IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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5話

 

 

 さて、と内心で一息ついて戦況を確認する。

 

 シャルルとの戦闘を初めて大凡10分。昂った熱は冷却され、冷静さを取り戻したナナ。一夏とラウラの戦闘は未だ続いており、優勢はラウラ。AICを初めとした数々の武装に押される一夏だが、それでも尚食い下がらんとするのは意地か、それともプライドか。油断は出来ない状況ではあるが焦る事なく、線ではなく点での攻撃。そして動きも単調にならない様に動いている。

 

 そして目の前の自身の対戦相手はさすがは代表候補生に選ばれるだけあり、機体のスペックの差では優勢を取りつつもシャルルに勝つイメージが湧かない。操作技術の差やその持ち前の器用さで徐々にこちらを追い詰めているのだ。

 

 

「余所見だなんて、余裕だね!」

 

「チッ!」

 

 

 シャルルの近接ブレードが眼前に迫り、間一髪のところで躱す。しかし、それを読んでいたようで回避した先に置かれる様に放たれた弾丸がナナのシールドエネルギーを削る。

 減少量としてはほどほど。しかし、それが何回も続いた結果エネルギーの残量は半分以下となってしまった。

 

 このまま続けていてもジリ貧なのは確定。負けることに抵抗はないとは言え、このまま爪痕を残す事なく敗退となれば本国の小言は確実だろう。だからこそ抵抗を続けるナナはアサルトライフルに変形させた銃を放つ。

 

 簡単にそれをシールドで防ぐシャルルは再度、ナナへと接近。対抗しようと軍用ナイフを展開。切り結ぶ瞬間、シャルルは蜻蛉の様に方向転換すると、銃弾の雨をナナに浴びせた。

 

 砂漠の逃げ水(デザート・ミラージュ)という、遠近の主導権を渡さない戦法だ。本人の器用さも相待って隙がなく、いい様に踊らせれている事に歯噛みするナナ。

 

 けれど、対するシャルルも焦りを覚えていた。本来なら既に一夏と合流してラウラと戦闘している筈だったのだが、想像以上に装甲が硬い。そして被害を最小限に抑える動きをするものだから戦闘が長引いてしまっているのだ。

 

 

(一度、一夏の援護に………ダメ。彼は放置していい存在じゃない)

 

 

 ISの操縦技術はまだまだとはいえ、その機体のスペックはラウラと同じ第三世代。発現する者が限られるワンオフアビリティを捨て、機体と武器に力を注いだ最新機体。

 銃やナイフだけではない、まだ見せていない機能が隠されているはずだと当たりをつけていた。それがもし、こちらを一網打尽にできるものならと考えてしまう。

 

 だからこそ、煽るような動きや言葉をシャルルはやめない。頭に血が上れば上るほど、動きが単調になり読みやすいからだ。そして、焦れた様にナナが再び銃口を構える。変形させたのはラウラの装備と同じレール砲。威力は高いが装填に時間がかかり、連射はできない。好奇と見たシャルルが突撃をかます。

 

 瞬間加速を用いれば距離は一瞬の内に縮み、発砲する前に仕留められると考えたからだ。だがーーー

 

 

You are so foolish(馬鹿だね)

 

 

 その動きは読まれていた。シャルルがナナの内を読む様に、ナナもまたシャルルが焦っていることを読んでいたのだ。故にイラついた演技を辞めず、隙の多い攻撃に切り替えたのだ。

 

 瞬間加速は確かに早く、狙いは付けづらい。しかし、その動きは直線でしか行えず、また移動先が自身ならば対処はしやすい。構えていたレール砲を手放しながら収納すると、ナナは両手を突き出す。

 呆気に取られるシャルルが次の瞬間、炎に包まれた。

 

 

「HAHAHA!ビックリしただロウ?」

 

 

 炎の噴出口はナナの両手首。副武装として付属してある火炎放射器悪竜咆哮(ズメイ・ビオフ)である。有効射程範囲はかなり狭いが、直線で突っ込んで来る敵には効果的。

 

 

「シャルル!」

 

「余所見とはな!」

 

「うっ!しまった」

 

 

 炎に包まれたシャルルに気を取られ、一夏がAICに捕まる。勝利を確信したラウラが嗜虐的な笑みを浮かべレール砲の照準を合わせたその時だった。

 

 

「やぁあああ‼︎」

 

「ッ‼︎damn it(マジかよ)⁉︎」

 

 

 炎の中を突き進みナナの意表を突いたシャルル。無傷とはいかず、エネルギーはかなり削られ所々に煤けた後が残ってしまったが、その甲斐はあった。

 近接ブレードをナナに突き立てそのままラウラの背中へと強襲。揉みくちゃになりながら転ぶ2人を尻目に、一夏との合流を果たした。

 

 

「ごめん、一夏。遅れた」

 

「いや、ナイスだぜ。シャルル‼︎」

 

「このっ!邪魔を………っ‼︎」

 

「Fuck!突っ込んで来るなんて、思わないダロウ!ーーーOops(おっと)

 

 

 邪魔なナナを排除せんとワイヤーブレードを伸ばすが、それに勘付いたナナは素早く上空へと身を翻す。何度も何度も邪魔をされて頭に血が上ったラウラにISは告げる。一夏からの攻撃が来ている事に。

 今更気づいてももう遅い。慌てて繰り出したAICは一夏の半身の動きを止めるが、右腕を限界まで伸ばした突きがラウラの装甲を掠る。

 

 

「ぐっ!貴様っ‼︎」

 

 

 ダメージとしては微量。けれど、憎き相手から一撃貰ったという事実はラウラのプライドを逆撫でした。繊細な扱いを用するワイヤーブレードは使わず、プラズマ手刀にて仕留めようとした時だった。

 

 

「なぁ、忘れてないか?俺たちが2人組だってことを!」

 

「なにっ⁉︎」

 

 

 慌ててラウラが視線を向けるが、もう遅い。ゼロ距離まで接近したシャルルが、素早くショットガンの六連射を叩き込む。次の瞬間、ラウラの大口径レール砲は轟音とともに爆散した。

 

 

「くっ‼︎」

 

 

 一見無敵のようにも見えるラウラのAICだが、対象に意識を集中させていないと効果はない。見事その隙を突いた一夏は拘束が解かれた瞬間に零落白夜を発動。決まれば確実に相手を戦闘不能に追い込める一撃は、しかし横合いからの攻撃によって阻まれた。

 

 

「Nonネ。マダ終わるワケにはいかないヨ」

 

「うっ‼︎」

 

 

 軍用ナイフのトリグラフ片手に突撃をかますナナ。そのまま一夏を弾き飛ばすと追撃を行うべく距離を詰める。

 

 

「邪魔、すんな‼︎」

 

「何度目だろうネ、その言葉‼︎」

 

 

 けして距離を取らせず、一夏のブレードが振りづらい位置をキープ。そこまで密着していればシャルルの援護も難しい。2人まとめてワイヤーブレードの餌食にしようとするラウラを牽制するのが関の山だ。

 

 だが、ナナが優勢かと言われれば決してそうではない。零落白夜の発動は止まったとはいえ、残りのエネルギー残量を考えれば持って数分。そして一夏も拙いとはいえ、過去の剣道経験、そして直近の猛特訓もあって迂闊に攻めれば後が怖い。

 

 冷静に、狡猾に、相手に忍び寄りその首に牙を突き立てる。それが本来のナナのスタイルであり、蛇の字の由来だ。焦らず、じっくりと、相手の隙を窺って噛み付くのを今か今かと待ち構えていた。

 

 

「この………っ‼︎」

 

 

 そしてついにその時は訪れた。一向に離れないナナに痺れを切らした一夏の大ぶり。右から左にかけて胴体を狙った一撃だったが、その瞬間ナナが消えた。

 

 

「なっ⁉︎」

 

「一夏、下っ‼︎」

 

Slowly(遅い)

 

 

 IS使用時の視界は360°あるとはいえ、使用するのは人間。それらの情報を全て脳が処理できるはずもなく、結果として視界は生身の時と変わりはない。慌てて下を確認した時には刃が一夏の胴体を思い切り叩く。

 それだけには止まらず、ナナはトリグラフの機能を使用。それは刃の長さが可変式であり、その長さは最大で20m。全力で伸ばした刃に押されて後退する一夏。その先にいたのは手の止まったシャルルを捕まえんとワイヤーブレードを伸ばすラウラ。

 

 

「ぐあっ‼︎」

 

「っ!貴様っ‼︎」

 

「oh、sorry。ワザとじゃないヨ」

 

 

 そんな事を宣うが、確実にわざとである。邪魔だ邪魔だと言われ腹が立っていたのだろう。観衆の視線の中、直接手を下す事は出来ないが事故という形で済ますつもりである。

 

 だが、ラウラにとっては好奇。体勢を立て直さない一夏は格好の的。ここで仕留めるとワイヤーブレードとプラズマ手刀をフル活用し、その息の根を止めんとばかりに襲いかかる。

 

 

「やらせないよ!」

 

「邪魔だ!」

 

 

 一夏への攻撃の手を休めないまま、援護に入ろうとしたシャルルをワイヤーブレードで牽制する。そのどちらもが精度の高さとスピードを伴った攻撃で、改めて彼我の技量の高さに思わず息を呑む男子2人。

 

 

「うあっ!」

 

「次は貴様だ!」

 

「シャルル!ぐあっ………!」

 

「は………ははっ!私の勝ちだ!」

 

 

 残る一夏もラウラの前に敗れ、白式が力無く倒れる。それを踏みつけ高らかに勝利を宣言ラウラ。ここからの逆転の目は薄い。そう判断したナナは一夏たちから視線を逸らしアリーナの出入り口へと移ろうとした。だが、その時だ。

 

 

「まだ終わっていないよ」

 

「なっ………!死に損ないが‼︎」

 

 

 勝利への執念か、それとも一夏の気持ちを汲み取った故か。瞬時加速によってラウラを強襲するシャルル。けれど、ナナがやったようにそれは敵の罠に自ら入り込むような自殺行為。

 案の定、ラウラがAICを発動させようと片手を振りかざす。泥臭く勝利を掴まんとする姿勢は賞賛するが、結果は変わらない。そう見切りをつけるナナ。だが、その予想は裏切られた。

 

 

「⁉︎」

 

 

 突然の発砲音。シャルルではなく、ナナでもないその正体は一夏。いつの間にかシャルルが捨てたアサルトライフルを撃ち、意識を逸らしたのだ。しかし、他人の武装は使えないはずだと考えたが、そう言えば射撃訓練を受けていた事を思い出す。あのアサルトライフルはその時使用許可を出したものだ。

 

 

「この距離なら、外さない」

 

 

 一夏の援護もあり間合いを詰めることのできたシャルル。しかし、専用機とはいえその機体は第二世代。攻撃力はラウラよりも劣る。

 だが、そんなものはシャルル自身が誰よりもわかっていた。だからこそ、秘匿し続けた武器を今披露する。射程は短く、隙の多い武装ではあるが、単純な攻撃力だけならば第二世代最強と謳われたそれを。

 

 

盾殺し(シールド・ピアース)………!」

 

 

 盾の装甲が弾け飛び、中からリボルバーと杭が融合した装備が露出する。六九口径パインバンカー灰色の鱗殻(グレー・スケール)。その大きさ故に盾の装甲を大幅に削ることになるが、ここぞというときに使える隠し玉。

 初めて、ラウラの表情に焦りが見えた。それは、文字通り必死の形相。

 

 

「「おおおおっ‼︎」」

 

 

 2人の声が重なる。シャルルは左拳をきつく握りしめ、叩き込む様に突き出す。ここまで距離を詰められてはAICも役に立たない。全身の拘束は間に合わず、ピンポイントでパイルバンカーを止めなければ直撃。そして、今のラウラの精神状態でそれが出来るかと言われれば、否である。

 

 

「ぐううっ…………!」

 

 

 重たい音を立ててラウラの腹部に、パイルバンカーの一撃が叩き込まれる。ISの絶対防御があるとはいえ、それはシールドエネルギーを大幅に消費する上に衝撃までは殺せない。内蔵まで揺らす衝撃にラウラの表情は苦悶に歪んだ。

 

 しかし、これで終わりでは無い。灰色の鱗殻はリボルバー機構により高速で次弾炸薬を装填ーーーつまりは、連射が可能なのである。続け様に3度の重音。ラウラの体が大きく傾く。その機体にも紫電が走り、ISの強制解除の兆候を見せ始める。

 

 さて、では自身はどう動くべきか、とナナは考える。支援に回るには遅すぎ、降参ならば本国がうるさい。ならば徹底抗戦しかないのだろう。面倒だと嘆息したその瞬間だった。

 

 

「ああああああっ‼︎‼︎」

 

 

 突然、ラウラが身を裂かんばかりの絶叫を発する。と同時に専用機シュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放たれ、シャルルの体が吹き飛ばされた。

 

 

「ぐっ!一体何が………ーーー⁉︎」

 

「なっ⁉︎」

 

Jesus(嘘だろ)

 

 

 その場の全員が目を疑う。その視線の先ではラウラが、正確にはそのISが変形していた。いや、変形などという生易しいものではない。装甲を模っていた線は全てどろどろに溶け、ラウラの全身を包み込んでいく。

 

 ISはその原則として変形をしない。形状を変えるのは初期操縦者適応と形態移行の2つだけであり、その2つも基礎部分から全く別物に変形するというわけではないのだ。だからこそ、目の前の光景はありえない。けれど、現に起きている。

 

 

「Hey、シャルル。 What's happening(何が起こっている)?」

 

「わからない。迂闊に手は出せないよ」

 

 

 電撃を浴びたせいか地面に膝をつくシャルルに問い掛ければそう返された。つまりは、自身の無知ではなく全くの未知。手を出した瞬間、そのエネルギーが全方位にばら撒かれる可能性を考えると静観しかないのだろう。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンだったものはラウラの全身を包み込むと、その表面を流動させながらまるで心臓の鼓動のように脈動を繰り返し、ゆっくりと地面へと降りていく。それが大地にたどり着くと、まるで倍速再生を見ているかの様にいきなり高速で全身を変化、成形させていく。

 

 そしてそこに立っていたのは、黒い全身装甲のISに似たナニカ。ボディラインはラウラのそれをそのまま表面化した少女のそれであり、最小限のアーマーが腕と脚につけられている。そして頭部はフルフェイスのアーマーに覆われ、目の箇所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光を漏らしていた。手には近接ブレードが一本。他の武装は見当たらず、ならばとスナイパーライフルを構えるナナ。

 

 狙いは頭部。何が起こったかはわからないが、完全なるイレギュラーなのは間違いない。収集を図るには殺してしまうのが手っ取り早いだろう、とついつい癖の様に早計に判断を下す。

 

 

「ッ‼︎Fuck‼︎」

 

 

 だが、ナナが引き金を引く事はなかった。それよりも早く動いていた謎のIS。手に持つ雪片弐型を握りしめ、中段に構えた一夏に狙いを定めると刹那の内に懐へと入り込む。居合に見立てた刀を中断に引いて構え、一夏の雪片弐型を弾く。そしてそのまま上段の構えと移り、そしてーーー

 

 

「‼︎」

 

 

 縦一線、落とす様に鋭い斬撃が一夏へと襲いかかる。その直前、エネルギーの殆どをブースターへと写し爆発的な速度で一夏へとタックルをかますナナ。互いに大地を転がりながら一命を取り留めると、限界が来たのだろう。2人のISが光と共に全身から消える。

 

 

「それが、どうしたぁあっ‼︎」

 

「ンのっ‼︎」

 

 

 それでも尚突撃しようとする一夏。それを羽交い締めにしてナナは止める。どうやら生身の人間は対象ではないらしく、謎のISはこちらに見向きもせず。体格差もあって一夏を一歩も前に進ませる事はしないが、相当怒りを覚えているのだろう。少しでも力を緩めればそのまま脇目も降らず突撃することは想像にたやすい。

 

 

「離せ、このっ‼︎あいつは、あいつはぁっ‼︎」

 

「Shut up‼︎Mother fucker‼︎ Do you want to die(死にたいのか)⁉︎」

 

 

 未だに暴れる一夏を地面に押し倒し完全に拘束する。背中に膝を置いて全体重を乗せる事で身動きが取れなくなった一夏。抜け出す事は不可能だと判断したのだろう、烈火の如く燃える怒りを拳に込めて地面に叩きつける。

 

 

「くそっ………くそぉっ‼︎」

 

「Hey、一夏。cool downは済ンだかナ?何をそんなに怒ってるンだい?」

 

「…………あれは、千冬姉の剣なんだ」

 

 

 漸く少しは落ち着いたのか、ぽつぽつと一夏が語りだす。謎のISが持つブレードはかつて千冬が持つ雪片であり、その剣技もまた千冬のものであると。己にその重さを教えてくれた人の剣を、何も知らない者が軽々しく使う様が許せなかったと。

 

 両親の顔も知らず、強く思えるような相手といないナナにとっては理解できない感情である。せいぜいが仲介やサポートに幾人か知り合いがいる程度で、己の身の危険と天秤にかければ容易く切ってしまう故に、頭の中にはなぜ?が浮かんでいた。

 それを噯にも出さず、ため息をひとつ。だからと言って、死んでは意味もないだろうにという気持ちを込めてだ。

 

 

「OK、アレが気に食わないってことは理解したヨ。but、どうするつもりダイ?ISはエネルギー切れダロウ?」

 

「それは………」

 

「方法なら、あるよ」

 

 

 先ほどの電撃から持ち直せたのか、ふわりとシャルルが一夏たちの元へとやってくる。そして、シャルルの提案した作戦は通常では考えられない埒外のもので、だからと言って代案も浮かばない中それを採用するしかないことにナナはまたため息をこぼすのであった。

 

 

「…………で、本当に上手くいくのカイ?」

 

「理論上はね。僕も初めてのことだから」

 

 

 シャルルの作戦とは即ち、リヴァイヴのエネルギーを白式に譲渡。そしてそのエネルギーを使い零落白夜を発動し、あのISを撃破するというもの。それもエネルギー残量を考えれば一部のみの展開しか行えず、ほぼ生身での特攻なのだ。

 

 件のISが現在、アリーナ中央で微動だにしていないとはいえ、攻撃までその状態とは言えない。寧ろ、攻撃を仕掛けようとした刹那に動きだすだろう。ナナとしてはこのまま非常事態が発令され、教師陣が事態の収集を計ってくれると思うのだが、どうやら納得いかないらしい。どうしても自身の手で決着をつけたいのだと、一夏が頑ななのだ。

 それを無謀と取るべきか、若さととるべきかはナナにはわからない。ただ、バカなのだろうと冷えた視線を送るだけだ。どうせ死ぬならできるだけ綺麗な状態の方が良いデータが取れるだろうと諦めの視線を向けている。

 

 リヴァイヴのコアから伸びたケーブルを白式の待機状態である篭手にと繋がれ、エネルギーの譲渡を今か今かと待ち侘びる一夏がふとその視線に気がついた。

 

 

「そんな目で見るなよ………そりゃ、不安かもしれないけどさ」

 

「不安?Non。これはバカを見る目ネ。武士道とは死ぬ事、らしいけど死んだらfinishヨ」

 

「酷ェ言い様だな。それに、死ぬつもりなんてないさ。絶対に、あいつに一撃入れてやる」

 

「バカに付ける薬はないネ」

 

 

 感情論でどうにかなると信じるには、ナナはこの世の闇に触れすぎていた。綿密な計画と、複数の代案があってこその作戦。それを怠れば死に直結するような場所にいたのだからそれも仕方がない。

 

 

「完了。リヴァイヴのエネルギーは残量全部渡したよ」

 

「サンキュー、シャルル」

 

 

 シャルルの言葉通りリヴァイヴが光の粒子となって消える。それに合わせて、白式は再度一夏の身体に一極限定モードで再構成を始めた。当初の予想通り、展開されたのは武器とそれを扱うための右腕のみ。防御なし。当たれば即死、良くて重症の背水の陣。イカれているとしか言いようがない。

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 

 それでも臆することなく、零落白夜を発動させて謎のISの元へと駆ける一夏。呆れた視線を送るナナに、シャルルはくすりと笑う。

 

 

「一夏が心配なんだね」

 

「当然だネ。寧ろ、よく協力したヨネ」

 

「まぁ、本当は僕もこんな無謀は反対だよ。でも、なんでかな………一夏ならやってくれるって信じられるんだ」

 

「ハッ!youも相当なバカネ」

 

「意外と口悪いよね、君。もしかして本当はそれが素なのかな?」

 

「さて、どうだろうネ」

 

 

 さて、一夏の死体をどう回収したものか。そんな思惑を元にナナは一夏へと視線を向ける。一夏の突撃を攻撃行動として捉えたのか、謎のISが刃を振り下ろす。その鋭く速い袈裟斬りに一夏の死体を幻視して動き出そうとするナナ。

 けれど、予想とは裏腹に一夏は腰からの横一閃でそれを弾く。そしてすぐさま頭上に構え、縦に真っ直ぐ相手を断ち斬った。

 

 まさかの結果に目を見開くナナ。あり得ないと、信じられないと言う言葉が頭の中で響き、目の前の現実がそれを否定する。隣のシャルルも信じてはいたが不安もあったのだろう、深いため息と共に膝から崩れ落ちる。

 

 謎のISが2つに割れ、中から倒れ込む様にして出て来たラウラ。それを一夏が受け止めた段階でようやく教師陣の部隊がアリーナへと到着した。

 こうして波乱のトーナメントは幕を引き、ナナたちは事情聴取を取られる形となるのだった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「それで?オレに何を聞きたいンだ?」

 

「不貞腐れてるわね、まったく」

 

 

 IS学園の個室。成績の悪い者の追試や学生同士の密談などに使われる部屋にて、机ひとつを間に挟んでナナと楯無は向かい合っていた。本来ならば教師の役目であるが、ナナはその事情が特殊。万が一暴走した時の事を考えて楯無が担当する事となったのだ。

 ちなみに、第一候補だった千冬は事後処理などの雑務に追われており、手が離せないでいる。

 

 机にひじをついて頬を預ける姿は年相応に不貞腐れてますよ、と言わんばかり。余程一夏たちの行動が気に食わなかったのだろう。確かに今回は上手く行ったが、緊急事態時には大人や実力者に任せてもらいたいものだ。今頃別室の一夏たちはお叱りを受けているだろう。

 

 それはさておき。事情聴取といっても形式的なもの。事は全てカメラに記録されており、そこに齟齬がないかの確認だけだ。ナナも2人を止めようとしており、軽い注意程度で終わらせる予定である。

 会話や事の流れの確認を済ませ、さてこれにて終了と言うところで終始頬杖をついていたナナがそれを止めた。

 

 

「オイ、ありゃなンだったンだ?」

 

「ハァ………口外しないでね。ヴァルキリー・トレース・システムーーー通称VTシステムによるものよ。過去のモンド・グロッソの部門受賞者の動きをトレースするシステムで、条約によって研究、開発、使用すべて禁止されてる代物。それが彼女のISに積まれていたってわけ」

 

「違ェ。それじゃねェ」

 

 

 ナナの言葉におや?と楯無は不思議に思う。てっきり何が起こったのか聞くまで引き下がるつもりはないと思い、機密事項を話したのだが。

 

 

「あいつ………織斑一夏。ありゃ何者だ?」

 

 

 ずっと謎だったのだ。彼の性格も動きも、このひと月の間で全て把握したつもりだった。だからこそあのISの動きを見た瞬間に捉えられずに死ぬと確信したのだ。けれど、結果はその予想を大きく上回り一夏は五体無事で、自らの意地を通して見せた。

 

 だからこその不可解。だからこその疑問。なぜこのような結末を迎えられたのか、ナナにはさっぱりわからない。それは楯無にとっても同じである。だが、きっとこれしかないだろうと言う答えは持っている。

 

 

「彼が何者か、なんて気にする事かしら?今回はきっと、男の子の意地が成就したって所かしらね」

 

「なンだよ、そりゃ」

 

 

 納得がいかないと楯無に噛み付くナナ。初めの頃よりも幾分か気安くなり、年相応の顔を見せるようになったものだと関心を。このまま本国の命令など忘れて、心からこの学園生活を楽しんでもらいたいものだと口の中で溢す。

 それにはもう少し、他者の気持ちを理解してもらいたいところである。だからこそ、楯無は口元を扇子で隠しそれを開く。書かれているのは「課題」の二文字。

 

 

「それがわかる様になれば、きっとナナくんが自由になれる日は近いわよ」

 

「チッ!」

 

 

 舌打ちひとつ溢して、ナナは立ち上がる。部屋から出て食堂とは反対方向へと進む。どうやら夕食を取るつもりはないようだ。その姿を見送った楯無は懐から一枚の紙を取り出す。そこに記されているのは今回の本国の評価である。

 

 長く、つらつらと言葉を並べ立てているが要約すれば「不服」の一言。我が国の技術を使っているのだから勝利を、そうでなくとももっと奮戦できたはず。故に織斑一夏のデータを早期に本国へと送り帰還せよ、というものだ。

 織斑一夏とナナのデータを見比べて、何が違うのか、男性でも起動させる何かがあるのか早く調べ上げたいのだ。

 

 無論、学園側としてはこんなもの無視を決め込む一択。ナナが問題を起こしたのならばまだしも、今回は何もしていないのだ。それをくしゃくしゃに丸めて近くのゴミ箱に捨てると少しスッキリとしたようで、楯無の顔の険が取れる。

 何も知らない、自身の理想と既得権益しか見ていない本国の上層部の事は頭の中から切り捨て、彼女もまた帰路へと着くのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「なぁ、結局なんでラウラと組んでたの黙ってたんだ?」

 

「誰とも組んでnothing。そうでもしないとうるさいからネ」

 

「あー、まぁ。そうだよな。にしても、大浴場が開放されたのは良かった。ナナも一緒に入ろうぜ」

 

「またそれかイ?Japaneseは風呂好きダネ。Meは遠慮しておくヨ」

 

「あ、そういえば楯無さんだっけ?ナナの彼女って本当なのか?」

 

「HAHAHA、一夏。揶揄われてるヨ、ソレ。彼女はただ同じ国から出てる代表ってだけで、面倒を見てもらってるのサ」

 

 

 波乱のトーナメントから翌日。ナナと一夏、男2人で机を挟み何気ない朝の会話をひとつ。そこにシャルルの姿はなく、一夏に問うても先に行っててと言われ食堂で別れたのが最後だという。

 

 学年別トーナメントは中止となり、一夏との交際の件は無かったことになったがそれに悲嘆するほど柔な女子はいない。更に熱を燃やしたのか、話しかけるタイミングを今か今かと狙っているのが伺える。

 2人もそれがわかっているからこそ、会話を止めようとはせず2人だけの世界を広げていた。朝から昨日の件など根掘り葉掘り聞かれるのは勘弁願いたいのである。

 

 それはそれで一部界隈が盛り上がっているのだが、それはさておき。予鈴が鳴れば全員すぐさま自分の席へ。遅れたら千冬の怒りの出席簿が待っているのだから、誰もが迅速に動いていた。

 

 

「み、みなさん、おはようございます………」

 

 

 教室に入ってきた山田摩耶。しかし何やら疲れているようで覇気もなく、足取りもふらふらとしている。気が進まない、とばかりにちらりちらりと教室の扉に視線をやることから、またぞろ転校生でも来たのだろうか?と頭を捻る。

 

 

「今日は、ですね………みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと………」

 

 

 どうやら予想は大当たりのようではあるが、しかしそれならば余計に疑問が浮かぶ。既に今月は自身を含め3人もの転校生が入ってきたのだ。また一夏のデータを狙う輩かと警戒を強めるナナであるが、それは杞憂へと変わる。

 

 

「じゃあ、入ってください」

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 

 ぺこり、スカート姿のシャルロットが礼をする。ああ、なるほど、言い淀むわけである。1人納得するナナであるが、クラス全員がそうとはいかない。一瞬の内にザワザワと喧騒に包まれ、あっという間に溢れかえる。

 主に同室であり、昨日大浴場を使用した一夏とシャルルーーーもといシャルロットへと視線が向けられた。

 

 

「一夏ぁっ‼︎‼︎」

 

 

 ドアを蹴破らんとばかりに開いて現れたのは隣のクラスの凰鈴音。おい、どうしてここに来たという疑問はさておき、部分展開されているのは鈴音の専用機甲龍の武装龍咆。空間に圧力をかけて射出するそれは見えない弾丸を打ち出すのだ。

 

 

「死ね‼︎‼︎」

 

 

 あっと言う声を出す間もなく放たれた衝撃砲。1秒後にはミンチにされた一夏を幻視するが、それは思わぬ人物に止められた。

 

 

「…………」

 

 

 間一髪、一夏と鈴音の間に入ったのはラウラ。専用機を身に纏い得意のAICにて相殺したらしい。どうやら一夏の死体を回収する羽目にはならないようである。

 

 

「助かったぜ、サンキュ。………っていうかお前のISもう直ったのか?」

 

「………コアは辛うじて無事だったからな。予備パーツで組み直した」

 

「へー、そうなんーーーむぐっ⁉︎」

 

 

 脈絡もなく、唐突に、一夏の唇を奪うラウラ。どうやら一夏の死体が出来上がりそうではあるが、この場に止まれば巻き添えを食らう。そっと教室を後にしてトイレへと向かう。ラウラの「お前は私の嫁にする‼︎」という謎の宣言が聞こえたが、その後の喧騒から察するに碌でもない事になっているだろうと当たりをつけるナナ。

 

 さて、トイレへと到着したナナは個室のひとつへと入ると便座の影から一枚の小さな紙を見つけ、それに目を通す。内容は仕事仲間からである。曰く、IS学園の清掃員として潜入した、と。

 機械に強いこいつならば、自身が自由になる日も近いと期待を寄せ、紙は便座の中へ。それが無事流れたのを確認すると、ふとなぜこいつはここまで自身を助けようとするのか疑問に思う。

 

 程のいい金蔓を逃さないため?それとも仲間意識のため?

 

 そう考えて馬鹿らしいと自嘲する。そんなもの考えた所で意味はなく、罠に陥れようとするならば殺すだけだ。

 

 洗面台の鏡の向こうで、作り笑いを浮かべる自身が目に入る。少なくとも今はナナ・オーウェンとして任務を遂行するしかないのだ。笑顔の仮面を被り直し、ナナはまた教室へと向かう。きっと今頃千冬が仲裁して喧騒は収まっているだろうと考えてだ。

 

 首輪のついた死刑囚。彼の物語はまだ始まったばかりである。

 

 

 

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