今回、ちょっと断罪っぽい
苦手な人は苦手
私個人としても苦手です
「くっ………強い!」
対戦が始まってすぐにシャルロットは押されていた。それもそのはずで、リヴァイヴの設計思想を元に開発されたコスモスは、全てにおいてリヴァイヴの性能を上回っている。
更に機体の周囲を守るように展開された第三世代兵器、
エネルギー弾と実弾とを組み合わせて射撃を行える48口径ハイブリットロングライフル、ヴァーチェ。そして32口径十連装ショットガン、タラスクがシャルロットの接近を許さない。
シャルロット得意の
「…………」
ヘルメットバイザーをしているショコラータの表情は窺い知れない。しかし、かなりの操作技術を持つ事は明らかだった。
「それなら!」
瞬時加速による接近、浴びせられる銃弾を真正面から受けて、さらにシャルロットは二段階瞬時加速をしかける。
「無茶だ、シャル!」
一夏の声を遠くに聞きながら、シャルロットは一か八かの賭けに出た。パイルバンカーの一撃を囮に、空中一回転の蹴り上げを浴びせる。
さすがに意外性のある攻撃だったのか、ショコラータは怯んだ。その隙に、得意の高速きりかえで手元に呼びだしたショットガンの連射を浴びせるシャルロット。至近距離では干渉角が崩れるのか、その連撃がフルフェイス・バイザーを割った。
「ちっ!」
「あなたは!」
現れたのはショコラデ・ショコラータの顔ではなく、亡国機業のオータム。変装のつもりか髪を短くしているが、その顔に見間違いはない。
脳裏に駆け巡るなぜ?という疑問。そして、アルベールによる裏切りなのでは、という不安が脳裏をよぎり、一瞬だけシャルロットの呼吸が止まる。
「ハッ!このオータム様相手に、余裕じゃねぇか‼︎」
「がっ‼︎」
硬直したシャルロットの隙を見逃さず、至近距離でのヴァーチェとタラスクの連射。装甲とシールドが削られ、アリーナの壁へと押しやられるシャルロット。
「シャルロット‼︎」
動揺が走ったのはシャルロットだけでなく、管制室でも遅れてざわめきが広がった。今にでも飛び出しそうになる一夏であったが、けれどすぐさま聞こえた別の衝撃音に足が止まり、視線がそちらを向く。
「な⁉︎なにが、どうなって………⁉︎」
「動くな」
一夏の視線の先では珍しく狼狽するアルベールの背後、千冬が片腕を捻り上げて壁へと押し付ける。容赦のない拘束はアルベールの肺の中の空気を強制的に吐き出させ、鈍い痛みが襲う。
酸素を求めるようにはくはくと口を動かすアルベールの腕を、千冬は容赦なく更に捻り上げた。
「ぐっ‼︎なんのつもりだ、貴様‼︎」
「それはこちらのセリフだ。貴様か?亡国機業を招き入れたのは」
ようやく息が整ったのか、怒号を飛ばすアルベールだが、千冬の声はそれよりも低く、氷のように冷たい。突然の事で何がなんだかわからず、ただ唖然と千冬の行動を見守るしかない一夏。
けれど、そんな場合ではないと脳が意識を覚醒。頭を振って余計な思考を吹き飛ばす。
「ち、千冬姉、一体何を………」
「織斑先生と呼べ。亡国機業の工作だ。ボーデヴィッヒ、織斑、万が一に備えてオータムを逃がさないようにしておけ」
「りょ、了解!」
遅延行動も、有無も許さない。そんな意思を込めた視線にラウラと一夏は従うしかなかった。バタバタと慌ただしく部屋を出ていく2人を横目で追い、そしていなくなったと同時にアルベールを更に強く押し付ける。ミシミシと関節が悲鳴を上げるが、そこで容赦するような千冬ではない。
「もう一度聞こう。亡国機業を招き入れたのは貴様か?」
「ぐぅっ………‼︎ふ、ふざけるな‼︎なぜ私がシャルロットを………娘を危険な目に合わせねばならん‼︎」
かつてデュノア・グループで画作されたシャルロットの排除。アルベールの弱味となる存在の拉致、もしくは暗殺という魔の手から保護するために、アルベールはシャルロットを専用機持ちへと仕立て上げたのだ。
IS学園に送り込めば親族の手も及ばない。突き放しておけば周囲に利用価値なし、と判断させられる。全ては愛娘を守るために行動してきたと言うのに、何故父親であるアルベールがそんな真似をしなければならないのだと、言外に吠える。
けれど、千冬の冷たい視線は変わらない。いや、いっそ最初の頃よりももっと冷たい。教員と言うより、親を知らない1人の人間として、一夏という存在を育ててきた身として、千冬は吐き捨てる。
「親を辞めた男の言い訳だな。貴様は親ではなく、経営者として動いた方がいい」
生存という結果さえ出せば、その過程で娘の心がどれだけ死のうと構わない。それは教育ではなく、ただの管理だ。千冬の視線は、もはや目の前の男を父親として認めていなかった。
しかし、少なくともこの件に関して嘘はついてないと、締め上げる腕から感じる脈拍と呼吸数から理解できる。拘束を解いた千冬を睨みながら、アルベールは拘束されていた肩を抑える。
「くっ………この件は厳重に抗議させてもらうからな‼︎」
「こちらとしては、テロリストの思惑にハマるわけにはいきませんので」
世界でも有数のデュノア社からの抗議ともなれば、さしものIS学園も無視はできない。けれど、テロリストとの関わりを疑われたデュノア社のミスも確か。この件に関しては互いに黙認するしかないのだ。
それはアルベールも理解しており、だからこそ脅しの効かない千冬に苦悶の声を漏らす。そして不意に気がついた。
織斑一夏とは別の、ナナ・オーウェンの姿がいつの間にか消えていたことを。
◇◆◇◆
一方ナナはと言うと、こちらは独自で動き始めていた。きっかけは管制室でのコスモス操縦者の動き。その動きに見覚えがあるナナは千冬に合図を出すと、そっと誰にも気づかれずに席を外していたのだ。
向った先はアリーナの外。そこでISを展開すると、息を吐いて感情沈める。深く深く、感情に揺らぐことのない蛇としての自分。それを表に出して、意識を集中させる。
(ショコラータって野郎………ありゃ亡国機業のオータムだな)
射撃の癖、操作の癖から導かれた答え。なぜここに亡国機業が、と言う疑問は置いておく。そこに大した意味もなく、ナナがやる事に変わりはないのだから。
ISのセンサーを全開に、伏兵がいないかの確認を。最悪の場合、デュノア社が亡国機業の傘下に陥っている可能性もあるのだ。返ってくる反応はアリーナ内部の人間とIS反応。本社からは職員や研究員らしき反応ばかり。未登録、もしくは他のIS反応は見られない。
「…………綺麗すぎるな」
オータム単独で乗り込んできた線は薄い。京都で鹵獲された件やスコールの執着を考えたら、もう1人か2人仲間がいるはず。それも脱出や殿を務められる程の存在。
可能性があるのはフェリス。奴ならばデュノア社の一部システムのハッキングは可能だろうという負の信頼。けれど、それにしては静か。場を引っ掻き回して、混乱させて情報を奪い取る愉快犯にしては大人しすぎる。いつもなら煽るようにアナウンスのひとつでもするはずだ。
ならば考えられるのは別の線。ISを利用した、光学迷彩等による存在の隠蔽。アリーナを襲撃するもよし、ハッキングを仕掛けるもよし。オータムを逃す術はそれこそ無数に用意できるだろう。
自身が隠れるとすれば、死角の多い地上は除外。そしてタイミングを図るのならば、レーダーの盲点が生まれ、なおかつ俯瞰視点で眺められる上空。
「そこだな」
ISを急上昇させ、目指すはアリーナ上空1,000メートル地点。低い雲がかかるかかからないかの微妙な地点。アリーナや建物が豆粒サイズに見えるような場所だ。
ものの数秒で現場に到着。やはりISのセンサーに反応はないが、この距離ならば姿が見えなくとも気配で大体の位置はわかる。もし勘が鈍っているのならお笑い種、その時は背後から刺されるだけだと獰猛に笑うと、両手のリングを起動させた。
「出てこいよ、
生み出された炎が辺り一面を覆い、温度を上げる。炎が届く範囲の雲は溶けるように消え、上空の不安定な気流を刺激。晴れ間が広がった空を、再び黒い雲が覆う。
その一瞬、雲と雲の隙間に生まれた不自然な影。そこに間髪入れずに放たれたスヴェントヴィトによる狙撃。直撃を確信した一撃は、けれど影を貫通するのみで効果はなし。その代わりに煽るように、歌うようにナナの背後にその姿を現した。
「はじめまして、私はクロエ・クロニクル」
「あぁ、
エネルギークローを展開。振り返り様に切り裂くが、その爪は空を切るばかり。背後にいたはずのクロエはいつの間にかナナと遠く離れた位置にいる。
ようやくその全貌を拝む事はできたが、ナナは思わず舌打ちを。何せ似ているのだ。
その銀髪も、白い肌も、顔のパーツさえも、その全てがラウラ・ボーデヴィッヒに似ているのだ。
唯一、差別化できるとするならばその眼だけ。白目が黒く染まり、その中に浮かぶ金色が感情もなく、ナナを射抜いている。
「我が
「随分と余裕じゃねェか、ドッペルゲンガー。墓石に刻む言葉は決まったか?」
挑発するように両手首のリングを回転させるが、冷静に状況を確認。
ISのセンサーさえ誤認させているのか、クロエの位置を正しく認識させない。遠くにいて、近くにいるような、あやふやな感覚。ーーーつまりは幻覚系。
センサー類も役に立たない現在、エネルギー消費の激しい火炎放射とスラスターのレーザーの乱発、乱射は避けなければならない。ならば、と展開したスヴェントヴィトによる狙撃。
機関銃による面制圧を試みるが、それよりも早くクロエが虚空に溶けるようにして消える。同時に、ナナの周囲が白く染まった。
「チッ………」
視覚だけでなく、上下前後左右の平衡感覚も失われる幻覚。ISのセンサーは正常値を叩き出していると言うのに、目の前の光景はそれを否定する。
一瞬、クロエを取り逃したかと不安がよぎるが、それは杞憂だとばかりに肩に走る衝撃。見れば装甲に僅かな切り傷のようなダメージが。幻覚能力にリソースを割いた弊害か、どうやら兵装はそこまで強力なものではないようだ。無論、ブラフの可能性はあるのだが。
「おいおい、ラウラと違って随分と陰険じゃねェか。姉妹にしちゃア正反対すぎンだろ」
「当然です。あの子は完成品の
白い空間の中で、歌うように紡がれた言葉。
マドカの件然り、他人の空似では片付けられないそれにカマをかけて返ってきた言葉。千冬とマドカ、それと似たものだと判明はしたが、揺さぶりに効果はなし。
この手の輩は総じて面倒なのだと、内心で舌打ちを溢すナナ。無論、ナナが言えたことではないのだが。
「随分と余裕ですね」
どう攻略したものか、と思考する暇を与えないと、次々と装甲に傷が刻まれる。それぞれのダメージは軽微であるが、それが長引けばどうなるかなど明白。殺気や気配も薄く、居場所を掴み辛い状況。
ならば、と片腕のリングを回転させ、火炎放射器で周囲の空間を焼く。大気の焦げる匂いと共に、一瞬だけ揺らぐ景色。けれどもすぐさま元に戻ってしまう。
「なるほどな。大気そのものに作用してるってわけか………」
「それがわかったから、どうしたのですか?」
幻覚のからくりを見抜かれても、クロエの優位性は揺らがない。甚振るようにヒットアンドウェイ戦法を繰り返すクロエ。攻撃の直後に炎を浴びせるナナだが、既にそこにクロエの存在はなく効果はなし。
(やはり、織斑一夏になれなかった者。私には、遠く及ばない)
ラウラ・ボーデヴィッヒになれなかった自分よりも、更に下の存在。感情の起伏の薄いクロエに芽生える、加虐心。無意識のうちに口角が上がり、呼吸が早くなる。それに呼応して攻撃のスピードも上がり、ナナは完全にクロエを捉えられないでいた。
装甲に刻まれる、多数の傷。ダメージ深度としてはBレベル。継続戦闘は可能だが、修理を推奨されるレベルだ。段々と弱っていくナナの姿が惨めで、楽しくて、ナナの装甲を削っていたブレードを再び構える。
今度狙うのは装甲ではなく、ナナ本体。絶対防御に守られている範囲であるが、発動閾値ギリギリの切り傷をつけてやるつもりだ。
どんな反応をするのか、焦るのか、慌てふためくのか、それを楽しみにクロエは突貫する。けれど、見えないはずのクロエの一撃は、軽く身体を横にずらしたナナに躱された。
(偶然………?)
再び背中に迫る炎を悠々と躱し、クロエは一瞬思考する。幻覚は完璧で、多少焼かれてもすぐに再生可能。けれど、今の動きは偶然と片付けるには無駄のない動きだった。
(…………遊んでる場合じゃありませんね)
一瞬止まった呼吸を誤魔化すようにブレードを収納して、次に展開するのは刺突武器。壊れやすく、装甲の隙間を縫わなければ効果のない、実戦では使えないとされている武器種であるが、クロエからしてみれば理想の武器。リソースは少なく、それでいて絶対防御の閾値ギリギリで攻めてやれば効果は十分。狙うは首筋。その血管を傷つければ決着はつくはずだ。
念のために十分に加速をつけて、全身のバネを使った刺突。流星もかくやとばかりの速度で放たれたそれは、けれどナナは視線すら動かさず、重心を半歩下げて躱す。同時に振るわれたエネルギークローは致命打とはならず、だがクロエのISの装甲を軽く撫でた。
(ッ……‼︎やはり、見えてーーー‼︎)
「言っとくが、見えちゃいねェぞ」
戦慄するクロエとは別の空間に視線を向けて、ナナは再び周囲に炎を撒く。態とらしく丁寧に、ゆっくりと行うその意図に気付いたクロエが奥歯を噛み締めた。
(熱で壁を………‼︎)
炎が生み出す熱対流。クロエが接近すれば乱れるそれを、ナナは読んでいたのだ。使い物にならない視覚センサーを捨て、熱感知と感覚でクロエの動きを予測している。
「気付いたようだな。次は確実に当てる」
淡々と、なんでもないとばかりに炎の噴出を止めると、エネルギークローを展開。振動する刃の低い音だけが、大気を震わせた。
ぞくり、とまるで背中に氷柱を押し当てられたような悪寒。蛇に睨まれたカエルのように、身動きの取れないクロエ。身体は震えているというのに、心臓は煩いくらいに激しく動き、呼吸が乱れる。本能が全力で逃げろ、と叫んでいた。
誇張でも、身のない自信でもなく、ナナは今度こそ自身を仕留めるつもりだと、理解してしまったのだ。
(撤退………ですが、オータムの逃亡補助………束様から、頼まれて………)
自身を救ってくれた恩人であり、クロエにとっての絶対の指針、篠ノ之束。「なんかすこーりゅんがうるさいからさぁ、おーちゃんの補助してあげなよ、くーちゃん。あ、お土産はカヌレがいいにゃ〜」と言う命を受けてこの場にいるのだ。
刺突武器を握る手に力が入る。白く染まるまで強く握られているが、けれど身体は動いてくれない。
「くっ…………ぁァアァアァア‼︎」
けれど、不可視の優位性を捨てるように叫んで、自身に喝を入れる。自身の命がなんだ。これは束様からの命令。必ず遂行しなければならないのだと、刺突武器を構える。
今ので完全に居場所がバレたのだろう。ちろり、と瞳をそちらへと向けたナナと視線が絡み合う。幻覚の中にいるはずなのに、全てを見透かされたような感覚。せっかく奮い立たせた心が急速に萎れるのが、クロエ本人からしてもわかる。
踏み出そうとした足が、がくんと膝から崩れ落ち、手元の刺突武器が空中に投げ出された。言葉もなく、呆然とするクロエ。そんな彼女に、ひとつの通信が入った。
『はろはろ〜、束さんだよ〜ん。くーちゃん、今どんな感じ〜?』
「束、様………」
震えるクロエとは反対に、どこまでも陽気な、どこまでも自分本位な束の声。その声にようやく、自分が呼吸を忘れていたことに気がつく。
通信の背後から微かに聞こえる声は篠ノ之箒のもの。騒いでいる様子から、どうやら束にいいように遊ばれているらしい。
『今さぁ、箒ちゃんとお茶会してるんだよね〜。それでくーちゃんの事自慢したいからさ、早く帰っておいでよ!』
「で、すが、任務は………」
『えー、そんなの放置でよくない?それより、カ〜ヌ〜レ〜!』
「かしこ、まりました………」
『待ってるね〜‼︎』と切られた通信に、ホッと胸を撫で下ろす。それが安堵から来るものだと、クロエは知らない。今はただ、この空域を離れる言い訳に従うだけだ。
最後にちらり、とナナを一瞥する。まるで蛇が鎌首を持ち上げるかのように、エネルギークローを構えたまま動かない。けれど、三度目の強襲は無意味なものになると理性が騒ぎ、クロエは背中を向けて撤退。
暫くして効果範囲を出たのだろう。ナナの周囲を取り囲む景色がゆっくりと色を取り戻す。けれど警戒は直ぐには解かず、振り撒いた熱が完全に消えた事を確認すると、ナナはゆっくりと構えを解いた。
「逃げた、か………」
できれば捕まえたい所であったが、それは難しいと理解している。確かに、熱による先読みで当てられたが、そんな大道芸のような技が何度も通用するとは考えていない。はったりと誤魔化しだったのだが、うまくいったようだ。
「さて、下はどうなった?」
シャルロットが負けるとは、露ほども考えていない。シャルロットならば、きっとあの状況だろうと打開するはずだと信用しているからだ。
そんな事を当然のように考えている自身に、ナナは自虐的に笑う。こうなったのも、全て学園での生活のせいだと喉奥で笑い声を噛み殺しながら、地上へと向かうのであった。
◇◆◇◆
そんなナナの信頼を勝ち取るように、シャルロットはオータムを捕縛していた。
最初は劣勢だったシャルロット。けれど、リヴァイヴの第二形態移行にコスモスを巻き込み起こった
端的に言えばリヴァイヴの戦闘データを殺さず、コスモスの性能をフルに活用できる機体。せめてもの抵抗をと専用機アラクネで応戦するオータムだったが、焼け石に水。決着はものの数分の出来事だった。
「もう逃げられませんよ」
「チッ、またかよ、クソッタレ………」
ダメージ限界を超えたISは強制収納。銃口を向けられたオータムは降参とばかりに手を上げた。同時に、ハッキングにより封鎖されていたアリーナのロックが解除。万が一のために待機していたラウラと一夏がシャルロットに駆け寄る。
「シャル、無事か⁉︎」
「一夏!うん、リィン=カーネイションのおかげでね」
「亡国機業オータム、拘束させてもらう」
「オイ、丁寧に扱え‼︎痣になったらどうしてくれんだ‼︎」
オータムに向けていた、険の籠った表情から一転。ぱぁっと明るくなったシャルロットが一夏たちを出迎える。それでも銃口は逸らさないのだから、オータムからすれば面白くない。舌打ちひとつ漏らして、ラウラの拘束に嫌味を溢すのが精一杯。
「シャルロット‼︎」
和気藹々と、何があったのだと話し合う3人の空気を裂くように、アルベールの声が飛ぶ。管制室から走ってきたのだろう、汗を流して、わずわらしいとばかりにスーツの上着も脱いだ、恥も外聞も投げ捨てた姿からは大会社の社長とは思えない。
日頃の運動不足が恨めしいと、けれど娘の無事を確かめるまではと必死に走るアルベール。一夏とラウラの空気が引き締まり、シャルロットの面持ちも固くなるが、今のアルベールにそれを読む余裕はない。
「はぁ、はぁ………シャルロット………その、無事か?」
「………いえ、コスモスはリヴァイヴと融合し、結果として会社の財産をひとつ潰してしまいました。申し訳ありません」
肩で息をして恐る恐る、そう投げかけた問いに、淡々と返して頭を下げるシャルロット。その行動に驚いたのは他でもないアルベールだ。
「ち、違う!私は、お前の身を案じているのだ!」
「僕の?………失礼しました。私の身体に心配を?」
「当たり前だろう!お前は私の、娘、なのだから………」
ようやく整った呼吸と余裕。そしてシャルロットの表情を見て、アルベールは紡いでいた言葉に力を無くす。
シャルロットの母は笑顔の綺麗な人だった。シャルロットもその面影を残し、まだアルベールは一度も見たことはないが笑えばきっと似ているだろうと確信を持って言える。
けれど、今のシャルロットが浮かべているのは絶対零度の視線と、金属で固定されたかのような無表情。実の娘からの侮蔑のような視線に、続く言葉が喉奥に詰まる。
「………リヴァイヴとコスモスが融合する時、過去の記憶を見ました」
声質は一定。怒気も否定も哀愁も含まない、まるで機械のような声色。アルベールとて、実の娘から嫌われているということは覚悟していた。そのように仕向けたし、守るためには仕方のないことだと割り切っていた。けれど、いざ目の前にそれを持って来られるとその覚悟が揺らぐ。
「あなたが母を愛していたことは、理解しました。けれど、私はーーー僕はあなたを父親として見れません」
きっぱりと、面と向かって言われた一言。それは鋭い刃となり、容赦なくアルベールの心臓を突き刺した。
驚いたのは一夏とラウラもだ。
普段からは考えもつかない、冷徹なシャルロット。それだけ腹に据えかねているものがあると理解すると同時に、もう少し手心を加えても、という同情が生まれてしまうほどの衝撃。
「会社のために、広告塔にもなりますし、そのように動きます。けど、そこに親娘の情を挟まないでください」
「っ……………………わかっ、た………」
自身のやってきたことを考えれば、シャルロットの反応は当然。愛しているから愛されたい、と言うにはあまりにも我儘だ。これは己への罰なのだと、2人の女性を愛した罰なのだと拳が震えるほど握って、欲を沈める。
「…………父親としては見れませんが、社長としては尊敬しています。それは、事実です」
けれど、続くシャルロットの言葉にアルベールの拳が緩む。
「リヴァイヴを作り出した件も、それを量産して売り出す姿勢も、経営者としては尊敬しています。僕は別に、あなたを否定したいわけではありませんから………」
シャルロットとしても少し恥ずかしく、頬を少し赤く染めて視線をアルベールから外す。たったそれだけ。たったそれだけの事であるが、アルベールからすればそれは紛れもない許しであった。
「………あぁ、ありがとう」
だから、この言葉は父親としてではなく、社長としての言葉。部下からの評価を聞いた、上役の言葉だ。
佇まいを直し、眉間に皺を寄せる。投げ捨てたはずの威厳が元に戻り、冷静に命令を下す。
「シャルロット・デュノア。コスモスを失ったのは痛手だが、それに勝るものを君は手に入れた。よって、今回の件は不問とする」
「ありがとうございます」
「そこの2人、織斑一夏とラウラ・ボーデヴィッヒだね」
「は、はい!織斑一夏です⁉︎」
突然話を振られて慌てる一夏。そんなところも可愛い、と笑うシャルロットを横目で捉えてしまったアルベールは面白くない。けれど、ここで邪魔をして更に関係が悪化するのも嫌である。大人としてぐっと気持ちを抑え、喉を鳴らして誤魔化す。
「すまないが、この後も予定が立て込んでいてね。ろくなもてなしもなく、申し訳ない」
「い、いえいえ、お構いなく………」
「織斑千冬に伝えておいてくれ。デュノア社はIS学園に全面的に協力すると」
それは学園側からすれば願ってもない申し出。世界でも屈指のデュノア社のバックアップができるとなれば、亡国機業然り、テロ組織への対策がしやすくなるのだから。
「後ほど書面に記させてもらうよ。それでは、失礼」
簡潔に、それだけ言ってアルベールは優雅に踵を返す。その背中が見えなくなったころ、ぽつりと一夏が言葉を溢した。
「な、なんか、すごい話になったな………」
「デュノア社からすれば、名前や新兵器を売り出せるチャンスだからね」
シャルロットの言葉に、それならばと納得する一夏。やはり、経営者としての嗅覚や敏腕は確かなのだろうと改めて認識するのであった。
「オイ!いつまでもオータム様を無視してんじゃねぇぞ‼︎」
「うるさい、黙ってろ」
「げふっ⁉︎」
その裏で、ラウラがオータムの腹につま先をめり込ませていたが、努めてみなかったことにする。
今回、結構私個人の感情いれたので、改変ポイントと言い訳を
・原作ではシャルロットはアルベールを父親として認めましたが、個人的には「え?なんで?」となって改変
・原作のアルベールの言い分がどう頑張ってもDV野郎としか見れなくて、改変
「俺がお前を殴るのは愛しているからだ!」
「私は正妻も愛人も、その娘も愛してる!けど、守るために待遇は悪くします!」
・一夏の殴った理由が弱いなぁとなったのでスキップ、そして千冬に譲る→結果として一夏のキャラが弱くなったのは反省