IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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既に苦境に立たされてる現状



46話

 

 

 IS学園整備室。

 1日前ーーー正確には18時間前に起きた、上空からの超高出力レーザーによるDeランド襲撃事件。死者こそいなかったものの、重軽傷者多数。特に、レーザーが直接原因のものよりも、避難する人間同士でぶつかったり、転んで踏まれたりと、二次被害によるものが多く、口さがない者からはちゃんと誘導しなかったIS操縦者のせいだという声が上がっている。

 

 無論、パニック状態から来る言葉であり、ナナからすれば一考する価値もない戯言。けれど、一夏たちからすれば胸を痛めるには充分だったらしく、何が起こったのだと警察からの事情聴取を終えた後、意気消沈していたことを覚えている。

 

 あの時、機体が万全であれば襲撃者を捕らえられただろうか?

 そんな疑問を浮かべるが、所詮はたらればの話。結局、準備していなかった自分が悪いのだ。

 

 

「オーウェンくん、調子はどう?」

 

「Good。悪ィな、付き合わせて」

 

「いいのいいの。その代わり、今度独占取材よろしくね!」

 

 

 整備科である2年の黛薫子を代表に、複数人にISの修理を依頼。結局朝までぶっ通しでやる事になったが、整備科の面々に疲労はない。どころか、やはり専用機に触れるというのは刺激になるようで、今後の整備に活かせると歓喜しているのが多数。まぁ、徹夜してハイになっているだけなのかもしれないが。

 

 私は学食のパフェ奢って、じゃあ私は相談室の予約権で、と各々の報酬を聞き入れながら解散。急ぎだったとはいえ、早急すぎたかと少し後悔するが、今は横に置いておく。

 

 ちらり、と取り出したケータイに付けられた、ドボン太くんストラップ。楯無と色違いのそれはあの日の思い出であり、何よりそれに水を差した存在を忘れないための目印。

 舌打ちひとつ溢せば、先ほどの整備科の面々と入れ替わりで入ってくる布仏虚。ナナの存在を確認すると、手に持っていた紙の資料を手渡す。

 

 

「ここにいたんですね。これ、頼まれていたものです」

 

「悪ィな」

 

「いえ、お嬢様にも頼まれていましたから」

 

 

 全くもって気の利いた彼女だと、少しの気恥ずかしさ。けれど、今はそれどころじゃないと頭を振って、貰った資料に目を通す。そして、数秒後に胸中に溢れるのは苛立ちの感情。

 

 

「チッ、おいおい………虚、こいつァ何の冗談だ?」

 

「どの資料の事です?」

 

「とりあえずはコイツだよ」

 

 

 取り出した資料をぴらぴらと振ってみせ、虚に手渡す。目を通した虚は、ああこれか、と納得を。自分で確認した時も、何の冗談だと思わずツッコミを入れた思い入れのある資料である。

 

 

「衛星軌道上からの攻撃………ってのは、まぁ、置いといてやる。問題は測定されたそのエネルギー量だよ。なんだ、そいつァ。バカと冗談が総動員してンぞ」

 

「私も驚きましたよ。けど、事実です」

 

「ハッ、これに比べりゃISなんてただの火遊びだな。どっかの神様が地上のアリの巣を焼き払いたくなったってか?」

 

「神の奇跡ではなく、人の悪意ですよ………次の資料に詳細があります」

 

 

 虚の言葉に鼻を鳴らして、渋々と視線を手元に落とす。そして、そのページの意味を理解すると、「Jesus Christ………」と呟いた。

 

 

「イギリス、アメリカ両国合同で作り上げた攻撃衛星、エクスカリバー。太陽光を充填、そして地上に向けて放つ兵器です」

 

「オイオイ、バベルの塔がまた崩されたか?意味わからねぇ………はぁ、ンで?イギリス(Limey)アメリカ(Yankee)、どっちの仕業だ?」

 

 

 呆れるように、馬鹿にするかのように肩を竦めるナナ。けれど、虚は首を横に振ってそれを否定した。

 

 

「………亡国機業、そして篠ノ之束。彼女たちが衛星の制御権を奪取したことを、両政府が公式に認めました」

 

「…………はぁ?」

 

 

 理解が及ばない、とばかりに頭をひねる。だって、そんな事ありえないだろう。

 

 

「オイオイ、虚。オレの勘違いか?その御大層な名前の兵器は、米英の軍事用最高機密なンだろ?なンでテロ屋のネーチャンがスイッチを握ってやがる?」

 

「………篠ノ之束によるハッキング、というのが両国の見解です」

 

「ハッ! 笑わせるな。どんだけ高度なハッカーだろうと、物理的に隔離された軍事回線(クローズド・ネットワーク)に外部から侵入するのは不可能だ。……政府の内部に手引きした売国奴(シロアリ)か、あるいは束なら何でもできるという言い訳で自分たちの無能を隠してやがるんだな。どちらにせよ、あのYankee(米国人)Limey(英国人)どもは、自力で火を消す気もねェらしい」

 

 

 クソッタレ、と吐き捨てて、資料を背後に放り投げる。つまるところ、今回も亡国機業の仕業。ならば遠慮はいらない。京都の借りも含めて、熨斗つけて返してやろうじゃないか、と意気込むナナ。

 けれど、ゆるりと、頭を横に振る虚が、事態はそんなに単純ではないと言っていた。

 

 

「それならばよかったんですけど……… イギリス政府を介して、その亡国機業から協力の要請が来ています。暴走したエクスカリバーを止めるために、IS学園の専用機持ちを宇宙(現場)へ送れ、と」

 

「……悪い、耳が腐ったかと思った。もう一度言ってくれ。そのテロ屋(亡国機業)が、どの面下げて協力を抜かしたって?」

 

 

 あまりの言葉にナナの瞳から温度が消える。気温が一気に下がったかのような、そんな錯覚を虚は覚えるが、果たしてそれが本当に錯覚だったのか。そう疑ってしまうくらいに、今のナナの瞳は絶対零度の冷気を放っていた。

 

 けれど、虚の動揺は少ない。何せ、主人である楯無に報告した際も同じような反応を見せてくれたのだから。

 

 

「協力だと? どの口が抜かしやがる。テメェらで火を放っておいて、消火活動はこっちに丸投げ。おまけに、招待状の送り主は、昨日一夏や刀奈の頭の上にレーザーを降らせた張本人じゃねェか。学園側はどうすンだ?」

 

「受けるようですよ。渋々ですが」

 

 

 チッ‼︎‼︎と今日1番の舌打ちを溢して、納得がいかないと頭を掻くナナ。

 いや、理解はできるのだ。エクスカリバーを放置して、その矛先が学園に向かない保証などなく、それも篠ノ之束というとびっきりの鬼札(ジョーカー)を利用できる。今ここで協力するメリットはデカい。

 

 だが、学園が得られるものはイギリス政府からの表彰くらいのもので、エクスカリバーは亡国機業の手に渡ったまま。結局のところ、隙を見て破壊するしかないだろう。

 どんなハイテクな兵器であろうと、壊れてしまえば意味はない。不慮の事故として処置してもらえるよう、千冬と楯無に頼んでおく事を心に決める。

 

 

「3時間後に作戦ブリーフィングが会議室にて行われます」

 

「All right。ならそれまで、蛇は牙を研いでおくよ」

 

 

 ぞわり、と虚でさえ皮膚が粟立つような殺気。それを無理やり喉の奥に押し込めて、ナナはその場を去る。やるなら徹底的に。エクスカリバーの破壊と同時に、亡国機業を捉えるのだと意気込み、ナナは人知れずその手に力を入れるのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 ーーー3時間後、IS学園会議室。

 

 千冬、楯無を始めとした一年生専用機持ちが集結。定刻になっても姿を現さないナナにため息を溢して、千冬は作戦を説明する。

 

 

「よく集まってくれた。ただいまより、今作戦についての説明を始める」

 

「あれ?千冬姉………んん!織斑先生。ナナがいません」

 

「山田先生が迎えに行っている。それに、既に楯無経由で内容は知ってるから、大した問題はない」

 

 

 遅刻者に時間は割けないのだと、言外にそう告げて千冬は今作戦について説明する。

 

 

「昨日、横浜のDeランドにてレーザーによる攻撃を受けた。織斑、オルコット、現場に居合わせた貴様らはよく知っているだろう?」

 

「え、えぇ………」

 

 

 話を振られたセシリアであるが、心ここに在らず。作戦について内容は頭に入ってきているが、今はそれ以外の事に心を割かれている。

 

 

(………チェルシー)

 

 

 セシリアのメイドであり、幼き頃から一緒に暮らしていた友人。その人が突如、その現場に現れたのだ。それも、本国で作成中であったブルー・ティアーズ三号機を身に纏って。

 レーザー攻撃と何か関係しているのか、「本国にてお待ちしております」とだけ言葉を残して空間の中に消えた彼女。何があったのか、何が起こっているのか、それが棘となって中々集中できずにいた。

 

 それを察したのか、千冬は嘆息を。代表候補生として言えば、セシリアのそれは候補生として失格。けれど、家族同然に育ってきた人が突如として謎の行動、それこそ裏切りを示唆するような行動を起こしたのだから一概にその感情を否定はできない。

 

 今はそれを追求する暇もなく、千冬は説明を続ける。

 

 

「レーザーの正体は衛星軌道上にある、米英の共同開発兵器エクスカリバーによるものと判明。制御権を亡国機業に奪われ暴走。イギリス政府経由で救援の依頼が来た」

 

 

 ざわり、と専用機持ち達から動揺の声が上がる。

 それもそうだろう。軍事衛星が亡国機業に奪われた、と言うだけでもいっぱいいっぱいであるのに、更には当のテロリストから救援?何の冗談だと思われても仕方がない。

 

 そこに関しては千冬も同意見。けれど、無視できない事情があるのも確か。

 

 

「説明中だ、私語は慎め………楯無」

 

「はい。織斑先生の言うとおり、暴走したエクスカリバーはその軌道を移動。ヨーロッパ全土を射程範囲内に収めてるわ。当然、諸国は大慌て。そこで白羽の矢が立ったのが学園なのよ」

 

 

 千冬の指名を受けて、今度は楯無が前に立つ。そして、プロジェクターを起動させると、図解にて説明を。

 

 

「攻撃衛星を奪われた時点で米英の国際的地位は危うい状況。IS学園の精鋭と協力して、不測の事態を解決したって実績を作らない限り回復しないわ。それに、亡国機業側には篠ノ之束博士がいる。最悪の結果は回避できると踏んでるのよ」

 

「つまり、お貴族様(ジョンブル)どもの高貴なケツを拭うってのが、今回の作戦ってことだろ」

 

「ちょ、オーウェンくん‼︎まだ重要なお話中で………あぁ」

 

 

 吐き捨てるように、苛立ちを抑えることもなく会議室のドアが乱暴に開かれる。皆が反射的にそちらへと視線を向ければ、眉間に皺を寄せたナナの姿。

 その背後では乱入を止めようとしたのだろう、ナナの腰に抱きつきながら引きずられる真耶の姿がある。

 

 

「ナナくん、遅刻よ」

 

「悪ィな。金持ちのケツを拭く紙を用意しててな。………いつまで抱きついてるつもりだよ」

 

 

 皮肉を隠す事なく、腰に巻きつく真耶の手を外すと空いた適当な席へと腰を下ろす。机に肘をついて、その上に顔を乗せる形で不満ですと訴えており、楯無からすれば気持ちは痛いほどわかる。

 許されるのであれば楯無や千冬だって断りたい案件。けれど、エクスカリバーという特大の厄ダネを放置できないのもまた事実。

 

 

「にしても、貴族としての義務(ノブレス・オブリージュ)とやらはどこに捨てたんだろうな。テメェの不手際で燃えたケツを、他国のガキに拭かせるってのが義務ってンなら、最高に笑える冗談だ」

 

「ナナさん、それは………」

 

 

 流石にいいすぎだと、そう告げようとしたセシリアの言葉は、温度のないナナの視線に遮られる。セシリアに非があると言うつもりはないが、祖国のやり口は看破できない。その思いがふんだんに込められた視線はセシリアを黙らせるには充分であった。

 

 凍るような、寒々とした空気を入れ替えようと、一夏が慌てて口を出す。

 

 

「で、でもさ!イギリスだけじゃなくて、世界的な事件なんだろ?なら、解決しなくちゃーーー」

 

「世界的事件ってのは確かだが、だからこそ学生に手ェ借りるバカがどこにいるよ。一夏、テメェが財布を落とした時に真っ先に頼るのは、そこらを歩いてるガキか?それとも警察か?」

 

 

 それを言われて一夏も口ごもる。

 IS学園は確かに中立であり、どこの組織にも属さない学園であるが、だからと言って責任を押し付けていいわけではない。所属している大半は学生、つまりは未成年なのだ。まともな大人がしていい判断ではない。

 

 

「はぁ………オーウェン、そこまでにしておけ。話が進まん」

 

 

 千冬の言葉に、まだ言い足りない事があるのだろう。口を開こうとするナナだが、千冬の鋭い視線に口を閉じる。代わりに、両手の人差し指と中指を2回ほど伸び縮みさせて舌を出していたが。エアクォーツと呼ばれる、皮肉を込めた動作にセシリアが顔を赤くして震えていた。

 今作戦には相当据えかねているのだろう。それは自身も同じで、頭が痛いとこめかみを抑えて楯無に続きを、と話を振る。

 

 

「はぁ………はい。ナナくんの言う通り、今回は正直言って尻拭いよ。それに、亡国機業側から条件を出されてるわ」

 

「条件?」

 

「そ。この件にIS学園を関わらせる事、そして作戦中の稼働データの提出よ」

 

 

 特に一夏くんの白式をね、と付け加えた瞬間、我慢の限界がきたナナが立ち上がる。それはそうだ。これは明らかに舐められている。

 

 

「オイオイ、まさかとは思うが、学園はこの条件を飲ンだのか?上層部は薬でもキメながら判断したのか?」

 

「オーウェン、もう一度言う。そこまでにしておけ」

 

 

 本人も思うところがあるのか、拳を握りしめてはいるが教師として動かざるを得ない。有無を言わさない千冬の視線と、それでも引こうとはしないナナの冷ややかな視線がぶつかる。その間に挟まれた専用機持ちはどちらに加担するべきか、そも割り込んでいいものなのかと悩んでしまうほど。軍人であるラウラでさえ言葉を無くしてしまうのだから、それがどれほどのものか。

 

 そんな2人の間に割って入る楯無は、流石に肝が据わっている。

 

 

「はいはい、2人ともそこまで。一応、京都の一件で下がったIS学園の信用の回復の意味合いがあるわ」

 

「それで前線に立たされる身にもなってみろってンだ」

 

 

 乱暴に席に座ると、机に脚を乗せて両手を後頭部へ。

 「お行儀が悪いですよ、オーウェンくん」と嫌に笑顔の真耶から言われても効果はなし。シャルロットは困ったように眉を下げ、鈴は憤慨して口を開きかけるが、隣に座るラウラの凍りついたような横顔を見て、言葉を飲み込む。

 

 言えないのだ。

 感情論や英雄主義(ヒロイズム)で語れるほど物事は小さくなく、そしてナナの言っていることは正しい。イギリス政府、及び大人達は最悪の場合、お前達が犠牲になれ、とそう言っているのだから。

 

 

「はぁ………ナナくんの機嫌をこれ以上損ねる前に、今回の特別な助っ人と特別な装備について説明しちゃいましょうか。篝火さん、どうぞ」

 

「はいはーい。呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん‼︎」

 

 

 控室のドアから勢いよく飛び出したのはスク水のようなISスーツの上に白衣を纏い、頭には水中メガネと手にモリを携えた女性。誰が初見で信じるのだろうか。一夏の専用機、白式の開発元である倉持技研、その所長だと。

 

 

「良い子のみんな、待たせたね。みんなの頼れるお姉さん、ヒカルノお姉さんの登場だよ‼︎」

 

 

 はい、拍手と告げられるが、誰もついていけない。唯一、面識のあった一夏だけがまた出た、とばかりに顔を覆っていたが。

 

 

「………楯無、TVショーの道化師でも呼ンだのか?場違いだ、帰ってもらえ。ギャラでゴネる様なら鉛玉食らわせてやれよ」

 

 

 ナナの言葉は、どこまでも全員の総意であった。

 

 

「やれやれ、何て言い草だい。織斑一夏くんとは違って愛想のない子だねぇ」

 

「黙ってろよ、薬中野郎(ジャンキー)。一夏、知り合いは選べよ。こう言った手合いは、敵味方関係なく巻き込んで自爆するような厄ダネだ」

 

「いや、知り合いっていうか………この人、倉持技研の所長なんだよ」

 

 

 白式のオールメンテナンスの時に世話になったんだ、と言われナナの表情は苦々しいものに変わる。

 一夏のフォローにどうだ、まいったかと言わんばかりにピースサイン。真実なのか、と楯無へと視線を向ければこちらも重々しく頭を縦に振る。

 

 

「えー、篝火さんには今作戦のために、新装備を提供してくれるそうです」

 

「そう。それがこの、特殊外装パッケージ、可変型出力増大昇華装置ーーー略してO.V.E.R.S.(オーバーズ)‼︎その説明をしていくよー‼︎」

 

 

 プロジェクターに映し出されるのは、恐らくその装置なのだろう。仰々しく、物々しい説明がずらりと並べられ、一目見ただけでは理解できない。

 

 

「このO.V.E.R.S.は少量のエネルギーを増大、反転させることでより強大なエネルギーを引き出すという、画期的な代物さ。搭載機同士のエネルギーを均等化する効果もあって、補給のない宇宙空間でも安心安全ーーー」

 

「どこがだよ、詐欺師(ライアー)。笑えねェ冗談はそこまでにしておきな」

 

 

 もしこの場に拳銃でもあれば、ナナは迷いなくヒカルノに向かって狙撃している。言葉さえ交わす前に、その額に穴を開けるのに躊躇いは生まれない。

 

 

「エネルギーの均等化?増大と反転による強大なエネルギー?物理学の教科書は読ンだことはあるのか?」

 

 

 ゆらりと、先ほどまでの荒々しさはなく、自然に、見逃してしまうほど自然な動作で立ち上がるナナ。まずい、と近くにいた真耶が反応するも時既に遅し。

 専用機持ち達の目の前を通り抜け、あっという間にヒカルノに詰め寄ったナナは犬歯を剥き出しにしながら吠える。

 

 

「聞こえはいいが、そいつはつまり、誰か一人が致命傷を負えば、繋がっている全員が心中するってことだろ。そして、エネルギーの変換効率が100%を超える訳がねェ。本当は、ISのコアに過負荷をかけて、機体の寿命を削り出してるだけだろ。欠陥品の時限爆弾を全員の背中に背負わせて、英雄ごっこをさせる気か?」

 

 

 ナナの指摘は正確だった。ヒカルノの笑みが一瞬だけ固まり、千冬が沈痛な面持ちで視線を落とす。

 

 

「……否定はせん。だが、現実に数百万の命があのレーザーの射程範囲だ。そして、このシステムなしでは貴様らのISは宇宙で棺桶に変わる。代案があるのなら、それを提示しろ」

 

 

 千冬からしても、ほとんどブラックボックス扱いの装備など使いたくない。けれど、謳い文句が本当であるのならば頼もしい事に間違いはない。数ある案の中でこれが1番マシでしかなかったのだ。

 

 クソッ、と吐き捨ててナナは頭を掻く。問題点は山積み、けれどそれを解決するための案も、ましてや別の案もないのも事実。

 

 

「…………わかった。だが、一つだけ条件だ。そのO.V.E.R.S.の設計図の提出」

 

「いやいや、これは企業秘密だよ?そんな簡単に、ましてや学生の言葉ひとつで出せるわけないじゃないか」

 

「ならば、学園側からの条件としておこう」

 

 

 のらりくらりと、追求を躱そうとするヒカルノだが、千冬がそれを封じる。ただの学生の我儘ならまだしも学園側、それも織斑千冬(ブリュンヒルデ)から出された条件となるとそれも難しい。

 

 箒の専用機、紅椿のワンオフ・アビリティ絢爛舞踏。それをヒントに作り上げたO.V.E.R.S.。ゆくゆくは量産型紅椿製造計画の第一歩として進めようとしていたのだが、ここでやはり信用できないと断じられてはそれも進められないのだ。

 

 渋々、不承不承と言わんばかりに両手を上げて「わかったわかった。後で提出するよん」と宣言。話はついたな、と今まで沈黙していた楯無が口を開く。

 

 

「それじゃあ、最後に。本作戦は宇宙にてO.V.E.R.S.を使用した遊撃班。そして、地上でエクスカリバーを狙い撃つ狙撃班。イギリスが開発した、超長距離レーザー砲のトリガーは、セシリアちゃんの役目よ。他のみんなは地上にレーザーを落とされない様、注意を逸らすこと」

 

「…………オイ、やっぱり見捨てた方がよくねェか?」

 

「…………まるで、V1ロケットにでも乗せられた気分だな」

 

 

 思わず、と言った調子で言葉を漏らしたラウラの言葉。同意するような、納得するような声が周囲から漏れたのは言うまでもない。

 楯無も同意見であるし、イギリス政府の美味しいとこ取りの為に学生を危険に晒すこの作戦を投げ出したい気持ちでもある。けれど、もう決定してしまった事である。

 

 

「はいはい。みんな、思うところはあるだろうけど、作戦は作戦。その分、成功時にはイギリス政府にふっかけてやりましょう」

 

「亡国機業にもな」

 

 

 それは確かに、と笑ってその場はひとまず解散。

 会議室に残ったのは千冬と楯無、そしてナナと真耶の4人。全員が全員、頭が痛いとため息を溢し、今回の作戦に憂いを。

 

 

「はぁ………オーウェン。ああは言ったが、貴様の意見はもっともだ。だが、学園側にも体裁があるのも理解しろ」

 

「学生を前線に出して保つ体裁なンざ、願い下げだね」

 

「無論、最初は教師陣が行う予定だったのだが…………束の奴が駄々をこねたらしくてな。怒らせると更なる災厄を引き起こすかもしれん」

 

 

 それに加え、京都とDeランドの復興支援も重なり、教師陣の手が足りないというのが現状なのだ。「チッ、あの狂人め………」とナナが溢し、内心で千冬は激しく同意する。

 

 

 

「それに、O.V.E.R.S.は不安よね………山田先生、篝火博士から設計図は?」

 

「はい、今転送されました。解析に回しますね」

 

「お願いします。織斑先生、それじゃあ私は予定通り…………」

 

「ああ、頼んだ」

 

「オイオイ、ここでも陰謀か?次はなンだ?ゴジラでも出てくるのか?」

 

「そんなんじゃないわよ。ただ、ちょっとだけロシアへ帰省するだけよ」

 

「…………何する気だ?」

 

「うーん…………いざって言う時の備え♪」

 

 

 ちらり、とスケジュールの確認だろう。手に持ったケータイから伸びるストラップが揺れる。テーマパークで買った、安物のストラップ。ナナと色違いのそれを見て、ため息を。

 

 

「はぁ………何かあったら呼べよ?」

 

「ええ、その時は頼りにしてるわ」

 

 

 何をするつもりなのか、ナナは知らない。けれど、少なくとも利益になる為の行動だと信用している。そんな言わずとも通じ合う2人の距離感に、真耶はにやにやと頬を緩ませる。

 今作戦において色々と思うところはあるが、こう言った甘い学生同士の恋愛は清涼剤だ。鬱屈とした気分を一掃してくれる。まぁ、距離が近すぎて別の心配はあるのだが。

 

 

「オーウェン、貴様にもひとつ命令を出しておく。亡国機業が牙を向いた、その時は…………わかっているな?」

 

 

 千冬の言葉に一瞬、瞠目するナナだったが、まばたきの内に不敵に笑って答える。

 

 千冬としても苦肉の策。万が一、生徒に、もっと言えば一夏に危害を加えられるのであれば、永遠に沈黙してもらうしかない。そして、目の前の男は、かつて蛇と呼ばれた男はそれを可能とする。

 

 

「………悪いな」

 

「ハッ、何言ってンだよ。間違っちゃいねェよ、テメェは」

 

 

 蛇と呼ばれた過去も、ナナ・オーウェンという役柄も全て自身のもの。それが必要であるならば、そこに遠慮はいらない。拳が白くなるまで握る千冬に、なんて事はないとばかりにナナは笑う。

 

 こほん、と咳払いをひとつして気持ちを入れ替える。前線に立つべき大人でありながら、生徒達を立たせる不甲斐ない自身に喝を入れ、千冬は宣言した。

 

 

「ではこれより、オペレーション聖剣奪壊(ソード・ブレイカー)に向けて動き出す。各員、作戦成功に向けて全力を尽くせ」

 

 

「「「了解」」」

 

 

 各々が覚悟を決めて、作戦は動き出す。

 各々が覚悟を決めて動き出す中、ナナだけは音もなく会議室を後にした。

 廊下の冷たい空気。手元に残ったエクスカリバーの資料を、ゴミ箱へ放り捨てる。

 

 

「聖剣、ねェ………」

 

 

 天から降る裁きの光。それを神の奇跡と呼ぶ者がいるなら、自分はその神の喉笛を噛み切るだけだ。

 たとえ、その代償に自分の機体が宇宙の塵になろうとも。たとえ、この身が滅びようとも。

 

 

地獄行き(ファーストクラス)のチケットを用意してやるよ、クソッタレ」

 

 

 暗い廊下に、犬歯を剥き出した凶悪な笑みが溶けて消えた。

 

 

 

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