水晶の剣   作:あだヒメ

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昇る火蓋に、雷光一閃

「…報酬は、私の命(特典武具)です」

 

男が足を止め、アルムの方を向く。

尋常ならざる覚悟を秘めた言葉を受けて、男の顔も真剣さを帯びた。

「…内容は?」

「受けてくれるんですか!?」

「聞かなきゃ決めらんねえだろうが」

それもそうか、と納得した様子で、アルムは続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「依頼したいのは、【水晶帝 エル】の討伐です」

水晶。男はその言葉を聞いて、眼前の少女を連想せずにはいられなかった。

 

「その名前、〈UBM〉か」

「はい」

 

「一応言っとくが、俺が倒したら特典は俺の物になるんだぞ?」

「大丈夫です。私の目的はそこじゃないですから」

アルムは、水晶の瞳で男をまっすぐに見据え、そこに男ではない何かを見ていた。

その視線の先にあるものを探るように、男もその水晶玉を見つめ返す。

 

 

 

 

「…オッケー、契約成立だ。その依頼、受けてやるよ」

 

「!!!本当ですか!?」

数秒の沈黙の後に男が出した答えを受けて、アルムが凄まじい勢いで詰め寄る。

「近い近い。ここで嘘ついてどうすんだよ」

男は顔を顰めながら、その頭を押し除けた。

 

「あっ、すみません!つい…。でも、報酬はこれでよかったんですか?」

平静を取り戻したアルムが、申し訳なさそうに頭を下げる。そして、先刻の男の言葉を脳裏に浮かべながら疑問を投げかける。

 

「欲しいわけじゃねえとは言ったが、あるに越したこたあねえだろ」

それもそうか。と、アルマは納得した。

 

「それじゃあ、よろしくお願いします。えっと…おじさん?」

「その呼び方はやめろクソガキ。俺はグレット・アレグレットだ」

男の名を知らなかったからだとはいえ、あまりにもあんまりな呼称に対して男…グレットは悪態を吐きながら名乗った。

 

「それを言うなら、私だってクソガキじゃないですよ。アルムって立派な名前があるんですから」

歳の割に肝が据わっているのか、アルムはその悪態を受けても自身のペースを崩さない。

 

「チッ…わーったよ。そんじゃあ、アルム」

「どうしました?グレットさん」

一瞬の間の後にグレットが折れ、アルムの名を呼んだ。

そうしたことで、アルムもグレットを名前で呼ぶ。

 

グレットは、アルムの頭上に浮かび出る〈UBM〉の名を指差して、

 

 

 

「まずは、お前のそれをどうにかしに行くぞ」

【水晶帝】討伐を目的とした旅の、最初の目的を示した。

 

〜〜〜

 

・都内某所

 

「…ふぅ。やっぱ対人戦(PVP)は慣れねェな」

照明を落とした部屋の中、男はベッドから起き上がり、ヘッドギアを外しながらそうぼやく。

男の名は土宮剛(ストロンガー土偶)。先刻の戦いでグレットに敗れた彼は、デスペナルティにより現実世界へ引き戻されていた。

いくら三倍時間の中とはいえ、一晩中【アルム】を追い回していたのだ。とっくに日は沈み、窓からは月の光だけが差し込んでいた。

 

彼もいい大人だ。遊戯(ゲーム)の勝敗程度で取り乱すことはないが、それでも負け、数時間が水泡に帰せば不快なことには変わりない。

剛は少しばかりの腹いせのために、枕元に置かれたスマートフォンを起動した。

ホーム画面のショートカットからデンドロの掲示板にアクセスし、〈UBM〉に関するスレッドを開く。

 

124:名無しの〈マスター〉

やられたんで情報投げとく

【縫魂晶器 アルム】

12〜3歳くらいのロリで、体は全部水晶

透明だがアホほどキラキラしてたんで見失うことは多分ない

AGIは1200よりちょい低い程度

水晶だからかかなり硬い。5000はあるんじゃねえかな

あとはなんか飛ばしてくる

速くてほぼ見えなかったが、【火傷】とかはなかったから物理攻撃か?

場所はアルターとレジェンダリアの国境あたり

 

 

 

グレットの存在には触れず、かつ彼の攻撃…剛の腕と頭を吹き飛ばした謎の閃光についての情報を添える。と言っても、END寄りのビルドである剛の目では、得られた情報はほとんどないに等しいのだが。

 

「さぁて、何人が動いてくれッかな」

そしてそれを送信し終えると、枕元にスマートフォンを戻す。

 

剛にとっての最善は、グレットが「用事」とやらの為に【アルム】と行動を共にしており、特典狙いの〈マスター〉に倒されることだ。

自身が干渉できない三日間でそうなることを願いながら目を閉じ、剛は約三倍の長い一日を終わらせた。

 

 

 

 

 

 

・レジェンダリア 〈サヴェナ樹海〉

 

〈サヴェナ樹海〉は、レジェンダリア北部に位置する、魔境に溢れたレジェンダリアでは稀少な、至って普通の環境である。

環境には特筆すべき点はなく、モンスターの数が多いわけでもない。

 

そんな樹海の中に、グレットとアルムの姿はあった。

 

「そういえば、どうしてこっちに向かってるんですか?」

グレットがアイテムボックスの底から掘り出したフード付きの外套を纏い、水晶の身体を隠したアルムが、頭に浮かんだ疑問を口にした。

 

「あー、そういや言ってなかったな。この先にいる〈マスター〉に用があんだよ」

〈マスター〉。その言葉を聞いて、アルムは身構える。

今アルムの正体を隠しているのは、何の変哲もない外套のみ。何かの弾みにアルムが〈UBM〉だと分かってしまえば、十中八九無事では済まないだろう。

 

そんなアルムの不安を見越してか、グレットは言葉を続ける。

「お前が想像してるようなことは起こらねえよ。アイツは、レジェンダリア(ここ)でも指折りの変人だからな」

 

アルムは生い立ちの都合もあって故郷の外のことには疎いが、レジェンダリアの〈マスター〉が「個性派」の集まりであることくらいは知っている。

「変人」と一言に言っても、その在り方は様々だ。アルムが、その〈マスター〉について尋ねようとした直後、

 

 

 

「っ!来たぞ、前に跳べ!」

微かに枝が揺れ、木の葉が擦れる音が響いた。その音が止むよりも先に、グレットが指示を飛ばす。

アルムは事前に説明を受けていたこともあって、戸惑うことなく前へと飛び込んだ。

 

『GAAARRUOOOOO!』

刹那、直前までアルムが居た場所を、真横から現れた深緑の影が撃ち抜いた。

影は大木の幹を思わせる蹄を地に突き立てて急停止し、小賢しくも自らの突進を回避した獲物を睨みつける。

皮膚は苔に覆われ、地球のサイに酷似したその頭部からは、天を衝く樹木の角が伸びていた。

この怪物の名は【カモフラージュ・フォレストライノ】。

〈サヴェナ樹海〉に棲まい、森に紛れて獲物を貫く純竜級のモンスターだ。

 

繰り返そう。〈サヴェナ樹海〉は、レジェンダリア北部に位置する、魔境に溢れたレジェンダリアでは稀少な、至って普通の環境である。

環境には特筆すべき点はなく、モンスターの数が多いわけでもない。

 

 

 

 

 

生息するモンスター全てが純竜級(・・・・・・・・・・・・・・・)という点を抜きにすれば、ごくありふれた樹海だと言えるだろう。

 

そんなありふれた魔境で、アルムの前に立ったグレットが【カモフラージュ・フォレストライノ】と対峙する。

 

「さて、と。他のが寄ってくる前に終わらせるぞ」

グレットは刀を納めた鞘を掴み、その柄頭を【カモフラージュ・フォレストライノ】に突き付けた。

 

『GARUORUOOO!!』

【カモフラージュ・フォレストライノ】は本能に従い、より近くにいるグレットに狙いを定めて必殺の突進を繰り出す。

 

「グレットさんっ!!」

回避するつもりがないかのように刀を構えたまま動かないグレットに、思わずアルムは声を張り上げた。

巨体の体重を地に叩きつけながら、【カモフラージュ・フォレストライノ】の角がグレットに迫る。

 

「まぁ、見てろ」

自身に満ちた言葉に反して、グレットと【カモフラージュ・フォレストライノ】の間にあるのは腕と刀のみ。【カモフラージュ・フォレストライノ】の巨体を前に、その二つはあまりにも頼りなかった。

 

アルムは、【カモフラージュ・フォレストライノ】にとっては細枝に等しい腕もろとも貫かれるグレットを幻視する。

しかし、その光景が現実となることはなかった。

 

『GAROOO!!?』

刀の頭と角が衝突するその瞬間、まるで出来が悪い漫画かのように【カモフラージュ・フォレストライノ】が静止する。

いくら地を蹴ろうと進まない身体に、【カモフラージュ・フォレストライノ】も困惑を禁じ得ない。

その時の無音に、アルムは覚えがあった。

 

(これって、あの時の…?)

 

アルムがグレットと出会ったその時。無音で鮫斧の一撃を止めて見せたのも、グレットの握る刀だった。

 

「こいつらは硬えし速えし強えが、やってることはただの力押しだ」

グレットが、鞘を掴む親指で刀の鍔を弾く。すると【カモフラージュ・フォレストライノ】の角と接していた刀が、凄まじい勢いで鞘から弾き出され、【カモフラージュ・フォレストライノ】を仰け反らせた。

 

「出力2%、《疾封刃雷(タケミカヅチ)》」

グレットは、鞘から半ば抜けた刀を右手で掴み、【カモフラージュ・フォレストライノ】の露出した喉元目掛けて居合を放つ。

刀は超音速の加速を乗せて鞘から解き放たれ、その勢いのままに【カモフラージュ・フォレストライノ】の首を両断した。

 

『ーーーーーッ!』

首ごと喉を失った身体は、声にならない叫びを上げながら光の塵となって消えていく。

 

「…それなら、俺の〈エンブリオ〉に負けはない」

グレットは、身体と同じように光の塵に変わっていく血を振り払い、刀を鞘に納めた。

 

「変に立ち止まってても意味がねえ、とっとと行くぞ」

ドロップしたアイテムを手早くアイテムボックスに収納すると、立ち尽くすアルムに声を掛ける。

 

「は、はい!」

アルムは、その背中を追い始める。それと同時に、グレットも歩き出した。

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