目をあけると、そこは森の中だった。
「ちょっと待ってくれ。情報量が多すぎる」
スマートフォンは圏外。もしかしたら今いる場所が山の中で電波が届いていない可能性がある。しかし、守矢神社の跡地がいくら坂の上だったとしても電波が届かないというはずはない。
一つ嫌な予想が思い浮かぶ。異世界転移。最近流行りのジャンルだが、ああいうのは大抵チート武器やスキルとセットだ。腰に巻かれた謎のベルトと奇跡を意味する文字の書かれたカード。異世界転移要素満載だ。
となると、守矢神社も異世界転移されたという可能性に思い当たる。駄菓子屋のおじさんに記憶がなかったのも異世界転移の影響だとしたら辻褄があう。つまり、
「早苗は、守矢神社は、この世界にある」
あたりを見回すと、距離は相当離れているが神社の鳥居らしきものを丘の上に見つけた。とりあえず、日が落ちる前に鳥居の元へ行こう。
一方その鳥居を持つ神社の境内にて、紅白の巫女と白黒の魔法少女。
「なあ霊夢、頼むから一緒に探してくれよー。この前戸棚のお菓子勝手に食べたの謝るからさ」
「謝って当然なのよそれは。それにしてもあれだけ紫が厳重に管理しておきなさいって言ってたのにどうしてカードをなくすのよ」
「まさかポケットに穴が空いてて、よりにもよって全速力で飛んでる時に落とすなんて思わないだろ」
「魔理沙は適当すぎるのよ」
現在幻想郷ではとある異変が起きている。その名も混沌異変。幻想郷において異変なんて日常茶飯事だという者もいるが、この異変は黒幕らしき黒幕が見つからず、現状解決のしようがなかった。
幻想郷の実力者をモチーフにしたカードが突如出現する。言葉にすれば単純だが、カードの出現場所とタイミングの法則が不明、カードと結合するとそのモチーフの力を使用できる、カードは種族問わず適性があれば誰でも使用可能、一度カードと結合すると使用者が死ぬまでカードは再出現しない、という厄介極まりない事象が妖怪の賢者によってすでに解明されている。
「私のカードとその辺の妖怪が結合しちまったらどうすんだよおい」
「そうなったら退治するしかないわね」
「オンリーワンの私のカードが無くなっちまうじゃねえか」
「どっちかというと悪人の手に渡る方が厄介だから私としてはその方が望ましいわ。どうせそのうち見つかるわよ」
「ちくしょうもうひとっ走りして探してくるぜ!」
箒に跨り飛び立つ魔法少女。
「...さっき、何かが大結界を抜けたわね」
空を見つめてつぶやく巫女。
「白黒の魔法使いのカードを拾ったと思ったら外来人にまで出会うなんて、今日はツいてるぜ」
「見逃してくれたりとかは...」
「あるわけねえだろ」
まったくツいていない。ゴブリンを成人男性サイズほどの大きさにした生物とばったり遭遇してしまった。カードについての発言は気になるが今はそれどころではなさそうである。
選択肢としては逃げるほかないが重要なのはそのタイミングだ。なんとか隙をつく。
「なあ、さっき言ってた外来人ってのは何か教えてくれないか」
「どうせ死ぬから知ったところで意味ないだろうが」
正論である。
「博麗の巫女に見つかるとダルいからとっとと殺してやるよ」
ゴブリンもどきが距離を詰めてくる。マズイ。このままだと死ぬ。
「あっ!そこの巫女さん、助けてくれー!」
奴の真後ろを指差し思いっきり叫ぶ。
「なんだと?!もう嗅ぎつけやがったの...」
全速力で走り抜ける。巫女なんていない。嘘である。なんか巫女にビビってたから利用させてもらった。
後ろから自身を追いかける足音が聞こえる。それもとんでもない速さで今にも追いついてきそうなスピードで。
「ぶっ殺してやる」
「ぶべっ」
背中に寒気を感じ思わず転んでしまった。しかしそれは幸運であった。なぜなら、あのまま走っていたら飛び蹴りをくらっていたはずだから。
それでも追いつかれてしまった以上状況は好転したとはとても言えない。何か手はないのか。目にとまったのはベルトに取り付けられた箱とレバー。
藁にも縋る思いでレバーを引いて箱を開ける。しかし、箱の中身は空。強いていうなら何か紙を3枚挟む場所があるくらいである。
「ちくしょう、せっかく手掛かりをつかんだってのによ」
レバーを押して箱を閉じる。
『ORIGIN』
「へ?」
突如ベルトから聞こえた音声。さらに光の粒子が全身を覆う。
「妙な真似してんじゃねえ!なんだてめえその姿」
「なんだと言われましても、え」
変だ。声が違う。明らかに高い。それに目線が普段より若干低く、胸に重みを感じる。
見下ろすと、半袖Tシャツにスラックスとスニーカーだったはずが半袖Yシャツに紺色のミニスカート、黒のソックスと茶色のローファーとなっており、胸は膨らみ股間は寂しさを覚えた。
そう、女体化である。
「女になったところで死ぬことは変わんねえぜ」
ゴブリンもどきが拳を振り抜く。しかし、なぜか動きが見える。それに体が軽い、避けるのが容易いほど。
ベルトの影響であることは火を見るよりも明らかだが、これで奴と戦える。
「オラァッ」
「ぐえぇ」
奴の腹部に拳をぶつける。力まで強くなっていた。
「ま、待ってくれ、謝る。この通りだ」
血を吐きながら許しをこう、ゴブリンもどき。
「なら、これから俺がする質問に答えろ。嘘をついたら殺す。ここはどこだ」
「ここは幻想郷って言って人間とか妖怪とか神がいる場所だ、俺みたいな下っ端にはよくわからねえ」
「外来人ってのはなんだ?」
「外の世界から幻想郷に迷い込んだ人間のことだ」
こいつは頭が良くなさそうなのでこれ以上何か聞くことはないかもしれない。
「魔法使いのカードを渡せ」
「こ、これは俺が見つけたもので」
睨みつける。
「わかった、このカードだ。だから命だけは助けてくれ」
受け取ったカードにはSTARの文字と金髪の魔女っ子の絵。
「これで終わりだ。今すぐ俺の前から消えろ」
「ひいぃ」
奴に背を向け歩き出す。目的地は遠目に見えた神社。
しかし、突如背中にくらう衝撃。思わず跪く。
「散々コケにしやがってボケが」
後ろを振り向くとゴブリンもどきの姿が見える。その距離およそ10メートル。
どうやって攻撃してきた?見た感じ投石といった物理的な飛び道具はない。
「妖力弾を作るのは苦手だがてめえをこれで痛ぶってやるぜ」
「くそったれッ」
手元に妖力弾と思われる光の玉が5、6個生成される。あれをくらうのはマズイ。立ち上がり、鳥居を目指して走り出した。
ベルトの箱についてた、紙を3枚挟む場所って何なんでしょうね。
カードでも挟むのかな?