水晶の剣   作:あだヒメ

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トレジャー・ハンター^2のギブ・アンド・テイク

・【超古代観測所 アンティキティラ】下層

 

下層の中央に位置する、ただ広いだけの部屋。ホールとして作られたのだろうこの部屋は、Dec.(家主)の引き篭もりによって長らく埃を被っていた。

今は、専らグレットのトレーニングルームとして使われている。

 

グレットは、一体のゴーレムと対峙していた。

スクラップによって組み立てられた不恰好な腕が、重量任せに叩き付けられる。

グレットは前腕を掲げ、真正面からそれを受けた。その腕には、トンファーのような剣が握られている。

細かい鋸刃が、脆い廃材に食い込む。

このゴーレムも、Dec.の作品の一つだ。スクラップの身体が欠けたとしても、中枢たるコアが残ってさえいれば、別のスクラップによって即座に補われる。「気兼ねなく破壊できる」と言う点で、非常に優秀な試し斬り相手(サンドバッグ)だ。

 

「…っし。概ね注文通り、だな」

 

グレットが握る剣は、名を【成神(なるかみ)】と言う。「【タケミカヅチ】に依存しない防御手段」をコンセプトの一つとして制作された、【遺神】謹製の片手剣だ。先刻、報酬として投げ渡されたアイテムボックスの中身である。

 

グレットが【原始の鍵】でデータを集め、Dec.がそこから得られた技術でグレットの装備を作成する。そんなギブアンドテイクで、二人の関係は成立していた。

 

【成神】が保有する能力は「衝撃吸収」だ。流石に出力は上級エンブリオ(【タケミカヅチ】)のそれには劣るが、遠く及ばないという程ではない。むしろ、トンファーに近い形状であり、徒手同様の感覚で扱えることを踏まえるなら、扱い易さという面では【タケミカヅチ】以上だと言える。

 

《衝撃吸収》の確認が済み、次のスキルの確認に移る。

グレットは掲げた右腕を振り抜いてゴーレムの腕を弾くと、その勢いに任せ、トンファーさながらに【成神】を回転させる。

 

「かっ飛べ、《天━━」

 

部屋全体が、大きく揺れた。部屋の中に、それこそ雷のような音が轟く。

【アンティキティラ】は、そのサイズ相応の超重量を誇る。水上とはいえそれが揺らぐほどの事態となれば、考えられる可能性は二つ。

 

グレットは、自らをなぎ倒さんと暴れる床に従い、流されるままに部屋を転がって脱出。廊下の壁面に備え付けられた通信機をひったくる。

 

「おい!」

『残念ながら、私じゃないよ。君の予想通りさ』

 

可能性のうちの一つは、Dec.の作品が弾け飛んだ可能性。何せ、Dec.が扱うのは体系化されていない技術ばかりなのだ。それらを掛け合わせるなら、部屋が弾ける程度のハプニングは起こりうる。

 

しかし、本当に残念なことに、今回はそうではないらしい。

となると、答えは一つ。

 

「敵襲か」

 

【アルム】の(特典武具)を狙う、賊による襲撃である。

 

 

 

 

 

『〈マスター〉二人。片方はドラゴンの推定ガードナー、もう片方は雲だ』

 

「雲…テリトリーか?」

 

『カテゴリー不明、能力は恐らく広域殲滅。"雹"で装甲が持っていかれた』

 

【アンティキティラ】の外部装甲は、Dec.によって後付けされたものだ。主な機能は幻影を用いた小島への擬態だが、それでも装甲として十分な強度を備えている。それを容易く打ち破れるのならば、敵は並の〈マスター〉ではないだろう。

 

「悪いな、変なのを連れてきちまったらしい。後で埋め合わせる」

 

『了解だ。この程度、別に構わないんだけどね」

 

「俺が構うんだ。じゃあ、とっとと追い返してくる」

 

『待ちたまえ』

 

遠ざかっていく声を聞いて、Dec,がグレットを呼び止める。

 

『私が片方を受け持とう』

 

「嫌なこった。元凶は俺なんだ。"友だち"ってのは、尻拭いをさせるためのものじゃねえだろ」

 

『その通りだとも。君はどこまでも正しい』

 

Dec.は、しかしだ、と言葉を続ける。

 

『実は、つい先日"新作"が完成してね。試運転の相手を探していた所だったのさ。結果として君を助ける形にはなるだろうが、私は尻拭いなんてするつもりはないよ。それなら文句はないだろ?』

 

「…アルムは任せるぞ」

 

『もちろんだとも』

 

 

━━━━━

 

 

・【超古代観測所 アンティキティラ】上空

 

曇天の下を、竜が飛翔する。その背に、二人の〈マスター〉が乗っていた。

 

「なに?亀…?」

 

女が、【アンティキティラ】を見て口を開いた。

装甲を剥がされた【アンティキティラ】は今や、その姿を白日の下に晒している。もっとも、肝心のお天道様は雲に隠れてしまっているのだが。

 

「ガードナーかな?ずいぶん大きいけど、アラザンが攻撃し続けてくれれば倒せそうだね」

 

アラザンと呼ばれた女の前方で、背丈の低い男が竜の手綱を握っている。

彼らは、【アルム】を狙う〈マスター〉である。地球(リアル)の掲示板の情報に従った結果、アルムらが小島の地下に消えていく様を目撃し、今に至る。

 

 

 

「そうか?お前等にゃ荷が重いと思うがなあ」

 

「「は?」」

 

跳躍で空中に躍り出たグレットが、会話に割り込んできた。グレットは煙を上げる【タケミカヅチ】に刀を納め、抜刀の構えを取る。

 

「出力1%、《疾封刃雷(タケミカヅチ)》」

 

「チっ…なんなんだアンタ!?」

 

必殺スキルを乗せた超音速の居合を、竜はバレルロールで回避する。しかし、あまりに急な回転だ。手綱を握り、回転の指示を出した男に問題はなくとも、何の備えもしていなかったアラザンにはなす術がない。

アラザンは竜から振り落とされ、グレットと共に落下していく。

 

「アラザンっ!」

 

男は、己の判断ミスに歯噛みする。その意思に応え、竜はその場で急停止した。そして、急降下によってアラザンを回収しようとして━━━またしても急停止。

 

『おっと。行かせないよ。君の相手は私だ』

 

直後、【アンティキティラ】から放たれたレーザーが竜の眼前を焼いた。

地上と上空。二つの戦場で、それぞれの戦いが始まった。

 

 

・〈サヴェナ湖〉湖畔

 

同時に、グレットとアラザンが墜落する。【タケミカヅチ】で衝撃を吸収できたグレットとは異なり、アラザンは勢いそのままに頭から落下した。

 

普段ならば水を求めてモンスターが集まる湖畔だが、周辺一帯に降り注いだ雹によってそれらは樹木ごと叩き潰され、今はグレットとアラザン以外には何も存在しない。

 

「あれで死んでくれりゃ助かったんだが…」

 

「あいにく、硬さには自身があるもんでね」

 

服の埃を払いながら起き上がるアラザンは、全くの無傷だった。例えレベル500の前衛だろうとただでは済まないはず(実際、グレットも【タケミカヅチ】がなければ死んでいた)の衝撃を受けてだ。

 

「にしても、いいファッションだな。特注(オーダーメイド)か?」

 

アラザンの装備は、一言で言うならば料理人(コック)のそれだ。高く伸びたコック帽に、純白のコックコート。腰のベルトには抜き身の包丁が納められていた。不自然に膨らんだ袖は、銀の肩当てと合わさって、クリームの絞り袋を連想させる。

 

それらの装備は一切風に靡くことをせず、まるで銅像と相対しているかのような違和感を抱かせる。

 

「ご明察。随分と値は張ったけどね」

 

さらに、アラザンが《瞬間装備》で取り出したのは…巨大な泡立て器。

メイスだろうか、とグレットは考えた。

 

「"鉄人料理人(アイアン・メイデン)"アラザン」

 

さながら武人の如く行われた名乗りは、その見てくれとは裏腹に、武士道精神に基づくものではない。

相手にも名乗りを促し、そこから情報を得るための行為である。

 

「"対物理最強(アンチ・マテリアル)"グレット・アレグレット」

 

「"最強"ねぇ。大層な二つ名じゃないか」

 

「そうか?謙虚さには自信があるんだが」

 

それを知った上で、グレットはその誘いに応じる。こちらも武士道精神などとは関係がない。相対する敵にブラフという選択肢を示し、僅かでも敵の思考を増やすための行動だ。

さらに言うならば、不敵な態度で精神的優位に立つことも狙いの内に含まれている。

 

互いに名の知れた準〈超級〉などではない、無名の〈マスター〉だからこそ成り立つ、小手先の小細工だ。

 

「それが虚勢かどうか、わたしが確かめてあげるよ!」

 

アラザンは地を蹴り砕いてグレットとの距離を詰め、見てくれの鈍重さに反した速度で泡立て器を振り下ろす。

そこに合わせるように、グレットが刀の柄頭を突き出した。

 

無音。

〈エンブリオ〉のもたらす奇跡が、音もろともその衝撃を無とする。

 

「《疾封刃雷(タケミカヅチ)》」

 

【タケミカヅチ】が秘めし衝撃が解放され、泡立て器をかち上げる。

 

「出力2%、《疾封刃雷(タケミカヅチ)》」

 

そうして生まれた空隙に、神速の居合が叩き込まれる。

超音速の居合は、反応すら許さずにアラザンの首筋を捉えた。

 

吸収からの反射、そして居合。一連の流れが体に染みつくほどに繰り返した、グレットが持つ「必殺」の一つである。

 

その流れの中で、グレットを驚愕させた要素が二つあった。

 

一つは、二度目の《疾封刃雷》…居合の威力が、グレットの記憶よりも高かった(・・・・)こと。《疾封刃雷》は、【タケミカヅチ】に蓄積された力の内から、任意の割合を撃ち放つスキルだ。その威力が目に見えて増加しているということは、直前に受けた衝撃━アラザンの「一撃」が、蓄積された力の「合計」に影響を与えられるほど大きかったということである。

 

もう一つは、極めてシンプルだ。

 

「2%、ねえ。出し惜しみとは、随分と余裕じゃないか」

 

グレットの居合を受けて吹き飛んだ(・・・・・)アラザンが、ゆっくりと起き上がったこと。

それはすなわち、グレットの「必殺」が、アラザンの無防備な首筋すら断てなかったことを意味していた。

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