「和徒さーん、さっそく契約書お持ちしましたよー。って、なんで霊夢さんが守矢神社にいるんですか?まさか、今度は博麗神社からの宣戦布告?!」
「な訳ないでしょ。和人に渡すものがあったから来てたのよ。ただ、早苗に聞いたところ、ついさっき人里に行っちゃったみたいなのよね」
「あやや、入れ違いですか」
「文も和徒に用があるんでしょ。だったらこれをついでに届けてくれない?」
「何ですか?この黒い箱は」
「さあ」
「さあって」
「紫が持ってきたものだから知るわけないじゃない」
「妖怪の賢者が?これは面白いことになりそうですね」
「じゃあ頼んだわよ」
「ちょっ、まだ引き受けるとは言ってないんですけど?!」
紅白の巫女が妖怪の山を発つ。
「フランが?冗談はよしてくれよ」
「妹様は現在、自主的に幽閉されているので結合したか確認は取れていません。しかし、面会に行ったお嬢様はこう聞いたそうなのです。「私じゃない力が溢れてくる」、と」
「ちょっと待ってくれ、俺だけ置いてきぼりにするな。そのお嬢様や妹様ってのは何者なんだ」
「霊夢から聞いてないのか?前に幻想郷が赤い霧で覆われる異変が起きてな、その時の首謀者が吸血鬼で咲夜の主人であるレミリア・スカーレット。そして、当時幽閉されていたのがフランドール・スカーレット。私と霊夢が異変を解決して何やかんやあり、フランとレミリアは共に過ごすようになったんだ」
吸血鬼。昨日の神奈子様のセリフがふと頭によぎる。「何か良いことでもあったのかい」あの作品は確か主人公が怪異の王である吸血鬼の眷属なってしまったんだっけ。
異変の首謀者であったという経歴から幻想郷においても吸血鬼は強力な妖怪らしい。
しかし、ここで一つ気になるワードがある。
幽閉という聞き慣れないワード。異変の時も今回も幽閉されていると言うのが妹様とやらの状態らしい。
「幽閉されていた吸血鬼が紛い者になったんだろ?吸血鬼といっても楽に分離できるんじゃないのか?」
「「それはないぜ(ないな)(ありません)」」
魔理沙にした質問だったのだが、全員に否定された。そこまであり得ない話だということか。
「フランは『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持っている。フランはその危険性と自身の狂気を不安視し、ずっと閉じこもっていたんだ」
「もし、妹様が力に飲まれて文字通り全てを破壊してしまうようなことがあれば、タダでは済まないでしょう。死者が出る可能性も十分あります」
めちゃくちゃ危険人物じゃねえか。
「そして、万が一のことがあれば妹様は処刑されてしまうでしょう。ようやくお嬢様との関係も修復できそうだと言うのに、あんまりでございます」
長い間離れていた二人の関係が、やっと改善へと進む。それは俺と早苗にも当てはまる。
「私としてもフランは友達だから助けてやってほしいという気持ちはあるんだぜ。だけど、これは危険すぎる。ちゃんと考えた上で協力するか決めろ、和徒」
全てを破壊する吸血鬼、果たして最近幻想郷に来たばかりの俺が勝てる相手なのか?
「和徒、部外者の私が口を挟むべきではないだろうが、これは伝えておく。程度の能力を持つ人物が紛い者になったケースは過去2件存在する。
「このうち片方は封印され、もう片方は今も行方不明だ。つまり何が言いたいのかというと、この幻想郷には霊夢や魔理沙といった異変を解決できる手腕をもつ者であっても、満足に行く結果を残せない事案があったと言うことだ。
「それを解決する覚悟が君にはあるか?ないなら大人しく霊夢にでも任せて封印してもらうほかないが、誰も君を責めはしないだろう。そういう事案なのだ」
慧音さんの言葉のおかげで頭の中が冷静になった。
「確かに、素人に毛が生えたような外来人が破壊の吸血鬼をカードを分離させるなんて無理だろうし、できるわけがないような無茶な話です。この前運良く分離できて調子に乗ってました。すいません」
咲夜さんが顔を伏せる。
程度の能力を持つ者。これには早苗も含まれる。
「ただ、もし紛い者になったのが自分の幼馴染だったとしたら。程度の能力者である早苗が紛い者になったとしたら。そうなった時、俺は戦うでしょう。
「だから今回も同じです。俺は、フランドール・スカーレットを、吸血鬼の妹を、救ってみせます」
「良いのですか?!死ぬかもしれないのですよ?」
咲夜さんが顔を上げて俺に問う。答えは決まっている。
「離れ離れは寂しいですから」
日も落ち、空が黒く染まり始め、吸血鬼の時間が始まる。
「よく来たな、紛い者を倒す術を持つ外来人よ。我こそは、ツェペシュの末裔にして、永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットであるッ!」
紅魔館に入り、咲夜さんに奥の部屋へ通されると、玉座に幼女が座っていた。
ピンクのドレスとナイトキャップに青紫の髪、そして何と言っても特徴的なのはコウモリのような羽と牙。
吸血鬼は魅了の力を持つという話があるが、見た目の幼さとは相反する威圧感からはカリスマ性がオーラとして具現化されているようにさえ感じる。
「お初にお目にかかります。私、先日幻想入りし、現在守矢神社にて居候の身であります、真島和徒と申します。本日は、かの有名なレミリア様にお会いできて大変光栄に思います」
貴族の挨拶作法が全くわからん。何となくこんな感じでいいのか?とりあえず、跪いておくか。
「.........」
あれー?なんで何も言ってこないんだ?もしかして作法が悪くて怒ってる?
心配になって見上げると、外見年齢相応のニマニマとした表情の幼女がいた。
「和徒様、お嬢様の名乗りに対してそのような返答をしてくれる方が今までいなかったので、お嬢様は嬉しいのです」
「咲夜!そんなことまで言わなくてもいいッ!」
「失礼しました」
先ほどまでの威圧感が消え、途端に可愛らしくなった。
「そんなことよりフランのためにあたしらはここに来たんだぜ。案内してくれよ」
「そんなこと......」
今度はしょんぼり顔になった。表情がコロコロ変わって面白いな。むしろ名乗りをバッチリキメられたのが嘘みたいなゆるさだ。
「ゴホンッ」
咳払いでレミリアが調子を整える。
「よかろう。これからフランのいる地下室まで案内する。ただし、私、魔理沙、和徒の3人だけで向かう」
「お嬢様、なぜ私が同行してはならないのですか」
「咲夜、お前は私や魔理沙と違って純粋な人間だろう。フランの戯れが致命傷になりうる。だからお前はここで待て」
俺も人間なんだが。
「お嬢様、お言葉ですがそれは承知できません。私はお嬢様の従者であり、運命を共にするという覚悟を持っています。お嬢様のために命を落とすと言うのなら、それは本望です」
「...フンッ、ならお前に命令する。もう一人の純粋な人間である和徒の命を守れ」
「承知しました」
俺が人間だと言うことを忘れないでいてよかった。
「ここがフランのいる地下室だ。覚悟はいいな」
階段を下り、鈍色の扉のまえで全員最後の準備を整える。
『HEROIC』
「む?貴様、女だったのか?」
「いえ、男です。ただ、紛い物を倒すにはこの姿になる必要があるんです」
「そうか」
「誰かいるのー?、その声、もしかしてお姉様?」
扉の向こうから幼い声が聞こえ、息を呑む。鳥肌が立ち、冷や汗までかいてしまう、そんな声だった。
「ああ、私だ、フラン。扉を開けるぞ」
もし、自分が幻想入りしてすぐにフランと戦ってくださいって言われたら絶対やりたくない。