東方三混和   作:語り部梔子

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前回までの実績

新たな力、オーガフォームの持つ狂気に翻弄されるも、自身の能力を自覚し、和徒は強くなる。
そんな思いに応え、もう一本のベルトであるピュアドライバーを持つ鈴仙は協力を決心したのだった。


3章 封じられた秘密
姫と護衛と逃避行 その1


『分け入っても分け入っても青い山』

という俳句がある。

 

誰が読んで、何が季語で、どういった状況で読んだのか。私にはちっともわからない。

 

ただ、もし今私が俳句を読むとしたならば、

『分け入っても分け入っても暗い森』

となるのだろう。

 

もうかれこれ数時間は夜の森を歩き続けている。

携帯電話はない。

 

読者諸君。ここで、今時の女子が携帯電話を持っていないなんてあり得ないと思ったのなら想像してみて欲しい。

 

少し仮眠を取ろうと思い、携帯電話のアラームを20分にセットする。

そのままソファに寝転び、目が覚めたら森の中である。

就寝時の服装でここに来てしまったのなら、携帯電話を所持していないのは当然ではないだろうか。

 

ガサガサッ

 

「ひっ」

 

近くで木の葉が揺れる音。

 

「ん?また外来人か、今度の奴は弱そうだぜ」

 

昨今のファンタジー作品では知らない人はいないだろう怪物、ゴブリン。

ゴブリンは小鬼といったように小さいことが強調されるが、この怪物は私より大きい。

大鬼とでも言うべきなのだろうか。

 

しかし、小鬼だろうが大鬼だろうが、現代日本を生きる非力な女子大生にとれる選択肢はただ一つ。

 

全力で走る。

森の中を歩き回ったせいですでに筋肉痛になりかけているが、筋肉痛で命が助かるのならいくらでも許そう。

あれに捕まったらどうなるかなんて分からないし、分かりたくもない。

 

「外来人ってみんな馬鹿なのか?ただの人間が走りで妖怪に敵うわけないだろうが!」

 

振り向くな。例え何を言われようとも走り続けろ。

もしここで振り向いたら、もう走れない気がする。

 

「あぐっっ」

 

こういった時、私はとことんツいてない。

盛り上がり、地面から飛び出した木の根に足を取られ転んでしまった。

全速力でこちらへ向かってくる怪物が視界に入る。

 

あーあ、振り向いちゃったな。

恐怖で腰が抜けてもう立ち上がれない。

私の人生もここで終わりか。

まだまだ知りたいことはたくさんあったのに。

 

「何かしら、これ」

 

転んで手をついた場所に、一枚のカードが置いてあった。

描かれていた文字はBORDER。

境界。境目。端。限界。縁。

縁もゆかりもない土地で拾った、一枚のカード。

 

しかし、そのカードを拾った途端、手元に境界が生じた。

私の能力は『結界の境目が見える程度の能力』。

境界を作ったことなどただの一度もない。

 

境界は徐々に広がり、無数の目が覗く亜空間となった。

怪物はもうすぐそこまで迫っている。

一か八か、そのスキマに入ってみることにした。

 

 

 

 

「と言うことがあったのよ、蓮子」

 

スキマに入った私は意識を失い、気がついたらソファの上だった。

それから朝食をとって家を出て、現在、大学の教室にて講義を受けている最中。

 

「なるほどね、もし私がそこにいればどこだったのかわかったんだけど」

 

白いリボンが巻かれた黒い中折れ帽を被った友人が、事の顛末を聞き終えてため息を吐く。

 

「むしろこういった時にしかつかえない能力だものね」

 

「喧嘩なら買うわよ?」

 

「それより、見てよ。その時のカードがこれ」

 

ポケットからカードを取りだして見せる。

 

「...何よ、これ」

 

「私も驚いたわ。何としても解明しなくては」

 

文字が書かれていた方とは逆側の面。

そこに描かれていたのは、リボンで結ばれた金髪ロングにフリルのドレスを着た少女。

瞳の色は、紫。

 

「これって、メリー?」

 

「さぁ」

 

私と瓜二つの顔を持つ少女。

私の名前はマエリベリー・ハーン。

あなたの名前は?

 

 

 

 


 

 

 

 

「永林ったらひどいのよ?私を除け者にして色々やってるらしいし」

 

「色々って?」

 

「これよこれ!」

 

守矢神社の居間にて、まるでずっと昔から住んでいましたと言わんばかりのくつろぎっぷりを披露する輝夜。

いきなり来訪して夕飯を共にするという図太さは、さすがは月の姫だとしか言い表せない。

神奈子様は、「永遠亭に借りを残せる」。諏訪子様は、「なんか面白そう」。との理由でお咎めなし。

 

「なんでうちにこんな変なカードがいっぱいあったわけ?人里の駄菓子屋でこういうカードの付録がついたお菓子でも流行ってるわけ?」

 

輝夜が懐から取り出したのは、妹紅が描かれたユナイトカードだった。

さっき鈴仙が、ベルトを作ったのは永林だと言っていたから、永遠亭がユナイトカードにがっつり関わっているはずだ。

 

いや、むしろ輝夜を巻き込まないために教えていないとか?

 

「鈴仙に聞いたら逃げられるわ、永林に聞いたらはぐらかされるわ、てゐなんて一目散に逃げ出して。私、本当に傷ついたわ!こんなに傷ついたのなんて、妹紅が採ってきた筍を永林と鈴仙が隠れて食べてた時以来よ」

 

思ったより傷ついてないなソレ。

 

「それで家出したのか?」

 

「いえ、この話は関係ないわ」

 

何なんだよ。ただの愚痴じゃねえか。

 

「今日、人里に遊びに行こうと思ったの。でも、永林が私を見つけて部屋に閉じ込めるのよ」

 

「部屋に閉じ込める?」

 

「そうなの。それに、今日だけじゃなくてここ一か月くらい外出禁止みたいな事言ってて」

 

永林たちは輝夜に混沌事変のことを伏せている。

だから人里で混沌異変の噂を聞かれたらまずいって事か。

 

「だから、隙をみて逃げ出してきたのよ」

 

逃げ出してきたのよ、じゃねえよ。

これ、永林に輝夜を匿っていることがバレたら俺まで叱られるやつじゃねえか。

 

「お願い!三日だけでいいから。ずっと部屋に篭ってるとおかしくなるでしょう?あ、そうだ。お礼にデートしてあげるから。ね?」

 

「え?まじで?いや、デートで俺は釣れんぞ」

 

確かに輝夜は現代日本の美醜の価値観から言ってもかなりの美人だが、俺はデートごときで釣られるような男ではない。

 

「なら、膝枕してあげる」

 

「何がご要望でしょうか、姫様」

 

俺は膝枕で釣られる男だった。




まさかのゴブリンもどき君、再登場。
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