ドイツへと降り立った翌日。
ラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンの整備と装備の換装を超特急で終わらせ、一行は寝台列車でフランスへと向かう。
飛行機よりも時間はかかるが、空路で狙われるリスクを避けるというのは建前。本当はシャルロットの気持ちを慮ってのこと。
10時間を超える電車旅で、複雑な帰郷に整理をつけられるのならばという、千冬の思いやりだ。その不器用な優しさはある種、ナナと同じかそれ以上。「面倒なマネをよくするもンだ」と言ったナナの頭を叩いた千冬は悪くない。
見送りに来た黒ウサギ部隊の面々に別れを告げて、走り出す汽車。窓の外から身を乗り出して手を振る一夏とラウラとは反対に、ナナの表情は死んでいる。
「あー、楽しかったな。やっぱ本場の
黒ウサギ部隊の面々が見えなくなり、乗り出していた窓から身を引く一夏。寝台列車は3人部屋と2人部屋を借り、男女別に。同じ部屋のナナに話しかけるが、返事はなく虚空に視線を向けるだけ。
昨晩からずっとこの調子で、何度も繰り返し読み込んでいたO.V.E.R.S.の資料も今は横に。疲れ過ぎて脳が正常に働いていない。
「おーい、ナナ。大丈夫か?」
「Fuck………Fuck off………Damn it………」
目の前で手をひらひらと振ってみるが応答なし。口から溢れる言葉は一夏に向けたものではなく、黒ウサギ部隊に向けたものだ。
特殊部隊という事もあり、ナナとしても最初はその動きや訓練が見れるかもしれないと期待していたのだ。けれども、待ち受けていたのはBL本にサインを求める群れ。ナナ個人であれば逃げ隠れすることはできるが、その末に待ち受けているのは一夏へと雪崩れ込む光景。心に傷を負う一夏と、キレ散らかす千冬の姿。
まだ死にたくはないと覚悟を決めたナナは一晩中その攻防に明け暮れ、そしてとうとう根負けして数冊だけサインを書いたのだ。その敗北は大きく、殺し屋として築き上げたプライドがかなり傷つけられた。
サイン会が開かれなかったのは一重に迫った時間と千冬のお陰。もっと早くに助けてくれ、と言う願いは届かない。今日も今日とて、ナナは天にまします神に呪いを向けていた。
「ダメだな、これ………ナナ、今のうちに寝ておけよ。」
「Jeez………」
無論、昨晩の事は一夏には知らない事実。何か疲れてるな、という感想を持ち、ナナをベッドへと寝かせる。カーテンで空間を区切ってしまえば、譫言のように繰り返していた罵倒は次第に沈み、代わりに規則正しい寝息へと。
仕方のないやつだ、と思いつつも一夏の頬には笑みが浮かぶ。何せ、今作戦の説明があって以降、ナナはずっと何かを抱え込んでいる。それはきっと、一夏たちには見せられない、暗く汚いものなのだろう。
友人として、少しは力になりたいと思っても、ナナはきっと「適材適所だ。テメェはテメェの仕事があるだろ」と、譲る事はしないと確信を持って言える。
本当に、不器用で皮肉屋で、どうしようもないくらい一夏たちの事を考えてくれる、仕方のないやつだ。
だから、一夏にできるのはこのくらい。疲れた時にベッドに横たわらせる事が精々。
「早く元気になれよ」
そう言って一夏も自身のベッドへと移ると、眠りにつくのであった。
そして数時間が経過。日もすっかり落ちて夜の帳が下りる中、ひた走る寝台列車。ガタン、と大きな揺れにナナは意識を覚醒させる。
いつの間に眠っていたらしい。なぜ列車の中で眠っていたのか、疑問は残るがとりあえずは痛む頭を押さえる。ドイツで何かがあったようだが、思い出せない。どころか、思い出そうとするたびに脳がそれを拒否する。
「ったく、何なンだ………」
皮肉をこぼして身体を起こし、ベッドから降りる。隣のベッドでは一夏の寝息が聞こえており、どうやら見張りは立てていないようだと理解する。全くもって不用心。身の回りの品や身体に何かされていないかの確認を。失ったものはなく、身体にも異常なし。
安堵の溜息を溢し、今まで眠っていたせいだろう。目の冴えたナナは部屋を出る。そして、通路から窓の外を眺めるシャルロットの姿を捉えた。
郊外から街中に入ったのか、窓から断続的に差し込む街灯の灯り。それに照らされた表情は固く、憂いと不安に満ちたもの。ナナの視線に気づいたシャルロットは、外に向けていた視線をハッとそちらへ向けて弱々しく笑う。
「………あ、ナナ。目、覚めちゃった?」
「まぁな。テメェは………」
「………うん。ちょっと緊張しちゃって」
もうナナに隠しては意味はないと悟っているシャルロットは、素直に胸の内を吐露する。苦々しく笑って、恥ずかしさを誤魔化すように頬を掻いて、そしてため息を。
「はぁ………覚悟、してたんだけどね。やっぱり、フランスに近づくにつれて、揺らいじゃって…………あはは、かっこ悪いよね」
「前にも言ったが、テメェはいい子ちゃん過ぎンだよ。覚悟が揺らぐなンて当然だ」
シャルロットの隣に並び立つと、窓に背を預けてナナは天井を見上げる。覚悟が揺らぐ気持ちは大いに理解できる。手を出さないと決めていた楯無との関係を、何度反故にしかけたことか。
それを思い出す度にため息を溢す。頭の内から響く痛みも相まって、右手で顔を覆って今度は項垂れる。
「はぁ………向き合おうとするだけ、テメェはまともだよ、シャルロット」
「………うん、ありがとう」
お礼を伝え、再びシャルロットの視線は外へ。ナナも痛みが治まってきたのか、俯いていた視線を再び天井へと向ける。暫しの間、2人の間に流れるのは寝台列車が線路を渡る音のみ。
ガタン、ガタンと規則正しいリズムと振動は眠気を誘うもので、不意にシャルロットが欠伸を溢す。
「ふぁぁ………ねぇ、ナナ。僕の父の、アルベール・デュノアの印象を聞いてもいい?」
「…………話にしか聞いてねェが、社長としての腕はあるンだろうな。逆に言えば、それだけしか能がねェンだろうよ」
「ふふ………酷い、言いようだね………」
「なンだ?忖度して欲しかったか?」
「ううん……………ナナらしくて、安心したよ………」
うつらうつらとシャルロットの頭が船を漕ぐ。部屋に戻るように促そうとするが、この様子だとまともに歩けるかすら心配だ。はぁ、と深いため息を溢して、ナナはシャルロットの腕を取って肩に回す。
「ほら、しっかりしろ」
「うーん………」
張り詰めていた緊張の糸も緩み、列車の揺れが止めとなり、既にシャルロットの意識の半分は夢の中。
足並みを合わせるよりも抱えた方が早いと判断したナナは、そのままシャルロットを横抱きに。そのまま遠慮なく、千冬たちの部屋へと向かう。
そしてスライド式のドアの前に立つと、ナナの気配を察したのだろう。自動で開いたドアの先に、千冬がそこにいた。
「オーウェンか………」
「お届けモンだ………ったく、こういうのは一夏の役目だろうが」
中に入るつもりはないのだろう。抱いて運ぶうちに、すっかりと意識を落としたシャルロットを千冬に渡す。
「…………オーウェン、デュノアの父親の話は聞いてるな?」
シャルロットを受け取った千冬の問いかけ。それに肩を竦めてナナは答える。
「あぁ。なンでも、素晴らしい社長みたいだな」
皮肉をふんだんに込めてのエアクオーツ。千冬も思うところはあるのか、ナナを否定する様子はない。
両親のいない一夏の姉兼親代わりとして育ててきた千冬。自身の事を立派な育て親だと言い張るつもりはないが、少なくともアルベールよりはまともだろうと思う。最も、あれより下を探すのは難しいだろうが。
「そいつがどうした?シャルロットを回収しようとしたら、止めればいいのか?」
「まぁ、それもあるが………それとは別だ」
おや?とナナは頭を横に傾ける。他国や組織がIS学園に干渉することは不可能であり、リヴァイブで世界的シェアを誇るデュノア社であろうと例外ではない。だが、それは学園内での話であり、今回のように会社に出向く形であれば、生徒を守ることは難しい。
抗議や抵抗は可能であるが、ただでさえ作戦中。それも時間にそこまでの余裕があるわけではない。戦力が欲しい現在、シャルロットが抜けるような事態になれば作戦の成功率に関わると考えていたのだが、どうやら千冬の心配はそこではないらしい。
はぁ、と深いため息を溢すと、千冬は苦々しく、身内の恥を晒すように口を開いた。
「ウチの愚弟がやらかす可能性があるのはわかるな?」
「…………あー」
言われてみれば確かに、とばかりの音がナナの口から漏れる。一夏ならば、仲間思いの織斑一夏ならば、予想されるアルベールの性格とは水と油だろう。頭の中でどう希望的にシミュレーションしても、一夏がアルベールに殴りかかる未来しか見えてこない。
「私の言いたいことはわかるな?」
「OK OK………ったく、いつからオレの仕事は子守になった?報酬は弾ンでくれンだろうな?」
「期待しておけ」
元裏社会の人間であろうと、今は学生。O.V.E.R.Sの件然り、道中の警護然り、流石に頼りすぎで働かせすぎだ。学園側が報酬を用意しなくとも、最悪千冬個人で用意するつもりである。それならばいい、と肩を竦めて踵を返すナナ。
「………オーウェン、無茶はするなよ」
「何を今更」
胸にのしかかる罪悪感。それを誤魔化すように告げた千冬の言葉を、ナナは手をひらひらと振って答えるだけ。
実際、状況的には多少の無茶をしなければならないのだ。ならばその泥を被るのは自分だけでいいと、自己犠牲とも言えない贖罪。生徒に酷な事を強いている自身の苛立ちを握り潰すように、シャルロットを抱える腕に無意識のうちに力が入る。
「うぅん…………」と漏れたシャルロットの声に、ハッと我に返る千冬。
腕の中の教え子は、嵐を前にした束の間の安らぎに身を委ねている。
彼女を守るために、自分は教え子の一人を泥沼へと突き落とした。
「………すまないな、オーウェン」
誰にも届かない謝罪。噛み締めた奥歯の音だけが、夜を走る列車の振動に虚しく消えていった。
ガタン、と線路の継ぎ目を超える音が一段と大きく響く。窓の外、過ぎ去っていく看板の文字がドイツ語からフランス語へと完全に切り替わった。鉄の塊は、逃げ場の無い運命を乗せて、フランスの深奥へと突き進んでいく。
◇◆◇◆
「おー、これがパリ………って寒っ‼︎」
寝台列車で一夜を過ごし、陽の登り切った頃。列車から降りるなり、一夏は身を震わせた。降り注ぐ陽光は雲に遮られ、12月の寒さを癒すには足りない空模様。
両腕を抱く一夏の隣、シャルロットが仕方ないとばかりに苦笑いを。
「もう、そんな薄着だと寒いに決まってるよ。ほら、これ」
「お、おう………ありがとう」
身につけていたマフラーを一夏にかけてやり、少しの暖を。気恥ずかしいやら、マフラーから香るシャルロットの匂いに恥ずかしいやら、顔を赤くする一夏にふわりとシャルロットは笑いかける。そこに不安はなく、好きな人の隣はよほどリラックスできるのだろう。パッと見ただけでは無理していることはわからない。
少し離れて凝り固まった身体を伸ばしながら、バキバキと音を立てて解される骨と筋肉に爽快感を感じながら、ナナは頭の隅で考える。
確かに、列車の中よりも緊張はほぐれているが、全く緊張していないわけでもない。好意を寄せる異性の手前、虚勢を張って格好つけているようなものだ。
偶に見せる弱味は男を引っ掛けるテクだと、教えておけばよかっただろうか。そんな多少の後悔を今更ながら胸に抱く。
最後に腰に手を添えて身体を大きく反ったところでストレッチは終了。予定ではデュノア社から迎車が来るはずだが、と辺りを見渡して隣から視線を感じた。
「………どうした、ラウラ。言っておくが、オレは馬に蹴られるようなマネはしねェぞ」
「そうではないが、いや、なくはないが…………」
相談事がありますと、視線と表情で伝えてきたラウラ。蚊帳の外の現状に面白くないのは確かだが、それよりも気にしている事があるのだろう。
ちらり、とシャルロットと一夏へと視線を向け、こちらに意識は向いていないのを確認すると、しゃがむようにと手招きするラウラ。30cmではきかない身長差に仕方がない、とナナは腰を落とす。そして内緒話をするように、ラウラはナナへと顔を近づけた。
「…………シャルロットの事だが、何か聞いているか?」
「…………気づいてたのか」
「あの程度、気づかないはずないだろう」
何を言っているのだ、とばかりの天然の煽り。一瞬、ナナの頭に血が昇るが深呼吸してクールダウン。落ち着けと、今チームワークを乱すわけにはいかないと必死に自分に言い聞かせる。
「ふぅぅぅ…………クソ親父に会うのが嫌なンだとよ」
「そうか………何か力になれたらと思ったのだが………」
初対面の時からは考えられない、他人を慮る心。本当に変わったものだと、肩を竦めるナナ。まぁ、人の事は言えないほどナナも変わっているのだが。
「………私は友人として、頼りないだろうか?」
「心配かけたくなかっただけだろ。オレだって、別に信頼されてるわけじゃねェ」
相談されないのは信頼されてないからだろうか、と心配するラウラの悩みをナナは一蹴。別に、ナナ自身だって信頼から相談されてるわけではないのだ。ただ単に、相談役として、もっと言えばサンドバッグとしてちょうどいい立ち位置にいたというだけだ。
そんな皮肉めいた言葉はお気に召さなかったのだろう、むすっと顔を顰めたラウラから耳を思いっきり下に引っ張られた。
「イッ‼︎‼︎」
「何度も言われたと思うが、そう卑下するな。少なくとも、私は友人として信頼している」
「わかった、わかった‼︎わかったから手ェ離せ‼︎」
その言葉に満足したラウラが手を離すと、すぐに耳が千切れていないかの確認を。ジンジンと、燃えるような痛みに耳を抑え、二度目がないように立ち上がる。
「………来たようだな」
恨むようにラウラを睨むナナであるが、当の本人は胸を張って満足そうに頷くだけ。「この野郎………」とナナの口から溢れた言葉。それと被せるように今まで静寂を保っていた千冬が視線を上げる。
同時に、全員の前に黒塗りのリムジンが停車。中から慌てて燕尾服に身を包んだ初老の男性が出てきた。
「遅れて申し訳ありません、皆様。わたくし、アルベール様より送迎を賜った、ジェイムズと申します」
温和な口調で、恭しく礼をひとつ。執事として長年仕えているのだろう、その所作は精錬されたもの。今のところではあるが、妾の子であるシャルロットに蔑むような視線や圧を向けていない。
「久しぶり、ジェイムズ」
「お久しぶりでございます、お嬢様。この度は渋滞にハマってしまい申し訳なく………」
「いいから。それより、あの人が待ってるんでしょ?」
「その通りでございます。ささっ、こちらへ」
待たされたことに苦言を申し立てようとしたナナであるが、面倒ごとを増やすなと千冬に視線で圧されて仕方なく口を閉じる。そして、一呼吸置いて意識の切り替えを。アルベールに思うところはあるが、一先ずは一夏が暴走した時のストッパーとして動かなければならないのだからだ。
そうしてジェイムズの運転で案内されたのは、パリにあるデュノア社特設ISアリーナゲート前。新装備の試運転のための設備はIS学園のアリーナよりも狭いが、その代わり周囲にはいくつもの測定器やカメラが搭載されており、360°どこからでも測定と撮影が可能。学園のものとは違い、天井は開閉式のドームであるが、それが普通。シールドで守られている学園の方がおかしいのだ。流石は最新設備の整うIS学園と言うべきかもしれないが。
そんな設備の入場ゲートの前、しきりに腕時計で時間を気にしながら鋭い視線でシャルロットたちを睨む男性がそこにいた。その男こそシャルロットの父親にしてデュノア社の社長、アルベール・デュノアその人。高級スーツに身を包み、切り揃えた顎ヒゲ、そのどれもが厳格な社長だと言う印象を与えてくれる。
「遅い」
リムジンが到着し、ぞろぞろと足並み悪く出てきたナナ達へと、開口一番の声。頭ごなしのそれに、一夏でさえムッとするがそれよりも早くシャルロットが先に口を開いた。
「申し訳ありません、社長」
頭を垂れるシャルロット。その姿を見て、アルベールは実に機嫌が悪そうに「ふん」と息を吐いた。
「ちょっとアンタ、さっきからーーーぐえっ⁉︎」
実の娘にその態度はないだろうと食ってかかろうとした一夏を、ナナが首根っこを掴んで抑える。そして、その代わりに頭を下げるのは千冬の仕事だ。
「申し訳ありません。生徒が無礼をはたらきました」
「かまわんよ」
「ありがとうございます」
そんな弱気な態度の千冬にますます腹が立つ一夏だが、ナナがそっと耳打ちをひとつ。
「落ち着けよ、一夏。ここで暴れて何になる。シャルロットの立場がやばくなるだけだ」
「うっ………」
世界で2人しかいない男性操縦者と言う称号も、今この場では役に立たない。干渉されないはずの学園の立ち位置も、優位性はないのだ。その事に気がついた一夏が言葉を詰まらせ、それでも何かできないかと懇願するようにナナへと視線を向ける。
残念な事だが、方法はない。あるにはあるのだが、デュノア社をISで襲撃、もしくはアルベールの殺害くらい現実的ではない方法のみ。一時的にすっきりはするかもしれないが、少なくともその後まともに生活できることはないだろう。
「我慢しろよ、一夏。気持ちはオレも同じだ」
「ナナもか………」
「あぁ。ああ言う
「いや、そこまでは………うん、思ってないぞ?」
「そうかい」
自分以上にキレている人を見れば怒りは鎮火するのか、ひとまずは大人しくなる一夏。肩を竦めて離れるナナだが、再びアルベールへと向かう様子はない。それもいつまで待つか、ある意味見ものであるのだが。
「こほん。さて、本題に入らせてもらおう。シャルロット・デュノアには第三世代ISへの乗り換えを行ってもらう。その準備は整っている」
一方的に、淡々とそれだけ言って、1人先にアリーナの中へと歩き始めるアルベール。それに食らいついたのは当のシャルロットだった。
「ちょ、ちょっと待ってください!乗り換えって、そんな、簡単に………僕はリヴァイヴを降りる気はありません!」
力の籠ったまなざしで拒絶を示すシャルロットだったが、アルベールは冷たく一瞥しただけ。興味がないとばかりに、再び前を向く。
「お前の意見は聞いていない」
「っ………‼︎あなたは、いつもそうやって‼︎」
白くなるまで握り締められたシャルロットの拳。それはシャルロットにとって譲れないもの。デュノア社に引き取られてからずっと共にいた相棒を、そんな簡単に切り捨てられるわけがない。
「貴方はなにもわかっていない!リヴァイヴのことも!母のことも!」
珍しいほどに、声を大にして叫ぶシャルロット。それに触発されて動き出す一夏とラウラの2人を、千冬とナナがそれぞれの腕を取って止める。
「くそっ‼︎ナナ、離せよ‼︎」
「教官‼︎今は、今だけはお許しください‼︎」
「だから、落ち着けって言ってンだよ、
「黙れ、暴走は許さん。………通達されているはずですが、今作戦においてコア・データの
使い慣れた旧式と、不慣れな最新型。そのどちらかで危険な作戦に身を投じなければならないとなれば、前者であろう。ただでさえ宇宙という、未知のフィールドで不安要素はできる限り少なくしておきたい。
千冬の言葉は確かなもので、アルベールが足を止めて一考する。そして、考えが纏まったのか、くるりとシャルロットたちへと振り返る。
「………いいだろう。では、実戦データ収集を兼ねた模擬戦を行う。それでリヴァイヴが勝つようなら、今まで通りの無茶を許そう」
どこまでも上から目線の言葉に、再びカチンとくる一夏とラウラであるが、それを遮るようにシャルロットが声を上げる。
「それでお願いします。絶対に負けません。僕と、リヴァイヴは」
「そうか。では打ち破ってもらおう。デュノア社の誇る第三世代機、コスモスをな」
虚勢を張って強がるシャルロットに、アルベールは期待も寄せない。代わりに、アルベールが指を鳴らすと背後に浮かぶ空中投影ディスプレイ。そこに映し出されたのは件の専用機、コスモス。花びらのような八基のスラスター・ウイングを広げ、名前とは裏腹に威風堂々と立ち塞がる。
けれど、シャルロットの脳裏に浮かぶのは遠い昔の記憶。忘却していた、過去の思い出。
『おかあさん、1番好きなお花ってなぁに?』
『急にどうしたの、シャルロット?』
『だって、もうすぐおかあさんの誕生日だもの』
『そうねぇ、それなら、思い出の花がいいわね』
『おもいで………?』
『あの人に贈ってもらった思い出の花よ。それはねーーー』
母の微笑みが、優しさが、抱かれた時の温もりが蘇る。コスモスの香りとともに。