IS 首輪付きの死刑囚   作:桜大好き野郎

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8話

 

 

 ナナたちが臨海学校を楽しんでいるその頃、IS学園生徒会室。

 生徒たちの要望や部費の精算、学校行事の進行などを一手に担う生徒会。その長であり、学生最強の称号を修めるのは更識楯無である。

 

 今日も今日とて学生業務と生徒会、そして日本の暗部更識家の当主としての仕事をこなす彼女。国家代表として監視の仕事もあるのだが、現在はその対象が手元を離れており遂行不可。いつもより少し余裕のある彼女だが、その表情には憂いが浮かんでいた。

 

 心ここにあらず、といった調子で手元を見ずに書類を完璧に捌くのは流石ではあるのだが、その視線は上の空。普段の姿からは想像がつかない、明らかに間の抜けた顔であった。

 

 

「お嬢様」

 

 

 またか、とため息を溢し声をかけるのは生徒会会計であり、楯無に仕える布仏虚。楯無から見て左手の席で書類を捌く虚の、険の籠った声に楯無の肩が一瞬跳ねる。

 

 

「な、なにかしら?」

 

「何かしら、ではありません。また上の空でしたよ」

 

「やん、そんなに怒らないで」

 

「………また彼のことを考えていたのですか?」

 

 

 その言葉にまた、楯無の肩が跳ねる。ふざけて誤魔化そうとしたが、そう上手くはいかないようだ。図星を突かれた楯無があからさまに視線を逸らすが、本日何度目になるかわからない頻度なのだ。そろそろ厳しく物申したくもなる。

 

 

「お嬢様、念の為に聞きますが、まさか彼に心惹かれてると言うことはないですよね?」

 

「そ、そんなわけないでしょう⁉︎私が、そんなわけーーー」

 

「その割には、最近よく彼の話を聞きますが?」

 

「それは、その………ほら、情報の共有で………」

 

「では、先日部屋で水着に着替えて出迎えた件は?」

 

「あれは………あー、彼を揶揄っただけよ………」

 

 

 苦しい言い訳を並べているが、伊達に長い事楯無に仕えていない。じっと視線に圧を込めていれば、最後に折れたのは楯無だった。

 

 

「はいはい、確かに彼の事は考えていました。けど、好きとかそんなんじゃないわよ。ただ、向こうで暗躍してないか心配してただけよ」

 

「そうですか。それを聞いて安心しました」

 

 

 全く持って安心はしてはいないのだが、ひとまずそう言う事にしておく。楯無の座を狙う輩は多数いる。生徒然り、家の中然り。そう言った脅威から主人を守るのも布仏家の使命だ。

 国家からの命令とはいえ、あんな危険人物を側に置くことなど虚からすれば冗談ではない。本音を言えばさっさと強制送還にでもされて欲しいのだ。

 

 

「安心してください。本音ちゃんは確かに頼りない所がありますが、仕事はちゃんとする子です」

 

「それは信頼してるわ」

 

 

 けれど、もしを考えてしまう。もし千冬と本音、どちらも監視が外れるタイミングがあったとすれば。そして、なりふり構わず一夏のデータを採取しようとすれば。

 その先の未来は3つ。首輪の爆破か、教師陣による拘束からの強制送還、もしくは自害。それらを考えた時に自身の胸がきゅっと締まるのを楯無は感じた。

 

 この気持ちは恋ではない。

 

 恋であってはならない。

 

 そんな感情を抱いてしまえば、仕事にならないから。

 

 監視対象と恋に落ちるなど、あってはならないことだから。

 

 だから、この気持ちは恋ではない。

 

 必死に自身にそう言い聞かせるが、脳裏にこびりつくのはナナとの思い出。直近の尾行の一件が強く思い出される。

 尾行という名目があったが、初めて異性と外を回った。その時のナナの真剣な横顔が脳裏いっぱいに広がって、楯無の頬に朱色が差し込む。それを隠そうと腕を組んで机の上に突っ伏すが、中々消えてくれない。

 

 ついにはそのまま頭を掻きむしる主人を見て、何度目になるかわからないため息をまた溢す。これは一度休ませた方がいいのかもしれない。そんな事を考えた矢先である。ふたりのケータイから着信音が鳴ったのは。

 

 どうやらメッセージアプリらしい。緊急の要件の可能性もあるのでまずはそちらを確認しようと画面を開く。そしてそれを激しく後悔した。

 

 

「なっ、なあっ⁉︎」

 

 

 楯無が驚愕の声を上げるのも無理はない。差出人は本音。メッセージアプリの生徒会グループに監視対象の報告をあげたのだ。内容は本音らしく、緩い日記のようなもの。

 それまではいい。報告の書き方に些か問題はあるが、身内である分読み解くことは可能。しかし、最後にその証明とばかりに写真を送ってきたのだ。

 

 泳いだのであろう、水着姿で水浸しのナナから始まり、砂浜で大人しく腰を降ろすナナ、浴衣に着替えたナナ。そして最後には本音とのツーショットである。それもなぜか腕を絡めた状態で。

 本音からすれば「ちゃんと近くで見てるよ〜」という証明のつもり。だが、楯無にはそうは捉えられないだろう。何せ、よく身体のラインが隠れる服を着ているが、その下はグラビアアイドル顔負けのプロポーションが潜んでいるのだ。楯無からすれば気が気でない。

 

 

「う、虚!行くわよ!」

 

「行くって………まさか、臨海学校にですか⁉︎落ち着いてください、お嬢様!」

 

「落ち着いてるわよ‼︎でも、こうしている内にも魔の手が……………っ‼︎」

 

「人の妹を魔の手扱いするのやめてもらえますか‼︎⁉︎」

 

 

 これで恋していない、と言い張るのだから大したものである。そんな事を思いながらどうにか楯無を止めようと奮闘する虚であった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「よーし、終わり〜!」

 

「ん?のほほんさん、ご飯中のケータイは行儀が悪いぞ」

 

「えへへ〜、ごめんね〜」

 

「あれ?ナナ、青い顔してどうかしたの?」

 

「いや、なンか寒気が………no problem、気のせいネ」

 

 

 所変わって臨海学校の一夏たち。現在は陽も落ちて夕食の時間。大広間を3つを繋げた大宴会場にて、浴衣に着替えた一同は運ばれた膳をつついていた。殆どは座席で正座を強いられるが、苦手な者にはテーブル席を。宗教上や体質上食べられないものがある生徒には別メニューを、といった具合の高待遇。

 

 最近慣れた味噌汁を啜りながら、謎の悪寒に疑問を浮かべるナナ。左隣のシャルロットが心配するが、続く様な気配はないので一先ず問題はない。右隣の本音が辺な報告をあげていないかの方が心配である。

 ちなみに、シャルロットの隣は一夏であり、マナーの悪い本音を軽く注意していた。

 

 

「あー、うまい。しかもこのわさび、本わさじゃないか。すげえな、おい。高校生のメシじゃねえぞ」

 

「本わさ?」

 

「ああ、シャルは知らないのか。本物のわさびをおろしたやつを本わさって言うんだ」

 

「Japanese、食にうるさいネ。わさびにGenuine(本物)fake(偽物)もないヨ」

 

「あー、最近は練りわさも美味しいのあるからな。でも、やっぱ違うって」

 

 

 へぇ、と一夏の熱く語るわさびに目を向ける。緑色の見た目をした小さな山。本当に美味しいものなのか、まず食べ物なのかという疑問が出る。しかし、日本の食へのこだわりはよく知っている。魚を生で食べようとするなど、よく考えたものだ。それでいて美味いのだから文句は言えない。

 これもその類なのだろう、と騙されたと思ってわさびの山を一口頬張るナナ。続いてモノは試し、とシャルロットも一口。そして同時に鼻を抑えて涙目になる。

 

 

「あ、馬鹿!わさびはそうやって食べるもんじゃ………あー、辛かったら鼻から息を吸った方がいいぞ。そんで、口から息を吐く」

 

「っ〜〜〜〜‼︎」

 

「ーーーっ‼︎Fuck‼︎You're a big liar(この大嘘つき)‼︎」

 

「いや、止める前に食べたお前のせいだろ。てか、ナナ。偶に口悪いよな」

 

「………親の教育のお陰ネ」

 

 

 一夏の助言のおかげでわさびの辛さも収まり、目頭を抑える。口の悪さは元々である。舐められないように、相手を威嚇するために、自然とそうなったのだ。

 

 

「わさびはな、こうやって少し刺身に乗っけて、そして醤油を付けて食べるんだよ」

 

「…………嘘じゃないヨネ?」

 

「本当だって」

 

 

 疑いの視線を向けるナナを納得させるべく、一夏が実演してみせる。どうやら本当に正しい食べ方らしく、悶える様子はない。訝しげにシャルロットとナナが真似して一口。

 先ほどと同じ様にツンと鼻に来るが、それも微々たるもの。それよりも、それが程よいアクセントとなり刺身の美味さが跳ね上がる。それが気に入ったのか、刺身に伸ばす箸のスピードが上がり一夏もご満悦。自分が良いと思うものを共感できるようになるのは嬉しいものだ。

 

 

「ななん、これあげる〜」

 

「thank you、本音。but、嫌いな物を押し付けてるだけじゃないノ?」

 

「そんなことないよ〜」

 

「ナナとのほほんさん、仲良いな。何かあったのか?」

 

 

 本音から受け取った山菜の和物を受け取りながら、ついにその質問が来たかと身構える。元々、クラスで話す程度の仲でしかなかったのだ。不審に思われても仕方がない。まぁ、ちゃんと言い訳は用意しているのだが。

 

 

「本音、危なかっしいからネ。世話してる内になつかれたヨ」

 

「世話?」

 

「私がね〜、無くし物した時に助けてくれたんだ〜」

 

「あー、そう言う」

 

 

 間の抜けた喋り方だが、どうやら設定を忘れるほどの間抜けではないらしい。事前の打ち合わせが功を奏した。

 そのまま食事が終わり、風呂も済ませれば後は就寝。同室に千冬がいる時点で諦めていたが、なんとか血液でもとタイミングを伺うが成果を得ず。結果として不貞寝するしか選択肢がないのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 臨海学校2日目。

 初日の自由時間は終わり、本来の目的であるISの無限定空間における稼働試験へ。そのため各国から代表候補生宛に新型装備が山ほど送られ、一般生徒も量産機による新型装備をあつかうということで気合いが入っていた。

 

 当然、ナナにも新型装備が送られている。そのため万が一暴走した時のために、いつも以上に監視の目が厳しい。主に千冬から始まり、摩耶さえも警戒の視線を注いでいた。それでいて纏めて排除されないように散らばっているので手の出しようがない。四方を囲む崖の上から望遠鏡で覗く視線もあるのだから、こちらも気合の入り用が違う。

 

 心配しなくとも、首輪の爆弾がある限り暴れるメリットはないのだ。まぁ、無力化できた瞬間、一夏の身柄を拉致するつもりはあるのだが。

 

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

 

 はーい、と一同が返事をする。さて、と一息入れたナナが本国から送られた装備を確認する。どうやらメイン武器であるスヴェントヴィトの強化パーツらしい。長ったらしい説明文とどのようなデータが欲しいのかの要望、そして使用感の感想用紙と共に渡されたのは覚えている。どんなものやら、と実物を確認しようとした時だった。

 

 

「ちーちゃ〜〜〜〜〜ん‼︎」

 

 

 遠くから聞こえたその声に、ナナの動きが固まる。なぜここに、という困惑とかつて相対した時の恐怖が脳裏を走った。

 声のする方に目を向ければ砂煙を上げながら走る人影。人の範疇に収まらない速度ではあるが、外部補助があるのだろう。やめろ、来るな、というナナの思いを他所に、件の人物は目視できる距離にいた。

 

 

「………束」

 

 

 稀代の天才にして天災。ISの生みの親、篠ノ之束がそこにいた。

 

 

「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、ハグをしよう!愛を確かめーーーぶへっ」

 

 

 飛びかかってきた束の顔面を片手で掴む。手加減のない一撃は思い切り指を食い込ませていたが、そこまでのダメージにならないようだ。

 

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬ………相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

 

 

 そしてその拘束からするりと抜け出す。そして、その視線は一夏へと。

 

 

「いっくんも昨日ぶり!噂によると女の子を誑かしてるらしいじゃなーい?」

 

「どこで聞いた噂ですか………」

 

「ふっふっふっ。束さんにかかれば、どんな噂だろうと耳に入るのだよ。ああ、そしてーーー」

 

 

 一夏に向けられていた視線が、ナナへと向けられる。その瞳を覗いた瞬間、背筋に氷柱が刺さったかのような悪寒がナナの身体を駆け巡る。異常で、異質で、自身の興味ある物以外は無価値だと本気で思っている狂人の瞳。人知れず一歩後退したナナに、束は笑いかけた。

 

 

「君が2人目の操縦者だね。名前はナナ・オーウェンだっけ?だったらなーくんだね!私のことはらぶりぃ束さんと呼びなさい」

 

「y、yeah………nice to meet too、Lovely Tabane」

 

「おっ、ノリがいいねぇ。あ、箒ちゃん!久しぶりだね!何年ぶりかなぁ、大きくなったね、特におっぱいが」

 

「殴りますよ」

 

 

 そのまま妹である箒へと関心が移り、視線が外される。そこで自身が冷や汗をかいていた事に初めて気がついた。安堵からか心臓が早鐘を打ち、呼吸が速くなる。

 けれど、頭の中にあるのは疑問。まるで初対面のように接したこと、そして初めとは違い友好的であったこと。

 

 路肩の石に過ぎなかった、ならわかる。だが、表面上とはいえ友好的に接された意味がわからない。ナナは知っている。束が本気になれば人1人殺すのに片手間もいらない。かつて相対した者として、それだけは確信していた。

 

 箒と話す束は隙だらけ。どこから襲おうと殺せる自信はある。けれど、どう想像しても必ず殺されるビジョンしか浮かばない。人でありながら人を超越した天災。それが恐怖が盛り返し、またあの悪寒がナナを襲った。

 

 

「うわっ、大丈夫か、ナナ?体調悪いのか?」

 

「ふぅ、ふぅ………no problem。チョット日差しにやられたヨ」

 

「そうか?あんまり無理そうならちゃんと相談しろよ」

 

 

 この時ばかりは一夏の声に助けられたナナ。あのままであれば、恐怖を忘れようと自棄になるところだったのだ。呼吸を整えて、ナナ・オーウェンの役を思い出す。かつて敗れた自身は別物だと切り替え、恐怖を胸の奥へ。

 

 

「それで、頼んでいたものは………?」

 

「うっふっふっ。それは既に準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」

 

 

 束の言葉と指し示された指に釣られて、全員が空を見上げる。瞬間、激しい衝撃を伴って金属の塊が砂浜に落下した。銀色をしたそれは、次の瞬間正面らしき壁がばたりと倒れてその中身を披露する。

 

 

「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃんの専用機こと紅椿!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

 

 真紅の装甲に身を包んだその機体は、束の言葉に応えるかのように動作アームによって外に出てくる。篠ノ之束が自ら作り上げたIS。最新鋭機にして最高性能機。各国が聞けば争奪戦が始まりそうである。

 

 見たところ腰に左右一本ずつの日本刀型のブレード以外、何も装備されていない。しかし、束の話によれば自動支援装備と近接戦闘を基礎にした万能型とのこと。隠された機能があっても不思議ではない。

 

 箒が搭乗し、パーソナライズが終われば試運転へ。その機動性もさることながら、装備されたブレードも尋常ではない。打突に合わせてエネルギー刃を放出する雨月、斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーを発生させる空裂。確かに万能型、というのも頷ける性能だ。

 

 

「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ‼︎」

 

 

 全員がその圧倒的なスペックに驚愕し、そして魅了され、言葉を失っている時だった。摩耶の尋常ではなく慌てた声が聞こえたのは。

 

 

「どうした?」

 

「こ、こっ、これをっ!」

 

 

 渡された小型端末の、その画面を見て千冬の表情が曇る。

 

 

「特命任務A、現時刻より対策を始められたし………」

 

「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働していたーーー」

 

「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」

 

「す、すいませんっ………」

 

「専用機持ちは?」

 

「ひ、ひとり欠席していますが、それ以外は」

 

「了解した。山田先生は他の先生にも連絡をーーー全員、注目!」

 

 

 摩耶が走り去った後、千冬は手を叩いて生徒全員を振り向かせる。

 

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日の稼働テストは中止。各班ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」

 

「え………?」

 

「ちゅ、中止?なんで?特殊任務行動って………」

 

「状況がわかんないだけど………」

 

 

 不測の事態に、女子一同はざわざわと騒がしくなる。しかし、それを千冬の声が一喝した。

 

 

「とっとと戻れ!以後、許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する!いいな‼︎」

 

「はっ、はい‼︎」

 

 

 全員が慌てて動き始める。接続していたテスト装備を解除、ISを起動終了させてカートに乗せる。その姿は今まで見たことのない怒号に怯えているかのようだった。

 

 

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、オーウェン!ーーーそれと、篠ノ之も来い!」

 

「はい!」

 

 

 妙に気合の入った返事をしたのは、今し方一夏の隣に降り立った箒。紅椿の性能ならば、大抵の事など対処可能だろう。だが、それはあくまで性能面での話。操る人間がそれに振り回されては話にならない。

 

 一抹の不安を抱えながら、千冬の後に続くのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 千冬から説明されたのは、ハワイ沖で試験稼働中であったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が制御下を離れて暴走。

 衛星の追跡による結果、件のISはここから2キロ先の空域を通過することが判明。その対処をIS学園が行うこととなったのだ。

 

 教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖に当たるため、実働部隊は専用機持ちの学生が行うこと。国家代表候補生になるにあたって、その身柄は軍属に所属することとなる。

 元々軍人であったラウラは勿論、セシリア、鈴、シャルロットの4人の対応は迅速なもの。ブリーフィングについていけないのは一夏と箒くらいのものである。

 

 それも仕方がないとは思う。何せ、少し前までは普通の学生だったのだ。突然の軍事行動についていけなくて当たり前だろう。

 

 

(だから、普通は除外するはずだが………)

 

 

 銀の福音のスペックは広域殲滅を目的とした特殊射撃型。攻撃と機動の両方に特化した機体。並のISでは機動力に劣り、そして一撃で仕留めなければ逃げられてしまう。

 攻撃力の高さで言えば一夏の白式が適任。そしてそれを運ぶのは束の推薦もあり、機動力の高い紅椿が担当することとなったのだ。

 

 馬鹿らしい、と吐き捨てたい気持ちに駆られるナナ。一夏はまだしも、箒はまだ専用機を与えられて1日も経過していない。そして往々にして降って湧いた力など、碌な結末を迎えないのだ。

 

 ーーーだからこそ、この結末もある意味必然だと、ナナは考える。

 

 

「作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば招集する。それまで各自現状待機しろ」

 

 

 そう、作戦は失敗したのだ。銀の福音の機動力は想定以上で一撃入れるチャンスはなく、そして海域に侵入した密漁船を捨てようとして隙ができた箒を庇い、一夏は負傷。絶対防御を貫く熱量は皮膚を焼き、現在は意識が戻らず床に伏している。

 

 それから3時間が経過。指令部として使用されている大広間では教員たちが慌ただしく動いていた。専用機持ちはその場にナナしかいない。箒は懺悔と後悔を込めて一夏の見舞いに。他の4人は何やら探っていたようで、恐らく敵討ちにでも向かうつもりなのだろう。

 

 ため息を溢し、苛立ちを募らせる。密漁船など放っておけばここまでの怪我はしなかっただろうに。犯罪者を庇うくらいならば、その身を自身の糧に使わせてくれ、と物申したくなる。安いヒロイズムのせいでそうなったのだ。自業自得の言葉以外見つからない。

 

 

「お、織斑先生!銀の福音に向かうISの信号がっ!これは………篠ノ之さんたちです!」

 

「なにっ⁉︎チッ、お前ら、すぐに帰投しろ‼︎これは訓練でも、遊びでもないんだぞ‼︎」

 

「………ダメです、応答ありません‼︎」

 

「くっ………誰か救援に向かえ‼︎」

 

(………今ならいけるか)

 

 

 専用機持ち5人の独断行動により、千冬を始めとした教員たちの意識はこちらに向いていない。一夏のデータを奪うなら今が最大のチャンス。

 するり、と気配もなく部屋を抜け出して向かう先は一夏の寝ている部屋。採血セットを取り出し、素早く血が抜けるように準備を怠らない。

 

 

「あれー?なーにしてるのかにゃ?」

 

「………Hi、束博士」

 

 

 その道中、道を塞ぐようにして立っていたのは篠ノ之束。怪しげな笑みを浮かべ、こちらを見透かしたかのように笑みを深める。クソッタレ、と心の中で罵詈雑言を飛ばし、こちらも笑みで返した。

 

 

「ドーしたのカナ?オレは一夏のお見舞いに行く所だけど………ご一緒にいかがカナ?」

 

「ああ、うん。束さんが聞きたいのはそんなことじゃないんだよね」

 

 

 ゆっくりとした足取りでナナに近づく束。逃げようと後ろを振り向いた瞬間を考えて、ナナは動けない。

 

 

「束さんにとってね、いっくんは大事な大事なお友達(研究対象)なんだ」

 

 

 一歩、また一歩。ナナの反応を伺うかのようにゆっくりと、嘲笑うかのように束が近づく。

 

 

「それをもし、他の誰かが奪おうとするなら、ねぇ?束さん的には面白くないわけだよ。もし、なーくんがそんなことをするならーーー」

 

 

 ぽん、と。彼我の距離がなくなりその肩に手が置かれ、そして耳元で囁かれる。

 

 

「次は監獄にぶち込むだけじゃすまないよ」

 

 

 瞬間、生命の危機を感じたナナが大きく跳躍する。ケラケラと笑う束は腹を抱え、目尻に浮かんだ涙を拭った。

 

 

「あっはっは。そんなに怖ながらなくていいよ。なーくんはいっくんの次くらいに大事なお友達だからね。おいたしない限り、束さんからは何もしないよ」

 

 

 心臓が爆音を奏でながら早鐘を打つ。呼吸が定まらず、恐怖が脳を支配する。いつの間にかスられて束の手中にある採血セットが破壊されようが気にもならない。

 束の言う事はつまり、一夏に危害を加えればお前を殺すということ。それはナナの自由になる手段が閉ざされた事と言う事だ。落胆と絶望、そして虚無感。心が軋んで折れそうになる。それを支えているのはプライドだ。

 

 

「ほら、お見舞いに行くんでしょ?早く行きなよ」

 

 

 道を譲るように横にずれた束。今度はナナがゆっくりと、恐る恐ると進み、束の前を通ろうとした瞬間に走り出す。暫く走り抜け、何度も背後を確認するが追って来ている気配はない。完全に見逃されたのだ。

 

 

「くそっ………‼︎」

 

 

 束からすればナナなど、多少興味を引く程度の石にすぎない。その気になればどこへなり放り投げられるのだ。その恐怖に呑まれた情けなさと、苛立ちが口から溢れた。

 何より、一番痛いのは一夏のデータを採取できなくなったこと。自由になるためには、やはり首の爆弾をどうにかしないといけないのだ。難易度が跳ね上がった事にやるせなさを覚え、いっその事一夏共々自害してやろうかと考えながら一夏の眠る部屋へと入る。

 

 

「…………は?」

 

 

 怪我人の一夏がいるはずの部屋はもぬけの殻で、投げ捨てられた布団しかない。部屋全体を見渡して、襖やカーテンの裏、窓の外を探すがどこにもおらず、また侵入者の形跡もない。

 考えられるのはひとつ。意識を覚醒した一夏は銀の福音の元へと向かったのだ。

 

 

「っ‼︎」

 

 

 そこからは来た道を颯爽して逆戻り。大広間の襖を勢いよく開けて、音で注目が集まるが気にしない。それどころではないのだ。

 

 

「貴様、今までどこに………‼︎」

 

「それどころじゃねェ‼︎ああ、くそっ、一夏の野郎‼︎リベンジマッチしに行きやがった‼︎」

 

「なにっ⁉︎」

 

「ほ、本当です‼︎銀の福音の元へ向かう、白式の反応が‼︎」

 

「どいつもこいつも勝手な真似を………‼︎」

 

「はいはーい。いい考えがあるよ、ちーちゃん」

 

 

 いつの間にか指令部に入り込んでいた束。今は構っている場合ではない、と無視しようとする千冬を、束の一言が止めた。

 

 

「束さんなら、いっくん達が無事に戻って来られる装備が作れるよ」

 

 

 その言葉に一瞬、千冬の動きが止まる。脈あり、と束の口角が上がり、続くようにナナへと視線が向けられた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 銀の福音との戦闘は苛烈を極めた。

 外付け装備による強化と連携により一時は銀の福音を追い詰めた専用機持ち達。しかし、そこで予想外の事態が起こったのだ。

 

 銀の福音の第二形態移行(セカンドシフト)

 

 元々軍用であり出力の高い銀の福音が、さらに厄介な存在となったのだ。それにより専用機持ちたちは壊滅。あわや死亡者が、と言うところで一夏が間に合った。

 

 こちらも同じく第二形態移行をしており、新たに状況に応じていくつかの武器に変形する雪路を携え再戦を。

 ワンオフアビリティに目覚めた箒の助けもあり、ついに銀の福音を海に沈めたのだ。

 

 

「はぁ、はぁ………これで、ようやく……」

 

「ッ‼︎一夏っ‼︎」

 

「なっ⁉︎」

 

 

 ほっと胸を撫で下ろした時だった。海面に落ちたはずの銀の福音が再び一夏へと襲い掛かったのは。完全なる意表を突かれ、箒の助けも間に合わない。身体中から生えたエネルギーの翼が眩しく光り、掃射の体制に入っている。

 絶体絶命。思わず目を瞑って身構える一夏。しかしーーー

 

 

「hey、一夏。Step backネ」

 

 

 ISの通信から、ナナの声が聞こえた次の瞬間。上空からいくつもの弾丸が一夏の目の前の空間に降り注いだ。文字通りの弾丸の雨を浴びた銀の福音が体制を崩し、海へと落ちる。

 寸前のところでなんとか飛翔したが、今ので大分エネルギーを削れたらしい。エネルギーの翼が小さくなっている。

 

 それをスコープ越しに確認するナナ。

 その手に持つのは巨大な砲身を持つ武器。これこそがナナに送られたスヴェントヴィトの強化装備、悪竜砲撃(ズメイ・ミスタニエフ)。先ほどの弾丸の雨は超長距離からの砲撃を目的としたこの武器によるもの。

 

 ナナがいるのは装備試験のための砂浜だ。発射の衝撃で砂浜はえぐれ、辺りには巨大な砲身に見合うように、打ち出された巨大な薬莢。それが()()。詰め込まれているのは拳大の鉄球であり、それを散弾の要領で打ち出すのだ。

 

 止めとばかりに2度目の雨が銀の福音を襲い、今度こそ完全に沈黙した。

 

 

「みんな、早く戻ってきナ。千冬がvery angryヨ」

 

 

 返答は聞かず、ISを解除。砂浜に降り立つナナを束が迎えた。

 

 

「ふっふっふっ。どうだったかな、束さんのチューンナップは?」

 

「………なンのつもりだ?」

 

「はえ?」

 

「なンで、ここで手を貸した?」

 

 

 銀の福音からこの砂浜まで、射程距離は足りない。しかし、束のチューンナップと補佐もあり、届かせる事は出来たのだ。

 しかし、解せない。なぜ、自身に手を貸したのか。それを問い詰めれば、束はくつくつと笑う。頭の悪い生徒を見るようなそれは、はっきり言って不快。けれど、実際にその通りなのだろう。束からすれば、この世の全ての人類は自分以下の知能しか持ち合わせていないのだから。

 

 

「言ったでしょ?なーくんは、いっくんの次くらいに大事なお友達だって」

 

 

 それだけ言って、束は砂浜から消える。後に残されたナナは深く息を溢すと、早鐘を打つ心臓を押さえつけた。

 

 

「状況終了。オーウェン、早く戻って来い。今も尚、監視されていることは忘れるな」

 

「………yes sir」

 

 

 束の目的は今ひとつ読めない。それが不安であり、脅威である。だが、打てる手は何一つとしてないのだ。取り敢えず今のところは千冬の言葉に従うしかない。

 

 良いように踊らされている悔しさに唇を噛み締め、ナナは千冬の元へと歩き出すのであった。

 

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