「レミィを助けるためには人間の血が必要よ」
パチュリーが俺と咲夜さんの方へ視線を向ける。
今この場にいる人間は俺たち二人しかいない。
魔理沙も人間ではないかとふと思ったが、魔法使いは部分的に人間とは異なると以前聞いたため異なるのだろう。
「ここは、従者である私の血を...」
「待ってくれ咲夜さん、俺の血を使って欲しい」
「なぜですか」
「俺は貴方の主人、レミリア・スカーレットに任されたんですよ。この騒動の始末を」
レミリアは確かに俺に言った。「任せたわよ」、と。
「しかし、それはカードの分離であって」
「俺にはこの屋敷の家事の管理や怪我の手当てはできない。それができるのは咲夜さん、貴方だけです。だから咲夜さんは紅魔館のことを、俺は混沌異変に関することをすれば完璧なんですよ」
「......」
まだ納得できていないのだろうか。返事が返ってこない。
「悪いけど、喧嘩してるとこのまま死ぬわ」
レミリアのもとへ駆け寄り、首筋を突き出す。
「以前レミィから聞いた話だと、血を吸っただけでは人間は吸血鬼にならないそうよ。互いの同意を持って初めて吸血鬼となる。だから自分が吸血鬼になるかもなんて心配はしなくていいわ」
「分かりました」
咲夜さんもそばにきて、レミリアの体を起こした。
「和徒様、お嬢様を頼みます」
レミリアの頭を咲夜さんが動かし、俺の首筋へ牙が突き立てられる。
月明かりに照らされた吸血鬼の顔は、儚くも美しかった。
「うぐっ」
ツーっと自身の血が抜かれていく感覚。しかし、痛みは感じない。
ちょっと待てよ。これってどれくらいの血が抜かれるんだ?人間はどれくらいの血が残っていればいきていられるんだ?
頭がぼやぼやしてきた。まずい。意識が。
「知らない天井だ」
気絶した時に言ってみたいセリフベスト1。
フカフカのベッドから体を起こすと、側の椅子に眠ったレミリアが座っていることに気がついた。
どうやらここは紅魔館の客室かどこかなのだろう。
俺が目覚めたことに気がついたのか、レミリアが起きる。
「あら、ちっとも起きないから死んだものだと思ってたわ」
「俺も貴方に対してそう思ってましたよ」
「お互い様ね。ふふ」
レミリアの姿はまるで戦いなどなかったかのように美しかった。
アレほどの瀕死の状態からこうも綺麗に生き返るのか。
「流石に丸一日もあれば完全復活するわ」
「丸一日?」
「あなた、今はあれから次の日の夜よ」
なんてこった。こんなに寝たのは初めてだ。
そういえば、早苗に紅魔館に行ってること伝えてなかった。
怒られるかもしれないけど、もう忘れよう。
「改めて礼を言うわ、真島和徒」
そう言って頭を下げられる。
「咲夜のことも助けてくれたのでしょう?それに私に血を分け与えて延命措置までしてくれた。この恩はどう返したら良いものか」
「俺がやりたくてやったことです。もし恩を感じているならこの2枚のユナイトカードを俺に渡すということでチャラにしてください」
正邪とレミリアのカードを見せる。
「しかし、吸血鬼としてのプライドが......そうだ、この紅魔館で働いてみない?」
「ここで働く?!」
「ええ、住み込みで執事になるの。咲夜も貴方のことは信用してるだろうし、パチェも研究対象として面白いとか言ってたわ。何より、フランの分身を倒す程度の実力はあるみたいだし。どうかしら?」
「申し訳ないのですが、お断りさせていただきます」
「理由を聞いても?」
「俺には守矢神社という帰る場所があり、紛い者となった人妖を救わなければなりません」
「それは残念だわ」
正直魅力的な提案だったが、今の俺には他のやるべきことがある。
「なら、私と友人になりましょう」
「え?」
「一対一の対等な友人になりましょう。それで、週に一回この屋敷に来なさい。丁重にもてなすわ」
吸血鬼の文化はよくわからないが、プライドが重要なのだろう。
これを断ったとしても、また次の提案が来るはずだ。
早めに受け入れるしかない。
「分かりました。それでお願いします」
「言ったはずよ?対等な友人だと。敬語は必要ないわ」
「分かった」
「咲夜やパチェにも敬語の必要はないわ」
ドゴンッ
勢いよくドアが開かれ、金髪に羽を生やした少女が部屋に入ってくる。
「お姉様、やっと見つけた!」
「ノックをしなさい。はしたないわよ」
「フランと遊ぼーよ」
妹が姉に抱きつく。妹はとびきりの笑顔で。姉は面倒くさそうにしつつも口元が綻んでいる。
「そういえば、これあげる!」
そう言って俺に手渡されたのは1枚のユナイトカード。
DESTROYの文字とフランが描かれていた。
「さっきベッドの隙間に見つけたんだ!これは友達の印として貴方にあげるね」
俺はフランとも友人になれたらしい。
歩み寄ることをやめなければ、誰もが通じることができる。
俺は別世界へと行ってしまった早苗に会おうことできた。
レミリアは憎しみに支配されたフランを愛情で受け入れた。
想い続けることが大切なのだ。
まだ、調和は始まったばかり。
「あちゃー、やっちゃったね。和徒」
諏訪子様の笑い声。
翌日の朝、俺は守矢神社にて土下座をしていた。
無断で二日の外泊。フランに殺されかけたこと。レミリアに血を与えたことで俺が死ぬかもしれなかったこと。
早苗様のお怒りでございます。
「まあまあ、反省してるようだしそのへんにしといたら?」
「神奈子様に免じて今回は許します」
「ありがとうございます。すいませんでした」
「気をつけてくださいね!聞いてる限りだと、生きてるだけでも奇跡ですよ?」
「その通りでございます」
「それにしても、吸血鬼に勝つとはやるねえ」
神奈子様が新聞片手にそう言った。
新聞の名は文々。新聞。
文はあのあとすぐに新聞を作って今朝発行したらしい。
見出しは「外来人、吸血鬼の紛い者を鎮静化」
フランドール・スカーレットとの交戦中、人里では別の戦いが勃発していた。
一方は白髪の男。もう一方はブレザーの少女。
ただし、身体的な特徴を挙げるとするならば、男は両腕に刀が生えており、少女は腰に奇妙なベルトを装着していた。
接近戦では得物を持つ男の方が有利と見える。
「嬢ちゃん、逃げてばっかじゃつまんねえよ。とっとと切られてくれないか?」
「だったらもう少し当てる努力をしなさい」
少女はバックステップで大きく距離を取り、人差し指から光弾を放つ。
「俺に斬れないものなんてないんだよッ」
光弾が刀によって切断され、防がれた。
「あんたの敗因はその傲慢さね」
少女がカードを取り出した。そのカードにはSONGの文字と夜雀の絵。
ベルトのレバーを上げてカードをベルトに差し込み、レバーを下げてセットする。
『ソング・ストライク』
ベルトから歌声が流れ始めた。
「ん?なんだこの歌は。何も見えねえ」
「鳥目になった気分はどう?まだなんでも斬れるのかしら?」
少女はさらにカードをベルトにセットする。
そのカードの絵は彼女自身が描かれていた。
『マッドネス・ストライク』
少女は拳を拳銃に見立て、光流を発射した。
「ぐああああああ」
光流が直撃した男からはカードが分離し、少女がそれを回収する。
「やっぱり辻斬りの犯人は妖夢さんのカードの紛い者だったか」
拾ったカードにはBLADE、白髪の少女の絵。
「確か新聞には燃える人影とか書いてあったから、次はそっちの調査をしようかな」
少女にはもう一つ特徴的なパーツがあった。飲み込まれそうなほど赤い目と、長いウサ耳である。
1章『調和の始まり』 閉幕
新章『重なる狂気』 開幕
2章では和徒が新たなフォームへチェンジします。
次の話で1章終了時点の設定資料をまとめて投稿するので、何か質問があれば気軽にどうぞ。