飽きているわけではなく、単純に忙しい
前回のあらすじ
レミリアによって明かされた、和徒の『調和を生み出す程度の能力』
和徒はレミリアに貸しができたことで週に一度血を飲ませるという契約を結ぶ
レミリアが和徒にチャームをかけ、一線を超えそうになるもパチュリーによって阻止されたのだった
「ありがとうございました、師匠」
悪魔の妹がもつ能力で爆撃された腕は、師匠のおかげでほとんど元通りとなった。
まだヒリヒリするが、あと数日もすれば引くだろう。
さすがは私の師匠、八意永林。月の頭脳。
「張り切るのは良いけれど、あんまり無理しないでちょうだいね」
「もちろんです」
私は師匠や姫様と違って蓬莱人ではないため、怪我もするしポックリと逝ってしまう。
しかし、だからと言って無理をしないわけにはいかない。
私はあなたの誇れる弟子でいたいから。
「それでは行ってきます」
診察室を出て、再び真島和徒と交戦する用意をする。
今も紅魔館に滞在しているとすれば、あの吸血鬼の姉妹は厄介だ。
以前試しで作った特性の聖水をポケットにしまう。
対吸血鬼用特殊聖水。あれほどの吸血鬼だから死ぬことはないだろうが、それでも一時的な無力化は十分可能なはずだ。
「あれ、うどんげ。どこ行ってたの」
出発しようとした矢先、姫様と鉢合わせてしまった。
「師匠のお使いを頼まれまして」
「そんなボロボロでよく働くわね」
姫様の生活スタイルは、基本的にゲームとご飯と睡眠、たまに人里へ散歩、と構成されている。
なので、このセリフは私に対する心配のみならず、働くという行為への憂いも含まれているのかもしれない。
「私は師匠の一番弟子ですから」
「へー」
言い忘れていたが、姫様はユナイトカードやピュアドライバーについてほとんど知らない。
これは、興味をもった姫様が危険に巻き込まれないよう配慮した師匠が情報統制を行なっているからだ。
「うどんげは変わらないわね、多分私が初めて会った時も同じことを言ってた気がするわよ?」
「そうですかね」
私が地上へ脱走し、この永遠亭に居着いた時、一体私は何を考え、何を話し、何を思っていただろうか。
一つだけ確かなのは、ひどく惨めだろうということ。
月で生きていた頃は常に死と隣り合わせで、怯えていた。
いつ発狂してもおかしくない環境だったからこそ、この能力を手に入れたと言っても良いくらいに。
そんな最中起きた、月の頭脳、八意永林の離反。運命のターニングポイント。
「あの時のうどんげ、何か失敗する度に土下座して「すいません、すいません」って言っちゃってさ。だれもそんなくらいで殺したり捨てたりなんかしないのにね」
「...そうでしたね」
月兎としての自らの役割を放棄した地上の生活。
ただひたすらに自身の存在理由を、居場所を、「ここに居て良いよ」と言われるのを求めていた。
「でも、あの時と違って今は輝いてるわよ」
「輝く?」
「ええ、はっきり言ってうどんげは強くない。でも、自分にできることを最大限取り組んでる。そういう姿は輝いて見えるものよ」
辛辣だ。だけど、暖かい。
姫様のに言われて気づいたが、今と昔の私で異なるのは自覚だ。
自分の弱さの自覚。自分の弱さを受け入れたことで変わった気がする。
脳裏に浮かぶ姿。真島和徒。
幻想郷に来たばかりで知識も強さも経験も、何もかも足りていない。
だが、彼は輝いていた。
今、幻想郷で紛い物からユナイトカードを分離できるのは私と彼のみ。
彼も自分にできること精一杯行っていたのだろうか。
「そういえば聞いてよ。永林ったらまた私を除け者にしてさ〜」
姫様の愚痴が始まってしまった。
「この異常気象もとい異様な寒さは、霧の湖の中心が顕著に現れているのよ」
急いでパチュリーを追いかけた甲斐があった。
でなければ、この考察も聞けなかったし、なによりレミリアとの情事を拡散されてしまうところだった。
「だから、霧の湖へこれを投げ入れなさい」
パチュリーの手のひらには、烈火を封じ込めたような半透明の石。
「これは私が作った、魔力の込められた石。液体に反応して爆発するから、この包みに入れて持っていくことね」
「了解した」
鈴仙の攻撃でまだ体の節々が痛いが、事態は急を要する。
魔石をズボンのポケットに仕舞い込んだ。
「さっきからなんだよ、レミリア」
気にしないようしていたが、無視することができなかった。
パチュリーが話している最中にも、粘り気のある視線が俺に絡みついていたのだ。
「別に?」
「ならいいんだけど」
まだ上裸のままだったので、服を着る。
まだ視線がひっついてくる。
「だからなんなんだよ」
「忘れてないわよね?契約」
「...週に一回吸わせれば良いんだろ?」
「ええ」
視線は変わらず、凄惨な笑みが浮かび上がる。
「次は朝食、いえ、人間基準の夕食をご馳走してあげるわ」
紅魔館は妖精メイドが家事を行なっているが、おそらくレミリアの食事を作るのは咲夜さんだろう。
食べてみたい。まだ夕食を食べていないので、腹の虫が鳴ってしまいそうだ。
「楽しみしておく」
「ふふっ」
用意を済ませた俺は紅魔館を飛び立つ。
そういえば、血を吸われて忘れていたけれど、俺の能力でオーガフォームをどうやって克服するか考えておかないといけない。
「意外だったわ」
「何が?」
「レミィの男の趣味よ。確かに芯はあるけど、霊夢みたいな人間がタイプだと思ってた」
「別に違わないわよ?彼は霊夢に匹敵する運命を背をっているもの」
「でも、良いの?彼は守矢の人間でしょ」
「パチェ、こういう言葉を知らないのかしら」
「恋は障害があるほど燃え上がる」
レミリアさんがヒロインレースに参加しました。
実を言うと、最終章あたりまですでに構想は出来上がってます。
時間が足りなさすぎます。
どれだけ時間がかかっても完成させるので、これからも応援よろしくお願いいたします。