵のため息を溢すのであった。

 

 





なんか山田先生が理解者になると言う不思議
なんだこれ、思ってたのと違うぞ??
それもこれも、キャラが魅力的に動くのが悪い
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