先代博麗の巫女の姉の軌跡を鈴仙から聞いた和徒、文、諏訪子。
鈴仙が立ち去ったので、輝夜は変装するためにてゐを呼び出した。
「いたたたたたた!!ごめん!ごめんって」
こめかみを左右の拳でグリグリと押され、因幡の白兎は悲鳴を上げる。
誰の拳だって?
もちろん俺のだよ。
「そのへんにしておきなさい、和徒」
「ちぇっ、輝夜に感謝するんだな」
ようやく解放されたてゐが涙目でこちらを睨みつける。
もしかして、お仕置きが足りなかったか?
「それにしても、姫様は兎使いが荒いのサ」
「お駄賃ならもうあげたでしょ?」
「この人間から受けた暴行の慰謝料も請求するのサ」
「それはあなたの自業自得じゃない。まあ、あなたの悪戯のおかげで私は和徒と知り合えたのだけれど」
なんか照れくさいな。
「ほら、呆けてないで和徒は出て行きないさい。それとも、私の生着替えを見たいのかしら」
「私は帰らさせてもらうのサ」
「私も席を外しましょうかね」
輝夜が着替えるため、俺、てゐ、早苗の全員が部屋を後にする。
「おい、人間」
「俺の名前は真島和徒だ。悪戯クソ兎」
「因幡てゐだよ!鼻の下伸ばし阿呆面男!!」
「まあまあ、お互い落ち着いて」
お互い胸ぐらを掴もうとした手を、早苗の呼びかけで引っ込めた。
「それで、何の用だよ」
「姫様は外の世界で言うコミュ障っていうか人見知りっていうか、何て言うんだろう。外面は良いし、初対面の人妖とも上手く関わることができるんだけれど、友達はいなし、深い付き合いがあるのは妹紅くらいなのサ。だから、姫様と仲良くしてやってほしい」
「なんだ、そんなことかよ」
「そんなことって...」
「言われなくとも俺と輝夜はすでにマブよ」
心配そうな瞳のてゐの頭を撫でる。
「子供扱いするな!」
「いて!何すんだこいつ」
撫でていた手に怒りの前歯をくらい、血が滲む。
「それと、早いとこ帰ってこないと永林が怖いって伝えておくのサ」
そんな捨て台詞を残して守矢神社を去っていった。
捻くれているが、輝夜のことを大事に想っている気持ちが十分伝わった。
「和徒、ちょっとお時間いいですか?」
「なんだよ?」
物憂げな表情の早苗が俺を見つめる。
「その、「待たせたわね!」」
まるで狙い澄ましたかのようなタイミングで出てきた輝夜。
おお。輝夜=着物という先入観から、洋服を着ていると輝夜だと気付かないだろう。
洋服といっても、落ち着いた色使いとデザインなので人里でも浮くことはなさそうだし、帽子を深く被っているので持ち前の美貌もカバーされている。
「もうこんな時間じゃない!行くわよ」
「待てよオイ。早苗、さっきの話の続きなんだけど」
「いえ、大丈夫です。輝夜さんのこと、よろしくお願いしますね」
「任せろ」
輝夜に手を引かれ、俺は守矢神社を飛び立った。
後にして思えば、この時、強引にでも早苗の話を聞いておくべきだったのかもしれない。
「小鈴ちゃん〜?いるかしら〜」
人里について何軒もの服屋を梯子され、現在たどり着いたのは貸本屋。
入って早々、輝夜は誰かの名前を呼ぶ。
「2ヶ月ぶりですかね?輝夜さん、と...どなた?」
彼女が困惑するのも無理はない。
輝夜の購入品が俺の手元で積み重なり、顔が完全に隠れてしまっている。
「こいつは真島和徒。この前こっちに来た外来人よ。それで、この子は小鈴ちゃん。この貸本屋、鈴菜庵の店番をしている人間の子よ」
「ちょっと、いくら幻想郷だからって人間なんて付け加えなくてもいいですよ!」
「ごめんごめん」
「よろしく、小鈴ちゃん」
「よ、よろしくお願いします」
流石にちゃん付けはキモかったか?
「それで、面白い本は入荷されたかしら?」
「はい!輝夜さんは運が良いですね。外の世界で話題になった本が早速こちらに」
小鈴が本棚から一冊取り出す。
記されたタイトルは、
「『変◯家』ね。面白そうなタイトルじゃない」
「ブフォッ」
不意打ちで思わず吹き出してしまった。
「和徒、もしかしてこの本知ってるの?」
「知ってるには知ってるけど、ノーコメントで」
不思議そうな顔で俺を見つめる二人。
「これを借りていくことにするわ」
「毎度ありがとうございます!」
「和徒は何か借りていく?」
「んー?どうしよう。幻想郷について詳しく学べる本とかないのか?」
「だったら、ぴったりのものがあります」
小鈴が奥の戸棚へ消えて数分、二冊の本を両手に戻ってきた。
「えーっと、『マンガで分かる!はじめての幻想郷』。誰だよこれ書いた奴!ふざけてんだろ」
「そんなあ!いたって真面目に描きましたよ!!」
「お前かい!」
自分で書いた本をお勧めしてくるって、なかなかに胆が座っているな。
もう一冊も変な本じゃないだろうな?不安だよ。
「『幻想郷縁起』、ね」
「こちらは1000年以上前から稗田家が代々書き記したもので、幻想郷の妖怪や危険区域などが記されており、『外来人はまずこれを読んで幻想郷を知る』と言っても、過言ではありません」
これがあるなら、なおさらさっきのマンガいらないじゃん。
「しゃーないな、この二冊を借りていくことにするよ」
マンガも借りることにした。単に小鈴への同情である。決して、内容が気になったからではない。
「そういえば、小腹が空いてきたわね。てゐのお気に入りの甘味処があるから行くわよ!」
「輝夜、貸本くらいは自分で持ってくれないか?」
腕がちぎれてしまうぞ。
「お、てゐじゃねえか!最近どうだい」
「げ、影狼...」
「おいおい、そんな顔しなくていいじゃんか。傷つくわ〜」
今泉影狼。兎を捕食する狼の力をもつ彼女は、私にとってどうしても本能的に苦手である。
守矢神社を発った後、輝夜からもらったお駄賃を使うために人里をぶらつき、お気に入りの甘味処で団子を頬張っていたのだが、彼女のせいで一気にテンションが下がってしまった。
「別に特段変わったことなんてないのサ」
「なーんだ、つまんないの」
こいつ、用がないならあっち行ってくれないか。
「そういや知ってるか?ここの店主、流行りの紛い者になったことあるらしいぞ」
「へ、へー、そうなんだ」
もちろん知っている。だが、ここは知らないふりをするのが得策だろう。
「そういえば、そんなこともありましたね」
背後から聞きなれない男性の声が聞こえた。
「お前は..!」
「初めまして、因幡てゐさん」
黒いスーツに、特徴的なモザイクの顔。
気付かれないよう、咄嗟にポケットの中のデバイスで信号を送る。
『緊急事態、救援求ム』
「怖がらないでくださいよ。こうなってしまいますよ?」
影狼にカードが投げられ、溶けるように肌へ浸透していく。
「さて、実験を始めますか」
モザイクの顔からは表情が読み取れない。
しかし、笑っていることだけは確かだった。
遂に黒幕との接触!
CADAVER 死体 火焔猫 燐